★甘藷よく実入り刃物に当たる音 正子
○今日の俳句
船を曳く舟の白波秋の潮/桑本栄太郎
タグボートが大きな船を白波を立てて勢いよく曳航している。小さなタグボートが小気味よく、秋潮に立つ白波がさわやかだ。(高橋正子)
★パソコンを消して露散る夜となりぬ 正子
インターネットで俳句の活動を始められた頃の御句でしょうか。パソコンの画面は明るくその奥に果てしない世界が広がっています。電源を落とすと外はもう露散る夜更け。しっとりとした夜の充足感が詠まれています。(後藤あゆみ)
○今日の俳句
竹を伐る空に抜けゆく鉈の音/後藤あゆみ
竹を伐るのは、陰暦の九月がよいとされる。竹を伐る鉈の音が空へ抜ける。「抜ける」が澄んだ高い空をすぐ想像させて、快い緊張を生んでいる。(高橋正子)
○イギリス旅行から帰って、ちょうど2週間になる。心配なことがひとつ。バイブリーで日本へエアメールを出そうと思って切手を買おうとしたが、葉書10枚分しか買えなかった。日本人観光客がたくさん買ったためらしい。買えた分だけ切手を絵葉書に貼ってバーミンガムのホテルのフロントに投函をお願いした。これは無事に着いたようだ。残り5枚の絵葉書に貼る切手は、帰国前々日のヒースローのホテルでようやく手に入ったので、それを貼ってフロントに投函をお願いした。ところが、二週間たっても届かないのだ。我が家宛もあるので、届いていないのは、確かだ。郵便発祥の地のイギリスで、こんなことがあるのか。ホテルがいい加減だったのか。フロントの担当者は、中国系らしい日本語が
話せる男性で、ニコニコして預かってくれはしたが。どこかに放っているのかもしれない。飛行機のクルーも大勢いたし、スポーツ関係の団体もいた。もう届かないのであろう。イギリス旅行の最大のミスである。
★辻に出て通う秋風身にまとう 正子
辻というのはどこからでも風が吹き抜け、風がないと思う時でも辻に出ると思いがけない風に出会います。「身にまとう」から、爽やかな秋の風を全身で受ける心地よさが伝わってまいりました。(後藤あゆみ)
○今日の俳句
秋の灯の鉛筆軽し編み図引く/後藤あゆみ
「鉛筆軽し」に手慣れた作業とたのしい心持が知れ、「秋の灯」にもよい生活感があるのがよい。出来上がりを思いながら、軽やかに鉛筆を動かし、編み物の製図をする楽しい時間である。(高橋正子)
○秋の七草
①ハギ
★女児誕生白萩の白咲ける日に/高橋信之
白萩が咲ける日は、9月3日で、女児は娘の句美子のことである。白萩は、わが家の庭に、不思議なほど、毎年9月3日に咲きはじめた。ようやく爽やかな季節を迎えての子の誕生である。(高橋正子)
②キキョウ
★ふくらみのほどけ桔梗(きちこう)咲きそめり/津本けい
桔梗の蕾は、ふっくりとして、五弁の花の筋が入っている。桔梗が開くときは、まさに「ふくらみがほどける」感じだ。愛らしい桔梗の花である。(高橋正子)
③クズ
★枝垂るるも空にまっすぐ葛の花/後藤あゆみ
葛は蔓性で繁茂し枝垂れるが、葛の花はと言えば、花穂を空へ向け、毅然としている。葛の力を感じる。(高橋正子)
④ナデシコ
★岬に咲く撫子は風強ひられて/秋元不死男
秋の七草の中でもっとも可憐な花である撫子。岬に咲けば、強い海風を受けて、なぶられるように吹かれることもある。「風強ひられて」が、岬に咲く撫子の可憐で、それでいて折れない姿をよく表している。(高橋正子)
⑤オバナ(ススキのこと)
★薄の穂切りて野の風持ち帰る/黒谷光子
風に吹かれている野の薄の穂を切って持ち帰ると、さながら、野の風を持ち帰るようだ、という。穂芒の姿に野の風が見える。(高橋正子)
⑥オミナエシ
★女郎花木の下にところ得て明るし/高橋信之
自句自解:横浜の都筑中央公園は、自然の山の起伏を生かした公園で、散策するのに楽しい場所である。樹が茂った山道にふいに現れた女郎花にひとり散策のわたしは喜んだ。今年は、多くの女郎花を見たが、ここの女郎花が気に入った。
⑦フジバカマ
★藤袴スカイツリーのいや真直ぐ/高橋正子
自句自解:向島百花園に花の写真を撮りに出掛けたので、スカイツリーを近くで見た。百花園の園内からの写真も撮った。東向島駅から浅草駅までを東武伊勢崎線に乗ったので、すぐ近くを電車が走りすぎた。
バイブリー
★水澄んで白鳥ふうわり流れくる 正子
師が旅をされたイギリス・バイブリーは世界一美しい村と言われ、古い石造りの町並みが保存されています。写真を拝見すると独特の雰囲気があり、ため息が出るほどの素晴しさです。澄んだ川の流れには白鳥がふうわりと浮かんで、時間がゆっくりと静かに流れているように感じました。 (津本けい)
○今日の俳句
★暁の雲間を高く雁渡る/津本けい
暁の雲間それ自体も美しく詩情があるが、「高く」がはいったので、さらに景色が広がり、雁渡る空のよい叙情が出た。(高橋正子)
○みずひき草
みずひきの朱が試験期の図書館に 正子
みずひき草は、俳句を作るようになって、自然に知った花だと思う。上のみずひきの句は、大学生のときの句だが、図書館にさりげなく活けてあった。大学構内のどこかにあるのを司書の方が摘んできたのかもしれない。砥部の家の庭にも植えたのか、自然に生えたのかわからない形で、初秋のころから赤い糸を引くように咲いた。みずひき草が咲くと、やはり活けたくなって、切り取って玄関に活けた。みずひき草は、「澄んだ空気」とよく似合う。だから、空気と似合うように活けて自己満足する。
みずひき草には赤だけでなく、白い「銀みずひき」というのもある。蕾のときは、白さがよくわからないが、先日は、買い物の途中で、あの細いみずひきが満開になっているのを見た。それだけで済ますにはもったいないので、家に帰りカメラを持って出掛けた。小さな泡の粒粒が空気に浮かんでいるように見えたが、これもきれいだ。
★鵙猛りそれより空の真っ青に 正子
よく晴れた日の空の高みから鵙の鋭い声が聞こえてきます。鵙の声により、青空がいっそう濃く真っ青に印象づけられ、活気ある澄んだ秋の空が目にうかぶようです。(小川和子)
○今日の俳句
石榴今枝にほどよき重さあり/小川和子
石榴の実は、弾けるころには、重くなって、細い枝がぐんと撓む。そうなると、重すぎないかと思うが、重くならない手前の湾曲した枝に、「ほどよさ」がある。視点が面白い。(高橋正子)
○コスモス
満月光地上に高きコスモスに 正子
日本の秋はコスモスで彩られる。花季は意外に長く、朝夕寒くなる秋の終わりまで咲いている。可憐でやさしい印象の花ながら、風雨に強く、倒れた茎が力強く立ちあがってくるのには驚く。四国には翠波高原にコスモスが一面に咲く。わが家にも裏庭にコスモスが咲いて、満月の夜などは、月光を受けてそれは幻想的であった。活ければすぐに花粉が散っていやだけれど、わっと活けたくなる。新幹線で旅をして近江平野にかかると休耕田にコスモスがたくさん咲いていて、湖の国やさしさを知った日もあった。つい先ごろ訪ねたイギリスでもときどき見かけた。ハワースでは寄せ植えにしていた。色が澄んで日本のと比べると花が大きいのもイギリス風か。
近頃は黄花コスモスをよく見かける。菊に変わってだろうか、風情に欠けていると思いながらも、彩りよく植えられているのを見ると、いいかなとも思う。黄花コスモスも日本の秋に馴染んでゆくのだろう。
イギリス・バイブリー
★水澄んで白鳥ふうわり流れくる 正子
○今日の俳句
コスモスのよく揺れ幾度もシャッター押す/安藤智久
コスモスが風によく揺れ、さまざまな姿を見せる。どの方向からも、どの花も、それぞれによさがあって、幾度もシャッターを押す。風に吹かれるコスモスのやさしさ、しなやかさが読みとれる。(高橋正子)
○金木犀
路地路地の風の香にある金木犀 正子
心地よい風が吹き、いい匂いがすると思えば、金木犀が咲いている。そうと気付くと、あの家、この家に、金木犀が咲いているのに気付く。ああ、秋祭り近いのだと思う。秋祭りには、必ず金木犀が咲いて、ほろほろと小さな十字の花がこぼれている木もある。青空に干した洗濯ものに香りがしみつくかと思うほどよく薫る。金木犀の香りが家々の間を流れるころが、寒からず、暑からず、日本のよい季節なのだ。
★いっせいに月を待つべく曼珠沙華 正子
「花は葉を見ず、葉は花を見ず」と言われる彼岸花の別名曼珠沙華は、茎のみが伸び出て一斉に咲き出しますね!。その曼珠沙華独特の生態を見事に捉えられ、「ドキッ」とする程のときめきを覚えます。(桑本栄太郎)
○今日の俳句
満天星に硬き風吹き紅葉初む/桑本栄太郎
満天星(どうだん)の木の姿を「硬き風」がよく表している。小さな葉が紅葉しはじめて、麓にも確かに秋が来ている。(高橋正子)
○曼珠沙華
いっせいに月を待つべく曼珠沙華 正子
曼珠沙華は、彼岸花ともよく呼んだ。ちょうど、彼岸のころ突然に田の畔や川土手などに咲く。色づいていく稲穂に赤が映えて故郷の風景として印象が強い。ローカル線で旅をすれば、車窓から、稲田のほとり群れ咲く曼珠沙華が見られる。旅の印象を強めてくれる。