★惜春の日本画に影なかりけり/多田有花
どれかの日本画を思い出してみると、影があるような印象の画もあるが、影というより、陰翳として思い浮かぶ。油絵に比べ平坦な日本画に、逝く春を惜しむ淡い感情が重なって思われる。(髙橋正子)
4月29日(1句)
弥生も今日で終わりかとソファに座って寛いだのだろう。目を窓に移すとカーテンの生地がかろやかな生地に変わっている。気持ちもが夏へと誘われていく。(髙橋正子)
4月28日(1句)
★虎杖のこんな処や石垣に/桑本栄太郎
虎杖は、昭和のころは子どもたちにはお八つ代わりの食べ物であったし、塩漬けにされ貯蔵もされていた。その旺盛な繁殖力で、思わぬところに、石垣の隙間に、逞しく育っている。今それを折りとって食べることもないだろう。(髙橋正子)
4月27日(1句)
★青空や自ずと開くチューリップ/小口泰與
チューリップは、気温の上昇につれて開き、夕方になり気温が下がると閉じる性質がある。晴れて青空の下なら、気温が上昇し、それにつれてチューリップは徐々に、開花する。科学的にはそうだが、「自ずと開く」にチューリップの自然な意思が感じられる。(髙橋正子)
4月26日(1句)
★永き日や書き味のよき万年筆/多田有花
日が永くなった。時間が増えた感じで、追いかけられるような忙しさはない。万年筆で何か書いてみる。書き味のよさにささやかな嬉しさ。「永き日」のおかげ。(髙橋正子)
4月25日(1句)
★姫女苑のうすむらさきや風に酔う/桑本栄太郎
姫女苑の花期(6月~10月)はハルジョオンの花期(4月~7月)に2か月ほど遅れている。似た花であるが、この句では姫女苑が詠まれている。「風に酔う」は感覚的に捉えなければいけないが、心地よい、少し強めの風に身をたくしたように揺れている情景であろう。(髙橋正子)
4月24日(1句)
★春雨やみ筍ご飯炊きあがる/多田有花
春雨に閉じ込めながら、筍ご飯は炊飯中。筍ご飯が炊きあがると同時に春雨があがり、偶然ながらも主役は完全に筍ご飯。舌つづみを打たれたことだろう。
(髙橋正子)
4月23日(1句)
★木洩れ日の影を踏み行く夏近し/桑本栄太郎
木洩れ日の影がちらちら道に落ちると、夏が近いと感じる。木洩れ日の影を踏み行く木下がうれしい。(髙橋正子)
4月22日(1句)
★飛行機雲幾筋集め春の空/多田有花
春の空もいろいろな様を見せる。飛行機雲が幾筋も空に引かれ、自在な線を描いている。ふんわりと消えそうな飛行機雲も、今伸びている飛行機雲も。自由な春の空がいい。(髙橋正子)
4月21日(1句)
★春潮の遥か遠くに隠岐の島/桑本栄太郎
遙か遠くに隠岐の島が見え、日本海には今、春潮が流れている。それだけと言えばそれだけの景色だが、歴史を振り返れば遠流の島である。それ以上に作者にとっては故郷の地から眺められる目に焼き付いた島である。冬の厳しい日本海から変容した春潮の流れる日本海が穏やかで、故郷を甘やかに思い出させている。(髙橋正子)
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