5月7日~10日

5月10日

●小口泰與
籐椅子やうすき靄刷く赤城山★★★★
縁側に持ち出した籐椅子だろうか。籐椅子に座り赤城山を眺めるとうすく靄が刷かれている。靄を「刷く」と捉えたところに、気持ちの優雅さが読める。(高橋正子)

日を乗せてはしる車窓の清和かな★★★
老鶯やぬか漬樽の古色なる★★★

●黒谷光子
野の花や庭の花あり花御堂★★★
甘茶仏花いっぱいの屋根重き★★★★
花御堂ところどころに造花など★★★  

●小西 宏
森行けば卯月の風の葉裏かな★★★★
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

坂道を紗の羽織着て黒日傘★★★
髪長き少女投球風薫る★★★

●桑本栄太郎
遠近の水田鏡や五月晴れ★★★
さざ波の代田の水のにごりけり★★★
風薫る村の辻名は南茶屋★★★★

●高橋秀之
夏風邪の床から見える青き空★★★
衣替え黒から白に部屋の中★★★★
葉桜の続く川沿い道長く★★★

5月9日

●河野啓一
緑陰を風吹きぬける昼下がり★★★
遅咲きもまた良し白いチューリップ★★★★
古池に目高群れおり輪になって★★★

●小口泰與
北軽の高原駆けるむぎわら帽★★★
波音と風のはこびし皐月かな★★★
新築のお披露目つどう若楓★★★★

●上島祥子
千切りを高く盛り付け春キャベツ★★★
千切りの響き高らか春キャベツ★★★
夏立つ日水をたたえて用水路★★★★
水がうれしい季節になった。用水路に水が満々と流れ、夏立つ日を実感させられる。初夏の明るさ、涼やかさのある句。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<洛西の田園散策>
夏ひばり田水の天に歌いけり★★★
まんまんとさざ波湛え代田かな★★★
竹皮を脱ぐや一途に青空へ★★★★
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

●多田有花
青空へ楓若葉を透かし見る★★★
夏浅き夜の雷雨のなか帰る★★★
葉桜の青々と身を揺すりけり★★★★

5月8日

●小口泰與
五分刈りの坊主頭や風かおる★★★★
風薫る丸太橋見ゆ露天風呂★★★
新緑や山路の雨のしめやかに★★★

●古田敬二
うすみどり揺れてアカシア香りけり★★★★
ブロンズ像若葉の揺らめき空見上げ★★★
夏来る子どもあふれし乳母車★★★

●多田有花
風香る頂の木陰に座る★★★
青空の今朝の輝き桐の花★★★★
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

信号はすべてススメに青嵐★★★

●桑本栄太郎
蔓ばらの園の歌声高らかに★★★★
野の風の淡きピンクや姫女苑★★★
一畝に蝶を狂わせ葱坊主★★★

●河野啓一
瀬戸内に夏潮満ちて日暮れどき★★★
夏潮をひとまたぎして淡路島★★★
伊予水軍夏潮分けしその昔★★★★
夏潮の流れるさまを見れば、その昔、この夏潮を分けて伊予水軍が活躍したことが偲ばれる。とうとうとした夏潮の流れである。(高橋正子)

●黒谷光子
葦の間を流れ来る水清ら★★★★
豌豆の初採りほんの一握り★★★
踊子草地蔵の祠を囲むかに★★★

5月7日

●小口泰與
はっか飴舌にのせたる涼しさよ★★★
鳴きやみて忽と消えたるひばりかな★★★★
悠久の目路の榛名や夏の色★★★

●河野啓一
流れ来る調べや窓は新緑に★★★★
青柿のいと小さきが葉の陰に★★★
みどり背に真っ赤な小さいバラの花★★★

●多田有花
頂の優しき風へ黒揚羽★★★★
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

森渡る五月の風へ耳を澄ます★★★
若楓美しかりし人の影★★★

●桑本栄太郎
<初夏の洛西散策>
垂れ下がる虫の糸曳く聖五月★★★
新緑の木洩れ日こぼれ花の寺★★★★
ほいほいと村中よぎる五月かな★★★

●古田敬二
ヨシキリ鳴く池の夕波光る時★★★★
ヨシキリと光る夕波は、写真にも撮りたい風景だ。「夕波光る時」でこの句が引き締まった。(高橋正子)

葉桜を行けば池に水の音★★★
葉桜の覆いかぶさる東海道★★★


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