9月10日(5名)
●谷口博望(満天星)
桃色の凌霄の花恋吐息★★★
月の裏兎の居ない闇世界★★★
天高し被爆樹を舞ふ千羽鶴★★★★
●廣田洋一
八重咲きの木槿の白くそよぎけり★★★
子供らの囃子太鼓や秋祭★★★★
青空に人出少なき秋祭★★★
●小口泰與
とんぼうの朝風を浴び上昇す★★★★
朝風のさわやかな軽さがいい。とんぼの軽さは風の軽さ以上。(高橋正子)
曼珠沙華青空我を吸い込みぬ★★★
菊の香や胃カメラ検査終りける★★★
●多田有花
すすきから暮れて彼方に光る雲★★★★
すすきが暮れ、彼方には、沈んだ夕日の最後の光を受けて光る雲がある。秋の日没の、その時の風景。(高橋正子)
油断してしたたかに刺され秋の蚊に★★★
秋暑の雲移り変わるを正面に★★★
●桑本栄太郎
わが胸の伽藍堂なり秋の風★★★
爽やかや黒き笑窪の伊達公子★★★★
追憶のつづく夜更けやつづれさせ★★★
9月9日(4名)
●廣田洋一
菊の日やワインの仕込み始まれり★★★★
重九の日赤ワインにも菊浮かべ★★★
菊の酒下戸の仏に供へけり★★★
●小口泰與
爽籟や赤城とにかく裾長き★★★★
「とにかく」は、実感をもってのことだ。日々仰ぐ赤城山が、秋風が錚々と吹く中、その姿をくっきりと見せている。悠然とした産土の赤城山だ。(高橋正子)
独り飲む新酒に夜の帳かな★★★
竜胆や谷川岳の彫り深かし★★★
●桑本栄太郎
錦木の早やも紅射す秋日かな★★★★
青き実のままに団栗散りにけり★★★
きちきちの我誘い居る田道かな★★★
●多田有花
青空をたたえし鉢の秋の水★★★
網くぐり熟れし無花果探しもぐ★★★
秋高し祭準備の始まりぬ★★★★
空が高く晴れ渡り、街では祭りの準備が始まった。秋晴に、祭りが来るとなれば、大人もうきうきする。(高橋正子)
9月8日(4名)
●多田有花
秋の夜にアップルシードルを開ける★★★
急かすなよ桜紅葉を雨が打つ★★★★
秋雨を聞きつ一枚描く午後★★★
●小口泰與
朝顔の風雨の中に閉じしまま★★★★
とんぼうの幽かに羽音聞こゆなり★★★
瀞の渦桐の一葉のとどこおる★★★
●廣田洋一
蛇の目傘似合う撫子そよぎけり★★★
撫子の薄紅染める川原かな★★★
撫子の白き花飛び立ちさうな★★★★
撫子の白は少しさびしげ。切れ込みのある花弁が羽のようで、どこか遠くへ飛び立つのではと思う。(高橋正子)
●桑本栄太郎
こぼれ落つ橡の実ひとつポケットに★★★★
こぼれ落ちし橡の実ひとつポケットに★★★★(正子添削)
「こぼれ落つ」は文語で、上二段活用です。「こぼれ落つ/橡の実ひとつ/ポケットに」のように切れてしまっています。
木の実がこぼれていれば、つい拾ってみたくなる。手のひらに転がし、しばし弄ぶことも。宝物のようにポケットにいれることも。つやつやした大きな橡の実は、ポケットがふさわしい。私は、イギリス旅行をしたとき、カッスルクームの小道で橡の実を拾い、帰国前夜ホテルのごみ箱に捨てるはめになった思い出がある。(高橋正子)
ひとしきり騒ぐ水辺や蘆の風★★★
赤とんぼ群れて風問う高さかな★★★
9月7日(4名)
●多田有花
秋蝉は山の中こそ残りけり★★★★
今日久しぶりに近所の丘に散歩に出たが、丘の木立の中は、この句の通り。みんみん蝉と法師蝉が盛んに鳴いていた。(高橋正子)
ぽつぽつと雨降りだしぬ白露の朝★★★
猪の通りし後をたどりけり★★★
●廣田洋一
長き夜やビデオのドラマ次々と★★★
二階にも灯りのつきて夜長かな★★★★
「二階にも」が効いた。普段はあまり上がらない二階に灯りをつけて、夜長、本を探しているのかもしれない。夜長の灯りは生活感があってあたたかい。(高橋正子)
金星の風の音聴く夜長かな★★★★
澄んだ詩情がいい。(高橋正子)
●小口泰與
畦川の利根に遂げ行く稲穂かな★★★
蜻蛉の急に増えけり今朝の畦★★★★
今朝の畦は急に涼しくなった。蜻蛉が急に増えて元気に飛び交っている。透明な空気感が気持よい。(高橋正子)
稲雀鋭声つづりて逃げにけり★★★
●桑本栄太郎
田の畦の鄙のショーなり案山子立つ★★★
雨上がり夜ともなれば虫の闇★★★
窓よりの夜風に乗りて虫の声★★★★
9月6日(4名)
●小口泰與
畦道の数多の蜻蛉顔面に★★★★
下五に置かれた「顔面に」がいい。読者も肌に直に感じるのだ。(高橋信之)
とんぼうの数多舞いおる畷かな★★★
白飯に産みたて卵天高し★★★
●多田有花
萩咲くや山の上へと向かう道★★★★
作者の「山の上へと」動きがあって、上五の「萩咲く」が生き生きとしてくる。いい写生句だ。(高橋信之)
思い出したように聞こえし九月の蝉★★★
運動会の練習始まる河川敷★★★
●廣田洋一
赤みさす皮を垂らして梨を剥く★★★
幸せの水溢れさせ梨を剥く★★★★
一句の冒頭に置かれた「幸せの水」がいい。作者の率直な「幸せの思い」がいい。(高橋信之)
梨を食ぶ窓打つ雨の雫垂れ★★★
●桑本栄太郎
教会へ訪ない行けば秋の色★★★
夕闇の足へ音頭や鐘叩★★★
綾子忌の草花摘みて食卓へ★★★★
上五の「綾子忌」、中七の「草花摘みて」、下五の「食卓へ」、この句のどこをとっても心優しい句だ。(高橋信之)
9月5日(4名)
●小口泰與
我が影の巨人になりし虫の声★★★★
大樹より一羽離れし花鶏かな★★★
初紅葉顔の真上の榛名富士★★★
●多田有花
山の色変わり初めにし九月かな★★★
秋涼の窓開け走る車かな★★★
灯火親しノンフィクションのページ繰る★★★★
●廣田洋一
仲秋や古式ゆかしき稚児の舞★★★
仲秋の月を仰ぎつ氏神へ★★★★
仲秋に友の集ひて白き月★★★
●桑本栄太郎
溝川の水の調べや稲穂垂る(原句)
溝川の水の響きや稲穂垂る★★★★(正子添削)
私は、大阪生まれで、旧満州の中国大陸育ちなので、幼少の思い出に「稲穂垂る」風景はない。母の郷里の四国愛媛に中学3年の春に引き揚げて帰り、「稲穂垂る」風景を知った。私にとっても懐かしい風景である。(高橋信之)
秋雲の背ナに育てり天王山★★★
金色の入日茜やいわし雲★★★
9月4日(4名)
●多田有花
初出荷の梨ゆえ今日は大安売★★★★
雨あがり九月の蝉が遠くで鳴く★★★
秋曇一枚はおり外に出る★★★
●小口泰與
鮞や三度も双子生まれける★★★
流星や書肆をいろどる週刊誌★★★★
色鳥や同胞集う祝立て★★★
●廣田洋一
運動会リレー選手を目指しけり★★★
運動会荒筵敷き子等を待つ★★★★
小学校の運動会は町内ぐるみの催しといってもよい。家族総出で応援する。荒莚を敷いて場所をとった昔も懐かしいが、今もそうだろうか。「荒莚」が素朴で力強い。(高橋正子)
じじばばの混じる綱引き運動会★★★
●桑本栄太郎
<高瀬川~鴨川~祇園>
せせらぎの木洩れ日深く白木槿★★★★
落鮎の背のきらめくや堰の水★★★
路地に日の影の二階や秋すだれ★★★
9月3日(5名)
●谷口博望 (満天星)
いそぐなよつくつくぼうしひとり鳴く★★★★
蓮の実や記憶の螺旋たどる旅★★★
海猫帰る教師の胸に見とれし頃★★★
●多田有花
みそ煮込うどんを食す新涼に★★★
秋空へ高々伸びるクレーンかな★★★
陽に翅を光らせ群の赤とんぼ★★★★
誰の記憶にもある光景だろうが、陽の光に翅を光らせる赤とんぼは、懐かしい、永遠の時間の中の光景のようだ。(高橋正子)
●廣田洋一
人影の無き田に光る鳥威し★★★★
誰もいない田の真昼、鳥威しがきらきら光る。陽に恵まれ、風が渡る田に、稲が熟れていく充静かな充実感がある句だ。(高橋正子)
鳥威し殺す気はなく夕日落つ★★★
次々と新手繰り出す鳥威し★★★
●小口泰與
浮雲を放つ浅間や鳳仙花★★★★
靴先を濡らす朝露ゴルフ場★★★
秋雨の広場を占むる草の丈★★★
●桑本栄太郎
うそ寒や一枚足せり目覚め前★★★
風二日つづき静かに秋の蝉★★★
路地の日の豊かにありぬ秋簾★★★★
9月2日(5名)
●谷口博望(満天星)
涼新た好きな句集を筆で書く(原句)
好きな句を筆もて書けり涼新た★★★★(正子添削)
「涼新た」を感じる季節。好きな句は読んだだけでは物足りなさを感じ、その句を筆で認める。その句がぐっと自分に近づく。(高橋正子)
蓮の実や過去の系譜を考える★★★
囲碁名人戦
秋の陣捨石作戦功奏す★★★
●多田有花
秋風と思う部屋通りゆく風も★★★
秋涼の風吹く森をひとり歩く★★★
秋澄みて海の彼方の橋見える★★★★
●小口泰與
松虫草溶岩道つづく信濃かな★★★
花木槿雲流れ行く速さかな★★★
目の前の甲斐駒ケ岳桃啜る★★★★
甲斐駒ケ岳を目の前にして、桃を啜る。桃の季語は秋だが、駒ヶ岳の雄姿を眼前にして、季語としての桃がリアルで生きている。(高橋正子)
●廣田洋一
子供山車大人が担ぐ秋祭り★★★
日照時間取り戻したる残暑かな★★★
昼休み残暑募らす俄雨★★★★
●桑本栄太郎
秋蝶の何かを探し辿り居り★★★
うそ寒や今もあれこれ君のこと★★★
ふるさとの新甘泉とや梨届く★★★★
9月1日(4名)
●多田有花
小さき火燃やし八月送りけり★★★
漣の如き雲あり二百十日★★★★
二百十日に何事もないことはありがたい。空には漣のような白い雲があって、秋空の美しさを見せてくれている。(高橋正子)
秋雲の流れる中の山を見る★★★
●小口泰與
村里を攻むる背高泡立草★★★★
腰の痛み時には忘れ酔芙蓉★★★
迷界の鳴禽を聞く沢桔梗★★★
●廣田洋一
電線の補強工事や震災忌★★★★
老人の避難訓練震災忌★★★
震災の予報は無理と震災忌★★★
●桑本栄太郎
葉の裏の白く巻き居り芋嵐★★★
学童の鳩吹く風を戻りけり★★★★
下冷えの嶺に入り日の茜かな★★★
コメント
御礼
高橋信之先生、正子先生
9月2日の投句「桃啜る」の句を今日の秀句にお取り上げ頂き、その上、正子先生には嬉しい句評をたまり厚く御礼申し上げます。
今後ともよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
有難うございました。