3月29日(木)

★沈丁の香の澄む中に新聞取る  正子
いつも其処に在る沈丁花ですが、同じに匂うわけではありません。朝一番、扉を開けた時の、ひときわ澄んだ香り。それは「新聞取る」日課に得る、よろこびです。清かな香の中に、今日のよくあらんことを想います。(川名ますみ)

○今日の俳句
残る鴨みずから生みし輪の芯に/川名ますみ
「残る鴨」なので、みずからが生んだ輪の中心にいるという事実が生きる。温んだ水が、しずかに輪を描き、その中心にいる鴨に、独りでいる意思が読み取れる。

○辛夷

[横浜都筑・ふじやとの道緑道2012年3月29日撮影]

★丘の上総身白き花辛夷/高橋正子
辛夷は、高さ6-9メートルに達する落葉喬木。新葉の出ぬ前白色の花を、梢頭樹間に開く。私にとっては、堀辰夫の小説のイメージが強い。横浜に転居するまでは、辛夷は、希に、もしくはほとんどと言っていいほど見たことがなかった。どんな花だろう、この目で見てみたいと思っていたものだ。似ている花の白木蓮は、庭木などで、家々によく咲いていた。新しい住宅が建つなどすれば植木にも流行があるのか、どの家にも同じ木が植えられる。白木蓮もその一つではなかったかと思う。横浜に転居してからは、近所に始まり、至るところに辛夷を見かける。旅をすれば、雑木山に辛夷が咲いているのが目撃できる。辛夷の花が咲くころは風がたしかによく吹く。風に雑木山ごとなぶられるようなこともある。白木蓮のように明らかな形で咲かないで、くしゃくしゃと咲く。この決まりなさがいい。スケッチするなら、白木蓮より辛夷がいい。風に打たれやすく、雨に傷みやすくて、儚く美しい文人好みの花であろう。シデコブシというのがあって、いい花だと思う。

◇生活する花たち「辛夷・花水木・柳の花」(横浜都筑・ふじやとの道緑道)


コメント

  1. 川名ますみ
    2012年4月1日 21:21

    お礼
    正子先生、「残る鴨」の句を掲載下さいまして、ありがとうございます。頂戴しましたご講評を、あらためて嬉しく拝読しました。

    ★沈丁の香の澄む中に新聞取る
    いつも其処に在る沈丁花ですが、同じに匂うわけではありません。朝一番、扉を開けた時の、ひときわ澄んだ香り。それは「新聞取る」日課に得る、よろこびです。清かな香の中に、今日のよくあらんことを想います。