晴れ
●『ふたつの部屋』(松本余一著/俳句アトラス発行)を数日前に恵贈いただく。句歴4年で、第2句集。一ページ一句の贅沢さで、本文166ページ。松本余一氏は、昭和14年、小金井市生まれ。現在82歳。大変上手。彼の世とこの世の両方を見ているような不思議で、しずかな句境。
海底より見上ぐる水面風光る
花菫浄土に近き比良比叡
手のひらが包まれてゐる春日かな
次の世を見ているここち花の下
うららなり眠るも死ぬも眼鏡とる
常念岳の雪のかをりの花山葵
風鈴や買ふとき風に好かれたる
麻痺の身に彼の世の旅の夏衣
蓮見舟からだの軽くなるばかり
森青蛙少し動いて泡のなか
復活はだれにもあつて万年青の実
音はみな秋になじみて湖渡る
この川にまぎれ行けば秋の海
白い秋妻が孤独を教へたり
遠くには遠くの銀河門司どまり
100円で売られて冬の処女句集
バーテンにあづける熊手バーのママ
爪先を出して柚子湯の香の豊か
若水に生命線のひかりをり
一望の棚田一枚ごとの雪
●本の新聞広告。「人間に失敗というものはない。」と精神科医が言っている。貼って剥せる付箋は、糊の実験の失敗から生まれた、とか。ノーベル賞の発明にもそんなのが多いとか。今失敗でも、それは次へのステップだとか。思い煩うな。「野の鳥や花を見よ」、ではないが。
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