1月21日

●小口泰與
うらうらと煙り昇りしどんどかな★★★
欄干に火の温もりのどんどかな★★★
寒梅やうやうやしけれ浅間山★★★

●下地鉄
さざ波をさざ波崩す初日の出★★★★
「さざ波をさざ波崩す」の観察がよい。希望の年が静かに明けた気持ちが爽やかに表現されている。(高橋正子)

甘蔗(キビ)の穂の刈られてあわれ風の途★★★
巡る秒針一瞬の寒光★★★

●桑本栄太郎
水のなき川の中州や真菰枯る★★★★
涸川のしろき蛇行のさざれかな★★★
枯草のあまた下流へしなりけり★★★

●小西 宏
梢なる三寒四温小鳥鳴く★★★

桜立ち固き冬芽を青空へ★★★★
葉をすっかり落とした桜は、「桜立ち」というイメージだ。そんな季節には、冬芽がしっかりと枝について、青空の中に突き出ている。「青空へ」で、はやも満開の桜を想像してしまう。(高橋正子)

探梅や枝に粒する淡き紅★★★

●佃康水
日々白く膨らみ増せる寒椿★★★
蠟梅や枝奔放に黄を満たし★★★★
蝋梅の枝は、定かな形とならないで、意外と奔放に伸びている。それに付く花も枝枝に黄色の花をたくさん咲かせている。まさに「黄を満たし」である。(高橋正子)

寒鯉や水面へあぶく二つ三つ★★★

●多田有花
冬川の河口にかかる橋三本★★★
寒中の沖の霞める上天気★★★
冷たさの中に日差しの明るさよ★★★

●高橋秀之
街灯の白き光を寒椿★★★
寒風に潮の香りも流れ去る★★★

街路樹に固き冬芽の見え始む★★★★
通りすがりに街路樹を見れば、冬芽が付き始めている。冬芽はまだ固い。この固さが頼もしいのだ。どんな芽吹きをしてくれるのか。(高橋正子)

●古田敬二
初句会円座に明るき陽の射して★★★
初手前真綿のごとき菓子添えて★★★
初旅や木曽三川をひとまたぎ★★★

1月20日

●小口泰與
お茶漬の茶は焙じ茶の火鉢かな★★★
真夜中の地震に起こさる寒さかな★★★
空風に埋もるる里に住みにけり★★★★

●多田有花
大寒の薄き日差しのなか歩く★★★★
「薄き日差し」は、大寒でなくても経験することだが、大寒であることで、清浄な日差しを感じる。(高橋正子)

【原句】蜜柑の香残りし指でキーを打つ
【添削】蜜柑の香残りし指がキーを打つ★★★

大寒に一杯熱き善哉を★★★

●桑本栄太郎
大寒の空へ梢のゆるぎなし★★★★
寒さが極まるが、梢は寒さに対抗するかのように、ますます強さを秘めてくる。「ゆるぎなし」がそのことをよく表している。梢の先々まで力が漲っているのだ。(高橋正子)

大寒の瀞に揺れおり水の影★★★
ありがたき黄身のふたつや寒卵★★★

●下地鉄
冬風に乱れて美しき紫煙かな★★★★
煙草の煙が冬の風に乱れて流れる。それを「美しき」と言った。「冬の風」の吹き様に紫煙の乱れが想像でき、煙草をくゆらす風貌をよきものにした。(高橋正子)

そっと嗅ぐ褞袍の香り今もなお★★★
初場所に初午の声たからかに★★★

●古田敬二
小春日の万葉の里に立つ煙★★★
石室の入り口冷える石舞台★★★
遠望に鈴鹿の白嶺街冷える★★★

1月18日-19日

1月19日

●小口泰與
黄昏の白鳥嘴(ハシ)を胸に埋め★★★★
白鳥や遥か彼方に芙蓉峰★★★
白鳥の羽をひろげし入日かな★★★

●祝恵子
左義長の傍を子どもの登園す★★★★
左義長は、子供が中心で行うものではなかったかと思うが、その子供は左義長を横目に登校している。伝統の行事も学校の日程によって主役不在のまま行われているようだ。(高橋正子)

時々は焔を返しとんど焚く★★★
小豆粥とろんと喉をとおりすぐ★★★

●小川和子
 回想
かわたれの雪原里の灯明りかな★★★
薪ストーブ燃える円居の歌留多とり★★★★
吹雪く夜の窓打つ音よラジオ聴く★★★

●桑本栄太郎
もくれんの冬芽つやめく青き空★★★
山茶花の紅の散り敷く坂の道★★★

探梅や堅きつぼみの丘の風★★★★
梅はまだかと探す探梅行は、たとえ開いた梅に出会わなくても気持ちが明るくなるものだ。丘の風は冷たいながらも日差しは仕出しに明るくなっているのだ。(高橋正子)

●小西 宏
深深(しんしん)と晴れたる空や寒椿★★★
枯木立小鳥に空の青を見る★★★

波近き風自在なり冬鴎★★★★
鴎が波に低く飛ぶ。風は自在に波をあそばせ 鴎をあそばせている。こんな渚の風景は屈託がなく楽しい。(高橋正子)

●川名ますみ
聖堂へ冬青空とアイビーと★★★★
飯桐の落葉し空は朱ばかり★★★★
ベランダの梅の莟に指す朝陽★★★

●多田有花
いつもより静かな日曜雪の朝★★★
雪の舞う城址より河口を見下ろす★★★
 <播磨国分寺跡>
天平も天正も遠し蝋梅に★★★★

●佃 康水
 全国都道府県対抗男子駅伝
寒風を切って襷の駈け抜けり★★★★ 
走者追いヘリの近づく寒の空★★★
駅伝の果てて寒さのつのりけり★★★

●古田敬二
青空へ新たな広がり枯欅★★★
餌を探す鋭き眼冬のモズ★★★
生きている証拠よ冬芽はどの枝にも★★★★

1月18日

●小口泰與
露天湯の後の薬や寒の内★★★
探梅や諾いがたき山の風★★★
静もりて街を洗いし夜の雪★★★★

●迫田和代
わが心すっかり決めて初詣★★★★
峠より下る雪道まっすぐに★★★
島々を結ぶ舟あり冬の凪★★★

●古田敬二
子離れの時遠からず龍の玉★★★
空や海の色濃き時や竜の玉★★★
青空へ香り広げて枇杷の花★★★★

●桑本栄太郎
鉄塔の嶺の空へと寒晴るる★★★★
見詰めれば天の凍雲ゆるぎおり★★★
あおぞらへ背伸び讃歌や冬芽どち★★★

●小川和子
初日今天城連山離れんと★★★
初御空海パノラマの快晴に★★★★
航跡を曳く海を飛ぶ冬鴎★★★

●多田有花
すぐそこの海を隠して寒霞★★★

鴨雑炊峠の先は雪模様★★★★
鴨打ちのあとの鴨雑炊とでも思わせる句だ。野趣味のある鴨雑炊に峠に舞う雪を奥深いものにしている。(高橋正子)

頂の切り株白く冬深し★★★

●川名ますみ
冬の日に書類をかざす勤め人★★★
しぐるればアイビー光る聖堂に★★★

窓越しにつぼみ明々鉢の梅★★★★
窓越しに見る梅の鉢植え。蕾に明々とした色が見える。待春の明るい気持ちが快い。(高橋正子)

●河野啓一
阪神淡路震災忌はや十九年の歳月が★★★
震災忌往時を思う人の群れ★★★
震災忌菊の白さが目にしみて★★★★

1月17日

●小口泰與
麦の芽や鳶を襲いし鴉二羽★★★
あけぼのの庭に綾なす氷かな★★★
麦の芽や風をあやつる鳶の群★★★

●多田有花
風なくて寒の煙はまっすぐに★★★★
ひと時風が止まる時間がある。そんなとき、当たり前ながら、あれっと気づくことがあって、煙がまっすぐ上るのもその一現象。(高橋正子)

麓よりチャイムが響く寒の昼★★★
寒風に一瞬書類さらわれる★★★

●桑本栄太郎
寒晴れや一点白き放れ雲★★★
リーダーの誰とも知れず寒すずめ★★★
枯蘆の風透き通しゆらぎ居り★★★★
「透き通し」はむしろ「梳き通し」の意味かと思う。枯蘆を梳るように風が通り抜け、蘆を揺らしている。枯蘆のあたりに漂う透明な気配。枯の清潔さだ。(高橋正子)

●祝恵子
出店にはビリケンさんいて宵戎★★★

鳥の声する森にとんどの火と煙★★★★
とんどは、田んぼや河原など、その地域でおおよそ決められた場所で焚かれる。恵子さんの句は、鳥の声のする森の広場だ。神社の境内かもしれないが、鳥の声に合わせるかのように火が弾け、煙が上る。正月気分に区切りがつく、気持ちのよい「とんど」である。(高橋正子)

バチを打つ熱演ありて冬広場★★★

●佃 康水
霜晴れや土黒々と鍬を振り
【添削】霜晴れや鍬振る土の黒々と★★★★

炎から抜けて空ゆく吉書かな★★★
喚鐘や寒満月を寺参り★★★

●小西 宏
枯枝に鳥来て鳴ける陽の光★★★★
古き枝閉ざして池の縞凍る★★★
膝の冷え指先痛き夜の机★★★

1月15日-16日

1月16日

●小口泰與
寒声や風に逆らう鴉二羽★★★

せんべいの売上伸びし空っ風★★★★
空っ風が吹く日は、炬燵やストーブを囲み、熱いお茶を呑み、せんべいを食べることが多いのだろう。勢いせんべいがよく売れる。結構なことだ。(高橋正子)

夕づきて干かごの餅揺れにけり★★★

●小西 宏
土黒く載せて雲母(きらら)の霜柱★★★★
霜柱が黒土を持ち上げていることがある。黒土に混じって雲母が輝いていることもあって、自然の成り行きながら驚かされる。(高橋正子)

冬晴の梯子に籠り松手入れ★★★
枯枝に柿刺してあり鳥の為★★★

●桑本栄太郎
赤き実の空へ干乾び寒晴るる★★★
水色の空に背伸びや冬芽どち★★★
水禽のつがいの離れ呼び合える★★★

●多田有花
むかし綿いまはダウンのちゃんちゃんこ★★★

寒の夕沖金色に光りけり★★★★
入日間際の日が沖に反射し、沖は金色になる。寒の夕が金色を渋くさせて、落ち着いている。(高橋正子)

万両や古刹が伝える略系図★★★

1月15日

●小口泰與
うま酒の信濃にありて冬の月★★★
切炬燵玉子ごはんのほっかほか★★★

藁仕事煤のつきたる自在鉤★★★★
炉辺での藁仕事はが昔ながらに続いているのも貴重なことだ。炉の上にぶら下がる自在鉤もさすがに煤けて年代を感じさせている。(高橋正子)

●多田有花
土を崩せばきらやかに霜柱★★★
寒の陽を浴び石段を登る★★★

池凍り真昼の日差し跳ね返す★★★★
凍った池が跳ね返す真昼の光の白い世界が洒落ている。「真昼」なので光に混ざりけがない。(高橋正子)

●桑本栄太郎
寒晴れの起重機高く日の中へ★★★★
起重機は機械でありながら、人間的な雰囲気がある。寒晴れの日の中に突き出て作業をしている様子は、見ていても面白いものだ。(高橋正子)

一月の真中や川の涸れ尽きぬ★★★
水色の空に風花舞い揚がる★★★

●河野啓一
網張って虫よけしたる冬野菜★★★
冬ざれの並木道にも鳥の影★★★

稜線をそぎ落としたる雪六甲★★★★
雪が積むと山稜がくっきりとする。無駄をそぎ落としたような厳しい姿を見せる。雪嶺の厳しい美しさである。(高橋正子)

●小西 宏
昼どきの物思いして雪を待つ★★★
探梅の谷地深きなる薄緑★★★

太箸に粗(あら)を突ついて鮟鱇鍋★★★★
「太箸」がいい。酒が進み、話が湧いている男連中の囲む鮟鱇鍋だろう。(高橋正子)

1月14日

●小口泰與
天碧く雪の赤城や街は風★★★
しわしわの土に朝日や寒烏★★★★
山風に言葉奪われ探梅行★★★

●井上治代
ちぎり絵の紫清し冬菫★★★★
冬菫は、花のすくない真冬にもで花を咲かせてくれる。ちぎり絵にされた冬菫の紫は、この季節「清し」というにふさわしい。季節がそう感じさせてくれる。(高橋正子)

冬日和寡黙な夫と農作業★★★
臘八會父の忌日の近づきぬ★★★

●桑本栄太郎
大学の赤き煉瓦や寒の晴れ★★★★
寒晴れの真っ青な空に、大学の煉瓦の赤が印象的だ。寒の晴れの下で学問の厳しさと大学の権威が今も感じられる赤煉瓦だ。(高橋正子)

廃屋の捺染工場や枇杷の花★★★
剪定の切り口晒し寒波来る★★★

●多田有花
はるばると遠くに寒九の海光る★★★★
寒に入って九日目、寒さも極まってきた。遠く眺める海の光り具合も寒九の光なのだ。(高橋正子)

頂にひと山向こうの雪を見る★★★
まっすぐな霜の道ゆくセーラー服★★★

●小西 宏
枯芝の日向に白き月見上ぐ★★★
冬枯の小山に赤き陽の残り★★★
枯枝に月彷徨える雲明かり★★★

1月13日

●小口泰與
寒暁や水面見つむる二羽の鴨★★★
我影の百頭身の冬田かな★★★

大沼の水の器も氷けり★★★★
大沼全体が氷った様子を「水の器」と見たところに発見がある。(高橋正子)

●祝恵子
ふるさとの七草パック見つけくる★★★★
最近は七草もスーパーでパック詰めにされたのが売られている。図らずも故郷の七草のパックが売られている。故郷の野に七草を摘んだ思いだ。(高橋正子)

夫起きる前に七草水を切る★★★
ブロッコリー初採の鋏に手ごたえ★★★

●河野啓一
山茶花の散りつつ咲きに咲き続け★★★★
山茶花の花期は長く初冬から咲き始め、寒中もまだまだ。散る花も多いが咲く花も多い。冬を明るく、楽しくさせてくれる花だ。(高橋正子)

朝の陽に二羽の鵯来て止まり★★★
初詣テレビに代えて寝正月★★★

●桑本栄太郎
<全国都道府県対抗女子駅伝>
寒晴れの都大路や女子駅伝★★★
<平成26年成人式>
口紅のどこか稚なく今日成人★★★
<桂川>
水鳥の飛沫(しぶき)耀き今着水★★★★

●小西 宏
工場のけむり海ゆく凍ての朝★★★
成人の日や駅に待つ古き友★★★
踏み石に触れる葉牡丹縮む白★★★

1月12日

●小口泰與
冬耕や午後の上州吹きさらし★★★★
正月をすぎると日が次第に長くなってゆくのがわかる。午前よりも午後の方が長い感じがし始める。その午後を思い切り、上州の空っ風が田も畑も、耕す人も吹きさらすのだ。(高橋正子)

夕づくと何時もの事よ空っ風★★★
宝くじ買うて神棚年初め★★★

●河野啓一
すず菜鈴しろ芹なずな七草の名を数えみる★★★
寒晴れの朝日に鵯のやって来て★★★★
「朝日に鵯がやって来る」というのがいい。力強く鳴く鵯の声と朝日の明るさが生気に満ちている。(高橋正子)

七草の画を描くや汝れ如何とす★★★

●桑本栄太郎
寒風やファイトファイトの校庭に★★★
青空のほのと茜や寒の暮★★★★
暮れ際の空の色は、素晴らしい色彩を見せてくれる。寒に入ると暮れるのが少しずつ遅くなる。暮れ際の青空がほのかに茜色に染まるほんのひと時、その美しさが楽しめた。(高橋正子)

真夜なれば足掻き寄する行火かな★★★

●多田有花
寄せ鍋の湯気に乾杯新年会★★★
寒中の七堂伽藍をめぐりゆく★★★
境内に人影は無し桜冬芽★★★

●小西 宏
雨の夜のタイヤ音する寒さかな★★★
輝ける朝踏み楽し霜柱★★★★
冬夜なる葡萄酒の香のクリスタル★★★

1月11日

●小口泰與
三山も雪をかずきし風の朝★★★
枯薗に口を漱ぎて居りにけり★★★
雪焼やおりおり疼く脚の傷★★★

●祝恵子
一組は河川敷へとお正月★★★★
帰りくる学童と会う早六日★★★

ラデッシュの水を通せばなお美し★★★★
ラディッシュの紅色はそれ自体で美しいが、水に放てば、さらに紅色がみずみずしく美しくなる。小さなことだが、これも生活の楽しさ。(高橋正子)

●迫田和代
若水を唯おもいっきり流しっきり★★★★
若水を井戸から汲み上げることもなくなったが、たっぷりと新年の水を流し切って使うのも若水を故のこと。(高橋正子)

乗り初めや私の場合車椅子★★★
今年また破魔矢を差して鈴鳴らし★★★

●小西 宏
枯木立西高東低かがやく空★★★
枯蔦に覗く古家のガラス窓★★★

野っ原の裸木越せばホームラン★★★★
野っ原の向こうに裸木が立ち並ぶ。その裸木を越せばホームランとなる。愉快な気持ちになる句。(高橋正子)

●桑本栄太郎
押し切りて鏡開の汁粉かな★★★

寒晴れや梢の空のまつたきに★★★★
真っ青な寒空と梢の先の繊細さがよい詩情となっている。「梢の空のまったき」は省略がよく効いている。(高橋正子)

乙訓の風吹き払う寒の空★★★