今日の秀句/5月11日~20日


[5月20日]

★山法師吹かれて風の鮮やかに/川名ますみ
山法師の白い花は、平らで空を向いている。遠目には、葉に紛れたように見える。風が吹くと、枝が揺れ山法師の花が鮮やかな白さを見せる。風によって蘇る花。(高橋正子)

[5月19日]

★緑陰となりし車内や並木行く/桑本栄太郎
街路樹の並木をバスで走っているのだろう。その並木の緑色が車内まで差し込んで、車内が緑陰をなった快さ。(高橋正子)

[5月18日]

★蜻蛉生(あ)れぬ緑の池の片隅に/河野啓一
蜻蛉が緑の池の片隅でひそやかに生まれた。生まれるとしばらくは葉に止まり、翅を輝かす。片隅の緑の静謐な空間に透明な翅が輝く命が生まれた。私は、5月15日都内の自然教育園の小さい池の立て札に、しおから蜻蛉とやごが止まっているのを見た。いよいよ夏だ。(高橋正子)

[5月17日]

★輝ける欅若葉や「第九」鳴る/満天星(谷口博望)
欅若葉が美しい季節になった。若葉の美さは、生命の美しさとも言えるほど。そこにベートーベンの第九交響曲が鳴り、「歓喜の歌」が生命を称えていると思える。(高橋正子)

★スコールに包まれ車止めにけり/廣田洋一
スコールはすぐに止む急な大雨。猛烈な勢いで降る雨に前も見えない。スコールにすっぽりと包まれた車。その車の中にいて、スコールに包まれた空間の感覚の経験。経験したものが知る感覚だ。(高橋正子)

[5月16日]

★青葉潮高速艇の水脈長し/谷口博望(満天星)
青葉豊かなころの潮は、緑濃い青い色。高速艇が引く水脈が豊かな潮に長くどんどん伸びてゆく。青葉潮を実感するのは、やはり瀬戸内海であろう。(高橋正子)

[5月15日]

★麦秋や鳩の胸元ふっくらと/小口泰與
「麦秋や」の季語を受けたこの句の鳩は、山鳩のようである。くーくーと胸をふくらまして鳴く鳩に夏のすがすがしさが思われる。(高橋正子)

[5月14日]

★澄む色を取り戻したり夏の川/多田有花
季節は春から夏へ。川は空を映して青く、春の長雨や雪解けの水の濁りもすっかり消えて流れている。涼しそうな澄んだ水の色に、さっぱりとした夏の川となった。(高橋正子)

[5月13日]

★早朝の円形花壇露に濡れ/河野啓一
イメージが鮮明で、広々とした円形花壇の景色がすぐ目に浮かぶ。早朝の爽やかさは何にも代えがたい。露に濡れた花が生き生きとしている。因みに「露」の季語は秋。

[5月12日]

★クレーン伸ぶ如く高々桐の花/佃 康水
高い空を見上げるとき、高々とクレーンが伸びている景色が脳裏に浮かぶのだろう。そのような位置に、今日は薄紫の桐の花が咲いている。現代的な景色と、古典的ともいえる桐の花との取り合わせの妙。(高橋正子)

[5月11日]

★燕来る街道沿いに一直線/河野啓一
燕が街道を知っているとは思えないが、街道に沿えば、邪魔な建物も木々などもなく、どこまでもあのスピードをもって、真っすぐに飛べる。そういう燕に出会えば、こちらまで、爽快になる。(高橋正子)


コメント

  1. 河野啓一
    2016年5月12日 16:47

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月11日の投句「燕来る」を今日の秀句にお採り下され、その上正子先生には素敵なご句評を賜りまして誠に有難うございました。私の住んでおります千里北町からみて箕面の山裾沿いに昔の西国街道「現国道171号線が通っておりますが、まだ田圃が少し残っていますそのあたりで、時に燕の姿を見ることがあります。
    今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。

  2. 佃 康水
    2016年5月13日 19:57

    御礼
    高橋信之先生 高橋正子先生
    5月12日投句の「クレーン伸ぶ如く高々桐の花」を今日の秀句にお選び頂き素敵な句評を賜り誠に有難うございます。先日、呉に用事で出かけた時、車窓からクレーンが何本か並んでいるドックが見え、更に電車が進むと山間に真っ直ぐに伸びた桐の花が高々と咲いていました。その桐の花が今見たクレーンと重なって見えました。

  3. 河野啓一
    2016年5月14日 17:11

    御礼
    高橋信之先生、正子先生

    「早朝の円形花壇露に濡れ」の失敗作を温情を以て今日の秀句にお取り下され、正子先生の温かいコメントを賜りまして誠に有難うございました。今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。

  4. 小口泰與
    2016年5月16日 10:06

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月15日の「麦秋」の句を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素晴らしい句評を賜わり厚く御礼申し上げます。
    今後ともよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
    有難う御座いました。

  5. 満天星
    2016年5月18日 12:00

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月17日の秀句に「欅若葉」の句をお選びいただきありがとうございます。下五の「第九鳴る」は欅若葉の私の独断のイメージで、先生に同感していただいて嬉しくなりました。幹を横に広げて手を挙げるように立ち、、若葉が輝いて歓喜の歌のように見えました。写生句とは言えないので先生には採用していただけないと思っていましたので、想定外で嬉しいです。

  6. 廣田洋一
    2016年5月18日 15:04

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月17日の投句「スコールに」を今日の秀句にお採り下され、その上正子先生には素敵なご句評を賜りまして誠に有難うございました。昔住んだり、出張に行ったりしたアフリカでの経験を思い出して詠んだものです。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  7. 多田有花
    2016年5月18日 17:54

    お礼
    信之先生、正子先生、
    「澄む色を取り戻したり夏の川」を5月14日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    雨が二日続き、川が濁っていました。
    翌日はまだ濁りがありましたが、その次の日には青い流れに戻っていました。
    そこに初夏に日差しが降り注ぎ、きらきらと輝いていました。

  8. 河野啓一
    2016年5月19日 18:32

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月15日「蜻蛉生れぬ」を秀句にお採り下され、その上正子先生には素晴らしいご句評を賜りまして誠に有難うございます。いよいよ夏の到来です。今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。

  9. 桑本栄太郎
    2016年5月20日 18:55

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    5月19日の今日の秀句に「緑陰となりし車内や並木行く」
    の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変
    ありがとうござます。近在のバス通りは開発タウンであり
    街路樹が整備されています。新緑の並木通りを通れば
    バスの中まで鬱蒼とみどり色になります。

  10. 川名ますみ
    2016年5月25日 22:38

    お礼
    信之先生、正子先生、いつも温かいご指導をありがとうございます。
    「山法師」の句に頂戴しましたコメントを、嬉しく拝読しました。通院途中、車窓に見掛けた山法師を、その印象のまま、投句いたしました。山法師の特性まで考えておりませんでしたが、おかげ様で、貴重な勉強の機会を頂きました。感謝申し上げます。