4月10日(水)

★木苺の花が咲くなり森といい  正子
森の中に入ると思いもがけぬことに、木苺の花が咲いているのを見つけた。なんとなくあたたかい気持ちになった詠者です。(祝恵子)

○今日の俳句
春鳥の飛び去り棒の揺れるのみ/祝恵子
たとえば、畑に突っ立っている棒に、鳥が飛んで来て止まり、辺りを見たり、鳴いたりして、飛び去る。飛び去るときのはずみで棒が揺れる。春になると特に小さな生き物がいきいきと動き始める。春らしい景色。(高橋正子)

○チュ-リップ

[チュ-リップ/横浜日吉本町]

★ベルギーは山なき国やチューリップ/高浜虚子
★チューリップ喜びだけを持つてゐる/細見綾子
★チューリップ日向の色に加はりぬ/稻畑汀子
★すれ違ふどこかで見た子チューリップ/今井千鶴子
★チューリップ散って一茎天を指す/貞弘 衛
★チューリップ一輪挿せる夜の黙/金澤明子
★晴れ渡る日や正直にチューリップ/犬塚芳子
★チューリップ駅の未来図張り出され/高村洋子

 チューリップはユリ科チューリップ属の植物。球根ができ、形態は有皮鱗茎。和名は鬱金香(うこんこう、うっこんこう)、中近東ではラーレと呼ばれる。アナトリア、イランからパミール高原、ヒンドゥークシュ山脈、カザフスタンのステップ地帯が原産。
 多様な園芸品種が存在する。外観は、花弁の先端が丸いもの・尖ったもの・フリル状のものもある。咲き方は一重から八重。一つの球根から複数の花がつくもの。すぼまった状態で開花するものや花弁が外側へ反り返り全開して開花するものなど。花色も青以外の赤・黄・オレンジ・白・緑・紫などの単色や複数の色のものなど、数百品種のチューリップが存在する。青バラと同様に多くの育種家によって青いチューリップの開発が進められているが、花弁全体が青い品種は発表されていない。 チューリップの花を上から覗くと、花弁の根元に青い部分が存在する。その部分には青い色素がみられ、その青い部分を増やすことで青いチューリップを作る研究がされている。
 繁殖は主に分球で、実生(タネ)からは開花までに5年以上かかる。実生は品種改良の際に行われる。人気のある花だけに花形・花色・草姿・葉の模様・ブルームの有無・香り・早晩性・耐暑性・耐湿性・多花性・繁殖力、切花では切花寿命・無花粉化・花茎の硬さなど改良されるべき性質が多く、特に日本の高温多湿に強い品種が望まれる。ただし、野生種をはじめ交配に使える素材も多いため、時間は掛かるが品種改良は比較的容易である。
 開花前に裁縫に用いる針等を用いてチューリップの花の根元部分を貫通させ傷つけるとエチレンが発生し開花期間を長引かせることができ、開花後に同様のことを行なうと開花期間が短縮することがチューリップのみで確認されている。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月9日(火)

★雪柳の自由な茎と空気と触れ  正子
雪が舞い降りたように白い小さな花を無数に咲かせた雪柳。自由奔放に枝垂れた茎の生命力が春の空気と触れ合っています。辺りは、生き生きとした清楚な美しさが漂っています。(藤田裕子)

○今日の俳句
木々の葉の春陽きらめく野道行く/藤田裕子
木々の葉にきらめく春陽を見ながら、野道を行けば、楽しさも倍加される。うららかな春の日のびやかな気分を分けてもらった。(高橋正子)

○白詰草(クローバー)

[白詰草/横浜日吉本町] 

★クローバーに雨すこし降りけふの会/山口青邨
★クローバに青年ならぬ寝型残す/西東三鬼          
★事務服のままクローバに出て憩ふ/内田耕人
★転勤の知らせ四つ葉のクローバー/田崎比呂古
★頬よせて四つ葉のクローバー多感なり/柴田美代子
★クローバ咲き泉光りて十九世紀/加藤かけい

 シロツメクサ(白詰草、学名:Trifolium repens)は、マメ科シャジクソウ属の多年草。別名、クローバー。原産地はヨーロッパ。花期は春から秋。茎は地上を這い、葉は3小葉からなる複葉であるが、時に4小葉やそれ以上のものもあり、特に4小葉のものは「四つ葉のクローバー」として珍重される。花は葉の柄よりやや長い花茎の先につく。色は白。雑草防止、土壌浸食防止等に利用されることもある。
 漢字表記は、「白詰草」。詰め草の名称は1846年 (弘化3年)にオランダから献上されたガラス製品の包装に緩衝材として詰められていたことに由来する。日本においては明治時代以降、家畜の飼料用として導入されたものが野生化した帰化植物。根粒菌の作用により窒素を固定することから、地味を豊かにする植物として緑化資材にも用いられている。
 花は「赤詰草」にそっくりだが、色が白なのと、花茎を伸ばした先に花が咲くことから区別できる。(赤詰草は葉っぱのすぐ上に花が咲く)また、葉っぱ自体も丸っこい。(赤詰草の葉っぱはややとがる)夜になると葉を閉じる。別名:「クローバー」「馬肥(うまごやし)」馬肥は、本来は、黄色いつぶつぶの別の花の名前。白詰草の別名でもある。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月8日(月)/花祭(はなまつり、別名:灌仏会)

★花御堂飾る花にも野のげんげ  正子
私は花御堂というものを写真でしか見たことが無いのですが、この季節、野にはげんげをはじめ沢山の花々で溢れていますね。花御堂だけでなく、花で溢れた野の風景までも見えてきます。(安藤智久)

○今日の俳句
切り出され杉は春野に積み上がる/安藤智久
伐採された杉の木は深い山を出て、今度は、明るい光の溢れる春の野に積まれる。まだまだ杉の香りも紛々として、春野に積まれることに、あらたな喜びを得たようである。(高橋正子)

○花祭(はなまつり、別名:灌仏会、釈迦の誕生日)
4月8日の花祭りは、仏教の開祖、釈迦の生誕を祝福する仏教行事。潅仏会(かんぶつえ)仏生会(ぶっしょうえ)といい、「花祭り」は明治以降の名称。浴像会、降誕会などともいわれます。古代から釈迦の生まれたインドで行われてきた行事からのもので、日本ではお盆とともに仏教伝来からの歴史があります。推古天皇代(606)、聖徳太子の提唱で元興寺で行われたのが最初とか。この日、各寺には花で飾った小堂、花御堂(はなみどう)がつくられます。金属製の幼仏像をその中にまつり、甘茶が参拝者によってその誕生仏にかけられます。甘茶を潅(そそ)ぐ行事なので「潅仏会」。 花御堂は釈迦が生まれたところルンピニ園の花園を表しています。甘茶とは砂糖入りのお茶というわけではなく、ユキノシタ科のアマチャやウリ科のアマチャヅルを煎じた飲料です。漢方薬店で売っているらしい。お寺で参拝のあとにいただけるところもあります。麦茶に似た色をしていてちょっと甘くちょっとにがく、とろりとした飲みごこちがします。

★稚き葉の白く開きて潅仏会  正子
★石段のゆるびし上の甘茶寺  〃
★甘茶仏甘茶のいろに輝けり  〃
★花御堂飾る花にも野のげんげ  〃

○紫雲英(げんげ)・蓮華草(れんげそう)・れんげ・げんげん

[げんげ/横浜日吉本町]

★十本の指ありげんげ摘んでいる/三橋鷹女
★紫雲英田の沖の白波一つ見ゆ/川崎展宏
★親牛も子牛もつけしげんげの荷/高野素十
★花束になりたい蓮華草の夢/岡村嵐舟
★げんげ咲くコースジョギング続けねば/山本翠公
★何を言わんとして一面の蓮華草/田頭良子

 ゲンゲ(紫雲英、翹揺 Astragalus sinicus)はマメ科ゲンゲ属に分類される越年草。中国原産。レンゲソウ(蓮華草)、レンゲ、とも呼ぶ。春の季語。かつて水田に緑肥として栽培され、現在でもその周辺に散見される。岐阜県の県花に指定されている。
湿ったところに生える。全体に柔らかな草である。茎の高さ10-25cm。根本で枝分かれして、暖かい地方では水平方向に匍匐し、60-150センチまで伸びる場合もある。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い匍匐茎を伸ばすこともある。葉は一回羽状複葉、小葉は円形に近い楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ。一枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。花茎は葉腋から出て真っ直ぐに立ち、葉より突き出して花をつける。花は先端に輪生状にひとまとまりにつく。花色は紅紫色だが、まれに白色(クリーム色)の株もある。
 ゲンゲの花のミツは、良い「みつ源」になる。蜂蜜の源となる蜜源植物として利用されている。ゆでた若芽は食用にもなる(おひたし、汁の実、油いため他)。民間薬として利用されることがある(利尿や解熱など)。ゲンゲの花を歌ったわらべ歌もある。「春の小川」などが有名。
ギリシア神話では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が有名。ニンフが変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月7日(日)

★花淡し寺の甍がかがやけば  正子
桜の花が咲き、寺の屋根は春の陽に輝いています。「花淡し」と言いきったことで、よりいっそう桜特有の美しさが際立って伝わります。(井上治代)

○今日の俳句
楓の芽今開かんとして紅し/井上治代
楓の芽のかわいらしさと紅い色の美しさを端的に、みずみずしく詠んだ。「紅し」の言い切りが快い。(高橋正子)

○烏野豌豆(カラスノエンドウ)

[カラスノエンドウ/横浜日吉本町] 

★畦道に豆の花咲く別れかな/星野 椿
★子供よくきてからすのゑんどうある草地/川島彷徨子
★子等帰るからすのゑんどう吹きながら/照れまん
★野球ボール飛び込むからすのえんどうに/高橋正子

からすのえんどうは、小さいながらも、きっちり豆の花の形をしている。どう見ても豆の花のミニチュア版である。見るたびいつも、こう思う。

 ヤハズエンドウ(矢筈豌豆、Vicia sativa subsp. nigra[1])は、マメ科ソラマメ属の越年草。ヤハズエンドウが植物学的局面では標準的に用いられる和名だが、カラスノエンドウ(烏野豌豆)という名が一般には定着している(「野豌豆」は中国での名称)。
 本州から四国・九州・沖縄の路傍や堤防などのいたるところにごく普通に生育している。秋に発芽し、春になると高さ60 – 150cmに達する。茎には巻きひげがあり、近くのものに絡みつくこともあるが大体は直立する。茎は全体に毛があり四角柱状。花期は3 – 6月でエンドウに似た小型の紅紫色の花を付ける。豆果は熟すると黒くなって晴天の日に裂け、種子を激しく弾き飛ばす。
 原産地はオリエントから地中海にかけての地方であり、この地方での古代の麦作農耕の開始期にはエンドウなどと同様に栽培されて作物として利用された証拠が考古学的資料によって得られているが、その後栽培植物としての利用はほぼ断絶して今日では雑草とみなされている。そのため、若芽や若い豆果を食用にすることができるし、熟した豆も炒って食用にできる。また、未熟な果実の両端を切り落し、草笛にすることができる。一見するとソラマメの仲間とは思えないが、よく見ると、茎が角ばっていることと、豆のへそが長いというソラマメ属の特徴を満たしている。
 史記で伯夷・叔齋が山で餓死する前に食べていた「薇」(び)は、野豌豆の類ともいい、またワラビやゼンマイのことともいう。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月6日(土)

★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ  正子
多摩川の土手をお歩きになったのだろうと思います。時折は途切れることがあっても、つぎつぎと桜の並木が立ち現れ、上流へ上流へと咲き続いているのを目にすることができます。やがて源流まで桜の花が導いてくれるのでしょうか。(小西 宏)

○今日の俳句
囀りの光と風に青いぶらんこ/小西 宏
囀りが降り注ぐぶらんこが、「青いぶらんこ」であって、洒落ていて、メルヘンのようだ。(高橋正子)

○勿忘草(わすれなぐさ)

[勿忘草/横浜日吉本町]

★小さう咲いて勿忘草や妹が許/村上鬼城
★まさに瑠璃富士を前なる勿忘草/中村草田男
★奏でる海へ音なく大河勿忘草/中村草田男
★勿忘草わかものの墓標ばかりなり/石田波郷
★勿忘草光りて呼ぶはちさき水面/香西照雄
★勿忘草蒔けり女子寮に吾子を入れ/堀口星眠

ヨーロッパ原産の伝説とロマンに富む多年草。高さ30センチくらいで、春から初夏にかけて咲き、梢頭にかれんな藍色の花をつける。白、桃色等もある。「forget-me-not」と英語で言う。勿忘草は、英語からの翻訳。高校生ぐらいになると、教科書にこういう単語が例語として出てくる。実際の花は知らず、先にこの英語を知って、いろいろと想像を巡らせ、ヨーロッパの風景に憧れもしたものだ。花の藍色も花の形も、まさにヨーロッパ色と形という感じがする。
★植えつけて勿忘草に空映る/高橋正子

 勿忘草(ワスレナグサ)は、広義には、ムラサキ科ワスレナグサ属の種の総称。狭義には、ワスレナグサ属の一種、シンワスレナグサ(学名:Myosotis scorpioides)の和名。ただし、園芸業界でワスレナグサとして流通しているのは、ノハラワスレナグサ (M. alpestris)、エゾムラサキ (M. sylvatica)、あるいはそれらの種間交配種である。一般には、広義の意味で称される。季語は春である。
 ヨーロッパ原産で、北半球の温帯から亜寒帯(ユーラシア大陸・アフリカ大陸・オセアニア)に約50種が分布している。日本に渡来したのは、明治時代に園芸業者がノハラワスレナグサ (M. alpestris) を輸入したのが最初と言われている。しかしワスレナグサ属ということでは、日本には元来、エゾムラサキ (M. sylvatica) 一種が自生分布している。
 野生化して各地に群生しており、日本全国(北海道・本州・四国)に分布している。一般に日当たりと水はけのよい湿性地を好み、耐寒性に優れているが、暑さには弱い。二年生もしくは多年生植物の宿根草であるが、日本で栽培すると夏の暑さに当てられて枯れてしまうことから、園芸上は秋まきの一年生植物として扱われる(北海道や長野県の高地など冷涼地では夏を越すことが可能である)。
 花期は3 – 5月(冷涼地では4月 – 7月)。春から夏にかけて薄青(紫)色・鮮青(紫)色(園芸種はさらに白色・ピンク色など)をした6–9ミリ径の小さい5弁の花を咲かせ、花冠の喉に黄色・白色の目(小斑点)をもつ。花は多数でさそり型花序をなし、開花とともにサソリの尾のような巻きは解けて真っ直ぐになる。高さは20–50センチになり、葉が互生に付く。葉は細長く平らで、長楕円形(葉の中央付近が最も葉の幅が広い)、もしくは倒披針形(葉先近くが最も葉の幅が広い)である。葉から茎まで軟毛に覆われており、属名の Myosotis は、そうした葉の様子(細長く多毛で柔らかい)が、ネズミの耳に似ていることに由来している(ギリシャ語の「二十日鼠 (myos) +耳 (otis)」が語源)。
 別名「フォーゲットミーノット、forget-me-not」は、本来の名前。和名はこれの和訳。”私を忘れないでください”ドイツの伝説で、ドナウ川の岸に咲くこの花を恋人ベルタに贈ろうとして、誤って川に落ちて死んでしまった騎士ルドルフの物語からきている。その後ベルタはその言葉を忘れず、この花を一生髪に飾り続けた。

◇生活する花たち「木苺の花・著莪(しゃが)・林檎の花」(横浜日吉本町)

4月5日(金)

★子らあそばす丘の平地の桃さくら  正子
小生の住まいします、すぐ近くにも丘の上に公園があり、グランドもあります。周囲には京都市による植樹がなされ季節の花が咲いています。丘の上の平地で遊ぶ子供らの、笑顔と歓声が聞こえて来るようです。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
自転車のみな横たわり春の風/桑本栄太郎
乗って来た自転車か、横倒しにされて銀輪が光る。集団で川土手にでも遊びにきたのであろうか。春の風がそよそよと吹く麗らかな日のことである。(高橋正子)

○三葉躑躅(みつばつつじ)

[三葉躑躅/横浜日吉本町]

★日は白し三葉躑躅の塊りに/高橋正子
★咲き固まる三葉躑躅が門の内/高橋正子

ゴールデンウィークごろ、西日本最高峰の石鎚山に登ると、曙躑躅が満開となっている。芽吹き始めた木々の間に鮮やかなピンク色を見せる。山に登った甲斐があるというもの。この曙躑躅とイメージが似ているのが三葉躑躅。日吉に住むようになって、この三葉躑躅をはじめて知った。はじめ見たときは、曙躑躅だと思っていた。私にとっては新しい花である。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月4日(木)

★春水の流るる音をパソコンに  正子
春は降雨や雪解けなどで渓谷・河川・湖沼・畦田などは水嵩を増し、それがせせらぎ流れ、その上へ春の明るい日差しが照ると、冬涸れの後だけに、豊かに勢いづく感じがパソコンを打つ音にも伝わり、柔らかな調べのように静かな部屋に
伝わりますね。春らしい素晴らしい句ですね。 (小口泰與)

○今日の俳句
揚ひばり畑ねんごろに打ちにけり/小口泰與
ひばりが空高く揚がり、のどかな日和。畑の土を丁寧に打ち返す。行いを丁寧にすれば、心の内も平たんになる。また逆も。(高橋正子)

○木苺の花

[木苺の花/横浜日吉本町]

 キイチゴは木苺のことで、苺が草になるのに対し、木になるのでこう呼ばれる。仲間が非常に多いので、キイチゴ類と表現するのが正しい。分類上は、バラ科キイチゴ属(Rubus)の植物で、わが国には基本種だけで約40種が自生する。
 キイチゴ属の地上部は、1年で枯れるものから数年生きるものまであるが、大半は2年を寿命とする。つまり、1年目は枝を伸ばして葉を展開し、2年目に開花、結実して枯れる型が多い。花が咲いて茎が枯れるのは、草の特徴であり、茎は木質化してはいるものの、キイチゴ属は基本的には、草本の性質を持っているわけである。「竹は木か草か」の命題は、今でも我々を悩ませているが、キイチゴに関しては、草ということで解決済みということになる。
 「木苺」は初夏の季題である。俳句では果実の成熟する時期に視点を合わせている。ただし、近代に入ってから使われた季語のようで、江戸期の句は見つかっていない。
 木苺は前にも述べたように40種にも及ぶキイチゴ属の総称である。しかし、仙台市周辺で人気のあるのは、モミジイチゴで、他のキイチゴ類には、あまり興味がないようである。葉の形がモミジに似るのでこの名があり、果実は文字通り黄苺で、わずかな酸味と十分な甘味があって、そのみずみずしさはキイチゴ属では最上である。林縁部や林道の沿線に生え、手ごろな高さに実るので、里山の子供たちにとっても重要なおやつになっている。

     山路行くや木苺取って食ひながら         村上 鬼城
     木苺を摘みもて辿る塩の道             石井 桐陰
     木苺のしたたるばかり熟れにけり         布施 大望
     木苺に滝なす瀬あり峡の奥            水原 秋桜子
     書庫までの小径木苺熟れてゐる          山口 青邨

 「木苺の花」は初春の季語。モミジイチゴの花は、純白5弁で野生の清々しさがあり美しい。

     よく見れば木苺の花よかりけり          高浜 虚子
     燈台にはや木苺の花白し             山口 青邨

                         (宮城環境保全研究所のホームページより)

★木苺の花が小声に語り合う/高橋正子
★木苺の花が咲くなり森といい/高橋正子

木苺の実が生るところを知っている。そこに行けば毎年木苺が熟れているはずだが、たくさん実が熟れているのに出会うのは稀だ。そういうときは大変うれしい。ほとんどは、実が落ちたのか、だれか採ったのか、たった一個が残っているようなことが多い。熟れた実を宝石のように大事に持ち帰って、家人に見せる。

◇生活する花たち「木苺の花・著莪(しゃが)・林檎の花」(横浜日吉本町)

4月3日(水)

★花通草みどり透きたる葉のなかに  正子
正子先生の鮮明な花通草の写真に、目にする機会が少ない花通草の可憐な美しさを再認識しました。濃紫色の雌花と淡紫色の雄花の素朴な花弁に心ひかれます。「みどり透きたる葉」に、いっそう紫の花びらが映え、春の明るい日差しのなかで咲く花通草の優しさを思います。(藤田洋子)

○今日の俳句
山辛夷一気に空の青へ咲く/藤田洋子
「一気に」が野生である山の辛夷らしい。待ちこがれたように噴き出して咲く。辛夷の見方に元気があり新しい。(高橋正子)

○句美子句集『手袋の色』が届く。
昨日から風雨が強い。花を散らす雨ともなっているが、毎日毎日雨ばかり。昨夕、句美子の句集『手袋の色』が文學の森から届いた。代理発送をお願いした残りの320冊。花冠同人の皆さんには、近々文学の森から発送される。

○花楓

[花楓/横浜日吉本町(左:2013年4月1日・右:2011年4月13日)] 

★楓咲きまだこぼれねば石すがし/水原秋櫻子
★花楓こまかこぼるる又こまか/皆吉爽雨
★花楓数へて小さき旅にあり/岡本眸
★花嫁にそそぐ日と風花楓/西宮舞
★日ごと読む詩の一書あり花楓/永見嘉敏
★境内に少女の合唱花楓/大信田梢月
★花楓昼間静かに学生寮/高橋正子
★凝らし見て色はくれない花楓/高橋正子

○花楓
楓の若葉が開くころ、 すでに深紅の楓の花がちらちらと咲いているのに気づく。若緑と深紅が空にそよぐとなかなかいい風情。日吉本町2丁目の丘に慶応大学のゲストハウスか、あるいは中高校生の寮らしい建物がある。その庭に大きな楓があり、四月の新学期を迎えて、辺りはフレッシュな空気が漂う。反対側の民家にも楓があり、ちょうどトンネルのようになって潜り抜けると気分爽快。メイン道路なんてものもなく、気ままに歩くと出くわす花楓である。

 カエデ(槭、槭樹、楓)とはカエデ科(APG植物分類体系ではムクロジ科に含める)カエデ属 (Acer) の木の総称。モミジ(紅葉、椛)とも呼ばれるが、その場合は様々な樹木の紅葉を総称している場合もある。主に童謡などで愛でられるものはそれである。赤・黄・緑など様々な色合いを持つ為、童謡では色を錦と表現している。
 日本のカエデとして代表されるのは、イロハモミジ (A. palmatum) である。福島県以南の山野に自生しているほか、古くから栽培も行われている。園芸種として複数の栽培品種があり、葉が緑色から赤に紅葉するものや最初から紫色に近い葉を持ったものもある。一般に高木になる。落葉樹が多く落葉広葉樹林の主要構成種であるが、沖縄に自生するクスノハカエデのように常緑樹もある。葉は対生し、葉の形は掌状に切れ込んだものが多く、カエデの名称もこれに由来する(下記参照)。しかし、三出複葉(メグスリノキ)や単葉(ヒトツバカエデ、チドリノキ、クスノハカエデ)のものもある。花は風媒花で、花弁は目立たなく小さい。果実は二つの種子が密着した姿で、それぞれから翼が伸びる翼果である。脱落するときは翼があるので、風に乗ってくるくる回って落ちる。
 日本では鮮やかな紅葉が観賞の対象とされ、庭木、盆栽に利用するために種の選抜および、品種改良が行われた。諸外国では木材や砂糖の採取、薬用に利用されるのみであったが、明治時代以後に西洋に日本のカエデが紹介されると、ガーデニング素材として人気を博し、西洋の美意識による品種も作られ、日本に「西洋カエデ」として逆輸入されている。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月2日(火)

★来るまでを辛夷のひかり見て待てる  正子
よいお天気の温かい日に辛夷の木の傍でどなたかと待ち合わせをされたのでしょう。「辛夷のひかり」にその後も素敵な時を過ごされたことと思われます。(黒谷光子)

○今日の俳句
鐘の音に児ら寄ってくる春の夕/黒谷光子
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)

○鈴蘭水仙(すずらんずいせん)

[鈴蘭水仙/横浜日吉本町・金蔵寺] 

★花散る大待雪のつれもつれ/秋村
★夜静寂スズラン水仙の仄灯り/かずえ
★まだ寒し鈴蘭水仙うつむき咲き/高橋正子

 鈴蘭水仙(すずらんずいせん、学名:Leucojum aestivum)は、ヒガンバナ科スノーフレーク属の植物の1つ。クロンキスト体系ではユリ科。和名はオオマツユキソウ(大待雪草)、別名はスノーフレーク。
 ヨーロッバ中南部原産。多年草。花期は春で白いスズランのような花が咲く。花弁の先端には緑の斑点がある。秋植の球根草であるが、数年くらいは植えたままでも差し支えない。本種と名前の似たスノードロップ(マツユキソウ) (Galanthus nivalis) という球根草もあり、これと混同しないよう注意が必要である。
 開花時期は、 3/ 5 ~ 4/末頃。地中海沿岸原産。垂れ下がったようすがおもしろい。鈴蘭のようで、水仙のようなので、うまいネーミングといえる。3月28日の誕生花。花言葉は「皆をひきつける魅力」。

◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

4月1日(月)

★煽られて花のゆるるは大いなる  正子
見事に咲いた桜の樹が春風に煽られて枝を揺らせている。しかし花吹雪になるほどでもなく、今や春爛漫の候、しっかりと花をつけて動じない。自然の精妙さと大きさがおのずから体感されるるような素敵な御句と思います。(河野啓一)

○今日の俳句
高々と蝶越え来しや伊吹嶺/河野啓一
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)

○樒(しきみ)の花

[樒の花/横浜日吉本町]

★ゆかしさよ樒花咲く雨の中/与謝蕪村
★山住も樒の花をみる日かな 雲舎
★樒咲く山の空き家のすみに咲く うらら
★老婆らの元気な声や花樒 819maker

樒(シキミ、櫁、梻、学名:Illicium religiosum Illicium anisatum)はシキミ科シキミ属の常緑高木である。「しきび」とも読む。有毒。仏事に用いるため寺院に植栽される。常緑樹で、高さは10メートル程度、胸高直径は30センチ・メートルとなる。樹皮は暗い灰褐色になり、老木になると縦の裂け目を生じる。若枝は緑色。葉は、枝の先端に集まってつき、短い葉柄を持つ楕円形から倒卵形を帯で、長さ5 – 10センチ・メートル、深緑色でつやがある。葉の質はやや厚く、何となく波打ったようになることが多い。葉の先端は急に突き出して鈍端。花は葉の付け根から一つずつ出て春に咲く。花びらは淡黄色で細長く、ややねじれたようになる。果実は扁平で周囲に8本の突起が出ている。上面が裂開し種子が出る。種子は褐色でつやがあり、小さいドングリを押しつぶしたような形をしている。
日本では本州中部以南、四国、九州、琉球に分布し、中国にも分布する。
樒(シキミ・シキビ)は俗にハナノキ・ハナシバ・コウシバ・佛前草という。弘法大師が青蓮華の代用として密教の御修法にお使いになられた。青蓮花は天竺の無熱池にあるとされその華に似ているので御佛前の供養用に使われた。なにより四季に美しく年中継続して手に入れやすいので我国では俗古来よりこの枝葉を佛前墓前に供えている。古代にはサカキと同様に神社でも用いられたといわれるが、神式での榊(=サカキ)のように梻と書いた。(木偏に佛、「佛」は仏の旧字体)という国字もある。現在でも京都市の愛宕神社などの神事には榊でなく、シキミが使われている。シキミを挿した水は、腐りにくいのである。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)