3月31日(月)

★花にらはいつも樹のそば垣のそば   正子
花にらは葉に韮や葱の匂いがあり、繁殖が旺盛で植えたままで樹の下や垣根の下にも広がっていく。淡紫色の6弁の花を頂上に一つつける可憐な花ですね。(小口泰與)

○今日の俳句
あけぼのや日ののびていてつくつくし/小口泰與
「日ののびていて」が野原の草の萌え出た緑のやわらかさを想像させる。その中に土筆がのびて、あけぼのの冷たさのなかにすっくと立ちみずみずしい。(高橋正子)

○たらの芽

[たらの芽/横浜日吉本町(左:2014年3月22日・右:2014年3月26日)]

★たらの芽のとげだららけでも喰ひけり/小林一茶
★たらの芽や結城のたより聞えざる/正岡子規
★たらの芽やからびしをれて籠の目に/飯田蛇笏
★たらの芽はつんざくごとし言貧し/加藤楸邨
★みつめゐてまぶしきたらの芽を摘みぬ/加藤知世子
★たらの芽の仏に似たる瀬のひかり/角川源儀
★貨車にあけぼの丘上のたらの芽も/飯田龍太
★たらの芽へ開くトンネル煙まみれ/宮津昭彦

 タラノキ(楤木、桵木、学名、Aralia elata)はウコギ科の落葉低木。新芽を「たらのめ(楤芽)」「タランボ」などと呼び、スプラウトとして食用に販売もされている。テンプラ等に調理される。
 高さは2-4m程度、あまり枝分かれせずにまっすぐに立ち、葉は先端だけに集中する。樹皮には幹から垂直に伸びる棘が多くある。葉は奇数二回羽状複葉で、全長が50-100cmにも達する大きなものである。全体に草質でつやはない。葉柄は長さ15-30cmで基部がふくらむ。小葉は卵形~楕円形で長さ5-12cmで裏は白を帯びる。は全体に毛が多いが、次第に少なくなり、柄と脈状に粗い毛が残る。夏に小さな白い花を複総状につける花序を一つの枝先に複数つける。秋には黒い実がなる。分類上は幹に棘が少なく、葉裏に毛が多くて白くないものをメダラ var. cansecens (Fr. et Sav.) Nakai といい、むしろこちらの方が普通とのことである。現実的には両者混同されていると見るのが妥当であろう。
 タラノキは成長が早いので、地中から新しい枝を生やした時にその先端近くについた芽を採取するのが楽。若い枝はとげがあり直線的にのびるので目に付きやすい。農家で栽培される場合には枝にとげのない種(メタラ)も用いる。新芽の採取時期は桜の8分咲きころに同期しており、里の桜がタラの芽の採取時期でもある。採取は先端から上に向いた1番の芽と、その脇から斜めに伸びる2番程度までとする。
 テンプラにするのが一般的で、口いっぱいにひろがる独特の芳香が特徴的である。単にゆがいておひたしや和え物にしたり、油で炒めて食べてもよい。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月30日(日)

★三椏の花に雲海広がれる  正子
和紙の原料として栽培された三椏。この花が咲いているところは、やや高地なのでしょう。外側より内側が黄色い花が固まって咲く彼方に広がる雲海。心が広々とするような光景です。(多田有花)

○今日の俳句
目の覚めるような菜の花畑かな/多田有花
菜の花畑に行きあうと、そのまっ黄色な菜の花の色に目が覚める。一面の強烈な菜の花の色である。花のいい匂いもしてきそうだ。(高橋正子)

○桜満開

[桜/横浜日吉本町・金蔵寺(2013年3月22日)]_[山桜/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

 水口にて廿年を経て古友にあふ
★命ふたつ中に活たる櫻かな/松尾芭蕉
★さまざまの事おもひ出す桜かな/松尾芭蕉
★寐て聞けば上野は花のさわぎ哉 子規
★けふは外出の桜むらがる町へ/臼田亜浪
★闇の空よりちらちらと花散り来たり 亞浪
★桜昏しはげしき天の白光に/川本臥風   
★青空へまぎれてしまう落花もあり/川本臥風
★わが一本の桜も小さき花ふぶき/川本臥風 
★花ござの藺の香芬々たる上に/川本臥風 
★鳥影の空はつめたし山桜/原田種茅
★村ほろびいきいきと瀬や山ざくら/宮津昭彦
★さくらさくらさくらさくらてのひらに/高橋信之

★花淡し寺の甍がかがやけば/高橋正子
★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ/高橋正子
★子らあそばす丘の平地の桃さくら/高橋正子
★煽られて花のゆるるは大いなる/高橋正子
★山桜根方に小さき泉湧き/高橋正子

▼桜満開:東京も花見客でにぎわう(毎日jp)
 毎日新聞 2013年03月22日 19時49分(最終更新 03月22日 20時18分)
 気象庁が、東京都心で桜(ソメイヨシノ)が満開になったと発表した22日、東京都台東区の隅田公園は夜桜を楽しむ花見客でにぎわった。この日は東京のほか、宮崎、熊本、福岡、高知、横浜でも「満開宣言」。東京は平年より12日早く、1953年の統計開始以降では02年の3月21日に次ぐ2番目の早さだった。気象庁によると、全国的に平年より高い気温が続いたため、満開が早まったという。この日の東京地方は日中の最高気温が18.6度で4月中旬並みの暖かさ。隅田川を挟んで見える東京スカイツリー(墨田区)を背に、ライトアップされた桜が、訪れた人々を楽しませていた。神奈川県茅ケ崎市の会社役員、中西達哉さん(52)は、同僚25人と訪れた。例年4月の花見を開花に合わせて前倒ししたという。「桜にツリー。最高のロケーションです」と笑顔で話していた。【神足俊輔】

▼さくら開花予想2013【3月16日更新】
 今年の桜は、『早く』咲く所が多くなるでしょう。全体的に開花が平年より遅れた『去年よりは大幅に早く咲く』見込みです。13日には九州で開花が始まり、宮崎・大分・鹿児島など各地で過去最早記録となっています。東京でも16日に過去最早タイで開花しました。
 この冬は寒さが続いたため、桜の花芽がスムーズに休眠から覚めた地域が多いと考えられます。
 3月初めまでは気温が低く出遅れていたものの、3月6日ごろからは平年を大幅に上回る気温の日が続き、この先も寒の戻りは少ないとみられます。このため、桜の開花は早めの所が多くなりそうです。(ウェザーマップ「さくら開花予想2013」より)

▼サクラ(桜)は、バラ科サクラ属サクラ亜属 Prunus subg. Cerasus (またはサクラ属 Cerasus に分類)の樹木の総称である。日本においてはサクラは開花が話題となる点において、他の植物とは一線を画す存在である。現在ではメディアなどで俗に、単に「桜」と言うと、桜の中で極端に多く植えられている品種のソメイヨシノの事を指すことも多い。
 春に白色や淡紅色から濃紅色の花を咲かせる(桜色)。花は日本では鑑賞用途としては他の植物に比べ、特別な地位にある。果実を食用とするほか、花や葉の塩漬けも食品などに利用される。日本国外においては、一般的に果樹としての役割のほうが重視された。園芸品種が多く、花弁の数や色、花のつけかたなどを改良しようと古くから多くの園芸品種が作られた。日本では固有種・交配種を含め600種以上の品種が確認されている。とくに江戸末期に出現したソメイヨシノ(染井吉野)は、明治以降、日本全国各地に広まり、サクラの中で最も多く植えられた品種となった。
 日本では平安時代の国風文化の影響以降、桜は花の代名詞のようになり、春の花の中でも特別な位置を占めるようになった。桜の花の下の宴会の花見は風物詩である。各地に桜の名所があり、有名な一本桜も数多く存在する。サクラの開花時期は関東以西の平地では3月下旬から4月半ば頃が多く、日本の年度は4月始まりであることや、学校に多くの場合サクラが植えられていることから、人生の転機を彩る花にもなっている。日本においては、サクラは公式には国花ではないものの、国花の一つであるかのように扱われている。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月29日(土)

★若きらへ菜の花サラダ色淡し  正子
お若い方たちのためにお出しする、菜の花のサラダ。色どりも春らしい季節の一品で、できればレシピを教えていただきたいようなサラダです。(小川和子)

※菜の花サラダ:菜の花をゆでて、氷水に入れ、しゃっきりさせます。そのあと水気をしぼって、3センチぐらいに切ってほぐしたカニかまぼこと混ぜ、昆布ぽんずで和えてできあがり。色どりもきれいで簡単です。お試しください。

○今日の俳句
春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)

○李(すもも)の花

[李の花/横浜日吉本町(左:2014年3月28日・右:2010年3月18日)]

★咲きすてし片山里の李かな/高濱虚子
★雪ふりて又新暖の花すもも/飯田蛇笏
★花すもも産湯の井戸の水濁る/角川源義
★山国に咲きて李よ雲まとふ/大野林火
★まづ隠す李の花や雲行きて/水原秋櫻子

 スモモ(李、酢桃、学名:Prunus salicina)はバラ科サクラ属の落葉小高木。また、その果実のこと。中国原産。
 スモモの果実はモモに比べて酸味が強いことが、和名の由来となっている。漢字では「李」とも書かれる。英語では「prune(プルーン)」、「plum(プラム)」などと呼ばれる(ただしウメも「プラム」と呼ばれることがある)。地域によっては、ハダンキョウあるいはハタンキョウ(巴旦杏)とも呼ばれるが、同じく巴旦杏と呼ばれるアーモンドとは別種である。古くから日本に伝わっており、和歌などにも詠まれる。農園で栽培される他、自生しているものもある。
 花期は初春で白い花が咲く。花芽分化は7 – 8月頃。果実はスモモ系は6月下旬から8月中旬、プルーンの系統は9月頃収穫できる。果実は紅や黄色、果肉は淡黄色や紅色など品種によって異なる。代表的な品種としては「大石早生」、「ソルダム」、「サンタローザ」、「メスレー」、「太陽」など。比較的新しい品種では「紫峰」、「月光」、「貴陽」、「秋姫」、「いくみ」などがあり、これらの品種は従来種より糖度が高く、生食用に品種改良されている。葉が紅色のハリウッドは受粉樹に向く。スモモは自分の花粉では結実しにくい自家不和合性なのでほとんどの品種で受粉樹が必要である。日本での主産地は山梨県など。
 桃とは異なる種で、同じバラ科サクラ属の梅、杏、桃の花粉を利用して人工授粉させることができる。長果枝は開花しても結実しにくいので、中短果枝および花束状短果枝を出させる剪定を冬季に行う。開花期に霜に当たると、不完全花となり結実しないため、開花時期に晩霜に遭わない地域が適する。成木なのに収量が少ないのは受粉樹が近くにない・受粉樹との相性が悪い・低温晩霜に当たったのが原因と考えられる。発芽する前に石灰硫黄合剤を散布して葉や果実が膨れ上がるふくろみ病を防ぐ。アブラムシ・カイガラムシ・イラガ等がつく。

◇生活する花たち「犬ふぐり・たらの芽・桜」(横浜日吉本町)

3月28日(金)

★鈍行の列車に剥ける春卵  正子
列車の旅の愉しみの一つは、お弁当ですね。殊に、鈍行の列車は時間があり、おやつに茹でた卵を剥く時は、一段と幸せな心地に。春なればこそ、白い殻がより明るく、そして、ひときわ軽やかな音を立てて割れたろう、と想像いたします。(川名ますみ)

○今日の俳句
あたたかやアイロン台に白きもの/川名ますみ
あたたかい日差しのなかにアイロン台の白いものは、シャツだろうか、シーツだろうか。白い色がうれしい季節が来ている。(高橋正子)

○馬酔木(あせび)

[馬酔木/横浜日吉本町]

★水温む奈良はあせぼの花盛り/原石鼎
★旅かなし馬酔木の雨にはぐれ鹿/杉田久女
★春日野や夕づけるみな花馬酔木/日野草城
★はしり咲く馬酔木の花の壺のしろ/五十崎古郷
  砥部
★馬酔木咲くわが家の屋根の低かりし/高橋正子
  銀閣寺
★馬酔木咲く道を選べば山路めく/高橋正子

 馬酔木(アセビ、学名:Pieris japonica subsp. japonica、異名:Andromeda japonica Thunb.)は、ツツジ科アセビ属の低木で日本に自生し、観賞用に植栽もされる。別名あしび、あせぼ。本州、四国、九州の山地に自生する常緑樹。やや乾燥した環境を好み、樹高は1.5mから4mほどである。葉は楕円形で深緑、表面につやがあり、枝先に束生する。早春になると枝先に複総状の花序を垂らし、多くの白くつぼ状の花をつける。果実は扇球状になる。しかしこの種は有毒植物であり、葉を煎じて殺虫剤に利用される。有毒成分はグラヤノトキシンI(旧名アセボトキシン)。
 馬酔木の名は、馬が葉を食べれば毒に当たり、酔うが如くにふらつくようになる木という所からついた名前であるとされる。 多くの草食哺乳類は食べるのを避け、食べ残される。そのため、草食動物の多い地域では、この木が目立って多くなることがある。たとえば、奈良公園では、シカが他の木を食べ、この木を食べないため、アセビが相対的に多くなっている。逆に、アセビが不自然なほど多い地域は、草食獣による食害が多いことを疑うこともできる。

◇生活する花たち「花桃・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

3月27日(木)

★夜桜にオリオン星雲浮いてあり  正子
子供の頃には東京でもオリオン星雲を肉眼で見ることが出来ました。ただぼんやりと、見えた気になっていただけなのかもしれませんが。春の夕には、オリオン座が西空に消え残ります。おぼろげな有様、やがて沈みゆく儚さなど、夜桜と星雲との対比が印象的です。(小西 宏)

○今日の俳句
陽の庭に白木蓮の花浮かぶ/小西 宏
さんさんと太陽が降り注ぐ庭に、白木蓮が鮮やかに咲いている。庭の陽のあまりの明るさに、花は「浮かぶ」感じだ。白木蓮の花の姿をよく表している。(高橋正子)

○犬ふぐり(オオイヌノフグリ)

[犬ふぐり(オオイヌノフグリ)/横浜日吉本町]

★陽は一つだに数へあまさず犬ふぐり/中村草田男
★構想をまとめ返す歩犬ふぐり/稲畑汀子
★眼を閉ぢて数ふやしけり犬ふぐり/鷹羽狩行
★東京へ歩いてゐるやいぬふぐり/岸田稚魚
★ゆきすぎて胸の微光はいぬふぐり/林翔
★ふかぶかと春の露おくいぬふぐり/瀧春一
★馬とびの馬のつぶれて犬ふぐり/小沢昭一

オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢、学名 Veronica persica)とはオオバコ科クワガタソウ属の越年草。別名、瑠璃唐草・天人唐草・星の瞳。路傍や畑の畦道などに見られる雑草。
 ヨーロッパ原産。アジア(日本を含む)、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカに外来種(帰化植物)として定着している。日本では全国に広がっており、最初に定着が確認されたのは1887年の東京である。
 早春にコバルトブルーの花をつける。まれに白い花をつけることがある。花弁は4枚。ただしそれぞれ大きさが少し異なるので花は左右対称である。花の寿命は1日。葉は1–2cmの卵円形で鋸歯がある。草丈10–20cm。
 名前のフグリとは陰嚢の事で、実の形が雄犬のそれに似ている事からこの名前が付いた。ただし、これは近縁のイヌノフグリに対してつけられたもので、この種の果実はそれほど似ていない。したがって正しくはイヌノフグリに似た大型の植物の意である。
犬ふぐりは、一般にはオオイヌノフグリをさす。俳句で詠まれている「犬ふぐり」の殆どが「オオイヌノフグリ」であり、在来種の「犬のふぐり」を見かけることは少ない。 

◇生活する花たち「しでこぶし・山吹・桜」(横浜市港北区下田町)

3月26日(水)

★宵風の白みて強し犀星忌  正子
穏やかな中にも、そこはかとなく感傷を誘う「犀星忌」の宵の情景です。「白みて強し」と捉えられた宵風に、不遇な境遇を不屈の精神で乗り越え、文学の道を歩んだ犀星を彷彿と感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)

○三椏(みつまた)

[三椏の花/横浜・四季の森公園]

★三椏や皆首垂れて花盛り/前田普羅
★三椏の咲くや古雪に又降りつむ/水原秋櫻子
★三椏の花に暈見て衰ふ眼/宮津昭彦
★三椏やひそかに期することのあり/能村研三
★三椏の花の眠たくなる黄色/大橋敦子
★咲き終りても三椏の花なりし/稲畑汀子
★三椏の花じやんけんを繰り返す/大串章

ミツマタ(三椏、学名:Edgeworthia chrysantha)は、ジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木。中国中南部、ヒマラヤ地方原産。皮は和紙の原料として用いられる。
 ミツマタは、その枝が必ず三叉、すなわち三つに分岐する特徴があるため、この名があり、三枝、三又とも書く。中国語では「結香」(ジエシアン)と称している。春の訪れを、待ちかねたように咲く花の一つがミツマタである。春を告げるように一足先に、淡い黄色の花を一斉に開くので、サキサクと万葉歌人はよんだ(またはサキクサ:三枝[さいぐさ、さえぐさ]という姓の語源とされる)。園芸種では、オレンジ色から朱色の花を付けるものもあり、赤花三椏(あかばなみつまた)と称する。
 和紙の原料として重要である。ミツマタが和紙の原料として登場するのは、16世紀(戦国時代)になってからであるとするのが一般的である。しかし、『万葉集』にも度々登場する良く知られたミツマタが、和紙の原料として使われなかったはずがないという説がある。

◇生活する花たち「辛夷・花水木・柳の花」(横浜都筑・ふじやとの道緑道)

3月25日(火)

★春の蕗提げしわれにも風が付く  正子
蕗は手折る時から或いは提げた時から香しい匂が漂ってきます。蕗を手にされた作者は主婦として色々なお料理を思い浮かべ「何を作ろうか?」などと楽しんで居られる姿を思い浮かべます。蕗のあの独特な風味、食感が味わえる美味しいお料理が食卓に並ぶ事でしょう。(佃 康水)

○今日の俳句
チェロの夕果てて仰げば春の月/佃 康水
チェロの演奏会が果て、余韻を引いて外に出れば春の月が出ている。「秋の月はさやけさを賞で、春の月は朧なるを賞づ」と言われるが、「澄んであたたかい感じ」の春月もよい。チェロの余韻が広がる。(高橋正子)

○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)

[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂

★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子

日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。

 ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
 条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
 古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。

◇生活する花たち「山桜・やまるりそう・すみれ」(東京白金台・自然教育園)

3月24日(月)/彼岸明け

★片栗の花と光とせめぎあう  正子
片栗の花は日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返り、日差しがない日は終日花が閉じたままであるそうです。まさに花と光がせめぎあい、春の日差しのありがたさを感じさせてもらえるようです。 (高橋秀之)

○今日の俳句
左胸に花を挿したる卒業生/高橋秀之
卒業生の左胸を飾る花。卒業を祝う花を一人一人が付けてもらって、誇らしく卒業してゆく。皆の祝意の籠った花だ。(高橋正子)

○連翹(れんぎょう)

[連翹/横浜日吉本町] 

★連翹や真間の里びと垣を結はず/水原秋桜子
★連翹の一枝づつの花ざかり/星野立子
★連翹のこぼれもあへぬ別れかな/中川宋淵
★連翹の黄が咲き誇るアジアの端/高橋正子

  レンギョウ(連翹)とは、広義にはモクセイ科レンギョウ属(学名: Forsythia)の総称(それらから品種改良で作られた園芸品種をも含める)。狭義には、レンギョウ属の種の一つ、学名 Forsythia suspensa の和名を指す。一般には広義の意味で称されることが多い。
 狭義のレンギョウ(連翹、学名: Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl)は、モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木広葉樹。別名、レンギョウウツギ(連翹空木)。古名は、いたちはぜ、いたちぐさ。中国名は黄寿丹。英名はゴールデンベル (golden bells, golden bell flower)。種小名の suspensa は、枝が“垂れる”意味である。雌雄異株。
 繁殖力が旺盛で、よく繁る。樹高は1 – 3mまで育ち、半つる性の枝は湾曲して伸び下に垂れ、地面に接触すると、そこからも根を出し新しい株ができる。枝は竹のような節を持つ。また、枝の髄が早期に消失するため、節の部分を除いて中空になる(このことから“空の木”、レンギョウウツギ(連翹空木)という別名が付いた。この呼称は最初、本来の連翹(トモエソウ)との誤用に気付いた時、区別するために使われた)。まだ葉が芽吹く前の早春(3 – 4月頃)、2 – 3cmの黄色い4弁の花が、細い枝に密に多数開く。その花が咲き終わる頃、入れ違うかのように今度は、緑色の葉(長さ3 – 10cm、幅2 – 5cmの長卵型。葉先は鋭尖で、葉縁にまばらな鋸歯がある)が対生に芽吹き、それが秋になると濃緑色、概憤色(くすんだ黄緑色)、紫色と順に変色し、最後に落葉する。付いた果実は漢方薬として用いられる。中国原産。日本への渡来は古く、『出雲風土記』や『延喜式』にもレンギョウの名前が見られる(薬用として平安時代初期に渡来したといわれているが、実際に渡来した時期は定かではなく、江戸時代前期に栽培の記録があることから、江戸時代だという説もある)。
 4月2日は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883年 – 1956年)の命日で、これを連翹忌とも呼ぶ。これは、高村が生前好んだ花がレンギョウであり、彼の告別式で棺の上にその一枝が置かれていたことに由来する。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月23日(日)

★雪割草のひらく時きて日があふる  正子
日が当たり、 小さな花の雪割草が咲きだしました。可憐な花の誕生です。(祝恵子)

○今日の俳句
少年の釣りし春鯉リリースす/祝恵子
少年の初々しさが「春鯉」とよくマッチしている。釣った鯉をリリースするのも少年らしいことと思った。(高橋正子)

○木五倍子(キブシ)の花

[木五倍子の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★谷かけて木五倍子の花の擦れ咲/飯島晴子
★山淋し木五倍子がいくら咲いたとて/後藤比奈夫
★雨ながら十々里が原の花きぶし/古館曹人
★源流はもとより一縷木五倍子咲く/大岳水一路
★身心を山に置いたる花木五倍子/各務耐子
★木五倍子咲く地図には載らぬ道祖神/北澤瑞史

★木五倍子の花風あるかぎり揺れており/高橋正子
★里山の目を遣るところ木五倍子咲く/高橋正子

キブシ(木五倍子、学名:Stachyurus praecox)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木。別名、キフジともいう。樹高は3m、ときに7mに達するものもある。3-5月の葉が伸びる前に淡黄色の花を総状花序につける。長さ3-10cmになる花茎は前年枝の葉腋から出て垂れ下がり、それに一面に花がつくので、まだ花の少ない時期だけによく目立つ。花には長さ0.5mmの短い花柄があり、花は長さ7-9mmの鐘形になる。萼片は4個で内側の2個は大きく花弁状、花弁は4個で花時にも開出せず直立する。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。雌花、雄花とも雄蕊は8個、雌蕊は1個あるが、雌花の雄蕊は小さく退化している。葉には長さ1-3cmの葉柄があり、互生する。葉は長さ6-12cm、幅3-5cm、葉身は楕円形または卵形で、先端は鋭形または鋭尖形、基部は円形、切形または浅心形になり、縁には鋸歯がある。果実は径7-12mmになる広楕円形、卵形または球形で、緑色から熟すと黄褐色になる。和名は、果実を染料の原料である五倍子(ふし)の代用として使ったことによる。
 日本固有種で、北海道(西南部)、本州、四国、九州、小笠原に分布し、山地の明るい場所に生える。成長が早く、一年で2mくらいは伸びる。先駆植物的な木本で、荒れ地にもよく出現する。生育環境は幅広く、海岸線から内陸の川沿いまで見られる。

◇生活する花たち「辛夷(こぶし)・木瓜・ミツバツツジ」(横浜日吉本町)

3月22日(土)

★水菜洗う長い時間を水流し  正子
春野菜の水菜は漬物にしたり煮物にしたりして食するがサラダ風にして食べてもおいしい。その水菜をぬるんできた水で時間をかけてあらう。冬の間の冷たい水と違って手先に気持ちの良い水で
時間を掛けて洗う。春到来を喜ぶ主婦の気持ちを表している句である。(古田敬二)

○今日の俳句
いぬふぐり咲きそろいけり陽は十時/古田敬二
春の日の、午前十時の陽はうらうらと輝き、新鮮である。その陽に照らされて、いぬふぐりの青い小花が咲きそろう。なんとうららかな春の景色だろう。(高橋正子)

○片栗の花

[片栗の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★片栗の一つの花の花盛り/高野素十
★片栗の花を見しより旅心/稻畑汀子
★西行の出家の寺に片栗咲く/松崎鉄之介
★かたくりの明日ひらく花虔しき/石田あき子
★山の風山を出るまで片栗に/古川忠利
★片栗の一群に日の留まりぬ/橋本順子
★里山にかたくりの咲く頃となる/家塚洋子

★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子
★片栗の花と光とせめぎあう/高橋正子

 カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
 早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。
 早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。

◇生活する花たち「桜開花・土佐水木・白れん」(横浜日吉本町)