◆今日の秀句/5月21日~31日◆

◆今日の秀句◆

[5月31日]
★朝顔の種植え鉢に朝の水/小西 宏
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

[5月30日]
★トントンと葱切る音や夏に入る/井上治代
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

[5月29日]
★玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る/祝恵子
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

[5月28日]
★風薫る朝のテラスやミントティー/河野啓一
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)

[5月27日]
★玉葱を引く葉の倒る一つから/黒谷光子
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

[5月26日]
★蕗を剥く香り厨に収まらず/黒谷光子
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

[5月25日/2句]
★万緑や大き玻璃戸の美術館/佃 康水
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

★そらまめのふつくら炊けて釜の飯/桑本栄太郎
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

[5月24日]
★晴れて今日裸足の季節始まりぬ/多田有花
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

[5月23日]
★青空に溶けることなき青葉の線/川名ますみ
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

[5月22日]
★獅子の舞うそろそろ田水張らる頃/祝恵子
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

[5月21日]
★菜の色も海の香もあり冷やしソバ/小西 宏
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

5月27日-31日

5月31日

●小口泰與
赤城より朝の薫風鳥の声★★★★
咲き充ちて白ばらの花よごれたり★★★
百本のばら咲く庭のあかりかな★★★

●迫田和代
土手道の新樹浮かべて河流れ★★★
薄暑の日若い娘(こ)の足綺麗だな★★★
ざあざあと窓うつ雨や梅雨近し★★★

●小西 宏
朝顔の種植え鉢に朝の水★★★★
「朝の水」で句に詩情がでた。朝顔の種を植えれば、その後は水やりが日課となる。夕方ではなく、朝のすずやかな水をもらって朝顔も、すぐにも芽が出そうだ。(高橋正子)

梅の実の膨らむ深き葉の影に★★★
窓という窓開け放ち五月風★★★

●多田有花
風きって自転車降り来る夏の坂★★★
遠く近く森に満ちたり不如帰★★★★
本を読みそのまま昼寝となりにけり★★★

●河野啓一
オリーブの花影白き瀬戸の島★★★★
網戸入れ吹き過ぐ風の心地よさ★★★
マンションの横にも田水引かれたる★★★

●桑本栄太郎
金糸梅かぜの行方の定まらず★★★
天車(標準語:肩車)されて散歩や五月尽★★★
こんもりと古墳の森の青葉かな★★★★

●古田敬二
ジャガイモの畝をはみ出るみのりかな★★★★
ジャガイモが収穫時期を迎えた。太り具合を見にゆけば、畝をはみ出てみずみずしいジャガイモが見える。予想以上の出来に、またそのみずみずしさに嬉しさが湧く。(高橋正子)

土掘ればごつごつジャガイモ当たり来る★★★
畝作る遠くにヨシキリ今日も鳴く★★★

5月30日

●小口泰與
たかむらの闇や一声夏きぎす★★★★
海芋咲き朝の冷気は赤城から★★★
葉がくれのからももの実や雨の中★★★

●河野啓一
薄荷あめ含めば口に若葉風★★★★
そよ風やマーガレットは揺れもせず★★★
路の辺に茂る葉桜陽のひかり★★★

●小川和子
日傘さし小径に入れば花柘榴★★★★
風来るざわめきを乗せ夏落葉★★★
青葉風子らは造れり砂の城★★★

●多田有花
つとよぎる影見上げれば黒揚羽★★★
咲きのぼる構え大きく立葵★★★★
バンダナを結ぶうなじに夏の日差し★★★

●桑本栄太郎
乙訓の里に風吹き柿の花★★★★
青蘆の遮る丈のあおりけり★★★
降るものの舗道散りばめ緑蔭に★★★

●井上治代
トントンと葱切る音や夏に入る★★★★
夏に入ると、まず衣服が軽くなる。部屋も窓が開けられ、風が通るように、日差しも一段とあかるくなって、快活な気分が漂う。まな板で葱を刻む音もトントンと軽やかに弾んでくる。季節が進み夏が来たうれしさが湧く。(高橋正子)

憎きまで畑の中に草茂る★★★
夏霧や里の街灯ぽつねんと★★★

●川名ますみ
迷い来て寺に泰山木の花★★★★
道に迷いようやくたどり着いた寺に、泰山木の大きな白い花が咲いていた。おおらかな、白い花に予期せず迎えられ、うっすらかいた汗もひく思いで、感激も一入だっただろう。予期せぬ花に出会う喜びは大きい。(高橋正子)

梢まで赤咲きのぼる立葵★★★
白き一花迷いし道に泰山木★★★

5月29日

●小口泰與
風薫る朝日をあびし赤城山★★★
黄ばらや通園バスのえんじ達★★★★
たかぶれる噴水空を破りけり★★★

●祝恵子
ルピナスの色とりどりの風をうけ★★★
新緑の森に清しい光あり★★★
艦艇のプラモも走る夏の池★★★★

●古田敬二
葉の影を映して実梅丸丸と★★★★
枝先へうばらの花の咲き上る★★★
のうばらの最後の一花枝先に★★★

●桑本栄太郎
野蒜咲く風の田道の散歩かな★★★
蕗束ねバケツに売らる無人店(だな)★★★★
蚕豆の莢の空向き実りけり★★★

●多田有花
緑陰の途切れるところ頂に★★★★
山の登り始めは木々が茂りあう道から始まる。体も緑に染まりそうなくらいの緑陰となって、延々と道は続くのだが、その緑陰がとぎれるところに出た。そこが頂上だったわけで、頂上を目指すというのではなく、登り至れば頂上だった、というのがさっぱりしている。(高橋正子)

揚羽蝶森の奥より飛び来る★★★
すれ違う人にオーデコロンの香★★★

●高橋秀之
沖合に停泊する船夏日差し★★★★
夏と言えば太陽にかがやく海。沖合に停泊する船が夏の日差しに浮かんでいる。それが夏をいち早く感じさせる景色なのだ。(高橋正子)

紫陽花に当たる朝日と水飛沫★★★
月曜の朝紫陽花の色を見る★★★

●小西 宏
卯の花の垣根に咲ける親しきこと★★★★
梔子の白にあらざる白静か★★★
毒痛みの花泉水の近くあり★★★

●黒谷光子
万歩計つけて今日より夏帽子★★★★
一万歩目指し五月の池巡る★★★
黄菖蒲の池の周りのあちこちに★★★

5月28日

●小口泰與
咲ききって風の中なる庭のばら★★★★
ほろほろと散りし紅ばら香りおり★★★
浴衣着てすずろに歩む繁華街★★★

●河野啓一
風薫る朝のテラスやミントティー★★★★
風薫る朝のさわやかさをテラスで飲むミントティーが象徴している。庭でとれたミントを紅茶に浮かべて飲む至福のお洒落なひとときだ。(高橋正子)
 
薫風やグランドの芝撫でゆきて★★★
屋根裏の空蝉思わる去年の夏★★★

●多田有花
バンダナで額の汗を抑え歩く★★★★
木漏れ日の中渡り来る夏の風★★★
長く長く鳴く夏の鶯★★★

●桑本栄太郎
だれも居ぬ花壇の彩の紫蘭かな★★★
昼顔や彷徨う畦を彩と為し★★★
じゃがいもの花に望郷つのりけり★★★★

●小西 宏
園児バス待つマンションの赤いバラ★★★★
木陰より出でて青野の蛇いちご★★★
蚕豆のよき顔立ちを青く噛む★★★

●祝恵子
玉ねぎの抜きしにおいも持ち帰る★★★★
梅雨入り前の、まださわやかな風が吹くころ、新玉ねぎが収穫できる。畑から抜き取るとき、玉ねぎ独特の匂いがするが、その匂いまでもが、収穫のよろこびとなる。(高橋正子)

水面のバラ花びら少しづつ離なる★★★
すっきりと色花立ちて薄暑なり★★★

●黒谷光子
竹落葉踏み雑木山仏花切る★★★★
供花とする夏菊を買う道の駅★★★
供花はみな新しくして堂涼し★★★

5月27日

●小口泰與
鉄線花赤城の風となりにけり★★★
ばら咲くや色とりどりの登校児★★★★
浅間より絶えず雲出づ蟻の穴★★★

●河野啓一
紫陽花の白き蕾の数かぞえ★★★
あめ玉を口に含みて新緑へ★★★★
房咲きのバラ小さくて賑やかに★★★

●多田有花
幼虫の懸垂下降夏めく森★★★
鋏手に薔薇を切らんと男立つ★★★★
音のみが青葉のなかを流れゆく★★★

●桑本栄太郎
桑の実や遠き日となる母のこと★★★★
桑の実を今の子供たちは食べないだろうが、昔の子供は桑の実の甘さを喜んだ。母の記憶と桑の実を食べた記憶が重なる。それらが「遠き日」となることにさみしさもあるが、思い出す幸せもある。(高橋正子)

姫女苑風の行方を示しけり★★★
山影の映る植田や昏れゆきぬ★★★

●黒谷光子
玉葱を引く葉の倒る一つから★★★★
玉葱は抜いて見てはじめて大きさが解るのだが、抜いて小さかったからといって植えなおすわけにはいかない。葉の養分が根に移り、根を太らせて倒れる。今年の玉葱を初めて抜くときのちょっとした期待感がいい。(高橋正子)

莢豌豆山ほど採れて日本晴れ★★★
夏薊群れ咲き土手の華やげる★★★

●小西 宏
紫陽花の色づき初むる陽の五月★★★★
毒痛みの花群れ咲いて人恋し★★★
睡蓮の花閉じ眠る午後の水辺★★★

5月24日-26日

5月26日

●小口泰與
産土の利根をそびらに花胡桃★★★★
夕暮れの雀騒(ぞめ)くや麦扱機★★★
湖の波染む夕焼けのにぎにぎし★★★

●黒谷光子
蕗を剥く香り厨に収まらず★★★★
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

伽羅蕗を煮詰め色濃し夕厨★★★
菜園の苺の形まちまちに★★★

●多田有花
風薫る堂島川の遊覧船★★★★
水の音親しく聞きし街薄暑★★★
仰ぎ見る高層ビルや天清和★★★

●桑本栄太郎
姫女苑風の行方を示しつつ★★★
桑の実や巨木となりて青空に★★★★
金糸梅部活の子等の下校どき★★★

●小西 宏
夏蝶に魅かれ山葵の沢に入る★★★★
涼しそうな夏蝶の魅力に導かれるように進むと山葵沢に入った。蝶はここへ案内したかったのかとさえ思う。涼しい心境の句。(高橋正子)

初夏の風みどりなる箱根路★★★
青葉影し土匂いする湿り道★★★

●古田敬二
一音階下げて応える牛蛙★★★
若葉風昔バンカラ下駄の街★★★★
玉ねぎを吊るせば香る薄闇に★★★

5月25日

●小口泰與
日照雨去り木々の匂いの聖五月★★★★
夕暮れや浅間を側む二重虹★★★
桐咲くや奇岩聳ゆる妙義山★★★

●佃 康水
万緑や大き玻璃戸の美術館★★★★
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

黄菖蒲の根方へ山の水滲む★★★
夕暮れの雲へあわあわ花楝★★★

●桑本栄太郎
あおぞらの窓の額絵や青嵐★★★
ハンガーに晒し掛けおり更衣★★★

そらまめのふつくら炊けて釜の飯★★★★
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

●河野啓一
辿りきて峠越えれば海の青★★★★
アマリリスビロード赤の逞しき★★★
夏場所も果てて熱気の静まりぬ★★★

●小西 宏
十薬の野に置かれざる高貴かな★★★
縁台に休み天城の冷抹茶★★★
谷間(たにあい)の水に早苗の影淡し★★★★

●川名ますみ
青き葉に包まれ紫陽花の莟む★★★
紫陽花の莟めば白のやさしさに★★★★
山法師樹下に次々ランチを広げ★★★

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

◆今日の秀句/5月11日~20日◆

◆今日の秀句◆

[5月20日]
★黄牡丹のすなおに散って重なりぬ/小口泰與
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

[5月19日]
★郭公や牧草ロールおちこちに/小口泰與
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

[5月18日]
★万緑の山懐の葉ずれかな/小口泰與
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

[5月17日]
★風吹けば若葉の影も柔らかに/古田敬二
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

[5月16日]
★朝の陽に滴る森よ時鳥/小西 宏
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

[5月15日]
★梅の実のまだ小さきに紅を置く/小西 宏
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

[5月14日]
★楠若葉並木一筋通学路/河野啓一
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

[5月13日]
★山水を集め寺裏菖蒲咲く/佃 康水
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

[5月12日]
★とめどなく小石湧きあぐ清水かな/小口泰與
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

[5月11日]
★石楠花の中抜け高野山を降りる/多田有花
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

5月21日-23日

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

5月23日

●小口泰與
柿若葉野川の水のきらきらと★★★★
柿若葉が美しい色を見せるころ、陽は明るく輝き、野川はきらめきながら、そうそうとと流れる。日本のいい風景だ。(高橋正子)

白めだか身をそぐようにたまご産み★★★
雨後の朝そこはかと匂う牡丹かな★★★

●佃 康水
じゃがたらの花段畑に揺れ揃う★★★★
大蘇鉄朽ちし幹より青葉出づ★★★
夏めくや帆を張り替える浜漁師★★★

●河野啓一
万緑や友の便りの嬉しくて★★★
さわさわと鳴りて新樹は日を反し★★★★
池の面に遠き浮草夕まぐれ★★★

●桑本栄太郎
さらさらと白き葉裏や新樹冷ゆ★★★
すかんぽの穂に夕日さす丘の上★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
短夜や朝日が部屋の奥深く★★★
淡路島青葉若葉のその向こう★★★★
きな粉かけヨーグルトかけバナナ食ぶ★★★

●川名ますみ
青空に溶けることなき青葉の線★★★★
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

青天と青葉きりりと画されし★★★
泰山木大きくそちこちに花★★★

5月22日

●小口泰與
朝日受けきわやかなりし柿若葉★★★
石楠花や鳥語人語とあふれおり★★★★
山雨来て野良猫急きし麦の波★★★

●小川和子
バギー押す子と連れ立てる薔薇の昼★★★★
バギーにみどり児を乗せて押していくわが子と連れだって薔薇の咲く昼の道を歩く。なにもかもが幸せに繋がる。(高橋正子)

バギーの児薫風の中眩しげに★★★
ふくいくと薔薇薫りくる聖五月★★★

●祝恵子
獅子の舞うそろそろ田水張らる頃★★★★
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

とりどりの花はフエンスにばらは咲く★★★
鉢に添え木夏の野菜の育ちゆく★★★

●桑本栄太郎
実となりし楓若葉の緋色かな★★★
歩みゆく歩道いろどり青嵐★★★★
虫食いの葉裏にありぬ柿の花★★★

●多田有花
夏浅き光のあふれ森の道★★★
寺へいく道をきかれし薄暑かな★★★★
紬着て白日傘ゆく昼下がり★★★

●河野啓一
若葉風高窓開けて招き入れ★★★★
水玉を光らせ若葉照り映える★★★
アマリリス窓辺の風をひとり占め★★★

●小西 宏
初雷の去ればたちまち青い空★★★★
若葉より光漏れくる雨上がり★★★
雷雲の夕日に照るを見ておりぬ★★★

●黒谷光子
濃く薄く森は緑を競い合う★★★
揺れるともなく揺れ池に蓮浮葉★★★
初夏の池廻るそれぞれの歩幅★★★★(信之添削)
初夏の池は心地よい風が吹き、その池を連れだって巡るにも、思い思いに、それぞれの歩幅でめぐる。それぞれが池畔を楽しむ。初夏のさわやかさがあればこそ。(高橋正子)

●高橋秀之
真ん中の牡丹の花は大きくて★★★★
花びらに雨のしずくが白牡丹★★★
歩を進め止まって歩む牡丹園★★★

5月21日

●小口泰與
速やかに溶岩(ラバ)色蜥蜴溶岩を越ゆ★★★★
蜥蜴の動きは滑るように「速やかに」だ。溶岩に入れば溶岩の色になり溶岩を越える。動かねば見付けにくいが、その動きも速い。それをよく捉えた。(高橋正子)

有史より続く火の山麦の秋★★★
草肥や背戸の流れの急(せ)かれしよ★★★

●河野啓一
若楓谷間を埋めて箕面山★★★★
雨上がり水も滴る夏セーター★★★
更衣袖吹き抜ける風さやか★★★

●祝恵子
池の花アイリスの黄をしばし見る★★★
無人店引き返して買う夏の花★★★★
駅出れば催促賑やか子の燕★★★

●多田有花
高らかに森に響きしほととぎす★★★
波白く砕けて沖は初夏の青★★★★
五月の雨あがれば伸びし草の丈★★★

●桑本栄太郎
降り来れば筍流しと想いけり★★★
若楓ゆらぐ葉影の網目かな★★★
杭たどり風にあらがう糸とんぼ★★★★

●小西 宏
菜の色も海の香もあり冷やしソバ★★★★
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

日の影に野良猫眠るバラの花★★★
睡蓮に波少し寄せ鯉の鰭★★★

5月17日-20日

5月20日

●小口泰與
黄牡丹のすなおに散って重なりぬ★★★★
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

かるの子や畦の醜草もこもこと★★★
雨さんざすべなき吾の浴衣かな★★★

●河野啓一
夏潮の色あざやかに福江島★★★★
水しぶき子ら次々と夏の川★★★
芝庭に紅い花植え夏舘★★★

●黒谷光子
葉桜を透く陽のきらら水音す★★★★
アイリスの紫溢る畑の隅★★★
アイリスを切り持ち帰る一抱え★★★

●桑本栄太郎
櫟より風に垂れいる毛虫かな★★★
姫女苑の風に抗いむらさきに★★★
蚕豆のコンとボウルに豆をむく★★★★

●小西 宏
動く虫咥えて忙し親燕★★★
紫陽花の花芽の緑雨を待つ★★★
羅(うすもの)やざんばら髪の勝ち名乗り★★★

●古田敬二
万歩計鳴らして歩く若葉風★★★
鍬降れば根を切る音の心地好し★★★
亡き犬の走りし森の若葉風★★★★

5月19日

●小口泰與
郭公や牧草ロールおちこちに★★★★
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

単線の線路真直ぐ桐の花★★★
沢蟹や棚田をかけるやわき風★★★

●河野啓一
鳥声も愉し青空バラの苑★★★★
木漏れ日を浴びて耀く赤いバラ★★★
夕べ来て新樹は風にざわめきぬ★★★

●多田有花
谷空木咲く道たどり登山口★★★★
新緑に肺まで染まりぶなの森★★★
樹間よりはるかに五月の日本海★★★

●桑本栄太郎
<大蛇ヶ池公園>
海桐咲く池の木蔭や風の闇★★★
睡蓮の池畔の中に広げ居り★★★
青蘆の吾をいざなう葉風かな★★★

●小西 宏
香に触れて丘にゆたかな樫の花★★★
葉桜の空に眩しき下り坂★★★★
夕暮の風に汗引く散歩道★★★

●古田敬二
どの家も好きな色あり薔薇盛ん★★★★
今年は四月の気温が低く、いろんな種類の薔薇が一度に咲きだした。薔薇を咲かせている家々を見れば、その家好みの色がある。白が好きな家もあれば、ピンクが好きな家もある。また、赤や黄やと。そういう色が合わさって、「薔薇盛ん」なのだ。(高橋正子)

柏餅二つに割りやる妻がいる★★★
歯科医院出て薫風の中大股に★★★

5月18日

●小口泰與
万緑の山懐の葉ずれかな★★★★
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

水はじく水車や池の糸とんぼ★★★
友釣りの鮎の長竿空をきり★★★

●黒谷光子
空晴れてくっきり伊吹の登山道★★★★
山も野も晴れて緑の色競う★★★
玉葱を引く一本の匂いくる★★★

●河野啓一
立ち止り鳥声聞けば木下闇★★★★
立ち止まって鳥の声に耳を傾けていると、そこは木下闇であることに気づく。涼しい木下と鳥の声が快い。(高橋正子)

ひと休み佇む頃や木下闇★★★
若葉大きくなりて西日受け★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
薫風の空へと走るモノレール★★★★
白波の岸壁つたう卯浪かな★★★
新緑や埋め立て六甲アイランド★★★

●小西 宏
柔らかき若葉はカツラ明るい風★★★★
カツラの若葉はひときわ柔らかく、明るい。カツラは黄葉もほかの黄葉に比べ一段と明るいので、カツラの特性として、若葉のあかるさ、柔らかさが頷ける。(高橋正子)

青草に水の流れの聞こえ来る★★★
ママもぼくも五月の芝に初安打★★★

5月17日

●小口泰與
鯉の泥吐かせし小川若楓★★★
榛名嶺に朝日射しけり桜の実★★★★
浮石に飛び乗る吾や山女釣★★★

●迫田和代
ドーム見え新緑見えて川流れ★★★★
高層の窓からの眺め。ドームの丸い屋根が見え、新緑が見え、そして川が流れている。この景色は具体的には広島の原爆ドーム、平和公園の新緑、元安川の流れだが、戦禍を覆い隠して静かな季節である。(高橋正子)

薄暑の日木陰もいいし水もいい★★★
すぐそばに車椅子あり更衣★★★

●桑本栄太郎
花槐ゆらし吹きおり雨の風★★★★
神苑の杜の深きやいかる鳴く★★★
せせらぎに沿いて歩めば山法師★★★

●河野啓一
しゃがの花白くひっそり瀬のほとり★★★
囀りを空にちりばめ今朝の風★★★★
朝顔の苗植え竹を立ててやり★★★

●古田敬二
緑陰に入れば優しき心地なる★★★
句会終え緑陰優しき道帰る★★★

風吹けば若葉の影も柔らか★★★★
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

●小西 宏
そよ風に葉裏やさしく桜の実★★★★
老農の畑に雛罌粟ほそき揺れ★★★
木漏れ日に鳥聞こえ来て初夏の涼★★★

5月14日~16日

5月16日

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)へしるべ辿りし時鳥★★★
桐の花しるき赤城の彫り深し★★★
牡丹散る清(すが)しき庭の風の道★★★★

●河野啓一
昼下がり揚羽が今日もやって来る★★★★
ヤタ鴉万緑の中ブラジルへ★★★
ヤタ鴉高く舞えよと柿若葉★★★

●桑本栄太郎
つまみ見るだけでは足らず桜の実★★★
竹皮を脱ぐやみどりの腰の丈★★★
ほろほろと雨降る茅花流しかな★★★★

●黒谷光子
夏の旅戒壇めぐりの真暗がり★★★
古刹へと登る石段緑濃き★★★
新緑の山あいを抜け美濃の旅★★★★

●多田有花
昼の陽を真白く返し手毬花★★★
はつ夏の満月雨あがりの空へ★★★★
筍を荷台に載せし軽トラック★★★

●小西 宏
朝の陽に滴る森よ時鳥★★★★
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

水輝く五月の風の楓花★★★
三連の蝶舞い昇る花蜜柑★★★

5月15日

●小口泰與
掘り深き赤城や田畑夏浅し★★★★
笹音に振り向く吾や岩魚釣★★★
梅の実の路地一面を奪いけり★★★

●桑本栄太郎
若葉山つづく車窓の阪急線★★★★
槐咲く並木通りの風の闇★★★
黄菖蒲やルアーを手繰る池の畔★★★

●小西 宏
石楠花の身に影深し朝の雨★★★
雨の輪や子を失いし通し鴨★★★

梅の実のまだ小さきに紅を置く★★★★
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

●古田敬二
句会なる餡透き通るわらび餅★★★
森に座す若葉の陰に撫でられて★★★
紅秘めて薔薇は咲きかけ美しき★★★★

5月14日

●小口泰與
しるき斑を反転せしや山女釣★★★★
釣糸にからまる鰻へびの如★★★
夏蝉や乳を欲しいと泣く赤子★★★

●河野啓一
年毎に赤く咲き出すアマリリス★★★
カーネーションギフトはそっと土に埋め★★★

楠若葉並木一筋通学路★★★★
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
ひかえめと云う華やぎや花卯木★★★
医科大の樟の大樹や聖五月★★★★
茉莉花の雨の予報に匂いけり★★★

●黒谷光子
夏野菜二人がかりに植え終える★★★★
水を遣り紫紺あざやか茄子の苗★★★
風除けの上から覗く茄子の苗★★★

●小西 宏
風渉る緑に若き桜の実★★★★
クローバーの花咲き満てる広さかな★★★
金柑の花のぞき咲く竹垣に★★★

5月11日~13日

5月13日

●小口泰與
頭から喰らいつきたる香魚かな★★★
あかあかと浅間を刷きし夕焼けよ★★★★
身ごもりし目高や居間のひとところ★★★

●古田敬二
うすみどりアカシア揺れて不器男の句★★★
薔薇の門咲きかけという美しさ★★★
緑陰という優しきものに潜りゆく★★★

●黒谷光子
城跡の麓の村も夏かすむ★★★
その上の城下を覆う夏霞★★★
夏霞棚引く裾野古戦場★★★★

●多田有花
城下町見下ろし若葉の風の中★★★★
雨に濡れ道の辺のジャーマンアイリス★★★
雨あがる森に響きし夏鶯★★★

●桑本栄太郎
咲くものは咲いて実となる風五月★★★★
五月のさわやかな風に吹かれる葉の蔭には、実がなっているのに気付く。桜の実もそうであるし、
梅や李、柿なども実となっている。うなずかされる。風五月が句に詩情を与えた。(高橋正子)

鴨川に川床の迫り出し整える★★★
大ぶりの葉の一畝や葱坊主★★★

●佃 康水
山水を集め寺裏菖蒲咲く★★★★
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。
山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

河骨や大き葉裏を抜きん出で★★★
甘茶寺小花の鉢を賜りぬ★★★

●小西 宏
杜深く生きいる轟き青嵐★★★★
雨止んで梅の実一つ地に青し★★★
やわき黄のバラは零れるように咲き★★★

5月12日

●小口泰與
とめどなく小石湧きあぐ清水かな★★★★
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

夕映えを映す水田の緋鯉かな★★★
襲い来ししろがねの滝竜の如★★★

●桑本栄太郎
眼のまえの青き空揺れ窓若葉★★★★
堰堤の流れまぶしく夏は来ぬ★★★
青蘆の風をいざいなそよぎけり★★★

●黒谷光子
豌豆を採る間ときどき山を見て★★★★
たくさんの豌豆を採っているのだろう。手元ばかりを見て収穫するのではなく、ときどき新緑の山を眺めて見たりする。豌豆を収穫する時期は本当によい季節だ。(高橋正子)

手を洗う川のほとりの草茂る★★★
甘藷苗植えし夜更けの雨の音★★★

●小西 宏
バグパイプ木下に鳴らし牛蛙★★★
欅若葉うれしく枝を重くする★★★
泣く児背にアヤメ一列保育園★★★★

●古田敬二
高きよりキリンの見ている花吹雪★★★
抜け殻を背負いて速し天道虫★★★
風の道白くざわめく若葉山★★★★

5月11日

●小口泰與
ジーパンのしるき色なり夏野行く★★★
下闇や石碑に記す大津波★★★★
飛蚊症飛ぶや水別く岩つばめ★★★

●多田有花
石楠花の中抜け高野山を降りる★★★★
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

はつ夏の海や小船を散りばめて★★★
薫風の高野山町石道★★★

●桑本栄太郎
生垣の坂道下る新茶かな★★★★
折り返すバスの田中や風薫る★★★
”かあさん”とつぶやきみたり母の日に★★★

◆今日の秀句/5月1日~10日◆

◆今日の秀句/5月1日~10日◆

[5月10日]
★森行けば卯月の風の葉裏かな/小西 宏
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

[5月9日]
★竹皮を脱ぐや一途に青空へ/桑本栄太郎
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

[5月8日]
★青空の今朝の輝き桐の花/多田有花
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

[5月7日]
★頂の優しき風へ黒揚羽/多田有花
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

[5月6日]
★朴の花見上げ葉影に憩いけり/桑本栄太郎
朴の花は高いところに咲くので、下からは見上げるだけ。しかし、その大いなる葉影で憩うときの心静かに涼しいこと。(高橋正子)

[5月5日]
★汁椀にますます蒼し山椒の芽/川名ますみ
山椒の芽、木の芽は香りがなんといってもよいが、その葉の緑も香りと合わせて楽しめる。汁椀に浮かぶと蒼さが引き立つ。(高橋正子)

[5月4日]
★木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う/高橋秀之
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

[5月3日]
★リュック置き若葉の丘へ子ら散りぬ/佃 康水
遠足の子どもたちであろう。リュックを置き、一目散に若葉の丘へ散っている。子どもたちも自由で、若葉もまぶしい。(高橋正子)

[5月2日]
★茶畑も八十八夜青々と/河野啓一
八十八夜の茶摘みは唱歌にも歌われて、茶摘みの景色が思い浮かぶ。八十八夜の茶畑が青々として、いよいよ茶摘みのシーズンを迎えて、心地よい5月の風景だ。(高橋正子)

[5月1日]
★新しき五月や白きハナミズキ/小西 宏
「新しき五月」が、いかにも新鮮。これは「聖五月」と表現される感覚かもしれないが、自分の感じ取った感覚を吟味している。白いミズキが、光を反射して、「新しき」を印象付けている。(高橋正子)

5月7日~10日

5月10日

●小口泰與
籐椅子やうすき靄刷く赤城山★★★★
縁側に持ち出した籐椅子だろうか。籐椅子に座り赤城山を眺めるとうすく靄が刷かれている。靄を「刷く」と捉えたところに、気持ちの優雅さが読める。(高橋正子)

日を乗せてはしる車窓の清和かな★★★
老鶯やぬか漬樽の古色なる★★★

●黒谷光子
野の花や庭の花あり花御堂★★★
甘茶仏花いっぱいの屋根重き★★★★
花御堂ところどころに造花など★★★  

●小西 宏
森行けば卯月の風の葉裏かな★★★★
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

坂道を紗の羽織着て黒日傘★★★
髪長き少女投球風薫る★★★

●桑本栄太郎
遠近の水田鏡や五月晴れ★★★
さざ波の代田の水のにごりけり★★★
風薫る村の辻名は南茶屋★★★★

●高橋秀之
夏風邪の床から見える青き空★★★
衣替え黒から白に部屋の中★★★★
葉桜の続く川沿い道長く★★★

5月9日

●河野啓一
緑陰を風吹きぬける昼下がり★★★
遅咲きもまた良し白いチューリップ★★★★
古池に目高群れおり輪になって★★★

●小口泰與
北軽の高原駆けるむぎわら帽★★★
波音と風のはこびし皐月かな★★★
新築のお披露目つどう若楓★★★★

●上島祥子
千切りを高く盛り付け春キャベツ★★★
千切りの響き高らか春キャベツ★★★
夏立つ日水をたたえて用水路★★★★
水がうれしい季節になった。用水路に水が満々と流れ、夏立つ日を実感させられる。初夏の明るさ、涼やかさのある句。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<洛西の田園散策>
夏ひばり田水の天に歌いけり★★★
まんまんとさざ波湛え代田かな★★★
竹皮を脱ぐや一途に青空へ★★★★
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

●多田有花
青空へ楓若葉を透かし見る★★★
夏浅き夜の雷雨のなか帰る★★★
葉桜の青々と身を揺すりけり★★★★

5月8日

●小口泰與
五分刈りの坊主頭や風かおる★★★★
風薫る丸太橋見ゆ露天風呂★★★
新緑や山路の雨のしめやかに★★★

●古田敬二
うすみどり揺れてアカシア香りけり★★★★
ブロンズ像若葉の揺らめき空見上げ★★★
夏来る子どもあふれし乳母車★★★

●多田有花
風香る頂の木陰に座る★★★
青空の今朝の輝き桐の花★★★★
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

信号はすべてススメに青嵐★★★

●桑本栄太郎
蔓ばらの園の歌声高らかに★★★★
野の風の淡きピンクや姫女苑★★★
一畝に蝶を狂わせ葱坊主★★★

●河野啓一
瀬戸内に夏潮満ちて日暮れどき★★★
夏潮をひとまたぎして淡路島★★★
伊予水軍夏潮分けしその昔★★★★
夏潮の流れるさまを見れば、その昔、この夏潮を分けて伊予水軍が活躍したことが偲ばれる。とうとうとした夏潮の流れである。(高橋正子)

●黒谷光子
葦の間を流れ来る水清ら★★★★
豌豆の初採りほんの一握り★★★
踊子草地蔵の祠を囲むかに★★★

5月7日

●小口泰與
はっか飴舌にのせたる涼しさよ★★★
鳴きやみて忽と消えたるひばりかな★★★★
悠久の目路の榛名や夏の色★★★

●河野啓一
流れ来る調べや窓は新緑に★★★★
青柿のいと小さきが葉の陰に★★★
みどり背に真っ赤な小さいバラの花★★★

●多田有花
頂の優しき風へ黒揚羽★★★★
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

森渡る五月の風へ耳を澄ます★★★
若楓美しかりし人の影★★★

●桑本栄太郎
<初夏の洛西散策>
垂れ下がる虫の糸曳く聖五月★★★
新緑の木洩れ日こぼれ花の寺★★★★
ほいほいと村中よぎる五月かな★★★

●古田敬二
ヨシキリ鳴く池の夕波光る時★★★★
ヨシキリと光る夕波は、写真にも撮りたい風景だ。「夕波光る時」でこの句が引き締まった。(高橋正子)

葉桜を行けば池に水の音★★★
葉桜の覆いかぶさる東海道★★★