今日の秀句/3月11日-20日

[3月20日]
信号の向こう大きく辛夷咲く/川名ますみ
信号があるからには、交通量のある都会なのであろうが、信号の向こうには大きな辛夷の木があって、真っ白に花をつけている。辛夷の花の向こうには憧れの世界があるようだ。(高橋正子)

中腹に十字架ありぬ山笑う/桑本栄太郎
中腹の十字架に魅かれる。世間と繋がっていて、すこし、世間から離れている。十字架のある山は春の芽吹きに覆われている。やわらかな景色だ。(高橋正子)

[3月19日]
★さみどりとなりし田面や揚ひばり/桑本栄太郎
雲雀が空高く囀り、田にはさみどりに草が萌え、田園ののどかさそのもの。高度情報化社会となった現代も、こうした景色があって、それを句に詠めるのは嬉しいことだ。(高橋正子)

[3月18日]
★芦の角妙義山(みょうぎ)を洗う雨ざんざ/小口泰與
芦の角も山国では、たっぷりと降る雨に見舞われることがある。妙義山を洗うような雨に降られて、本格的な春へと角ぐむが頼もしい。(高橋正子)

★花散らす野鳥つぎつぎ寒ざくら/小川和子
寒ざくらなのに、もう野鳥がつぎつぎに来て花の蜜を吸い、花を啄み散らしている。日本画を見るような優美な世界。(高橋正子)

★陽に揺れて豊かな水や葦芽ぐむ/小西 宏
豊芦原の国と呼ばれる日本。日に揺れる豊かな水に葦が芽ぐみ、水と緑の色が美しい。原初の日本を想起させるようだ。(高橋正子)

★冴え返る五岳見渡す阿蘇のお湯/福田ひろし
温泉に浸りながら、阿蘇五岳を見渡すとゆったりとして、気宇壮大な気分になれそうだ。「冴え返る」冷気には、精神も引き締まるというもの。いいお湯。(高橋正子)

[3月17日]
★草原を一望すれば春の風/河野啓一
「一望」できるときの晴れやかで、のびやかな気持ちは捨てがたいものだ。やわらかな草原の緑、そこを吹く春の風。気持ちもすっかり、やわらかだ。(高橋正子)

★青空よりしだれしだれて枝垂梅/多田有花
枝垂れ梅が「しだれしだれて」、見事な花の盛り。青空と梅の花のみが絵画的に詠まれて、さっぱりとしている。(高橋正子)

[3月16日]
★髪刈って風に吹かれて花だより/河野啓一
髪を刈って風に吹かれる。寒い時なら、首がすくむが、花だよりも聞かれるこのごろ、快い、新鮮な気持ちが湧いてくる。(高橋正子)

[3月15日]
★ 明るさに窓を開けば沈丁花/小西 宏
窓が明るい。外は気持ち良い天気だろうと窓を開けると、沈丁花の香りが漂ってきた。沈丁花の香りは、昔日へのさらりとした懐かしさがある。何気ないところがいい。(高橋正子)

★さくさくと鍬音ひびき風光る/桑本栄太郎
野に出れば、畑をさくさくと耕す鍬の音が聞こえ、風はまだ少し冷たいものの、そよそよと光りながら過ぎる。耳に目に快い春が来ている。(高橋正子)

[3月14日]
★軽やかに春ひびかせて棚田水/小西 宏
棚田に流れ込む水が軽やかに音を立てている。棚田には、うららかに日が差し、畦には草が青く萌えて、そよ風が吹き、「春」を感じさせてれる。そういった春の周囲への水のひびきを「春ひびかせて」とした詩心がいい。(高橋正子)

[3月13日]
★山茱萸の花や和菓子のうす緑/小口泰與
山茱萸の黄色い花が咲くころ、和菓子に使われた薄緑の色が印象的だ。萌えだす草の色、柳の芽、うららかに鳴く鶯など、うす緑を想起させるものがいろいろある。和菓子には、季節折々の風情や情緒が託される。(高橋正子)

★煙突が雲と繋がる春の昼/小西 宏
煙突が吐き出す煙は、雲になるのだろうと子供のころは思った。長閑な春の日、煙突の先は淡い空にぼんやりとなって、空に浮いた雲に繋がっている。こんな写生句は楽しい。(高橋正子)

[3月12日]
★春の夜の鼻歌聞ゆ子供部屋/上島祥子
春の夜、子供もなんとなく楽しいのだろう。鼻歌を歌っている。それを聞く母も安心し、つられて楽しくなる。(高橋正子)

★殊更に目覚め明るき春障子/桑本栄太郎
早春、春を感じるのは朝目覚めたときに障子が殊更に明るいことであろう。白障子が光を通した明るさはことに美しい。(高橋正子)

[3月11日]
★春の雪パッチワークの色合わせ/内山富佐子
春の雪が降り積むなか、パッチワークの色合わせ、春らしい色合わせを楽しみながら、本当の春を待つ作者。雪の日の手仕事が楽しいそうだ。(高橋正子)

★青き踏み弓引き絞る女子高生/佃 康水
弓を引き絞る女子高生の初々しくも、清新な印象が、「青き踏み」によって、強められている。しっかりと焦点の絞られた句だ。(高橋正子)


コメント

  1. 佃 康水
    2015年3月12日 20:25

    御礼
    高橋信之先生 高橋正子先生
    今日の秀句に「青き踏み弓引き絞る女子校生」の句をお選び頂き、又正子先生には素晴らしい句評を賜り誠に有難うございます。励みにさせて頂きます。女子学園の弓道部が良く練習しています。下級生は近くから、高学年のベテランは所定の距離から足を踏ん張って弓を射っています。先生の仰る様に弓道着の生徒たちは萌え出でた草の場所でとても初々しく爽やかに目に映りました。

  2. 内山富佐子
    2015年3月13日 9:50

    お礼
    信之先生、正子先生
    11日の秀句に 「春の雪パッチワークの色合わせ」をお選び下さいまして有難うございます。
    思わぬ厳しい寒波が3日続きましたが、11日の雪はふんわりとまさしく春の雪でした。そんな中母のパッチワークの色合わせの手伝いをしながら、正子先生のおっしゃるように春を待ち望む柔らかい気分になりました。

  3. 桑本栄太郎
    2015年3月13日 16:35

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月12日の今日の秀句に「殊更に目覚め明るき春障子」
    の句をお選び頂き、嬉しいご句評もお添え頂き、大変
    有難うございます。
    日毎に日永になっていますが、三月に入り朝も夜明けが
    少しづつ早くなって来ました。好天気の朝は春障子の
    明かりが殊更明るく覚え、満足の眼ざめを感じます。

  4. 上島祥子
    2015年3月14日 9:57

    お礼
    信之先生、正子先生

    12日の秀句に「春の夜鼻歌聞ゆ子供部屋」 の句をお選び下理、また丁寧な句評を賜りましてありがとうございます。
    子供も中学生となり自室で過ごすことが多くなりましたが、鼻歌が聞こえたりすると安心致します。

  5. 小口泰與
    2015年3月14日 15:46

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月13日の秀句に「山茱萸の花」の句をお取り上げいただき、正子先生には素晴らしい句評をあたわり厚く感謝申し上げます。
    今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。

  6. 小西 宏
    2015年3月14日 17:28

    お礼
    高橋信之先生
    高橋正子先生
    「煙突が雲と繋がる春の昼」を「今日の秀句」にお加え下さり、たいへん有難うございました。正子先生がお書き下さったように、煙突の煙も春の陽気にのんびりと立ちのぼっているように見えます。

  7. 小西 宏
    2015年3月15日 18:36

    お礼
    高橋信之先生
    高橋正子先生
    「軽やかに春ひびかせて棚田水」を「今日の秀句」にお加え下さり、たいへん有難うございました。近所の公園での情景ですので稲作用の棚田ではないのですが、最近また水路が整えられ、軽やかな水音が聞こえてきます。

  8. 桑本栄太郎
    2015年3月16日 17:52

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月15日の今日の秀句に「さくさくと鍬音ひびき風光る」
    の句をお選び頂き、嬉しい過分なるご句評も頂戴し
    まして、大変有難うございます。
    日毎に春めいた陽気となり、散策していますと貸し農園
    より大変心地良い畑打つ鍬の音が爽やかに聞こえて
    来ました。愈々春たけなわを迎えるのかと思えば心も
    躍り来るようです。

  9. 河野啓一
    2015年3月17日 18:34

    御礼
    高橋信之先生。正子先生
    3月16日の今日の秀句に「髪刈って風に吹かれて花だより」をおとり下され、誠に有難うございました。久しぶりの散髪で、花便りを心待ちにする気分もしてまいりました。
    今後ともご指導宜しくお願い申し上げます。

  10. 河野啓一
    2015年3月18日 11:13

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月17日の今日の秀句に「春の風」をお選び下さいまして厚く御礼申し上げます。ふと、以前に旅した阿蘇・草千里の風景を思い出して句作いたしました。正子先生の語句評をありがたく拝読いたしました。
    今後のj励みにさせていただきます。

  11. 多田有花
    2015年3月18日 20:24

    お礼
    信之先生、正子先生、
    「青空よりしだれしだれて枝垂梅」を3月17日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    増位山の山上広場に一本の枝垂梅があります。
    今、満開に近く、下に立って見上げると、青空と花の枝ばかりとなります。

  12. 小口泰與
    2015年3月19日 13:11

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月18日の秀句に「芦の角」の句をお取り上げいただき、その上、正子先生にはうれしい句評をたまわり厚く御礼申し上げます。
    今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。

  13. 小西 宏
    2015年3月19日 16:30

    お礼
    高橋信之先生
    高橋正子先生
    「陽に揺れて豊かな水や葦芽ぐむ」を「今日の秀句」にお加え下さり、たいへん有難うございました。輝く豊かな水と、その中から揃って顔を出す葦の芽に春到来を強く感じました。

  14. 小川和子
    2015年3月19日 21:38

    お礼
    信之先生、正子先生
    18日の秀句に「花散らす」の句をお選び下さり有難うございます。好天に恵まれた18日、新宿御苑に足をのばしてみました。ボカボカ陽気のもと、早咲きのオオカンザクラ、シュゼンジカンザクラなどが満開でした。ソメイヨシノに先だって、このような桜たちがみごとでした。出かけて良かったと思いました。

  15. 福田ひろし
    2015年3月19日 21:53

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    冴え返る五岳見渡す…、を秀句に選んでいただきまして、ありがとうございます。漱石が泊まった内牧温泉の宿を訪ねました。宿には漱石が阿蘇で作った句がたくさんの短冊に書かれ、壁にかけられていました。

  16. 桑本栄太郎
    2015年3月20日 19:38

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月19日の今日の秀句に「さみどりとなりし田面や揚ひばり」の句をお選び頂き、過分なるご句評も頂戴しまして大変有難うございます。
    気温が急激に上がりすっかり春めいた先日、矢も楯も堪らず近在の田園、公園などを散策に出掛けました。田圃には草が萌え、揚雲雀も聞こえ、気の遠くなるほどの長閑かな光景でした。

  17. 桑本栄太郎
    2015年3月21日 18:25

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    3月20日の今日の俳句に「中腹に十字架ありぬ山笑う」
    の句をお選び頂き、嬉しい素敵なご句評も頂戴しまして
    大変有難うございます。
    阪急京都線、JR線のどちらに乗っても大山崎辺りにて
    山の際を通り、中腹に十字架の見える場所を通ります。
    さみどりの濃淡があり、素晴らしい春の山の光景が
    十字架の存在により、印象深くなります。

  18. 川名ますみ
    2015年3月21日 20:47

    お礼
    信之先生、正子先生、いつもあたたかいご指導をありがとうございます。
    正子先生には「信号の向こう大きく辛夷咲く」の句に、私の見たままの情景、そして拙句がすてきに見えるようなコメントを頂きまして、感謝いたします。通院途中の、毎日新聞と皇居のお壕を結ぶ交差点です。仰る通り、交通量のある都会の信号で、長い横断歩道の正面に、お壕端の大きな辛夷の木があります。ちょうど昨日は辛夷が美しく咲いていて、車も横断歩道を渡る人も、辛夷に向かう姿が夢のように映りました。拙い表現からお汲みとり頂き、嬉しく存じます。