●小口泰與
うつし世の日の出のようや花かんな★★★
どんぐりの沼に落ち込む力かな★★★
花そばや毛の三山に雲の無し★★★
●河野啓一
色付きし柿の実眺むまだ薄き★★★
秋雨のそぼ降る中や門に立つ★★★
白秋の雲薄くして空広し★★★★
●高橋秀之
瀬戸内のその先遠く高き空★★★★
瀬戸内海の島々が浮かぶその先が遠くまで広がり、そこに高い秋の空がある。穏やかな瀬戸内海の秋の風景が楽しめる。(高橋正子)
胡堂前道行く人に今年酒★★★
路地裏の格子戸秋の薄日差す★★★
●多田有花
茹でてから皮を剥くのよ里芋は★★★
囲われて菊ゆっくりと開花する★★★
降る雨に紅葉かつ散る桜かな★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランド埠頭へ>
秋潮の空へと滑りモノレール★★★
秋潮の海辺のカフェの日差しかな★★★
さんざめく風の波頭や秋の潮★★★
●小西 宏
雲紅く染めて台風去りし朝★★★★
台風が去ったあとの朝焼けの空。まだ、不安が残る朝の空だが、台風が去ったことには間違いない。これからすっきりと晴れてくるだろう。(高橋正子)
烏賊舟の並び輝く月の海★★★
秋の葉の色混ぜて山夕映える★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
10月19日
●迫田和代
お終いの皿の上なる青葡萄★★★
摘菜に上から水をザーザーと★★★
コスモスやコスモスらしく風を受け★★★★
コスモスは、いかにもコスモスらしく風を受けている。コスモスを吹く風はコスモスをコスモスらしくさせているのだ。言われて、然りだが、和代さんの真骨頂の句だと思う。(高橋正子)
●小口泰與
振り向くと利鎌の月に退さりけり★★★
夕映えや秋のちょうちょう急ぎゆく★★★
上州の風の無き日の種なすび★★★★
●多田有花
鉢植えの菊を運びし軽トラック★★★
雨あがり新高梨を買い求む★★★
十月桜雨の滴を宿し咲く★★★★
消え入りそうに咲く十月桜が、雨の滴を宿している。「滴を宿す」というが、十月桜は、滴に花が包まれている感じさえする。そんな美しさがある。(高橋正子)
●桑本栄太郎
山崎の隘路にコスモス畑かな★★★
大阪駅ビルの谷間の秋日影★★★
実ざくろの赤や芦屋の家々に★★★★
●祝恵子
腰落とせアナウンスの声運動会★★★
秋苗を植えれば学童帰りゆく★★★
しりとりをしつつ帰る子秋の暮★★★★
女の子たちであろうか。秋の暮をきりもないしりとり遊びをしながら帰る子どもたちが、かわいらしく、ほほえましい。作者の子らへの眼差しがやさしい。(高橋正子)
10月18日
●小西 宏
台風の遥かに去りし波の音★★★
海暮れて紅灯す芒の穂★★★
月昇る遥かに海を広げつつ★★★★
「海を広げつつ」に、新鮮な驚きがあり、臨場感がでた。月が昇るにしたがって、遥かの海を照らしていく。海の波がはっきり見てくる。少し寂しい月の夜である。(高橋正子)
●小口泰與
実むらさき清濁流す大河かな★★★
草紅葉志賀高原の空青し★★★★
志賀高原も草紅葉に彩られるようになった。澄んだ青空と草紅葉の対比にやさしさがある。(高橋正子)
やわやわと花そばゆるる山の裾★★★
●佃 康水
渋皮煮子らへ届けむ栗を剥く★★★★
栗の渋皮煮は手間暇がかかる。渋皮を破らないよう丹念に鬼皮をむき、剥いた栗を重曹で渋抜きをし、さらに砂糖を入れてことこと煮、それを一晩、二晩おいて味を含ませる。子らへの思いが、ひとつひとつの栗に、また作業に込められている。(高橋正子)
傷付けず栗剥き終えて渋皮煮★★★
明けやらぬ琵琶湖へ細き秋時雨★★★
●多田有花
部屋の戸をみな閉め切って秋深し★★★
ホットケーキに蜂蜜とろり秋の暮★★★
後の月テニスコートで見上げおり★★★
●下地鉄
秋風にゆられて返す穂波かな★★★
きりもなくよせる波音浜の秋★★★
その人から名の消え行く老いの秋★★★
●桑本栄太郎
浮かれ来るごとき青空野分晴れ★★★
朝日透き線路に沿いて芒の穂★★★
秋空へ赤きクレーンや高槻駅★★★
10月17日
●小口泰與
望郷や蜂の子飯の甘辛き★★★
近道や刈田の香りくゆり満つ★★★
空澄むや木槌の音の伸びやかに★★★★
建築中の家があるのだろう。木槌を打つ音が澄んだ空から響いてくる。木槌の伸びやかな音に昭和への郷愁が湧く。(高橋正子)
●桑本栄太郎
ぷちぷちと歩み躊躇い木の実踏む★★★
歩みつつ木の実を拾う家路かな★★★
鈴懸けの実の青空へ野分過ぐ★★★★
鈴懸と野分のとりあわせに意外性があるが、それは今年の季節の意外性といってよい。今年は十月になっても大型台風が来た。野分が過ぎた後、鈴懸の葉が落とされ、実が明らかになる。青空の中の鈴懸のかわいらしい実が印象的だ。(高橋正子)
●川名ますみ
風一陣過ぎ富士山に秋のいろ★★★★
一陣の風が過ぎ去り、富士山は拭われたように一気に秋のいろとなった。「風一陣」は印象が強く、又三郎か、風神いるかが起こした風のようだ。(高橋正子)
野分中ときに閑かな音の来ぬ★★★
さあ富士を見せむと雲の野分晴★★★
10月16日
●小口泰與
昨晩の雨を鋤き込む秋の畑★★★
ざわざわと稲穂波だつ今朝の空★★★
初雁の火山灰の帯より往ぬるかな★★★
●黒谷光子
牛若を演ず少年さわやかに★★★★
牛若丸を題材にした能はいくつかあるようだが、この句は「鞍馬天狗」を鑑賞したときのことであろうか。美少年牛若のさわやかさが心に残る能である。(高橋正子)
篝火に天狗なお燃え秋の能★★★
能果てし神社を後に秋の雨★★★
●下地鉄
外にも出よ今日の秋日の美空かな★★★
荒芝に寄りあい老いの秋日かな★★★
秋風にカラカラ音する空弁当★★★★
「空弁当」にはっとした。空の弁当箱は、箸や仕切り板などがあって、提げればカラカラ音がする。秋風に吹かれて鳴るようでもある。秋風と空弁当、そして自分が、一つに、同じになったような心持が感じられて面白い。(高橋正子)
●桑本栄太郎
ぷちぷちと足裏優しく木の実踏む★★★
青空に風の名残りや辛夷の実★★★
<故郷の追憶より>
狛犬や鎮守の杜の椎拾ふ★★★★
●多田有花
雨あがり山野晩秋の色に★★★
台風の名残の雲が奥山に★★★
試みに新しき絵を描く秋★★★★
秋に「新しさ」を見た。仕切り直したり、また新たに始める。秋はそういった新しさに挑む季節のようだ。
●小口泰與
百千の鵙や電線我が物に★★★
秋深き赤城の襞の迫りくる★★★
山風に南へ藁塚の倒れけり★★★★
風によって南へ倒れるということは、もう、北風が吹き始めたのだろうか。刈田に立つ藁塚の倒れた様におかしみもあるが、寂しさもある。(高橋正子)
●河野啓一
あぜ道をたどれば秋日鳥の声★★★
森の辺の雑木色づく秋夕日★★★
さざめいていろは楓は渓のなか★★★
●桑本栄太郎
コスモスの宙の背丈よ青空に★★★★
青空の遠き木の枝や朝の鵙★★★
校庭の駐輪数多や体育の日★★★
●多田有花
澄む秋を映して青し音水湖★★★★
「音水湖(おんずいこ)」というのを初めて知ったが、西播磨の揖保川支流にできた人工湖とのこと。春は桜、秋は紅葉が楽しめるようだ。水はひたすらに青く、まさに「澄む秋」をそのまま映した湖だ。すっきりとした句だ。(高橋正子)
山里の青空に映え柿の色★★★
ひやひやと秋の雨降る午後となる★★★
●小西 宏
源流を滑らかに聞き赤のまま★★★
雨のごと木の実音する日暮れ道★★★
家閉じて台風を待つオンザロック★★★
10月14日
●小口泰與
雀らの高音となりし刈田かな★★★
母郷へと高ぶる帰心初もみじ★★★
鳥渡る風雅の旅へ行きたしよ★★★
●多田有花
秋祭り太鼓の音の麓より★★★
秋陽強し屋台が町を巡行す★★★
栗の毬数多落ちたる尾根の道★★★★
尾根伝い自体楽しいものだが、それに栗の毬が落ちていたりすると、深まる秋を感じさせられ、特に拾うわけでもないのに楽しい気持ちになる。(高橋正子)
●桑本栄太郎
青空に朝の旗火や体育祭★★★★
「旗火」は、昼花火とは別物で、鳥取地方の方言かもしれないが、運動会などで開催を知らせる音だけの花火のこと。青空に向かって体育祭の開催を知らせる音だけの花火がばばーん揚がる。子供のころの運動会を思い出すような、秋冷の朝である。(高橋正子)
秋天の生駒嶺遠くうねりけり★★★
やわらかなみどり膨らむ芙蓉の実★★★
10月13日
●高橋秀之
陽に向かい赤く大きくハイビスカス★★★
夕暮れの雲間に白く秋の月★★★
秋いずこ三十度超す温度計★★★
●小口泰與
田の刈られ畔にありあり曼珠沙華★★★★
熟田の畔に沿って咲く曼珠沙華は色彩が鮮やかで日本の秋を象徴する景色の一つになっているが、稲が刈られたあと、畔に残された曼珠沙華が一抹の寂しさ、姿がありをもって咲いているのも、ありありとした姿が見えて惹きつけられる光景だ。(高橋正子)
我が在の赤城の風の冷ゆるかな★★★
秋蝶の万里の波濤越え行けり★★★
●多田有花
水平線はるかに秋の海光る★★★
秋空より飛行機ゆっくり降りてくる★★★
六甲の山襞に秋の夕日影★★★
●桑本栄太郎
雲影の稜線走り秋の峰★★★
雨雲の中に青空野分めく★★★
走り根につまずき歩む天高し★★★
10月12日
●河野啓一
きんもくせい町内広く香らせて★★★★
町内のあちこちから金木犀が匂ってくる。「金木犀」に着目すると、まるで一木が町内に広く香りを広げているように感じられる。着目がユニーク。(高橋正子)
椿の実黒光して部活かな★★★
温め酒恋しき夜や病棟に★★★
●小口泰與
ぴいぴいと我が物顔の鵙の群★★★
山路きて数多どんぐり踏みにけり★★★
無残なり破れ葉にからぶ秋なすび★★★
●迫田和代
朝早く窓に映った雁の列★★★
月さやか我が影伸びる帰り道★★★
父母の歳越えた吾の秋彼岸★★★
●多田有花
芽を出すぞというじゃがいもを肉じゃがに★★★
窓開けて風を入れるや秋暑し★★★
稲架並ぶ向こうに色づく晩稲の田★★★
●桑本栄太郎
白花のひとつ残りて萩は実に★★★
解き放つ脇につぼみの椿の実★★★
びつしりと色の深みや実むらさき★★★★
実むらさきは、「びっしりと」と言って決して憚らないほど実をつける。紫色の実は「色の深み」を実感させるのだ。「色の深き」ではなく、「色の深み」と捉えたところが素晴らしい。(高橋正子)
10月11日
●小口泰與
どんぐりのばしっと落つる湖面かな★★★
秋深し眼間せまる山の襞★★★
雀追う鴉ぴょんぴょん刈田かな★★★
●桑本栄太郎
白内障手術入院の病室より
青空の稜線近き秋の峰★★★
青空に雲の茜や秋入日★★★
眼帯を外し眩しき秋日かな★★★★
眼帯を外したとたん、目にまぶしい秋の日。手術の成功と光りが見え、物の見えるうれしさがこの一瞬にあった。(高橋正子)
●多田有花
ずっしりと袋に重き薩摩芋★★★★
里芋、じゃがいもなどに比べると、ずっしりとした重さを一番感じるのは薩摩芋だろう。形が大きいというだけではなく、実入りの良さを感じるのだ。食べる楽しみもさらに加わってくるのだ。(高橋正子)
嵐去り空に泳ぐや鰯雲★★★
秋の昼河原に響くサクソフォン★★★
●小西 宏
澄む空に大きな梨を食い太る★★★
栗鼠の尾の叫びに高し昼の月★★★
露草と赤のまんまの語り合ひ★★★
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●小口泰與
晩秋の湖心舟影長きかな★★★
名月や雲ひとつ無き明けの空★★★
朝寒と言葉かわせし庭越しに★★★
●桑本栄太郎
白内障手術入院より
秋日眩し瞳孔開く点眼液★★★
秋愁や明日の手術を想いおり★★★
手術終え群青紺や秋の宵★★★★
前書きに白内障手術とある一連の句。白内障のためにぼんやり濁って見えた景色が、手術を終え物が鮮明に見えるようになった。なかでも秋の宵の群青紺の空の色は格別美しい。その色が見えて感激である。(高橋正子)
●小西 宏
絹雲に葉の紅極む花水木★★★★
花も可憐で美しい花水木であるが、秋の紅葉した葉も捨てがたい。高層圏にかかる絹雲との対比に紅が際立つ。(高橋正子)
竹揉まれ台風近し寺の奥★★★
振り向けば金木犀の葉隠れに★★★
○小口泰與
虫の音にお国訛りのありしかな★★★
夕映えを湖に沈めしななかまど★★★
榛名富士映す湖面や花すすき★★★
○多田有花
やわらかき陽にきらきらと秋の滝★★★
秋高し流れる雲を湯船より★★★
日本海を嵐が進む寒露の夜★★★
○小川和子
風集め風ひきうけて狗尾草★★★
コスモスの濃淡揺れて電車の灯★★★
悠久の空よ層成す鰯雲★★★
○古田敬二
池の傍芒まぶしくウェーブする★★★
視野一杯広がる芒のまぶしかり★★★
落日に芒の原の白ひかり★★★
落日に白く光れる芒原★★★★(正子添削)
いよいよ日が落ちようとすると、芒原が一面に白く輝く。やわらかい、白い光の美しさが侘しさを伴って広がる景色がよい。(高橋正子)