★寒椿そよげる竹の葉にふれて 正子
春に先駆けて咲く椿。周りの風景はまだ荒涼としている中に鮮やかな色を放つ椿。赤い椿と風に揺れる竹の葉の緑と言う組み合わせは絵を思い出させる。 (古田敬二)
○今日の俳句
寒禽の影滑る野に鍬を振る/古田敬二
野に懸命に鍬を振っていると、寒禽の影が滑っていった。土と我との対話があって、寒禽がそれに色を点じて景がたのしくなった。添削は、「冬禽」を「寒禽」として、鳥のイメージを際立たせ句に緊張感をもたせた。(高橋正子)
○角川書店の短歌・俳句新年会
1月18日(金)の角川書店の短歌・俳句新年会に家族3人、私たち夫婦と娘で参加。場所は、東京会館。4時から俳句・短歌の角川賞の贈呈式があり、受賞作品の選者の講評を聞いた。日本の俳句、そして短歌も含めて、進むべき道について考えさせられた。贈呈式から会場を移して新年会に出たが、300人は、出席者がおられただろうか。この人数のなかから、初めての面識ながら、10名ほどの方に名刺を交換いただいた。お土産に角川ソフィアブックスの『古事記』をいただいた。新年だから思うのか、一家に一冊『古事記』があってもいいのかと。
○寒菊

[寒菊/横浜日吉本町]
★寒菊や粉糠のかかる臼の端 芭蕉
★寒菊や古風ののこる硯箱 其角
★霜の菊杖がなければおきふしも 嵐雪
★寒菊やしづがもとなる冬座敷 土芳
★寒菊や村あたたかき南受 子規
★寒菊の小菊を抱いて今日ありぬ 亞浪
★寒菊やつながれあるく鴨一つ 水巴
★寒菊にいぢけて居ればきりもなし みどり女
★寒菊は白き一輪狸汁 青邨
★わが手向け冬菊の朱を地に点ず 多佳子
★寒菊に憐みよりて剪りにけり 虚子
★冬菊のまとふはおのがひかりのみ 秋櫻子
★我に返り見直す隅に寒菊赤し 汀女
★弱りつつ当りゐる日や冬の菊 草城
★寒菊にふれし箒をかるく引き 立子
★寒菊に文字生きしまま灰の紙 静塔
★寒菊の臙脂は海の紺に勝つ 風生
★寒菊の雪をはらふも別かな 犀星
大辞林 第三版の解説では、寒菊は、冬に咲く菊の総称。霜に強く,花は小輪で観賞用に栽培される。冬菊。
デジタル大辞泉の解説では、寒菊は、菊の一品種。花も葉も小形。霜に強く、12月から翌年1月にかけて黄色い花を咲かせる。こがねめぬき。しもみぐさ。
web茶花歳時記の解説では、キク科の多年草。菊の一品種。中国原産。開花期によって春菊、夏菊、秋菊、寒菊とわけ、一般的に12月から1月に咲くものを寒菊と呼ぶ。花期が他のキクの仲間に比べて遅く、寒くなってから咲くので寒菊の名があり、秋咲きのコギクを改良したもので、丈も低く、花つきも少ない。霜にあって葉が色づいたものを照葉(てりは)といい、葉が紅葉した寒菊を、照寒菊(てりかんぎく)といい、風情があるのでその時を好んで使われる。 ただ、永禄7年(1564)に堺の茶人 直松斎春渓が筆録した 『分類草人木』 には 「花ニ不生花アリ、太山樒ナドノ様ナル盛リ久シキ花嫌也。花柘榴モ不入。寒菊ノ葉ノ紅葉シタル不入。」、貝原益軒の元禄7年(1694)『花譜』に「寒菊 葉も花も常の菊より細なり。十月に黄花を開きて、臘月に至る。花なきときひらく故、花賞するに堪たり。京都は寒き故、其葉もみぢして、葉もみるに堪たり。菊と同類なれども、花の時節かはる故に、別に記す。」とある。
◇生活する花たち「辛夷の花芽・水仙・千両」(横浜日吉本町)

★水仙を活けしところに香が動く 正子
水仙は冬も終わりになったころから春にかけて咲きます。清楚な姿とそれにふさわしい香り、庭の水仙を切って活けられたのでしょうか。香りの動きは人の動きでもあり、寒中の一日を大切に過ごされる様子が伝わります。(多田有花)
○今日の俳句
髪洗う耳に木枯し届きけり/多田有花
髪を洗うときに耳の辺りが一番ひんやりするが、そこに木枯らしが吹く音が届いた。「耳に届く」は、リアル。季語は「木枯らし」。(高橋正子)
○大寒
★寒浄し床に白磁の観世音/川本臥風
★大寒や転びて諸手つく悲しさ/西東三鬼
★大寒の床におさまり静かな土鈴/高橋信之
大寒(だいかん)は、二十四節気の一つ。冬至から1/12年後で1月21日ごろ、期間としては、この日から、次の節気の立春前日までである。今年は、大寒の入りが1月20日、立春前日の節分が2月3日で、その間の15日間を大寒という。この頃は、冬の内でも寒さのはげしい時期である。
★大寒の水道水の真すぐ落つ/高橋正子
★大寒の障子のそばの日の移ろい/高橋正子
○冬の梨園

[冬の梨園/横浜市緑区北八朔] [花の梨園/横浜市緑区北八朔]
★梨園の今寒中の静けさに/高橋信之
★梨棚に白とも言えぬ花咲けり/高橋正子
梨の花と林檎の花が同時くらいに咲いた。これは、瀬戸内にある生家の庭と竹藪の話である。梨は、多分鑑賞用に、長十郎が庭に、林檎は竹藪の端に、何のためかあった。梨は実を付けたが、林檎は花を咲かせるだけだった。冬はそれぞれ、雪が降る日も、氷雨の日も、木枯らしが吹く日も、枝ばかりであった。それでも冬の終わりを告げる節分のあと、子どもながら、これらの花が咲くまだまだ先の日を思って暮らした。私が冬が好きなのは、こういう春のことを思えることも一つである。
冬はもっぱら剪定です。剪定とは、古くなった枝を取り、来年実をならせる枝、樹が力をつけるための枝など、一本一本の樹の状態を見て決め、配置していくのです。みなさんもお気づきかと思いますが、梨園の天井には格子状に針金が設置されています。梨の樹は本来、上へ上へと伸びていくのですが、作業がしやすいように、針金の棚に縛っていくのです。剪定の手順としては、まず、電動の剪定ハサミとノコギリで、いらない枝を切り落とします。
あまりにも量が多いので、機械を使わないと疲れますし、腱鞘炎になってしまいます。そのあと、間隔を空けて枝を配置する場所を決め、棚に縛っていきます。使うひもは、植物性繊維の土に還るものを使用しています。縛った後は、樹の切り口に薬を塗っていきます。これは、菌が入らないようにし、癒合を早めるためです。剪定は時間がかかり、一日に5,6本できたらいい方です。梨の樹は400本…。これを3月いっぱいで終わらせなければいけません。冬の間も忙しいのです。こうして3月後半になると、花芽が開き始めます。(web「下田梨園*冬の梨園のお仕事*」より)
しょうぶの梨100年記念園(しょうぶのなし ひゃくねんきねんえん)は、埼玉県久喜市が設置、管理・運営する公園である。このしょうぶの梨100年記念園は1994年(平成6年)3月に完成した公園である。この公園は「菖蒲の梨」が歩んできた歴史を記念すると同時に、五十嵐八五郎の功績をたたえて整備されたものである。園内には旧南埼玉郡菖蒲町(現:久喜市菖蒲区域)の梨の歴史が彫刻された碑文や、俳句の碑・短歌の碑などが彫刻された石碑が所在している。このほかあずまやが所在しており、小規模な梨園も整備されている。(ウィキペディア)
◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・芽柳」(横浜・四季の森公園)
早稲田大学
★学生喫茶ジャズと会話と暖房と 正子
軽やかなジャズの流れる中、楽しく談笑する学生たち。若人の活気あふれる、心地良い暖房の喫茶に、明るく自由な空気が漂います。青春時代の一ページをふと思い起こさせてくれる学生喫茶なのでしょう。(藤田洋子)
○今日の俳句
一路澄み石鎚見ゆる寒の晴/藤田洋子
行く手の一路の道が澄んで、その先に雪を冠った石鎚山が見える。寒晴れがくれたすっきりと、晴れやかな景色。(高橋正子)
○慈姑(くわい)
くわいを掘りにゆくからついてくるように言われたのは、もう半世紀以上も前。母の里には、蓮根やくわいが植えてあって、泥の中から青いくわいを伯母が掘りだして見せてくれた記憶がある。丸くて青いくわいは子供心にも魅惑的だった。これは、備後地方のこと。四国松山では、青くなく、その形も扁平である。正月料理に芽が出ていることから目出度いということで使われる。正月料理用には、一個150円から200円近くで売られているが、値段のことを言ってはおれないので買うのだが、私は、普段でもこのくわいを食べたい。しかし、正月を過ぎるとこのくわいが八百屋の店頭からも姿を消してしまうので、残念なのだ。昔、昔夏休みのころ食べた菱の実の味に似ていると思う。くりっとして、ほっこりしている味である。
○冬桜

[冬桜/横浜日吉本町]
★冬櫻飛ぶ鳥の影当りけり 宮津昭彦
★冬桜日当りて花増えてきし/大串章
★一葉の晩年日記冬桜/深見けん二
★冬桜咲いては空を曇らしむ/有働亨
★咲きつづくほかなき白さ冬桜/山田弘子
★冬ざくら朝日しづかに射しわたる/阿部ひろし
★陵や静もる朝の冬桜/青木政江
★冬桜日差せば母と在るごとし/松田雄姿
★汲みたての水ほのめくや冬桜/三橋迪子
★この深き空の青さよ冬桜/西山美枝子
★冬桜咲きいて空の美しき/高橋信之
★冬桜風受けやすき丘に咲く/高橋信之
★冬桜見ている眼を風が過ぐ/高橋正子
★冬桜どれも高くて雲に見る/高橋正子
冬桜は、元日桜、寒緋桜などの別名がある。桜にはめずらしく緋色をしているが、一般には、冬にさく桜を冬桜と呼んでいる。
冬桜として印象が深いのが、鎌倉報国寺にあるもので、緋色ではなく、桜色をしたもの。外国人が、枝にほちほちと咲いた小さな桜をいとおしそうに、目を近づけて見ていた。そのあと、私も近づいて眺めたが、消え入りそうに、でも確かに咲いている。あまり多く花をつけないのが見どころであろう。背景に青い空があると、いかにも、儚く美しい。
冬桜は、バラ科サクラ属の落葉高木で、学名は Prunus x parvifolia cv.Parvifolia。「オオシマザクラ(P. speciosa)」と「マメザクラ(P. incisa)」との種間交雑種と考えられている。江戸時代の後期から栽培され、「コバザクラ(小葉桜)」とも呼ばれている。冬桜と同様に、秋から冬にかけて咲く桜に「十月桜」がある。冬桜と同じバラ科サクラ属。秋や冬に、「季節はずれに桜が咲いてるな」というときは、この十月桜であることが多い。十月桜も含めて、秋から冬にかけて咲く桜のことを総称して「冬桜」と呼ぶこともある。
◇生活する花たち「冬椿・冬の梨園・冬田」(横浜市緑区北八朔)
★日は燦と冬芽の辛夷生かしめて 正子
日が燦々とあたり、これからの辛夷の芽も育ち、花が咲くのが待たれます。「生かしめて」素敵なことばです。(祝恵子)
○今日の俳句
初採りの冬菜根を持ち土落とす/祝 恵子
秋に蒔いた菜が寒さの中にようやく育った。引き抜いた菜の根を持ち土をほろほろ落とす。寒そうな土と丈夫な根に冬菜の元気が見える。(高橋正子)
○白菜
★白菜を夜は星空の軒蔭に 正子
白菜は、鍋に漬物に大根に劣らず日本で多く食される野菜のひとつ。白菜の漬物が美味しい。白菜に丸ごとに包丁を根もとのほうだけ入れ、あとは割いて四等分なり八等分なりして、太陽の恵みがありますようにと日向で干す。日向で干すことにより白菜に甘味が増す。一日では十分でなく夜は霜露がかからないように軒下に入れる。こうしてしんなりしてきた頃漬物につける。十分な重石がなければ、おいしいものができない。目下の悩みは、漬物に十分な重石を持っていないこと。それでも小さい漬物器で初めから小さく切って漬物を楽しんでいる。
○辛夷の花芽

[辛夷の花芽/横浜日吉本町(2013年1月12日)][辛夷の花蕾/横浜日吉本町(2012年3月25日)]
★晴ればれと亡きひとはいま辛夷の芽/友岡子郷
★風の日の白の際立ち花辛夷/鷹羽狩行
★朝空のすでにおほぞら花辛夷/林誠司
★墓のみとなりしふるさと辛夷咲く/山田暢子
★夕空にさざなみたちぬ花こぶし/貞吉直子
★こぶし咲く坂登りゆくバスの数/辻のぶ子
★花辛夷やまびこゆきてかへるかな/坂田和嘉子
★花辛夷朝の光りにふるへ咲く/勝又寿ゞ子
★人を待つ辛夷の光見上げつつ/高橋正子
コブシ(辛夷)の花芽(広島市植物公園2月14日)
辛夷の花芽が柔らかくひかっていた。開花期は地域の気候に左右され3~5月と幅がある。自分の住む広島県西部の山に自生しているのは、「コブシ(辛夷)」ではなく「タムシバ(匂辛夷)」だから、これは植栽されたものである。両者にほとんど違いはないが、辛夷は花の付け根に小さな葉が一つついているのに対し、タムシバの場合は葉がつかない。この地方では4月上旬に開花することが多い。いっせいに咲いて咲き終わり、また山に紛れてしまう。(ブログ「山野草、植物めぐり」より)
コブシ(辛夷、学名:Magnolia kobus)は、モクレン科モクレン属の落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。別名「田打ち桜」。
◇生活する花たち「辛夷の花芽・水仙・千両」(横浜日吉本町)

★寒厨卵も餅も白ほのと 正子
寒卵にお正月のお餅、寒中の台所には、優しい白い食べ物がありました。底冷えのする寒厨に、小さなぬくもりを見つけられた明るさ。思い描くと、ほっといたします。 (川名ますみ)
○今日の俳句
富士山と冬夕焼の中に居る/川名ますみ
富士山はいつもしっかりと座っている。さびしさもあるけれど、あたたかさのある冬夕焼けに包まれて過ごすとき、大きく、偉大なものといる安心感がある。(高橋正子)
○葱
★折鶴のごとくに葱の凍てたるよ/加倉井秋を
★葱太る日が高々と駅裏に/高橋信之
★葱剥けばすぐ清冽な一本に/高橋正子
広島の備後地方に育った私は、葱は子どものころ嫌いな野菜であった。父母の世代までは、葱というより根深と呼んでいたような記憶がある。根元に深く土を寄せていた。土から掘り上げて、枯れた葉や薄皮を剥くと、葱の匂いがぷんとして、手に泥がかたまったように黒くつく。一皮むけば、葉葱ながらまっ白い茎が現れた。すき焼きにもこの葉葱が使われる。みそ汁や、ただ葱を油揚げや豆腐と炊いたような惣菜にも。霜の朝、家の前の畑に行くと、加倉井秋をの句のように、葱の葉は、くの字に折れている。折鶴を連想させるのも無理もない。根の白い部分を食べるものを、「東京葱」と呼んでいたが、田舎では見たことはなかった。今は横浜に住んでいるので、もっぱらこの白い根を食べるものを使っている。葉葱の代表の九条葱も売られているが、これは、めったに買わない。小葱と呼ばれる薬味に入れる葱は冷蔵庫に切らすことはなく、この小葱は普段大活躍。厚焼き卵に入れるし、小葱の小口切りにしたものだけをいっぱい入れたみそ汁もたまに作る。これがまた美味なのだ。葱は、地方によってさまざまの品種があるようだ。焼き鳥の肉の間に挟んだ焼いた葱もおいしい。焼いたり、煮たり、刻んだままで、嫌いだった葱も好きとは言わないがよく食べている。
○寒林

[寒林/横浜・四季の森公園] [寒禽/横浜・四季の森公園]
★冬木立いかめしや山のたたずまひ 才磨
★斧入れて香におどろくや冬木立 蕪村
★郊外に酒屋の蔵や冬木だち 召波
★冬木だち月骨髄に入る夜かな 几董
★冬木立烏くひきるかづらかな 闌更
★寒林の日すぢ争ふ羽虫かな/杉田久女
★学園の寒林の中牧師棲む/松本たかし
★牛乳の噴きこぼれをり冬木立/長谷川櫂
★野の入日燃えて寒林の道をはる/水原秋桜子
★寒禽となり了んぬる鵙一羽/竹下しづの女
★寒禽の叫び古墳の揺るるほど/大串章
★寒禽の声の飛び交ふ雨の中/片山由美子
★寒禽の声はお隣かも知れぬ/稲畑汀子
★影と来て影一点となる寒禽/豊田都峰
★寒禽の嘴をひらきて声のなき/長谷川櫂
★寒林を行けばしんしん胸が充つ/高橋正子
★寒禽の止まりし枝の丸見えに/高橋正子
寒林とは、冬枯れの、寒々とした林。(デジタル大辞泉の解説)
「寒いですね」というと「寒中だから」という。そう云われれば、冬であり、寒中だから寒さも厳しくて当り前なのでしょう。これで気温が35℃もあったりしたら「どうなってっの」と気候変動を心配しなければなりません、寒くていいのでしょうね。寒林、冬木立が寒に入った状態だそうですが、あえて説明するならば「葉を落とし尽くしてしまった落葉樹の冬の林の蕭条(しょうじょう)したさま」ということになるようです。木だって寒いでしょうから(?)、寒くないように家の中に入れてあげました。すこしでも温かくなるようにというささやかな気持ちなのですが「小さな親切大きなお世話」なのかもしれませんね。やはり、冬木立、冬木群(ふゆこむれ)は自然のままがいいようです。(ブログ「as time goes by」より)
◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・芽柳」(横浜・四季の森公園)
★水仙の香をすぎ山路急となり 正子
水仙の香りを楽しみつつの山歩きも、その場を過ぎると一気に山道に入りました。ゆったりとした気持ちから山路を行く気持ちに切り替わる瞬間を感じます。(高橋秀之)
○今日の俳句
冬草に海の青さが押し寄せる/高橋秀之
海の岸辺近くの冬草。日にかがやく海の青が強くて、冬草にまでその光が及んでいる景。テーマは「冬草」。(高橋正子)
○蕪(別名スズナ)
★雪降らぬ伊予の大野や緋の蕪/高浜虚子
カブ(蕪)はアブラナ科アブラナ属の越年草。代表的な野菜(根菜類)の一つで、別名はカブラ、カブナ、カブラナ、スズナ(鈴菜、菘)など数多い。「カブ」の語源は諸説あり、頭を意味する「かぶり」、根を意味する「株」、またはカブラの女房詞である「オカブ」からとされている。
正月七日に七種類の若菜を食べると万病を除くと考えられ平安時代の初めごろはじまったものらしい。七種の菜は、せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな(蕪)・すずしろ(大根)である。
蕪は絵になる。大根もなるかもしれないが、蕪のほうが形と葉に面白みがある。信之先生が絵を描くときは、野菜は絵になったあと台所へ回される。小蕪は、寒い時期なら、まるごと煮て葛あんをかけるのが評判がいい。あとは、ポトフやみそ汁に入れたり、漬物や酢の物になっている。最近男の子は酢の物を嫌うので、蕪の酢の物はあまり作らなくなった。酢の物はサラダにとってかわられている。
大根と呼ばれながら、蕪としか思えないものもある。さくらんぼのような赤い二十日大根、千枚漬けの聖護院大根。私のイメージでは、この二つは蕪の仲間に入っている。聖護院大根は、子供のころ、冬の保存食として、京都の千枚漬けとは違っているが、薄く銀杏切りにして甕いっぱい酢漬けにされていた。今思えば、寒い季節のわりに酢が強すぎたという感じだが、この聖護院大根をかぶらを呼んでいた。
子供にとっては、蕪といえばロシアの民話の「大きなかぶ」の話だろう。佐藤忠良の挿絵の「大きなかぶ」の絵本を何度も子供に読まされた。
○桜冬芽

[桜冬芽/横浜市緑区北八朔(2013年1月9日)]_[桜の花/横浜日吉本町(2011年3月27日)]
★蔵したる桜冬芽の守る句碑/稲畑汀子
★雨雫桜冬芽に小宇宙/堀佐夜子
★城跡へ桜冬芽の未だ固し 惟之
★尖りしは桜冬芽の力なり/高橋正子
★青空に桜冬芽の赤味帯ぶ/高橋正子
2月9日に海老谷桜の再生状況について、専門家や地元の皆さんと検討会を開催しました。その内容について報告します。
再生状況について
海老谷桜の状況は、各枝の色あいや艶(つや)も良く、新しい枝も延びてきていますし、枝には冬芽(とうが 花や葉のもとになる芽)もしっかりと付いて膨らみ、春に向けた準備が確認できます。全体的には、順調な回復をみせていると言えます。しかし、根や幹枝の状況や冬芽の付き方を細かく観察すると、現在の再生は、人間の助力によるところが大きく、今後も引き続き支えていかなければならない状況であると判断され、依然として、その再生には予断を許さない状況にあります。
今春の開花について
開花のためのエネルギー消費は、大きなものがありますが、最も大量に消費するのが、開花後の「実」を付ける営みです。そのため、「実」を付けさせないように人間がコントロールすることが大切であるとの認識で一致しました。その方法としては、海老谷桜自身の力を引き出すために、自然な形で開花させた後、速やかに花を摘み取る方法と最初から人間がコントロールする形で花芽(はなめ)を摘み取り、花を咲かせない方法があります。この点について検討した結果、市としては、冬芽が成長して花芽と葉芽(はめ)に識別できる3月後半の段階で、花芽の量や付き方を調査し、最終的に判断することにしました。
多くの皆さんが花咲く海老谷桜の姿を思い、ご支援、ご心配をいただいておりますが、引き続き見守っていただきたいと思っております。(浜田市のホームページより)
◇生活する花たち「冬椿・冬の梨園・冬田」(横浜市緑区北八朔)
★寒空の青に鳥らの飛ぶ自由 正子
冬枯れとなった荒涼とした野外の空は青々と晴れ渡っている。「寒空もものかは」と言わんばかりに活き活きと飛び回っている鳥達を眺め、森羅万象の中に共に有る事を喜ばれ、「鳥らの飛ぶ自由」と詠われた作者の晴れ晴れとした気持が伝わってまいります。 (佃 康水)
○今日の俳句
牡蠣揚がる瀬戸の潮(うしお)を零しつつ/佃 康水
広島は牡蠣の産地として知られているが、牡蠣の水揚げを詠んだ句。潮を零しながら、しかも瀬戸の、と具体的な詠みに情景がくっきりと浮かび上がり、臨場感が出た。(高橋正子)
○すずしろ(大根)
★流れ行く大根の葉の早さかな/高浜虚子
虚子写生の代表な句で、昭和3年11月10日、九品仏吟行のときの作品。句の対象が「大根の葉」のみで、そこに焦点が絞られ、他が切り捨てられているので、作者の思いが何処にあるか、見極め難い。そこが評価の分かれるところであろうが、私は、この句をよしとした。俳句というものを教えてくれる佳句である。(高橋信之)
「すずしろ」は大根の昔の呼び名で、1月7日の七草粥では大根のことを今でも「すずしろ」という。大根は日本でもっとも消費量の多い野菜と聞く。大根が昔ながらの食生活を牽引しているとも言えるのではなかろうか。日本の食卓から大根が消えるときがあろうか。
大根の食べ方もいろいろ。ごく最近では、朝食のポトフに蕪ではなく、大根を入れた。朝食用なので、野菜は小さめに切った。大根はいちょう切り。キャベツとともに、あっさりとして体が温まる。ポトフに大根を入れるのは、私のアイディアではなく、伊豆の今井浜のホテルに泊まったときに、地元野菜を使った料理がいろいろと出されたがそのうちのひとつ。
これもごく最近のぶり大根。おなじみの料理だが、大根は皮を剥かずに乱切り。ほんの少し甘味だが、大根くささ、苦味などがほとんどなく、しかも確かに大根の味がする。子どもから大人まで楽しめる味だと思う。料理家の土井善晴さんのレシピをネットからダウンロード。
それから、秋には、大根を千六本に切ったものに、ちりめんいりこをトッピングして昆布ポン酢で食べる。浅漬け大根も寒い朝にはさわやかでよい。信之先生は、千六本に切ったものを湯豆腐に入れるのが好きで、たまに、そういう食べ方もしている。
○梅冬芽
[梅冬芽/横浜日吉本町(2013年1月6日)]_[梅の花/横浜日吉本町(2012年2月2日)]
★細幹の冬芽の滲み出す如し/行方克己
★冬芽粒々水より空の流れゐつ/野澤節子
★人眠る頃も一気の冬芽かな/阿部みどり女
★雪割れて朴の冬芽に日をこぼす/川端茅舎
★高空の風の冬芽となりにけり/川合憲子
★雲刷かれ梅の冬芽の枝真すぐ/高橋正子
★剪定の木口あたらし梅冬芽/多田有花
▼梅冬芽/2012年12月11日(多田有花)
寒波は和らいだようです。ここ数日で落葉が進みました。冬至まであと十日、まだ日は短くなっていきますが、日没が最も早いのはここ二三日ほどのことです。落葉樹が裸になってしまうと、あとは「春を待つ」という感覚になります。
増位山の梅林のまわりの木々も落葉しました。梅も11月の間はまだ葉を残していましたが、今日見ると、すっかり葉を落としつくしていました。早生から晩生までいろいろな種類の梅があります。葉を落とすのもやはり早生が先です。葉を落とした梅の間を歩いていると、もう花芽が準備を整えて整然と枝に並んでいました。
★散り終えし枝にはしかと梅冬芽/多田有花
▼梅冬芽/2009年1月9日(多田有花)
今日も穏かで風も無く日中は暖かな一日でした。早朝はそれなりに寒いのかもしれませんが、出勤しないので、その寒さも昔のことになりました。ペットボトルに入れたぬるま湯をフロントガラスにかけて、霜を溶かしたのもなつかしい思い出です。
増位山の梅林の梅が膨らんでいます。紅梅と白梅、それぞれに花の色がはっきりわかり、もう間もなく綻ぶというところまてきています。春の接近を告げてくれる花ですね。楽しみです。(多田有花)
★紅白を見せて膨らむ梅冬芽/多田有花
▼梅冬芽/2007年1月9日(gogogobar)
ちょっと遅い仕事始めの日。岐阜まで朝、往復しました。朝6時前はまだ夜。月と星が輝いていました。一宮あたりで日の出。名神から東海北陸自動車道に分かれると目の前には恵那山、ちょっと左手に御岳、乗鞍。白く大きな姿が遠望できる。岐阜の茜部では暖かい朝。恵那の雪景色とは全く別世界でした。私の家のまわりでは、杉も檜木も白砂糖をまぶしたお菓子のようにおいしそう。梅の木は冬芽を大事に春の準備をしているようだ。
◇生活する花たち「辛夷の花芽・水仙・千両」(横浜日吉本町)

石鎚山
★雪嶺にこだま返すには遠き 正子
石鎚山を近くから見たことはないのですが、峻厳な、神性を感じさせる山だと聞いています。とりわけ、雪をまとう姿は荘厳なものなのでしょう。こだまが返ってくる(あるいは、こだまを求めて呼びかける)には遠く感じるというのは、単に距離のことだけではなく、そうした深い思いを秘めてのことなのだろうと思います。連帯止めの余韻が響きます。(小西 宏)
○今日の俳句
枯原を高さ自由に熱気球/小西 宏
広い枯原の上に熱気球が、さまざまに浮いている。「高さ自由に」はのどかな景色で、夢がある。(高橋正子)
○寒椿
[乙女椿(寒中に咲く椿)/横浜日吉本町] [寒椿(山茶花との交雑種)/ネットより]
★竪にする古きまくらや寒椿 野坡
★折り取つて日向に赤し寒椿 水巴
★瀞の岩重なり映り寒椿 石鼎
★寒椿少しく紅を吐きにけり 青邨
★寒椿咲きたることの終りけり 風生
★寒椿落ちたるほかに塵もなし 悌二郎
★寒椿月の照る夜は葉に隠る 貞
★寒椿線香の鞘はしりける 茅舎
★ことごとに人待つ心寒椿 汀女
★くれなゐのまつたき花の寒椿 草城
★何といふ赤さ小ささ寒椿 立子
★寒椿けふもの書けて命延ぶ 林火
★園丁の昼煙草寒椿かな/村山古郷
★寒椿落ちたるほかに塵もなし/篠田悌二郎
★寒椿というや雪の公園に/高橋正子
寒椿は、広辞苑によれば、(1)寒中に咲く椿と(2)ツバキ科の常緑中低木とに分けられている。(1)寒中に咲く椿は、乙女椿(おとめつばき)・大神楽(だいかぐら)・侘助(わびすけ)などであり、(2)ツバキ科の常緑中低木は、椿と山茶花の交雑種とされるツバキ目ツバキ科ツバキ属のひとつの「寒椿」である。ツバキ目ツバキ科ツバキ属の「寒椿」は、「山茶花」との区別が難しく、低木で枝と葉に毛がある。花は紅色の八重咲きで、やや小さく、11月~1月頃開花する。
◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・芽柳」(横浜・四季の森公園)
★正月の山の落葉のかく深し 正子
「正月」と「落葉」という季語が重なっているが、その重なりに、作者の「正月」であることの思いが強く、そして深く伝わってくる。表現が正直であることが強みでもある。(高橋信之)
○今日の俳句
澄みていし枯野に響く貨車の音/迫田和代
枯れが進んでくると、枯れも澄んだ感じとなる。枯野を長い貨車がことことと走り抜けて行く音が、人間的な懐かしさをもって訴えている。(高橋正子)
○榠樝(かりん)
[榠樝(かりん)/横浜日吉本町(2012年10月20日)]_[榠樝(かりん)/横浜日吉本町(2013年1月8日)]
★くらがりに傷つき匂ふかりんの実/橋本多佳子
★かりんの実しばらくかぎて手に返す/細見綾子
★売り家の庭に花梨が熟れている/川上杜平
★テーブルに置いて花梨の実が匂う/高橋正子
★花梨の実祭り幟がはためくに/高橋正子
かりんの実を手にすると、いい匂いと表皮のねっとりした感触が伝わる。色合いも形も文人好みである。一つ二つのかりんをもらっても、何にしてよいのかわからないまま、テーブルなどに飾りのように置く。そして、その傍でものを書いたりしていると、その匂いに倦んでくる。そしてついに捨てられる。かりん酒などは、たとえ思いついても、作りはしない。かりんの実が熟れるころ、在所の祭りがある。墨痕鮮やか祭りの幟をはためかす風に、かりんは黄色く色づくのだ。
カリン(榠樝、学名:Chaenomeles sinensis)は、バラ科ボケ属の落葉高木である。その果実はカリン酒などの原料になる。カリン、ボケ、クサボケは互いに近縁の植物である。 なお,日本薬局方外生薬規格においてカリンの果実を木瓜として規定していることから,日本の市場で木瓜として流通しているのは実はカリン(榠樝)である。
原産は中国東部で、日本への伝来時期は不明。花期は3月〜5月頃で、5枚の花弁からなる白やピンク色の花を咲かせる。葉は互生し倒卵形ないし楕円状卵形、長さ3〜8cm、先は尖り基部は円く、縁に細鋸歯がある。未熟な実は表面に褐色の綿状の毛が密生する。成熟した果実は楕円形をしており黄色で大型、トリテルペン化合物による芳しい香りがする。10〜11月に収穫される。実には果糖、ビタミンC、リンゴ酸、クエン酸、タンニン、アミグダリンなどを含む。適湿地でよく育ち、耐寒性がある。花・果実とも楽しめ、さらに新緑・紅葉が非常に美しいため家庭果樹として最適である。
平成25年3月号(花冠)
ものみな清し
高橋正子
沼奥に蒲の穂絮の飛びづづけ
冬芽の尖り真青き空に差し入りて
紫も白も葉牡丹雪被り
風邪に臥しものみな清しクリスマス
侘助の蕾銀色鐘の音に
侘助へ寺の障子の白き張り
水仙のつぎつぎ花を昨日今日
蝋梅を透かせて空は大いなる
初富士の遠嶺明るし葛飾に
霜柱すくすく育てローム層
◇生活する花たち「冬椿・冬の梨園・冬田」(横浜市緑区北八朔)
★水仙を活けしところに香が動く 正子
庭に咲いている水仙は、辺りにいい香りを放っています。その水仙を切って、部屋の花器に活けると、又そこにもいい香りが漂ってきました。「香が動く」に水仙の香りの豊かさが感じられ、素敵な表現に感銘いたしました。 (藤田裕子)
○今日の俳句
湯気立てて私の時間愉しめり/藤田裕子
「愉しめり」がいい。「私の時間」がいい。主婦の日常を詠んだ、作者のささやかだが、充実した生活が伝わってくる。この句を読めば、読者も「愉しめり」の境地になる。(高橋信之)
○檸檬(レモン)

[レモン/横浜日吉本町]
★檸檬青し海光秋の風に澄み/西島麦南
★冷蔵庫レモンスライス蔵ひ置く/宮津昭彦
★レモン切るより香ばしりて病よし/柴田白葉女
★嵐めく夜なり檸檬の黄が累々/楠本憲吉
★暗がりに檸檬泛かぶは死後の景/三谷昭
★舌平目半切檸檬絞りけり/能村研三
★恋ふたつレモンはうまくきれません/松本恭子
★レモンはいつも人を信じている彩だ/徳永操
レモン(檸檬、英語: lemon、学名: Citrus limon)は、ミカン科の1種で、柑橘類の1種の常緑低木。またはその果実のこと。原産地はインド北部(ヒマラヤ)。樹高は3mほどになる。枝には棘がある。葉には厚みがあり菱形、もしくは楕円形で縁は鋸歯状。紫色の蕾を付け、白ないしピンクで強い香りのする5花弁の花を咲かせる。果実はラグビーボール形(紡錘形)で、先端に乳頭と呼ばれる突起がある。最初は緑色をしているが、熟すと黄色になり、ライムにもよく似ている。
レモンは柑橘類の中では四季咲き性の強い品種である。鉢植え・露地植えのいずれでも栽培が可能であるが、早期の収穫を目指す場合は鉢植えの方が早く開花結実する。栽培品種の増殖は主に接木・挿し木で行なわれる。日本での栽培地は主に、蜜柑などの柑橘類の栽培地と同じである。
主に果汁を食用に利用する。非常に酸っぱく、pHは2を示す。レモンを絞るには専用のレモン絞り(スクイザー)が用いられることが多い。薄く輪切りにした果実は、紅茶の風味付けにしたり(レモンティー)、切り込みを入れてグラスの縁に差し、コーラなどの炭酸飲料やカクテルの飾りにされる。
レモンを題材とした作品に、梶井基次郎『檸檬』:主人公が檸檬を爆弾にみたて、丸善を爆破する幻想に駆られる物語、さだまさし『檸檬』:梶井の小説をヒントにしつつ、舞台を御茶ノ水に置換え、青春時代の恋愛の無常さを描いた楽曲、ヨハン・シュトラウス2世 『レモンの花咲くところ』(シトロンと訳す場合もあり)、高村光太郎 『レモン哀歌』妻智恵子との死別を書いた詩、などがある。
◇生活する花たち「冬桜・水仙・万両」(横浜日吉本町)
