今日の秀句/8月21日~31日

8月31日(1句)
★桜紅葉元治の銘の石鳥居/多田有花
元治(げんじ)の年号は文久と慶應に挟まれた一年だけ。孝明天皇の時の年号で1864 年2月20日~1865年4月7日。その年は池田屋事件、など、幕末の事件がいろいろあった年。その年に建った石鳥居を桜紅葉がかざり、歴史の一幕を見ているようだ。(高橋正子)
8月30日(1句)
★月代やビルの窓々燈がともる/桑本栄太郎
「月代」は、月の出る前に東の空が白んで見えることを言う。そのころちょうどビルには燈がともるころとなり、淡い情感が漂う。(高橋正子)
8月29日(1句)
★深々と切りたる畝や大根蒔く/廣田洋一
早く大根を蒔く時期は、暑さが残る中、9月の声を聞くか聞かないころ。土をよく耕し、大根が深く育つよう畝を高くして種を蒔く。「深々と切りたる」なので、畝が落とす影もよく肥えた土の色も目に見えるようだ。(高橋正子)
8月28日(2句)
★ちちろ鳴く軽トラックの荷台かな/小口泰與
軽トラックは、いろいろ生活に密接に使われる。農作業用にも使われたりするので、収穫した野菜や、農機具などについて荷台に上ったのかもしれない。こんなところでと思う荷台に聞くこおろぎの声に親しさが湧く。(高橋正子)
★熟れ染めし無花果の木の匂いかな/多田有花
無花果が熟れる頃は、「秋暑し」を実感するころ。熟れ始めた無花果の傍を通ると、無花果独特の葉の匂いがする。残る暑さのなかに嗅ぐ匂いに確かに「秋が来ている。(高橋正子)
8月27日(1句)
★白萩の風吹き抜ける手水かな/廣田洋一
白萩と手水の取り合わせが爽やか。白萩を吹いた風が手水の水を揺らす。白萩が、一つ二つ水にこぼれているかもしれない。白萩の清らかさがよく詠まれている。(高橋正子)
8月26日(2句)
★松虫や畑のあわいに山の風/小口泰與
松虫は都市部は聞かれなくなったが、自然ゆかたなところでは、声が楽しめるようだ。畑の作物の間を山からの風が吹いて、その風に乗るように松虫の声が聞こえる。チンチロリンと鳴く声は、山の風にこそ聞けである。(高橋正子)
8月25日(1句)
★露草の青の清しく日の出待つ/多田有花
露草は日の出前に咲き出して、昼頃に花は溶けるように消える。その咲いたばかりのすずやかな青い色で、露草の花は日の出を待っている。きよらかな青さが魅力。(高橋正子)
★自粛せる日毎色濃く無花果かな/廣田洋一
新型コロナウィスルの感染拡大がいつ収束するともわからないこの頃、自粛生活を余儀なくされている。その間にも秋の実りを知らせてくれる無花果が熟れ始めた。たらちねの母を思わせる実にやさしさをもらう。(高橋正子)
8月24日(1句)
★蜩を聞くことなくなり故郷遠し/古田敬二
みんみん蝉が鳴き弱ってくると蜩が鳴きはじめる。蜩の澄んだ声は、水がさざめくようでもある。故郷でよく聞いた蜩も都会暮らしでは聞くこともなくなった。故郷を遠く思うばかりである。(高橋正子)
8月23日(1句)
★葉も毬も栗の木はまだ青きまま/多田有花
今栗の実は育ちの真っ最中。すこし黄ばんだものもあるが、葉の濃いみどりのなかに黄みどりの毬が目立つ。それら濃淡の緑は、「まだ青きまま」の木に夏の名残が見える。(高橋正子)
8月22日(2句)
★コスモスや吹奏楽の音に揺れ/廣田洋一
吹奏楽の練習の音が風に乗り戸外に響いてくる。コスモスは吹奏楽の溌剌とした快い音に合わせるかのように、風に揺れる。初秋の明るい季節が爽やかに詠まれている。(高橋正子)
★声もなし帰燕が二つ空に舞う/古田敬二
これから帰る燕。鳴くこともなく、日本の夏を惜しむように、二羽が空を舞っている。さびしくなるが、また来年の春を待とう。(高橋正子)
8月21日(1句)
★まっすぐに鉄路の伸びる秋の朝/多田有花
秋の朝は、ものがすっきりと見えるのがうれしい。鉄路がまっすぐに伸びているのも爽やかな気持ちにさせられる。余計な語がなく、表現も爽やか。(高橋正子)

コメント

  1. 廣田洋一
    2020年8月24日 9:41

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導頂き有難う御座います。
    8月22日の「コスモスや吹奏楽の音に揺れ」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、誠に有難う御座います。
    今後とも宜しくご指導のほどお願い申し上げます。

  2. 多田有花
    2020年8月24日 16:18

    お礼
    信之先生、正子先生
    「まっすぐに鉄路の伸びる秋の朝」を8月21日の
    秀句にお選びいただきありがとうございます。
    日中の残暑は厳しいですが、早朝は涼しくなりました。
    そんな中散歩しています。
    人影もまばらな町を歩き、ゆっくり線路を見るのも新鮮です。

  3. 多田有花
    2020年8月26日 12:48

    お礼
    信之先生、正子先生
    「葉も毬も栗の木はまだ青きまま」を8月23日の
    秀句にお選びいただきありがとうございます。

    散歩をしている道のそばに栗が生えています。
    すぐ隣に畑と家があるところからそこのお宅の栗かと思います。
    毬がいっぱいに成り、秋の収穫を楽しみにされているのでしょう。

  4. 小口泰與
    2020年8月27日 12:39

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    8月26日の投句「松虫」の句を今日の秀句にお取り上げ頂き、その上正子先生には素晴らしい句評を頂き有難う御座いました。
    今後ともよろしくご指導のほどお願い申し上げます。

  5. 廣田洋一
    2020年8月28日 8:23

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    8月26日の「自粛せる日毎色濃く無花果かな」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、真に有難う御座います。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  6. 多田有花
    2020年8月30日 13:52

    お礼
    信之先生、正子先生
    「熟れ初めし無花果の木のそば通る」を
    「熟れ初めし無花果の木の匂いかな」に添削いただいたうえ、
    8月28日の秀句にお選びいただきありがとうございます。

    日中は厳しい残暑が続きますが、無花果は色づき、
    早いところでは収穫されています。
    「そば通る」はが「匂いかな」となったことにより、
    無花果の実りの実感が濃く伝わるようになったと感じました。

  7. 廣田洋一
    2020年8月30日 18:00

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導頂き有難う御座います。
    8月27日の「白萩の風吹き抜ける手水かな」及び8月29日の「深々と切りたる畝や大根蒔く」を、夫々の日の秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、眞に有難う御座います。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  8. 桑本栄太郎
    2020年8月31日 21:08

    御礼
    高信之先生、正子先生
    8月30日の今日の秀句に「月代やビルの窓々燈がともる」の句を添削の上お選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います。
    夕方用事があり、ベランダにでましたらのぼり始めた月が見えました。