★小雨降る中の芙蓉を一つ剪る 正子
淡いピンクの、あるいは白い芙蓉でしょうか。やさしい感じのする花ですが、小雨にぬれる芙蓉を一つ剪りとり、身近にひきよせて楽しまれる奥ゆかしさが思われます。 (小川和子)
○今日の俳句
水音を離れず蜻蛉疾くとび交う/小川和子
水音は、堰を落ちる水の音であろう。きれいな水を想像する。いつまでも水を離れず、すいすいと飛び交う蜻蛉に涼感がある。
○吾亦紅(われもこう)
[吾亦紅/横浜市港北区下田町・松の川緑道]
★何ともな芒がもとの吾亦紅 子規
★路岐して何れか是なるわれもかう 漱石
★吾も亦紅なりとついと出で 虚子
★浅間越す人より高し吾亦紅 普羅
★籐椅子の脚にも媚びて吾亦紅 風生
★叢や吾亦紅咲く天気合ひ 蛇笏
★拾ひたる石に色あり吾亦紅 かな女
★吾亦紅つくりぼくろのかの人の 青邨
★吾亦紅霧が山越す音ならむ 悌二郎
★霧の中おのが身細き吾亦紅 多佳子
★さしそへて淋しき花の吾亦紅 鷹女
★手折る花いつしか多し吾亦紅 汀女
★またしても日和くづれて吾亦紅 立子
○吾亦紅
吾亦紅はその名前が文学少女好みなのだろう、今は80歳を越えた女性にはなかなかの人気だった。薔薇科とは思えない花の形。色も紅とも言い切れなくて茶色に近い。臙脂色と言っていいのだろうか。「わたしも紅なのですよ」と主張するあたり健気である。野原や河原の草原に生えているのを見つけると、これは感動ものである。松山時代のこと。道後平野を流れる一級河川に重信川がある。正岡子規が「若鮎の二手になりて上りけり」と詠んだ川である。厳密にはこの句は、重信川と石手川の合流する「出合」と呼ばれているところの若鮎を詠んだもの。この重信河原の中流より少し上手の河原に吾亦紅はいくらでもあると聞いた。吾亦紅があるあたり、おそらく河原撫子もあるのだろうと想像するが、実際見にゆけなく残念な思いが残っている。松山市内のレトロなコーヒー店で句会をしたとき、大きな丸テーブルの真中に吾亦紅がたくさん活けてあって、レトロな雰囲気によく似合っていた。数日前の8月20日向島百花園に寄った。女郎花と桔梗はちょうど見ごろであったが、吾亦紅はまだ固い蕾。それでも吾亦紅の色であった。すっと伸びた細い茎の分かれるとろこに羽毛状の軽い葉がある。この花にして、この葉ありだ。園内には蚊遣りが置かれていて、蚊が現れる。蚊遣りと吾亦紅、まんざら悪くない。萩もほんの二、三花なのだから、百花園は秋のほんの入り口だった。
百花園
★吾亦紅スカイツリーのある空に/高橋正子
松山
★吾亦紅コーヒー店のくらがりに/高橋正子
ワレモコウ(吾亦紅、吾木香)は、バラ科・ワレモコウ属の植物。英語ではGreat Burnet、Garden Burnet、中国語では地楡(ディーユー、dìyú)。日本列島、朝鮮半島、中国大陸、シベリアなどに分布しており、アラスカでは帰化植物として自生している。草地に生える多年生草本。地下茎は太くて短い。根出葉は長い柄があり、羽状複葉、小葉は細長い楕円形、細かい鋸歯がある。秋に茎を伸ばし、その先に穂状の可憐な花をつける。穂は短く楕円形につまり、暗紅色に色づく。「ワレモコウ」の漢字表記には吾亦紅の他に我吾紅、吾木香、我毛紅などがある。このようになったのは諸説があるが、一説によると、「われもこうありたい」とはかない思いをこめて名づけられたという。また、命名するときに、赤黒いこの花はなに色だろうか、と論議があり、その時みなそれぞれに茶色、こげ茶、紫などと言い張った。そのとき、選者に、どこからか「いや、私は断じて紅ですよ」と言うのが聞こえた。選者は「花が自分で言っているのだから間違いない、われも紅とする」で「我亦紅」となったという説もある。別名に酸赭、山棗参、黄瓜香、豬人參、血箭草、馬軟棗、山紅棗根などがある。根は地楡(ちゆ)という生薬でタンニンやサポニン多くを含み、天日乾燥すれば収斂薬になり止血や火傷、湿疹の治療に用いられる。漢方では清肺湯(せいはいとう)、槐角丸(かいかくがん)などに配合されている。
コメント
お礼.コメント
正子先生
「蜻蛉疾くとび交う」の句を取り上げて頂きましてありがとうございました。この句を詠んだときのことが思いうかび嬉しく思います。
★小雨降る中の芙蓉を一つ剪る 正子
淡いピンクの、あるいは白い芙蓉でしょうか。やさしい感じのする花ですが、小雨にぬれる芙蓉を一つ剪りとり、身近にひきよせて楽しまれる奥ゆかしさが思われます。