[4月10日]
●小口泰與
幼子に子猫たわむる夕餉かな★★★
春の水水嵩まして渓分けり★★★★
深き空仰ぐや里の犬ふぐり★★★
●多田有花
枝揺らしつつも一花もこぼれずに★★★★
枝が揺れても、満開の花はこぼれることはなく、満開を過ぎると散り始める。花が咲き極まるときに、一花もこぼさない花の力は見事だ。(高橋正子)
芽吹きいる楓を透かす日の光★★★
ぼんぼりを灯せる如し白木蓮★★★
●桑本栄太郎
畝に沿い並び雨降る葱坊主★★★
春の雨上がり明るき新芽立つ★★★★(正子添削)
桜忌やそぼ降る雨の峰の靄★★★
●小西 宏
道白く濃淡に染め花の塵★★★
飛花すぐにガラスに纏う交差点★★★★
てんてんとただ空にある春の雪★★★
4月9日(5名)
●小口泰與
雨脚をなだめし芝や目貼剥ぐ★★★★
雨ごとに息づく大地春の鳥★★★
夕ぐれは独りは寂し目刺焼く★★★
●河野啓一
隣家の花びら風に舞い寄れる★★★★
落花にて塗り上げられし丘の色★★★
柿古木はや蒼き芽の萌え出でし★★★
●桑本栄太郎
学童の田道の列や菜種梅雨★★★★
辛夷咲く大山崎や山の里★★★
子午線の明石海峡春の雨★★★
●佃 康水
引く波の砂に煌めく桜貝★★★★
砂浜に見つけた桜の花びらのような桜貝。波が引くとき、桜貝が春の日にきらきら煌めく。その煌めきを見た瞬間、スイッチが切り替わったように、少女にもどった。うれしさに気持ちが弾む。(高橋正子)
次の波来ぬ間に拾う桜貝★★★
小さき風来れば首振る庭菫★★★
●多田有花
花びらを踏んで歩きし二三日★★★★
膝掛けとベストを出しぬ花の冷え★★★
芽吹く木の枝先に光る銀緑色★★★
4月8日(4名)
●小口泰與
夕映えをまとう紅梅赤赤と★★★★
夕日浴びいよよ馥郁枝垂梅★★★
夕映えを飾る紅梅鳥の声★★★
●多田有花
雨続く山より桜の色の失せ★★★
頂を囲み躑躅の咲きそろう★★★★
花びらをつけて車の行き交いぬ★★★
●桑本栄太郎
<姫路城>
天守へと目指す足並み花の屑★★★
花屑の濠の水面や姫路城★★★
花屑を拾い放り投げ花ふぶき★★★★
●小川和子
花吹雪身にうけ夢見心地かな★★★
風立てば一処より花吹雪★★★★
風は気ままだ。風が立つと、枝に咲き満ちた桜が思い出したように花を散らす。急に花吹雪となって風と遊ぶように舞う。(高橋正子)
花筏連ね川面の桜いろ★★★
4月7日(5名)
●小口泰與
すきっぷの学童も居り揚ひばり★★★★
朝飯をとる暇なく桜散る★★★
いにし世の我家の大地朧かな★★★
●小西 宏
風煽ぐ丘に桜の蕊の色★★★★
風が「煽ぐ」という、いたずらっぽい感覚がこの句をユニークにしている。桜が散り、桜蕊の降るころになった。風が麓から吹きあげて、桜蕊をしきりに降らせ、根方はくれない色に染まっている。桜蕊の色もまたいいものである。(高橋正子)
時止まる暫し落花の小糠雨★★★
吾が命ただ塵なれど花祭★★★
●桑本栄太郎
姫路城見学
はらからと残花愛でゆく姫路城★★★
花屑や鉄砲狭間のうす汚れ★★★
ひとにぎり掴み放り投げ花吹雪★★★★
●川名ますみ
夢見ヶ先動物公園三句
花冷にリクガメの餌瑞々し★★★
踏みながら花屑を嗅ぐラマ二頭★★★
散る桜ラマ舎均しく敷き尽くす★★★★
●高橋秀之
高架から見える桜のまん丸く★★★
朝に咲きされども雨に散る桜★★★
一面を覆い尽くして桜咲く★★★★
4月6日(4名)
●小口泰與
校庭にいとど雨しみ春休★★★
今まさに茶釜の寺の桜かな★★★
はくれんやいつわり無きは利根川(とね)の水★★★★
嘘や欺瞞が多すぎる世の中に、はくれんは無垢であるが、さらに利根川の水は、いつわりがない。雨が降れば水を増し、嵐ならば逆巻き流れ、桜の季節は、桜に似合い、初夏ともなれば青空を映して流れる。信頼すべきは利根の水。(高橋正子)
●桑本栄太郎
故郷の春の海
春潮の沖へと白く流れけり★★★★
潮の波たゆとう流れ春の海★★★
春潮の帯の彼方や隠岐の島★★★
●川名ますみ
生垣に数える満天星の蕾★★★
千鳥ヶ淵の空を覆いし花明り★★★★
インド大使館桜フェスティバルを車窓に
花人と祝えるインド大使館★★★
●高橋信之
横浜日吉本町金蔵寺二句
桜咲く花のトンネル抜け寺へ★★★★
裏山の菫のすみれ色の濃し★★★
東京目黒・自然教育園
春天ひろびろ甘菜の花のカップを捧ぐ★★★
4月5日(7名)
●小口泰與
牡丹の芽ほぐれ雨粒とどめける★★★★
牡丹の芽がほぐれると、くれないの嫩葉がのぞく。それに小さな銀色の雨粒がかかると、芽ぐみ、育とうとする命の柔らかさ思われる。(高橋正子)
逃水や童追いける猫親子★★★
見下ろすと椿の園の野点かな★★★
●内山富佐子
母の背を越えし娘は春入学★★★
居間からの桜めぐりや花番組★★★
初燕濠の水面を波立たせ★★★★
●河野啓一
天地を埋めて桜の光かな★★★
画布満たし溢れんばかり花描かむ★★★★
薄赤き春月見えず夜の更けし★★★
●多田有花
清明の雨窓開けて山を見る★★★★
自販機の全身に浴び花吹雪★★★
枝垂桜滴のあまた宿しおり★★★
●川名ますみ
公園に落花白々敷き渡る★★★
木の芽雨土の匂いの来ておりぬ★★★★
木の芽に降りそそぐ雨が土にしみこみ、土の匂いを立たせている。その匂いが窓辺から届く。このかすかな土の匂いに、芽ぶく戸外と繋がっている身体感覚があるのは貴重だ。(高橋正子)
木の芽雨くせ毛をゆるく膨らます★★★
●桑本栄太郎
ガラス戸を軋ませ春の嵐かな★★★
エレベーター降りてこうめの花に雨★★★★
入れ替わり立ちかわり春の選挙カー★★★
●小西 宏
妻と肩ならべて歩く花曇★★★★
楓芽に小さき花と池の静もり★★★
アスファルトに紅ゴロとあり落椿★★★
4月4日(7名)
●古田敬二
桜吹雪梢に風の今来たる★★★★
風が今来て、突然に桜吹雪となって花びらが舞う。花はただ今の風を得て桜吹雪となる。桜吹雪を浴びた身の歓喜。(高橋正子)
真正面から桜吹雪に襲わるる★★★
桜散る山鳩その下ゆっくりと★★★
●迫田和代
江戸風味懐かしき味桜餅★★★
雨続き桜並木の別れかな★★★
島影も近くて霞む春の海★★★★
近くにある島さえも深い霞に覆われて、霞んでしまっている。今日の春の海の霞の深さは、春の深さとも思える。(高橋正子)
●祝恵子
子育ての地蔵覆おいて花の咲く★★★★
れんぎょうの藪の中より黄を伸ばす★★★
日の当たるところと陰と雪柳★★★
●小口泰與
春耕や今朝の鴉の声あまゆ★★★
眼間の山の霞むや鳥の声★★★
紅梅の蜜を求めし黄の嘴★★★★
●多田有花
人の居ぬ所こそよき花見かな★★★
遠山まで桜の色の続きけり★★★★
上着もう要らぬ三葉躑躅燃ゆ★★★
●桑本栄太郎
受難日の朝の祈りの深きかな★★★
さへずりや団地の朝の華やげる★★★★
ほんのりと花の艶めき散る気配★★★
●川名ますみ
花越しに覗けば雲の仄紅き★★★★
木の芽雨霞ヶ関の穏やかに★★★
夕桜壕辺のビルを受けとむる★★★
4月3日(9名)
●小口泰與
昼日差し雀がくれに猫の居り★★★
菜の花や大河となりし信濃川★★★
ふつふつとふふむ球体花杏★★★★
●河野啓一
喇叭水仙風吹かれて吾を見つめおり★★★
丘の辺に桜花爛漫朝日かな★★★
花散り初めて湖の青さよ列車行く(信之添削)★★★★
湖畔を行く列車の窓外には、はやくも花が散りはじめている。花が満開のときは、花に気を取られていたが、散り始めると湖の青さに惹かれた。季節は移りつつある。(高橋正子)
●古田敬二
ひらひらは己が重量桜散る★★★★
坂を行く小さな菫に励まされ★★★
森に入るつたなき鶯鳴く方へ★★★
●多田有花
見上げれば高きところに山桜★★★
花の雨花を巡りて戻りけり★★★
トレッキングシューズの底に花の屑★★★★
●桑本栄太郎
青空の河川に沿いて花の雲★★★
鳥を待つカメラの列や春の川★★★
芽吹き初む枝の日差しに透きにけり★★★★
●佃 康水
静かさや花の咲き満つ観音堂★★★
観音堂宝珠の光る花の雨★★★
春休み子らはペタルを立ち漕ぎし★★★★
●小西 宏
満開の桜越え行く大鴉★★★
青に生まれ空に広がる落花かな★★★
三叉路は落花明るき吹き溜まり★★★★
●上島祥子
桜祭り橋のたもとのお面売り★★★★
桜祭りに、屋台やお面売りも出て、結構な賑わいだ。桜並木の始まるところか、尽きるところか、橋があって、そこにお面売りがいて、桜祭りは、大人も子供も祭り気分に沸いている。(高橋正子)
表紙絵に魅かれて句帳買う四月★★★
書架に置くシネマのパンフ夕長し★★★
●川名ますみ
療苑にうすむらさきの芝桜★★★
曇天の明るさ集め朝ざくら★★★
花の塵敷きしばかりへ車椅子★★★★
4月2日(5名)
●小口泰與
かたくりのひと所のみに日矢差せり★★★★
紅梅の散るをうながす驟雨かな★★★
さえずりや押し広がりし山上湖★★★
●桑本栄太郎
歩みゆく土の匂いや花の影★★★★
咲き初めの風に散り居り花あはれ★★★
ぐんぐんと飛行機雲や春の昼★★★
●小西 宏
鶯の声近くより街ゆけば★★★
花と葉の空すがすがし山桜★★★★
山桜は、花も葉も同時に楽しめる。そこに野性味があり、仰ぎ見れば、すがすがしく思われる。山桜の咲く空を「すがすがし」と感じたのがよい。(高橋正子)
晴れた日はオタマジャクシと子らの群れ★★★
●多田有花
朝の峰桜の衣をまといけり★★★
連なりし山のすべてに山桜★★★★
朝七分昼満開の桜かな★★★
●古田敬二
桜散る詩湧き来たれと歩みけり★★★
春蘭に会わんと怠惰破りけり★★★
幾たびも鶯破調を繰り返す★★★★
4月1日(5名)
★小口泰與
真っ新な背広をまとう花の朝★★★★
春暁の空や大樹に鳥の声★★★
熊蜂に化粧ほどこす花粉かな★★★
★内山富佐子
白木蓮いよいよ白く開花待つ★★★★
開花寸前の白木蓮の蕾が、「いよいよ白く」なって空に浮かんでいる。純白というのにふさわしい白木蓮の開花が待ち遠しい。開花すればいよいよ本番の春となるのだから。(高橋正子)
うっとりと水の動きて春の濠★★★
四月来る一年ぶりの今日句会★★★
★河野啓一
街の花一気に咲いて満開に★★★★
古民家の軒に明るき桜かな★★★
緑道に三つ四つ小さきタンポポが★★★
★桑本栄太郎
飛行機のどこか遠くに春の昼★★★★
また恋か二度寝の夢の四月馬鹿★★★
咲き満たぬ間にも吹き荒れ花嵐★★★
★福田ひろし
空青きほど赤く澄む桜貝★★★
春夕焼乳白色に里染まる★★★
花の宴なき水曜の灯かな★★★★
花と宴はつきものであるが、平日の水曜日は、満開の花に灯りがともされているものの、宴もない。夜桜を静かに眺めてみるものも、どこか人恋しさを誘う灯だ。(高橋正子)
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