9月7日(金)

★たっぷりと雲湧く台風過ぎしより  正子
台風が去り、空に「たっぷりと」雲の湧く爽涼さ。台風あとの安堵感とともに、過ぎ去った台風の大きさも推測されます。台風一過、空は澄み高く、生まれる白雲の雄大さに、清々しく豊かな秋の到来を感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
皿洗う秋夜の白と白重ね/藤田洋子
家族の明るい生活から生まれた佳句が多い。日々の生活に詩を見つけ、それを句にしている。(高橋正子)

○梅鉢草(うめばちそう)

[梅鉢草/ネットより]            [梅鉢草/国立公園尾瀬2010/08/28]

★山の日のゆたかにとどき梅鉢草/中岡昌太
梅鉢草に「山の日」はふさわしい。あたり何もないので、直接山の日が梅鉢草に注ぐ。注目は「山の日」。梅鉢草が咲くころの「山の日」は、夏の日が衰え、日差しに涼しさが見える。夏の終わりから秋の初めの繊細な趣の日差し。それに似合う花である。(高橋正子)

★膝折って額白牛やうめばち草/杉山額陽

梅鉢草を初めて見たのは尾瀬であった。銀杯草という花がある。8月ごろ咲く丈の低い白い可憐な花で、グランドカバーにもされる。どこの家を訪ねたときか覚えていないが、玄関前にあってよくよく見せてもらった。その花のイメージと重なって、尾瀬で梅鉢草に出会った時は即座に梅鉢草と断定できなかった。まず写真を撮り、夜、山小屋にあった「尾瀬の植物」という図鑑と、昼間ビジターセンターでもらったパンフレットをよくよく見て梅鉢草と決めた。尾瀬では、持って行ったデジタルカメラが、2,3枚撮ったところで壊れてしまって、携帯で写すはめになったが、青白く梅鉢草が写っている。非常に残念だったが「尾瀬の梅鉢草」として私の大事な写真になった。

★山小屋に梅鉢草の咲く写真/高橋正子
★草の間の梅鉢草の花に向き/正子

 ウメバチソウ(梅鉢草、学名:Parnassia palustris)は、ユキノシタ科ウメバチソウ属の多年草。花が梅の花を思わせる。根出葉は柄があってハート形。高さは10-40cmで、花茎には葉が1枚と花を1個つける。葉は、茎を抱いている。花期は8-10月で2cmほどの白色の花を咲かせる。北半球に広く見られ、日本では北海道から九州に分布する。山地帯から亜高山帯下部の日の当たりの良い湿った草地に生え、地域によっては水田のあぜにも見られる。ウメバチソウ属は、北半球の温帯から寒帯にかけての山地に50種ほどがある。「梅鉢」とは、紋所(家紋)のひとつで、変形に、中心部がおしべの形ではなく、ただの丸になっている「星梅鉢」がある。菅原道真や前田利家の家紋として有名で、湯島天神など天神社でよく見かける。家紋に由来する植物名には、ほかにハナビシソウ(花菱草)などがある。

○尾瀬初秋
 一昨年8月27日、娘と尾瀬へ。上毛高原駅で上越新幹線を下車。駅前から片品村戸倉行きのバスに乗る。バスはさらに峠へと2時間半走り、片品村の一番奥の戸倉に着く。戸倉より、マイクロバスのようなタクシーに乗って、鳩待峠へ向かうこと30分。このあたりは芒の穂が開いたばかり。11時50分に峠に到着。鳩待峠は、尾瀬に入る最もポピュラーなところで、半分くらいの登山者がここから入るようだ。尾瀬ヶ原の入り口の山の鼻へ向けて3,3キロの道を下る。はじめは石畳の階段、そのあと、木の階段、木道となる。1キロほど下ると、ブナ林に小鳥の声が響く。あまりに響くので、鳴き声がはっきりと聞き取れない。ブナの葉を騒がすような鳥の声に涼しさが湧く。木道がやや緩やかになると、左手に川上川の流れが見える。それからは水芭蕉の大きくなった葉を見ながら、今を盛りのハンゴンソウの黄色い花に目をやりながら、どんどんと下る。登ってくる人たちは息を弾ませている。登りは覚悟せねばなるまい。木道に沿って草を刈る人や歩荷(ぼっか)さんが、休憩場所の材木ベンチで休んだり、弁当を広げたりしている。歩荷さんとは、山小屋や売店にビールや飲み物、食べ物を背負子で運ぶ人。ツキノワグマがいるので、鐘が取り付けてあって、それを鳴らして熊に人間が通ることを知らせる。沢をいくつか見て山の鼻に着く。ここには、ビジターセンター、山小屋、売店、キャンプ場がある。予定通り、1時間で下った。木陰で休む。山鳩が近くに寄って来て逃げもしない、昼食はバスでおにぎりを食べて済ませていたので、飲み物とおやつを採る。トイレは寄付金100円を投入して使用するようになっている。手洗いの水道水の冷たいこと。
 20分ほど休憩のあと、平坦な木道を歩き出しだ。延々と続く木道が見える。尾瀬といえば、水芭蕉、ゆうすげ。その花も終わってしまった今、尾瀬になにがあるだろうかとの思いをよそに、高層湿原は、初秋の色に染まり、可憐な花や草がそよいでいた。空はやや曇り。歩くのにはほどよい。ウィークデイなので、人も多くない。洒落たハイキングウェアーの若い娘達が目立つ。木道を歩く足元には、黄色い小さな花が立ちのぼって咲くミヤマアキノキリンソウ、紫の小さな花が十花ほど咲きのぼるサワギキョウ、紅色もやさしいミヤマワレモコウ。湿原一帯には白い小さい花をのばしたイワショウブの花が今を盛りに咲いている。それに、オゼヌマアザミ。これらの花は、木道のいたるところに、アブラガヤの枯れた穂の色をアクセントに咲いている。しばらく歩いたので後を振り返ると、日本百名山の一つ至仏山が見える。湿原には「池とう」と呼ばれる、小さい池のようなのがたくさんある。幸いなことに、地とうには未草(ヒツジグザ)の花が咲いている。ちょうど未の刻(午後2時)に近い。スイレン科であるが、スイレンよりずっとずっと小さい。木道の間の池水にも咲いているのが見える。別の池とうには、ハヤのような魚がすばしこく泳いでいる。どうしてここに魚がいるのかも不思議だ。水芭蕉やゆうすげの群落のきらめくような季節は去ったが、初秋の尾瀬の細やかな花や草々の表情を満喫しつつ歩いた。サワギキョウ、ワレモコウの多いこと。ワレモコウに赤とんぼが止まる。水色の蜻蛉のつがい。ときに青紫のトリカブトもある。牛首分岐というあたりに来ると、至仏山とは反対側に、つまり行く手に燧ヶ岳の姿が素晴らしく思えるようになる。ここで休憩を入れ、竜宮というところまで歩く。この木道は尾瀬ヶ原のメインとなる道。ところどころに、タケカンバが育っている。遠くにもタケカンバの白い幹が画にみるように並んでいる。ナナカマドが紅葉し始めている。あとしばらくで、草紅葉の景色に変わるであろう。
 今夜の泊まりは、尾瀬ヶ原でも奥のほうにある赤田代の「温泉小屋」。鳩待峠から4時間、約10、8キロとある。左手は葦が茂っているが、丈も1メートルほどと低く、紅むらさきの花もいい風情だ。ゴマナの白い花に混じり、トリカブトの紫の花が一叢。ブナには蔓紫陽花がからむ。40分ほど歩いて温泉小屋に到着。午後4時。

★木道に沿えば風吹き吾亦紅
★湿原に日はかたむかず未草
★山小屋の湯にいて秋の笹の音

◇生活する花たち「チカラシバ・吾亦紅・水引の花」(横浜下田町・松の川緑道)


コメント

  1. 藤田洋子
    2012年9月2日 18:07

    お礼
    正子先生、今日の俳句に「秋夜」の句を取り上げていただきありがとうございました。

    ★たっぷりと雲湧く台風過ぎしより  正子
    台風が去り、空に「たっぷりと」雲の湧く爽涼さ。台風あとの安堵感とともに、過ぎ去った台風の大きさも推測されます。台風一過、空は澄み高く、生まれる白雲の雄大さに、清々しく豊かな秋の到来を感じさせていただきました。