★青穂田の密なるそよぎ一面に 正子
目の前一面びっしり広がる緑の稲穂の波が、とても美しく安らぎを与えてくれます。日本の原風景を見る思いで、優しい風が稲穂の匂いを漂わせ、いつまでも佇んでいたくなります。 (藤田裕子)
○今日の俳句
ちちろ鳴く裏庭の夜の澄みてきし/藤田裕子
静かな裏庭にちちろが鳴くと、夜が澄んでくる感じがする。夜が澄んでくると、ちちろがいっそう声高く鳴く。研ぎ澄まされてゆく秋の夜である。(高橋正子)
○藻の花

[藻の花/鎌倉・宝戒寺]
★藻の花やこれも金銀瑠璃の水 重頼
★藻の花や金魚にかかる伊予簾 其角
★藻の花をはなれよ鷺は鷺の白 北枝
★渡りかけて藻の花のぞく流れかな 凡兆
★藻の花のとぎれとぎれや渦の上 桃隣
★藻の花や雲しののめの水やそら 蕪村
★川越えし女の脛に花藻かな 几董
★藻の花や引つかけて行く濡れ鐙 暁台
★引き汐やうき藻の花のさわぎ立つ 蝶夢
★藻の花の重なりあうて咲きにけり 正岡子規
★藻の花の揺れゐる風のつぶやきに/大橋敦子
★急流に凛と花藻の五弁かな/岸本久栄
★川底へ日矢突き抜けて花藻かな/中島玉五郎
★藻の花の咲くや寺苑の昼しんと/高橋信之
鎌倉の宝戒寺を信之先生と訪ねた。本堂にお参りしようとすると、左手の水鉢に睡蓮が数花、空や寺の梁を映す水に涼しそうに咲いている。右手も睡蓮かと思いきや、思いかげずも藻の花が数花咲いている。金魚藻の花であるが、これは年数を経ないと咲かないということであった。その鉢にはメダカが泳いでいる。「水はどのように管理されていますか」と尋ねると、雨の水と、水が少なくなると注ぎ足すだけだそうだ。藻の花は咲きだすとどんどん咲くそうである。
★藻の花の咲くや寺苑の昼しんと/高橋信之
★藻の花の白さ浮き立つ仏の前/高橋正子
藻の花は、花藻とも言い、湖沼や小川などに生えるさまざまな藻類、金魚藻、フサ藻、柳藻、松藻などの花。一般に小さく、白や黄緑色で目立たないものが多い。また海藻が赤・黄・緑など原色の美しい色をして花のようであるために、この美称として用いられることもある。海草と海藻の違いは、前者は根・茎・葉などが区別できるが、後者は区別できない特徴がある。俳句歳時記では夏の季語。
◇生活する花たち「木槿・竜胆・葛の花」(横浜日吉本町)

★雲が来て風のそよげる花芙蓉 正子
秋の爽やかな雲が風に乗って来て、やや大型で淡紅色の綺麗な芙蓉の花を揺らしている。一日花で八重咲きの白色が午後になると次第に紅色になりますね。初秋の素晴らしい景色ですね。(小口泰與)
○今日の俳句
鶏頭へ堅き日矢射し空深し/小口泰與
「鶏頭」に対して「堅き日矢」の表現は、秀逸。鶏頭の咲くころの日のあり具合が実感できる。(高橋正子)
○鎌倉・宝戒寺
きのう思い立った。鎌倉の宝戒寺へ行こうと。足に靴ずれができてあまり歩けないので、一か所宝戒寺限定で信之先生と鎌倉を訪ねた。宝戒寺は萩寺として有名だが、萩の花はあと2週間ほど先の9月中旬が見頃だ。鎌倉駅からタクシーで宝戒寺まで行く。宝戒寺までタクシーで行く人はめったにないらしく、運転手さんも戸惑い気味。「確か宝戒寺と言われましたよね。」などという。鎌倉駅からは初乗り料金で足りる。寺の前でタクシーを降りると、門の前まで、八角形の大きな御影石の踏み石を左右から覆うように白萩の枝が垂れて、ほどよく茂っている。肩に、身に触れてさわさわとしている。拝観料を払って中へ入る。萩は期待していなかったが、紅萩がほんの数花咲いていた。白萩は一花か。紅芙蓉と酔芙蓉がある。酔芙蓉は白にほんのりピンク色がつき始めている。午前11時ごろ。境内は至るところに萩が生うが、その葉影に布袋葵が薄紫の花を付けている。本堂にお参りしようとすると、左手の水鉢に紅色の睡蓮が空や寺の梁を映す水に涼しそうに咲いている。右手も睡蓮かと思いきや、思いかげずも藻の花が咲いている。金魚藻の花であるが、寺内で仏具を磨いている方に聞くと、これは年数を経ないと咲かないということであった。その鉢にはメダカが泳いでいる。「水はどのように管理されていますか」と尋ねると、雨の水と、水が少なくなると注ぎ足すだけだそうだ。藻の花は咲きだすとどんどん咲くそうである。境内にはほかに百日紅の古木があり、紅色の花がまだまだ盛んに咲いていた。9月中旬の萩の見ごろを楽しみに、寺を後にして、またタクシーで鎌倉駅まで帰った。駅前の「西欧亭」という喫茶店でケーキセットを注文。昔はおしゃれな店だったろうと思うが、それをそのままにして現在に至っている内装だ。お客は、私たちが一番若いと思えるようだった。朝9時に家を出て、帰宅は1時ごろ。今日は4時間の鎌倉吟行だった。由比ヶ浜に本店のある井上蒲鉾店で鎌倉名物の梅花はんぺんを買って帰った。
この梅花はんぺんは夜はおすましにしたが、蒲鉾に近い。敬遠していたはんぺんも、これなら大丈夫。
宝戒寺
★藻の花の白さ浮き立つ仏の前/高橋正子
★紅睡蓮水も涼しく仏の前/〃
★萩の花撮らんとすれば風に逃げ/〃
★萩はまだ固き蕾よ肩に触れ/〃
★燭の火の朝は一つよ秋はじめ/〃
★鎌倉の朝が移れる酔芙蓉/〃
○薮蘭(やぶらん)

[薮蘭/鎌倉・宝戒寺] [薮蘭/ネットより]
★藪蘭は大樹の下にのびのびと/高橋信之
★藪蘭や涼しくなると思うころ/高橋正子
薮蘭(やぶらん、学名:Liriope muscari)は、スズラン亜科(Nolinoideae)ヤブラン属(Liriope)のる多年草。Liriope(リリオーペ)は、ギリシャ神話の女神の名前に由来。 東アジアに分布する。開花期は夏から秋。花は紫色の小さいもので、穂状に咲く。葉は細長く、先は垂れる。日陰に生える。日本庭園の木々の根元などにアクセントとして植えられることが多い。葉が斑入り(ふいり)のものもある。実(タネ)は黒い丸形。別名は「山菅」(やますげ)。ちなみに、万葉集で「山菅」として歌われたのは竜の髭(りゅうのひげ)のこと。万葉集では薮蘭は登場しないようだ。10月26日の誕生花。花言葉は「謙遜」。
◇生活する花たち「芙蓉・蓮の花・藪蘭」(鎌倉・宝戒寺)

★稲穂田の隅にごぼごぼ水が鳴り 正子
植田の季は、一面、静かに湛えられていた水。稲穂が出揃う頃は、田の隅を勢いよく流れます。花水とも呼ばれる、稲にとって最も大切な水が「ごぼごぼ」と鳴る様は、何とも頼もしいです。「水が鳴り」との表現から、水そのものの動きが浮かび、実りへの期待が昂まります。(川名ますみ)
○今日の俳句
とんぼとんぼ向う山まで透き通る/川名ますみ
「とんぼとんぼ」のリズムが楽しい。とんぼが飛ぶと、向こう山まで空気が透き通った感じがする。(高橋正子)
○薮茗荷(やぶみょうが)

[薮茗荷/東京新宿御苑]
新宿御苑
★青い眼の青年子らと薮茗荷/高橋信之
思えば8月も終わりになった。暑い盛り7月27日、熱中症で病院に運ばれる人も少なくないとき、気を付けて新宿御苑に行った。新宿御苑は、大木が茂り、直射日光を避けようと思えば避けられる。街中より、気温は2,3度低いと聞いた。確かにそうであった。その日見ごろとなっている植物に鬼百合、槿などがあって、それと並んで藪茗荷があった。はじめ、この植物を四季の森公園のプロムナードで目にして茗荷に似ているとは思ったが、名前は知らなかった。茗荷とは科が違うとある。木下などにつやつやした葉を群生して広げている。7月には、すっと伸びた茎の先に白い小さい花を咲かせる。御苑の藪茗荷も一面に、遠くまでと言おうか群生して白い花を咲かせていた。それから8月になって四季の森公園へ行ったが、いつもと違う道を通った。植えたのか、自然に生えたのか民家の庭に藪茗荷が青いきれいな実をつけていた。竜の玉より濃い紺に近い青色で、竜の玉より大きい。ちょっと違う道を通れば、いつもなにか新しいものが見れる。
★木下闇遠く一面藪みょうが/高橋正子
★藪みょうが実が青ければつくづくと/高橋正子
ヤブミョウガ(薮茗荷、学名 Pollia Thunb)は、ツユクサ科ヤブミョウガ属の多年生草本植物である。東アジア(中国、朝鮮半島、台湾、日本)に分布し、日本では関東地方以西の暖地の林縁などに自生するが、湿気の多い土地を好む。5月頃から発芽し、夏にかけて草丈 50cm〜 1m 前後に生長、ミョウガに似た長楕円形の葉を互生させ、葉の根元は茎を巻く葉鞘を形成する。葉は茎の先端部分だけに集中する。なお本種の葉は表面がざらつくところ、葉が2列に出ないことなどでミョウガと区別できる。なお、ミョウガはショウガ科であり、花の構造は全く異なる。8月頃になると茎の先端から花序をまっすぐ上に伸ばし、白い花を咲かせる。花には両性花と雄花があり、前者は白い雌蘂が目立ち、後者は黄色い葯の付いた雄蘂が目立つところで判別できる。白い花弁が 3枚、萼も白く 3枚、雄蘂 6本、雌蘂 1本で、花冠の直径は 8mm 程度である。
花が終わると初秋にかけて直径 5mm 程度の球状の実を付け、じきに葉を落とす。実は若いうちは緑色で、熟すと濃い青紫色になる。この種子のほか、地下茎を伸ばしても殖え、群生する。若芽は、初夏の葉が開ききらないうちに採取し、塩茹でしてそのままで、または炒め物や汁物などにして食用にされる。
◇生活する花たち「芙蓉・萩・女郎花」(東京・向島百花園)

★りんりんと虫音に力のありて闇 正子
秋の夜、辺りの澄んだ空気に「りんりん」と、いっしんに今を生きる虫たちの声が力強く耳に届きます。虫たちを包む闇があればこそ、より虫音が澄んで聞こえ、また、その澄んだ響きに、広がる闇の深さを思い知ることができます。(藤田洋子)
○今日の俳句
秋涼し仏花の束を風に解き/藤田洋子
仏様に花を供えようと花束をほどくと涼しい風が吹く。花束にはリンドウなど秋の花もあってそれも嬉しい。「風に解き」で、いっそうさわやかな句となった。(高橋正子)
○インターネット俳句センターアクセス100万回
花冠発行所管理運営の「web インターネット俳句センター」は、昨年の8月24日(水)21時39分25秒に、アクセス100万回となった。はや一年が過ぎ、今日、2012年8月28日10時38分50秒は、アクセス104万794回となっている。
インターネット俳句センターは高橋信之先生によって、花冠のホームページとして、1996年11月27日に開設された。それから、数えて、本日、2012年8月28日には、アクセスが100万回を越え、104万794回となっている。104万794回の数字をどう読むかは、ホームページの目的等によりさまざまと思われるが、私たちのインターネット俳句センターがアクセス100万794回を数えたことは、大きな意義がある。ネット俳句の草分けとして、さまざまな試みをした。細く長くをモットーとしてこれまで継続したことが、なによりの力となったと思う。
http://suien.ne.jp/haiku/
▼インターネット俳句センターアクセス百万回特集(花冠2011年11月号)
http://kakan.info/km/2011/11/10.doc
○唐糸草

[唐糸草/東京・向島百花園] [唐糸草/ネットより]
★唐糸草確かに秋が来ておりぬ 正子
向島百花園を訪ねたのは去年の九月八日。晴れであった。百花はあるけれど、どれもたくさん咲いているわけではない。桔梗は花が一つ残り、なでしこは2,3本あったのが、すっかり枯れていた。偶然にも、れんげしょうまが一本、唐糸草がもう終わりかけて、やっとその色と形が残る程度のが二つあった。唐糸草は初めて見たが、山野草の部類に入る。えのころ草の穂よりも少し大きいが、紅色の雄しべが日に透けると大変美しいということである。ちょっと粋な長い紅色の雄しべは雨に濡れると、猫が雨に濡れたようになるそうだ。撮ってきた写真を見ながら「唐糸」はいかにも江戸好みらしいと思う。終わりかけの花のみすぼらしさの中にも、きれいな紅色が想像できるから不思議だ。大いにその名前「唐糸」のお蔭であろう。園内にいる間は、なんと花に勢いのないこと、と思っていたが、写真を見ると、一つの情緒がある。文人好みの庭に造られたせいでもあろう。虫の声を聞く会、月見の会も催されるようだから、暮らしの中の花として、少しを植えて楽しむのもささやかながら、都会人のよい楽しみであろう。
去年向島百花園に行ったのは9月8日だったが、今年は、8月20日に訪ねた。この暑い時にと思われるだろうが、葛飾の社宅に住む息子のところに立ち寄るついでに訪ねた。京成線の曳舟駅で降りて徒歩15分。曳舟駅からはスカイツリーが大きく目の前に見える。園内にはいると、この暑さに、さすがに作業の人が数人と入園者は私を入れて3人。去年唐糸草のある場所へ行ってみたが、葉さえも見つけることができなかった。去年あった花魁草、れんげしょうまは、見つかった。桔梗と女郎花はこの暑さにもかかわらず見ごろ。藤袴は蕾。萩は穂先のような蕾。咲いていてもほんの2,3花。唐糸草や花魁草はちょうどいいころか、少し早いかと期待したが、きたいどおりにはゆかないものだ。
唐糸草は、バラ科ワレモコウ属の多年草で、原産地は日本。学名: Sanguisorba hakusanensis、和名: カライトソウ。Sanguisorba : ワレモコウ属、hakusanensis : 石川県白山の。Sanguisorba(サングイソルバ)は、ラテン語「sanguis(血)+ sorbere(吸収する)」が語源。根にタンニンが多く、止血効果のある薬として利用されることから。開花期は7~9月。夏から秋にかけて、たぬきのしっぽのような形のピンクの花が咲く。絹糸のような花の様子が、まるで外国(唐)からきた糸のように美しいことから「唐糸草」。8月10日の誕生花、花言葉は「深い思い」。
◇生活する花たち「女郎花・葛の花・萩」(四季の森公園)

★一椀の汁に絞りきる酢橘 正子
酢橘は柑橘類の中でも一番小さく、薬味としても爽やかな酸味と香りを、楽しむことが出来ます。「絞りきる酢橘」の措辞から残暑の頃、身体に良いさっぱりとしたお食事に色々とご配慮されている様子を垣間見る事が出来ます。読ませて頂いただけでも元気が出て参ります。(佃 康水)
○今日の俳句
賑わいの漁港の上の鰯雲/佃 康水
出船、入船、魚の水揚げなどで、賑わう漁港。その上の空高くに広がる鰯雲。生き生きとした漁港の美しい景色。(高橋正子)
○竜胆(りんどう)

[竜胆/横浜日吉本町]
★竜胆や風落ち来る空深し 龍之介
★山の声しきりに迫る花竜胆 亞浪
★山ふところの ことしもここに竜胆の花 山頭火
★笹竜胆草馬の脊を滑りけり 普羅
★龍胆の太根切りたり山刀 かな女
★龍膽をみる眼かへすや露の中 蛇笏
★かたはらに竜胆濃ゆき清水かな 風生
★好晴や壺に開いて濃竜胆 久女
★銀婚の妻のみちべに濃竜胆 青邨
★霧に咲く深山りんどう卓に咲きぬ 秋櫻子
★竜胆の花のあいだに立つ葉かな 素十
★子へ供華のりんだう浸す山の瀬に 貞
★一輪の龍膽餐けよ鶴の墓 青畝
野生の竜胆の花を近隣の野原で見ることはほとんどない。それだけに野生の竜胆を自分の目で見つけたときの感激は一入だ。初めて自分の目が見つけた竜胆は、40年ほども前の阿蘇の中の牧の草地であった。中ノ牧の草地は草丈が低く、平地ならばちょうど草を刈り取ってしばらく経ったときのような爽やかな草原である。秋、朝の日が足元にもほど良く差していた。一歩踏み出そうとしたその靴先に竜胆が一輪上を向いて咲いている。踏んでしまうところだった。いまもその一輪の竜胆の色と姿をよく記憶している。阿蘇には、もう一度行ってみたいと思う。
★竜胆の紺一輪が靴先に/高橋正子
★竜胆に日矢が斜めに差し来たり/高橋正子
リンドウ(竜胆、学名Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim.)とは、リンドウ科リンドウ属の多年生植物である。1変種 Gentiana scabra var. buergeri をさすことが多いが、近縁の他品種や他種を含む総称名のこともある。英名Japanese gentian。古くはえやみぐさ(疫病草、瘧草)とも呼ばれた。本州から四国・九州の湿った野山に自生する。花期は秋。花は晴天の時だけ開き、釣り鐘型のきれいな紫色で、茎の先に上向きにいくつも咲かせる。高さは50cmほど。葉は細長く、対生につく。かつては水田周辺の草地やため池の堤防などにリンドウやアキノキリンソウなどの草花がたくさん自生していたが、それは農業との関係で定期的に草刈りがなされ、草丈が低い状態に保たれていたためだった。近年、そのような手入れのはいる場所が少なくなったため、リンドウをはじめこれらの植物は見る機会が少なくなってしまい、リンドウを探すことも難しくなってしまっている。園芸植物として、または野草としてよく栽培されるが、園芸店でよく売られているのは別種のエゾリンドウの栽培品種のことが多い。生薬のリュウタン(竜胆)の原料の1種である。
◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★原っぱにえのころぐさの影となる 正子
空き地や公園の隅っこの原っぱにえのころぐさの穂の影が揺らいでいる様子は、秋の初めを感じさせてくれます。えのころぐさは原っぱがよく似合います。 (高橋秀之)
○今日の俳句
産声を待つ部屋の窓白木蓮/高橋秀之
子の誕生を待って落ち着かない父親の目に、白木蓮が映る。産着のような純白の白木蓮に、まもなく誕生する子が重なって見える。(高橋正子)
○犬蓼(赤のまま)

[犬蓼(いぬたで)/横浜下田町・松の川緑道]
★犬蓼の花くふ馬や茶の煙 子規
★犬蓼の花に水落ち石出たり 鬼城
★手にしたる赤のまんまを手向草 風生
★モンペ穿く赤のマンマに笑ひながら かな女
★赤のまま土の気もなき蛇籠より 青畝
★赤のまま摘めるうまごに随へり 亞浪
★道ばたの捨て蚕に赤のまんまかな 石鼎
★人恋へば野は霧雨の赤まんま 鷹女
★赤のまま天平雲は天のもの 青畝
★赤のままそと林間の日を集め 茅舎
★山水のどこも泌み出る赤のまま 汀女
★われ黙り人話しかくあかのまま 立子
★一本を一心に見る赤のまま/大串章
★枯畦に残りて赤しあかのまま/阿部ひろし
★相模野にあるままを活け赤のまま/鷹羽狩行
★暁光を小粒に受けて赤のまま/林翔
★水際の赤のまんまの赤つぶら/高橋正子
イヌタデ(犬蓼、Polygonum longisetum あるいは Persicaria longiseta)は、タデ科の一年草。道ばたに普通に見られる雑草である。茎の基部は横に這い、多く枝分かれして小さな集団を作る。茎の先はやや立ち、高さは20-50cm。葉は楕円形。秋に茎の先端から穂を出し、花を密につける。花よりも、その後に見られる真っ赤な果実が目立つ。果実そのものは黒っぽい色であるが、その外側に赤い萼をかぶっているので、このように見えるものである。赤い小さな果実を赤飯に見立て、アカマンマとも呼ばれる。雑草ではあるが、非常に美しく、画材などとして使われることもある。名前はヤナギタデに対し、葉に辛味がなくて役に立たないために「イヌタデ」と名付けられた。
◇生活する花たち「夾竹桃・秋薔薇・百日紅」(横浜日吉本町)

★葛咲けり一つの花のその奥にも 正子
葛は強靭な植物です。ぐんぐん蔓を伸ばし、どこにでも這い登っていきます。その間に立つ紫色の花序。葛の旺盛な生命力に驚かれている様子が伝わってきます。(多田有花)
○今日の俳句
秋茄子の不ぞろいなるも強靭に/多田有花
真夏の暑さが去り、朝夕が涼しくなってくると、茄子が生き生きとして美味しい実をつけるが、皮が傷んだようなのも、曲ったのも様々。「不ぞろいなるも強靭」なのである。(高橋正子)
○小豆の花
[小豆の花/ネットより] [野小豆の花/ネットより]
★パソコン画面の小豆の花のさわやかに/高橋信之
小豆の花の記憶はうすいが、小豆が収穫されて、豆の鞘を木槌で打ってなかの小豆を取りだす作業は記憶にある。そういう仕事は、たいてい祖母の仕事であったから、遊びながら手伝った。まずは、ぜんざいになって、それからお餅の餡になった。農村では、店で小豆を売っているのを見たことがないから、それぞれの家で栽培していたのだろうと思う。畑のダイヤとか、小豆相場ということも小さい農村の生活者には無縁の言葉であった。
★海さえも火照りて小豆の花が咲く/高橋正子
アズキ(小豆、Vigna angularis)は、マメ科ササゲ属の一年草。アズキは二千年程の昔に中国から渡来したと考えられている栽培種。和菓子のあん、赤飯等に使われるマメとしてお馴染みである。原産地は東アジア。祖先野生種のヤブツルアズキ (Vigna angularis (Willd.) var. nipponensis) は日本からヒマラヤの照葉樹林帯に分布し、栽培種のアズキは極東のヤブツルアズキと同じ遺伝的特徴をもつ。日本では古くから親しまれ、縄文遺跡から発掘されているほか、古事記にもその記述がある。8月の終わり頃、葉腋に黄色い花を咲かせる。花の中心部にある竜骨弁と呼ばれるものは旋回しており、属は異なるがノアズキとよく似ている。果実は円筒形で細長く、ササゲ属の特徴をよく示している。種子は赤飯などでお馴染みと思うが、膨らんだ円筒形。アズキの約20%はタンパク質で、栄養価が高いほか、赤い品種の皮にはアントシアニンが含まれ、亜鉛などのミネラル分も豊富である。日本における栽培面積の6割以上を北海道が占める。丹波、備中を含めて、日本の三大産地である。 低温に弱く、霜害を受けやすいため、霜の降りなくなった時期に播種する。国産の品種には以下のようなものがある。
大納言(大粒種) – 丹波、馬路、備中、美方、あかね、ほくと、とよみ
中納言、普通小豆 – えりも、しゅまり、きたのおとめ、さほろ
白小豆 – 丹波白小豆・備中白小豆・北海道白小豆
黒小豆
◇生活する花たち「撫子①・撫子②・コムラサキ」(横浜日吉本町)

★朝風のとんぼを運び海へ去る 正子
秋の朝風はことさら涼しさを感じさせてくれます。そしてとんぼの翅の色もまた爽やかです。海はまだ陸風です。とんぼたちは輝きながら海のほうへと運ばれていくのでしょう。季節は移りゆきます。多少の物悲しさを伴って。(小西 宏)
○今日の俳句
球追えば芝に群れなす赤とんぼ/小西 宏
あおあおとした芝に球を追うと、そこは、秋が来ている。芝生に低く飛ぶ赤とんぼに、さわやかな風が立つ。イメージが鮮明で、句に力がある。(高橋正子)
○溝蕎麦

[溝蕎麦/横浜市港北区下田町・松の川緑道]
★溝蕎麦は水の際より咲き初めし/高浜年尾
★溝蕎麦や峡田乏しき水をひき/平松草太
★溝蕎麦の鳥の脚よりなほ繊き/永野孫柳
★溝蕎麦や足摺へ向く遍路みち/中平泰作
★溝蕎麦や遅れがちなる二人連/加藤知子
★溝そばの花園川の花盛り/飯田法子
★溝蕎麦の溝よりあふれ出て咲ける/江藤都月
★溝蕎麦を水をきらきら濡らし過ぐ/高橋正子
ミゾソバ(溝蕎麦、学名 Polygonum thunbergii または Persicaria thunbergii )は、タデ科タデ属 (Polygonum) またはイヌタデ属 (Persicaria) に分類される一年生草本植物である。東アジア(日本、朝鮮半島、中国)に分布する。日本では北海道・本州・四国・九州の小川沿いや沼沢地、湖岸などに分布する。 特に稲作地帯などでコンクリート護岸化されていない用水路脇など、水が豊かで栄養価が高めの場所に群生していることが多い。今でこそ護岸をコンクリートで固められてしまった場合が多いが、かつて日本各地で水田が見られた頃は、土盛りされていた溝や用水路、小川などの縁に普通に生えており、その見た目が蕎麦に似ていることが和名の由来になっている。水辺などで 30〜100cm ほどに生長し、根元で枝分かれして勢力を拡げ群生する。葉は互生し、形が牛の額にも見えることからウシノヒタイ(牛の額)と呼ばれることもある。花期は晩夏から秋にかけてで、茎の先端で枝分かれした先に、直径 4〜 7mm ほどで、根元が白く先端が薄紅色の多数の花を咲かせる。 なお、他のタデ科植物と同様に花弁に見えるものは萼である。2011e/111004e
◇生活する花たち「白芙蓉・白萩・コムラサキ」(横浜日吉本町)

★剥く梨にわが顔映りいたるかも 正子
手に受けて季節の実りを実感する果実の梨。薄くなめらかに梨を剥き、まるでご自身の顔が映るかと思うほど、白くみずみずしい梨の実が現れたのでしょう。剥くという動作をしながら、対象の梨に静かに向き合うお気持ちが伝わります。(藤田洋子)
○今日の俳句
一片の雲を真白に処暑の朝/藤田洋子
処暑の朝を迎え、まっ白い雲の美しさにうれしさが湧く。暑さも一息つき、朝夕の涼しさが期待できる。処暑というのは、そういう日なのだ。季語を生かした写生だが、詩情のある句。(高橋正子)
○水引草

[水引草/東京・向島百花園] [ぎんみずひき/東京・向島百花園]
★かひなしや水引草の花ざかり/正岡子規
★水引の花が暮るればともす庵/村上鬼城
★水引や人かかれゆく瀧の怪我/前田普羅
★木もれ日は移りやすけれ水引草/渡辺水巴
★水引草ならば心音かすかかな/清水径子
★今日は今日の夕暮の色水引草/島田和世
○水引草
水引草は、赤い糸を引くように風の中に咲く。植えるでもなくいつの間にか庭に下草のように増えている。一輪挿しにすっと伸びたものが欲しいとき、庭に出て水引草を摘んでよく活けた。まだ暑いのに秋の雰囲気がただよう。
★水引草の朱が試験期の図書館に/高橋正子
これは大学時代の句。図書館には、さりげなく花が活けられていた。司書の方のセンスであろうが、図書館に澄んだ風が吹いているようであった。入学したてのころ、図書館に行くと文学部の上級生がお昼も抜きで3時間4時間平気で勉強していた。大学生とはこういうものと、真似をして、私もその人がいる間中ずっと図書館にいたことがある。結構図書館でも過ごしたが、自分の部屋で本を読むものいい。図書館であたらしいことを発見し、部屋で考えを深めたり、楽しんだりするという本の読み方が大学を卒業するころは習慣になった。図書館の花は、頭の疲れをとってくれるような気がした。
水引草は、蓼(たで)科の多年草。学名 Antenoron filiforme。Antenoron : ミズヒキ属、filiforme :糸状の。開花時期は、8/5頃~10/10頃。上から見ると赤く見え、下から見ると白く見える花を、紅白の水引に見立てた。ヒマラヤから中国の高山帯の草地に群生。花茎は高さは5~20センチで葉がなく、円筒状あるいは卵状の総状花序に明るいピンク色の花をつける。花弁は4枚で、5本のおしべを持つ.2本の花柱は花後も残って成長し、先がかぎ状になって果実の先端から突出する。葉は長円形で、表面に黒い斑が入る。高さは約1米位。
ギンミズヒキ(銀水引)は、ミズヒキの白い花が咲く品種。ミズヒキは 4 つある萼のうち上側の3つが赤く,下の一つが白いが,ギンミズヒキは 4 つとも白い。葉が斑入りのものもある。
キンミズヒキ(金水引)は、バラ科、ミズヒキはタデ科で、全く別の種類の花である。名前の由来はミズヒキの方が基で、冠婚等の慶事で用いられる水引(みずひき)に例えて名付けられた。キンミズヒキは、この花に花の付き方や花穂の全体像が似ていて黄金色の花を付ける事から金色のミズヒキ、つまりキンミズヒキ(金水引)となったと言われている。
◇生活する花たち「女郎花・胡麻の花・稲の花」(横浜市緑区北八朔町)

★小雨降る中の芙蓉を一つ剪る 正子
淡いピンクの、あるいは白い芙蓉でしょうか。やさしい感じのする花ですが、小雨にぬれる芙蓉を一つ剪りとり、身近にひきよせて楽しまれる奥ゆかしさが思われます。 (小川和子)
○今日の俳句
水音を離れず蜻蛉疾くとび交う/小川和子
水音は、堰を落ちる水の音であろう。きれいな水を想像する。いつまでも水を離れず、すいすいと飛び交う蜻蛉に涼感がある。
○吾亦紅(われもこう)

[吾亦紅/横浜市港北区下田町・松の川緑道]
★何ともな芒がもとの吾亦紅 子規
★路岐して何れか是なるわれもかう 漱石
★吾も亦紅なりとついと出で 虚子
★浅間越す人より高し吾亦紅 普羅
★籐椅子の脚にも媚びて吾亦紅 風生
★叢や吾亦紅咲く天気合ひ 蛇笏
★拾ひたる石に色あり吾亦紅 かな女
★吾亦紅つくりぼくろのかの人の 青邨
★吾亦紅霧が山越す音ならむ 悌二郎
★霧の中おのが身細き吾亦紅 多佳子
★さしそへて淋しき花の吾亦紅 鷹女
★手折る花いつしか多し吾亦紅 汀女
★またしても日和くづれて吾亦紅 立子
○吾亦紅
吾亦紅はその名前が文学少女好みなのだろう、今は80歳を越えた女性にはなかなかの人気だった。薔薇科とは思えない花の形。色も紅とも言い切れなくて茶色に近い。臙脂色と言っていいのだろうか。「わたしも紅なのですよ」と主張するあたり健気である。野原や河原の草原に生えているのを見つけると、これは感動ものである。松山時代のこと。道後平野を流れる一級河川に重信川がある。正岡子規が「若鮎の二手になりて上りけり」と詠んだ川である。厳密にはこの句は、重信川と石手川の合流する「出合」と呼ばれているところの若鮎を詠んだもの。この重信河原の中流より少し上手の河原に吾亦紅はいくらでもあると聞いた。吾亦紅があるあたり、おそらく河原撫子もあるのだろうと想像するが、実際見にゆけなく残念な思いが残っている。松山市内のレトロなコーヒー店で句会をしたとき、大きな丸テーブルの真中に吾亦紅がたくさん活けてあって、レトロな雰囲気によく似合っていた。数日前の8月20日向島百花園に寄った。女郎花と桔梗はちょうど見ごろであったが、吾亦紅はまだ固い蕾。それでも吾亦紅の色であった。すっと伸びた細い茎の分かれるとろこに羽毛状の軽い葉がある。この花にして、この葉ありだ。園内には蚊遣りが置かれていて、蚊が現れる。蚊遣りと吾亦紅、まんざら悪くない。萩もほんの二、三花なのだから、百花園は秋のほんの入り口だった。
百花園
★吾亦紅スカイツリーのある空に/高橋正子
松山
★吾亦紅コーヒー店のくらがりに/高橋正子
ワレモコウ(吾亦紅、吾木香)は、バラ科・ワレモコウ属の植物。英語ではGreat Burnet、Garden Burnet、中国語では地楡(ディーユー、dìyú)。日本列島、朝鮮半島、中国大陸、シベリアなどに分布しており、アラスカでは帰化植物として自生している。草地に生える多年生草本。地下茎は太くて短い。根出葉は長い柄があり、羽状複葉、小葉は細長い楕円形、細かい鋸歯がある。秋に茎を伸ばし、その先に穂状の可憐な花をつける。穂は短く楕円形につまり、暗紅色に色づく。「ワレモコウ」の漢字表記には吾亦紅の他に我吾紅、吾木香、我毛紅などがある。このようになったのは諸説があるが、一説によると、「われもこうありたい」とはかない思いをこめて名づけられたという。また、命名するときに、赤黒いこの花はなに色だろうか、と論議があり、その時みなそれぞれに茶色、こげ茶、紫などと言い張った。そのとき、選者に、どこからか「いや、私は断じて紅ですよ」と言うのが聞こえた。選者は「花が自分で言っているのだから間違いない、われも紅とする」で「我亦紅」となったという説もある。別名に酸赭、山棗参、黄瓜香、豬人參、血箭草、馬軟棗、山紅棗根などがある。根は地楡(ちゆ)という生薬でタンニンやサポニン多くを含み、天日乾燥すれば収斂薬になり止血や火傷、湿疹の治療に用いられる。漢方では清肺湯(せいはいとう)、槐角丸(かいかくがん)などに配合されている。
◇生活する花たち「チカラシバ・吾亦紅・水引の花」(横浜下田町・松の川緑道)
