★ビルの窓全てで五月の空なせり 正子
ビルの窓には五月の青い空が反射して映っているのでしょう。一つ一つではなく、ビル全体が五月の青空を映し出している様子は、初夏のきらめきを感じさせてくれます。 (高橋秀之)
○今日の俳句
真っ青な五月の空の飛行雲/高橋秀之
すっきりとして、なにもない良さ。「五月の空」と言って、それ以上言わないことで、実在感が生じた。青と白のさわやかさは五月である。(高橋正子)
○自然教育園の森(その2)
昨日5月10日に自然教育園に入るとすぐに、マルバウツギの花に会う。コゴメウツギの花も咲いていた。日吉本町の我が家の近所には、梅花うつぎの花が咲いているので、今がうつぎの咲くころである。園内の植物名はひらがなで表記されている。園内の路傍経路を辿ると、植物に詳しい人なら普通の花であろうが、私には珍しい花が多くあった。フタリシズカ、ヒトリシズカ、ホウチャクソウ、クサヤマブキ、エビネ、珍しいものではサトイモ科のムサシアブミがある。水生植物園では、チョウジソウ、あやめ、杜若など、ミツガシワは、花が終わった後のようであった。見ごろは杜若であろう。カサスゲの花もあったが、昔、菅で籠を編んだことがあるので、よく見た。
全部で240枚ほど写真に撮った。写真はシャッターボタンを押すだけのようであるが、これも集中力との勝負。同じものを撮り続けると嫌になる。百枚に一枚出来がよいものがあればよいという気で撮ってきたが、花も一期一会で失敗すると残念至極となる。
★すっくと立ち青輝かす杜若/高橋信之
★杜若のむらさき濃ゆし水照れば/高橋正子
○卯の花(空木、卯木、うつぎ)

[マルバウツギ/東京白金台・自然教育園]
★押しあうて又卯の花の咲きこぼれ/正岡子規
★卯の花の夕べの道の谷へ落つ/臼田亜浪
卯の花は、空木、卯木の別名で、バラ目アジサイ科ウツギ属。種は、ウツギ(Deutzia crenata)であるが、ウツギ属に属する種の他にも、何々ウツギという名の木は数多く、花の美しいものや、葉や見かけがウツギに似たものなどがある。樹高は2-4mになり、よく分枝する。樹皮は灰褐色で、新しい枝は赤褐色を帯び、星状毛が生える。葉の形は変化が多く、卵形、楕円形、卵状被針形になり、葉柄をもって対生する。花期は5-7月。枝先に円錐花序をつけ、多くの白い花を咲かせる。普通、花弁は5枚で細長いが、八重咲きなどもある。茎が中空のため空木(うつぎ)と呼ばれる。「卯の花」の名は空木の花の意、または卯月(旧暦4月)に咲く花の意ともいう。北海道南部、本州、四国、九州に広く分布し、山野の路傍、崖地など日当たりの良い場所にふつうに生育するほか、畑の生け垣にしたり観賞用に植えたりする。マルバウツギ(丸葉空木、学名: Deutzia scabra)は、卯の花、花卯木と同じアジサイ科ウツギ属の落葉低木。ツクシウツギともいう。葉は楕円形から卵形で、他のウツギ属と比べると丸みがある。花期は4-5月頃で、白い花を咲かせる。
◇生活する花たち「あやめ・かきつばた・へび苺の実」(東京白金台・自然教育園)
★野ばら咲く愛のはじめのそのように 正子
野バラの咲きはじめるさまは、乙女の恥じらうような愛からという。初々しい風情です。(祝 恵子)
○今日の俳句
蓮華田の花もろともに鋤きし後/祝 恵子
一面に花を咲かせていた蓮華田も、田植えの準備が始まると、容赦なく田に鋤きこまれる。掘り起こした土に、蓮華草のピンク花や緑の葉が混じっているも、なまなましい「後」である。(高橋正子)
○自然教育園の森
東京都港区白金台にある「国立科学博物館付属自然教育園」に信之先生と出掛けた。大都会「東京」の中心部にあって豊かな自然が残る。都市砂漠の中のオアシスともいえる緑地です。コナラ・ケヤキ・ミズキなどの落葉樹、スダジイ・カシ類・マツ類などの常緑樹に広く覆われているほか、ススキやヨシの草はら、あるいは池や小川などがある。このような自然を活かした各種の教材園が整備されており、四季にわたって様々な草花や、昆虫などの生きものが身近に観察できる自然に親しみ、四季折々に変化する生物の姿や風景に心をなごませ、自然と人間との関わりを考える場として大いに利用することができる。池のほとりの杜若(かきつばた)が見ごろであった。
「自然教育園」の公式ホームページによれば、その沿革は、以下のようであった。
自然教育園を含む白金台地は、洪積世(20~50万年前)海食によって作られました。いつ頃から人が住み着いたかは不明ですが、園内から縄文中期(約2500年前)の土器や貝塚が発見されていることから、この時代には人々が住んでいたと考えられます。
平安時代には目黒川、渋谷川の低湿地では水田が開墾され、台地の広々とした原野には染料として欠かせなかったムラサキの栽培も広範囲に行われていたと考えられています。室町時代に入ると、この地方にいた豪族がこの地に館を構え、今に残る土塁は当時の遺跡の一部と考えられています。この館の主が誰かは不明ですが、白金の地名は永禄2年(1559)の記録に初めてあらわれ、太田道灌のひ孫の新六郎がこの地を治めていたことが記録されています。また、いわゆる「白金長者」であったという言い伝えも残っています。
江戸時代になると、増上寺の管理下に入りましたが、寛文4年(1664)には、徳川光圀の兄にあたる高松藩主松平讃岐守頼重の下屋敷となり、園内にある物語の松やおろちの松などの老木は、当時の庭園の名残であろうと思われます。
明治時代には火薬庫となり、海軍省・陸軍省の管理となり、大正6年(1917)宮内省帝室林野局の所管となり、白金御料地と呼ばれました。
その後、昭和24年文部省の所管となり、「天然記念物及び史跡」に指定され、国立自然教育園として広く一般に公開され、昭和37年国立科学博物館附属自然教育園として現在に至っています。
○杜若(かきつばた)

[かきつばた/東京白金台・自然教育園]
★宵々の雨に音なし杜若/与謝蕪村
★杜若けふふる雨に莟見ゆ/山口青屯
★森に池あり杜若濃き青に/高橋信之
カキツバタ(燕子花、杜若、Iris laevigata)はアヤメ科アヤメ属の植物で、湿地に群生し、5月から6月にかけて紫色の花を付ける。内花被片が細く直立し,外花被片(前面に垂れ下がった花びら)の中央部に白ないし淡黄色の斑紋があることなどを特徴とする。愛知県の県花でもあり、三河国八橋(現在の知立市八橋)が『伊勢物語』で在原業平がカキツバタの歌を詠った場所とされることに由来している。在原業平が詠んだ歌は「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ」江戸時代の前半にはすでに多くの品種が成立しており、古典園芸植物の一つでもあるが、江戸時代後半には花菖蒲が非常に発展して、杜若はあまり注目されなかった。現代では再び品種改良が進められている。日本三大カキツバタ自生地は、愛知県刈谷市井ヶ谷町にある「小堤西池」、京都府京都市北区にある「大田の沢」、鳥取県岩美町唐川にある「唐川湿原」で、カキツバタの自生地として有名である。なお、「いずれがアヤメかカキツバタ」という慣用句がある。どれも素晴らしく優劣は付け難いという意味であるが、見分けがつきがたいという意味にも用いられる。
◇生活する花たち「かきつばた・ほうちゃくそう・まるばうつぎ」(東京白金台・自然教育園)

★初夏の夜の電車傾きつつ曲がる 正子
○今日の俳句
幾たびも来ては飛び去る夏の蝶/平田 弘
夏になると、蝶さえも活発な動きを見せるようになる。今しがた蝶が来たかと思うと、また来ている。初夏の日差しのなかにきらめく蝶の動きが印象に残る。(高橋正子)
○草苺

[草苺の花と実/横浜日吉本町]
★死火山の膚つめたくて草いちご/飯田蛇笏
★草苺藩主の墓の居並びて/宮津昭彦
★指こはばる掌に草苺盛るほどに/細野恵久
★大いなる森のはずれの草苺/高橋正子
草苺(クサイチゴ・学名:Rubus hisutus)は、、バラ科キイチゴ属の落葉小低木だが、樹高が低くて這性で草のように見えることから草苺と命名された。本州の岩手県から九州にかけて分布し、林の縁や草むらに生える。小低木と入っても樹高は20センチから60センチくらいで、葉も草質なので、イメージとしては多年草に近い。全体に毛深く、ところどころに棘がある。葉は奇数羽状複葉(鳥の羽のように左右に小葉がいくつか並び、先に1つの小葉がついて1枚の葉が構成される)で、3枚から5枚の構成である。小葉は卵形で先は尖り、縁にはぎざぎざ(鋸歯)がある。開花時期は4、5月である。花は白い5弁花で、雄しべと雌しべがたくさんある。実が熟するのは5、6月である。キイチゴ状果(集合核果)で赤く熟し、食用となる。俳句では「草苺の花」が春の季語、「草苺の実」が夏の季語である。属名の Rubus はラテン語の「ruber(赤)」からきている。赤い実がなることから名づけられた。種小名の hirsutus は「粗い毛のある」という意味である。
草苺は、見かけは草のように見えるが、実は茎は木質ということだ。5月、野山を歩くと木下などに草苺の白い花を見つける。先日5月6日には、近所の駒林神社と金蔵寺を含む山裾で、花と熟れた赤い実を見ることができた。高いフェンスが張られているので、採ることはできなかった。 一昨年は、明治神宮の森で草苺の花を見つけた。意外と多いのかもしれないが、苺といわれるものは、花も実も可憐だ。
◇生活する花たち「木苺・草苺・苺」(横浜日吉本町)

★新緑の翳るときあり水があり 正子
水が映すものは影です。新緑がそよぎ、ついと翳るそのときも、傍らの水は、揺らめきのうちに影を映していたことでしょう。
(御句を拝読し、ドビュッシーのピアノ曲『映像』は、とても俳句に近い作品であったと気づきました。第一集の『水の反映』、第二集の『葉ずえを渡る鐘』、もしも次に演奏する機会があれば、きっと御句を想い起こすことと存じます。) (川名ますみ)
○今日の俳句
風薫る坂の上なる男子校/川名ますみ
坂の上にある男子校を薫る風が吹き抜けてゆく。逞しく、またしなやかな少年男子の学ぶところは、薫風がよく似合う。
○木苺

[木苺/横浜日吉本町]
★木苺に滝なす瀬あり峡の奥/水原秋桜子
★裾重く聖尼ばかりの木苺摘み/草間時彦
木苺(キイチゴ・学名:Rubus palmatus・バラ科キイチゴ属)は、原産地が西アジア、アフリカ、欧州、アメリカで、ラズベリーやブラックベリー、デューベリー等、木になるイチゴ(苺)の総称。 春に、苺の花に似た5弁の白花を咲かせる半落葉低木で、葉はヤツデのような掌に似た形(深裂)をしている。初夏に橙色の小さな粒々が多数集まり、食用となる球状の果実を付ける。果実は、果汁が多く、爽やかな酸味と仄かな甘味がある。木苺の葉は、秋に綺麗に紅葉するので、別名をモミジイチゴ(紅葉苺)とも呼ばれる。
5月白い花が咲き、青い実を結ぶ。野生でよく見るのは、オレンジがかった黄色に熟れるものだ。山道を車で通るときにもところどころに見つかる。里山を歩いても道沿いに見つかる。たくさん摘んだことはなく、一粒二粒熟れているのを採って食べた程度だ。わが家の近くでは、日吉本町の鯛ケ崎公園と、駒林神社の下手あたりで見つけている。なんでもそうだが、熟れる時期をはずすと、せっかく木苺摘みにでかけても蔕だけになっていることがあって、すごく残念な思いをする。
★木苺を摘みにそこまでブラウス着て/高橋正子
◇生活する花たち「クサイチゴ・イキシャ・山あじさい」(横浜日吉本町)

★白ばらの空気を巻いていて崩る 正子
気品ある白バラの美しさ、白バラをつつむ空気がふくいくとした香りをもってあたりを充たします。白いバラのもつ本質がしずかに、詩的にうたわれていて心に残ります。 (小川和子)
○今日の俳句
茄子苗の影なすほどに確と付く/小川和子
夏野菜の苗を植える季節。茄子苗も植え付けはじめは、心もとない感じだった。しっかりと根付いた今は「影をなすほど」になった。「影なすほど」は、茄子苗の存在感。(高橋正子)
○フェイスブック句会
第12回(立夏)フェイスブック句会を開催。高橋正子選の入賞作品:
【金賞】
★夏来るその青空を仰ぎおり/多田有花
詠まれているのは、青空のみ。「夏来る」青空は、それまでの空とはっきりと違っている。青空を仰ぎ、空に夏が来たことを実感する。それのみを詠んで確実な句。(高橋正子)
【銀賞】
★若葉風自転車きらり輪が廻る/藤田洋子
若葉風に吹かれ、自転車の銀輪がきらりと輝いて廻る。初夏の解放感と若々しさの溢れた句。(高橋正子)
【銅賞】
★柿若葉見上げる先の明るさよ/平田 弘
柿若葉は、黄緑色で、やわらかく明るい。見上げていると、その先の空も何もが明るい。やわらかな明るさに心が広がる思いだ。(高橋正子)
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d
○ご挨拶 (主宰/高橋正子)
はやも立夏となりました。立夏は、ちょうど端午の節供、子どもの日でもありましたので、ご家族で楽しまれた方も多いことでしょう。お天気はいかがでしたか。横浜は、雨がちのゴールデンウィークでした。立夏句会には25名の方にご参加いただきました。入賞の皆さま、おめでとうございます。ご投句、互選、コメントをいただきありがとうございました。毎月のことですが、フェイスブック句会の管理運営は信之先生に、集計は藤田洋子さんがしてくださいました。また、フェイスブック句会のお世話役のスタッフの皆さんには、ご自分の選をした句のコメントのほかにも、コメントを書いていただきました。ありがとうございました。月に一度のフェイスブック句会は季節の節目となって、気持ちが新しくなる感じです。皆さまもお気持ち新たに、次回をたのしみにご健吟ください。これで第12回フェイスブック句会を終わります。ご参加ありがとうございました。
○あやめ

★夕方の水遣り了えて花あやめ/高橋正子
あやめ(学名:Iris sanguinea)は、アヤメ科アヤメ属の多年草で、山野の草地に生える(特に湿地を好むことはない)。葉は直立し高さ40~60cm程度。5月ごろに径8cmほどの緑色の花を1-3個付ける。外花被片(前面に垂れ下がった花びら)には網目模様があるのが特徴で、本種の和名のもとになる。花茎は分岐しない。北海道から九州まで分布する。古くは「あやめ」の名はサトイモ科のショウブを指した語で、現在のアヤメは「はなあやめ」と呼ばれた。
あやめは菖蒲に似ているとは言え、水の中ではなく、陸に育つ。昭和40年愛媛大学に入学した時、入学式は松山市持田町にあった旧制松山高校の講堂で行われた。新学期の授業も旧制高校の校舎で行われるものもあった。門をくぐるとすぐにあやめがあったと記憶している。そののち、砥部焼で知られる砥部に住んだときは、裏のブロック塀沿いにあやめを植えた。ずいぶんと増え近所の名物ともなって壮観であった。手入れもなく、よく育った。枯れると根もとまで葉を刈ってさっぱりとして置く。それだけでよかった。鯉のぼりを庭に立てたが、その光景のなかに記憶している。花は菖蒲と同じように、一茎に二花咲くが、一つが咲き終わると次が咲く。
◇生活する花たち「鉄線花・ジャーマンアイリス①・②」(横浜日吉本町)

★豆の花宙に雀が鳴いており 正子
畑の中にいくつも咲いている豆の花を目指しているのか、あるいはその中のいるであろう仲間を呼んでいるのか、豆の花を見下ろすように雀が鳴いている様子は、晩春のうららかな日常を醸し出しています。 (高橋秀之)
○今日の俳句
ヨットの帆きらめく海に高々と/高橋秀之
「きらめく」、「高々」の言葉が、ヨットの浮かぶ海の光景に高揚する気持ちをよく述べている。(高橋正子)
○鉄線花

★鉄線の線の強さに花は青/高橋正子
鉄線は、中国より江戸時代に渡来したといわれています。蔓が鉄線のように強いと言うことが命名の由来です。鉄線の美しい形は、着物の模様など広く用いられました。鉄線の名前ですが、他に風車やクレマティスという名前もあります。鉄線は中国、風車は日本が原種といわれて、鉄線花は6枚の花びら、風車は8枚、と見分けるのが通例でしたが、いろいろ品種改良され多数の園芸種がクレマティスの名で総称して用いられています。大部分は蔓性の多年草で、クレマティスの名前もギリシャ語で蔓を意味する「クレマ」に由来し、葉柄を支持物に巻き付けて生育します。ガーデニングの本場であるイギリスでは、バラとともに親しまれており、バラを「キング」、クレマティスを「クィーン」と呼び、「蔓性植物の女王」と名付けられております。花の色も藤紫や紅紫色などいろいろあり、愛らしさと素朴さが好まれて人気を呼んでいます。
◇生活する花たち「黄菖蒲①・黄菖蒲②・ジャーマンアイリス」(横浜都筑区緑道)
★葉桜の蔭は家居のごと安し 正子
葉桜となった桜の木の下に佇みますと、緑に包まれ安らぎを覚えます。お家においでる時のように安心して落ち着いたお気持ちになられたように思います。満開の桜の下とは趣きを異にし、葉桜の陰に居るひとときがとてもすてきです。(藤田裕子)
○今日の俳句
薫風の自在に鳥の声運ぶ/藤田裕子
「自在に運ぶ」に薫風の吹く様子が知られる。「鳥の声」を運ぶゆたかな薫風である。(高橋正子)
○著莪の花(しゃがのはな)

★姫著莪の花に墨する朝かな/杉田久女
著莪(学名:Iris japonica)は、アヤメ科アヤメ属の多年草である。人家近くの森林周辺の木陰などの、やや湿ったところに群生する。開花期は4 – 5月ごろで、白っぽい紫のアヤメに似た花をつける。花弁に濃い紫と黄色の模様がある。根茎は短く横に這い、群落を形成する。草丈は高さは50 – 60 センチ・メートル程度までになり、葉はつやのある緑色、左右から扁平になっている。いわゆる単面葉であるが、この種の場合、株の根本から左右どちらかに傾いて伸びて、葉の片面だけを上に向け、その面が表面のような様子になり、二次的に裏表が生じている。学名の種小名はjaponica(「日本の」という意味)ではあるが、シャガは中国原産で、かなり古くに日本に入ってきた帰化植物である。三倍体のため種子が発生しない。このことから日本に存在する全てのシャガは同一の遺伝子を持ち、またその分布の広がりは人為的に行われたと考えることができる。したがって、人為的影響の少ない自然林内にはあまり自生しない。スギ植林の林下に見られる場所などは、かつては人間が住んでいた場所である可能性が高い。そういう場所には、チャノキなども見られることが多い。
◇生活する花たち「牡丹」(鎌倉・鶴岡八幡宮)

★スイートピー眠くなるほど束にする 正子
いろいろの色のスイートピーを束にしていると、なんだか眠くなってきます。スイートピーのやさしい色や穏やかな陽射しのためでしょうか。素敵な花束が出来たことでしょう。春の日の心安らぐひとときです。 (黒谷光子)
○今日の俳句
ゆさゆさと百の牡丹も風のまま/黒谷光子
風が来て、百ほどの牡丹の花を揺らす。大きく富貴な花が、花の重みをもって揺れると「ゆさゆさ」となる。「ゆさゆさ」「風のまま」は、牡丹をより自然に捉えている。(高橋正子)
○茅花(つばな)

[茅花/横浜日吉本町]
★きらりきらりつばなが草を抽きはじむ/川本臥風
つばなは、白茅(ちがや)の花穂のことで、比較的丈が低く、野辺の少し荒れた土にはどもにでもある。若い穂は、かつては子どもたちが抜いて食べていた。春も半ばになると、野辺の草からつばなの花穂が伸びてくる。きらりきらりと、つばなの一穂、一穂が、春風に揺れて輝いている。つばなの小さな穂は、芒とはまた趣が違って、詩情を呼ぶ。目の隅にきらりきらりと輝くものの姿が留められている。(高橋正子)
★雲遠し呆け茅花の辺に坐せば/安住敦
★地下鉄の駅すぐそこにつばなの穂/高橋信之
イネ科チガヤ属の多年草。ちがやの若い花穂を「つばな」といい、ほのかな甘味があるので、昔の子供たちはよく摘んで生で食べたものである。日当たりの良い野原や河原の土手などに群生する。高さは30~80cmになる。葉は長さ30~60cm、幅1cmほどで、かたくてざらつく。花期は4~6月。花穂は長さ10~20cm、幅1cmほどの円柱状で、銀白色の長い毛におおわれている。花の頃は赤紫色の雌しべと雄しべの葯がよく目立つ。 日ざしの強くなる頃、一面に白い穂を伸び立たせて風にそよぐ姿は、万葉の時代から恋の歌や叙景に多く詠まれている。
★つばなの穂丘は遠き海見する/高橋正子
◇生活する花たち「牡丹・藤・花水木」(横浜日吉本町)

★森奥のたんぽぽ大方は絮に 正子
鮮やかな黄のたんぽぽもほぼ絮となり、森の奥の静けさの中、その白い球形の柔らかさに、ふと心安らぎます。春から夏へ、森の木々も若葉があふれ、新たな明るい季節の始まりです。(藤田洋子)
○今日の俳句
朝掘りの筍どさり土間湿る/藤田洋子
朝掘ったばかりの筍は、大地の湿りを含んで重い。土間にどさりと置かれ、土間を湿らせる勢い。「どさり」が効いた。(高橋正子)
○黄菖蒲

[黄菖蒲/横浜都筑・ふじやとのみち]
★花菖蒲夕べの川のにごりけり/桂信子
★かへり来し命虔しめ白菖蒲/石田波郷
★黄菖蒲に薄き汗かくころとなり/高橋正子
黄菖蒲(帰化)と似たものに菖蒲、花菖蒲(栽培) 、それにアヤメ、カキツバタ、シャガ、イチハツ(帰化、栽培)アイリス、ジャーマンアイリス等があるが、見分けるのが難しい。菖蒲を除き、これらのすべては、黄菖蒲と同じアヤメ科アヤメ属の植物だが、菖蒲だけは、ショウブ科(サトイモ科に分類する体系がある)のショウブ属に属する。
黄菖蒲(学名: Iris pseudacorus )は、アヤメ科アヤメ属の多年草。帰化植物。花茎の高さは60-100cmになる。葉は幅2-3cm、長さ60-100cm、剣形で中脈が隆起し明瞭で、縁は全縁。花期は5-6月で、アヤメやノハナショウブと同じ、外花被片が大型の広卵形で先が下に垂れ、内花被片が小型で直立した、黄色の花を咲かせる。外花被片の中央に茶色がかった模様がある。西アジアからヨーロッパ原産の植物で、明治頃から栽培されていたものが日本全国の水辺や湿地、水田脇に野生化している。観賞用に栽培されているハナショウブには黄色系の花がないため、その貴重性から重宝されたが、湖沼や河川などへの拡散が問題となっている。環境省は「要注意外来生物」の一種として警戒を呼びかけている。
黄菖蒲は日本のものかと思っていたが、帰化植物ということだ。生まれたときから、生家の裏の小さい池に黄菖蒲が咲いた。生家は明治時代に建て替えられて、裏庭の西に榎があり、その下に池があった。榎は大きくなりすぎたのであろう、枝や幹は大きく切られていたので、日は差し込んでいた。池の水が淀みがちで湿気が上がるので、かなり前に埋められ、榎も切り倒されている。子どものころは、雨の日などに、裏の縁側から黄菖蒲を眺めて、黄色い色に目を止めていた。
◇生活する花たち「牡丹・白藤①・白藤②」(鎌倉・鶴岡八幡宮)


★いつ見ても雪割草のつめたかり 正子
雪を割って花咲く「雪割草」の姿に小さく又可憐な中にも力強さを感じます。今は花の時期を終わって三つ葉の形の濃いみどりの葉が残って居るばかりです。「雪割草」の名から来るイメージが雪を想像させ、この「時期、「いつ見ても」「つめたかり」と感じられたのでしょうか。今年は咲かなかった家の鉢植えの「雪割草」も今は静かに眠っています。 (佃 康水)
○今日の俳句
真青なる空や吉備路に桃の花/佃 康水
吉備、岡山は桃の産地。吉備路を歩くと桃の花が咲き満ち、青空が広がる。青空と桃の花の対比がよく、心地よい路である。(高橋正子)
○芹の花

★底見せて流るる川や芹の花/石塚友二
★芹咲いて遠くに群れているを見る/高橋信之
芹は、セリ科の多年草で、春の季語であるが、芹の花は、季語となっていない。湿地やあぜ道、休耕田など土壌水分の多い場所や水辺の浅瀬に生育することもある湿地性植物である。高さは30cm程度で茎は泥の中や表面を横に這い、葉を伸ばす。葉は二回羽状複葉、小葉は菱形様。全体的に柔らかく黄緑色であるが、冬には赤っぽく色づくこともある。花期は7~8月といわれるが、晩春にも咲く。やや高く茎を伸ばし、その先端に傘状花序をつける。個々の花は小さく、花弁も見えないほどである。北半球一帯とオーストラリアに広く分布する。
★せせらぎはあまたの芹の花揺らす/高橋正子
◇生活する花たち「黄菖蒲・睡蓮・芹の花」」(横浜都筑・ふじやとのみち)
