8月31日(火)

★白萩の奥なる門の半開き  正子
白萩に、その家に住まわれる人の清楚な暮らしぶりが思われます。半開きには住人の動きが見えるようです。(黒谷光子)

○今日の俳句
萩咲くを乱して山に供花を切る/黒谷光子
仏様へお花をお供えするのも作者のお勤め。山に花を取りにでかけることもある。心ならずも美しく咲いている萩の姿をみだすこともある。萩の花を含めて季節の花を用意される暮らしがゆかしい。(高橋正子)

◇生活する花たち「萩」(横浜日吉本町)

8月30日(月)

★青穂田の密なるそよぎ一面に  正子
ずーと広がる青穂田に初秋の風が吹き渡っています。青い波のそよぎが一面に連なり、稲穂の匂いも漂ってきて、美しい田園風景に心和まされます。(藤田裕子)

○今日の俳句
ちちろ鳴く裏庭の夜の澄みてきし/藤田裕子
静かな裏庭にちちろが鳴くと、夜が澄んでくる感じがする。夜が澄んでくると、ちちろがいっそう声高く鳴く。研ぎ澄まされてゆく秋の夜である。(高橋正子)

◇生活する花たち「百合」(横浜日吉本町)

8月29日(日)

★剥く梨にわが顔映りいたるかも  正子
梨をむきながら、その瑞々しさに、自分の顔が映っているかも、という可愛い発想の句ですね。 (祝恵子)

○今日の俳句
箱の荷の泥付き芋は地方紙に/祝恵子
届いた箱の荷を開けると、地方紙にくるまれた畑から掘り起こしたばかりの泥つきの芋が入っている。地方の便りも、合わせて届き、懐かしい思いだ。(高橋正子)

◇生活する花たち「小豆の花」(横浜日吉本町)

8月28日(土)

★稲穂田の隅にごぼごぼ水が鳴り  正子
出穂水(でほみず)の音が鳴る稲田の活気が伝わってきます。田の隅にある水栓を捻ると太いパイプから水がほとばしり、一旦水を受けた枡石の中から「ごぼごぼ」と音を立てて田に流れ、稲は水を吸って生き生きと実ります。田見回りをして水の管理に細心の注意を払っていた義父母の姿を思い出しました。(後藤あゆみ)

○今日の俳句
葛あんに透けて冬瓜薄みどり/後藤あゆみ
「葛あんに透けて」がこの句の要。冬瓜が、料理され、葛あんをかけられて、いっそう美しく、涼やかな薄みどりとなった。(高橋正子)

◇生活する花たち「キバナコスモス」(横浜日吉本町)

8月27日(金)

★りんりんと虫音に力のありて闇  正子
残暑厳しい中にも夜に入ると、虫の音が聞こえ、確かな秋を感じるころです。あの小さな身体であれだけ響く音色を出す、「力のありて闇」に共感いたします。 (多田有花)

○今日の俳句
秋茄子の不ぞろいなるも強靭に/多田有花
真夏の暑さが去り、朝夕が涼しくなってくると、茄子が生き生きとして美味しい実をつけるが、皮が傷んだようなのも、曲ったのも様々。「不ぞろいなるも強靭」なのである。(高橋正子)

○尾瀬初秋
8月27日金曜日、8時4分東京発の上越新幹線で尾瀬へ向かう。娘との二人行。上毛高原駅で下車。駅前から片品村戸倉行きのバスに乗る。バスはさらに峠へと2時間半走り、片品村の一番奥の戸倉に着く。到着30分前から日が照る中を雨が降り始め、レインコートをリュックから取り出すが、着いたときには雨は上がった。戸倉より、マイクロバスのようなタクシーに乗って、鳩待峠へ向かうこと30分。このあたりは芒の穂が開いたばかり。11時50分に峠に到着。鳩待峠は、尾瀬に入る最もポピュラーなところで、半分くらいの登山者がここから入るようだ。

○峠は広場となってツアーバスやマイクロバスが数台いる。売店や休憩所などをざっと見て、入山口の種子落としマットで靴裏をよくぬぐったあと、いよいよ尾瀬ヶ原の入り口の山の鼻へ向けて3,3キロの道を下る。はじめは石畳の階段、そのあと、木の階段、木道となる。1キロほど下ると、ブナ林に小鳥の声が響く。あまりに響くので、鳴き声がはっきりと聞き取れない。ブナの葉を騒がすような鳥の声に涼しさが湧く。木道がやや緩やかになると、左手に川上川の流れが見える。それからは水芭蕉の大きくなった葉を見ながら、今を盛りのハンゴンソウの黄色い花に目をやりながら、どんどんと下る。登ってくる人たちは息を弾ませている。登りは覚悟せねばなるまい。木道に沿って草を刈る人や歩荷(ぼっか)さんが、休憩場所の材木ベンチで休んだり、弁当を広げたりしている。歩荷さんとは、山小屋や売店にビールや飲み物、食べ物を背負子で運ぶ人。ツキノワグマがいるので、鐘が取り付けてあって、それを鳴らして熊に人間が通ることを知らせる。沢をいくつか見て山の鼻に着く。ここには、ビジターセンター、山小屋、売店、キャンプ場がある。予定通り、1時間で下った。木陰で休む。山鳩が近くに寄って来て逃げもしない、昼食はバスでおにぎりを食べて済ませていたので、飲み物とおやつを採る。トイレは寄付金100円を投入して使用するようになっている。手洗いの水道水の冷たいこと。

○20分ほど休憩のあと、平坦な木道を歩き出しだ。延々と続く木道が見える。尾瀬といえば、水芭蕉、ゆうすげ。その花も終わってしまった今、尾瀬になにがあるだろうかとの思いをよそに、高層湿原は、初秋の色に染まり、可憐な花や草がそよいでいた。空はやや曇り。歩くのにはほどよい。ウィークデイなので、人も多くない。洒落たハイキングウェアーの若い娘達が目立つ。木道を歩く足元には、黄色い小さな花が立ちのぼって咲くミヤマアキノキリンソウ、紫の小さな花が十花ほど咲きのぼるサワギキョウ、紅色もやさしいミヤマワレモコウ。湿原一帯には白い小さい花をのばしたイワショウブの花が今を盛りに咲いている。それに、オゼヌマアザミ。これらの花は、木道のいたるところに、アブラガヤの枯れた穂の色をアクセントに咲いている。しばらく歩いたので後を振り返ると、日本百名山の一つ至仏山が見える。湿原には「池とう」と呼ばれる、小さい池のようなのがたくさんある。幸いにことに、地とうには未草(ヒツジグザ)の花が咲いている。ちょうど未の刻(午後2時)に近い。スイレン科であるが、スイレンよりずっとずっと小さい。木道の間の池水にも咲いているのが見える。別の池とうには、ハヤのような魚がすばしこく泳いでいる。どうしてここに魚がいるのかも不思議だ。水芭蕉やゆうすげの群落のきらめくような季節は去ったが、初秋の尾瀬の細やかな花や草々の表情を満喫しつつ歩いた。サワギキョウ、ワレモコウの多いこと。ワレモコウに赤とんぼが止まる。水色の蜻蛉のつがい。ときに青紫のトリカブトもある。牛首分岐というあたりに来ると、至仏山とは反対側に、つまり行くてに燧ヶ岳の姿が素晴らしく思えるようになる。ここで休憩を入れ、竜宮というところまで歩く。この木道は尾瀬ヶ原のメインとなる道。ところどころに、タケカンバが育っている。遠くにもタケカンバの白い幹が画にみるように並んでいる。ナナカマドが紅葉し始めている。あとしばらくで、草紅葉の景色に変わるであろう。

○今夜の泊まりは、尾瀬ヶ原でも奥のほうにある赤田代の「温泉小屋」。鳩待峠から4時間、約10、8キロとある。山の日暮れはこわいので、4時か、4時半までには着きたい。竜宮を過ぎてから見晴(十字路)まで1,6キロ。そこからまだ40分は歩くので、足を速める。この道を通る人はほどんどいなくて、木道も痛みが激しく、穴があいて落ち込んでいたりしている。左手は葦が茂っているが、丈も1メートルほどと低く、紅むらさきの花もいい風情だ。ゴマナの白い花に混じり、トリカブトの紫の花が一叢。ブナには蔓紫陽花がからむ。遠くに赤い屋根が見えるが、なかなか遠い。ようやく着いたのは、見晴(十字路)である。ここで、休憩。弥太郎小屋など多くの山小屋がある。弥太郎清水が湧いていて、手を浸すと手が切れそうに冷たい。1分も手を入れておれない。小さいタオルを冷やし持ち歩くことに。帰りにはここは通らないので、急ぐ割にはここでゆっくりパノラマ地図を見たりする。いよいよ最後温泉小屋に向け、出発。葦がそよぐ山道の雰囲気のところを、木道の崩れに気をつけながら、小橋の沢を渡り、40分ほど歩いて温泉小屋に到着。午後4時。

○温泉小屋は200人収容とあるが、受付を済ませ別館に案内されると、今夜の泊まりは8人のようだ。自宅に衛星電話で到着を知らせる。部屋は二階。昭和を思い出させるような部屋。6人部屋に二人。この小屋は温泉があるので、すぐにも温泉に入りたいところだが、1回目の入浴タイムにはあと15分しかなく、夕食を先にとるように案内される。部屋の窓を開け、コンパスを出して方角を調べる。窓は北向きで、小屋の前庭というべきところに面している。

○夕食のメニュー。てんぷら、鶏肉のペッパー焼き、ひじきの煮物、ヤマゴボウのピリ辛煮、山菜煮、味噌汁、ご飯。漬物はどんぶりにラッキョウが盛って匙がつけてある。それと山菜のなにか。お茶は粉茶。耳かき2匙ほどをお湯に溶かして飲む。これを残さず食べて、翌朝は胃もたれをおこしたのだが。8人みんな揃って5時からの夕食は、食堂の前にひろがる葦原や草原、うす桃色の夕焼け雲をながめながら。私たち二人、定年過ぎの夫婦、定年後5年くらいの男性二人、若い夫婦。昔の尾瀬の話をしているのは男性二人。夕食後、入浴。荷物の管理もあるので、ひとりずつ入浴することに。風呂場にゆくと、だれも居なくて、ひとりゆっくりと入る。ときにクマザサが風に鳴る音が聞こえる。ほどよい湯加減にいつまでも入っていたいほどだ。石鹸、シャンプーは禁止。入浴後は、さほどの疲れも感じなかったので、娘と売店のあるロビーのテーブルで、尾瀬の花の図鑑などを見て知識を入れる。支配人さんが来て、家に電話が通じたかどうか確認された。顔を覚えていたようだ。(まあ、8人なので。)部屋に帰ってからも、部屋に持ち込んよい写真集など数冊を見て、俳句もそこそこで、8時過ぎ就寝。就寝時は毛布一枚、夜中に一枚増やし二枚に。涼しい。16度くらいか。

[正子作品]
尾瀬行きのバスの秋日のあたたかし  
みなかみの稲穂熟れそむ日和なり   
胡麻の花山の青さをきわだてり    
八月は水芭蕉の葉のおおいなる
ハンゴンソウの黄花真盛り触れもして
木道に沿えば風吹き吾亦紅
 イワショウブ
みはるかす湿原白き花が立ち
湿原に日はかたむかず未草
 弥太郎清水
差し入れし泉の水に手を切られ
山小屋の湯にいて秋の笹の音

生活する花たち「月見草」(横浜日吉本町)

8月26日(木)

★一椀の汁に絞りきる酢橘  正子
酢橘を絞ればその香りや風味のさわやかさは暑い頃の食欲を促してくれます。「絞りきる」に青く小さい丸い酢橘、香りや酸っぱさも詠みこまれておられると思います。(黒谷光子)

○今日の俳句
さみどりの稲穂のそよぎ湖近し/黒谷光子
ゆたかな湖をそばに、さみどりの稲穂のそよぎがやさしい。広くゆったりと、そしてこまやかなな詠みに、句が美しく仕上がった。(高橋正子)

◇生活する花たち「キツネノカミソリ」(横浜四季の森公園)

8月25日(水)

★原っぱにえのころぐさの影となる  正子
原っぱは、真っ先に季節を伝えてくれる場所。えのころぐさの穂が伸びて、さらさらと影を映すようになった景色に、秋の爽やかさを感じます。「原っぱ」という言葉に、ほっといたしました。最近は、空地も更地も管理されているからでしょうか、現代語ですのに「原っぱ」を、あまり聞かなくなりました。優しい響きで、心に沁みます。(川名ますみ)

○今日の俳句
とんぼとんぼ向う山まで透き通る/川名ますみ
「とんぼとんぼ」のリズムが楽しい。とんぼが飛ぶと、向こう山まで空気が透き通った感じがする。(高橋正子)

○俳句界9月号が届く。結社広告は、8月号と同じ句になってしまった。10月号は、あたらしくした。広告の校正は九月第1週になる予定。

○昨日花冠10月号を校了とした。

○あさってから尾瀬に一泊で。同行は娘。はじめての尾瀬なので、順調に歩けるかどうか。11キロほど歩く。上越新幹線で上毛高原駅まで行き、そこから路線バスとマイクロバスを乗り継いで鳩待峠へ。そこから歩く。富士登山のときのことが甦る。

◇生活する花たち「ダイコンソウ」(横浜四季の森公園)

8月24日(火)

 八月二十四日、横浜へ
★秋蝉となりしを聞きて引越しす  正子夏の初めから鳴き始めた蝉の声もいつしか秋の蝉になっている。そんな季節の移ろいを感じながら、住まいを別の地へ引越しをする。新しいところはどんなところであろうと思いを馳せながら。(高橋秀之)

○今日の俳句
産声を待つ部屋の窓白木蓮/高橋秀之
子の誕生を待って落ち着かない父親の目に、白木蓮が映る。産着のような純白の白木蓮に、まもなく誕生する子が重なって見える。(高橋正子)

○花冠10月号校了
午前9時過ぎ、松山の印刷所「龍華堂」に電話。担当の浅井さんに<花冠10月号校了>を伝え、印刷製本に移っていただく。
http://kakan.info/km/1010.pdf

◇生活する花たち「シモツケ」(横浜四季の森公園)
 

8月23日(月)/処暑

★朝風のとんぼを運び海へ去る  正子
松山でいらした頃の御句でしょうか。お住まいからは、はるかな沖も眺められ、とても風通しのよいご住居でした。朝風、とんぼ、海と、おのずと初秋の明るい風光や澄んだ朝の空気を感じ取れます。とんぼの行く手の海へと、爽やかに視野が広がります。(藤田洋子)

○今日の俳句
一片の雲を真白に処暑の朝/藤田洋子
処暑の朝を迎え、まっ白い雲の美しさにうれしさが湧く。暑さも一息つき、朝夕の涼しさが期待できる。処暑というのは、そういう日なのだ。季語を生かした写生だが、詩情のある句。(高橋正子)

◇生活する花たち「アベリア」(横浜日吉本町)

8月22日(日)

★小雨降る中の芙蓉を一つ剪る  正子
芙蓉の優しげな風情が「小雨降る中」という情景にぴったりです。少し秋めいた来たそんな雰囲気がよく感じられます。(多田有花)

○今日の俳句
はや桜紅葉始まる明るき午後/多田有花
「明るき午後」が魅力。暑さがようやく落ち着いたかと思うと、はやくも、桜は紅葉しはじめる。真夏の眩しさがぬけて、しずかな明るさに変わるころ。(高橋正子)

○角川俳句年鑑、俳句研究年鑑の原稿をそれぞれに郵送。
正子今年度代表句は、
菖蒲束ざんぶと投げて湯が青む(角川)
島はしずかに島でありたり花曇り(俳句研究)

○「少年」の主宰の稲田眸子さんに、依頼の花冠9月号と、「私たちの俳句」についてと、正子略歴を送った。

○治代さんの句集『香田』の注文本日まで分11名に夕方メール便で発送。

○花冠10月号の初校。

○一時にくらべると涼しくなった。日中は、眩しいくらい太陽が照る。

◇生活する花たち「蒲の穂」(横浜四季の森公園)