11月10日-11日

11月11日

●小口泰與
階段の手すり冷たし始発駅★★★★
乗客のまばらな始発駅。その駅の階段の手すりに触れ、思わずその冷たさに驚いた。寒々とした緊張が漂う始発駅の様子が直に伝わる。(高橋正子)

山容を閉ざす冬靄どっしりと★★★
鍋割の襞の定かや冬浅し★★★

●河野啓一
寒椿はや膨らみて蕾着け★★★
柿の実を摘み終え高切り鋏拭く★★★★
柄が長い高切り鋏を柿の木に差し入れて柿の実を摘み取る。たくさん収穫した柿を前に、鋏の汚れをふき取るとき、収穫の喜びと充実感が湧く。(高橋正子)

寒風のなか雄鹿の馳せ回る★★★

●桑本栄太郎
とんとんと下りる坂道お茶の花★★★★
軽快な足取りで下る坂道にお茶の花が咲いている。お茶の花はどこか、そんな気持ちにふさわしい花だ。(高橋正子)

山里の早き瀬音や芋水車★★★
板壁の古ぶ木目や柿すだれ★★★

●多田有花
谷町に白き山茶花咲き初めし★★★
ひっひっと我に挨拶じょうびたき★★★

初時雨連れて山路を歩きけり★★★★
「初時雨」をも友にしてしまう作者。降り出した初時雨とともに山路を歩き下ったのだ。(高橋正子)

●黒谷光子
名刹の紅葉に映える茂吉歌碑★★★

裏山へ続く庭園紅葉寺★★★★
裏山へ続く庭園、裏山を庭園として庭に取り込んだような場所が魅力。山の空気が漂う見事な紅葉の寺であろう。(高橋正子)

紅葉寺自刃の武士の墓碑数多★★★

●小西 宏
朝の扉開き木の葉の来訪者★★★
光なか花散る如く黄葉ふる★★★
逍遥の小道落葉の裏表★★★

●古田敬二
朝の陽は人参畑の根元まで★★★

コゲラ叩く見上げる冬の青い空★★★★
コゲラのドラミングが冬の青空に快活に響いている。そういう空は楽しくなる。(高橋正子)

紅き実を二つこぼして藪柑子★★★

11月10日

●小口泰與
妙義嶺を冬夕焼の染めにけり★★★
雨過ぎて沸きいず雲や息白し★★★
夕暮れの冬田を制す禽一羽★★★

●多田有花
蓮根のしゃきしゃき冬のトマトパスタ★★★

冬灯し高く連ねてパールブリッジ★★★★
パールブリッジは、明石海峡大橋の愛称。明石海峡大橋は世界一長いつり橋で主塔も海面上300メートル近くある。その橋にともる冬の灯は、「高く連ねて」で一層冴え冴えと美しくなった。(高橋正子)

航跡の鮮やかに映え冬落暉★★★

●桑本栄太郎
西山の峰駆け昇る時雨かな★★★★
峰を駆け昇る京都西山の時雨が日本画の筆致を思わせるように動きをもって詠まれている。淡く墨がちな色彩を思う。(高橋正子)

芸大の黒き門扉や蔦紅葉★★★
柿灯る雨のひと日の暮れゆけり★★★

11月9日

●小口泰與
頬を打つ硬き木枯し喰らいけり★★★★
木枯らしを「喰らう」したたかさは見ごと。木枯らしもいよいよ本格的で頬を打つほど。それに負けるどころか喰らってやる意気込み。(高橋正子)

有りうべき似非も方便冬に入る★★★
隠沼にうすうす映す冬もみじ★★★

●桑本栄太郎
柿の籠並べ媼の売り子かな★★★
柿店(かきだな)の柿籠ならぶ柿街道★★★
宅配の幟はためく柿の村★★★

●黒谷光子
茶の花の映ゆ杉垣の中ほどに★★★

柚子届く色と香りを溢れさせ★★★★ 
柚子の色と香りは、晩秋の季節には特にきわだって印象に残る。澄んだ黄色と香りに喜びも「溢れる」思いだ。(高橋正子)

汁物に散らせば馳走に柚子刻む★★★

●多田有花
赤い靴はいて初冬の街へ出る★★★

街に入るひとかたまりの冬田過ぎ★★★★
「ひとかたまりの冬田」が面白い。街にはいるまでは 冬田の景色を楽しむ。それから賑やかな街へだ。(高橋正子)

冬はじめ明石海峡銀色に★★★

●小西 宏
散る桜紅葉となりて坂の道★★★

風に降り地に音擦る落葉かな★★★★
落葉の実態を詠んでいる。風に降ってきた落葉は、地面を擦って音を立てる。落葉とは言え、よく聴けば、様々な音がある。(高橋正子)

氷上の舞い渦解けて風となる★★★

11月8日

●小口泰與
冬耕や風のえぐりし岩襖★★★
北風に対い自転車懸命に★★★
夕暮れや赤城颪に対いゆく★★★

●小川和子
新しき朝よ聖なる山茶花よ★★★★
新しい朝が来て、山茶花が咲く。山茶花のきよらかなこと。季節の新鮮さが山茶花を「聖なる」と呼ばせた。(高橋正子)

風に乗りからからと舞う桜紅葉★★★
絹糸のごとき雨脚冬に入る★★★

●多田有花
よく晴れし冬の窓辺に鳥の声★★★★
気持ちよく晴れた窓辺はそれだけでも嬉しいが、鳥の声が聞こえればなお楽しくなる。鳥も冬晴れの天気を喜んでいる。鳥は友だ。

冬ぬくし薄き上着を脱ぎにけり★★★
冬菊やいま頂点に咲き誇る★★★

●桑本栄太郎
大根の味のしみ込む冬来たる★★★
バスを止め徒歩の家路や冬ぬくし★★★

散り頻る桜紅葉の落葉踏む★★★★
散る紅葉を惜しみつつも、色とりどりの紅葉を踏むちょっとした楽しさ。俳句だから言えるような心の内である。(高橋正子)

●古田敬二
木の実落ち三度踊ってから止まる★★★

落葉道桜欅と続きけり★★★★
落葉の降る道が、桜の紅葉、次に欅の黄葉と続いて、もみじの美しい変化が楽しめる。桜並木、欅並木と続いているのであろうが、はるか遠くへ続く道である。(高橋正子)

筋播きの大根芽生えやや曲がり★★★

●小西 宏
新しき風の匂いや冬初め★★★

篠懸の落葉踏み行き風の澄む★★★★
篠懸の落葉が続く道は瀟洒な風景だ。落葉を踏んでゆけば、風の澄む世界に入る。作者の目が澄まされたのだ。(高橋正子)

初冬の木立に細き夕の月★★★

11月7日

●小口泰與
十州の境ありけり信濃柿★★★

秋ばらの瑞枝立ちけり朝日起つ★★★★
神代植物公園で、秋ばらを見たばかりなので、「瑞枝立ちけり」は、地味ながらよく実感できる。すっくと伸びた瑞枝に朝日が当たると、「朝日起つ」となる。眩しくやわらかな瑞枝である。(高橋正子)

塵泥(ちりひじ)のすそ野巨大やそばの花★★★

●桑本栄太郎
小雨降りはらり眼前や柿紅葉★★★
陸橋の手のうちなりし銀杏黄葉★★★
新駅のホームはずれや藁の塚★★★

●多田有花
立冬の山寺風が吹くばかり★★★

本棚の歳時記入れ替え冬に入る★★★★
歳時記も一冊になったものもあれば、四季分冊になったものもある。立冬の今日、普段よく読み使う歳時記を本棚に入れ替えた。これも冬用意の一つ。(高橋正子)

ランドセルほどの白菜抱え出る★★★

●小西 宏
秋空は高き欅の触れる処★★★★
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)

立冬の雨に聞こえる園児の歌★★★
よちよちと歩くおつむに落葉ふる★★★

●河野啓一
桜紅葉散り初む小道今朝の冬★★★
桜紅葉色濃くなりて雨もよい★★★
森の辺の時雨群れ行く鴉かな★★★

11月6日

●小口泰與
りんうや遠の連山引き寄する★★★

単線の尾灯はるけき刈田かな★★★★
もう暗い夕方であろうか。刈田の中を走り過ぎる電車の尾灯遠く見送る。しかも「単線の尾灯」であるから、「はるけき」に込められた気持ちもしみじみと読み手に伝わる。(高橋正子)

秋ばらの瑞枝あえかや風の中★★★

●祝恵子
秋のバラびろうど色が目に溢れ★★★
幼子と広場でおにぎり秋の芝★★★★

幼子と食事をするのは、ことに戸外なら、心なごんで楽しいものだ。広々とした秋芝の上でおにぎりを頬張るひと時が和やかだ。(高橋正子)

秋小雨抹茶の泡の口当たり★★★

●多田有花
冬隣る朝日が屋根を染めてゆく★★★
秋惜しみつつ少し遠くまで歩く★★★
あったかいお弁当です冬隣★★★★
お弁当は冷めていてもおいしいものだが、冬隣となれば、やはり温かい弁当が嬉しい。それをそのまま句にした。(高橋正子)

●桑本栄太郎
日を透きし尾花の波の丘の上★★★
写メールの青空添える照葉かな★★★★
葉の色の枝垂れ黄色や萩は実に★★★

●河野啓一
木の実落つ音一つ拾いけり★★★★
木の実を実際に拾ったのではなく、「音一つ拾いけり」と解釈したが、これが面白い。音を拾って、実際木の実を拾ったと同じ気持ちになる。
それも、心楽しいことと思われる。(高橋正子)

桜道ほんのり紅く冬近し★★★
交差点黄色く染まり秋は往く★★★

●小西 宏
葉の紅き欅も風に葉を鳴らす★★★★
欅のもみじは、黄色が主だが紅色も混じる。それも残らず「もみじ」がうち揃って風に葉を鳴らしている。欅の葉が鳴る音が言葉となって聞こえそうだ。(高橋正子)

黄落の道に陽の影細くあり★★★
西空の茜に月や暮れの秋★★★

11月5日

●小口泰與
蔓も葉も寡ってお粥やさつま芋★★★
写真家の山路行きかうもみじかな★★★
蒼空や覚満淵の草もみじ★★★

●河野啓一
木枯しの吹きしとテレビ伝えけり★★★
並木道桜紅葉はうす紅葉★★★
木々の葉の散り初め街に冬近し★★★

●桑本栄太郎
山粧ふ山に向かいて丘をゆく★★★★
「山に向かいて」も「丘をゆく」おおらかなリズムがある。そのリズムが内容とマッチして素晴らしい。(高橋正子)

数珠玉や遠きふるさと想いおり★★★
草むらのみどりに絡む赤のまま★★★

●小西 宏
霧雨のそこにあるべきスカイビル★★★

冬近し青染み来る朝の窓★★★★
「青染み来る」の感覚の冴えが、「冬近し」をよく捉えている。厳しくも大変美しい朝の窓である。(高橋正子)

うす赤き鎌の月なり暮れの秋★★★

●多田有花
下山する木枯し一号吹く中を★★★★
近畿地方ははや木枯しが吹いたという。第一号の木枯し下山を余儀なくされた、というより、木枯しに付き添われて下山した感じだ。(高橋正子)

秋山に詩吟する人笛吹く人★★★
猪が土掘り起こす山路かな★★★

11月4日

●小口泰與
ひつじ田や初冠雪の浅間山★★★

牧の馬声高らかや草の花
牧馬の声高らかや草の花★★★★(正子添削)
「声高らかや」に「草の花」を対比させたので、句の情景が大きくなった。馬の嘶きも空高く届き、草が花をつけた牧場が広がる。晴れやかで、穏やかな牧場を想像させる。(高橋正子)

ひつじ田や雲影抱く山の肌★★★

●河野啓一
コリウスの色鮮やかに秋深し★★★
孫二人柿の熟しを待つごとく★★★

黄落の大往生や叔父逝きぬ★★★★
黄落の季節にあわせるように、大往生をされた。この世の生滅を自然のめぐりとして大きく受け入れている。ご冥福をお祈りいたします。(高橋正子)

●多田有花
紅葉愛でつつ岩棚の下で食事★★★★
岩棚の下は、屋根の下にいるようなもので、紅葉を愛でながらの食事は雰囲気が変わって愉快だろう。辺りの紅葉山の景色が想像できる。(高橋正子)

時雨来て今日の登頂断念す★★★
山里の秋の日暮れの早かりし★★★

●桑本栄太郎
坂道のお茶の花咲く垣根かな★★★
箒木の庭にもみづる山の里★★★

コスモスの風湧き上がる丘の畑★★★★
丘のコスモス畑。コスモスに吹いてきた風がコスモスを揺らし、包むように湧き上がっている。上昇気分の爽やかさがいい。(高橋正子)

●高橋秀之
雨上がり薄い日差しも空高く★★★
一鉢のコスモス僅かな風に揺れ★★★

秋の蝶ゆっくり羽ばたき大空へ★★★★
「ゆっくり」によって秋の蝶の存在が確かになっている。小さくも確かな蝶が大空へ羽ばたくのが印象的。(高橋正子)

11月3日

●小口泰與
山風にさざ波よする穭かな
秋ばらの雨に濡れたり和紙のよう★★★

上州の風硬き日の種なすび★★★★
「種なすび」の寂びた風格がいい。上州の風に揉まれた種茄子の一味ちがった味わい。(高橋正子)

●河野啓一
川沿いに飛び去る大き銀やんま★★★★
川水に沿い光りながら飛ぶ銀やんまのゆうゆうとした姿が目に残る。水と銀やんまの出会いもいい。(高橋正子)

湯上りの冷気うれしい秋の午後★★★
稲藁を小脇に抱え農の人★★★

●多田有花
鳥取より秋のメロンを売りに来る★★★
次々と手が出る炒りたて落花生★★★
たい焼きの温みに秋を惜しみける★★★

●桑本栄太郎
切り口の古ぶ薪(まき)積み秋深し★★★★
切り口の古びた薪の色は、まさに「秋深し」の色。わびしくは質実な色を思う。(高橋正子)

黒き実の古きもありぬ柿熟るる★★★
もちの実のびつしり赤き大樹かな★★★

●小西 宏
窓に入る秋日が小犬抱いている★★★
紅葉の山に桜の香の仄か★★★

団栗の降る音靴に踏まるる音★★★★
くぬぎ林に入ると団栗がびっしりというほど落ちている。一方で木からは団栗がしきりに降ってくる。秋の森の明るさと深さに温かく包まれる。(高橋正子)

●祝恵子
気まぐれに赤のまんまを手折り持つ★★★
秋耕や花苗のこと頼み来る★★★
稲刈りの今朝も足元ぬかるみて★★★

●佃 康水
 文化の日の公民館祭り2句
餅撒きやぴたり手に受く菊日和★★★
たおやかな友の書仰ぐ文化の日★★★

萩は実になりて山路の豊かさよ★★★★
山路を花で飾った萩は、いまはすっかり実になっている。萩の花ではなく、実に着目し、それを「豊かさ」と見たのは、それこそ落ち着いた心の豊かさである。(高橋正子)

11月2日


●小口泰與
小流れの韻(おと)の蛇行や紅葉山★★★
あけぼのの雨の清めしもみじかな★★★★
「あけぼの」という時の設定がよい。冷たくも清々しいもみじだ。(高橋正子)

九十九折り忽と息のむ紅葉かな★★★

●小川和子
霧がかる出湯の里の初紅葉★★★

山襞を紅葉染めあぐ明るさよ★★★★
「紅葉」が明るいというのがいい。晴れやかな紅葉は嬉しいもの。(高橋正子)

硫黄の香濃き湯治場に秋惜しむ★★★

●桑本栄太郎
梢入れ携帯写真に銀杏黄葉★★★
山風を胸に吸い込み秋の田へ★★★
さらさらと里の小川や石蕗の花★★★

●小西 宏
霧雨の降るともなくて杉木立★★★
柿実るみどり色濃き柿の木に★★★
雨止んで池面に黄葉しずかなり★★★

●佃 康水
一枚の畑染め上げて花らっきょ★★★★
らっきょの花は濃いめ薄紫の可憐な花で、らっきょ畑一面が紫色になる。冬を経て、初夏にはらっきょ漬け用に掘り起こされる。(高橋正子)

明るさに近寄りゆけば花らっきょ★★★
無縁墓黒ずむ石へ野菊咲く★★★

●川名ますみ
鰯雲ほどけ大きな青空へ★★★★
空一面を覆っていた鰯雲がいつの間にかほどけて、そのあとには「大きな」青空が広がった。鰯雲は天気が下り坂になる前兆だが、青空が広がったのは心が託せるようでうれしい。(高橋正子)

広がれば空にとけたり鰯雲★★★
初紅葉中学校の校門に★★★