12月9日

●古田敬二
オリオン座大きい朝に旅に出る★★★★
オリオン座がまだ輝いている早朝の旅立ち。旅への緊張感と楽しみとが入り混じって見上げる朝のオリオン座である。(高橋正子)

東天に三日月寒し旅に出る★★★
初霜を踏んで旅立つ外つ国へ★★★

●小口泰與
寒禽や利根の河原の石数多★★★
せせらぎに風音まじる寝酒かな★★★
夕照に包まる庭のみかんかな★★★

●祝恵子
山茶花の落ちて水鉢数増やす★★★
石蕗の花朱塗りの寺の観音さま★★★
竹馬の並んで園児の遊ぶ声★★★★
竹馬で遊ぶ園児らのあどけない声が冬の空気を暖かくしている。(高橋正子)

●迫田和代
初雪や待ちかねた子供の叫び声★★★
名も知らぬ川面に浮かぶ散紅葉★★★

公園に初雪舞って広さ知る★★★★
公園に初雪が舞うと、公園は静まって、平らかな広さが知れるという。独特のよい捉え方と発見がある。(高橋正子)

●多田有花
十二月八日八十翁と頂に★★★★
山茶花を屋根より高く咲かせおり★★★
今年の葉すべて手放し裸木に★★★

●桑本栄太郎
箒木の赤に冬日の陽射しかな★★★

菜園の語り賑わい冬ぬくし★★★★
収穫や手入れのために菜園に出て、暖かい日差しにそのまま菜園で過ごす。次々そのような人が集まると話が弾むというもの。菜園がいい交流の場となっている。(高橋正子)

吹き溜まる銀杏落葉を踏みゆけり★★★

12月8日

●小口泰與
小春日や飛行機雲のどこまでも★★★★
着ぶくれて人待ち顔や南口★★★
木枯しや薄れはじめし黒インク★★★

●佃 康水
 大隈庭園 2句
師と友とそぞろ歩むや路地小春★★★    

餅搗くや蒸かす匂いの園に満ち★★★★
大隈庭園の芝生の上での餅つきの様子。もち米を蒸かす匂いが温かそうにただよっていることが読め、臨場感がある。(高橋正子)

言祝ぎの句座や聖樹の灯を点し★★★   

●小川和子
黄昏て冬菊いさぎよく薫る★★★★
「いさぎよく」に、冬菊のりんとした姿がある。黄昏の寒さが募るにしたがって冬菊の香が強まる。(高橋正子)

普請の音冬空高く木霊する★★★
賛美歌の調べ満ちくる待降節★★★

●多田有花
大雪の光を返し散らばる池★★★★
高いところからの景色か。大雪の野のなかに、光を返して小さな池が散らばっている。寒いながらものびやかな景色。(高橋正子)

冬霧の丹波の国に入りにけり★★★
仲冬や頂に望む若狭富士★★★

●桑本栄太郎
【原句】散り尽くし桜冬芽の青空に
【添削】散り尽くし桜冬芽を青空に★★★★

冬耕の土乾きいる野風かな★★★
吾を待つかに揺らぎ初め蘆枯るる★★★

●小西 宏
霜の朝瓦にやわき廚の灯★★★
冬晴れの大船観音白き笑み★★★
冬星やサンチョパンサのごとく我★★★

12月6日-7日

12月7日
●古田敬二
坂多きプラハは白き霜の街★★★★
政治の面では「プラハの春」を思い起こすが、この句からプラハは、坂の多い街、厳しく霜が白く置く街と知る。東欧の古都のそういう街に私は憧れる。(高橋正子)

城郭の名残の壁に霜真白★★★
森奥へ霜の白さの伸びており★★★

●小口泰與
神の留守浅間は雪をかずきけり★★★
あけぼのや影の散らばる寒雀★★★
火の山の南面とけし冬芽かな★★★

●桑本栄太郎
採り跡の千々の乱れや冬菜畑★★★

外焚きの風呂の閉ざされ冬日さす★★★★
今は使われなくなった外焚きの風呂が閉ざされて冬日が暖かく差している。子供のころの風呂焚きの思い出も蘇るのだろう。(高橋正子)

大雪の吾にもありぬ秘密保護★★★

●多田有花
啄木鳥や静かに落葉つづく森★★★
やわらかく墓所に降り積む落葉かな★★★★
岩尾根の冬青空の中に立つ★★★

12月6日

●小口泰與
山風に番茶の似合う炬燵かな★★★
山すその寒灯ゆれし風の音★★★
カプチーノ飲み終わりけり北颪★★★

●多田有花
真昼の陽明るく木の葉降りやまず★★★★
「木の葉降りやまず」の景色が、真昼の陽の中であるのがこの句の良さ。透明感に加え、「時の永遠」もあわせて感じさせる。(高橋正子)

山影が冬の霞の中に浮く★★★
いま落ちしばかりの木の葉踏みてゆく★★★

●桑本栄太郎
池の辺の風の素通り蘆枯るる★★★★
枯蘆にかかわるのか、かかわらぬのか、池の辺を風が通り抜ける。素通りする。さらさらと吹く冬の風がよい。(高橋正子)

枯蘆の踊るばかりや風の音★★★
さざ波の岸に久遠や冬の池★★★

12月5日

●小口泰與
ちり鍋や捨てかねている釣道具★★★★
ちり鍋を囲みながらも、思うのは釣り道具。古くなった道具か、また、釣りとは縁を切ろうという思いが逡巡しているのか、捨てかねている。これもふつふつと煮える鍋料理の仕業と思える。(高橋正子)

夕照の浅間や風に乗る木の葉★★★
笹鳴きや置き忘れたるアイフォーン★★★

●桑本栄太郎
もくれんの冬芽しかじか尖りけり★★★★
「しかじか」は、「かように」という意味と解釈。もくれんの芽を一つ一つ見れば、かように尖っている。もくれんの芽を知るひとにはわかること。(高橋正子)

ちりちりと赤き山襞冬の嶺★★★
日が射せど風のおらぶや十二月★★★

●黒谷光子
冬の田を北へと糠を燃す煙★★★
糠の使い道もほどんどなくなったせいか、糠を田で燃やすようだ。糠を燃やす煙とその匂いは北へと靡く。穏やかな日和に風は南寄り。農村の冬の一風景である。(高橋正子)

特急の過ぎしホームの風寒き★★★
同年のよしみと集い忘年会★★★

●多田有花
風吹けば幾千万の落葉降る★★★
あいさつの声冬菊の向こうより★★★★
極月の三日月日々を丁寧に★★★

●小西 宏
盛り高く香を放ちいる葱の畝★★★★
大根の並ぶ葉のさま魔女の髪★★★
小春日や枝に鴉の熟し柿★★★

12月4日

●小口泰與
炉話や和紙に包まる甘納豆★★★★
民話の世界の趣きの句。和紙、甘納豆が温かみを添えている。(高橋正子)

口切や白き波だつ湯檜曽川★★★
北風や焼饅頭の味噌の味★★★

●多田有花
冬うらら浮かぶがごとき航空機★★★
雲ゆっくり北の空ゆく小六月★★★
日ごと散る紅葉や空の透きとおる★★★★

●桑本栄太郎
焼き跡の黒き模様の冬田かな★★★
日溜りの壁に憩えば冬日燦★★★
橙の黄明かり重き土塀かな★★★

●小西 宏
味噌汁に冬日の恵み朝の窓★★★
金星の冬空蒼し峰の影★★★

青深く街の灯定む冬の闇★★★★
冬は大気が澄んで闇の暗さも「青」と捉えらえる。街の灯もくっきりと点るところに「定まる」。クリスマス前の冬の街を詠んで洒落ている。(高橋正子)

●黒谷光子
山茶花の垣根の向こう子らの声★★★★
山茶花は椿よりもさっくばらんな花である。子どもを取り合わせてよく馴染む。山茶花の垣根向こうの子の声が作者に明るく届く。(高橋正子)

自転車の篭に手編みの毛糸帽★★★
庭の木に生りしと蜜柑届けられ★★★

12月3日

●小口泰與
電飾の女神や空に寒昴★★★★
あかあかと日の沈みけり生姜酒★★★
ごつごつの山襞迫り枯芭蕉★★★

●河野啓一
背の痛みふと忘れたる小春かな★★★

鳥飛ぶや大き柿の葉散りにけり★★★★
鳥が飛ぶと、その動きで大きな柿の葉がはらりと散る。なんでもないようなことだが、静かで、平らかな心に刻まれる現象である。(高橋正子)

大和より赤き大きい柿届く★★★

●多田有花
誰も居ぬさらに鮮やか冬紅葉★★★
海へゆく川のみ光り冬霞★★★★
海へゆく川は南へと流れているのだろう。冬霞の中で、光を反射する川のみが光っている。(高橋正子)

冬霧の晴れゆく今朝の快晴に★★★

●桑本栄太郎
枯萩の枝垂れて長き坂の道★★★★
長い坂道に沿って垂れ下がる萩。花の季節には花のたのしみがあった。今は黄葉し、枯れている萩の風情が楽しめる。それぞれがよい。(高橋正子)

山襞の赤の極みや冬の嶺★★★
散り終わり桜冬芽となりしかな★★★

●佃 康水
風立ちて銀杏落葉の路地駆ける★★★
畝ごとに色とりどりの冬菜かな★★★
薄茶待つ古刹の茶屋に初火鉢★★★★ 

●小西 宏
陽の崖の落葉だまりに猫眠る★★★
寒風を蹴り少女らの逆上がり★★★★
くっきりと街の灯定む冬の闇★★★

12月2日

●小口泰與
隼や風の鍛えし里の子等★★★★
子供は風の子ではあるが、赤城颪で有名な上州の子は「風の鍛えし」という表現が当てはまる。隼はその風を受けて飛ぶのだ。(高橋正子)

夕暮れの風にさわだつ落葉かな★★★
電飾や冬夕焼のあかあかと★★★

●祝恵子
城壁の巨石に影を冬紅葉★★★★
「巨石」が効いた。紅葉の枝が城壁の石垣に垂れて影を映しているのだろう。冬紅葉の影が割れることなく趣き深く垂れている。(高橋正子)

鳥居抜け紅葉と幟の七五三★★★
冬ざくら橋より見送る遊覧船★★★

●桑本栄太郎
着水の飛沫耀よう冬の池★★★
朝日背にルアー投げ入れ冬の池★★★

佇めば蘆を抜けゆく冬の風★★★★
佇んで初めてわかること。枯蘆の中を風が抜けている。「冬の風」は、また蘆の冬の姿を想像させてくれる。(高橋正子)

●多田有花
登る足朴の落葉の上に置く★★★

ふかふかと落葉に埋もれ下りけり★★★★
山の路はすっかり落葉に埋もれてしまった。山路を下れば落葉がふかふかとして足を埋めるほどだ。山路もすっかり冬になった。(高橋正子)

冬の昼山下りし身を泡風呂に★★★

●小西 宏
森奥のひと光なり花八手★★★

【原句】午後の日の影長き野に木の葉踏む
【添削】午後の日に木の影長し落葉踏み★★★★
木の影が長々と落葉に映っているところを踏んでゆく午後の静かな明るさがよい。

木の葉旧る小楢の道に癒される★★★

12月1日

●小口泰與
熱燗や大河を越ゆる風の音★★★★
大河は作者の住いから言えば、利根川であろう。川風の音は颪とはまた違った趣だが、寒々と川を渡り吹く風の音に酒も熱燗が嬉しい。(高橋正子

十州の境や山の眠りおり★★★
隼の風袈裟切りに飛びにけり★★★

●河野啓一
冬の川碧く光りて西の方★★★★
西の方に光る碧い静けさに惹かれる。眺めれば、冬の川が水も碧く光って横たわっているのが、西の方なのである。(高橋正子)

年相応不如意続きて師走かな★★★
鳥影の舞うかと見れば柿の葉散る★★★

●桑本栄太郎
紅と黄とみどりの交じる落葉踏む★★★★
落葉といえども、時期が来て同じように散るのではない。紅色や黄色になったもの、中には散るには早い緑の葉もある。色とりどりの紅葉の季節を踏む日常がある。(高橋正子)

ちりちりと満天星つつじの冬紅葉★★★
山襞の夕日に赤し冬の嶺★★★

●多田有花
冬晴れの播丹国境を歩く★★★
冬麗のなかに立ちおり千ヶ峰★★★
小春の山下りゆっくりとぬるめの湯★★★

●黒谷光子
頂上は初冠雪らし伊吹山★★★

洗い終え積めば輝く蕪の白★★★★
抜いてきた蕪を洗い、洗った分を積み上げ、ついに洗い終えると、輝くばかりの真っ白い蕪の山となった。これから漬物などに仕込まれるのだろうが、その見事なみずみずしさに、うれしさも湧く。(高橋正子)

蕪引きて煮物に汁にあちゃら漬け★★★

●小西 宏
セーターを脱いで湯気立つ遊びの子★★★★
遊んでいる子が暑くなってセーターを脱ぐと、体から湯気が立っている。子供の活動量はすざましい。(高橋正子)

枯れ芝をはたき夕日に腰上げる★★★
里山に残る夕日や冬もみじ★★★

●佃 康水
栴檀の実へ青空の近くなり★★★★
栴檀の実は熟れると金色になり、地上よりむしろ青空のものとなる。青空が近くなるのだ。(高橋正子)

藪深くかさり音たて笹子鳴く★★★
浅瀬に餌掘り出す鴨へ砂煙★★★