12月19日-20日

12月20日

●小口泰與
川筋の細りし利根や冬ひばり★★★
夕照の目路の浅間に笹子かな★★★
寒鯉や山住みの身は山に暮★★★

●古田敬二
 楽友会館
冬の陽のホールにあふれアンダンテ★★★★
冬の陽が溢れるホールで、アンダンテ(歩く速さで)のゆっくりとした音楽に身をゆだねるひと時が、人生のゆったりした時と重なっているようだ。(高橋正子)

ピチカート冬陽が届くウイーンフィル★★★
冬温し指揮者が踊るウイーンフィル★★★

●多田有花
北風つのるほどに輝く播磨灘★★★★
瀬戸内海は、播磨灘もだが、北風が吹けば吹くほど、海面の水が研ぎ澄まされ、太陽をよく反射する。「つのるほどに輝く」が実景をよく映している。

陽光の頂で北の雪を見る★★★
頂に青空見える冬芽かな★★★

●桑本栄太郎
葉を落とし滴つらなる冬木かな★★★
惣菜に添えて鯛焼買いにけり★★★
散紅葉の壁に張り付く昇降機★★★★
戸外から乗り降りできるエレベーターだろう。エレベーターの中までも紅葉が吹き寄せてきて、一枚が壁に張り付いている。「こんなところにも」という驚き。紅葉の散る季節である。(高橋正子)

12月19日

●小口泰與
侘助や赤城の襞の鮮やかに★★★

読みひたる史記の世界や日短し★★★★
司馬遷の書いた史記は、全130巻にも及ぶ壮大なもの。読みやすくまとめられたものもあるとは言え、それも長編である。時の経つのも忘れて、心躍らせて読みひたれば、なおさらのこと、「日短し」を実感する。(高橋正子)

夕映えの雲の褪せたり枯尾花★★★
 。
●多田有花
猪鍋の湯気立つ外は夜の雨★★★★
猪鍋は湯気をたぎらせて、元気なものが集まって食べるのが、いっそう野趣味と言えるかもしれない。夜の雨が加われば、猪鍋にふさわしい状況設定になる。(高橋正子)

つと下ろす炭火の上の自在鍵★★★
楓枯れ夜来の雨を宿しおり★★★

●桑本栄太郎
踏みしだき朽葉張りつく坂の道★★★
冬の雨朝の尾灯のつづきけり★★★
白き実の玉のしずくや冬の雨★★★

●佃 康水
白エプロンひと日徹して報恩講★★★  
車窓より冠雪富士を見て飽かず★★★
 広島尾道にて でべら(出びらかれい)
旗の如屋上揺るるでべびら干し★★★★
海の寒風にさらされて、「でびら」が干されているのを見ると、まさに「尾道の光景」として思い起こされる。(高橋正子)

12月17日-18日

12月18日

●小口泰與
終バスや冬夕焼のあかあかと★★★★
朝戸出の我を襲いし空っ風★★★
参道の銀杏落葉やあさぼらけ★★★

●古田敬二
 ウイーン市庁舎前クリスマスマーケット
ガラス玉に雪の降り来るマーケット★★★★
クリスマスツリーや部屋飾りに使う色んな色や絵の書かれたガラスボールは、オーストリアやドイツのクリスマスを象徴するようなもの。雪の降るクリスマスマーケットが詩的に思える。 (高橋正子)

市庁舎の尖塔聖樹となり高し★★★
旅真中聖樹の下のホットワイン★★★

●小川和子
眼差しを交わし嬰児笑むクリスマス★★★
新しき聖樹光れり児をあやす★★★★
冬空に軌跡描けり飛行機雲★★★

●多田有花
頂に沢庵漬を回す昼★★★
順々に山下りてくる冬帽子★★★★
冬の雨聞きつつどこへもいかぬ日★★★

●祝恵子
客を待つ冬の菜少し摘みながら★★★★
「冬菜摘み」も日常生活のことだが、「客を待つ」であれば、詩となる。「いい生活からいい俳句」が生まれる。 (高橋信之)

冬耕や深めに堀りてくわい畑★★★
冬河原腹這って撮るタンポポ★★★

●桑本栄太郎
冬麗の電車の窓の日射しかな★★★
パソコンを膝に眠る娘(こ)冬うらら★★★
階段を走りバスへとしぐれ雲★★★

12月17日

●小口泰與
夕映えを浴びし我が影冬田かな★★★
水洟や長き地下道土合駅★★★

寒菊や赤むらさきの明けの空★★★★
寒菊も花や葉が寒さに焼けて赤紫を帯びることがある。明けの空も、寒々と赤むらさきになる。菊も雲もである。(高橋正子)

●迫田和代
時ならぬ時雨に濡れし車椅子★★★★
外出の車椅子が、時ならぬ時雨に濡れてしまった。時雨の降り方は時としてこのように、急に降ることがある。時雨の本質をいい得ている。(高橋正子)

枯草の中の緑の生き生きと★★★
白い息吐きつつ歩く山影を★★★

●桑本栄太郎
木枯しや枝の烏の踏ん張りぬ★★★
大鍋の南無息災や大根焚き★★★

冬萌えや高槻平野のさみどりに★★★★
高槻平野は大阪のその地域の平野。生活のある平野である。その平野が冬萌えにさみどり色になり、明るく美しいことである。(高橋正子)

●多田有花
雲低く裏六甲の冬ざるる★★★★
「裏六甲」が珍しく、訪ねてみたい気持ちになる。「裏」と「冬ざるる」が微妙なところで付き過ぎでないのがよい。(高橋正子)

足音に親しく寄り来る緋鳥鴨★★★
山下りて炭火囲炉裏の牡丹鍋★★★
 

12月16日

●小口泰與
甲高き二羽の鶏声冬田かな★★★★
冬田にまで聞こえる鶏声か。二羽が甲高く鳴き合っている。この甲高い鶏の声は、寒い冬を一層寒々とさせる。(高橋正子)

竹林に鳥影ありし暖炉かな★★★
うす雲を透かす落暉や枯尾花★★★

●祝恵子
庭師らは寺に冬苗運び入れ★★★★
何の苗か。正月を迎える葉牡丹などであろうか、あるいは苗木か。庭師が入って寺の庭が年末新たになる。(高橋正子)

冬芽吹く目を凝らして枝見れば★★★
風任せなれど落葉は遠くまで★★★

●多田有花
焚火囲む朝の仕事の始まりに★★★★
建築現場など早朝からの戸外の仕事は、まず、暖を取ってから。木くずなどを燃やして焚火をする光景は、昔から変わっていない。(高橋正子)

一年の長さ短さ忘年会★★★
連山の彼方に雪の降りしきる★★★

●桑本栄太郎
白き実の揺るる並木や風冴ゆる★★★
街をゆく吾を追いかけ木の葉舞う★★★
土乾き冬田ほろほろ日射しけり★★★

●古田敬二
ベートーベン落葉の公園にまみえけり★★★
石畳冷え初む夕べをオペラ座へ★★★
開演を待つ間のウイーンの夜の冷え★★★

●川名ますみ
青々と葉の付きしまま蜜柑着く★★★★
蜜柑の荷を開けると、明るいオレンジ色が目に飛び込んでうれしいものだが、それに青々とした葉がついていれば、色は一層鮮やかになる。送り主の心遣いも忍ばれる。(高橋正子)

聖樹背に笑い損ねし写真かな★★★
葉を捨てて桜にまるき冬木の芽★★★

12月14日-15日


12月15日

●小口泰與
百年の酵母や冬の醤油蔵★★★
木守や酵母あふるる太柱★★★

干大根利根の河原のひろごれり★★★★
干大根の色と冬景色となった河原の色がよくなじんで、風の吹く様、日の照る様が想像できる。(高橋正子)

●古田敬二
色づけり冬のシベリア夕景色★★★

冬の旅動かぬ位置に北極星★★★★
昔、北極星は動かないことから旅をする人の目印であった。今でも旅にあれば方位を確かめるための目印となる。「冬の旅」が荒涼とした星空
を想像させてくれる。(高橋正子)

シベリアを飛ぶ主翼の先の冬の星★★★

●桑本栄太郎
山膚のうすく赤きや冬の朝★★★
新駅の高架ホームや冬田晴れ★★★★
冬田の中の新駅の高架ホームは突如として現れたコンクリートと鉄の塊の趣き。それに対して冬田の上に広がる晴天の空のさっぱりと晴れやかなこと。(高橋正子)

萎れゆく風の窓辺の懸菜かな★★★

●黒谷光子
(永観堂)
冬紅葉見返り佛の堂包む★★★
冬紅葉開山堂へと臥龍廊★★★
見返り佛脇より拝み冬ぬくし★★★

12月14日

●小口泰與
喉飴を口に入れたる小春かな★★★
焙煎の上々に出来小春かな★★★
神の旅浅間は雪を賜わりぬ★★★★

●迫田和代
冬帝に土手道駆ける子に幸を★★★
楽しいな冬日の射す道今日もまた★★★★
「楽しいな」はためらいのない、そのままの気持ち。冬日がぽかぽかと差す道は今日もまた楽しい道となるのだ。(高橋正子)

窓の外風にも負けずに冬の薔薇★★★

●桑本栄太郎
錦木の残る紅葉や剣の先★★★
しぐれつつ青空のぞく嶺の奥★★★
ベランダの窓に小さき干菜影★★★

●古田敬二
機窓から句帳へ冬の陽が明るい★★★★
乗り物の車窓側に乗るとこんな場面によく出合う。句帳のページの白さに気持ちよく句が認められそうだ。(高橋正子)

雲海の果てなきを見る冬の旅★★★
雲海を崩して走る冬の風★★★

12月13日

●古田敬二
シベリアの雪山夕日に色づけり★★★
雪原に人の営み見えず真っ白★★★

シベリアの大地をまっすぐ雪の道★★★★
シベリアの大雪原のまっすぐな道。雪と無音の神秘的なまでの世界。機上からの眺めであろうか。(高橋正子)

●小口泰與
又しても浅間に雪や朝ぼらけ★★★

黙読し見上ぐる空や寒昴★★★★
黙読のあと、自分の世界から翻って空を見上げると、寒昴がくっきりと輝いている。遥かな昴の光が目に刻まれる。(高橋正子)

夕映えの河やマフラー纏わりぬ★★★

●河野啓一
髪白き二人の会釈師走の街★★★
奥丹波山粧いて霧の中★★★
冬空やオーストラリアのような雲★★★

●多田有花
寒風を戻りてあったかいなり寿司★★★
昼済めば日はすでに西日短か★★★
よき夢を見に羽蒲団の中に入る★★★

●桑本栄太郎
切干の乾き縮むや笊ふたつ★★★
山茶花の生垣白く日暮れけり★★★
短日のすでに没日や午後の五時★★★

●小西 宏
山茶花の花びら広く敷く日向★★★★
下五を「日向」で止めたのがよい。山茶花がまぶしいばかりに散り敷いた明るい日向である。(高橋正子)

母と子と手をつなぎ行く落葉道★★★
枯葉赤く小楢の山に夕日照る★★★

12月12日

●小口泰與
冬凪や牧舎の馬の嘶ける★★★★
風の止んだひと時、牧舎の馬の嘶きが辺りによく通る。馬が嘶くとき吐く白い息も見えるようだ。(高橋正子)

寒灯や捨てかねて居る漆箸★★★
外に出づや今朝の浅間は雪も無し★★★

●古田敬二
雪平原蛇行の黒き川の見え★★★
日本を離れる真下冬の雲★★★
機内食シベリア大陸雪景色★★★

●多田有花
きらきらと初雪森に舞い降りる★★★★
いかにもクリスマスシーズンの句。「きらきらと」に初雪に躍る心が表現されている。「森」がヨーロッパ的。(高橋正子)

茹でられて透く大根の白き肌★★★
三角点落葉と日差しに囲まれて★★★

●桑本栄太郎
しらじらと目覚めて暗き冬の朝★★★
切干の笊に日溜まる窓辺かな★★★★
面白いところに目を付けた。笊に干された切干大根。乾いて小さくなったものは、笊の目に詰まっている。窓辺の日あたりが嬉しい。(高橋正子)

窓ぎわの日差し占拠や冬ごもり★★★

●黒谷光子
葉牡丹の渦すき間なく満ちあふれ★★★
葉牡丹の紅白並ぶプランター★★★
実南天一粒づつに日当りて★★★

●川名ますみ
路地曲がり銀杏落葉の一色に★★★★
路地を曲がった途端、銀杏落葉の黄色い世界が広がった。「一色に」に鮮やかな銀杏落葉の世界が驚きをもって表されている。(高橋正子)

銀杏落葉今日がいちばんきれいな日★★★
十二月卓を隔てし声を聞く★★★

●高橋秀之
落葉降る道を北へと真っ直ぐに★★★★
「落葉降る」と「北へ」が作者の心情を表してる。「北へ」は淋しいとういうより「まっすぐな遠さ」を感じさせる。(高橋正子)

小走りに銀杏落葉を踏み締めて★★★
通過待ちの電車の中に落葉舞う★★★

●小西 宏
時雨ゆき木々に小鳥の声しきり★★★
木の葉降るメタセコイアの赤い道★★★
ぬるり噛む鴨南蛮の根深葱★★★

12月11日

●川名ますみ
ドアマンの指の向こうに冬青空★★★
ドアマンの手は冬晴を指しており★★★★
出入口で客の送り迎えをしてくれるドアマンは、印象も心遣いも大事。冬晴れのよい天気を指してくれる心遣いがもうれしい。(高橋正子)

師も友も小春の窓へ笑うたり★★★

●小口泰與
大沼に白波はしる暖炉かな★★★
皹や温泉の沸く水の星★★★
また一人寒鮒釣に加わりぬ★★★★

●多田有花
<姫路城・修理見学施設「天空の白鷺」二句>
菰巻かれ城囲む松冬最中★★★
天空の白鷺に見る冬の虹★★★

風音が山眠らせる子守唄★★★★(信之添削)
風音も子守唄に。山を眠らせるには、このくらい大きく広く吹く風でなければならない。風が歌って山は眠りにつく。(高橋正子)

●桑本栄太郎
日溜まりの猫の親子や漱石忌★★★
しがみつく残る葉ありぬ冬紅葉★★★
冬ざれの鉄塔あまたや天王山★★★★
古跡も残る天王山ではあるが、冬ざれて鉄塔があらわに見える。たくさんの鉄塔が並ぶ様は、また逆に冬ざれを強く感じさせるものである。(高橋正子)

●古田敬二
厚き雲主翼が切り裂き冬の旅★★★
冬雲の間に海の白い波★★★
冠雪の富士山遠く旅の空★★★★
冠雪の富士山を遠くに見て、いよいよ日本を離れる旅の空にいる。海外の旅に出るとき、富士山を目に収めたいのは大方の人であろう。(高橋正子)

12月10日

●小口泰與
枯れかれてなお鶏頭の紅かりし★★★★
鶏頭の紅さは個性的と言える。枯れてもその紅い色が衰えず残る。色に生命が通う。(高橋正子)

切干や父の遺愛の腕時計★★★
我が影のガリファの如き冬田かな★★★

●河野啓一
よこざまに雀飛び来て落つ師走★★★★
雀も飛ぶ鳥であるから、どこから飛んで来ようと自由だが、よこざまに飛んで来られては驚くほかない。そして落ちる。師走は雀も忙しげだ。(高橋正子)

枝の先年越す構え夏蜜柑★★★
海望む山の畑のオリーブよ★★★

●桑本栄太郎
山茶花や日毎に紅の饒舌に★★★★
山茶花がどんどんと日ごと数を増やして咲くようになった。山茶花の咲き盛る様子を饒舌と感じたところが面白い。師走の忙しさに歩調を合わせるように咲く山茶花だ。(高橋正子)

時雨れつつ青空のぞく嶺の奥★★★
踏みしだき道の片方(かたえ)や落葉踏む★★★

●多田有花
暁の窓に轟く冬の雷★★★
<姫路城・修理見学施設二句>
凩の街見る天空の白鷺より★★★
冬桜修理の天守を仰ぎ咲く★★★

●黒谷光子
蹲踞の明かりとなりて石蕗の花★★★
庭石のありて寄り添う石蕗の花★★★
早々と上がり半分冬の月★★★

●古田敬二
昇る陽に初霜の我が街染まり初む★★★★
初霜のきらめきに、我が住む街がきよらさに包まれた。「昇る陽」に勢いがあってあかるい。(高橋正子)

 セントレア空港
冬波のきらめく海から外つ国へ★★★
冬の海に機影走らせ旅に立つ★★★