1月17日(月)

 震災記念日
★心臓の芯を冷やして霙降る  正子
平成7年1月17日、未曾有の被害をもたらした阪神大震災。一読して、霙降る底知れぬ冷気に、身も心も包まれ、寒気まさに極まります。非情な震災へ込められた深い思いに、16年目の今、あらためて心動かされます。(藤田洋子)

○今日の俳句
一路澄み石鎚見ゆる寒の晴/藤田洋子
行く手の一路の道が澄んで、その先に雪を冠った石鎚山が見える。寒晴れがくれたすっきりと、晴れやかな景色。(高橋正子)

○慶応大学日吉キャンパスの吟行
昨日は、この冬一番の寒波。慶応大学日吉キャンパスの吟行に出かける。九時東横線日吉駅で待ち合わす。参加者は、風邪の流行もあって信之先生と私以外は、結局小西宏さんお一人となった。宏さんは、帽子を冠って、完全装備。今日の冷たさには、帽子が欲しかった。日吉キャンパスの銀杏並木の坂を登り、右手の競技場を上から眺める。小学生の低学年だろう、ラグビーボールのようなボールを持って、練習している。時々後ろ向きに走る練習をする。宏さんがアメリカンフットボールですよ、と教えてくれる。

幼らのフットボールに寒朝日 正子

競技場の空は澄み切った青空。遠く南に白い雲の塊。寒さが身に凍みる。坂を登り慶應高校の横を通って、まむし谷に下りる。秋に来たときは、木々が茂り、虫が鳴くだけの小暗い道だったが、すっかり落葉して、太陽がさんさんと降り注いでいる。下のテニスコートでは、女子テニスの部員たちがショートパンツで練習に余念が無い。「庭球部」の部室看板の字がよい感じである。そばに自動販売機があって、温かい缶コーヒーを手に入れ、なんとか暖をとる。あまりの寒さにマフラーを真知子巻きにしてしまった。さらに下って、保福禅寺に着く。禅寺というのは、裏庭が立派で、表庭はほとんど何も無い広場。散った山茶花の花びらが凍っている。お寺を出て、新幹線の高架をくぐり、矢上川に出る。

寒の日の当たる橋あり渡りたし 正子

矢上川の橋からは、鴨が泳ぐのが見える。

波立てば鴨の勇みて泳ぎけり  正子
凍みる日のみどりかがやく鴨の首 正子 
水深のふかく澄みおり寒の川 正子

一羽だけ、黒と白の珍しい水鳥。餌を撒く人がいて、鳩、雀、鴉、それに川には鴨といった光景を見る。

寒雀ころころ皆影を持ち 正子

鵜も一羽だけ杭に止まっている。橋を渡りまた日吉側へ。真向かいに青銅の屋根が見える。熊野神社。そこへ参ることにしてのぼる。きれいな、こじんまりとした神社で、背に日吉の山を負い、南からの日差しを受けて暖かい。浅間神社もとなりにある。御手洗で手を清め、柄杓も清めて、お賽銭をあげ、狛犬の据え石の日向に座りようやく句を作る気になった。ここで先ほど見た景色を思い出しながら句を作る。ふと目を横に向けると、水仙。青空に鳥たち。冬菜の畑が目の下に。

水仙に影と日とあり株立ちに 正子
寒空の青に鳥らの飛ぶ自由  正子
裸木に雲は水色日をふくみ 正子
ペンの影句帳の生まる日向ぼこ 正子
寒中の風にあそべる注連の藁 正子
見下ろせる冬菜畑の菜がそよぎ 正子

熊野神社をあとに、句会場のファミリーレストランのジョナサンへ。十二時少し前の到着。席を得て、七句出句。宏さんの司会で食事が来るのを待ちながら句会。信之先生の句評では、今日の句は、下五が強くなっているそうだ。たしかに、努力の甲斐あってか?下五が自分の思うところで、出来やすくなった。三時ごろ終了。日吉駅で解散。実に寒い一日であった。

吟行に凍てし身に湯のふかぶかと 正子

1月16日(日)

 早稲田大学
★学生喫茶ジャズと会話と暖房と  正子
心地よく効いた暖房の喫茶店で流れ来るテンポ感のあるジャズと若人たちの会話。若さの特権、未来に対する大きな希望と展望を語っているのでしょう。前書がきで早稲田大学とありますが、かって作者自身が経験した若き日の風景に重ね合わせて詠まれたのではないでしょうか。(古田敬二)

○今日の俳句
寒禽の影滑る野に鍬を振る/古田敬二
野に懸命に鍬を振っていると、寒禽の影が滑っていった。土と我との対話があって、寒禽がそれに色を点じて景がたのしくなった。添削は、「冬禽」を「寒禽」として、鳥のイメージを際立たせ句に緊張感をもたせた。(高橋正子)

1月15日(土)

★わが母はわれに遠きや餅送り来  正子
お母様はもはや遠い人となられ、もう会う事も出来なくなってしまった。しかし、作者の心の中には今尚温かい優しいお母様は生き続けていらっしゃるのである。その懐かしい実家から此のたびお餅が届いた。送って下さったのは恐らく作者の実家を継いでいらっしゃるご家族からのものであろう。後を継がれたご家族の温かい気持と作者の感謝の気持も合わせ伝わる「家族」の心温まる御句です。(佃 康水)

○今日の俳句
牡蠣揚がる瀬戸の潮(うしお)を零しつつ/佃 康水
広島は牡蠣の産地として知られているが、牡蠣の水揚げを詠んだ句。潮を零しながら、しかも瀬戸の、と具体的な詠みに情景がくっきりと浮かび上がり、臨場感が出た。添削は、元の句の「季重なり」と「零しつ」の「つ」の使用間違いを直した。(高橋正子)

1月14日(金)

★水仙の香をすぎ山路急となり  正子
山裾の農家などで畑の片隅にによく水仙が植えられている。水仙の色や香を愛でながら山路にかかると水仙がなくなった辺りから上り坂が急になってくるという、誠に鄙びた田舎の情景がさらりと詠まれています。(河野啓一)

○今日の俳句
さわさわと光と影を水仙花/河野啓一
水仙に日の光りが当たると、花にも葉にも影ができる。日のあたるところはより輝いて、当たらないところは静かに深く影ができる。その光と影が「さわさわ」とした印象なのは、水仙の姿から受け取られるものであろう。(高橋正子)

1月12日(水)

★枯草を踏みおり人に離れおり  正子
集団でいた中から離れておられるのか、それとも最初からひとり出てこられたのか、いずれかはわかりませんが、人と離れて己の心と向き合っておられるように感じられます。枯草がすでに次の種を準備しているように、それは充実のひとときであるかもしれません。(多田有花)

○今日の俳句
髪洗う耳に木枯し届きけり/多田有花
髪を洗うときに耳の辺りが一番ひんやりするが、そこに木枯らしが吹く音が届いた。「耳に届く」は、リアル。季語は「木枯らし」。(高橋正子)

1月11日(火)

 石鎚山
★雪嶺にこだま返すには遠き  正子

○今日の俳句
無造作に一輪挿しの野水仙/渋谷洋介
野水仙を、珍重がらず、「無造作」に一輪挿しに活けたところがよい。野水仙のあるがままの姿、野にある風情が見えて、句が生きている。(高橋正子)

1月10日(月)

★冬ばれの空の向こうに何もない  正子
冬晴れの日、どこまでも澄み切った空は、空のその先まで全てを見せてくれるようです。向こうに「何もない」ことを確信できるほどの透徹した空が快く、また、気持が引き締まります。(川名ますみ)

○今日の俳句
雪礫空に返したくて放る/川名ますみ
雪を礫にして、礫にしてみると、それを思いっきり空へ放りたくなる。あれほどに遠く高い空へ返してやりたくなる。そうすると、思い切り心が解放されそう。若々しい句。(高橋正子)

1月9日(日)

★火が焼ける餅のきよらを身に映す  正子
昔はよく火鉢の炭火で餅を焼いたものです。網の上の餅が焼けるさまをじっと見つめ待っている。ひっくり返された餅はやがてぷっくりと膨れ上がり、真っ白な、透明に光る餅質が姿を現す。この清く美しい餅の姿は、いつのまにか見る者の身に照り映え、心を清らかにしてくれます。(小西 宏)

○今日の俳句
追羽根の澄みたる響き青空へ/小西 宏
追羽根を打つ音が、響いて青空へ抜けるしずかで、のどかな正月。「澄みたる響き」が、よく晴れ渡った青空を思い起こさせている。(高橋正子)

1月8日(土)

★初旅にみずほの山の青を飛び  正子
青々とした山々を見下ろして初旅の気分をを満喫されたことでしょう。かつて米国テキサス上空を飛べども飛べども点在する森しかなかったことを思い出しました。 (矢野文彦)

○今日の俳句
出会いたる冬三日月の大きさよ/矢野文彦
思いがけずも冬三日月に出会う。冬の寒さに磨かれ、澄んで、ましてや大きな三日月であることの驚き。(高橋正子)

1月7日(金)

★七草の書架のガラスの透きとおり  正子
正月七日、ようやく日常に戻る七草のころ、きれいに磨かれた書架のガラスに、整然と並ぶ書物が見えるようです。年の始めの清々しさとともに、清潔感漂うお暮らしもうかがえます。(藤田洋子)

○今日の俳句
刻ゆるやかに七草粥の煮ゆるなり/藤田洋子
主婦にとって、正月はなにかと落ち着かなく過ぎるが、七草のころになると一段落する。ふつふつと煮える七草粥に、「刻ゆるやかに」の感が強まる。(高橋正子)

○七草を刻めば芹の香が立ちぬ  正子
 七草のはこべはこべら春の香よ 正子
 七草粥うましと食べて出勤す  正子