10月21日(月)

★大寺の水あるところ水澄んで   正子
静かな寺の境内には、手や口を清める水があり、また池があります。その水面には青空が映り、美しく輝いています。どこからか鐘の音も聞こえてくるようです。 (井上治代)

○今日の俳句
新涼や樹間の空の青深し/井上治代
新涼の季節、空をゆっくりと眺めることができるようになり、早も青が深くなった。空の青に魅了される新涼である。(高橋正子)

○柿

[柿/横浜日吉本町]

★祖父親まごの栄や柿みかむ 芭蕉
★柿主やこずゑは近きあらし山 去来
★柿の葉の遠くちりきぬ蕎麦畠 蕪村
★残る葉と染かはす柿や二ツ三ツ 太祇
★渋柿や嘴おしぬぐふ山がらす 白雄
★渋いとこ母が喰ひけり山の柿 一茶
★柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
★此里や柿渋からず夫子住む 漱石
★草の家に柿十一のゆたかさよ 龍之介

★渋柿の滅法生りし愚さよ/松本たかし
★西へ行く日とは柿山にて別る/山口誓子
★柿もぐや殊にもろ手の山落暉/芝不器男
★老い母は噂の泉柿の秋/草間時彦
★店の柿減らず老母へ買ひたるに/永田耕衣
★雨降つて八犬伝の里に柿/大串 章
★柿二つ読まず書かずの日の当り/小川双々子
★柿むいて今の青空あるばかり/大木あまり
★換気孔より金管の音柿熟るる/星野恒彦
★柿博打あつけらかんと空の色/岩城久治
★母よりの用なき便り柿の秋/西山春文
★柿ひとつ空の遠きに堪へむとす/石坂洋次郎
★柿熟れる朝空晴れて濃き青に/高橋信之

 カキノキ(柿の木)とはカキノキ科の落葉樹である。東アジアの固有種で、特に長江流域に自生している。熟した果実は食用とされ、幹は家具材として用いられる。葉は茶の代わりとして加工され飲まれることがある。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられ。現在では世界中の温暖な地域(渋柿は寒冷地)で果樹として栽培されている。
 雌雄同株であり、雌花は点々と離れて1か所に1つ黄白色のものが咲き、柱頭が4つに分かれた雌しべがあり、周辺には痕跡的な雄しべがある。雄花はたくさん集まって付き、雌花よりも小さい。日本では5月の終わり頃から6月にかけてに白黄色の地味な花をつける。果実は柿(かき)と呼ばれ、秋に橙色に熟す。枝は人の手が加えられないまま放って置かれると、自重で折れてしまうこともあり、折れやすい木として認知されている。
 日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われている。英語で柿を表す「Persimmon」の語源はアメリカ合衆国東部の先住民であるアルゴンキン語族の言葉で「干し果物」を意味する名詞「ペッサミン」であり、先住民がアメリカガキ(Diospyros virginiana L.)の実を干して保存食としていた事実に基づく。近年、欧米ではイスラエル産の柿(渋抜きした「Triumph」種)が「シャロンフルーツ(Sharon Fruit)」という名称で流通するようになったため、柿は「Persimmon」よりも「Sharon Fruit」という名で知られている。

◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)

10月20日(日)

★しいの実の青くていまだ石の間に  正子
しいの実のまだ小さい熟せぬものが落ちている。何だか可愛そうな気もするが、そのうちに熟した実が落ちるような秋本番になるのでしょう。 (祝恵子)

○今日の俳句
秋夕焼け飛行機雲も包まれて/祝恵子
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)

○葉鶏頭(ハゲイトウ)

[葉鶏頭/横浜日吉本町]

★葉鶏頭の三寸にして真赤也/正岡子規
★雁来紅や中年以後に激せし人/香西照雄
★水乞ふやねむらざる眼に葉鷄頭/瀧春一
★葉鶏頭と競はむとして空青き/能村登四郎
★葉鶏頭ほどのはげしき色欲しや/鷹羽狩行
★折れてゐる葉鶏頭あり抜いておく/高橋将夫
★雁来紅弔辞ときどき聞きとれる/池田澄子
★殊に濃き天誅村の葉鶏頭/塩路隆子
★山羊の怪我たのまれ診るや葉鶏頭/三嶋隆英
★剣道着干すや燃え立つ葉鶏頭/宇都宮靖

 このごろ葉鶏頭を見ることがまれになった。コリウスというシソ科の葉鶏頭に似たものが見るが、葉鶏頭はさっぱり。それでも建てこんだ民家の庭先に葉鶏頭を育てている家がある。家というよりそこの主婦であるが、葉鶏頭の写真を撮らせてもらおうとしていると、如露を持って出てきた。そして、「写真をお撮りになるのなら、あとで水を遣りますよ。」と家の中に引っ込んでしまった。野牡丹と並んで植えられていた葉鶏頭だった。

★葉鶏頭老女出て来て水を遣り/高橋正子

 ハゲイトウ(葉鶏頭、雁来紅、学名Amaranthus tricolor) はヒユ科の一年草。日本には明治後期に渡来し、花壇の背景、農家の庭先を飾る植物として、広く栽培されている。アマランサス(ヒユ属)の1種である。主に食用品種をヒユ(莧)とも呼ぶが、アマランサスの食用品種の総称的に呼ぶこともある。
属名の Amaranthus は、「色が褪せない」の意味。そのために「不老・不死」の花言葉があるが、これは以前この属に属していたセンニチコウによるものである。種小名の tricolor は「三色の」の意。英名は旧約聖書に登場するヨセフにヤコブが与えた多色の上着のことで、鮮やかな葉色をこの上着にたとえている。
 熱帯アジア原産の春まきの草花で、根はゴボウ状の直根で、茎は堅く直立し、草丈 80cm から 1.5m ぐらいになる。葉は被針形で、初めは緑色だが、夏の終わり頃から色づきはじめ、上部から見ると中心より赤・黄色・緑になり、寒さが加わってくるといっそう色鮮やかになる。全体が紅色になる品種や、プランターなどで栽培できる矮性種もある。タネは細かいが、発芽は比較的よく、こぼれ種でも生えるくらいである。排水と日当たりの良いところに4月下旬頃に直まきし、タネが見え隠れする程度に覆土する。観葉植物として利用される。 食用の近縁種はアマランサスだが、南米では、インカ帝国の昔から種子を穀物として食用にしてきた。日本でも健康食品として販売されている。ヒモゲイトウ (Amaranthus caudatus) がそのなかでも最も大規模に栽培されている。

◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

10月19日(土)

★うす紙がかりんをかたちのまま包む  正子
かりんの果実は楕円形をして大型、芳しい香りがあります。うす紙をとおして香る香りとかりんの形や手触りを御句から感じます。(多田有花)

○今日の俳句
澄む水を渡りたどりて山下りぬ/多田有花
沢の流れを伝い、また橋を渡って山を下った。沢の水はどこも澄んでいる。秋の山のひんやりとした空気も合わせて感じられる。(高橋正子)

○錦木(ニシキギ)

[錦木/横浜日吉本町]

★錦木の葉と実の少し違う赤/高橋正子★

ニシキギ(錦木、学名:Euonymus alatus)とはニシキギ科ニシキギ属の落葉低木。庭木や生垣、盆栽にされることが多い。日本、中国に自生する。紅葉が見事で、モミジ・スズランノキと共に世界三大紅葉樹に数えられる。若い枝では表皮を突き破ってコルク質の2~4枚の翼(ヨク)が伸長するので識別しやすい。なお、翼が出ないもの品種もあり、コマユミ(E. alatus f. ciliatodentatus、シノニムE. alatus f. striatus他)と呼ばれる。葉は対生で細かい鋸歯があり、マユミやツリバナよりも小さい。枝葉は密に茂る。 初夏に、緑色で小さな四弁の花が多数つく。あまり目立たない。 果実は楕円形で、熟すと果皮が割れて、中から赤い仮種皮に覆われた小さい種子が露出する。これを果実食の鳥が摂食し、仮種皮を消化吸収したあと、種子を糞として排泄し、種子散布が行われる。紅葉を美しくするために西日を避けた日当たりの良い場所に植える。 剪定は落葉中に行う。よく芽をつける性質なので、生垣の場合は強く剪定してもよい。 栽培は容易。名前の由来は紅葉を錦に例えたことによる。別名ヤハズニシキギ。

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

10月18日(金)

★起きぬけの目にりんりんと曼珠沙華  正子
自然豊かな山里への旅の朝、真っ赤に大きな蘂を張り、活き活きと咲き誇る曼珠沙華が起き抜けの目に飛び込んで来ました。一瞬心も引き締まる程に燃え立っています。曼珠沙華の咲く朝のりんりんとした山里の風景が想われます。 (佃 康水)

○今日の俳句
稲刈機噴き出す藁の薄みどり/佃 康水
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)

○秋の野芥子(アキノノゲシ)

[秋の野芥子/横浜日吉本町]

★丘に来て秋の野芥子は背高よ/高橋正子

アキノノゲシ(秋の野芥子、秋の野罌粟、学名: Lactuca indica)は、キク科アキノノゲシ属の一年草または二年草。和名は、春に咲くノゲシに似て、秋に咲くことから付けられた。高さ50~200cm。大柄だが柔らかく、全体につやがない。はじめは根出葉をロゼット状に出すが、やがて茎をたて、花序を出す。花期は8~12月。花は淡い黄色、直径2cmほどで舌状花だけでできている。種子はタンポポの綿毛を小さくしたような形をしている。東南アジア原産で、日本全土・朝鮮・中国・台湾・東南アジアに分布。稲作と共に日本へ渡って来た史前帰化植物。日当りの良い場所に生える。アキノノゲシには葉に切れ込みがあるが、切れ込みのない細い葉を持つものは、ホソバアキノノゲシ(学名: Lactuca indica f. indivisa)という。飼育するウサギの餌によく使われる。

◇生活する花たち「黄釣舟草・曼珠沙華・白曼珠沙華」(横浜・四季の森公園)

10月17日(木)

 イギリス・コッツワルズ
★水澄んで白鳥軽く流れくる  正子
まるで絵本の世界のような村が点在し、古きよき建物や美しい田園風景のイギリスのコッツワルズとお聞きしています。澄みわたる秋の大気の中、水の流れにのる白鳥に、いっそうの清涼感と美しい景観を感じ、作者の軽やかな旅ごごろがうかがえます。(藤田洋子)

○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。(高橋正子)

○孔雀草(くじゃくそう)

[孔雀草/横浜日吉本町]

★開ききり咲き重なって孔雀草/高橋正子
 
 きのうの朝は、日吉本町2丁目あたりを散歩した。2丁目は、3丁目が洋風な花が多いのに比べ、古風な花が多い。野牡丹や葉鶏頭をきれいに咲かせている。その2丁目にはコーポの団地があって、ここも花好きな住人がいるのか、紅蜀葵やゼラニュウムなどの昔ながらの花と、今風な、センスのいい花壇を作っている。一番後ろに紫系のハープの花、その前に薄紫と白の孔雀草、その前に千日紅の牡丹色と白が植えられて、同系色の色彩でまとめた花壇であった。秋らしくていいと思った。庭の花も年期である。

 孔雀草(くじゃくそう、学名:Aster hybridus 英名:Frost aster)は、キク科シオン属の多年草。Aster : シオン属、hybridus : 雑種の、Aster(アスター)は、ギリシャ語の「aster(星)」から。花のつき方のようすに由来。北アメリカ原産で、わが国には昭和30年代に導入された。花壇や切り花によく用いられている。よく分枝して株立ちし、高さは40~120センチになる。葉は披針形から倒披針形で互生し、7月から9月ごろ、白色から淡紫色の花をいっぱい咲かす。別名で孔雀アスター、キダチコンギク(木立紺菊とも呼ばれます。9月5日、11月23日の誕生花(孔雀草)。花言葉は 「いつも愉快、ひとめぼれ」。似ている花は、都忘れ、紫苑、紺菊、関東嫁菜。

◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)

10月16日(水)

★色ようやく見えてくれない菊蕾

○今日の俳句
★吾が窓に雲一片もなき秋天/川名ますみ
「吾が窓」にきょうは、一片の雲もない秋天が見える。読み手は、秋天の青を限りなく想像し、楽しむことができる。(高橋正子)

○零余子(むかご)

[零余子/横浜日吉本町]           [零余子/ネットより]

★きくの露落て拾へばぬかごかな 芭蕉
★うれしさの箕にあまりたるむかご哉 蕪村
★汁鍋にゆさぶり落すぬか子哉 一茶
★ほろほろとぬかごこぼるる垣根哉 子規
★手一合零余子貰ふや秋の風 龍之介
★黄葉して隠れ現る零余子哉 虚子
★むかごこぼれて鶏肥えぬ草の宿 鬼城
★蔵かべに這ひ上りたるぬかごかな 石鼎
★音のして夜風のこぼす零余子かな 蛇笏
★露膨れむすびこぼるる零余子かな 青畝
★ぬかご拾ふ子よ父の事知る知らず かな女
★一本の矢竹にからむ零余子かな 青邨
★蔓曳けばたばしり落つるぬかごかな 淡路女
★むかごもぐまれの閑居を訪はれまじ 久女
★四阿にとりためしあり零余子かな 素十

 子どもの目につくところにむかごはあったが、採ってもいくらほどにもならない。それを料理して食べさせてもらった記憶もない。高度成長期、食事どころで、田舎風の食事を出す店がはやり、むかご飯などが供された。花冠でも四国札所の山寺の岩屋寺で合宿を行ったとき、村の小さな売店でむかごを只同然のように売っていたので、首都圏から参加した同人は大喜びで土産にかった。そのとき私も買ってむかご飯にしたのだ。おいしいというほどでもないが、秋の味覚として一度は味わいたいご飯であろう。
おとといも、日吉本町の農家の植木にからまっているむかごを見つけた。よく太って丸まるしている。今夜ご飯を炊くとき上にぱらぱら載せて炊くよていである。大洲の芋炊きセットを送っていただいたので、それとあわせて。今夜は秋の味を楽しむこと。

★むかご採る三人家族の足るほどに/高橋信之
★むかご飯朴訥なるは淋しさか/高橋正子

 むかご(零余子)とは植物の栄養繁殖器官のひとつ。主として地上部に生じるものをいい、葉腋や花序に形成され、離脱後に新たな植物体となる。葉が肉質となることにより形成される鱗芽と、茎が肥大化して形成された肉芽とに分けられ、前者はオニユリなど、後者はヤマノイモ科などに見られる。両者の働きは似ているが、形態的には大きく異なり、前者は小さな球根のような形、後者は芋の形になる。いずれにせよ根茎の形になる。ヤマノイモなどで栽培に利用される。
 食材として単に「むかご」と呼ぶ場合、一般にはヤマノイモ・ナガイモなど山芋類のむかごを指す。灰色で球形から楕円形、表面に少数の突起があり、葉腋につく。塩ゆでする、煎る、コメと一緒に炊き込むなどの調理法がある。また零余子飯(むかごめし)は晩秋・生活の季語である。むかごをつくる植物に、ヤマノイモ、ナガイモ、オニユリ、ノビル、ムカゴイラクサ、シュウカイドウ、ムカゴトラノオ、ムカゴネコノメ、ムカゴユキノシタなどがある。

 
◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

10月15日(火)

★手の中の木の実の熱き山の暮れ  正子
山を散策していてふといくつかの木の実を手にした。木の実は熟し切って、夕日に照らされて耀いている。愉しく季節感にあふれた御句と思います。(河野啓一)

○今日の俳句
苅田広き明日香村なる棚田かな/河野啓一
奈良、明日香村も稲刈りがほとんど済んで刈田が広がっている。棚田のある村に古代より繋いできた人々のゆかしい暮らしが見える。(高橋正子)

○烏瓜

[烏瓜の実/横浜日吉本町]      [烏瓜の花/ネットより]

★蔓切れてはね上りたる烏瓜/高浜虚子
烏瓜の朱色の実を見つけると、手繰り寄せて採りたくなる。蔓は雑木などに絡まっているので、蔓をひっぱっても、易々と手元には来ない。蔓が切れて、引っ張った力の反動で「はね上がる」。「はね上がる」が面白い。はね上がった実が揺れ、悔しがるものが居る。(高橋正子)

★烏瓜映る水あり藪の中/松本たかし
★をどりつつたぐられて来る烏瓜/下村梅子

 烏瓜は、普段の生活での利用法を聞いたことがないが、形や色が面白いので、飾ったりする。夏には烏瓜のレースのような花を見よう懐中電燈を用意して出掛けたがあいにく咲いていなかった。信之先生は、その前に凋んだ花を写真に撮ってはいたが。その花もさることながら、楕円形の朱色の実も面白い。熟れても青い実の時の縞がうっすら残っている。猪の子を「瓜坊」というが、この烏瓜から来たのかも知れないと思うほどである。木などに蔓が絡まって、危なげなところにあったり、また川向うにあったりして、見つけても、やすやすとは手に入らない。運が良ければ、すぐ採れるが。しかし、インテリアにもされるが、俳人ごのみの植物であろう。
★川水はきらきら烏瓜が熟れ/高橋正子
★一日の楽しみに置く烏瓜/高橋正子

 カラスウリ(烏瓜、Trichosanthes cucumeroides)はウリ科の植物で、つる性の多年草。朱色の果実と、夜間だけ開く花で知られる。 地下には塊根を有する。原産地は中国・日本で、日本では本州・四国・九州に自生する。林や藪の草木にからみついて成長する。葉はハート型で表面は短い毛で覆われる。雌雄異株で、ひとつの株には雄花か雌花かのいずれかのみがつく。別名:玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ。
 4月~6月にかけて塊根から発芽、あるいは実生する。花期は夏で、7月~9月にかけての日没後から開花する。雄花の花芽は一ヶ所から複数つき、数日間連続して開花する。対して雌花の花芽は、おおむね単独でつくが、固体によっては複数つく場合もある。花弁は白色で主に5弁(4弁、6弁もある)で、やや後部に反り返り、縁部が無数の白く細いひも状になって伸び、直径7~10cm程度の網あるいはレース状に広がる。花は翌朝、日の出前には萎む。 こうした目立つ花になった理由は、受粉のため夜行性のガを引き寄せるためであると考えられており、ポリネーターは大型のスズメガである。カラスウリの花筒は非常に長く、スズメガ級の長い口吻を持ったガでなければ花の奥の蜜には到達することはできず、結果として送粉できないためである。雌花の咲く雌株にのみ果実をつける。
 果実は直径5~7cmの卵型形状で、形状は楕円形や丸いものなど様々。熟する前は縦の線が通った緑色をしており光沢がある。10月から11月末に熟し、オレンジ色ないし朱色になり、冬に枯れたつるにぶらさがった姿がポツンと目立つ。鮮やかな色の薄い果皮を破ると、内部には胎座由来の黄色の果肉にくるまれた、カマキリの頭部に似た特異な形状をした黒褐色の種子がある。この果肉はヒトの舌には舐めると一瞬甘みを感じるものの非常に苦く、人間の食用には適さない。鳥がこの果肉を摂食し、同時に種子を飲み込んで運ぶ場合もある。しかし名前と異なり、特にカラスの好物という観察例はほとんどない。地下にはデンプンやタンパク質をふんだんに含んだ芋状の塊根が発達しており、これで越冬する。夏の間に延びた地上の蔓は、秋になると地面に向かって延び、先端が地表に触れるとそこから根を出し、ここにも新しい塊根を形成して栄養繁殖を行う。
 種子はその形から打ち出の小槌にも喩えられる。そのため財布に入れて携帯すると富みに通じる縁起物として扱われることもある。かつては、しもやけの薬として実から取れるエキスが使用された。 若い実は漬物にするほか、中身を取り出し穴をあけてランタンにする遊びに使われる。近年ではインテリアなどの用途として栽培もされており、一部ではカラスウリの雌雄両株を出荷する農園も存在する。

◇生活する花たち「十月桜・金木犀・茶の花と実」(横浜・東慶寺)

10月14日(月)

★甘藷よく実入り刃物に当たる音  正子
サツマイモの時期です。ちょうど今鬼まんじゅうを作っているところです。昨日収穫したイモと先日朝市で買ったイモではほうちょうの刃の入り方が違います。新鮮なイモは素直に刃を受けて切れますが古くなると水分が抜けて切る面がデコボコになります。よく実入りした甘藷はサクサクといい音をして切れてゆきます。さてどんなごちそうになるのでしょう。そんなことを想像させる句です。 (古田敬二)

○今日の俳句
ひそと鳴る秋播き種はポケットに/古田敬二
秋播きの種をポケットに入れて、これから畑に出かけるのか。「ひそと鳴る」には、種の小ささもあるが、その音を一人聴きとめた作者の種への愛おしみがある。軽やかながら味わいがある句。(高橋正子)

○力芝(チカラシバ)

[力芝/横浜・横浜市港北区松の川緑道] [力芝/横浜・四季の森公園]

★力芝ひかりまみれの昼下がり/高橋正子
★畦道の力づよさに力芝/高橋正子
★理科教師力芝をまず教え/高橋正子

 チカラシバ(力芝、学名:Pennisetum alopecuroides)は、単子葉植物イネ科チカラシバ属の多年草。道端によく見かける雑草のひとつで、ブラシのような穂が特徴的である。地下茎はごく短く、大きな株を作る、根元から多数の葉を出す。葉は細長く、根元から立ち上がる。葉はやや丸まる。花茎は夏以降に出て、真っすぐに立つ。花軸は枝分かれせず、先端近くの軸に多数の針状の毛に包まれた小穂がつく。小穂は最初は軸から斜め上に向けて出るが、果実が熟するにつれて軸から大きい角度をもつようになり、つまり開出して、全体としてビン洗いのブラシや、試験管洗いのような姿になる。果実が熟してしまうと、果実は小穂の柄の部分から外れるので、あとには軸だけが残る。小穂は短い軸の先に一つだけつく。小穂の基部の軸から針状の毛が多数伸びる。小穂は披針形で長さ7mmほど、二つの小花を含むが、一つ目は果実をつけず、雄花となることも多い。第一護頴はほとんど退化、第二護頴は小穂の長さの半分。果実は先端の毛と共に外れ、これが引っ掛かりとなって大型動物の毛皮に引っ掛かるようになっている。いわゆるひっつき虫で、毛糸などの目の粗い衣服によく引っ掛かる。果実の先端から潜り込むようにして引っ掛かることが多い。
 日本、朝鮮半島、中国からフィリピン、マレー半島からインドまで分布する。日本国内では北海道南西部以南のほとんど全土で見られる。道端にはえる雑草で、大きな株になる。非常にしっかりした草で、引き抜くにも刈り取るにもやっかいである。和名の「力芝」もひきちぎるのに力がいることに由来する。穂から多数の毛が伸びてブラシ状になるものとしては、他にエノコログサ類があるが、たいていは穂の先がたれる。また、他にも穂に多数の毛や芒を出すものはあるが、このようなブラシ状のものはあまりない。

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

10月13日(日)

★秋宵宮星に声あぐ子の行列  正子
秋の大祭の宵宮。子供神輿の行列でしょうか。いつの世になってもお祭りでの子の声と行列は元気いっぱいです。(高橋秀之)

○今日の俳句
朝霧が包む港に汽笛鳴る/高橋秀之
素直な句で、朝霧に鳴る汽笛がのびやかに聞こえる。朝霧に包まれた港がこれから動き出そうとしているのであろう。(高橋正子)

○葛の実

[葛の実/横浜・四季の森公園(2011年10月20日)]_[葛の花/横浜日吉本町(2012年8月9日)]

★葛の実の鈴なりなれど軽きかな/高橋正子
★葛の実の茶毛いかにも野草らし/高橋正子

葛の花はその濃紫の色もさることながら、芳香が楽しめる。葛の根は、葛粉となって高価なもの。本物の葛粉で作った葛餅は、喉越しがまるで違う。すっきりとした水を味わうような感じだ。葛は日本中に蔓延っている。葛の実を意識して見ることは私自身ほとんどないが、秋風が葛の葉を白く裏返して吹くときなど、枝豆のような莢が目に入る。葛は豆科かなと思う。それにしては、莢が枯れそうになっても実が充実しないなと思うような具合だ。莢を割って見ようなど思ったこともないが、ゴマ粒ほどの小さな豆が入っているようだ。

 クズ (Pueraria lobata) は、マメ科のつる性の多年草。根を用食品の葛粉や漢方薬が作られ、花は、万葉の昔から秋の七草の一つに数えられる。漢字は葛を当てる。
 葉は三出複葉、小葉は草質で幅広く、とても大きい。葉の裏面は白い毛を密生して白色を帯びている。地面を這うつるは他のものに巻きついて10メートル以上にも伸び、全体に褐色の細かい毛が生えている。根もとは木質化し、地下では肥大した長芋状の塊根となり、長さは1.5メートル、径は20センチにも達する。花は8-9月の秋に咲き、穂状花序が立ち上がり、濃紺紫色の甘い芳香を発する花を咲かせる。花後に剛毛に被われた枝豆に似ている扁平な果実を結ぶ。花色には変異がみられ、白いものをシロバナクズ、淡桃色のものをトキイロクズと呼ぶ。和名は、かつて大和国(現:奈良県)の国栖(くず)が葛粉の産地であったことに由来する。
 葛の実は、8月から9月にかけて咲く花の後、すぐに緑の豆の莢となって鈴生りにぶら下がる。その後に時間をかけて成熟してきた実は、くすんだ焦げ茶色に変色し、枯れた葉と共に舞い落ちる。落ちてくるときは、たいてい一莢ずつになっているが、たまにはいくつかつながったままのこともある。莢の幅は1cm弱ほど、長さは3~6cmほど、厚みも重さもほとんど感じられない。莢の表面は茶色の毛で覆われている。莢を開いてみると、莢の内側は光沢があり、そして、長さ2mm、幅1mm強ほどの小さな豆が出てくる。

◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

10月12日(土)

★りんどうに日矢が斜めに差し来たり  正子
りんどうに日差しが斜めにあたりだした。控えめなりんどうが明るくなってきました。(祝恵子)

○今日の俳句
秋夕焼け飛行機雲も包まれて/祝恵子
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)

○柚子(ゆず)

[本柚子/横浜・四季の森公園]            [鬼柚子/横浜日吉本町]

★子籠の柚の葉にのりし匂ひ哉 其角
★柚の色に心もとりぬ魚の店 多代女
★精進日や厨きよらに柚の匂ひ 梧堂
★荒壁や柚子に梯子す武者屋敷/正岡子規
★鬼柚子をもらひそこねし手ぶらかな/川崎展宏
★柚子打の出てゐる愛宕日和かな/長谷川櫂
★柚子ジャムの煮ゆる日風の窓打つ日/川上久美
★青柚子の香りの中の夕餉かな/加藤みき
★柚子黄なり峡に朝日の射しわたり/阿部ひろし

 今年の夏、柚子の果汁を薄めて飲むジュースが流行った。高知発のものらしく、我が家でも高知から送られてきたことがある。デパートでも試飲を勧められた。お盆のお客と、開け広げた夏座敷で氷を入れて飲むのも映画のシーンのようでいいものだろうと、想像した。レモンに比べると、絶対、日本の香り、日本の味であると思う。日本料理には、欠かせない。愛媛の砥部焼の町の山里に、峠の途中から脇道に逸れ、別の谷に入るところがある。ちょっとしたレンガの隧道があって、すすきの穂を掻き分けてゆくと、柚子の熟れる谷がある。民家は一軒もなく、ただ柚子が熟れているだけの谷。昔話の時代に戻ったような錯覚が起きる谷だ。谷間にはあたたかい日差しが溜まる。曇れば、柚子の黄色がさびしい色あいになる。柚子の木は、田舎にゆけば家庭の庭に植えられている。夕飯の支度をしながら、必要ならばもいでくる。柚子の香りに、また果汁に、主婦は料理の腕前が少し上がったような気になるのだ。

★俎板に切り置く柚子の黄のかけら/高橋正子

 ユズ(柚子、学名:Citrus junos)は、ミカン科の常緑小高木。柑橘類の1つ。ホンユズとも呼ばれ、果実は比較的大きく、果皮の表面はでこぼこしている。果実が小形で早熟性のハナユズ(ハナユ、一才ユズ、Citrus hanayu)とは別種である。日本では両方をユズと言い、混同している場合が多い。タネの多いものが多い。また獅子柚子(鬼柚子)は果実の形状からユズの仲間として扱われることがあるが分類上はザボンや文旦の仲間であり別品種である。
 消費・生産ともに日本が最大である。柑橘類の中では耐寒性が強く、極東でも自生出来る数少ない種である。酸味は強く香りもある。日本では東北以南で広く栽培されている常緑小高木である。花言葉は”健康美”と言われる。また、柑橘類に多いそうか病、かいよう病への耐久があるためほとんど消毒の必要がなく、他の柑橘類より手が掛からない事、無農薬栽培が比較的簡単にできる事も特徴のひとつである。なお、収穫時にその実をすべて収穫しないカキノキの「木守柿」の風習と同様に、ユズにも「木守柚」という風習がある地方もある。成長が遅いことでも知られ、「ユズの大馬鹿18年」などと呼ばれることがある。このため、栽培に当たっては種から育てる実生栽培では結実まで10数年掛かってしまうため、結実までの期間を短縮する為、カラタチに接木することにより数年で収穫可能にすることが多い。
 本ユズは、中華人民共和国中央および西域、揚子江上流の原産であると言われる。日本への伝播については直接ないし朝鮮半島を経由してきたと言われるが、どちらであるかは定かではない。日本の歴史書に飛鳥時代・奈良時代に栽培していたという記載があるのみである。花ユズは日本原産とも言われるが、詳しいことは判らない。柚子の語源は中国語の「柚(yòu)」である。しかしながら、現代中国語ではこの言葉は「文旦」を指してしまう。現在は「香橙(xiāngchéng)」が柚子を指す言葉であり、なぜその語彙が変化したのかは不明である。日本で「柚」が「柚子」になったのは、古来の食酢としての利用によるところが大きいといわれる。「柚酢」が「柚子」になったと言われているが、確かなことは不明である。韓国語でも漢字表記をする場合は「柚子(yuja)」と書くが、その語源については正確な記録が一切無いため全くの不明である。
 日本国内産地としては、京都市右京区の水尾、高知県馬路村や北川村など高知県東部地方の山間部が有名である他、山梨県富士川町や栃木県茂木町、最も古い産地の埼玉県毛呂山町等、全国各地に産地がある。海外では、韓国最南部の済州島や全羅南道高興郡など、中華人民共和国の一部地域で栽培されている。

◇生活する花たち「いぬたで・金木犀・やぶまめの花」(四季の森公園)