★泳ぎ子の母呼び父と沖にいる 正子
○今日の俳句
たっぷりと野菜を洗う水涼し/井上治代
夏は水が気持ちがよい。野菜を洗うにも手に水を楽しみながら洗う。夏野菜もいろいろとあって、新鮮そのもの。それが涼感を句にもたらしている。(高橋正子)
○山百合

[山百合/横浜・四季の森公園(2012年7月19日)]_[山百合/東京白金台・自然教育園(2013年7月9日)]
○山百合
[山百合/横浜・四季の森公園]
★山百合を捧げて泳ぎ来る子あり/富安風生
★山百合の木蔭孤高を守り咲く/宮崎正
★山百合や幾曲りして通夜の家/石田邦子
★山百合のいつせいに咲く坂の町/庄中健吉
★山百合を剪るや五輪の花おもく/瀧春一
★夜を徹す百合の香にあり書き継げり/岡本眸
★一月の百合を捧げて祈りけり/稲畑汀子
★いよよ咲く百合よ歓喜の蘂放ち/林翔
★百合といふ百合が鉄砲百合の島/宮津昭彦
子どものころは、百合と言えば梅雨の走りのころから咲く白い鉄砲百合と夏休みに咲く赤い鬼百合の二つであった。今はカサブランカのような豪華な百合やさまざまな色のすかし百合の仲間がたくさんあるようである。昭和30年代だったと思う。父が前の畑に百合の花を売るために植えた。そのころは売る花は菊に限って農家が栽培していたようだが、父は鉄砲百合に挑戦して、うまく咲かせた。蕾のときに切り取られるが、白がかった緑色の蕾と鋏で切り取る音が目に耳に残っている。咲いてしまった花は学校に持っていった。鉄砲百合の花は生活の花となっていた。
もう7,8年前になるだろうか。瀬戸内海が遠くみえる松山のマンションのベランダでカサブランカを育てた。その芽は、筍ほどで、百合の芽とは思えなかった。たしかにカサブランカの花であった。
夏休みのころ咲く赤い百合は、すぐ前の伯父の家にあって、垂らした簾に似合っていた。冷房もない時代、それも涼しい景色だった。旅をすれば、切通しのがけなどに白い百合が咲いている。白百合は、清純さの代表ともなって、祈りの花としても欠かせない。
今年7月19日、四季の森公園へ行った。この日は大賀蓮を見るのが主な目的であったが、里山の林縁を歩くうちに、山百合に出会った。花の重みで茎が倒れている。細い竹を支柱に立ててあったが、ヘクソカズラの蔓が山百合に巻きついて支柱も用をなさないところもあった。数花咲かせているのも、一輪のもあったが、その大きさと蕊の朱色の強烈さに驚いた。今年は四季の森公園の山百合が例年になくよく咲いているとのことであったが、私が山百合を見たのは初めてである。神奈川県の県花に指定されていて、北陸地方を除く、近畿地方以北の山の林縁や叢に生えていると知った。
★雲行かす山百合朱き蕊を立て/高橋正子
富士登山のとき・河口湖
★松林に白百合のまばら富士裾野/高橋正子
百合は、ユリ目ユリ科のうち主としてユリ属(学名:Lilium)の多年草の総称である。属名の Lilium はラテン語でユリの意。アジアを中心にヨーロッパ、北アメリカなどの亜熱帯から温帯、亜寒帯にかけて広く分布しており、原種は100種以上を数える。代表的な種に、ヤマユリ、オニユリ、カノコユリ、ササユリ、テッポウユリ、オトメユリなどがある。ヤマユリ(山ユリ、学名:Lilium auratum)とはユリ科ユリ属の球根植物。日本特産のユリ。北海道と関東地方や北陸地方を除く近畿地方以北の山地の林縁や草地に分布する。和名は、山中に生えることからつけられた。草丈は1~1.5m。花期は7~8月頃。花は、花弁が外に弧を描きながら広がって、1~10個程度を咲かせる。その大きさは直径20cm以上でユリ科の中でも最大級であり、その重みで全体が傾くほどである。花の色は白色で花弁の内側中心には黄色の筋、紅色の斑点がある。花の香りは日本自生の花の中では例外的ともいえるほど、甘く濃厚でとても強い。発芽から開花までには少なくとも5年以上かかり、また株が古いほど多くの花をつける。風貌が豪華で華麗であることから、『ユリの王様』と呼ばれる。1873年、ウィーン万博で日本の他のユリと共に紹介され、ヨーロッパで注目を浴びる。それ以来、ユリの球根は大正時代まで主要な輸出品のひとつであった。西洋では栽培品種の母株として重用された。カサブランカ(Casa blanca)は、日本に自生する山百合と鹿の子百合等を交配して育種された。 ヤマユリは神奈川県の県の花に指定されている。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★松林に白百合まばら富士裾野 正子
雄大な富士の裾野に松林があり、白い百合が咲いているのが見えます。その裾野に佇み富士山も眺めていられるのでしょうか。(祝恵子)
○今日の俳句
あるだけの夕餉は採りたて夏野菜/祝恵子
「あるだけの夕餉」は、いい生活だ。「採りたて夏野菜」は、家庭菜園だろうか。身近なところで栽培された新鮮な食材は、美味しい。これもいい生活なのだ。(高橋信之)
○大賀蓮

[大賀蓮/横浜・四季の森公園]
★大沼も冬の構図や大賀蓮/青木牧風
★大賀蓮咲けりと書院開けらるる/赤間智子
★おほらかにおほきく古代蓮咲けり/加藤暢一
★しこり持つ左の乳房古代蓮/田中雅秀
★惜し気なく花弁散らすや古代蓮/鈴木壮治
★古代蓮明るし楽し朝の日に/高橋信之
★朝日白し古代蓮の花の上に/高橋正子
大賀ハス(オオガハス、おおがはす)は、1951年(昭和26年)、千葉県千葉市検見川(現・千葉市花見川区朝日ケ丘町)にある東京大学検見川厚生農場(現・東京大学検見川総合運動場)の落合遺跡で発掘された、今から2000年以上前の古代のハスの実から発芽・開花したハス(古代ハス)のこと。戦時中に東京都は燃料不足を補うため、花見川下流の湿地帯に豊富な草炭が埋蔵されていることに着目し、東京大学検見川厚生農場の一部を借り受け草炭を採掘していた。採掘は戦後も継続して行われていたが、1947年(昭和22年)7月28日に作業員が採掘現場でたまたま1隻の丸木舟と6本の櫂を掘り出した。このことから慶應義塾大学による調査が始められ、その後東洋大学と日本考古学研究所が加わり1949年(昭和24年)にかけて共同で発掘調査が行われた。その調査により、もう2隻の丸木舟とハスの果托などが発掘され、「縄文時代の船だまり」であったと推測され落合遺跡と呼ばれた。
そして、植物学者でハスの権威者でもある大賀一郎博士(当時・関東学院大学非常勤講師)が発掘品の中にハスの果托があることを知り、1951年(昭和26年)3月3日から地元の小・中学生や一般市民などのボランティアの協力を得てこの遺跡の発掘調査を行った。調査は困難をきわめめぼしい成果はなかなか挙げられなかったが、翌日で打ち切りという30日の夕刻になって花園中学校の女子生徒により地下約6mの泥炭層からハスの実1粒が発掘され、予定を延長し4月6日に2粒、計3粒のハスの実が発掘された。
大賀博士は5月上旬から発掘された3粒のハスの実の発芽育成を、東京都府中市の自宅で試みた。2粒は失敗に終わったが3月30日に出土した1粒は育ち、翌年の1952年(昭和27年)7月18日にピンク色の大輪の花を咲かせた。このニュースは国内外に報道され、同年11月17日付米国ライフ誌に「世界最古の花・生命の復活」として掲載され、博士の姓を採って「大賀ハス」と命名された。また大賀博士は、年代を明確にするため、ハスの実の上方層で発掘された丸木舟のカヤの木の破片をシカゴ大学原子核研究所へ送り年代測定を依頼した。シカゴ大学のリピー博士らによって放射性炭素年代測定が行われ、ハスの実は今から2000年前の弥生時代以前のものであると推定された。自宅近く、博士の銅像が建てられている府中市郷土の森公園修景池には、この二千年ハスが育てられており、鑑賞会が催されている。
この古代ハスは、1954年(昭和29年)6月8日に「検見川の大賀蓮」として千葉県の天然記念物に指定された[3]。また1993年(平成5年)4月29日には千葉市の花として制定され、現在千葉公園(中央区)ハス池で6月下旬から7月に開花が見られる。日本各地は元より世界各国へ根分けされ、友好親善と平和のシンボルとしてその一端を担っている。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)
○昨年の日記より:
四季の森公園/大賀蓮と合歓とやまゆり
昨日午前、横浜市緑区にある四季の森公園に信之先生と出掛けた。自宅から100mほどの横浜市営地下鉄日吉本町駅で乗車し、30分して終点の中山駅で下車し、15分ほど歩くと四季の森公園がある。大賀蓮を目当て園内に入った。園内のワークセンター脇の池にある。残念なことに蓮は池の遠くに植えてあって、遠く朝日を反射して光輝いている。きれいなのだけれど、写真に撮るには技術がいる。遠くて、反射しているものを撮るにはどうしたらよいか勉強しなければいけない事態になった。がとにかく撮った。期待しなかったけれど、山沿いの道にはやまゆりが盛りで、例年になくよく咲いているとのことであった。花がカサブランカほどもある。白い花に斑点もはっきりして、蕊は朱色である。一茎に3,4輪咲いているのも、一つだけ咲いているのもある。やまゆりは群生しているのではなく、下草のなかにぽつぽつと咲いている。今日が見ごろの感じがした。宵待草も黄色い蕾を付けていた。合歓はこれまでこの公園内で最も美しく咲いていた。合歓の花も今日が見ごろかと思う。バックに山木々を入れて、合歓の花をくっきりさせた。背景の山の木々が暗すぎたのが残念。午前の合歓の花は朝日を受け、光が満ち溢れてすばらしかった。俳句日記のブログに載せる「生活する花たち」の写真を撮った。
◇生活する花たち「蛍袋・立葵・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

★すずしさに星座の話読みつなぐ 正子
夜空に星が瞬き、風が涼しくなってきました。子供さんに夜空を見せながら、夏の星座の物語をいろいろ読みつないでゆかれました。白鳥座、射手座、などギリシャ神話が、想像を膨らませてくれるようです。(藤田裕子)
○今日の俳句
飛機の灯も遠のき後は星涼し/藤田裕子
星空を動く飛行機の灯が遠くへ去り、その後は、満天の星が、涼しげに輝く。飛行機の灯があればこそ、永久に輝く星の明かりが美しく心に残る。(高橋正子)
○朝顔

[朝顔/横浜日吉本町]
★あさがほに我は飯くふ男かな 芭蕉
★朝顔や其の日其の日の花の出来 杉風
★朝がほに釣瓶とられてもらひ水 千代女
★朝がほや一輪深き淵のいろ 蕪村
★朝がほや垣にしづまる犬の声 白雄
★あさがほの花はぢけたりはなひとつ 暁台
★雪国の大蕣の咲にけり 一茶
★朝顔のさまざま色を尽すかな/正岡子規
★朝顔の紺の彼方の月日かな/石田波郷
★堪ふることばかり朝顔日々に紺/橋本多佳子
★朝顔の濁り初めたる市の空/杉田久女
★朝顔むらさき海に裏側みせて棲む/桂 信子
朝顔は、鉢植えにして行燈作りにするか、四つ目に竹を組んで垣根を作って咲かせてきた。最近はネットに上らせているが、風情がなくていけない。四つ目の垣に咲き上ると、花はみんな表を向いて、裏側からは、葉ばかり眺めることになる。でも、外からみれば、すずしい花がいくつも咲いて、きれいなのだ。
桂信子の「海に裏側みせて」は、海の見えるベランダで咲かせたときは、まったくこの通り。久女の「濁り初めたる市の空」は、朝顔が涼しい時にさいているのは、ほんのひととき。すぐに市の空は煙ったように濁り初め、じりじりと暑くなる。朝の終わりを咲く朝顔か。
横浜に引っ越してから、朝顔の種をまく時期がいつも遅くなっている。今年も5月20日過ぎに蒔いた。ゴールデンウィークに種をまくことにしていたが、ついつい遅くなっている。遅くなっても必ず蒔く。遅くなりはしたが、2,3日前から咲き始めた。最初は錆朱、次は赤紫、その次も赤紫。毎朝、何色が咲いたか楽しみにみるのが夏の朝の日課となるが、青も白もはまだ咲いていない。。朝顔の色を一つと言われれば、青をあげたい。西洋朝顔は、青い花ではあるが、昼間も夜も花をたくさん咲かせて、涼しいそうに見えはしない。日本の朝顔の破れそうなロート型の花が日本の夏にはよく似合う。
◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

★しがみつくかなぶん捨てて衣を畳む 正子
あっ私も有る!と思わずほくそ笑んでしまいました。洗濯物を取り入れた時、かなぶんの足がしがみついているため中々取る事が出来ません。無理に取って脚が傷みはしないかと恐る恐る引っ張って取り逃がしてやります。その後で徐に衣を畳まれるという生活の一部を軽快に詠まれ親しみの有る御句です。(佃 康水)
○今日の俳句
白南風や下船の一歩立ち尽くす/佃 康水
梅雨が明けて吹く南の風を白南風というが、下船したとたん、足元の不安定さに、大きく吹く白南風に立ち尽くしてしまった。「立ち尽くす」は、また、陽の強さに目が眩んだせいでもあろう。(高橋正子)
○ブラックベリー

[ブラックベリー/横浜市港北区箕輪町]
★ブラックベリーの黒輝きて今朝の晴れ/高橋信之
★蓮寺の結界出ればブラックベリー/高橋正子
日吉本町の隣合わせの箕輪町にある大聖院の門前の家にブラックベリーがある。フェンスに絡ませて育てているが、驚くほど沢山実を付けている。自転車で通りすがりに見たときは、ラズベリーかと思った。それにしては、色が緑色がかりすぎている感じもした。何度かその前を通る内に実が黒く色づいてきたので、ブラックベリーと気付いた。ラズベリーに比べて実が少し長くて、つぶつぶがはっきりしているように思う。違う町にくれば、また違う植物を好んで植えるものだとつくづく思った。
ブラックベリー (Blackberry) は、バラ科キイチゴ属の一群の種または1種の低木およびその果実。広義には Rubus 亜属の総称として使う。ただし Rubus 亜属にはブラックベリーのほかにデューベリー (Dewberry) 類も含まれ、それらはブラックベリーから区別することもある。クロイチゴ(Rubus mesogaeus)、ブラックラズベリー (Rubus occidentalis) はいずれもラズベリーであり、(広義でも)ブラックベリーには含まれない。狭義には、 Rubus 亜属の栽培種セイヨウヤブイチゴ(西洋藪苺、学名 Rubus fruticosus)。ただし Rubus fruticosus をさらに多数の種に分割する説もあり、その場合は狭義のブラックベリーも多数の種の総称になる。米国中部原産で、落葉半つるである。開花期は5月下旬から6月で、 結実期は7月から8月上旬である。果実は生のまま食べることも出来るが、多少酸味があるためジャムにして食べることも多い。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★夕焼けが海に分かたれ平らな沖 正子
夕焼けに染まる空と海とが生み出す壮大な空間が、心洗われる美しさです。暑熱の一日が終わり、穏やかで安らかなひとときが感じられます。(藤田洋子)
○今日の俳句
雨雲の山を離れて合歓の花/藤田洋子
合歓の花を的確に捉えている。愛媛の久万高原などに出かけると、垂れていた雨雲が山を離れていって、合歓の花があきらかに浮かびあがってくるが、このようなところに合歓は自生する。(高橋正子)
○白粉花(おしろいばな)

◇白粉花/横浜日吉本町◇
★白粉の花ぬつてみる娘かな/小林一茶
★おしろいは妹のものよ俗な花/正岡子規
★道端に白粉花咲ぬ須磨の里/正岡子規
★白粉花妻が好みて子も好む/宮津昭彦
★白粉花の実をつぶす指若しとす/金子兜太
★おしろいや人は心の裏見せず/稲畑汀子
★おしろいの花のたそがれ白痴の子/成瀬櫻桃子
★路地狭むおしろい花や廓跡/水原春郎
おしろいばなは、白粉花と書く。秋の季語。熱帯アメリカ原産であるということだが、古くに渡来したせいか、夕涼みのころの日本的情緒のある花と思ってきた。それも昭和の白い割烹着の母を思わすような花と。
白粉花咲けり昭和の母の花/正子
暑さも収まる5時過ぎに日吉本町六丁目にある西量寺へ行った。目的は、白粉花の写真を撮るため。西量寺は、天台宗のこじんまりしたお寺で、石垣の上にある。近づけば、民家の屋根より少し大きいかなというぐらいの屋根がすぐ目に付く。
寺の屋根西は西日の色に照り/正子
お寺の石垣の裾を埋めて白粉花が咲いてほのかな香りが漂う。白粉花といえば、理科でならった遺伝の
法則を思いだすのだが、優性遺伝、劣性遺伝とあって、どちらかが遺伝する。普通は、赤い花と白い花を交配すると、白か赤かになる。ところが、白粉花は、ピンクになるというようなこと。西量寺の白粉花も長年同じ場所に種がこぼれて生えるのだろう、白に赤い斑があるものがたくさん見られた。純粋に白、純粋に赤というのが少ない。石垣の裾は夕方はちょうど日陰になって、日中の猛暑はどこへ去ったのかと思うほど、涼しい風が吹いていた。ほのかな香りがするのも、白粉花らしい。白粉花はまだ花が咲いているときから黒い種ができて、子どもがそれを割って中の白い粉を出し、白粉にして遊ぶ。子どもにも好まれる花と言えるのだろう。
子ども時代の戦後を思い出すが、妻も子も慎ましさがあった。貧しいときであったが、個々のことを言わなければ、暗い時代ではなかった。扇風機さえも無い家が多かったから、夕方には縁台を出して、夕涼みをした。西瓜を食べたり、花火をしたり、星を見たり。垣根の根元には、白粉花が咲いていた。白粉花は、ちゃんとした場所ではなく、垣根の下や、ごみなどを焼く畑の隅に咲いた。種がこぼれて年々そこに花を咲かせるようになるのが多いからだろう。
白粉花も朝顔も秋の花なのだと、この猛暑に思う。ずっと秋口まで咲いてくれる。朝咲く花と夕咲く花を夏の花にしておくには、慎ましすぎる。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★射干を活ける鋏が濡れてあり 正子
オレンジ色の射干は小ぶりな花で、射干だけでも爽やかですが、ほかのお花と合わせても素敵ですね。「鋏が濡れてあり」に、お花を活ける清々しさが伝わってくるようです。(小川和子)
○今日の俳句
花鋏鳴らし涼しき庭飽かず/小川和子
「庭飽かず」に、作者の楽しさが読み取れて、それが読者を楽しませてくれる。たくさん咲いた花の中にいて、花鋏を軽く鳴らしながら涼しい庭を巡っている。花に囲まれたうれしさが涼やかに詠まれた。(高橋正子)
○百日紅(さるすべり)

[百日紅/横浜日吉本町]
★明日もあるに百日紅の暮れをしみ 千代女
★百日紅浮世は熱きものと知りぬ 漱石
★武家屋敷めきて宿屋や百日紅 虚子
★日除して百日紅を隠しけり 鬼城
★百日紅咲く世に朽ちし伽藍かな 蛇笏
★武者窓は簾下して百日紅 龍之介
★百日紅地より分れて二幹に 風生
★独り居れば昼餉ぬきもし百日紅 みどり女
★百日紅燃えよ水泳日本に かな女
★少女倚る幹かゞやかに百日紅 麦南
★真青な葉の花になり百日紅 立子
★百日紅乙女の一身またたく間に 草田男
★地福寺は山を負ふ寺さるすべり 万太郎
★朝雲の故なくかなし百日紅 秋櫻子
★百日紅われら初老のさわやかに 鷹女
★いつの世も祷りは切や百日紅 汀女
★百日紅出征の花火突と鳴り 不死男
★乳子ほのと立ちて新し百日紅 不死男
★夕栄にこぼるる花やさるすべり 草城
★百日紅この叔父死せば来ぬ家か 林火
★百日紅片手頬にあて妻睡る 楸邨
★女来と帯纏き出づる百日紅 波郷
さるすべりには、白、赤、ピンクの花がある。赤とピンクの色は、微妙に違った花が見られる。夏の間、夾竹桃と並んで咲き継ぐのが「さるすべり」。幹がつるつるして木登り上手な猿が滑り落ちるから、こんな名がついたのか。四国松山に住んでいた頃、わが家の庭の真ん中にあったのが、薄紫に近いピンク。風が吹けばフリルのような花がこぼれる。真っ青な空も、炎昼の煙るような空にも似合う。さるすべりには、古木も多く、日吉の金蔵寺には、幹の半分以上がなくなっているが、残った幹がよく水を通わせるのか花を相次いで咲かせている。県の名木に指定されている。
◇生活する花たち「蛍袋・立葵・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

★射干を活ける鋏が濡れてあり 正子
山野に自生するアヤメ科の射干は黄赤色の花を咲かせ、葉も花の姿も美しく、その射干を花瓶に活けてもより美しさがまし、部屋を明るくしてくれます。(小口泰與)
○今日の俳句
目高の子ぐいと水面を走りけり/小口泰與
平明な句で句意がはっきりしている。目高の子が水面を「ぐい」と蹴るように走る。目高の子の力強さが、生き生きとして涼しさを与えてくれる。命の涼しさ。(高橋正子)
○蓮の花

[蓮の花/横浜市港北区箕輪町・大聖院]
★蓮のかを目にかよはすや面の鼻 芭蕉
★蓮白しもとより水は澄まねども 千代女
★蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村
★うす縁や蓮に吹かれて夕茶漬 一茶
★昼中の堂静かなり蓮の花 子規
★そり橋の下より見ゆる蓮哉 漱石
昨年の日記より:
今朝、蓮の花を見に天聖院に信之先生と出掛けた。蓮は朝咲いて昼に凋むので早朝が見ごろだ。天聖院に蓮池というほどの池はないが一むら蓮がある。その他にも御手洗のほとり、奥まった山裾あたりには大きめのポリ容器で育てている。散華が蓮の葉にかかっていた。紅蓮ばかりで、大賀蓮ではないようだ。ちょうど新暦のお盆なのだが、特にお寺まいりの人もなく森閑としたなかにさいている。松山市の城北に長建寺という寺があるが、ここの蓮池は立派で、池に突き出た部屋からは、蓮池が良く眺められる。蓮の花を描くという妹について早朝この寺に出かけたが、蚊取り線香が必携であった。岡山の行楽園にも蓮がある。これも見事だ。岡山は祭すしで有名だが、蓮田も多くこの祭すしには蓮根が使われる。鎌倉八幡の源平池の蓮もよく知られている。蓮の風情からいうと、後楽園の方が好きだ。
蓮の花について、一番なつかしいのは、学生時代の夏休みや結婚してからの帰省で予讃線から見た蓮田の景色だ。蓮田は松山から今治に近づくとところどころに見られる。はじめ遠く炎暑で煙る緑の蓮田が近づいてくると蓮の赤い花が見える。今年も蓮の花が咲いていると眺めながら、ディーゼル車のコトコト走る音を聞いた。とてもいい景色だった。
★蓮の葉にあまたかかりて蓮散華/高橋正子
★蓮の葉のそよげる中の蓮の花/〃
★煙りたる空の下なる紅蓮/〃
ハス(蓮、学名:Nelumbo nucifera)は、インド原産のハス科多年性水生植物。古名「はちす」は、花托の形状を蜂の巣に見立てたとするのを通説とする。「はす」はその転訛。 水芙蓉(すいふよう、みずふよう)、もしくは単に芙蓉(ふよう)、不語仙(ふごせん)、池見草(いけみぐさ)、水の花などの異称をもつ。 漢字では「蓮」のほかに「荷」の字をあてる。ハスの花を指して「蓮華」(れんげ)といい、仏教とともに伝来し古くから使われた名である。 また地下茎は「蓮根」(れんこん、はすね)といい、野菜名として通用する。属名 Nelumbo はシンハラ語から。種小名 nucifera はラテン語の形容詞で「ナッツの実のなる」の意。 英名 lotus はギリシア語由来で、元はエジプトに自生するスイレンの一種「タイガー・ロータス」 Nymphaea lotus を指したものという。7月の誕生花であり、夏の季語。 花言葉は「雄弁」。原産地はインド亜大陸とその周辺。地中の地下茎から茎を伸ばし水面に葉を出す。草高は約1m、茎に通気のための穴が通っている。水面よりも高く出る葉もある(スイレンにはない)。葉は円形で葉柄が中央につき、撥水性があって水玉ができる(ロータス効果)。花期は7~8月で白またはピンク色の花を咲かせる。 早朝に咲き昼には閉じる。園芸品種も、小型のチャワンバス(茶碗で育てられるほど小型の意味)のほか、花色の異なるものなど多数ある。
◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

★なでしこの苗に花あり風があり 正子
なでしこの苗には花の色が分かるようにひとつ二つの花があり、そしてその花が風に揺れている様子が、涼しさを伝えてくれます。(高橋秀之)
○今日の俳句
せせらぎの木陰のめだか動かずに/高橋秀之
せせらぎの木陰はすずしそうだ。涼しさを喜んで、目高が活発に泳ぐかと思えばそうではない。じっとして、木陰の水の涼しさを体で享受しているようだ。(高橋正子)
○巴里祭(パリ祭)

[パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祭日/クロード・モネ画]_[京都祇園祭/ネットより]
★汝が胸の谷間の汗や巴里祭/楠本憲吉
★パリ祭や手乗り文鳥肩に乗せ/鷹羽狩行
★濡れて来し少女がにほふ巴里祭/能村登四郎
★図書館で借る古今集パリー祭/品川鈴子
★重層の雨の鉄階パリー祭/岡本眸
★星空を怒濤の洗ふ巴里祭/小澤克己
★巴里祭空いつぱいの水しぶき/豊田都峰
★ピザ生地を大きく抛りパリー祭/斉藤和江
★巴里祭とろ火に鍋を預けをり/能村研三
★巴里祭机上の医書は閉ぢしまま/水原春郎
「巴里祭」は、この映画を見た世代によく語られ、また俳句にも詠まれている。バスチーユ監獄襲撃というフランスの革命の記念日が日本で親しまれているのも不思議だが、邦題「巴里祭」の映画に大いによるものだろう。映画旺盛の時代のパリへの憧れもあったでろう。 詠まれている俳句は、それぞれが、それぞれの思いで「私の巴里祭」を詠んでいる句が多い。日本ではちょうど7月1日から1か月も続く京都の祇園祭の宵山が始まる。これに重ねれば、「巴里祭」も文化人たちののゆかしき一日なのかもしれない。
★巴里祭今日の予定に空を見る/高橋正子
パリ祭(ぱりさい)は、フランスで7月14日に設けられている国民の休日(Fête Nationale)。1789年同日に発生しフランス革命の発端となったバスチーユ監獄襲撃および、この事件の一周年を記念して翌年1790年におこなわれた建国記念日(Fête de la Fédération)が起源となっている。なお、フランスでは単に「Quatorze Juillet(7月14日)」と呼ばれ、「パリ祭」は日本だけの呼び名である。これは、映画『QUATORZE JUILLET』が邦題『巴里祭』として公開されヒットしたためで、邦題を考案したのは、この映画を輸入し配給した東和商事社長川喜多長政たちである。読み方について、今日では「ぱりさい」が一般的だが、川喜多かしこは「名付けた者の気持ちとしてはパリまつりでした」と語っている。当時の観客の大半も「パリまつり」と呼んでいたという。荻昌弘もまた「私の感覚では、これはどうあってもパリまつり、だ」と述べている。現在のイベントは、7月14日には、フランス各地で一日中花火が打ちあげられる。午前中にはパリで軍事パレードが開催され、フランス大統領の出席のもとシャンゼリゼ通りを行進する。その後、フランス共和国大統領の演説がおこなわれる。パレード終了後にはエリゼ宮殿において茶会が催される。パリ祭当日にはツール・ド・フランスが開催されている。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★ひまわりの黄色澄みしを供花にもす 正子
供花にされるのですから、ミニサイズのひまわりです。あの明るい姿と色はそのままに、可愛らしく仏さまの前に飾られるのでしょう。(多田有花)
○今日の俳句
とりどりの浴衣の少女踏切に/多田有花
踏み切りの開くのを待っている浴衣を着た少女たち。これから、連れ立って、祭りに出かけるのであろう。涼しそうで、少女らしいかわいさがあって、大人には、幼い頃を思い出させてくれる光景である。(高橋正子)
○胡麻の花

[胡麻の花/横浜緑区北八朔]
★胡麻の花濡れしに思ひ至りけり/加藤楸邨
★足音のすずしき朝や胡麻の花/松村蒼石
胡麻の花はうすむらさきである。畑につっと立った胡麻の茎に直接に咲いて、9月ごろ実がなり、葉が枯れると、花の付き具合が一目瞭然となる。農家で畑の隅に自家用の胡麻をほんの数畝植えていた。生家では、さつま芋の隣に落花生、胡麻を植えていた記憶がある。最近では横浜の北八朔で栽培しているのを見た。結構広く植えていたので、自家用ばかりではないのかもしれない。
尾瀬にゆく途中でも山裾の小さい畑に植えてあったが、これは自家用だけと見受けた。
★尾瀬へゆくバスが見せたる胡麻の花/高橋正子
ゴマ(胡麻、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草。アフリカのサバンナに約30種の野生種が生育しており、ゴマの起源地はサバンナ地帯、スーダン東部であろうというのが有力である。ナイル川流域では5000年以上前から栽培された記録がある。日本列島では縄文時代の遺跡からゴマ種子の出土事例がある。室町時代に日明貿易での再輸入以降、茶と共に日本全国の庶民にも再び広まった。古くから食用とされ、日本には胡(中国西域・シルクロード)を経由して入ったとされる。西日本の暖地の場合、5月から6月頃、畦に二条まきする。発芽適温は20度から30度で、適当な水分と温度とがあれば容易に発芽する。本葉が二枚になり草丈が成長してきたら、2回程度間引きを行い、株間を開ける。収穫は9月頃。日本で使用されるゴマは、その99.9%を輸入に頼っている。財務省貿易統計によると、2006年のゴマの輸入量は約16万トン。一方、国内生産量は、約200トン程度に留まっている。全体の僅か0.1%に相当する国産ゴマのほとんどは鹿児島県喜界島で生産され、8~9月頃の収穫時期には、集落内、周辺にゴマの天日干しの「セサミストリート」(ゴマ道路)が出現する。草丈は約1mになり、葉腋に薄紫色の花をつけ、実の中に多数の種子を含む。旱魃に強く、生育後期の乾燥にはたいへん強い。逆に多雨は生育が悪くなる。鞘の中に入った種子を食用とする。鞘から取り出し、洗って乾燥させた状態(洗いごま)で食用となるが、生のままでは種皮が固く香りも良くないので、通常は炒ったもの(炒りごま)を食べる。また、剥く、切る(切りごま)、すりつぶす(すりごま)などして、料理の材料や薬味として用いられる。また、伝統的にふりかけに用いられることが多い。種皮の色によって黒ゴマ、白ゴマ、金ゴマに分けられるが、欧米では白ゴマしか流通しておらず、アジアは半々。金ゴマは主にトルコでの栽培。
◇生活する花たち「蛍袋・立葵・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

★ひるがおのこの世に透ける日のひかり 正子
昼顔は散歩の途中でよく見かけます。あまり栽培しているというふうでもなく、道端や空き地の隅に咲いていることが多いような気がします。色も薄く何となくか細げです。そんな風情が「この世に透ける」との措辞によく表わされているように思います。(小西 宏)
○今日の俳句
緑濃き風に吹かれて書道展/小西 宏
緑濃き風が吹き抜け、心地よい会場の書道展。緑濃き風に、墨色もいきいきと浮き上がってくる。(高橋正子)
○向日葵(ひまわり)

[向日葵/横浜市港北区箕輪町] [向日葵/横浜日吉本町]
★日まはりの花心がちに大いなり 子規
★葉をかむりつつ向日葵の廻りをり 虚子
★日天やくらくらすなる大向日葵 亞浪
★向日葵や日ざかりの機械休ませてある 山頭火
★向日葵の月に遊ぶや漁師達 普羅
★向日葵やいはれ古りたる時計台 風生
★向日葵もなべて影もつ月夜かな 水巴
★向日葵や月に潮くむ海女の群 麦南
★日を追はぬ大向日葵となりにけり しづの女
★ひまはりのたかだか咲ける憎きかな 万太郎
★向日葵にとほき紺青の波の列 秋櫻子
★キリストに挿せし向日葵のみ新た 青邨
★向日葵の眼は洞然と西方に 茅舎
★向日葵のひらきしままの雨期にあり 汀女
★向日葵に天よりあつき光来る 多佳子
★ひまはりの昏れて玩具の駅がある 鷹女
★高原の向日葵の影われらの影 三鬼
★向日葵に澄む即興の子を守る唄 草田男
★われら栖む家か向日葵夜に立てり 誓子
★向日葵の蘂を見るとき海消えし 不器男
★塀出来て向日葵ばかり見ゆる家 立子
★向日葵や一本の径陰山へ 楸邨
★わだつみの辺に向日葵の黄ぞ沸きし 鳳作
★山畑に向日葵咲きて山よ濃し たかし
★向日葵にひたむきの顔近づき来 波郷
★ゴッホの向日葵切りとられ切口を見せ/高橋信之
昨年の日記より:
マンションに住んでからは向日葵を咲かせようと思ったこともなかったが、今年は、サカタのタネにミニ向日葵の種を注文した。注文する切っ掛けはあるにはあるのだが、小学生でも育てられる朝顔と向日葵を選んだ。まだ、今日のところはまだ葉っぱが成長中で蕾も見られない。よその向日葵はよく咲いている。町には青空をバックに並んだ向日葵のポスターもあって見るものに元気くれる。
わが家から東へ数軒先に毎年決まって向日葵を咲かせる家がある。小さな用事の外出に通りすがりに見上げて楽しむ。この家には、2年ほど続けて2メートル以上になる「木立ダリア」が咲いていたが、何の花だろうと、これも見上げて楽しんだ。背丈の高い花がお好きなようだ。
最近大輪の向日葵を見ることが少なくなった。子どものころの向日葵は大輪だった。種が実ると重くて頭を垂れた。この大輪が「ロシア向日葵」だということを、はるか昔、たぶん中学生のころだろうが、知った。ロシアンケーキ、マ-マレードを入れる紅茶、ロシア民謡など、ロシアのイメージの一つとして記憶していた。それを、今日ここで思い出した。
向日葵の原産地は北アメリカ西部で、ネイティブアメリカンの食用作物だったとのこと。食用向日葵に、ノースクイーンとか、アメリカンスナックという品種があるらしいが、もっともなこととうなづける。が、私のイメージは、向日葵は東欧かロシアの花のイメージが強い。食用向日葵の種子の生産の先進国は、ロシアとのこと。理由は、ロシア正教のものいみの食品制限で、油脂食品の禁止食品に向日葵が入っていなかったので、ロシアで盛んに栽培されたとのこと。こういうこともあるのか。
丘をなす一面の向日葵畑は、ロマンティックな叙情がある。ゴッホの向日葵も有名だ。ゴッホの向日葵は、向日葵とその背景の色彩が、さすがゴッホと思わせる素敵な色だ。これは大輪ではない。花瓶に活けられた向日葵もまたよい。
★向日葵に空の青さがあり余る 高橋正子
◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)
