●小口泰與
汽罐車の鉄橋通過虹の橋★★★
かわほりやのこぎり屋根の星明り★★★★
新緑や蛇口に我の口をあて★★★

●河野啓一
愛鳥の週に最たる庭雀★★★★
雨止みて青葉若葉の煌めける★★★
筍の旬の盛りや大盛りに★★★

●廣田洋一
句碑一つひつそり立てる木下闇★★★
赤不動ほのかに光る木下闇★★★
子ら思い瓜を冷やせり夕餉時★★★★

●谷口博望(満天星)
匂いたる蜜柑の花や母の歌★★★★
窓を開け、風を入れて過ごしたくなる夏の初め。蜜柑の花がよく匂う。あたりに蜜柑が植えられていれば、
蜜柑の花は、匂いを漂わす。蜜柑の花について思い出すことは、「蜜柑の花が咲いている」に始まる唱歌だろう。母がよく歌っていた「母の歌」として、耳に記憶が蘇る。（高橋正子）

夏の風豆鞘垂るる花蘇芳★★★
折り取りて花匂いたる樟若葉★★★

●桑本栄太郎
四条大橋を渡り祇園へ風薫る★★★
葉桜の歩道となりぬ河畔かな★★★
祇園抜け建仁寺とや松の花★★★★

５月９日(４名)

●小口泰與
卯月野や子犬を連れし山羊の群★★★
我を見て吠ゆる甲斐犬木下闇★★★

D五一の音を運びし南風かな★★★★
D五一（でごいち）の愛称で親しまれた機関車が、今も走っているとは、懐かしい。のどかな南風がデゴイチの走る音や汽笛を運んで昭和のよき時代が思い出される。（高橋正子）

●谷口博望 (満天星)
標なき俳句の道や朴若葉★★★
キャンパスの優しき風や橡若葉★★★★
辛夷はや若葉の中に小さき実★★★

●河野啓一
はんなりと小雨にけぶるあやめかな★★★
クレマチス紫の香のほのかなる★★★
長幼の順に届くやカーネーション★★★★

●桑本栄太郎
＜高瀬川界隈＞
せせらぎの青葉闇なり珈琲館★★★
欄干に並び自撮りや風薫る★★★
若楓振り分けそそぐ日射しかな★★★★

５月８日(６名)

●小口泰與
尾瀬涼し木道続く彼方まで★★★★
雲の峰渓流に吾の竿を出し★★★
明急ぐ鶏鳴まねし関所跡★★★

●河野啓一
逞しく厚さを増して柿若葉★★★★
青嵐キスゲたちまち凋みけり★★★
母の日や長い電話が東より★★★

●谷口博望 (満天星)
楓若葉空を仰げば虹の雲★★★★
赤レンガ若葉ひこばゆプラタナス★★★
朴若葉鎮座まします花一輪★★★

●廣田洋一
草抜きて積み上ぐ匂い夏めきぬ★★★★
丈長くなった草を抜き、積み上げると驚くほどの嵩になる。草の匂いが芬々として、「夏めきぬ」を実感した。「夏めきぬ」が、さっぱりとしてよい。（高橋正子）

夏めくや壁新しき小田原城★★★
汽車の旅富士見えてきて夏めきぬ★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日を振り分け居りぬ若楓★★★★
突き進む飛行機雲や五月晴れ★★★
日蔭とて品良く咲いて著莪の花★★★

●川名ますみ
母の日に古き友より鉢届く★★★
掌の硝子器に挿す姫檜扇★★★
夏蜜柑分けられ膝に青さ載せ★★★★

５月７日(６名)

●小口泰與
ポン菓子の如く弾けり白蘇芳★★★
火の山のどかん夏の来たりけり★★★
渓流に満ちし夏のにおいかな★★★★

●廣田洋一
仕事前先ず腕まくり夏めきぬ★★★
雨蛙雨を待ちわび空仰ぐ★★★
緑陰に湯気這ひ来たる露天風呂★★★★

●河野啓一
麦の秋列車カタコト滑りゆく★★★★
風薫る発声練習窓開けて★★★
古き友次第に減りて春は行く★★★

●桑本栄太郎
はしり蚊のか細き声に固まりぬ★★★★
おだおだと風吹く茅花流しかな★★★
目覚むれば西日茜や窓の空★★★

●多田有花
早起きをして窓開ける立夏かな★★★
護摩焚きの香の流れ来る五月の山★★★
蛇行する川は若葉に挟まれて★★★★
いい写生句だ。作者の実感が読み手に伝わってくる。アウトドアにも、いい生活の実感があるのだ。（高橋信之）

●川名ますみ
ごめんなさい姫檜扇へふいに触れ★★★
つとふれし姫檜扇のゆれ続く★★★
紫陽花に薄紫もさみどりも★★★★

５月６日(４名)

●廣田洋一
蕗みそやそのうすみどり部屋に満つ★★★★
江の島やすでに夏めく装いに★★★
並木の葉風にそよぎて夏めけり★★★

●小口泰與
揚ひばり畦の雑草刈られけり★★★★
春の雲瀬尻の波の遊びにける★★★
梢よりあだに落ちけり雀の子★★★

●桑本栄太郎
眼に染みる窓の若葉や雨の前★★★★
若葉が盛んなとき。雨の前の曇りのときほど、若葉の緑が目に染みるように思われる。雨の前の若葉、それから雨の若葉も想像できて、若葉の美しさの微妙な違いを感じる作者。（高橋正子）

朝の窓開けて飛びこむ風薫る★★★
みどり児のうす目半眼目借時★★★

●谷口博望 (満天星)
麦生挿す花瓶の中に太古あり
麦の穂を挿せし花瓶に太古あり★★★（正子添削）
麦生（むぎふ）は、麦が生えているところです。

樟若葉仄かに匂う雨上り★★★★
樟並木人に先立ち衣更★★★

５月５日(４名)

●小口泰與
初虹や榛名の朝明浅葱色★★★
川音の日毎に高き葡萄の芽★★★
朝外出や忽と群翔つ揚ひばり★★★★

●廣田洋一
雛罌粟やリズムも軽く揺れており★★★
波頭白く光れる青嵐★★★★
木々の葉に肩を打たれる青嵐★★★

●河野啓一
五月鯉心地良からむ今日の風★★★
菖蒲湯にざぶと飛び込む男の子かな★★★★
お孫さんであろうか。「男の子」らしい句が生まれた。平易で力強さがあるが、作りにくい句だ。私の好きな句。（高橋信之）

逝く春やおたまじゃくしは蛙の子★★★

●桑本栄太郎
入日まだ空の高きや菖蒲の湯★★★★
今年の立夏は５月５日なので、この句は、立夏に作られた句。立夏であれば、「入日まだ空の高きや」ということになる。いい表現だ。　(高橋信之)

風薫るなんじゃもんじゃの並木かな★★★
二人なれば生協よりの柏餅★★★

５月４日(３名)

●谷口博望(満天星)
首伸べて干潟飛び行く河鵜かな★★★★
マロニエや雨となりたるフラワー祭★★★
バラ園の金髪少女薔薇のごと★★★

●小口泰與
あえかなる夜明けの地震や花楓★★★
春田打つ羽音あきらか群雀★★★

花冷やあくまで蒼き沼の水★★★★
花冷えに鎮まる沼。花の気品をもって、その静寂を象徴する、「あくまで蒼い水」。詩的な句になった。（高橋正子）

●桑本栄太郎
吹きすさぶ風の五月や中庭に★★★★
葉蔭より朝日まぶしき若葉かな★★★
目の覚めるような勢いつつじ燃ゆ★★★

５月３日(５名)

●満天星
キャンパスの若葉整うアメリカ楓★★★
子規句碑やくれない若葉萌え立ちぬ★★★★
山路来てソプラノ響く四十雀★★★

●小口泰與
上毛の端山奥山雪解風★★★
眼間の葡萄芽ぶくやああと言う★★★★
雪形や田川どどっと走りたり★★★

●河野啓一
白牡丹緑の苑に咲き出る★★★
宮の杜空に一声ほととぎす★★★★
アマリリス丸い蕾を抽かんとす★★★

●廣田洋一
捨て畑の草ぼうぼうに夏めきぬ★★★
ひなげしや点々と咲く線路際★★★

雛罌粟や日を照り返す赤き花★★★★
雛罌粟の花弁は薄く、五月の日を受けてつやつやと輝く。意外にも強い五月の日差しに、しなやかな細い茎の先の赤さが印象的だ。（高橋正子）

●桑本栄太郎
風吹けば竹の落葉やきりもみに★★★★
裏返る白き葉裏や風薫る★★★
憲法記念日の妻の買物特売品★★★

５月２日(５名)

●谷口博望(満天星)
栃の花木の実の形思ひ出す★★★★
残る鴨緑のハット一羽だけ★★★
華麗なるリオの祭りやアマリリス★★★

●小口泰與
産土は赤城根っこし桑の花★★★
あけぼのや蘇芳の散りて隠れなし★★★
無残やな轍の中の桜蘂★★★★

●河野啓一
昔日の大和三山今新緑★★★★
「昔日」の意味は、現実の作者の生活に照らせば解釈に少し幅が出る。この冬の眠る大和三山を思いだして、今は新緑が鮮やかに燃えている景色に目が覚める思いである。あるいは、往時の大和三山と比べていることもある。「大和三山」なればこそ、「昔日」が効いている。（高橋正子）

夏日来て奈良にも高速道路伸び★★★
神宮前鄙のホテルの夏料理★★★

●桑本栄太郎
竹林の天は風らし竹落葉★★★★
山藤の色に出で居り風の音★★★
鳧鳴いて風に飛びゆく野道かな★★★

●川名ますみ
多摩川を越え来し新聞風光る★★★★
朝まだき網戸入れたる音のあり★★★
隣家にも薫風通う響きかな★★★

５月１日(６名)

●谷口博望(満天星)
椎の花煙のごとく匂いけり★★★★
潮干潟レンズの鳥の美しき★★★
鐘撞けば睡蓮の花開きけり★★★

●小口泰與
桜蘂降るや浅間山の襞定か★★★★
春休み餌台を翔つ尾長鳥★★★
雨つのり木々大揺れや新社員★★★

●廣田洋一
雨上がりわっと燃え咲く躑躅かな★★★★
はかなげに白き花咲く躑躅かな★★★
雨降りて緑つややか夕蛙★★★

●河野啓一
-奈良橿原神宮-
新緑に染まる白木の大鳥居★★★★
無彩色鳥居鎮もる杜若葉★★★
参道の杜をくぐりて東征記★★★

●桑本栄太郎
咲くように赤き新芽の燃え立ちぬ★★★
風音を聞いて雲見る代田かな★★★★
菜園の舞台乱舞や蝶の昼★★★

●多田有花
山へ行く道藤の花下がり初め★★★
早朝の野山輝く四月尽★★★