★うす紙がかりんをかたちのまま包む 正子
○今日の俳句
雲いそぎゆきて水色の秋天/川名ますみ
水色の秋天をいそぎゆく雲がある。天空は、はや晩秋へいそいでいるのであろうか。「水色の秋天」によい感性がある。(高橋正子)
ハワース
★「嵐ヶ丘」はここかと秋冷まといつつ 正子
「嵐が丘」は復讐、愛憎、荒涼、そんな言葉が浮かぶ小説です。その舞台となったハワーズには、冷気に胸をかき抱きたくなるような雰囲気が今も残っているのですね。「ここかと」に、凄まじい物語が生まれた背景を実感として受け止められたことが分かります。ヒースクリフとキャサリンの魂が今も彷徨っているような土地を的確に詠まれていると思いました。(後藤あゆみ)
○今日の俳句
月澄むや長き廊下の消灯す/後藤あゆみ
静まった夜、長い廊下が消灯されて、外には月が澄んでいる。体にずんと染みいるような月明かりである。
○竜胆
野生の竜胆を初めて出会ったのは阿蘇の外輪山の草原であった。二十代のころ九州旅行の途中、阿蘇の外輪山の宿に泊まることがあった。露がかわいたばかりの草原を歩くうちに足元に竜胆が咲いているのが目に入った。天近き草原である。まさかと目を疑ったが確かに竜胆である。その後も松山市から三十キロほどの久万高原町のふるさと村の崖で見た。ひょろりとした茎に紫紺の花が付いている。竜胆もいろいろ種類があるようだ。ある日、PTAの美術クラブで、買ってきた園芸種の竜胆を描こうとして、絵の先生に注意を受けたことがある。作り物はいけない、自然の花のいのちを描けよ、ということだったのだろう。確かに園芸種とは全く違う姿風情。この注意も、野生の竜胆に出会っていたので、本意が多少ともわかったと思う。可憐で色の深さは、誰をも魅了するのだろう。好きな花のひとつである。
コッツワルズ
★水澄んで白鳥軽く流れくる 正子
○今日の俳句
朝霧が包む港に汽笛鳴る/高橋秀之
素直な句で、朝霧に鳴る汽笛がのびやかに聞こえる。朝霧に包まれた港がこれから動き出そうとしているのであろう。(高橋正子)
○野菊
野菊は、野に咲く菊を総じて大まかに言うらしい。最近、野菊の存在を忘れそうになった。野菊について書こうと思い出したのは、イングランドの高速道路わきに、たくさん薄紫の野菊が咲いていたからだ。四国に住んでいたころは、嫁菜が多かった。野紺菊と比べ花弁が欠けたような咲き方をした。野紺菊のほうが、美しい。園芸種の紺菊が栽培されて、ごくごく淡い薄紫の野菊は、最近はまれにしか見ていない。「野菊」と聞けば伊藤左千男の「野菊の墓」を思い出す方もおられようが、今も読まれているのかどうか。そして、次に思い出されるのが、文部省唱歌の「野菊」。すっかり忘れていたが、これもイングランド旅行で記憶が蘇った。
<遠い山からふいて来る
こ寒い風にゆれながら、
けだかく、きよくにほふ花。
きれいな野菊、うすむらさきよ。>
たぶんこうであったろう。「けだかく、きょく」が尊ばれたころの歌。この歌を忘れられると同時にこの価値観も失われたか。イングランドの高速道路の脇に野菊がきれいに咲き残っていたのが、不思議なほどだ。
チェスター
★城塞を歩むと黄葉の樹に触れぬ 正子
イギリスの歴史ある古城を歩むみ、遥かな栄華の歴史を堪能する正子先生とお嬢様の姿が目に浮かびます。素晴らしい景ですね。(小口泰與)
○今日の俳句
嬬恋や窓いっぱいの星月夜/小口泰與
嬬恋の秋の夜は、もう寒さを覚えるほどであろう。窓いっぱいの星月夜に新たな感動が湧く。(高橋正子)
○ルピナス
日本名は「のぼり藤」。藤の花は房となって垂れて咲くが、ルピナスは、藤に似ているが立ち上って咲くのでそう名付けれたと分かる。この花は、あまり好きな花ではないが、西欧人の間では好まれるようだ。例のベンジャミン・フランクリンはこの花が好きで、散歩のときは、ルピナスの花の種をポケットに入れて撒いて歩いたという逸話がある。西欧人は、どうしてこの花が好きなのかその感覚がわからない。画家ではなく、普通の人が絵にもよく描いている。
西欧人が羊歯を描けば、大きな羊歯を描く。英語で羊歯は「ファーン(fern)」だけれど、これはキューガーデンの温室で見たが、アフリカなどにある大きな羊歯だ。茶庭の露地に同じ羊歯でもファーンがあっては、たまったものではない。わたしから見れば、ルピナスはそんな感じだ。色はピンク、むらさきなどいろいろあって、幾分背が高く、優しく揺れる草花の中にすっと立っている姿が風景としてよいのかもしれない。
コッツワルズ
★小さき村貴舟菊をどの家も 正子
長い茎を伸ばし白や赤紫の花が風に揺れている貴船菊は優美で気品を秘めた花ですね。日本では地方によって多様に呼び名を変えて好まれて居る貴船菊。御句と写真からイングランドの小さき村のどの家にも植えられ、庭にしっとりとフィットしている、明るい村をイメージし日本と変わらぬ親しさを感じました。(佃 康水)
○今日の俳句
草原の穂草を子らと飛び立たす/佃 康水
草原に子どもらと遊ぶ。草原は秋草が穂をつけ、絮になっているものもある。踏み込めば絮が飛ぶ。子らの無邪気さ、それを見る目が、草原の穂草の雰囲気とよく合っている。(高橋正子)
○貴舟菊
貴舟菊は、秋明菊とも日本で呼ばれている。白とピンクがあって、庭に数本植えられて、ほかの草花のなかでは背が高く抜き出ている。葉も、花もかわいらしさがあって、名前の貴舟もゆかしく、好まれるようだ。先日のイングランド旅行では、コッツワルズ地方でたくさん見た。日本の貴舟菊と正確には違うのかもしれないが、ぱっとみた印象では貴舟菊のようである。白い花もあるが、ピンクが多くライムストーンの壁によく似合って、数本ではなく、たくさんコスモスを咲かせるように咲かせていた。風景を作る花となっていた。(高橋正子)
★パソコンを消して露散る夜となりぬ 正子
インターネットで俳句の活動を始められた頃の御句でしょうか。パソコンの画面は明るくその奥に果てしない世界が広がっています。電源を落とすと外はもう露散る夜更け。しっとりとした夜の充足感が詠まれています。(後藤あゆみ)
○今日の俳句
竹を伐る空に抜けゆく鉈の音/後藤あゆみ
竹を伐るのは、陰暦の九月がよいとされる。竹を伐る鉈の音が空へ抜ける。「抜ける」が澄んだ高い空をすぐ想像させて、快い緊張を生んでいる。(高橋正子)
○イギリス旅行から帰って、ちょうど2週間になる。心配なことがひとつ。バイブリーで日本へエアメールを出そうと思って切手を買おうとしたが、葉書10枚分しか買えなかった。日本人観光客がたくさん買ったためらしい。買えた分だけ切手を絵葉書に貼ってバーミンガムのホテルのフロントに投函をお願いした。これは無事に着いたようだ。残り5枚の絵葉書に貼る切手は、帰国前々日のヒースローのホテルでようやく手に入ったので、それを貼ってフロントに投函をお願いした。ところが、二週間たっても届かないのだ。我が家宛もあるので、届いていないのは、確かだ。郵便発祥の地のイギリスで、こんなことがあるのか。ホテルがいい加減だったのか。フロントの担当者は、中国系らしい日本語が
話せる男性で、ニコニコして預かってくれはしたが。どこかに放っているのかもしれない。飛行機のクルーも大勢いたし、スポーツ関係の団体もいた。もう届かないのであろう。イギリス旅行の最大のミスである。