2025年6月9日
【金賞】
08.残照の空へとあがる遠花火/多田有花
残照の空の華やかさに加わる遠花火が美しく詠まれている。これから夏本番へと移る季節への祝歌のような空を情緒豊かに詠んでいる。(髙橋正子)
【銀賞/2句】
19.病窓に青嶺の迫り雲湧ける/柳原美知子
病を得て病室で過ごさねばならないとき、窓に青々とした青嶺が迫り、夏の白い雲が湧く景色は、大きな励ましと慰めになるにちがいない。生き生きとした句に、病はすでに退散したかのような印象を受ける。ご快癒をお祈りします。(髙橋正子)
47.青梅にまだ残りある陽のぬくみ/川名ますみ
もいだ青梅にまだ陽のぬくみが残っている。手のひらにあるリアルな「ぬくみ」の実感が、いとおしいまでの驚きとなって美しく詠まれている。(髙橋正子)
※おことわり:清記の「47.青梅にまだ残りある陽のぬくみ」に、「青梅」の「青」が抜けておりました。訂正していますので()、ご確認ください。失礼しました。(髙橋正子)
【銅賞/3句】
09.水入れてひと日代田の澄みにけり/多田有花
代掻きをした田に水を入れると、田の水は一日かけて泥を沈殿させ澄んだ水になってゆく。これで田植の準備も整い、田植を待つばかりの田の安安らかで明るい田となっている。(髙橋正子)
34.吾子の蹴り日に日に強く夏の夜/西村友宏
夏はものみな旺んに生長する。薄着になった赤子が足を盛んに動かし蹴る動作をする。赤子と言えど侮れなく、日々日々蹴る力が強くなっている。これも夏の季節を迎えて特に実感することだ。(髙橋正子)
38.御木曳や夏正装の運転手/上島祥子
概ねを述べると、御木曳(おきひき)は、伊勢神宮の式年遷宮における大衆参加の行事。伊勢市で行われ、神宮の新しい社殿を建てるための檜材を運ぶ伝統的な儀式で、内宮の用材は五十鈴川を遡る「川曳」、外宮の用材は奉曳車で運ぶ「陸曳」といった形で行われる。ことし2025年6月、式年遷宮に向けた御樋代木奉迎送行事が開催されるとのこと。
祥子さんの句は、奉曳車の運転手の姿を通して、神事に対する敬意と厳粛な空気を詠んだもの。「夏正装」が夏の暑さの中でも儀式の格式を守る姿勢を際立てている。(髙橋正子)
【髙橋正子特選/7句】
09.水入れてひと日代田の澄みにけり/多田有花
代掻きが終わり、その後田に水を張ります。夕方ともなれば代田の水が澄み、夕日に映えて美しい水鏡となりますね?。さあ~!!、明日は田植えが始まりそうです。(桑本栄太郎)
19.病窓に青嶺の迫り雲湧ける/柳原美知子
病室の窓のすぐ傍に、命が満ちる青々とした夏の山。そこから大きな白い雲が湧き上がっています。この力強い景色は、病躯に何よりの励みになることでしょう。ご快癒をお祈り申し上げます。(川名ますみ)
29.杜若水面に我のゆく影と/吉田 晃
現では杜若と自分は距離がありますが、水鏡に共に映る像が儚い美しさを感じます。 (上島祥子)
34.吾子の蹴り日に日に強く夏の夜/西村友宏
赤ちゃんを家族に迎え、足を強く蹴ることに成長を喜ぶ男親の深い愛情が伝わります。一読して自然と笑がこぼれます。 (上島祥子)
17.老鶯に誘われ参る山の寺/土橋みよ
38.御木曳や夏正装の運転手/上島祥子
42.時が止る朝の夏雲真っ白に/髙橋句美子
【髙橋句美子特選/7句】
08.残照の空へとあがる遠花火/多田有花
まだ暮れきらぬ空に遠くで花火が上がっているのが見える。残照と、おそらく時間差で聞こえてくる花火の音の組み合わせが、より一層感傷的にさせる。(友田修)
入り日の明るさが残る空に小さく花火が見えた瞬間 全ての意識が夜空へと向けられる。美しい一瞬ですね。(上島祥子)
遠くから眺める花火のやわらかい光が感じられます。夏野始まりを感じます。(髙橋句美子)
26.紫陽花の彩(いろ)濃くなりぬ青き空/友田修
紫陽花の花の色が日を追うごとに白から赤や青に変化して彩りが濃くなりました。それが晴天の青空を背景とすることによって、一層くっきりと美しく見えました。その鮮やかな情景が目に浮かびました。(土橋みよ)
32.柿の花いつしか小さき青き実に/藤田洋子
柿の花は小さくて目立ちませんが、気づかぬうちに季節が移ろい、「いつしか」青い実になっていました。穏やかな自然の時の流れの中にある生命の営みに対する感慨に共感いたしました。(土橋みよ)
34.吾子の蹴り日に日に強く夏の夜/西村友宏
赤ちゃんを家族に迎え、足を強く蹴ることに成長を喜ぶ男親の深い愛情が伝わります。一読して自然と笑がこぼれます。 (上島祥子)
47.青梅にまだ残りある陽のぬくみ/川名ますみ
5月から6月に梅の実は急速に育ちます。その梅に夕方の日が射して温みのある梅をもぎ取る楽しさがあふれ出ています。素敵な御句です。(小口泰與)
13.あめんぼう水速ければ流れゆき/髙橋正子
18.境内の青梅成りて手を合わす/土橋みよ
【入選/17句】
03.睡蓮や忽と水泡の沸き出でし/小口泰與
睡蓮の浮かぶ静かな水面に突然水泡が現れました。水中の生物の運動によるものでしょうか。呼吸や光合成でしょうか。有機物の分解でしょうか。いずれにしても何らかの生命によって生まれたものと思われます。一瞬の情景に自然の奥深さが感じられました。(土橋みよ)
07.雨音を透かして響く時鳥/多田有花
初夏になると飛来して夏を告げてくれる時鳥、その声は大きくよく響きます。雨の降る静けさの中、いっそう澄んだ時鳥の声が聞こえてくるようで、梅雨の始まりを感じさせてくれます。(藤田洋子)
10.紫陽花や妻の笑顔と陽の光/高橋秀之
陽光の中、奥様の明るい笑顔に、ひときわ鮮やかな紫陽花の咲く状景です。作者の晴れやかな心情が明るく伝わります。(藤田洋子)
16.肩に乗り伸びする子の手にさくらんぼ/土橋みよ
さくらんぼに心躍る子供の無邪気で微笑ましい素敵な日常の一コマが浮かびました。 (西村友宏)
20.病室へ初鮎の膳声ともに/柳原美知子
ご療養中なのでしょうか。病室でありながら、運ばれる初鮎の膳。聞こえてくる声も優しく、季節のものをいただくひと時に、心なごみ励まされます。ご快癒、心からお祈りいたします。(藤田洋子)
31.降り出して梅雨に入る日の雨の音/藤田洋子
梅雨入りの頃の景色と心境が見事に織り込まれ詠まれています。このころは雨が降り出せば「そろそろ梅雨だな」と思います。梅雨入りという正式な区切りを受けての心持の変化です。 (多田有花)
35.大仕事終えて仰げば若葉風
仕事に集中し一段落したあとに、若葉のきらめきを運ぶ風に気づく。屋外での大工仕事であろうか。夏が今日も近くまで訪れているのだ。(弓削和人)
45.夏シャツの腕まくりあげ山手線/弓削和人
薄暑の頃の感覚ですね。まだ半袖には少し早い気もする、特にビジネスマンとあっては尚更です。晴天で外に出れば汗がにじんできます。袖のボタンをはずしてロールアップ。 (多田有花)
46.柳の芽濠辺にひかり揺らしたり/川名ますみ
濠端といえば柳。その柳の芽という小さな動きが濠の水に映る光を揺らすように見える。夏の晴れの日の光景が浮かんできます (高橋秀之)
※ちなみに、「柳の芽」は春の季語です。(髙橋正子)
48.実梅もぐ手応えかるし実の重し/川名ますみ
梅をもぐときの掌の感覚を繊細にとらえられています。その微妙な感覚の変化、指への感覚の軽さ、そして掌に落ちた実の意外にずっしりとした重さ、その対比が見事です。 (多田有花)
06.黒蟻のためらい走る日差しかな/桑本栄太郎
22.鷺草や雨の合間に飛ぶ構え/廣田洋一
23.俗世とは縁を切りたる花菖蒲/廣田洋一
24.雨降りて空を取り込む紫陽花かな/廣田洋一
25.朝の陽を受け透き通るさくらんぼ/友田修
28.やわらかき足湯の音に浸る初夏/吉田 晃
36.夏服を色とりどりに干す晴天/西村友宏
■選者詠/髙橋正子
13.あめんぼう水速ければ流れゆき
水面を軽やかに動くあめんぼう、その観察眼に感じ入ります。水の流れの速さに応じて身を任すあめんぼうに、まるで生きる術を教えられるようです。 (藤田洋子)
高橋信之著「子規の写生論」で信之先生はこう述べておられる。俳句がリアリズムの文学であるとするならば、それは、ヨーロッパの社会的実証主義的リアリズムとは違い、俗世間を抜け切ったところのリアリズム(現実でありかつ真実である)世界、つまり個人の自由でひろぴろとした内面における真実を詠いあげるものなのである。
中略・・・・詩人の心の真実を詠いあげたものなのである。また臼田亜浪先生は、「まこと」と言っておられる。この句を見た時、このことを思い浮かべた。(吉田 晃)
14.あかるき夜わが影踏みて蛍狩
満月の夜、蛍狩りに出かけられました。地上に影ができる程の明るい月の光。その中で無数に飛び交うのか、あるいはちらほらと飛ぶのか、蛍の光。その取り合わせの情景が目に浮かびます。(多田有花)
15.青蛙煙れる月に鳴きとおす
■選者詠/髙橋句美子
40. 更衣小さな袖を洗う朝
赤ちゃんも早くも更衣の季節となり、可愛い夏衣に身を包み大きくなりました。これまでの小さな衣のいたいけな袖を洗いながら、成長を喜び、母としての万感の思いで迎える爽やかな夏の朝です。(柳原美知子)
42.時が止る朝の夏雲真っ白に
夏の朝、空を見上げた時の一瞬の爽やかな情景がまっすぐに詠われていて、強く印象に残りました。著者の明るい心持が伝わってくるようです。 (土橋みよ)
41.紫陽花の星散らばせ花開く
互選高点句
●最高点句(6点/同点2句)
13.あめんぼう水速ければ流れゆき/髙橋正子
47.青梅にまだ残りある陽のぬくみ/川名ますみ
集計:髙橋正子
※コメントのない句にコメントをよろしくお願いします。思ったこと、感じたこと、ご自由にお書きください。
コメント
コメント
31.降り出して梅雨に入る日の雨の音/藤田洋子
梅雨入りの頃の景色と心境が見事に織り込まれ詠まれています。
このころは雨が降り出せば「そろそろ梅雨だな」と思います。
梅雨入りという正式な区切りを受けての心持の変化です。
45.夏シャツの腕まくりあげ山手線/弓削和人
薄暑の頃の感覚ですね。
まだ半袖には少し早い気もする、特にビジネスマンとあっては尚更です。
晴天で外に出れば汗がにじんできます。袖のボタンをはずしてロールアップ。
48.実梅もぐ手応えかるし実の重し/川名ますみ
梅をもぐときの掌の感覚を繊細にとらえられています。
その微妙な感覚の変化、指への感覚の軽さ、そして掌に落ちた実の意外にずっしりとした重さ、その対比が見事です。
コメント
07.雨音を透かして響く時鳥/多田有花
初夏になると飛来して夏を告げてくれる時鳥、その声は大きくよく響きます。雨の降る静けさの中、いっそう澄んだ時鳥の声が聞こえてくるようで、梅雨の始まりを感じさせてくれます。
10.紫陽花や妻の笑顔と陽の光/高橋秀之
陽光の中、奥様の明るい笑顔に、ひときわ鮮やかな紫陽花の咲く状景です。作者の晴れやかな心情が明るく伝わります。
20.病室へ初鮎の膳声ともに/柳原美知子
ご療養中なのでしょうか。病室でありながら、運ばれる初鮎の膳。聞こえてくる声も優しく、季節のものをいただくひと時に、心なごみ励まされます。ご快癒、心からお祈りいたします。
お礼
正子先生、句美子様、友宏様、「6月月例ネット句会」今月もお世話になり大変ありがとうございました。
「柿の花」の句を句美子様の特選に選んでいただきありがとうございました。同句に、選句いただきました秀之様、ありがとうございました。
「梅雨に入る」の句を選句いただきました栄太郎様、有花様、祥子様、ありがとうございました。
コメント
29.杜若水面に我のゆく影と/吉田 晃
現では杜若と自分は距離がありますが、水鏡に共に映る像が儚い美しさを感じます。
34.吾子の蹴り日に日に強く夏の夜/西村友宏
赤ちゃんを家族に迎え、足を強く蹴ることに成長を喜ぶ男親の深い愛情が伝わります。一読して自然と笑がこぼれます。
選句を間違えました。08が2回打たれていて09でした。34を加えます。
お礼
正子先生
「御木曳や夏正装の運転手」を銅賞/3句にお選び頂き丁寧な句評と解説を有難うございました。6月8日に第64回式年遷宮御神木奉迎送の御木曳が市内で行われましたので見に行きました。普段の祭りの様子とは全く違い御神木をお迎えする畏まった気持ちに辺りが包まれていました。御神木は大型トラックで運ばれますがそれも磨き上げらて、運転手も真っ白なシャツネクタイ姿でその様子に改めて格式の高さを思いました。
コメント
03.睡蓮や忽と水泡の沸き出でし
睡蓮の浮かぶ静かな水面に突然水泡が現れました。水中の生物の運動によるものでしょうか。呼吸や光合成でしょうか。有機物の分解でしょうか。いずれにしても何らかの生命によって生まれたものと思われます。一瞬の情景に自然の奥深さが感じられました。
26.紫陽花の彩(いろ)濃くなりぬ青き空
紫陽花の花の色が日を追うごとに白から赤や青に変化して彩りが濃くなりました。それが晴天の青空を背景とすることによって、一層くっきりと美しく見えました。その鮮やかな情景が目に浮かびました。
32.柿の花いつしか小さき青き実に
柿の花は小さくて目立ちませんが、気づかぬうちに季節が移ろい、「いつしか」青い実になっていました。穏やかな自然の時の流れの中にある生命の営みに対する感慨に共感いたしました。
お礼
正子先生、句美子様、友宏様
句会を開催して戴き有難うございます。
正子先生、句美子様には拙句を特選句と入選句に選んで戴き有難うございます。「肩に乗り」の句に対して、友宏様には温かいコメントを、また、秀之様には選を頂きまして感謝申し上げます。
お礼
正子先生、6月月例ネット句会を開催いただきありがとうございます。
句美子様、友宏様、お世話になりありがとうございます。
「08.残照の空へとあがる遠花火 」を
金賞ならびに正子先生、句美子様の特選7句にお選びいただきありがとうございます。
友田修様、選とコメントを、 上島祥子様、選をいただきありがとうございます。
5月の最終週の週末思いがけず遠くで花火が上がっているのが見えました。
酷暑の時期よりも今頃の方がむしろ花火を楽しめるようになっているのかもしれません。
「09.水入れてひと日代田の澄みにけり 」を
銅賞ならびに正子先生特選7句にお選びいただきありがとうございます。
桑本栄太郎様、選とコメントをいただきありがとうございます。
自宅の周囲は6月に入って田植えが始まりました。
水が入って濁っていた田が翌日には澄んで空を映し、今頃ならではの景色です。
「07.雨音を透かして響く時鳥 」を入選句にお選びいただきありがとうございます。
土橋みよ様、 川名ますみ様、 柳原美知子 様には選を、藤田洋子様にはコメントをいただきありがとうございました。
時鳥の声はよくひびきます。五月ごろの渡来したばかりのころは特にそれを感じます。
御礼他
高橋正子先生
多忙の所、6月度花冠月例ネット句会をご開催頂き、大変有難うございました!!。
「黒蟻のためらい走る日差しかな」の句を入選句にお選び頂き、大変有難う御座います!!。又、同句に弓削様、小口様より貴重なる選を頂戴しまして大変有難う御座います!!。
梅雨に入り、今後益々暑さが厳しくなることが予想されます。正子先生を初め、会員の皆様、どうぞご健勝でありますよう!!。
お礼
正子先生、句美子様、友宏様、6月月例ネット句会を開催いただき、ありがとうございました。
「青嶺」の句に銀賞を賜り、温かい励ましのご句評もいただき、大変嬉しく、感謝申しあげます。
「初鮎」の句も入選句にお加えいただき、ありがとうございました。
ますみ様、洋子様には選と温かいコメントを、みよ様、友宏様、晃様には選をいただき、お礼申しあげます。大変励みとなりました。
1週間前に退院し、自宅療養の日々で、快方にむかっております。正子先生はじめ皆様のお心遣いに感謝申しあげます。季節の変わり目の折、皆様もくれぐれもご自愛ください。
お礼
正子先生 句美子様 友宏様 6月月例ネット句会を開催いただきありがとうございました。
御三人が御忙しい中ご尽力いただきまして有り難く感じております。
赤ちゃんの事を詠まれた句はほのぼのとした気持ちになりますのでこれからも楽しみにしています。
お礼
正子先生、句美子様、友宏様、6月月例ネット句会を開催いただき、ありがとうございました。正子先生、句美子様には入選句、特選句に選んでいただきありがとうございます。また土橋様にはうれしいコメントをいただきました。ありがとうございます。
お礼
正子先生、6月の月例句会を開催いただきまして、ありがとうございました。
句美子さま、友宏さま、句会管理をいただき、お世話さまでございます。
この度は「青梅に」の句に銀賞と句美子さまの特選を賜り、お礼申し上げます。泰與さまには選とコメントを、有花さま、祥子さまには選を頂きまして、嬉しく存じます。
「柳の芽」の句には、入選と秀之さまの選とコメント、みよさまの選を頂戴し、ありがとうございました。季節が遅れての投句となり、失礼いたしました。
また「実梅もぐ」の句に、入選と晃さまの選、有花さまのコメントを頂きまして、感謝いたします。嬉しゅうございます。
お礼
髙橋正子先生、6月月例ネット句会を開催いただきありがとうございました。
髙橋句美子様、西村友宏様、お世話になりありがとうございました。
藤田洋子さま
紫陽花や妻の笑顔と陽の光の句に選とコメントをありがとうございました。
来週から一気に活の暑い時期になりそうです。みなさま、健康に留意してご自愛ください。