12月31日
●小口泰與
歳晩や木々を賑わす風の神★★★★
うたた寝の夢のうたかた師走かな★★★
行く年や上り下りの峠道★★★
●桑本栄太郎
<孫のいる山口の新家族訪問>
年尽くる旅のはじめや新幹線★★★
瀬戸内の冬日きらめく明石かな★★★
徳山の煙突けぶり年暮れぬ★★★
●古田敬二
ボヘミアの霜の森から子らの声★★★★
カラフルな帽子が動く霧氷林★★★
霜の林映してブルダバ川静か★★★
12月30日
●小口泰與
山風にあまなう木々や桜鍋★★★
はたはたと古し暖簾やおでん鍋★★★
雪吊や雲版叩く僧の昼★★★★
雪深いところの禅寺を訪ねると、雪吊がしてあり、僧は雲版を叩いて昼の時を知らせる。辺りに雲版の音が響く、墨絵のような雪景色が想像できる。(高橋正子)
●多田有花
天水桶氷の下の緋鯉かな★★★
県外のナンバー増えし小晦日★★★
一年の歩き納めや小晦日★★★★
「歩き納め」というのが、面白い。しかも、大晦日ではなく小晦日を。普段は増位山に難なく登って楽しんおられ、トレッキングはお手の物。大晦日は、一年の最後の日を大切にとっておかれるのだろう。
●桑本栄太郎
エンジンの噴かして長き冬の朝★★★★
冷え込んだ霜の朝など、自動車のエンジンがかかりにくい。しばらく噴かしているのも、冬の朝の光景として目にするが、句にしたのは読んだことがない。(高橋正子)
ちりちりと白く粧い山眠る★★★
日翳れば峰に仄かに雪の山★★★
●小口泰與
夕映えの雲のあふらる枯葉かな★★★
風呂吹や赤城を出づる風の神★★★
天ざかる里に住みおり空っ風★★★
●古田敬二
ドボルザーク生家 ネラホゼベス
段々に霜深くなる村に着く★★★
霜平原遠くに動くトラクター★★★
霜の降る林を縫って鉄路伸び★★★
●多田有花
毛糸編む母晩年の楽しさに★★★★
毛糸を編む楽しさは、それが少しずつ出来上がってゆくところにある。そして自分ひとり座る場所があれば、どこでもできること。外国の老婦人が椅子に腰掛けてレース編みをしている絵や写真をよく見るが、晩年の楽しみはささやかで、美しく、楽しいものができるのがいい。(高橋正子)
年の暮二つの峰をたどりゆく★★★
広峯神社迎春準備の活気かな★★★
●桑本栄太郎
初雪やうつすら白き峡の底★★★
年の瀬の階段走る宅急便★★★
数え日やひと日暮れゆく青き空★★★
●小川和子
磨きあぐ玻璃に映れる庭水仙★★★
冬麗の富士の真白よ気高さよ★★★
車窓より忽然と見ゆ雪の富士★★★
●小西 宏
冬日青く輝く朝の窓磨き★★★
窓ガラス磨き明るき冬木立★★★★
磨いた窓ガラスを通して見える冬木立が凛々しく鮮明だ。(高橋正子)
拳骨の古き裸木百日紅★★★
●川名ますみ
玄関にりんご置きましたとメール★★★★
りんごを送っていただいたのか。玄関にりんごを飾って、出入りのたびにたのしみ、来客にも楽しんでいただく。明るいりんごの色や形になごむ。そのことをうれしくてメールした。(高橋正子)
やや蒼きローリエを入れ冬うらら★★★
てっちりに兄妹湯気も分けあいぬ★★★
●古田敬二
霜溶けてブドウ畑のきらきらと★★★★
白樺の枯木の中から鐘の音★★★
連結電車霜置く坂を登り来る★★★
●小口泰與
冬凪や荒れ田にぎわす明烏★★★
風に乗る数多の鳶や年の暮★★★★
鳶がやたら多く空に舞うときがある。それぞれが自在に風に乗って、地上の年の暮を見ているかのような景だ。(高橋正子)
烈風に馴染みし庭の枯木かな★★★
●迫田和代
願いあり土手道に咲く冬桜★★★★
晩秋から冬にかけて咲く冬桜。か細い枝に花もはかなげに咲いている。それは、作者の願いを表しているようでもある。(高橋正子)
咳三つ残して走る寒い朝★★★
どちらかと言えば寒さに力あり★★★
●祝恵子
冬菜につく青虫の温さつまむ★★★
賀状に添ゆ子らそれぞれに言葉入れ★★★
時雨るるよ短き髪となり街へ★★★★
美容室で髪を切ってもらって外へでると、時雨が降って、首筋あたりがぞっと寒くなる。さっぱりとなったが、時雨の冷たさに襲われた。一抹のわびしさ。(高橋正子)
●桑本栄太郎
張替えの終えて明るき白障子★★★
そうじ終え窓の暮れゆく日短★★★
蕪村忌の水色空の暮れゆけり★★★★
蕪村忌は12月25日。蕪村は画家でもあり、句柄にも抒情があるので、年の瀬となった水色の空は、蕪村の忌日にふさわしく思える。(高橋正子)
●多田有花
雪積んで北より車の来たりけり★★★
樒入る墓前の花筒初氷★★★
数え日や祖父母の墓に水注ぐ★★★★
今年も残るところ少なくなった。正月を前に祖父母の墓をきれいに掃除し、水を注ぐ。遠い祖先ではなく、祖父母の墓なので、水を注ぐ思いに現実感がある。(高橋正子)
●黒谷光子
山々も村も隠して雪しまく★★★
靴跡にわが靴を置く雪の道★★★★
雪深い湖北にお住いの作者。雪道を歩くのに、先に歩いた人の靴跡に靴を置いて歩く。その靴跡も次に歩く人にはすでに道なのだ。雪は用心して、歩くにこしたことはない。(高橋正子)
地場野菜買う歳晩の道の駅★★★
●川名ますみ
外套を叩き芝居の雪一枚★★★★
外套を叩き軽く外出の埃を払うと、芝居のときに振りまかれた雪の一片がはらりと舞い落ちた。芝居の雪が作者のコートに降ったわけだ。
観客も芝居の中に取り込まれた格好で、さぞやよい舞台であったろう。(高橋正子)
コートから十年前の紙吹雪★★★
ブーツにも忠臣蔵の雪紛る★★★
●小口泰與
冬凪や赤城のすそ野とびの舞う★★★
虎落笛耳はりづめの小犬かな★★★
底冷えや鶏の足跡おちこちに★★★
●河野啓一
鳥声優し今日は天皇誕生日★★★★
今生天皇は12月23日が誕生日。うららかな日を賜り、小鳥の声も優しい。天皇のお人柄がしのばれもする。(高橋正子)
年納め近付きつつも小春かな★★★
庭雀氷雨のなかの朝餉かな★★★
●古田敬二
(ブルダバ=モルダウ)
ブルダバの冬霧の中陽が昇る★★★
霜真っ白陽が射し来るまでの街の色★★★★
「陽が射し来るまでの街の色」がいい。特に「街の色」で止めたので、句の情景が鮮明になった。(高橋正子)
プラハ城霜の斜面の丘の上★★★
●多田有花
ワイパーににじむ年の瀬の光★★★
頂の切り払われし年の暮★★★★
頂きの神社やお寺だろうか。いただきが切り払われさっぱりとし、見晴らしもよくなった。年迎えの用意が済んだ年の暮のすがすがしさがよい。(高橋正子)
手をつなぐ母子歳暮の交差点★★★
●桑本栄太郎
冬晴れの掃除日和の朝かな★★★
段取りの手間もひとつや年用意★★★★
なにごとも、準備や段取りが必要。この手間も年用意の仕事の一つである。これをしっかりすれば、手際よく用意ができるというもの。(高橋正子)
手拭いを被り意気立つ煤払い★★★
●川名ますみ
てっちりのゆげ兄妹を行き交えり★★★
不器用に雑炊よそう妹へ★★★
雑炊を伯父によそわれている母★★★
●小西 宏
山茶花の白土に敷きまた蕾★★★
ぶらんこの揺れぬ鎖や冬の雨★★★
ほの赤くけぶる桜の枯木立★★★
●小口泰與
釣竿を磨きながむや日脚伸ぶ★★★
空風や番茶と飴を卓上に★★★★
空風の吹く寒い日、テーブルには番茶と飴が置かれている。寒い日は飴を一つほおばって、お茶でも暖を取りたくなる。(高橋正子)
米を炊く水のやわしや冬落暉★★★
●祝恵子
浮かべ入れ香りと遊ぶ柚子の風呂★★★★
「香りと遊ぶ」がいい。湯に浮かんだ柚子wあちこちやりながら、その香りをたのしむ。楽しむより香りで遊ぶ。きれいな柚子風呂。(高橋正子)
クリスマス久しぶりに聞く子らの声★★★
冬野菜漬物講座の掲示板★★★
●桑本栄太郎
冬ざれの竹林透かし風抜ける★★★
夕暮れの絮の灯かりや枯尾花★★★★
夕暮れの枯尾花が、ほうっと灯りが点ったように浮き上がって見える。幻想的な風景。(高橋正子)
行く年のつなぐ縁(えにし)や賀状書く★★★
●多田有花
椿咲き初め快晴のクリスマス★★★★
快晴の空の下に、椿がくっきりと咲き始めた。折しもクリスマス。日本のクリスマスは椿の咲き始めで迎えられることも。(高橋正子)
ばりばりと壁より剥がす古暦★★★
数え日の河原を濡らす静かな雨★★★
●小口泰與
朝霜や畑を横切る孕み犬★★★
冬草や伊香保の街は磴の街★★★
白波をあやつる風や切炬燵★★★
●高橋秀之
ネクタイを締める指先悴んで★★★
息白し目覚めて初めの深呼吸★★★
冬木立空の青さが見え隠れ★★★
●多田有花
青空は冬六甲の上にあり★★★
泉州も阿波も一望冬の晴れ★★★
門松の松採り戻る人と会う★★★★
門松用に青々とした松を採って帰る人に会うと、現実正月がすぐそこに来ていることを知らされる。松の勢いに正月を迎える気持ちも昂る。(高橋正子)
●桑本栄太郎
医科大の構内めぐる冬木かな★★★★
医科大学をしんと取り囲む冬木である。冬木のりんとした力強さをさっぱりと詠んでいる。(高橋正子)
<桂川・鴨川・木津川>
三川の集う中洲や枯野原★★★
それぞれの顔としぐさや賀状書く★★★
●小西 宏
冬すずめ庭の小さな水に触れ★★★
杜深き神楽の笛も年用意★★★★
杜の奥から聞こえる神楽の笛。耳をそばだてれば、これも神社の年用意の一つと納得する。正月もそこまで来ている。(高橋正子)
枯枝と木の葉色なす日の残り★★★
●古田敬二
(ボヘミヤ平原をバスで)
ボヘミヤの森赤々と冬落輝★★★★
ボヘミアの森に落ちる夕日が赤々と燃える景色に、力強く温かな抒情がある。「ボヘミアの森」が効いている。(高橋正子)
白樺の幹を照らして冬落輝★★★
ボヘミヤの夕暮れ池に薄氷★★★
●小口泰與
侘助や山のあわいに日の沈み★★★
寒林や岩と白波相うてり★★★
突風にあわや飛び立つ寒雀★★★
●桑本栄太郎
蓮枯れの水面耀ようばかりなり★★★
暮れかかる峰に日当たる冬の嶺★★★
水色の空の雲間や冬入日★★★★
穏やかな冬の入日に心が和む。空の水色は冬の季節、うれしい色だ。(高橋正子)
●佃 康水
巨大なる聖樹や夜空瞬かす★★★
子ら来るに布団干しより年用意★★★★
年用意はいろいろある。お天気の良い日が続くとは限らないし、うっかりすると布団干しの日を逃す。まず寝具を気持ちよくして子どもたちを迎えたい。あたたかい心遣い。(高橋正子)
三日目は輪切りに替えて柚子湯かな★★★
●多田有花
山と山つなぎ冬至の虹かかる★★★★
日のいちばん短い冬至に虹がかかるのも珍しい。山と山をつないで虹がかかるのも、この日が特別な日だからという思いがする。(高橋正子)
雲晴れて奥山冬至の雪化粧★★★
海近し寒気の雲の端光る★★★
●小西 宏
公園の落葉だまりの水飲み場★★★★
からからと乾いた落葉の吹き溜まり。そんなところの水飲み場は、いつでも水が噴き出しそうで、よい感じだ。(高橋正子)
葦枯れて水面に映る空の青★★★
人込みに買い物を終え紅山茶花★★★
●古田敬二
ボヘミヤを薪積むトラック疾走す★★★
ボヘミヤの平原小さく冬の川★★★
薪積む霜降る村を過ぎにけり★★★
●高橋秀之
瀬戸内のみかん畑は延々と★★★
潮待ちの石灯篭や冬の海★★★
島々を抜けて小船に冬日差す★★★★
島影をゆくときは日もかげる。島影から出れば、小船に穏やかな日が差す。多島海の瀬戸内海は冬ものどかである。(高橋正子)
●小口泰與
茶の花や一朶の雲の動かざる★★★★
茶の白い花と冬空にぽっかり浮いた雲。歳末のころころ、しずかに晴れた日がありがたい。(高橋正子)
寒暁や雄鳥の声透き通る★★★
夕暮れの日はあわあわと寒薔薇★★★
●桑本栄太郎
送電塔山の眠りの嶺々に★★★★
「眠りの山」は、「眠る山」よりも表現が新鮮だ。送電線の鉄塔は、冬ざれのなかでは、とくに目立つ存在のように思う。(高橋正子)
芦屋なる庭の茶室や松葉敷く★★★
冬波の岸壁這うや浚渫船★★★
●小西 宏
冬晴れの枝に満ちたる柿の色★★★
木の葉落ち枝払われて欅立つ★★★
落葉道ひと足の歩の陽の温み★★★
●古田敬二
青空を映してウイーンの薄氷★★★★
どんな場所に張っている薄氷がわからないが、ウィーンの薄氷は、ウィーンの青空を映す。クラッシック音楽のジャケットにでもなりそうな光景を想像した。(高橋正子)
冬枯れの白樺貫き旅を行く★★★
(ボヘミヤ平原)
冬耕の終わる平原果てもなし★★★
●高橋秀之
大空と眠る山あり千光寺★★★★
尾道の千光寺ならば、それは、まさに眠る山のなかに立ち、おおらかな空の下で尾道水道の海の眺めを一望にしている。(高橋正子)
冬凪の港夕陽を映し込む★★★
我もあり冬の山あり一人旅★★★
と●小口泰與
寒月やあらみの刀眺め居る★★★
大いなる人の過失や虎落笛★★★
白鳥やあな夕照の浅間山★★★
●河野啓一
裏六甲耀く氷初氷★★★★
「裏六甲」は、海から離れ山へと入ってゆき、寒さも表側とは違っている。氷が輝くのも新鮮だが、初氷となればなおさら「裏六甲」を感じることだ。(高橋正子)
小春日の空輝かに木の葉揺れ★★★
氷雨降る六甲山の山路かな★★★
●桑本栄太郎
朽野や無尽に走る高速道★★★
武庫川の中洲明かりや蘆枯るる★★★
剪定の切り口白く冬の庭★★★★
剪定された樹木の切り口の鋭さには、はっとさせられる。寒さの中で切り口の白さが目に食い込む。(高橋正子)
●小西 宏
富士澄める冬至の朝に我のあり★★★★
富士山の見えるところに住むものには、富士山は常にその姿が気になる山である。冬至の朝の澄んで張りつめた空気が富士をくっきりと、また我をくっきりとさせてくれた。「我のあり」が作者らしい。(高橋正子)
柚子生って街ゆく風の輝かし★★★
父と子の野球冬至の陽の中に★★★
●佃 康水
降りしきる霙を突いて漁船ゆく★★★★
霙が振り込む海へ出てゆく漁船を温かいまなざしで見送っている。そういう天候の厳しい日も漁業者には漁をする生活がある。(高橋正子)
浮寝鴨波に煽られ横滑り★★★
ほくほくの冬至かぼちゃや艶の出で★★★
●多田有花
丘ほどの山に登りてしぐるるや★★★
山を染め冬至の朝日昇り来る★★★
新しき靴で冬至の頂に★★★★
冬至にたまたま新しい登山靴を履いたとしても、夜と昼の長さが変わる冬至に「新しい」ということに新鮮な意味が生まれる。爽やかに晴れ、遠くまで見渡せる冬至の頂であったろうか。(高橋正子)
●高橋秀之
ぷかぷかと一番風呂に浮かぶ柚子★★★★
「ぷかぷかと」が楽しい。一番風呂の特権で、さらの湯、さらの柚子の清潔感と幸福感の享受。(高橋正子)
柚子の実の切れ目が大きく風呂の中★★★
子を叱る声は冬至の夜も響く★★★
●古田敬二
冬晴れのウイーンの街の動き初む★★★
尖塔の冬の木立の向こう側★★★
冬の陽の尖塔に先ず射し来たり★★★
●迫田和代
水際を遠くに遠くに枯尾花★★★★
水際を遠くに見せて尾花は枯れ極まっている。水の配置によって、枯尾花の「枯れ」の美しさが際立っている。(高橋正子)
下手くそやすべて忘れる年の暮れ★★★
牡蠣船の灯残し川流れ★★★
●古田敬二
明々と聖樹となれる大ポプラ★★★
X’mas広場ワイン片手に歌を聞く★★★
男声合唱X’mas広場重厚に★★★★
クリスマス広場には、クリスマスの市も立つだろうし、催しに男声合唱がクリスマスソングを歌うこともある。ホットワインを片手に男声合唱に聞き入ったりすれば、寒さの中で歌声はずんと体に染入る。(高橋正子)
●小口泰與
単線の山すそめぐり冬木かな★★★★
単線の走る山裾を巡ると、間近く山の冬木の一本一本の姿が見える。冬木の素朴な温かさ、また侘しさなどがひしと感じられるのだ。(高橋正子)
せせらぎの音の細りて枯木かな★★★
跳炭や手酌の酒の冷めており★★★
●祝恵子
目線はなに同じ向きして冬すずめ★★★
目標を少々先へ冬歩き★★★
鉢植えの花芽伸び出すブロッコリー★★★
●桑本栄太郎
雨の枝の一つ二つや木守柿★★★
雨に濡れ残る紅葉の極めけり★★★
錆び色の冬の雨降る貨物線★★★