12月10日(3名)
●小口泰與
粕汁や書肆より戻る夕まぐれ★★★
蒟蒻を煮詰めておりぬ虎落笛★★★
星数多けんちん汁を妻と食む★★★★
星が沢山煌めく夜は寒い。体の温まるけんちん汁を妻と啜る夕餉にも、詩情がある。余談だが、けんちん汁は鎌倉の建長寺から始まったと聞いている。(高橋正子)
●廣田洋一
棄畑の風に耐えたる枯芒★★★★
朝日浴び小穂光る枯芒★★★
流れ行く川を眺めて枯尾花★★★
●桑本栄太郎
マスク子や帽子被れば怪人に★★★
ちり鍋を得意料理と妻自慢★★★
名店の酢茎添えらる夕餉かな★★★★
酢茎は京都の漬物を代表するもの。温かい白いご飯添える名店の酢茎は、何よりのご馳走となる。(高橋正子)
12月9日(4名)
●廣田洋一
日米の遺族が献花開戦日★★★★
戦の種蒔く人の有り開戦日★★★
皇居前御苑散策開戦日★★★
●小口泰與
紺瑠璃の山を従え雪浅間★★★
焼芋や風に向かいて帰宅せる★★★
赤松の幹の曲がりや漱石忌★★★★
赤松を庭木としているのを東京あたりでは見かける。赤松の幹に曲がり具合が漱石の小説「坊っちゃん」に出てくるターナー島の松を思わせたのだろう。漱石をしのぶよすがとなった。漱石忌は12月9日。(高橋正子)
●谷口博望(満天星)
開戦日われは満州腹の中★★★
ミサイルの飛んで来るやも年の暮★★★
ザ・マンザイ見とれてをれば湯冷めせり★★★★
●桑本栄太郎
ふるさとの海鳴り遠く波の花★★★
登校の児童口笛しぐれ降る★★★★
のび一つくれて猫ゆく漱石忌★★★
12月8日(4名)
●小口泰與
湯豆腐や平屋住まいの四畳半★★★
賑やかな下校の子らや焼芋屋★★★★
噴煙の白き浅間や冬菫★★★
●廣田洋一
マフラーの結び教へる売子かな★★★
朝闇に白きマスクの近づきぬ★★★★
ぐるぐると襟巻まきて夜明け前★★★
●多田有花
笹鳴と列車の音を頂に★★★★
山の頂に聞こえるもの。麓から聞こえてくる列車の音。今いるところで聞こえる早くも鶯のチャッチャッという笹鳴。なんだか頂上は楽しい気持ちになれるところのようだ。(高橋正子)
おおかたは散り尽くしたり冬の山★★★
雪雲の下に隠れし北の山★★★
●桑本栄太郎
固まつて鎌の矜持や枯蟷螂★★★
のつぺ汁食うて二人の夕餉かな★★★★
木々の枝の音の大きく北おろし★★★
12月7日(4名)
●小口泰與
川沿いの軒の氷柱の力瘤★★★
今年また風の中なる年の市★★★★
紅灯の階段街や燗熱し★★★
●廣田洋一
初霜や車の屋根に光りけり★★★★
大雪やコートのライナー取り付ける★★★
車窓の氷溶かして出勤す★★★
●桑本栄太郎
青空のはるか鞍馬は冬かすみ★★★
大雪のひと日晴れ居て暮れ来たり★★★★
24節気の「大雪」。冬至までがこの節気。句に詠まれたこの日はよく晴れて、何事もなく暮れて来た。おおらかな詠みぶりに世は平穏と思える。(高橋正子)
スーパーと云われ探すや冬の月★★★
●多田有花
窓の霜溶かし車を始動する★★★
枯田のうえ高く跨いで高速路★★★
大雪や今日もよく晴れ播磨の野★★★★
「大雪」。この日は山だけでなく雪の降らない地方にも雪になるという寒さ。寒いながらも、瀬戸内海に面した播磨の野は、よく晴れて明るい野として見渡せた。(高橋正子)
12月6日(4名)
●小口泰與
マフラーに赤城の風を乗せて来し★★★
マフラーに赤城の風を乗せて来し男(添削例①)
マフラーに赤城の風の沁みており(添削例②)
元の句は、マフラーをしている人のイメージが湧きにくいです。。
冬帽や湯気の流るる屋台店★★★
熱燗やかの時の夢ふつふつと★★★
●多田有花
冬の夜の霧が教える明日の晴れ★★★
染み透るごとき赤さよ冬夕焼★★★★
寒さが募れば、夕焼は限りなく夕焼けであろうとする。「染み透る赤さ」は冬夕焼を表現して妙。(高橋正子)
冬の月いま山の端を離れおり★★★
●廣田洋一
枯芝の柔らかき土踏みしめる★★★★
芝が枯れる。その上を歩くと足裏に柔らかな感触がある。柔らかく、温かみのある感触だ。(高橋正子)
お濠端濃淡付けし木の葉散る★★★
寒桜芽を膨らませ時を待つ★★★
●桑本栄太郎
ちりちりと満天星つつじや冬紅葉★★★★
冬日さす空にきらめき日照雨(そばえ)降る★★★
あおぞらの京の町家の小春かな★★★
12月5日(4名)
●谷口博望(満天星)
「忖度」の政治で暮るる師走かな★★★
冬麗や弾けて赤き海桐の実★★★
小春日の鴎頭上を煌めけり★★★★
小春日和の港。頭上を鴎が飛ぶが、その白い色が煌めいている。煌めきが何とも愛おしく美しい。(高橋正子)
●廣田洋一
マスク取り列に加わるラジオ体操★★★
道の端木の葉に混じるマスクかな★★★
マスク干す時代遅れの人となり★★★★
●小口泰與
重ね着や彼方に見ゆる寺の門★★★★
何かを主張する句ではないが、重ね着の季節、枯れた風景の中に見える寺の門が印象に残る。なんとはない味がある。(高橋正子)
褞袍着て出づや新聞休刊日★★★
外套や日の出の浅間煌煌と★★★
●桑本栄太郎
青空の京の町家や街小春★★★
冬紅葉散りて一葉や昇降機(原句)
冬紅葉一葉散り来し昇降機★★★★(正子添削)
木枯や風にどよめく竹林に★★★
12月4日(4名)
●谷口博望 (満天星)
冬麗や椋の大樹へ真葛★★★
小春日の輝く瀬戸を小舟行く(原句)
小春日の輝く瀬戸を行く小舟★★★★(正子添削)
句の終わりを名詞で止めると、その名詞が印象的に読み者に伝わります。それと、この句には動詞「輝く」「行く」がありますので、すっきりしません。動詞はなるべく一つに。そうでない場合は工夫を。
冬の夜半スーパームーン眩しくて★★★
●小口泰與
冬の波テトラポットを打ち据えし★★★★
忽然と携帯鳴るや冬籠★★★
小魚を捕らえし瓶の氷面鏡★★★
●廣田洋一
冴ゆる月お湯に浮かびし露天風呂★★★
曇りなき金色に照る冬満月★★★
仰ぎ見る退位のニュース冬の月★★★★
冬の月」は、寒さに澄み渡った空に鋭い光を投げかける。それを仰ぎ見て、天皇陛下の退位のニュースに、感慨深いものを感じたのだろう。(高橋正子)
●桑本栄太郎
干物の満艦飾や冬ぬくし★★★★
日常生活を詠むときは、対象を彫るように言葉にしなければならないむずかしさがある。満艦飾の干し物が冬日に暖かく閃いている。穏やかで元気のある暮らしが見える。(高橋正子)
峰膚の赤く連なり山眠る★★★
嶺の端の茜に沈む冬の暮★★★
12月3日(6名)
●谷口博望 (満天星)
瀬戸の暮対岸の山粧ひて★★★
原生林抜ければ海へ小春空★★★★
浮寝鳥対岸走る救急車★★★
●古田敬二
干し柿にまぶしいほどの朝陽射す★★★★
ヒマラヤの峰のごとくに冬の雲★★★
白鷺の飛び立つ青き冬の空★★★
●廣田洋一
二階より犬の顔出す冬ぬくし★★★
落葉黄葉匂ひかぎつつ犬散歩★★★★
老犬を抱き上げ散歩冬深む★★★
●多田有花
<神戸ハーバーランドクリスマスツリー点灯式三句>
港に立つクリスマスツリー点灯式★★★
満月の下に見上げる聖樹立つ★★★★
点灯された聖樹は神秘的。満月の下の聖樹は、なおさら特別な雰囲気であろう。幸せな絵本を見ているような句だ。(高橋正子)
輝いてハーバーランドの師走の灯★★★
●小口泰與
荒縄の結び目定か冬木立(原句)
荒縄の結び目新し冬木立★★★★(正子添削)
「結び目定か」の「定か」はマンネリになっているので、工夫がいります。
冬木立を支える支柱の縄であろう。新しい縄を結わえていて、その結び目がしっかりとして、新鮮に眼に映る。(高橋正子)
釣上げし鯉冬泉に放ちけり★★★
風物の布を流すや冬牡丹★★★
●桑本栄太郎
峰膚の赤き影置く十二月★★★
嶺の端の赤く連なり能勢の山★★★
むしろ編む父の聞き居り冬怒涛★★★★
12月2日(5名)
●廣田洋一
白々と青空染める冬桜★★★★
風に耐へしやんと伸びける冬桜★★★
咲き満つも色薄きまま冬桜★★★
●小口泰與
冬嶺の一ヶ所のみへ朝日かな(原句)
冬嶺のただ一ヶ所へ朝日射す★★★★(正子添削)
早朝の景色。高い冬の嶺一か所に射す朝日が力強い。自然の力強さに人は力をもらう。(高橋正子)
山肌の崩落の郷冬椿★★★
大利根の川筋ひかり枯芒★★★
●谷口博望 (満天星)
鴨飛べば優しき胸の母の如★★★
鴨飛べば優しき胸を母ゆかし★★★★(正子添削)
木枯や鳶啼きたる鯱瓦★★★
顔白き大鷭を見に冬の堀★★★
●桑本栄太郎
綿虫の肩に触れては舞い上がる★★★
散り積もる落葉を好み踏みゆけり★★★★
冬蜂の当所(あてど)あるかに歩み居り★★★
●古田敬二
石蕗咲けり岬に遠く立つ灯台★★★
妻生れし岬の灯台石蕗の花★★★★
漁船入る水脈カーブして冬の朝★★★
水脈曲げて漁船入りくる冬港(正子添削)
一句に多くのことが入り過ぎですので添削しました。
12月1日(4名)
●古田敬二
霜月の日の出と直面露天風呂(原句)
霜月の日の出に真向かう露天風呂★★★★(正子添削)
冷え冷えとした霜月の朝。露天風呂につかるとちょうど正面に日の出。温かい湯と眩しい朝日は露天風呂の醍醐味。(高橋正子)
霜月の港を出る船入る船★★★
伊勢の海鴨の番いか二つ三つ★★★
●小口泰與
硝子戸に鳥突き当たる冬霞★★★
あかあかと朝日出づるや霜の花★★★★
山上湖冬山影を重ねおり★★★
●廣田洋一
焼鳥の炎上がりて冬の暮★★★★
焼鳥を目の前て焼いてくれる。時々、炎がぱっと上がって、いい匂いが漂う。冬の暮の淋しさを勢いづけてくれる。(高橋正子)
鯛焼や塾帰りの子かぶりつく★★★
駅出でて焼芋の香に誘はれぬ★★★
●桑本栄太郎
<故郷のJR山陰線名和駅>
冬潮の白波怒涛や日本海★★★
冬菊の駅の花壇に濃むらさき
冬菊の濃むらさきなり駅花壇★★★★(正子添削①)
冬菊の濃きむらさきや駅花壇(正子添削②)
「冬菊」と「濃むらさき」が離れているので、イメージがはっきりしません。
乗降のボタン操作やの旅★★★
コメント
御礼
高橋信之先生、正子先生
12月2日の投句「冬嶺」の句を正子先生には素敵な添削をしていただき、その上、今日の秀句にお取り上げ頂き、大変に嬉しく感謝申し上げます。
有難う御座いました。
今後ともよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
御礼
高橋信之先生、正子先生
12月3日の投句「冬木立」の句を正子先生には素晴らしいみずみずしい句に添削して頂き有難う御座いました。
今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。
御礼
高橋信之先生、正子先生
12月6日の投句「マフラー」の句を添削していただき、添削句を二例お示し頂き有難うございました。
今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。