3月10日(5名)
●多田有花
京阪電車子らお揃いの春帽子★★★★
春の山歩きつくしてのち乾杯★★★
春の陽や瓦礫になりし雑居ビル★★★
●小口泰與
遠山の白き衣や未開紅★★★
花辛夷すくっと朝の目覚めなり★★★★
早春の花の辛夷。朝の冷気があるなかにすくっとした花木の姿。「朝の目覚め」の快い緊張感が辛夷の花にさらに魅力を与えた。(高橋正子)
あけぼのの木末賑わす春の鳥★★★
●満天星
日は西に下弦の月の霞みけり★★★★
ビオトープ柊南天匂ひけり★★★
木蓮の綻ぶ二つ飛行機雲★★★
●廣田洋一
学校を建てる夢消え星朧★★★
公園の木々のざわつく朧かな★★★★
朧夜は、ほんのりと静かであるのだが、そのやわらかな静けさに公園の木々が風にざわつく。そのざわつきに心が何かしら動く。それを感じとった精神の深さが魅力。(高橋正子)
二人してさしつさされつ朧かな★★★
●桑本栄太郎
二列ほど花菜明かりや河川畑★★★
春寒の幟はためくコンビニ店★★★
街灯の路面濡れ居り冴返る★★★★
3月9日(5名)
●多田有花
春の陽が水のなかまでよく届く★★★★
日射しが強くなっている。水の中を見ると、春の陽がよく届いて、水が明るい。光りこそ季節そのものと言いたい。(高橋正子)
春の水小さき滝を経て流る★★★
家々のそれぞれ咲かせ紅白梅★★★
●小口泰與
雪蟲や伸るか反るかの毛鉤打つ★★★
夜の色に遠山染まり土蛙★★★★
「土蛙」が懐かしい。遠い山が夜の色になり、蛙が鳴く。半世紀ほども前の春の田舎の黄昏が懐かしく思い出された。(高橋正子)
水音の高しや柳絮流れける★★★
●廣田洋一
公園の剪定済めば空広し★★★★
剪定し白砂利洗ふ松の庭★★★
鋏持ち伐る枝定む狭庭かな★★★
●谷口博望(満天星)
対岸のカップル眩し風光る★★★
沈丁の咲きましたてふメールかな★★★★
貴婦人やさらば冠かいつぶり★★★
●桑本栄太郎
菜花咲く下流に桂離宮かな★★★★
菜花と桂離宮、それに流れが配されて、絵を見るような雅やかな景色が詠まれている。春の京都である。(高橋正子)
大堰の怒涛きらめく春の水★★★
木蓮の芽の色めくや抓み居り★★★
3月8日(4名)
●多田有花
春光や梅田のビルから京都まで★★★
うららかな棚田の彼方ビルの影★★★★
暖かや呼吸根出す落羽松★★★
●小口泰與
常しえの坂東太郎草青む★★★★
坂東太郎は利根川のこと。関東平野を流れる利根川の流域にはそれぞれの土地と人の暮らしがある。今年もまた草青む利根川の土手に春が来たことを喜ぶ。「常しえ」に、作者の大いなる思いがある。(高橋正子)
噴煙の北へ流るる帰雁かな★★★
発条の如き羽うつ雲雀かな★★★
●廣田洋一
八重椿花弁広げ人を待つ★★★
玉椿一輪として下向かず★★★★
紅椿朽葉の上に落ちにけり★★★
●桑本栄太郎
フラッグの金具高鳴り余寒風★★★
大堰の春の怒涛や桂川★★★
堰水の魚道きらめく春の川★★★★
3月7日(4名)
●多田有花
啓蟄の地下から出し東西線★★★★
「東西線」は、昔よく利用していたので、懐かしい。多分俳句の会に出席したのであろうと思う。(高橋信之)
パソコンを開く窓辺に初音の朝★★★
初音して遠くで唸る重機の音★★★
●小口泰與
手に伝うかろき魚信(あたり)や木の芽晴★★★★
継承の家業一筋揚ひばり★★★
花辛夷逡巡の雨降らすかな★★★
●廣田洋一
蛤を酒で煮立てて朝食に★★★★
流れ早き川に枝垂れる桜かな★★★
引く波のまざまざ浮かぶ3.11★★★
●桑本栄太郎
乙訓の風の田面や菜花の黄★★★★
「乙訓(おとくに)」という地名がいい。乙訓郡(おとくにぐん)は京都府(山城国)の郡で、乙訓は、7世紀に「弟国評」として設置され、「兄国」は葛野郡(現在の京都市西部)だといわれている。(高橋信之)
フラッグの金具高鳴り冴え返る★★★
囀りの呼べば囀り応え居り★★★
3月6日(5名)
●多田有花
春日和山城跡を登りゆく★★★★
春の日の池の辺に広ぐお弁当★★★
風光る摂津山城一望す★★★
●満天星
天空の雲雀の落ちる迅さかな★★★★
私の独りでの散歩が思い出された。四国に住んでいた頃の広々とした郊外の散歩で、その風景は、今なお鮮明である。(高橋信之)
尻白き逆さ泳ぎの鴨のさま★★★
凝然と亀春光へ甲羅向け★★★
●廣田洋一
お土産は桃の一枝甲斐の旅★★★★
いい生活句だ。中七の「桃の一枝」に気取りがない。素直なのだ。(高橋信之)
乙女子の琴の音優し雛祭★★★
吊るし雛謂れを聞きて母想ふ★★★
●小口泰與
棚田へと押し水の音辛夷咲く★★★
逆光に木五倍子の花の鎖樋★★★
カーテンを換える夕べの君子蘭★★★★
●桑本栄太郎
<乙訓の丘の春>
姿なき天の高みや揚雲雀★★★
溝川の丘の田道や春の水★★★
菜の花の甍まぶしき民家かな★★★★
3月5日(6名)
●谷口博望(満天星)
松の木へ水陽炎の閃めけり★★★★
受験後のリズテーラーやまなうらに★★★
野遊の同級生や懐かしき★★★
●小口泰與
たらの芽や田川の水の音迅く★★★
いきいきと朝日出でけりつくつくし★★★★
「つくつくし」は土筆のこと。土筆が生える田や畦など朝日が照らしていきいきと昇ってくる。「いきいきと」が春の生まれたての朝日を言い得ている。溌剌とした佳句。(高橋正子)
花辛夷照る渓流のごうごうと★★★
●多田有花
高枝を囀り集い渡りゆく★★★
それぞれの窓に花あり春の朝★★★★
春光に駆け出すブロンズの乙女★★★
●河野 啓一
点滴の針に悩める春の昼★★★
木陰にも土筆たんぽぽすみれ草★★★
瀬田しじみ有り難きかな到来す★★★★
瀬田しじみは冬に旬を迎える、緑がかった厚みのある殻が特徴の琵琶湖水系に育つ蜆。市場では年々少なくなっていて残念だが、出汁は特別においしいそうだ。その蜆をいただいて、出汁に顔がほころんでいる啓一さんが思い浮かぶ。体中に蜆汁の温みが行き渡るようだ。(高橋正子)
●廣田洋一
裏富士や紅梅の上に聳えをり★★★★
「裏富士」は一般には山梨県側から見た富士山のこと。「裏」というのは決して負のことではなく、文学的には、「表富士」よりはるかにニュアンスに富んでいる。この句も「裏富士」の翳りが効いた。それを「紅梅」が華やにしている。このバランス感覚が素晴らしい。(高橋正子)
黄梅やなだれ咲きたる山の裾★★★
白砂利に鬼瓦黒く光りけり★★★
●桑本栄太郎
乙訓の白壁土蔵や菜花咲く★★★★
丘上のマルチふくらみ風光る★★★
収穫の何やらありぬ春の畑★★★
3月4日(5名)
●多田有花
U字管はずし清掃春の昼★★★
さっきまで確かに春の夢の中★★★
日差しある中に来たりし春しぐれ★★★
●小口泰與
谷川の声高らかや犬ふぐり★★★★
子どものころ、犬ふぐりが咲くのが大変楽しみだった。今もそれは今もかわらないが、雪解けの水に谷川の水が高らかに鳴る。まさに春の到来だ。(高橋正子)
芝焼くや赤城は雲の意にそえり★★★
あけぼのや紫紺の幕の寺の春★★★
●廣田洋一
暖かや手袋はずし大手振る★★★★
暖かくなると、心身が伸び伸びする。手袋ももういらない。歩くときも大手を振って歩いている。春はいい。(高橋正子)
暖かや縁側の陽に手をかざす★★★
口開けてせめぎ合う鯉暖かし★★★
●谷口博望 (満天星)
凝然と亀春光に背を向けて★★★
せせらぎの音やわらかや水温む★★★
鳥の来て河津桜へ宙返り★★★★
●桑本栄太郎
芽柳の風誘い居り土手を行く★★★
囀や下枝揺れいるこきざみに★★★
チャイム鳴り午後の始業や春の昼★★★★
3月3日(6名)
●多田有花
善哉を昼餉に食す春浅し★★★
春眠の深き底より浮き上がる★★★
咲く梅と散りゆく梅と並び立つ★★★★
●谷口博望 (満天星)
美少女のリズテーラーや受験あと★★★
野遊の同級生の顔と顔★★★
黄の紋の河原鶸来て遠眼鏡★★★★
●小口泰與
渓流の奔るや小鮎遡上せる★★★
風おらび牧を怯ます柳の芽★★★
啓蟄や園庭走るひも電車★★★★
●廣田洋一
平安雛てふ内裏雛飾りけり★★★
子の嫁ぎ寂しさ癒す雛祭★★★★
内裏雛小さく飾る部屋の隅★★★
●桑本栄太郎
立子忌の土手の土筆を探しけり★★★★
「立子」、「土筆」と並べば、立子の次の句を思い出す。「まゝ事の飯もおさいも土筆かな」。この句を思って作者も土手の土筆を探したのであろうが、うららかな春の日が昭和時代を思い出させる佳句。(高橋正子)
夜もすがら燈をともし居り雛の夜★★★
土くれを掘りて戻して春の闇★★★
●川名ますみ
誰も彼も春のひかりの中に居り★★★★
長い冬から抜けて暖かい春が来ると、誰もが外へ出たくなる。誰も彼もが「春のひかり」の中にいて、大げさに言えば、命のあることを楽しんでいるようだ。(高橋正子)
雛飾る母のしろき手静かな日★★★
目覚めれば車窓に白き返り花★★★
3月2日(4名)
●多田有花
三月始まる勧誘の電話より★★★
施肥すべく牛糞の袋梅林に★★★★
花を咲かせ、実が結ぶためには、土の栄養となる肥料がいることは自明。施肥用の牛糞と梅林との取り合わせに力強い現実がある。(高橋正子)
梅の花に向けて並びし望遠レンズ★★★
●小口泰與
残雪の山を従え帰雁かな★★★★
雁は、残雪の山を越え、やがて高く遠く帰ってゆく。別れのさびしさを残雪の山が象徴している。(高橋正子)
面影の薄れる日々や桃の花★★★
雲脚の重きや利根川(とね)は雪解風★★★
●廣田洋一
雛壇に蛤の汁供へけり★★★★
蛤汁紅白の麩の色を添へ★★★
蛤や酒蒸しにして酒の友★★★
●桑本栄太郎
歩こう会思いおもいの春帽子★★★★
「歩こう会」という会がある。グループで目的地を決めて歩く。歩くだけでなく、道中も、目的地でも、いろいろの
楽しみがあって、帽子も思いおもい。「春帽子」いい。明るく軽快だ。(高橋正子)
喚声のゲートボールや春きざす★★★
春の夢何処か遠くに来て居りぬ★★★
3月1日(4名)
●小口泰與
魔の山をごうごうと打つ雪崩かな★★★
仰せの如く一群の蕗の薹★★★
おおらかに榛名山(はるな)へ没るる春の月★★★★
●廣田洋一
ちょんちょんと歩く練習春の鳥★★★
高き枝に巣をかけたるや春の鳥★★★
春の鳶ゆるき高さに旋回す★★★★
●多田有花
如月の三日月へ車走らせる★★★
沈みゆく三日月二月終わりけり★★★
新たまねぎさくさく刻み三月に★★★★
●桑本栄太郎
ふと見上ぐ窓の蒼さや三月に★★★
春ざれや孫のくせ毛の吾に似て★★★★
ぽつぽつと里に灯ともる春の闇★★★
コメント