★秋水湧く波紋をそのまま手にすくう 正子
澄みわたる秋の泉に滾々と水が湧き出ています。その波紋は、秋の陽に鮮やかな影をなして揺れ映ります。結んだ手にそっとその波紋を掬い取れば、泉の透明感と冷ややかさとがそのまま秋の空気に伝わって、爽やかさが広がります。(小西 宏)
○今日の俳句
ゆく雲の白き軽きも秋の空/小西 宏
雲は白く、そして軽く、流れて行く。秋の空はそうなのだ。自由で軽やかな秋空が、自身の心も秋の空に同化して詠まれている。(高橋正子)
○小菊
[小菊/横浜市港北区松の川緑道] [小菊/横浜日吉本町]
★菊の香やならには古き仏達 芭蕉
★菊の香や流れて草の上までも 千代女
★しら菊や庭に余りて畠まで 蕪村
★菊さくや我に等しき似せ隠者 一茶
★大寺の礎残る野菊かな/正岡子規
★自らの老好もしや菊に佇つ/高浜虚子
★野菊一輪手帳の中に挟みけり/夏目漱石
★憂さ晴れてそぞろに行けば野菊かな/河東碧梧桐
★たましひのしづかにうつる菊見かな/飯田蛇笏
★白菊とわれ月光の底に冴ゆ/桂 信子
★大寺の築土の野菊摘みにけり/久保田万太郎
★頂上や殊に野菊の吹かれ居り/原石鼎
★手のぬくみ野菊の瓣に及ぼしぬ/阿部みどり女
★一戸も日当らぬはなく菊日和/鷹羽狩行
★小菊なれば集まり楽し晴れの空/高橋信之
★菊香るすみずみまでが晴れており/高橋正子
キク(菊)はキク科キク属の植物だが、狭義のキクは、イエギク(家菊、学名 Chrysanthemum grandiflorum)、栽培ギクのことをいう。「キク」は、世界で200種ほどある。このうちわが国で自生する「ノギク(野菊)」は20種ほどで、観賞用に育てられているのは、ほとんどが「イエギク(家菊)」と呼ばれるもの。日本へは、古い時代に朝鮮を経由して渡来したが、もともとは薬用植物で、また「菊」という漢字にほかの読み方がないのは、薬の専門用語として使われていたためだという。頭花の大きさによって、直径18cm以上の大菊、9~18cmの中菊、それに9cm未満の小菊に分類される。小菊は、つぼみを摘蕾(てきらい)しない 「懸崖仕立て」や「菊人形」などにする。
日本に自生している野菊のヨモギなどは食用とされる。観賞の習慣は平安時代頃、中国から秋の重陽の節句とともにもたらされたものである。万葉集には現われないが、古今集あたりから盛んに歌にも詠まれるようになった。江戸時代から明治、大正時代にかけて日本独自の発展をした古典園芸植物の1つとして、現在では「古典菊」と呼ばれている。明治時代になると、花型の変化よりも大輪を求める傾向が強まり、次第に「大菊」が盛んになった。花の直径が30センチメートルに達する品種も現れた。
コメント
お礼
高橋正子先生
拙い句を「ゆく雲の白き軽きも秋の空」へとご添削くださり、その上、先生の「俳句日記」にまでご紹介いただき、たいへんありがたく感じております。本当にありがとうございました。
鑑賞
★秋水湧く波紋をそのまま手にすくう 正子
澄みわたる秋の泉に滾々と水が湧き出ています。その波紋は、秋の陽に鮮やかな影をなして揺れ映ります。結んだ手にそっとその波紋を掬い取れば、泉の透明感と冷ややかさとがそのまま秋の空気に伝わって、爽やかさが広がります。