9月1日~9月10日

9月6日(4名)
多田有花
台風や一番列車の音がする★★★★
秋夜明け驟雨あがれば鳥の声★★★
初秋の朝日を受ける増位山★★★

廣田洋一
弾けるはもう少し先椿の実★★★
露けしや道端に立つ道祖神★★★
青空に手を差し入れて葡萄狩★★★★

桑本栄太郎
おそろしき夢の未明やうそ寒し★★★
台風の過ぎて青空雲を見ず★★★
何時までも地上嬉しき穴まどい★★★

上島祥子
輸送機の夜間飛行や月さやか★★★★
南中の月へ流るる雲早し★★★★
秋簾嵐静まるべランダに★★★

9月5日(5名)
上島祥子
旅立つ子見送りの駅に秋の涼(原句)
旅立つ子を見送る駅に秋の涼(正子添削)

文具店紅白帽子並ぶ秋(原句)
文具店に紅白帽子並ぶ秋(正子添削)

秋蝶の人家に潜む嵐の夜★★★★

川名ますみ
モノトーンの友の明るきサンドレス★★★
テラコッタの鉢にみなぎる花木槿★★★
ぽこぽことヘルパー土産のマッコリを★★★

桑本栄太郎
線状とう降水激し秋の夜★★★
雨音の頻りに聞こゆ秋の真夜★★★
紅白のおしろい咲きぬ雨上がり★★★★

廣田洋一
一房の葡萄分け合う母娘かな★★★
朝露のきらきら光る庭の草★★★
目の前についときらめく実紫★★★★

多田有花
大鷺の群れて稲田の傍らに★★★
みそはぎや門ある庭の家ばかり★★★★
千日紅初秋の朝日を浴びている★★★

9月4日(4名)
桑本栄太郎
新涼の嶺に鉄塔並びけり★★★
垣根より柘榴迫り出すおちょぼ口★★★
仕舞うより今こそ欲しき秋簾★★★

多田有花
朝顔や空の青さを集め咲く★★★★
残暑厳し海の上には積乱雲(原句)
「には」の「は」が気になります。(髙橋正子)
残暑厳し海の上にぞ積乱雲(正子添削例)

カンナ咲く上り列車を見送りて★★★★

廣田洋一
種なしの葡萄を選びジュースとす★★★
さくさくと皮ごと食べる林檎かな★★★
豊水てう梨の実の汁溢れたり★★★

川名ますみ
閉じかけし花も風受く木槿垣★★★
木槿垣花それぞれに風に揺れ★★★
空色のトーンを落とし九月来る★★★★

9月3日(3名)
多田有花
露草の色を愛でたる朝の散歩★★★
朝日さす鎮守の森の法師蝉★★★
わらわらと屋根へ逃げたる稲雀★★★

桑本栄太郎
何もかもくつきり見ゆや涼新た★★★★
誰知らず採りて少なし花梨の実★★★★
いつまでもつくづく惜しむ法師蝉★★★

廣田洋一
お土産はココヤシケーキ秋の旅★★★
籾殻を払いし林檎香り濃し★★★★
ゆったりと白桃すする一人の夜★★★

9月2日(4名)
多田有花
昇りくる朝日に向かい芙蓉咲く★★★★
鉢植えの桔梗生き生き朝の水★★★
食べ終えし西瓜の皮を漬物に★★★

桑本栄太郎
暁闇に目覚め聞き居り虫の声★★★★
草萩の咲いて風来ぬごみだし場★★★
所在なくベランダに来る秋の蝶★★★★

廣田洋一
月光のきらめく流れ墨田川★★★★
湘南の光をあつめ黒葡萄★★★
英字紙の袋連なる梨畑★★★

上島祥子
植え替えの秋桜脇芽伸び始め★★★

つくばいに風の径有り秋の涼(原句)
つくばいと「風の径」の関係がよくわからないですが、風の通り道につくばいがある意味でしょうか。(髙橋正子)
風の径につくばい在りて秋の涼(正子添削)

標識を支えに朝顔伸び盛り★★★

9月1日(4名)
土橋みよ
蜂向かう小手毬の奥斑の巣★★★
舞うアゲハ幼虫蜂の餌となり★★★
とりどりのアゲハ舞う庭夢のあと★★★

廣田洋一
新しき友と出会いし秋の旅★★★
忌日近し欠けゆく月を仰ぎたり★★★★
秋うらら土産を配る旅の果て★★★
★印に関係なく、どの句もそれぞれに味わいがあります。(髙橋正子)

桑本栄太郎
鳴き声の虚ろとなりぬ秋の蝉★★★
ついと前ついとまえへと赤とんぼ★★★
新しき風に乗りたや九月来る★★★★

多田有花
八月の最後の花火打ちあがる★★★★
子の頃の西瓜は種の多かりし★★★

八月尽風入る部屋で昼寝する
八月尽」は、俳句では使いません。気を付けないといけないのは、ただ漫然とどの月にでも「・・尽」を使わないということです。

古くから「三月尽」と「九月尽」は並べて使われてきましたが、これは春と秋には心に沁む景物が多く、それらを惜しむ気持ちの現れとされています。「弥生尽、四月尽」も春を惜しむ気持ちで使われます。

また「六月尽」は陽暦では梅雨の時期にあたり、黒南風と言われる湿気を含んだ風が吹き込み、日本列島の南から梅雨入りの知らせがしだいに届いてくる。一方、6月21日ごろには夏至を迎え、昼間が最も長くなる。こういう月の特徴から六月の終わる感慨をこめて「六月尽」といいます。

  1. 正子先生
    「八月尽風入る部屋で昼寝する」にご指導をいただきありがとうございます。
    八月尽について、私が普段使っている「新日本大歳時記」(1999/講談社)には
    八月尽が季語として載っております。
    「八月尽の赤い夕日と白い月/中村草田男」が掲載されています。

    • 髙橋正子
      2025年9月2日 14:59

      多田有花 への返信。
      有花さん、八月尽について、ありがとうございました。有花さんが使っておられる「新日本歳時記」(1999/講談社)は私の手元にあります。いまそこを開けますと、今井杏太郎氏の解説で、

      「八月三十一日、すなわち八月の終わる日のこと。陰暦の「三月尽」や「九月尽」のような季節の移り変わりを惜しむ季感はないでれども、夏休みや避暑期の終わりころの気持ちをいう、新しい季語である。」となり、例句は、
      八月の赤い夕日と白い月    中村草田男
      クッキーのチッ素噛みあて葉月尽 鷹羽狩行
      の二句が載っています。

      「八月尽」を使った例句のめずらしさは言えると思いますが、私の個人的な感想からは、畏れおおくも著名な方々の句ですが、決して否定するものではありませんが、採り上げた例句に若干の問題を感じます。

      『第日本歳時記』(1999/講談社)は陰暦「水無月尽」に替えてその時期にあたる「七月尽」として使い季語としていますので、注意する必要があります。

      近年、歳時記に新しい季語が加えられる傾向が強まり、詠み手の自由な発想が歓迎される風潮もありますが、それが『なんでもあり』の方向に流れてしまう危惧もあります。

      新しい季語を使うときは、自由に使っていいのですが、一度立ち止まって、よく吟味することが必要です。有花さんの句が、そうした新しい季語の可能性を開く一歩になることを願っています。

       


コメント

  1. 多田有花
    2025年9月3日 10:35

    正子先生
    大変くわしいご指導をいただき誠にありがとうございます。
    私が『水煙』に入門したばかりのころに「二月尽」にも同様のご指導を信之先生からいただいたことを思い出します。
    一度立ち止まってよく吟味しなければならない、という教えは信之先生のお言葉に重なります。
    『水煙』から『花冠』へと流れている俳句への心構えを改めて実感させていただきました。

  2. 多田
    2025年9月5日 14:41

    正子先生
    「残暑厳し海の上には積乱雲」を
    「残暑厳し海の上にぞ積乱雲」に添削いただきありがとうございます。
    こういう言葉の用い方があったか、と驚きました。
    拙句では説明的になっていたことがわかります。