9月30日-10月2日

10月2日

●小口泰與
あかあかと燃え出づ日差しすすきかな★★★★
曼珠沙華今朝の赤城は紫紺なり★★★
灘酒に片や越後の濁り酒★★★

●河野啓一
ボタン植う植穴大きく堆肥入れ★★★
芋の露青空映し転がりぬ★★★★
無花果や裂けて豊かな種の見え★★★

●古田敬二
ポケットにごつごつ栗を拾いけり★★★★
「ごつごつ」がいい。「ポケットにごつごつ」とした、副詞「ごつごつ」の働きがいいのだ。情景がリアルで、作者の姿が見えてくる。(高橋信之)

コスモスを手折りて妻へ土産とす★★★
縁側へごろごろ転がす秋野菜★★★

●黒谷光子
萩の庭向こうに連なる峰三つ★★★★
句碑二つ読みあぐみおり紅葉寺★★★
紅葉に茶室幾棟光悦寺★★★

10月1日

●小口泰與
咲き満ちて鶏頭の花や青き空★★★★
この時季の時をたがえず鉦叩★★★
コスモスや山肌駆ける影迅し★★★

●河野啓一
苅田広き明日香村なる棚田かな★★★★
奈良、明日香村も稲刈りがほとんど済んで刈田が広がっている。棚田のある村に古代より繋いできた人々のゆかしい暮らしが見える。(高橋正子)

九月尽歩行練習積み重ね★★★
月招く穂芒風の吹くままに★★★

9月30日

●小口泰與
虫の音や今朝の赤城の彫り深し★★★
山肌に影流れゆく秋気かな★★★
受けつぎし杖の重さや秋の空★★★

●祝恵子
秋夕焼け飛行機雲も包まれて★★★★
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)

芙蓉咲くこの先ゆけばお風呂屋さん★★★
五重塔水煙まぶし秋天に★★★
※俳句添削教室に、添削句を載せました。ご覧ください。

●黒谷光子
穂すすきを目じるしとして山に入る★★★
供花を切る山に団栗つややかに★★★
秋蝉のかしましき山供花を切る★★★

9月29日

●河野啓一
しらうおの便りを聞けば湖国は秋★★★★
涼新らたせせらぎの音聞きおれば★★★
草刈機ぶんぶん回れる秋の午後★★★

●小口泰與
口笛の吸い込まれゆく秋の空★★★★
秋のうららかな日。口笛を吹けば、口笛は秋の空に吸い込まれていくように鳴る。一人吹く口笛も楽しいだろう。(高橋正子)

鶺鴒や波と打ちあう舫い舟★★★
稲雀水を干したる田んぼかな★★★

●佃 康水
蓮の実の飛ぶ農道の一直線★★★★
合わせ柿甘味程よく出来上がる★★★
稲雀追われ母屋の屋根の上★★★

●桑本栄太郎
ざわざわと風を巻きおり蘆の花★★★★
花をつけた蘆原。風を巻き込むように、ざわざわと吹かれてなる。蘆の花を吹く風のわびしさが「風を巻きおり」によく表現されている。(高橋正子)

足裏に木の実踏みつつ池のふち★★★
蚯蚓鳴く闇のしじまや明日入院★★★

●多田有花
秋麗の山路静かになりにけり★★★
青空に風の音して木の実落つ★★★
秋の陽を透かし浅葱斑飛ぶ★★★

●川名ますみ
次々と梨積まれゆく荷台かな★★★
※添削教室に添削しました。ご覧ください。

梨を積みトラックやおら走りゆく★★★
富士山がようやく見えて秋の空★★★

●黒谷光子
母の忌に集う故郷萩の風★★★
はらからの話は尽きず萩の庭★★★
飛び石を伝い歩きて水引草★★★

●高橋秀之
大空の広さと競うダリヤ園★★★★
ダリアのたくましさには、広々と広がる空が似合う。大空があり、ダリアの咲き乱れる園がある。大空の力、ダリアの力が競いあっているのだ。(高橋正子)

秋空の遠くに伸びる飛行雲★★★
秋夕焼け稜線の下も染めあげる★★★

9月28日

●河野啓一
天高くビル街の向こうに生駒山★★★
青空と陽光のカクテル秋清める★★★
豊作の地にありシリアの児ら思う★★★

●祝恵子
冬瓜の重さ測ってみたくなり★★★
冬瓜の二個を転がす厨かな★★★
さっぱりとゴーヤの棚を崩しゆく★★★

●迫田和代
白い雲下に輪を描く赤とんぼ★★★
蓑虫の顔を覗ける愚かさや★★★
しんとして秋の茜の地平線★★★★
「しんとして」に実感があり、この句が真実となった。地平線の秋の茜は、心静かに眺めたい。(高橋正子)

●小口泰與
秋空を余白とせしや吾の写真★★★
餌漁る鴉かしまし秋の暮★★★
あけぼのの稲穂さやぐや群雀★★★

●桑本栄太郎
冷まじくありて途切れし朝し夢★★★
高階のさらに高きに秋の雲★★★
夕日透き苦瓜の実の陽の色に★★★

●多田有花
澄む秋の峰を渡りて歩きけり★★★★
この峰からあの峰へ秋の澄んだ空や空気の中を、見晴らしを楽しみながら歩く。峰歩きの醍醐味。(高橋正子)

樒刈る人と会いけり秋の山★★★
秋麗の拝殿に座し祓受く★★★

●黒谷光子
自転車で行く真正面赤とんぼ★★★★
糠を燃す煙あちこちに秋空へ★★★
新米を炊く新しき炊飯器★★★

●高橋秀之
大皿に三尾の秋刀魚尾頭付き★★★
二階から夕餉の秋刀魚焼く匂い★★★
早い者勝ちで手元へ焼き秋刀魚★★★

9月27日

●小口泰與
菊咲きて誦経の僧の背中(そびら)かな★★★
山霧のまよい起ちけり里の渓★★★
おおかたは流れとともに行く柳★★★

●多田有花
青空へコスモスいっぱい身を揺らす★★★★
「いっぱい」はコスモスがいっぱいでもあるし、身を揺らすのが「大いに」の意味のいっぱいとも解せる。ともかく、たくさんのコスモスが精一杯風に花を揺らせているのだ。その所作がかわいい。(高橋正子)

秋冷の始まる夜のテニスコート★★★
一面の刈田一筋煙たつ★★★

●桑本栄太郎
刻々と雲の変化(へんげ)や野分晴れ★★★
想い出の影のごとくに藤は実に★★★
秋澄みてテニスコートの弾む音★★★

●黒谷光子
山並の分かつは秋の空と湖★★★★
海と空を分かつのが水平線であるのに対し、湖と空を分けているのが、横に伸びる山並。湖の国の秋空が広々として深い。(高橋正子)

秋蝶の湖辺の草に翅たたむ★★★
穏やかな湖見える土手緋のカンナ★★★

●河野啓一
★煮刈りて明るくなりし松手入れ
★天蚕の里に下り来て大きな翅紋★★★
★秋の空白雲包む日の光★★★

9月26日

●小口泰與
竜胆や日を率いたる浅間山★★★

山路きて此処のみ日矢の野菊かな★★★★
山路のなかにスポットライトを当てられたように日が差している野菊が慎ましく、可憐である。(高橋正子)

燕去る里の田畑の和みけり★★★

●河野啓一
写経して色即是空天高し★★★

秋深し街道沿いも黄金色★★★
秋高し汗をぬぐいてシャワー浴★★★

●桑本栄太郎
<京の町家散策>
洋館の京の真中に秋うらら★★★
格子戸の路地の青空さるすべり★★★
寺町の式部の墓所の秋日差し★★★

●祝恵子
路一つ隔てて校舎案山子立つ★★★
束をとき枝豆もぎゆく丹波産★★★

寄りし娘に持たす枝豆ゆでたてを★★★★
ゆでたてのほっくりした枝豆に母のさりげない愛情が読み取れる。立ち寄る娘のさりげなさも、自然体で美しい。(高橋正子)

9月25日

●小口泰與
山風に湯気まよい立つあきつかな★★★
ひぐらしや山の湯煙まよい立つ★★★
秋海棠一花とて色あやまたぬ★★★

●河野啓一
天蚕の山野超え来て翅ひろげ★★★★
小鳥来る稔りも近き頃ならむ★★★
アオサギの塑像のごとく何狙う★★★

●桑本栄太郎
<京の路地、町家散策>
坪庭の京の町家よ酔芙蓉★★★
秋日さす路地に張り出し犬矢来★★★
格子戸のつづく家並みや秋日影★★★

●佃 康水
蓮根堀る空の重さよ基地の町★★★★
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)

稔田へ夕日とどめて黄金色★★★
破蓮やくの字くの字に折れし尽くし★★★

9月24日

●小口泰與
秋寒や今朝の赤城のあさぎ色★★★
おしろいや暮るる早さの赤城山★★★
黒雲に乗りて吹き降り稲妻よ★★★

●河野啓一
透明で静かな秋の朝が来る★★★★
隣人と交わすおはよう声澄みて★★★
うすもみじの頃近くなりけり箕面山★★★

●祝恵子
花花の中に目立ちて実紫★★★
切り口は段々上へオクラ切る★★★
秋夕焼け釣りする子らの影の濃く★★★

●桑本栄太郎
溜めて来し地熱噴くかに彼岸花★★★

畦刈られ彼岸花のみひと群れに★★★★
畦がきれいさっぱりと刈られた後、彼岸花が固まって咲いている光景は日本の秋という感じだ。蕊を張る赤い花と清潔な畦が好対照。(高橋正子)

キラキラとテープきらめき稲田風★★★

●小西 宏
断崖に黄葉明るき山桜★★★
椎の実の硬きを噛めば土器太し★★★
澄む秋に葉と実を掲げ花水木★★★★

●下地鉄
秋雲のまとめて動く島の空★★★★
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)

蜻蛉の静止のままの飛翔かな★★★
雨雲の去り行く後の今日の月★★★

9月23日

●河野啓一
芒生うる野に野兎の見え隠れ★★★

秋水をたどれば古き水車小屋★★★★
秋水の流れをたどってゆくと、そこに出現したのは古い水車小屋。そういった古い水車小屋が残されているところは、流れもきよらかだと思える。(高橋正子)

柿の実の赤く色づく丘の道★★★

●小口泰與
笠雲をいただく赤城芙蓉咲く★★★
秋せみや上えうええと木を昇り★★★
竹春や嶺々したがえて榛名富士★★★

●桑本栄太郎
雲水の電車降り来る秋彼岸★★★★
電車から雲水が降りてきた。普段ならそういうことがあっても、特に意には止めないだろうが、秋彼岸となれば、電車から降りた雲水に何かしら視線を注いでみるのだ。(高橋正子)

道の辺の供花のごときや曼珠沙華★★★
黒瓦屋根を稲田に家一軒★★★

●多田有花
秋の陽が穏やかに差し彼岸入り★★★

稲穂垂る中を駅まで朝の道★★★★
「朝の道」がすがすがしい。稲穂の垂れる道が駅まで続く。駅までの道に田んぼがあるのがうれしい。秋祭りも近い。(高橋正子)

稲穂の光東播磨の野に満ちて★★★

●小川和子
秋水に朽葉流るる音沿いぬ★★★
芝に飛ぶ赤とんぼうに陽の眩し★★★
踏み歩く遊びごころに木の実降る★★★

●高橋秀之
右に空地左に揺れる稲穂の田★★★★
友がもぎ友が箱詰め梨届く★★★
一周忌皆の笑い声は高き空へ★★★