3月31日(日)

●小口泰與
快活な鳥語や我は春炬燵★★
春雨を吸い込む芝や草野球★★★
久々のメール着信春休★★★

●小西 宏
池泥に蝌蚪尾を揺らし地を移さず★★★
花屑を髪に置くまま振り返る★★★★
雪柳手に触れて地に雪の敷く★★

●河野啓一
真珠貝のかがやき春の大村湾★★★
筑紫野の春を豊かに次郎かな★★★
ムツゴロウ跳ねて隠れて有明海★★★

●井上治代
スムーズに家事捗りて春楽し★★★
うららかや幼子鳩と戯れる★★★
どこからも春の匂いの散歩道★★★

●下地鉄
雪洞の置かれて和む花の冷え★★★
一片の花こそ美しき小川かな★★★
処かえリュウマチ痛む余寒かな★★★

●多田有花
うすぐもり微風の中に三月尽く★★★
桜色満ち山ざくら開かんと★★★
サイクリスト山桜咲く道登る★★★

●黒谷光子
牡丹の花芽数える昼下がり★★★
乗り降りに見上ぐる駅の濃紅梅★★★
木蓮の蕾みて色は苞の内★★★

●桑本栄太郎
吹き上げる風に散り初め花の冷え★★★
一本のライトアップや花の宿★★★
若人のラップダンスや春ともし★★★

●川名ますみ
野の花の先にお壕と花の雲★★★
竹垣に透けし壕辺の土手青む★★★
空へ触る工場の跡の花こぶし★★★
工場跡の殺風で、物質的なところに、やわらかに辛夷の花が空に咲いている。その対照的な様子に、互いがその個性を強めながら、空を配置することで、ひとつのまとまりある世界を作っている。(高橋正子)

3月30日(土)

●川名ますみ
新雪を踏む心地して花の塵★★★
飛花の道ゆくは新雪踏むごとし★★★
花昏く杉の古木の尚青し★★★

●迫田和代
【原句】逞しく木の芽が芽吹くちから見て
【正子添削】逞しく木の芽が芽吹くちから見し★★★
木の芽が、噴き出すように芽吹くのを見ると、木のちから、木の逞しさを目の当たりに実感する。(高橋正子)

【原句】上げ潮に乗りし桜よ空に舞う
【正子添削】上げ潮に桜の花びら空に舞う★★★★
原句では、「上げ潮に乗りし桜」が「空に舞う」に疑問を持つ。桜の花びらは、満開を過ぎると散り始めるが、上げ潮の勢いに風も多少上昇するのであろうか、花を空に舞わせる。「上げ潮に舞う桜」が絵画的で美しい。(高橋正子)

夕焼の空に北へと帰る雁 ★★★

●小西 宏
軽きかぜ桜花びら地を撫でる★★★
信号のフロントガラスに花ふぶき★★★
花待てよ孫はもうすぐ一年生★★★

●小口泰與
紅梅に百幹の竹奏でけり★★★
産土の山風荒き花こぶし★★★
ゼリー菓子増ゆる倉庫や花盛り★★★

●藤田裕子
心地よき風連翹の黄を揺らし★★★
桜若木いちりんにりん花を生み★★★
花びらの染める石段花の下★★★

●多田有花
花開く仰げば空のなお青し★★★★
花の中正午の鐘の鳴り渡る★★★
山々に花の姿の定まれり★★★

●桑本栄太郎
風白く詠い居りけり雪やなぎ★★★
ほつほつと畑に黄明かり茎立ちぬ★★★
地ならしの進む畑地や春の雨★★★

●古田敬二
咲き初めし春蘭花弁の透き通る★★★
腰高に揺れて春蘭咲き初めり★★★
花の香の満る山路に入りけり★★★

●高橋秀之
真っ直ぐに桜並木が道作る★★★
満開の桜を見上げ立ち止まる★★★
花冷えの夜明けにわが子送り出す★★★

●河野啓一
長崎へ一泊旅行
チューリップ光と色のファンタジー★★★
揃い咲き彩と光のチューリップ★★★
春霞さざ波も見え大村湾★★

3月29日(金)

●小口泰與
紅梅やシャッター音の蒼天へ★★★
春の炉や視界奪いし土埃★★★
青空へ薄紅梅の文目かな★★

●佃 康水
 第二音戸大橋(愛称 日招き大橋)開通 2句
日招きの大橋春の海へ耀る★★★
島結ぶ丹の大橋へ花盛り★★★
旅立ちの夢語る子へ春満月★★★★

●多田有花
花曇割る半熟のゆで卵★★★★
花曇とゆで卵は相通じるところがある。花の頃の高い曇り空と、白身に黄身が優しい丸を作るゆで卵。はっきりしないが、体に親しく馴染んでくるものだ。(高橋正子)

宅配のトラック止まる花の下★★★
護摩堂にうすむらさきの馬酔木咲く★★★

●桑本栄太郎
さみどりの坂の地道や春落葉★★★
春雨や角の畑地は分譲へ★★★
ジャージーの走る校庭花の雨★★★

3月28日(木)

●小口泰與
春昼の煙霧を喰らう髪膚かな★★★
白梅や余命いくばく模糊として★★★
電線にアグリシートや春嵐★★★

●河野啓一
色づきて丘一面の竹の秋★★★★
春の芽吹きの中で、竹は色づき葉を落とす。竹だけが「秋」となって、丘一面の竹が違う色合いで目立つ。春と秋の混ざる植物の景色。(高橋正子)

せせらぎに色も見えたり春の川★★★
花の色とまどいながら咲き出る★★★

●多田有花
重きほどつらつら椿咲きにけり★★★
芽吹く山芽吹く香りに満ちており★★★
静けさを破りてひとつ落椿★★★

●桑本栄太郎
今年また古巣を慕い初つばめ★★
嬉々として人の言い合う初燕★★★
教会へいざなう道や連翹黄★★★

●黒谷光子
東の空へゆるゆる春の月★★★
薄絹を被りて春の月まどか★★★
春の灯に繕い物の糸通す★★★

●川名ますみ
土の上や窓に望みし芽吹山★★★
木の芽雨動物園の枝くろぐろ★★★
厩より古き桜のぐいと伸ぶ★★★

3月27日(水)


●小口泰與
へら浮子の色彩さやか風光る★★★
春蘭に老若男女顔かさね★★★
あわあわと縹に染まる春の山★★★

●黒谷光子
蜂の巣を落とし閉じ込む皮袋★★★
つくしんぼ小川の縁に犇めける★★★
摘む人も児もなく群れるつくしんぼ★★★

●多田有花
まだ少し欠けているかな朧月★★★
青ぬたや雨音のせぬ雨つづく★★★
膝掛けで豚骨ラーメン花の冷え★★★

●河野啓一
一樹あり真白に咲きし桜花かな★★★
春寒の朝チラホラ花の咲き出る★★★
芝芽ぐむ球児の心弾むごと★★★

●桑本栄太郎
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
ローラーシューズ履いておつかい春休み★★★
うす闇に息をひそめし白木蓮★★★

●小西 宏
芽ぐむ木の丘ただ淡し朧月★★★
せせらぎや人知らずとも花楓★★★
花ひろがる屋内プールの大きな窓★★★★
屋内プールの大窓を覆い尽くして爛漫の花。泳ぎながら花を楽しめるのも現代。さほど混雑していないプールの平らな温水。春の淡い情感がいい。(高橋正子)

●川名ますみ
両輪に花屑つけし車椅子★★★
何気ないふうに桜を過ぎし雨★★★
膝の上に桜にふれし雨雫★★★

●下地鉄
春の湯にゆらりゆらりと逆さ富士★★★
とんび舞う湘南を後に旅の空★★★
青空や赤より赤き梯梧咲き★★★

●古田敬二
ハイカーのおしゃべりに垂れキブシ咲く★★★
一杯に眼(まなこ)開いてイヌフグリ★★★
鮮やかな色はためかせ初黄蝶★★★

3月26日(火)

●下地鉄
観梅や枝ぶりよきをまず選び★★★
料峭や箱根連山暮色なる★★★
春宵や灯りの並ぶ港街★★★

●小口泰與
満願の御朱印帳へ春の日矢★★★
子等を待つ駄菓子売り場のしゃぼん玉★★★
春眠の我が身を起こす明けの地震★★★

●佃 康水
四阿の空へ囀りほしいまま★★★
神島へ渡船に靡く春ショール★★★
木肌より紅艶やかに花の噴く★★★

●多田有花
山桜咲く彼方より新幹線★★★★
新幹線が山桜の咲く彼方から滑るように走ってゆく。これは今、日本を象徴する風景となった。(高橋正子)

咲き初めし三葉つつじの小さきが★★★
花咲ける下に老犬寝そべりぬ★★★

●河野啓一
朝空にあかねのわかばバラ芽伸び
朝空にあかねのわかばバラ芽伸ぶ(正子添削)★★★★
朝空にあかね色のバラの芽が色彩的にすがすがしい。添削は「バラ芽伸ぶ」と終止形にし、句を引き締めた。(高橋正子)

春寒に花躊躇せず咲けよかし★★★
春菊のぐんと伸びたり空晴れて★★★

●桑本栄太郎)
うす闇のうすきピンクや馬酔木咲く★★★
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
平らかにまた青々と畦青む★★★★

●黒谷光子
絶えることなき水の音朧の夜(原句)
水音の絶えることなき朧の夜★★★★(正子添削)
添削は、元の句を整理してイメージをはっきりさせた。ものみな柔らかな朧夜に、水音だけがくっきりと聞こえる。春の水音がやさしい。(高橋正子)

祝婚の宴は春の湖望み★★★
春の月も一度仰ぎ錠をする★★★

●川名ますみ
車椅子地の花屑をよけられず★★★
療苑に常より早き紫木蓮★★★
紫木蓮咲きて患者も医師も樹下★★★

●小西 宏
里山の道の暗きに藪椿★★★
人里を離れて桃の紅に逢う★★★
鶯の声藪奥に響きあう★★★

●古田敬二
今年また会えし菫に跪く★★★
蕉翁も愛でし色して菫咲く★★★
濃き色にも淡き色にも咲く菫★★★

●高橋秀之
退職の花束高く春の宴★★★
若草の色づく埋立地は広し★★★
瞬く間食す菜飯の握り飯★★★

3月25日(月)

●古田敬二
畑への斜面に瞬くイヌフグリ★★★
青春の山々丸くかすみおり★★★
春の風竹の中から聞こえけり★★★

●河野啓一
木蓮は空の青さを受けて咲き(原句)
空の青受けて咲きたる紫木蓮(正子添削)★★★
元の句の「木蓮は」の「は」が問題で、メージが弱いので印象強くなるように添削した。紫木蓮としたが、空の青を受けて咲く木蓮の紫は深い色合いである。(高橋正子)

桜散る決意新たに受験生★★★
曇空に溶け込むごとく白木蓮★★★

●小口泰與
つばくらや菓子の倉庫の深庇★★★
鳥達の木伝(こづた)う声の春意かな★★★
駘蕩の朝寝の我と小犬かな★★★

●小川和子
高々と花満つ校舎の外窓へ★★★★
校舎の高い窓に触れて桜が咲き満ちている。窓の内から見れば窓は桜に埋め尽くされている。今年は早い桜であるが、卒業や入学に重なる桜の花は、生徒たちの胸にいろんな思い出を残すことだろう。(高橋正子)

深空より囀り喜々とバスを待つ★★★
自転車の児の口遊む卒園歌★★★

●多田有花
谷の風梅の香りを運び来る★★★
はくれんの開きし先に昼の月★★★
理髪屋の軒先かすめ初燕★★★

●桑本栄太郎
菜の花や畑の一隅黄明かりに★★★
気ままとは微風に揺るる雪やなぎ★★★
囀りのつがい飛び交い蜜を吸う★★★

●小西 宏
せせらぎの仄かに届く花明かり(原句)
せせらぎの微かに届く花明かり(正子添削)★★★★
「仄か」が問題なので添削した。桜が咲き満ちる明かりに、せせらぎの音がかすかに聞こえてくる。どこか近くにせせらぎがあるのだと思うと、花明かりに音が加わり、俄然句が生きてくる。(高橋正子)

曇天を明るく照らし花の山★★★
軒ごとに桜広げる丘の家★★★

3月24日(日)

●小口泰與
人影に稚鮎いっきに反転す★★★
紅梅の花の数だけ雫かな★★★
旧道の山家にひさぐわらび餅★★★

●古田敬二
蟻出ずる見つけて止まる三輪車★★★
やや濁り雪解の木曽川光りけり★★★
着地点探して舞うよ春の雪★★★

●藤田洋子
ひと雨に山がふくらむ彼岸明け★★★★
彼岸が明けると、寒さから解放されたように、ひと雨に足りて木々が芽吹き、山がふくらむ。「ひと雨」「彼岸明け」の季節の微妙な変化をよく捉えて秀句となった。(高橋正子)

春の雨ときに寺領の鵯が鳴く★★★
竹林に彼岸の雨の音を聞く★★★

●多田有花
初桜いつもの嶺のいつもの木★★★
<妙見富士登山二句>
円墳の連なる彼方春の山★★★
満天星の花咲く道を頂へ★★★★

●河野啓一
千秋楽夕陽を受けて木瓜の花★★★
箕面川流れ聞きつつ葱坊主★★★
麦青む頃となりけり畝傍山★★★

●小西 宏
鳥は陽を揺らして啼けり花盛り★★★★
むちむちと赤子の足のごとき花★★★
風少し吹いて桜の川堤★★★

●桑本栄太郎
芽柳の揺れて青空ゆるぎなし★★★
手を打てば翔び出しそうな花豌豆★★★
山崎の駅のホームや連翹黄 ★★★

●高橋秀之
八朔柑おまけの一つがこぼれ落ち★★★
桜咲く子連れの母が一休み★★★
走り寄る子の両の手に風車★★★★

3月23日(土)

●小口泰與
精悍な雉の走りや朝ぼらけ★★★
熊蜂の威嚇や利根の瀞制す★★★
種袋振るや箱庭ほほえみし★★★

●迫田和代
山桜遠くに沈む青い海★★★
初燕ふるさとの祖母想うてか★★★
時雨降り外出やめた車椅子★★★

●黒谷光子
髪カットして春風の湖辺まで★★★★
すっきりと髪を切った項を春風が通りすぎる。気持ちも爽やかに、足もついつい湖のほとりまで延びた。春風の湖辺がロマンティック。(高橋正子)

湖近き街の軒並み木瓜の花★★★
三月の婚へ列車の時刻表★★★

●河野啓一
街角に清らな色や初桜★★★★
街角で、ひときわ清楚な色を放つ桜。それも初桜なので、ういういしい清楚さが街も人の気持ちも浄化してくれる。(高橋正子)

花だより心華やぎ小径ゆく★★★
満開も近く大和の山桜★★★

●桑本栄太郎
春潮や風に耀よう波頭★★★
料峭の六甲ライナー海の上★★★
春日さす運河に舫う浚渫船★★★

●小西 宏
坂ゆけば花を過ぎ行く人の影★★★
見上げれば空輝ける花盛り★★★
夕暮の丘膨らませ花満開★★★

●藤田裕子
手の中に蕗の薹の香を包む★★★
黄の色をひらひら浮かせ木々の蝶★★★
歩道にはパンジー安らぎの揺れをもち★★★

●高橋秀之
ぶらんこや二人並んで前後ろ★★★
バイバイの声ぶらんこの揺れ止まる★★★★
初日から誘い合わせて春休み★★★

3月22日(金)

●小口泰與
天と地の響く怒りや春嵐★★
春嵐怒髪天つく榊かな★★★
あけぼのの木々の憤怒や春嵐★★★

●河野啓一
わが町にようやく出合いし初桜★★★
街角に清楚な色やさくら咲く★★★★
門辺にも草花とりどり春が来た★★★

●多田有花
東京はすでに花見と聞く彼岸★★★
梅が香と日差し楽しむ木のベンチ★★★
花前の枝を仰げる午前午後★★★

●祝恵子
途中下車寒緋桜の下におり★★★★
この道を誰かが掃いてさくら咲く★★★
雪柳転々と登り花白し★★★

●桑本栄太郎
川に沿い土手の蛇行や青き踏む★★★
野の梅の峰に抱かれ天王山★★★
鉄橋の土手を跨ぎて草青む★★★

●井上治代
弁当に韮卵そえて子に持たす★★★
春嵐日本列島揺るがしぬ★★★
仲春の正午のチャイムのびやかに★★★

●佃 康水
誕生日2句
スイトピー添えて花籠届けられ★★★
祝われて姉の手染めの春ショール★★★
初ざくら瀬戸のさざなみ煌めけり★★★

●小西 宏
碧き川漕ぎ行く船の若桜★★★
風止めば雨降りきたる桜の夜★★★
木々の葉の生ゆるは見えず朧月★★★

●高橋秀之
一本の桜の先は青き空★★★★
「一本の桜」がよい。大きな木であれ、小さな木であれ、その桜には青い空がある。うれしいことではないか。(高橋正子)

残雪の冠鮮やかこれぞ富士★★★
春の朝の眩しき日差し富士の山★★★