8月10日(4名)
多田有花
大風の吹き渡る後空澄む日★★★
影連れて森に消えゆく秋の蝶★★★★
蝶が森の中へと消える。日向の影をもったまま消える秋の蝶。何かの精のようだ。(高橋正子)
秋の雲数多の影を落としたり★★★
小口泰與
畦道へ忽と涌き出づ蜻蛉かな★★★★
畦道を歩いていると、辺りに忽然と蜻蛉が湧いたように現れることがある。ほんとうに、「忽」となのである。蜻蛉の世界に入ったのだ。(高橋正子)
犬も老い家も古りたり庭の秋★★★
サヌカイトの余韻長きや涼新た★★★
桑本栄太郎
見つければ次々上に蝉の殻★★★★
息急くや初鳴きしたる法師蝉★★★
かなかなの空の暮れ行く挽歌かな★★★
廣田洋一
年を経し痔瘻の根治カンナ咲く★★★
甲子園女子もベンチに天高し★★★★
捜索にヘリ飛び立ちぬ空高し★★★
8月9日(4名)
古田敬二
突然に畑が喜ぶ大驟雨★★★★
秋立つや風呂の温度を二度上げる★★★
蟻地獄築後百年縁の下★★★
小口泰與
初秋や利根の岸辺の草の丈★★★
峠はやとっぷり暮れて蕎麦の花★★★
いち早く秋の来ている白樺湖★★★★
白樺湖にはいち早く秋が来た。白樺湖の名が生きた句だ。(高橋正子)
廣田洋一
店の隅売り出されをる秋簾★★★★
色くすみ巻きて捨てられ秋簾★★★
一枚は巻かれてをりぬ秋簾★★★
桑本栄太郎
新涼の風吹き来たり日もすがら★★★★
新涼の風の爽やかさ。纏える風の涼しさが。日もすがらなので、この嬉しさはこの上ない。(高橋正子)
鳩吹くやいつも鳴き居り腹の虫★★★
寂しさにラヂオ枕に夜半の秋★★★
8月8日(5名)
多田有花
秋立ちぬ木々を揺らして強き風★★★
手を合わすこと多かりし八月は★★★
おにやんま頂の空をつーいつい★★★★
このおにやんまのように振る舞いたいものだ。広々とした頂を、素知らぬ顔で、つーいつい。(高橋正子)
小口泰與
百日紅夕映えの紅奪いけり★★★
山風に一句浮かびて夏の果★★★★
初秋や庭の芝刈りあと幾度★★★
廣田洋一
縄張りを終えし更地に秋の風★★★
蔓草を大きく揺らす初嵐★★★
半袖に心地良きかな秋の風★★★★
桑本栄太郎
溝川の水の流れや葛の花★★★★
葛の花は八月にははや咲いている。溝川の流れの音に葛の花が垂れる秋のはじめ。秋を印象付ける葛の花を見たうれしさ。(高橋正子)
かなかなや故郷すでに遠くなり★★★
金色の雲の茜や秋立ちぬ★★★
古田敬二
立秋やインクの匂う俳誌買う★★★★
秋立つ日ピクルス美味くでき上がる★★★
秋立てば地下鉄階段歩いて登る★★★
8月7日(4名)
小口泰與
夏草のいたずらに生う旧家かな★★★
白鷺や棚田の水のいずかたへ★★★★
古里は何処や蝦蟇の出づる峠★★★
廣田洋一
秋立ちぬ頬なでる風ひんやりと★★★
新刊を積みし机や秋立てり★★★★
新刊書というのは、印刷の匂いも新しく、読書の心を逸らせるものだ。涼しくなったら読もうと楽しみに机上に積んである。いよいよ今日は立秋だ。(高橋正子)
立秋の風にゆらゆら猫じゃらし★★★
川名ますみ
うすうすと雲ほぐれたり秋近し★★★
秋隣小さき雲らに夕映す★★★★
どのビルも西日に白く照り映ゆる★★★
桑本栄太郎
秋立つと思えば風の哀しさよ★★★
鬱蒼と古墳の森や蝉しぐれ★★★★
爽籟やカーテン吹き上ぐ今朝の風★★★
8月6日(5名)
多田有花
重き髪切りて軽々秋隣★★★★
炎天も厭わず車整備中★★★
法螺貝が森に響きし夏の果★★★
小口泰與
晩夏なり馬車ひく馬の脚太し★★★
炎天や利根の支流の岩数多★★★★
はんざぎや見詰めあいたる杣の渓★★★
廣田洋一
じじじつと鳴きて終わりぬ蝉の声★★★
落蝉やゆっくり歩き去らんとす★★★
夢に見し母の生家や蝉時雨★★★★
古田敬二
広島忌黙祷済ませ農に出る★★★★
忘れてはならない地球への広島への原爆投下の日。黙祷をささげ、畑仕事にでる。平和を強く願う作者だ。(高橋正子)
日照りにも負けず根を張る草を抜く★★★
水遣れば飛ぶがごとくに白鷺草★★★★
桑本栄太郎
香り立つうすき白さや稲の花★★★★
稲の花の香りがいい。稲の花はちらちらと小さく「うすき白さ」の花なのだ。上手な句だ。(高橋正子)
十字架の塔の高さよ百日紅★★★★
水を乞い水に悩みぬ広島忌★★★
8月5日(5名)
多田有花
ほうじ茶の熱きを飲みぬ熱帯夜★★★
雑草すらも立枯れとなる酷暑★★★
炭酸水喉に弾けて飲み干しぬ★★★★
小口泰與
白雲を背負う青嶺や鳥の声★★★★
幾そたび芝を刈たる夏の果★★★
向日葵や鋼の車内熱百度★★★
廣田洋一
夏の月風に乗り来る太鼓の音★★★
笛の音の低く流れる月の街★★★
ハモニカや月のベンチを一人占め★★★★
月夜のベンチ。座ってハモニカを吹く人がいる。自分の吹くハモニカの音色に浸ってベンチを一人占めなのだ。ハモニカと月にきれいで静かな世界がある。(高橋正子)
桑本栄太郎
夏草の白き葉裏や午後の土手★★★
中州なる白き砂洲あり旱川★★★
玄関の扉を残し蔦茂る★★★★
古田敬二
歌い手も聴き手も汗のコンサート★★★
友集い旅かばん解く夏座敷★★★★
友たちのとの旅は、特別に楽しいものであろう。広々とした夏座敷に、旅の鞄をほどく寛いだ気持ちがいいのだ。(高橋正子)
今日もまた列島を焼く陽が登る★★★
8月4日(5名)
小口泰與
風鈴や奏づる音はサヌカイト★★★
向日葵や茎伸び伸びと山隠す★★★★
向日葵がよく伸び育って、山を隠すほどになった。向日葵の種類はいろいろだが、ロシア向日葵などは、大きな花で存在感のある花だ。花ではなく、「茎伸び伸びと」と詠んで、茎に着目したのが面白い。読み手の体も伸び伸びするような気持ちになる。(高橋正子)
冷酒や湖畔を揺らす竹あかり★★★
廣田洋一
背高きコスモス揺れて風を知る★★★
捨畑のコスモス風と遊びをり★★★★
秋桜遠くに見ゆる湖青し★★★
多田有花
糞一閃青鷺ついと飛び立ちぬ★★★
夏野菜たっぷり入れてラタトゥイユ★★★
揚羽蝶山ゆく道のまえうしろ★★★★
古田敬二
日記終え猛暑の明日へ備え寝る★★★
歯科医院へ炎帝に負けている歩幅★★★
信号を待つ間に行き交うオニヤンマ★★★★
桑本栄太郎
開け放つ窓より夜気や夜の秋★★★
かなかなの早やも鳴き初む朝まだき★★★
かなかなのかなに終わりぬ没日かな★★★★
8月3日(5名)
多田有花
段ボールに汗の滴る宅配夫★★★
夏深き風に吹かれて頂に★★★★
秋隣る梢となりて風を受く★★★
小口泰與
生まれ出づ雲慌し時鳥★★★
石橋の灯りて街の晩夏かな★★★★
ラベンダー茎くっきりと咲きにけり★★★
廣田洋一
友よりの新豆腐まず供へけり★★★★
新豆腐と聞くだけで、すずやかな気持ちになる。新豆腐の季節が巡って来て、友よりいただく。この清らかなものを供えて、感謝である。(高橋正子)
新豆腐新たな醤油香りけり★★★
隣町の古き豆腐屋新豆富★★★
桑本栄太郎
しみじみと木蔭を見上ぐ蝉の殻★★★
木より木へ伝つて直ぐに蝉しぐれ★★★★
落蝉の落ちて羽ばたく木陰かな★★★
古田敬二
百日紅揺れ初め風の夕となる★★★
夏草や三日来るまの忘れ鎌★★★
「三日来るま」は、「三日見ぬ間の桜」の言いぐさがありますが「三日来ぬま(間)の」ではないでしょうか。
バケットにトマトと胡瓜と茄子の色★★★★
8月2日(5名)
小口泰與
雨後の朝ひと塊のだりあかな★★★
石階を上り湯宿や不如帰★★★
汽罐車の蒸気いそがし夏燕★★★★
多田有花
珈琲入れるつくつくぼうし鳴き始む(原句)
珈琲淹れるつくつくぼうし鳴き始め★★★★(正子添削)
数学の本を机上に秋を待つ★★★
ベランダで火星を探す夜の秋★★★
廣田洋一
澄みし空富士の稜線秋めけり
「澄みし空」、「秋めけり」は、やはり、季語に矛盾を感じます。「澄みし空」のところを工夫したいです。(高橋正子)
目覚めたる部屋の明るさ秋めけり★★★★
お茶請けに漬物出して秋めけり★★★
桑本栄太郎
八月と思う朝や窓の風★★★★
人の心理は不思議なもので、そう思うと、そのように感じられる。八月という月は、日本人にはいろいろと思い起こさせる月である。今は八月であると思うと、窓から入る風も幾分秋めいて感じられる。(高橋正子)
古田敬二
仕切り戸は黒光りして夏座敷★★★★
夏座敷仕切り戸すべて黒光り★★★
夕風に花房重く百日紅★★★
8月1日(5名)
小口泰與
野良犬の炎暑を歩む長き舌★★★
利根川の岩の乾びて翡翠かな★★★★
雷鳴の空美しや夕支度★★★
多田有花
ひとりゆく森吹く風の秋近し★★★
白蓮の蕾に迫る午後の影★★★
空蝉の横たわる地を踏まずゆく★★★★
古田敬二
朝の庭赤極まりしトマトもぐ★★★★
「赤極まりし」とまでに熟れたトマト。瑞々しくて、はち切れそうだ。自家菜園の楽しみを率直に無駄なく詠んだのがいい。(高橋正子)
庭からのトマト朝餉の皿に盛る★★★
夕風の梢近きに蝉の啼く★★★
桑本栄太郎
想い出を数多連れ来る八月に★★★
また一つ木蔭にありぬ蝉の穴★★★★
仰のけに白き腹見せ蝉の落つ★★★
廣田洋一
鷺草や南に向かひて咲きにけり★★★
向日葵やちらちら見える白きシャツ★★★★
向日葵が林のようにたっている向こうに白いシャツがちらちら見える。畑仕事をしている人か。単に通り過ぎる白シャツの人か。向日葵と白シャツは生き生きと健康的な取り合わせだ。(高橋正子)
富士と言えど五合目からは只の山★★★
コメント
御礼
高橋正子先生
いつも懇切にご指導頂き有難うございます。
8月2日の投句「澄みし空富士の稜線秋めけり」の句評を有難うございます。
澄みし空を考え直します。
今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。