NEW■9月月例ネット句会入賞発表■

■9月月例ネット句会入賞発表■
2025年9月15日

【金賞】
05.石狩に雲の一刷毛稲稔る/土橋みよ
石狩平野の広がりと、高い空の、なぞったかのような一刷毛の雲。地には黄金の実りの色。広大な石狩平野の風景を三層に詠みながら、「生きることの静かな肯定」が滲んでいる。(髙橋正子)

【銀賞/2句】
09.満月光雨の匂いの残る田に/柳原美知子
雨が止んだ直後の田んぼに漂う、湿った土と稲の香り。読み手の嗅覚を刺激する描写に、読者はその場に引き込まれる。乾いた満月の光と、湿った温もりのある雨の匂いは、対照的な感覚でありながら共存し、読者はその場に引き込まれる。言葉ではいいがたい、「気配」がただよっている。
(髙橋正子)

39.水澄んで吾子はじめての離乳食/西村友宏
「水澄む」は、自然が落ち着き、余分なものが沈殿したかのような清らかな季節をイメージさせる。それが冒頭におかれ、離乳食を食べ始めたわが子の成長の感慨深い一瞬を祝福しているかのように思えたのだ。(髙橋正子)

【銅賞/3句】
01.大笹を傾けて置く星祭/川名ますみ
願いを短冊に託し、笹に飾る風習の「星祭」に、祈りと幻想がある。「大笹を傾けて置く」は、準備の途中なのか、大きいので立てきれないのか、完璧に整えられた祭りではなく、生活の中にある素朴な星祭の姿が浮かぶ。大笹の傾きに、星への祈りの方向があり、詩情を生んでいる。「大笹を/傾けて置く/星祭」に構成の妙がある。(髙橋正子)

23.ひと雨にえのころ青き穂の光り/藤田洋子
野の草のえのころぐさ」が、通り雨や夕立の短い雨に洗われ、光を受けて輝く様子を見逃さず、捉えて詠んだ俳句。視覚的な美しさだけでなく、命の瑞々しさや、時間の儚さが込められている。「雨」と「光」という一見対照的な要素が、えのころという素朴な草を通して結びついている点が秀逸。(髙橋正子)

31.奥山の水音秋の蝶を呼び/上島祥子
この句の美しさは、「呼び」という動詞にある。水音が蝶を「呼ぶ」ことで、自然は能動的に命を迎え入れている。「秋の蝶」は、命の終盤に差しかかる儚い存在で、その蝶が呼び戻されたと感じたところに、作者の優しさがある。奥山の静かさ、水の音、秋の蝶を立体的に詠み、その自然と作者との一体感が言語外に感じられる。(髙橋正子)

【髙橋正子特選/7句】
05.石狩に雲の一刷毛稲稔る/土橋みよ
石狩平野の情景でしょうか。北海道であれば秋の深まりも早いでしょう。広い大地に稔る黄金色の稲穂。広く高く澄んだ青空に空に流れる一筋の雲。映像が目に浮かぶようです。(多田 有花)
澄み切った石狩平野の空に浮かぶ一刷毛の秋の雲の白さとひろびろとした稔り田の美しさが目に浮かび、秋の清涼さを感じます。(柳原美知子)
先ず北海道の石狩との地名入りが良い。北海道の広大な稔り田が広がり、雄大な青空が想われ、その上秋晴れの刷毛雲が爽やかで心地良い。(桑本栄太郎)

09.満月光雨の匂いの残る田に/柳原美知子
懐かしい田圃の風景がある。雨が上がったばかりの畦道を歩くと雨の匂いがする。満月の光は、まだ湿っている田を蒼く照らしている。(吉田 晃)
今年は猛暑、雨不足が顕著だったがゆえに雨のにおいがひと際引き立ちます。そんな田水に満月の光が差す。稲の実りがそこにあることを願います。(高橋 秀之)

39.水澄んで吾子はじめての離乳食/西村友宏
始まりの「水澄んで」が清らかな環境と新たな始まりを連想させ、お子様の成長の喜びの一場面を温かく包み込むようです。(土橋みよ)
お乳から離乳食へ進むのは、赤ちゃんにとっては大きな出来事ですね。上句の「水澄んで」は美しい秋を初めて迎える赤ちゃんに相応しいと思いました。(上島祥子)
ものすべて澄みわたる秋、川の水も底が見える美しさです。離乳が始まる今、そのきれいな水がお子さまの体を作っていくことへの、希望や喜びを感じます。(川名ますみ)

01.大笹を傾けて置く星祭/川名ますみ
23.ひと雨にえのころ青き穂の光り/藤田洋子
31.奥山の水音秋の蝶を呼び/上島祥子
34.昇る陽を受け初め青き棗の実/多田 有花

【入選/13句】
02.ハンカチの刺繍見せ合うティータイム/川名ますみ
いろいろな刺繍がほどこされたハンカチを見せ合う嬉しいティータイム。皆さんとともに過ごす素敵なひとときが軽やかに伝わり、心楽しく明るくなります。(藤田洋子)

27.雨上がり秋空高く澄み渡る/高橋 秀之
秋空が気持ちよく晴れ上がった様を上手く詠んだ。(廣田洋一)

08.稲稔り朝の光に香を放つ/柳原美知子
10.風吹けば米の匂いや稲穂波/桑本栄太郎
15.蜻蛉のついつと水面弾きけり/小口泰與
16,蜻蛉止まり首を傾げている垣根/ 吉田 晃
18.鍬洗う藁のタワシに秋の水/ 吉田 晃
22.溝蕎麦の川縁沿えば風の寄る/藤田洋子
24.雷雨過ぐ風新涼の朝の間に/藤田洋子
28.爽やかに風吹き抜ける土手の道/廣田洋一
29.富士山に光り返しつ花野行く/廣田洋一
30.江の島の姿変わらず秋の潮/廣田洋一
36.幾筋も遠峰に稲妻の走る/多田 有花

■選者詠/髙橋正子
19.天じゅうの雷へと電車走り入る
20.亡骸となってわが家に秋の蝉/髙橋正子
21.プランターに旱というものありにけり

互選高点句
●最高点句(7点/同点2句)
05.石狩に雲の一刷毛稲稔る/土橋みよ
39.水澄んで吾子はじめての離乳食/西村友宏

集計:髙橋正子
※コメントのない句にコメントをよろしくお願いします。思ったこと、感じたこと、ご自由にお書きください。

 


コメント

  1. 多田 有花
    2025年9月15日 15:37

    08.稲稔り朝の光に香を放つ/柳原美知子
    早朝の熟れた稲田の情景を見事に詠んでおられます。
    稲歩のすべてが露を持ちそこに朝日があたり稲の香りがします。

    24.雷雨過ぐ風新涼の朝の間に/藤田洋子
    今年は本当に厳しい暑さです。
    9月に入ってもまだそれは続いていましたが朝方の雷雨が続き
    新涼といえる空気をもたらしてくれました。

    28.爽やかに風吹き抜ける土手の道/廣田洋一
    ここ数日ようやく爽やかといえるような風と空の高さを
    感じられるようになってきました。
    土手の散歩も足取り軽く出かけられますね。

  2. 土橋みよ
    2025年9月15日 16:47

    正子先生、「石狩に」の句をお選びいただき、ありがとうございます。また、私の思いの及ばぬ点まで丁寧にご指摘いただき、大変勉強になりました。常に懇切にご指導いただく中で、俳句を日々意識するようになっております。多田様、柳原様、桑本様には、温かいコメントを頂き、励まされております。有難うございました。吉田様、藤田様、上島様には選を頂き有難うございます。

    足利に住むようになって八年半、すっかり栃木県人になったつもりでおりましたが、なお北海道が懐かしく思われることに、自分でも驚いております。北海道は本州よりひと足早く夏が過ぎ、お盆を過ぎれば夜は肌寒く感じられます。この時期の石狩平野に広がる黄金色の稲穂の波は、澄んだ青空のもとに実に見事で、刷毛で掃いたような雲がいっそう秋らしさを添えていました。先生は「生きることの静かな肯定」とご指摘くださいましたが、俳句の勉強は間違いなく私にとって大切な心の支えを与えてくれているように思います。今後も積極的に俳句を学んでまいりたいと存じますので、引き続きご指導を賜りますようお願い申し上げます。