今日の秀句/12月1日~10日


12月10日(1句)

★一片の空に雲なし布団干す/古田敬二
「一片の雲が空にない。」冬晴れの申し分のない天気。こんな日には布団を干したくなる。ふくらと日に膨らんだ布団に寝る幸せを思いつつ干す。この句は表現上あれと思うかもしれないが、一片の」で軽く切れが入る。その作者の呼吸とリズムを楽しみたい。(高橋正子)

12月9日(1句)

★漱石忌のそりと動く日向猫/桑本栄太郎
漱石忌に思い浮かぶこと。馴染みのユーモア小説の『吾輩は猫である』もそのひとつ。
日向ぼこをしていた猫が、なにを思ったか「のそりと」動いた。ここが猫らしい行動である。(高橋正子)

12月8日(1句)

★空高く明けの明星開戦日/廣田洋一
今、開戦日として12月8日を思い出す日本人はどのくらいいるだろうか。おおかたの人が戦争を知らない日本になった。、開戦の日を平和への祈りの日として、空高く、明るくかがやく明けの明星を仰いだのだ。(高橋正子)

12月7日(2句)

★森の空透いてくるかな十二月/多田有花
十二月になると、木の葉の落ちるものは落ち、常緑樹は緑をしっかりと樹にまとう。寒冷な空気に森の空は透き通って、枯れ枝の形もあきらかになる。透いてくる森の空は素敵だ。(高橋正子)

★綿虫の日陰より日に浮かびけり/桑本栄太郎
綿虫は日陰では、小さな黒い虫として塊り飛んでいるが、日陰から日向に出ると、ふわふわと浮いたように見える。これこそ綿虫と言いたい様子なのだ。(高橋正子)

12月6日(2句)

★赤き実の目に鮮やかに冬めけり/多田有花
赤い実があると、なにかあたたかい思いがする。鮮やかな赤い実にあたりが冬めいて感じられたのだ。ささやかな赤い実がそうさせた。(高橋正子)

★南座にまねき上がりて酢茎買う/桑本栄太郎
酢茎は京を代表する漬物。南座の顔見世もあり、師走は南座あたりがにぎわう。お土産に酢茎は持ってつけ。
(高橋正子)

12月5日(2句)

★埋火や入日一瞬緋となりぬ/小口泰與
埋火にあたりながら外を眺めていると、入日の時刻。一瞬のことに入日は緋色となった。埋火のぬるい温みと、緋色の入日が。同じ「ひ」を通して対比的に詠まれ、印象の強い句となった。(高橋正子)

★妻の行くおのころ島や蜜柑狩り/桑本栄太郎
おのころ島は、日本の国生みの島として知られる。その島へ蜜柑狩りに妻が出かけた。帰れば、お土産の蜜柑はもちろん、なにかロマンのある話も聞けそうだ。(高橋正子)

12月4日(1句)

★青空に白く光れる冬桜/廣田洋一
冬桜は小さくて、枝にほつほつと咲くので、光が一つ一つの花を包むように注ぐ。「青空に広く光れる」が、まさにその様子を言い得ている。(高橋正子)

12月3日(1句)

★冬うららふたつの橋を望みおり/多田有花
冬のうららかさは、空気が意外と澄んで遠くまではっきり見える。春のうららかさとは違ったところ。ふたつの橋は、瀬戸内海をまたぐ大橋であろう。雄大な景色に気持ちが広がる。(高橋正子)

12月2日(2句)

★境内のもぎたて蜜柑いただきぬ/多田有花
境内に蜜柑を植えていて、もいだばかりをいただいた。お供えのお下がりをいただくときも尊くてありがたい気持ちになるが、そんな気持ちも働いたのだろう。剥くと蜜柑の皮の匂いがぷんと立って、手ずからのありがたさ、あたたかさを思う。(高橋正子)

★街の川鷺の一羽に冬ざるる/廣田洋一
鷺の一羽がいるばかりに、冬ざれの景色がいっそう趣深くなった。もとの句にある「飛び」を省き、鷺の様子は読者に読みを委ねたほうが、景色がはっきりし、格調がでる。(高橋正子)

12月1日(2句)

★笹鳴の聞こえさうなる東慶寺/廣田洋一
東慶寺は、北鎌倉駅近く、大覚寺の向かい側の谷戸にあって、もとは尼寺。境内は狭いが植物がいろいろと細やかに植えられ、よく手入れされている。文人の墓も多い。その東慶寺にたたずむと、笹鳴が聞こえそうな感じなのだ。谷戸の冬枯れが楽しそうだ。(高橋正子)

★水面往く鳥妨げず蓮枯るる/桑本栄太郎
池の蓮が枯れ、その間を縫って鴨など水鳥がすいすい泳いでいる。蓮の枯れ茎などは、ちっとも邪魔にならず、水鳥が泳ぐ支障にはならない。枯蓮も鳥もともに具合がよい。(高橋正子)


コメント

  1. 廣田洋一
    2019年12月4日 8:47

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導いただき有難うございます。
    12月1日「笹鳴の聞こえさうなる東慶寺」を秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、誠に有難うございます。また、12月2日の「街の川鷺の一羽に冬ざるる」を正子先生の添削の上、秀句にお選び頂き、まことに有難うございます。添削のお陰で仰る通りすっきりした句になりました。
    今後とも宜しくご指導の程お願い申し上げます。

  2. 多田有花
    2019年12月4日 12:59

    お礼
    信之先生、正子先生
    「境内のもぎたて蜜柑いただきぬ」を
    12月2日の秀句にお選びいただきありがとうございます。
    散歩に行っている山寺は歴史が古く広い境内があり、
    お世話をされている方が何人かあります。
    蜜柑があることを知りませんでしたが、榊原忠次の墓所横に
    一本の木があり、そこから採られたものでした。
    後で行ってみると、一個だけ蜜柑が残されていました。

  3. 桑本栄太郎
    2019年12月4日 17:37

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月1日の今日の秀句に「水面往く鳥妨げず蓮枯るる」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    高槻の教会へ訪れる途中、かなり時間があり図書館裏の池公園を見学に行きました。水鳥がかなり増え、蓮の枯れて殆ど水没してしまった池を元気に泳ぎ回っていました。

  4. 小口泰與
    2019年12月9日 10:01

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月5日の投句「埋火」の句を秀句にお選びいただき、そのうえ正子先生には素晴らしい句評を頂き感謝申し上げます。こんごともよろしくご指導の程お願い申し上げます。
    ありがとう御座いました。

  5. 廣田洋一
    2019年12月9日 10:41

    御礼
    高橋信之先生
       正子先生
    いつも懇切にご指導頂き有難う御座います。
    12月4日の「青空に白く光れる冬桜」及び12月8日の「空高く明けの明星開戦日」を夫々の日の秀句にお選び頂き、その上正子先生には素敵な句評を賜り、誠に有難う御座います。
    今後とも宜しくご指導のほどお願い申し上げます。

  6. 多田有花
    2019年12月9日 14:46

    お礼
    信之先生、正子先生
    「冬うららふたつの橋を望みおり」を12月3日の
    「赤き実の目に鮮やかに冬めけり」を12月6日の
    「森の空透いてくるかな十二月」を12月7日の
    それぞれ秀句にお選びいただきありがとうございます。

    見通しがよくきく日には増位山の頂から播磨灘全域が見渡せます。
    明石海峡大橋の二本の主塔、淡路島、さらに大鳴門橋、徳島県へと続きます。
    紅葉の季節がそろそろ終わりにさしかかり、
    森の木々も裸のものが増えてきました。
    そうなると、赤い実をつけた木々が目に入るようになります。

  7. 桑本栄太郎
    2019年12月9日 19:37

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月5日の秀句に
    「妻の行くおのころ島や蜜柑狩り」の句を
    12月6日の秀句に
    「南座にまねき上がりて酢茎買う」の句を
    12月7日の今日の秀句に
    「綿虫の日影より日に浮かびけり」の句と
    お選び頂き、それぞれの句に嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    おのころ島は淡路島ですが、妻の友人の別荘と畑のあるところで時折一緒に出掛けています。今回は蜜柑狩りも兼ねていました。
    京都の代表的漬物の酢茎漬けは少し酸味がある美味しいものですが、今頃が旬のようです。
    今の時季は綿虫は盛んに舞っています。日影より日当たりに出て来れば、浮かんでくるようです。

  8. 桑本栄太郎
    2019年12月12日 19:54

    御礼
    高橋信之先生、正子先生
    12月9日の今日の秀句に「漱石忌のそりと動く日向猫」の句をお選び頂き、嬉しいご句評も頂戴しまして大変有難う御座います!!。
    先日の夏目漱石の忌日に、小春日和の中の日向に寛いでいた猫がのそりと動き始めました。犬は北方系の動物ですが、猫は南方系と何処かで見た本を想い出しました。