10月9日(火)

★辻に出て通う秋風身にまとう  正子
四つ角に出ると 冷たい秋風が冷気を加え身に沁みて、そこはかとなく哀れを誘いますね。(小口泰與)

○今日の俳句
嬬恋や窓いっぱいの星月夜/小口泰與
嬬恋の秋の夜は、もう寒さを覚えるほどであろう。窓いっぱいの星月夜に新たな感動が湧く。(高橋正子)

○鵯花(ヒヨドリバナ)

[鵯花/横浜・四季の森公園]

★鵯花ひよどりはもう山に居ず/青柳志解樹
★谷戸暮れてひよどり花の薄明かり/光晴
★鵯花ほつほつ咲きて日照雨(そばえ)くる/台 迪子

★山腹のヒヨドリバナの咲きかかる/高橋正子
★鵯の声が響けるヒヨドリバナ/高橋正子

 ヒヨドリバナ(鵯花、学名:Eupatorium chinense)とはキク科フジバカマ属の多年草。Eupatorium:フジバカマ属、chinense:中国の、Eupatorium(ユーパトリアム)は、紀元前1世紀の小アジア地方の「ユーパトール王」の名前にちなんだもの。原産地は中国で、日本各地の林道の脇、草原や渓流沿いなどの日当たりの良い場所に自生する。高さは1mほど。茎葉は細長く立ち上がり、葉は対生し、あらい鋸歯がある。花期は8〜10月頃。ヒヨドリバナは、無性生殖型と有性生殖型があり、形態に変異が多い。和名の由来は、ヒヨドリが山から下りてきて鳴く頃に開花することからヒヨドリバナと呼ぶ。
 ヒヨドリバナは、淡紫色または白色の小さな筒状花が多数集まって、散房状に咲かせる。茎は、紫色の斑点や短毛があります。葉はざらざらしており、短い葉柄があります。葉は、対生して付きます。 藤袴(フジバカマ)やヨツバヒヨドリ(四葉鵯)、サワヒヨドリ(澤鵯)に似ており、見分け難い。見分け方は、フジバカマの葉は深く3裂しますが、ヒヨドリバナ(鵯花)やヨツバヒヨドリ(四葉鵯)の葉には切り込みがない。また、ヒヨドリバナの葉が対生するに対して、ヨツバヒヨドリ(四葉鵯)の葉は3~4枚輪生(茎の節に数枚の葉が集まって付く)する。さらに、ヒヨドリバナは道端などに生えるに対し、フジバカマは河原に生える。 一般名:ヒヨドリバナ(鵯花)、別名:サンラン(山蘭)。

◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

10月8日(月)

★朝はまだ木犀の香のつめたかり  正子

○今日の俳句
直と立つ嵐の前の曼珠沙華/矢野文彦
曼珠沙華は、葉もなく茎がすっと伸びている。嵐の前には、その茎が「直と立つ」。それは台風を待つ作者の神妙な心理でもあろう。(高橋正子)

○野牡丹

[野牡丹/横浜日吉本町]           [野牡丹/ネットより]

★紫紺とは野牡丹の色ささやきに/松田ひろむ
★野牡丹を夢見顔して捧げきし/澁谷道
★野牡丹の美(うまし)風湧くひとところ 一葉
★野牡丹の濃ひ紫に惹かれおり 文子

 松山市に女流画家のグループがあって、野牡丹を好んで描いていた。それで、展覧会などでよく目にしたが、女流画家が好むような花である。通りすがりの家庭の庭にも植えてあった。大方は、そこの主婦の好みであろう。横浜に引っ越してからは、鎌倉の円覚寺の野牡丹が記憶に新しい。野牡丹を見ていたら、参禅の僧の一団が行きすぎた。なんだか、不思議な光景だった。
 円覚寺二句
★禅寺に紫紺野牡丹咲きて立つ/高橋正子
★参禅へ僧ら野牡丹過りたる/〃
★野牡丹を画布に留めて女流画家/〃

 ノボタン科 (Melastomataceae) は、双子葉植物に属し、約180属4400種の大きい科であるが、ほとんどが熱帯・亜熱帯にのみ分布する。ブラジル地方原産。 日本ではノボタン(野牡丹)などの4属7種が南西諸島や小笠原諸島に(ヒメノボタンは紀伊半島まで)分布する。中南米原産のシコンノボタン(紫紺野牡丹)は紫色の大輪の花が美しいのでよく栽培される。おもな属にノボタン属 Melastoma・シコンノボタン属 ibouchina・ヒメノボタン属 Bertolonia・ミヤマハシカンボク属 Blastus・ハシカンボク属 Bredia・ メキシコノボタン属 Heterocentron・オオバノボタン属 Miconia・ヒメノボタン属 Osbeckiaがある。
 草本または木本、つる性のものもある。葉は対生。花は子房下位で放射相称、萼片と花弁は普通4または5枚、雄蕊はその2倍ある。果実はさく果または液果。夏から11月頃まで長いあいだ開花。紫色がきれいな花。牡丹のように美しいのでこの名になった。牡丹には似ていない。 紫のものをよく見かけるが、紫の他、赤、白がある。ふつうの「野牡丹は、まんなかのしべの一部が黄色いが、よく栽培される紫紺野牡丹(しこんのぼたん)は、しべは全て紫色である。
11月16日の誕生花は紫紺野牡丹で、その花言葉は「平静」。

◇生活する花たち「だいこんそう・山ほととぎす・曼珠沙華」(東京白金台・国立自然教育園)

10月7日(日)

★みずひきの朱が試験期の図書館に  正子
 みずひき草は、俳句を作るようになって、自然に知った花だと思う。上のみずひきの句は、大学生のときの句だが、図書館にさりげなく活けてあった。大学構内のどこかにあるのを司書の方が摘んできたのかもしれない。砥部の家の庭にも植えたのか、自然に生えたのかわからない形で、初秋のころから赤い糸を引くように咲いた。みずひき草が咲くと、やはり活けたくなって、切り取って玄関に活けた。みずひき草は、「澄んだ空気」とよく似合う。だから、空気と似合うように活けて自己満足する。
 みずひき草には赤だけでなく、白い「銀みずひき」というのもある。蕾のときは、白さがよくわからないが、先日は、買い物の途中で、あの細いみずひきが満開になっているのを見た。それだけで済ますにはもったいないので、家に帰りカメラを持って出掛けた。小さな泡の粒粒が空気に浮かんでいるように見えたが、これもきれいだ。(自句自解)

○今日の俳句
★水滴に秋の日かがやきミント摘む/高橋句美子
ミントの葉に如露の水か、水滴が付いて、それを静かな秋の日が輝かせている。そのきれいな水滴の付いたミントの葉を摘むゆっくりとそして爽やかな時間が若々しく詠まれている。(高橋正子)

○あざみ

[野薊/横浜・四季の森公園]        [野薊/群馬・尾瀬ヶ原]

★野薊の野に散らばりて自由得し/高橋信之
★野あざみの棘に刺さるは秋さびし/高橋正子
野あざみは、春の季語だが、まれに10月まで咲いているものもあり、この句は、そういった「野あざみ」を詠んだ。下五の「秋さびし」が効いた。作者の主情がいい。(高橋信之)

ノアザミ(野薊、学名: Cirsium japonicum)はキク科アザミ属の多年草。茎の高さは0.5-1mになる。葉は羽状に中裂し、縁にとげがある。茎葉の基部は茎を抱く。花期にも根生葉は残っている。花期は5-8月で、アザミ属の中では春咲きの特徴をもつが、まれに10月まで咲いているものも見られる。花(頭状花序)は筒状花のみで構成されており、直径は4-5cm。花の色は紫色であるが、まれに白色のものもある。花を刺激すると花粉が出てくる。総苞はよく粘る。アザミ属は、分布域が比較的広いものと極端に狭い地域固有種がある。ノアザミの分布域は広く、日本の本州、四国、九州の草原や河川敷に見られ、アジア大陸にも変種が分布する。
http://kakan.info/photo/201209/120924a2.jpg

◇生活する花たち「小紫・銀木犀・菊」(横浜日吉本町)

10月6日(土)

★鵙猛りそれより空の真っ青に  正子
鵙が高鳴きする季節になりました。空気は澄み空は高く、いや増す秋気の中に響く鵙の高らかな声、秋の深まりを感じる声です。(多田有花)

○今日の俳句
青空に雲のいろいろ秋高し/多田有花
「秋高し」がよい。いろいろの雲の美しさが、高い青空によって印象付けられる。(高橋正子)

○藪豆(やぶまめ)

[やぶまめの花/横浜・四季の森公園]   [やぶまめの花/横浜・四季の森公園]

★藪豆の花と実を見る快活に/高橋信之
★秋の茂りやぶまめの花絡みつき/高橋正子

 ヤブマメは、マメ科ヤブマメ属のツル性一年生草本で、学名は、Amphicarpaea edgeworthii var japonica。北海道から九州、朝鮮から中国に見られ、林縁や草原などに生育する。夏から秋にかけて花を咲かせ、実をつけるが、地中にも閉鎖花を付ける。茎の一部から地中に枝が伸び、土の中で果実を稔らせる。この果実の中には種子は1つしかなく、地上部に形成される種子よりも大きい。地上部の種子は有性生殖であるので多様な性質を持っており、新たな場所へと散布されることを期待している。地下に形成した種子は、単為生殖であるので自らと同じ遺伝子を持っており、まずは来年への存続を確保するという戦略である。このような戦略は、来年もヤブマメが生育可能な立地条件であることがかなりの確度で予想される場合に成り立つ。ヤブマメの生育地は、そのような、来年も一年性のツル植物が生育可能な立地である。 茎は細く,下向きの細い毛がある。葉は3小葉に分かれた複葉で,基部に托葉がある。頂小葉は広卵形または卵形で,長さ3~6cm。2型花をつける。開花する花は8~10月に葉腋(ようえき)から出る短い総状花序に2~8個がつき,紫色の蝶形花で,長さ15~20mm。閉鎖花は花弁がなく,葉腋に1個だけつく。果実は多くは閉鎖花から熟し,地上と地中とにできる。
 北海道では山菜として食され、栽培化も試みられた比較的身近な植物になっている。特にアイヌの人たち好まれ、味は”甘栗”のようで炊き込みご飯や煮物にした『アイヌ民族博物館だより』。栄養成分分析によるとカリウムが多く含まれ、ついでリン、マグネシウムほかとなっている『伝承有用植物』。アイヌの人たちがいつ頃から食用にしていたのか分からないが、万葉集(4252)では別れがたい防人の想いをノイバラに絡みつくマメの姿に重ねて歌っており、このマメはヤブマメとされ、昔からその存在は知られていたようだ。

◇生活する花たち「露草・藪茗荷の花と実・薄」(東京白金台・国立自然教育園)

10月5日(金)

★いっせいに月を待つべく曼珠沙華  正子
群れて咲く曼珠沙華。花はすべて上を向いて何かを待つ形である。夕方の曼珠沙華であろう。まるでこれから登る月を待つかのようである。月の光の中で幻想的に群れ咲く花を想像させられる句である。(古田敬二)

○今日の俳句
★御岳を離れて秋の雲となる/古田敬二
木曽の御岳を少し離れて雲がある。離れることで、この雲は、「秋の雲」となって、きれいに浮かんでいる。秋の到来が、心澄んで伝えられている。(高橋正子)

○現の証拠(げんのしょうこ)

[げんのしょうこ/横浜・四季の森公園]         [げんのしょうこ/ネットより]

★うちかヾみげんのしょうこの花を見る/高浜虚子
★山の日がげんのしょうこの花に倦む/長谷川素逝
★手にしたるげんのしょうこを萎れしめ/加藤楸邨
★草掻き分けてげんのしょうこの花がある/高橋信之

★十月のげんのしょうこは可愛ゆしと/高橋正子
げんのしょうこは、ドクダミ、センブリなどの日本の3大民間薬として用いられる。戦後の四国に居たときのことだが、げんのしょうこを近くの空地などで採取、乾燥し、煎じて飲んだ。下痢の症状に効果があって、これも60年以上も昔の懐かしい思い出なのだが、その美しい花を見た記憶がない。げんのしょうこを「可愛ゆし」と見た率直な実感がいい。(高橋信之)

 げんのしょうこは、季語では夏。昨日10月5日、四季の森公園へ信之先生と行った。野外に出かけるときの服装は、家を出るとき少し薄着をして、涼しいくらい、寒いくらいで出かけるのが私の常。それに調整のきく服や手袋、マフラー、スカーフなどを持つ。それに山行きの服装を好んでいる。それ向きに繊維も新素材を使っているせいか、何年たっても痛みも少なく重宝している。
 四季の森には、いろいろ珍しいものも、そうでないものも咲いていた。げんのしょうこを林縁の落葉が積む中で見つけた。草丈10センチほどで、花も8ミリほど。小さかった。もう終わりなのだ。関東には白花が多いときくが、昨日も白花であった。民間薬として下痢止めに飲まれているそうだが、私は飲んだことはない。紅色にしろ、白色にしろ、可愛い花だ。
 昨日の四季の森公園は秋の花がいろいろと。吾亦紅、山とりかぶと、ノダケ、ヤブマメ、イヌショウマ、釣船草、黄釣船草、溝そば、水引草、ヒヨドリ草、彼岸花、白彼岸花、野菊(おもにはヨメナ)、葦の花、薄コスモス、キツネノマゴ(なぜマゴなのでしょう?)、アメリカセンダングサ、サンシュの実、それに林縁の縁の日陰にはきのこ類など。
 マユタテアカネという緋色のしっぽの赤とんぼ、馬追いが、ロープに止まって、カメラを近づけても飛び立たない。キリギリスがよく鳴き、つくつく法師が遠くから聞こえた。野鳥、これがなにかわかないが森に2,3種鳴くのが聞こえた。幸い昨日は、四季の森のスタッフのかたにし草の名前をいろいろ聞くことができた。山とりかぶとはこの山にたくさんあるとのこと。紫式部は見つけることができなかった。カワセミの飛翔も見た。

★かわせみ飛ぶ青の速さというべくに/高橋正子

 ゲンノショウコ(現の証拠 Geranium thunbergii)は、フウロソウ科の多年草。日本では北海道の草地や本州~九州の山野、また朝鮮半島、中国大陸などに自生する。生薬のひとつであり、植物名は「(胃腸に)実際に効く証拠」を意味する。玄草(げんそう)ともいう。茎は約30-40cmに伸び、葉は掌状に分かれる。紅紫色または白紫色の花は夏に開花し、花弁は5枚(紅紫花種は西日本に、白紫花種は東日本に多く見られる)。秋に種子を飛散させた後で果柄を立てた様が神輿のように見える事から、ミコシグサとも呼ばれる。近い仲間にアメリカフウロ、老鶴草などがある。
 ゲンノショウコはドクダミ、センブリなどと共に、日本の民間薬の代表格である。江戸時代から民間薬として用いられるようになり、『本草綱目啓蒙』(1803年)にも取り上げられた。現代の日本薬局方にも「ゲンノショウコ」として見える。但し、伝統的な漢方方剤(漢方薬)では用いない。有効成分はタンニン。根・茎・葉・花などを干し煎じて下痢止めや胃薬とし、また茶としても飲用する。飲み過ぎても便秘を引き起こしたりせず、優秀な整腸生薬であることからイシャイラズ(医者いらず)、タチマチグサ(たちまち草)などの異名も持つ。

◇生活する花たち「曼珠沙華・白曼珠沙華・げんのしょうこの花」(横浜四季の森公園)

10月4日(木)

★炊き上がる米の光りにぎんなん混ぜ  正子

○今日の俳句
花束を花瓶にほどく秋の夜半/安藤智久
花束をいただいた。帰り着いたのが夜となったのだろう。落ち着いてから、夜半に花束を花瓶に入れた。しっとりとした秋の夜半である。(高橋正子)

○野菊

[野菊/横浜・四季の森公園]         [野菊/横浜市港北区松の川緑道]

★撫子の暑さ忘るる野菊かな 芭蕉
★名もしらぬ小草花咲く野菊かな 素堂
★重箱に花なき時の野菊哉 其角
★朝見えて痩たる岸の野菊哉 支考
★なつかしきしをにがもとの野菊哉  蕪村
★足元に日のおちかかる野菊かな  一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな 夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香 前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり 原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址 杉田久女

 横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子
横浜市港北区の東急日吉駅の近くから下田町の街並みに添って「松の川緑道」がある。慶大グランドを抜けて行く緑道だ。句美子が慶大の学生時代にここで体育の授業を受けた。せせらぎに添う緑道には、水引、犬蓼、溝蕎麦、野菊などが自由に育ち、無理のない空間を作っている。緑道散策の途中、サッカーの練習風景を見るのも楽しい。ときにはグランドの学生が網の塀越しに挨拶ををしてくれる。大学教授退官の身であれば、昔を懐かしく思い出す。野菊も昔懐かしい秋の野草である。可憐だが、逞しい路傍の野草である。(高橋信之)

 野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
 野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本であるが、栽培種には形の変わったものもある。このような特徴のキク科植物は、非常に多い。ガーベラやヒマワリ、コスモスもそうである。しかしこれらの花が野生で存在しても野菊とは呼ばない。草の形で言えば、ヒマワリは大きすぎる。タンポポやガーベラのような、根出葉がロゼット状にあり、茎には葉がないものもそれらしく見えない。したがって、あまり背が高くならず、茎に葉がついた姿のものに限られる。また、アキノキリンソウのように頭花が小さいものもそれらしく見えない。さらに、菊と言えば秋の花であるから、秋に咲くものをこう呼ぶことが多い。
 一般に野菊と呼ばれるのは以下のようなものと思われる。キク属 Dendranthema キクと同属のものは日本に15種ばかりある。舌状花を持たない菊らしくない花もあるが、多くは野菊と言えるものである。株立ちになり、茎は立ち、あるいは斜めに伸び、葉を互生する。葉は丸みのある概形で、大きな鋸歯があったり、やや深く裂けるものが多い。どれも管状花は黄色、舌状花は白のものと黄色のものがある。 代表的なのは山野に生えるものでは白い花のリュウノウギク D. japonicum、黄色い花のシマカンギク D. indicum 、キクタニギク D. boleare 、海岸に生える白い花のノジギク D. occidentali-japonense 、コハマギク D. arcticum subsp. maekawanum などがあるが、特に最初の二つが標準的な野菊らしいものである。この属のものはキクと同属なだけに、菊らしいものが多いが、イソギク D. pacificum など、舌状花のない花をつけるものもある。さらに、種間の雑種も知られるのでややこしい。

◇生活する花たち「藻の花・萩・藪蘭」(鎌倉・宝戒寺)

10月3日(水)

★秋の潮満ち来る波の触れあいて  正子
海水浴の人たちで賑わった浜辺も今や人影はなく、秋は潮の干満の差も大きくなるといいます。ひたひたと満ちては引いてゆく海辺の景が、波の音、潮の香とともにたっぷりと伝わってきます。 (小川和子)

○今日の俳句
とんぼうの入りくる画廊開かれて/小川和子
画廊にとんぼうは入ってくるのに意外性がある。窓を開け放った小さな画廊であろう。自然に開け放たれ、自然光を入れ、とんぼうも迷い込むようなところで画を鑑賞するのもよいものだ。(高橋正子)

○釣舟草(ツリフネソウ)

[釣舟草/東京白金台・国立自然教育園]  [黄釣舟(キツリフネ)/横浜・四季の森公園]

★日おもてに釣船草の帆の静か/上田日差子
★無事祈る小さき岬宮釣舟草 千恵子
★釣舟草琵琶湖の風の吹くままに 善清
★川せせらぐに黄釣舟草の黄がまぶし/高橋信之
★釣船草秋風吹けば走るかに/高橋正子

 ツリフネソウ(釣船草、吊舟草、学名: Impatiens textori)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。ムラサキツリフネ(紫釣船)とも呼ばれる[3]。
東アジア(日本、朝鮮半島、中国、ロシア東南部)に分布する。日本では北海道・本州・四国・九州の低山から山地にかけて分布し、水辺などのやや湿った薄暗い場所に自生する。キツリフネとともに群生していることも多い。日本には同属では、ハガクレツリフネも生育している。草丈は、40-80 cmほどに生長する。葉は鋸歯(縁がギザギザになる)で、楕円形から広披針形、キツリフネより広披針形に近い傾向がある。花期は夏から秋(山地では 8月頃から、低地では 9-10月)。茎の先端部から細長い花序が伸び、そこに赤紫色で3-4 cmほどの横長の花が釣り下がるように多数咲く。稀に白い色の花がある。花弁状の3個の萼と唇形の3個の花弁をもち、距が長く筒状になっている。下の花弁の2個が大きく、雄しべが5個。その花が帆掛け船を釣り下げたような形をしていることや花器の釣舟に似ていることが名前の由来と考えられている。花の形はキツリフネに似るが、色が赤紫色であることと、花の後ろに伸びる距の先端が渦巻き状に巻くこと本種の特徴である。なお一般にツリフネソウ属の花は葉の下に咲くが、本種はその例外である。大きく深い花がたくさん咲き距の部分に蜜がたまり、主にマルハナバチなど大型のハナバチや、ツリアブ類などが好んで集まり、花粉を媒介する。
種子が熟すと、ホウセンカなどと同様に弾けて飛び散るように拡がる。
 キツリフネ(黄釣船、学名: Impatiens noli-tangere)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。その黄色い花と、後ろに伸びる距の先が巻かずに垂れることが、ツリフネソウとの明確な相違点である。

◇生活する花たち「金木犀・白曼珠沙華・曼珠沙華」(横浜日吉本町)

10月2日(火)

★円盤の刃に秋草のきらきら散る  正子
草刈機の円盤状の固い金属片にふれて、より対照的な秋草のしなやかさです。刈られながらも、飛び散る緑が鮮明で美しく、まだ伸びる勢いの秋草のありようが生き生きと爽やかに伝わります。 (藤田洋子)

○今日の俳句
幾重にも石積みの畑秋高し/藤田洋子
段々畑は、石を積み上げて猫の額ほどの畑を山頂へと幾段も作った。作物にやる水も下から桶で運びあげねばならず、日本の零細農業の象徴のような存在だが、その景観は美しい。秋空を背にして山頂までの石垣がまぶしい。(高橋正子)

○貴船菊

[貴船菊/横浜日吉本町]           [貴船菊/イギリス・コッツウォルズ]

★観音の影のさまなる貴船菊/阿部みどり女

「秀明菊」という名前を俳句では使いにくい。「秀明」という漢字が俳句的ではない。ことに「秀」が。したがって「貴船菊」を使うことになる。菊とは言え菊とは別の仲間。一重のものは、花の形が大ぶりながら可愛い。愛媛の砥部に住んでいたころ、近所の上品な夫人の家に一もと白があった。あちこちでも見るが、たいてい数本である。去年9月にイギリスに旅行したとき、コッズウォルズ地方の家々に咲きみだれていた。コッズウォルズで貴船菊に遇うとは、と驚いたのだが、しばらく見ているうちにそれがいかにもこの地方らしいと、納得した。大かたは、ピンク系であと少し白があった。ライムストーンの石壁によく馴染んでいた。コッズウォルズでも貴船菊は生活する花たちである。暮らしにも、家のたたずまいにも密着している。イングリッシュガーデンが日本でも一部で流行だが、一番は色合いが絵画的で、ゆっくりとした透明な時間が流れている。

★小さき村貴舟菊をどの家も/高橋正子

 秀明菊は貴船菊ともいう。俳句では貴船菊が多い。多く観られる京都洛北の貴船に由来する。ピンクの花弁は実は額片で中央の黄色は雄蕊、地下茎で増える。
 シュウメイギク(秋明菊、学名:Anemone hupehensis var. japonica)とは、キンポウゲ科の植物の一種。別名、キブネギク(貴船菊)。名前にキクが付くが、キクの仲間ではなくアネモネの仲間である。中国から古い時代に入ってきた帰化植物である。文献上では「花壇綱目」に「秋明菊」の名前で記載が成れていて、日本に定着していたことが窺える。中国では明代末の「本草綱目」には記載はなく「三才図会」に「秋牡丹」の名前で記載されるようになる。「秋牡丹」の呼称は貝原益軒も「大和本草」で使用している。以後日本の園芸書には「秋明菊」「秋牡丹」で紹介されることが多くなり、「しめ菊」「紫衣菊」「加賀菊」「越前菊」「貴船菊」「唐菊」「高麗菊」「秋芍薬」などの多様な別名で呼ばれることになった。花色は赤紫色であるが、近年、他種との交配品種が市販されるようになり、弁数が少ない品種や白色の品種が多く栽培されて名称の混乱が見られる。多年草で開花期は秋、高く伸びた花茎の上に大柄な花をつける。花は多数の赤紫色の花弁状の萼片が目立ち、本物の花弁はない。

◇生活する花たち「黄釣舟草・曼珠沙華・白曼珠沙華」(横浜・四季の森公園)

10月1日(月)

★刈り進む稲田の真っ赤なコンバイン  正子
コンバインの出現で農家の秋の風景がずいぶん変わったのではないでしょうか。稲刈りや稲扱ぎの作業は見ることができなくなりました。それに代わり、藁くずを吹き上げながらずんずんと前進していくコンバインの姿が新しい収穫の風景となりました。黄緑色の稲田を突き進む「真っ赤なコンバイン」が逞しく、鮮明です。(小西 宏)

○今日の俳句
ドングリの葉ごと落ちたり土に青し/小西 宏
大風が吹いて葉ごとドングリが土に落ちた。落ちたばかりのドングリの青さが土の色に対比されて際立つ。素敵な青だ。(高橋正子)

○第17回(15夜)フェイスブック句会入賞発表

[ご挨拶]
今夜の十五夜は強烈な台風17号が通り抜けて生憎の月見の句会となりました。皆様のところは、高潮や風雨の被害などございませんでしたでしょうか。台風が通り抜けてよい月が見られたところもあったようです。横浜は、心配したほど風雨も強くなく台風が通り過ぎたようです。台風の中の句会は落ち着かないものですが、それにも拘わらず、いつも通りに句会が進められ、日本の美し秋の風情を詠んだ句に出会えたのは、幸せでした。入賞の皆様おめでとうございます。互選では好きな句にコメントをつけていただき、ありがとうございました。リアルタイムで行われる句会の良さが発揮できて、多くの皆さんが共感された句もありました。「そう、そう。」というわけですが。ほとんどのところが無月ながら、ほのぼのとした十五夜の句会となったと思います。ご参加どうもありがとうございました。管理運営は信之先生、集計は洋子さんにお願いしたました。お世話になりました。スタッフの皆様にもコメントをしていただき、ありがとうございました。これで第17回フェイスブック十五夜句会を終わります。次回は、第18回フェイスブック10月句会を予定しています。(高橋正子)
http://www.facebook.com/kakan02

[金賞]
★耕せし畝照らしけり満月光/古田敬二
「耕し」は、美しいまでの人間の作業。昼間丁寧に耕された畝を満月が照らす。照らされた畑の畝が生むそれぞれの影もまた美しい。(高橋正子)
その他の入賞作品:
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d

○木犀

[金木犀/横浜日吉本町]           [銀木犀/横浜日吉本町]

★木犀の昼は醒めたる香炉かな 嵐雪
★木犀の香に染む雨の鴉かな/泉鏡花
★木犀に人を思ひて徘徊す/尾崎放哉
★木犀の弾けるごとく咲き出でぬ/宮津昭彦
★木犀やしづかに昼夜入れかはる/岡井省二
★大徳寺は塔頭多し夜の木犀/鈴鹿野風呂
★木犀や雨に籠れば男饐え/上田五千石
★いづこの木犀朝の鞄は飯の重さ/瀧春一
★托鉢や木犀の香のところどころ/中川宋淵
★銀木犀身じろげばまた香もゆらぐ/篠田悌二郎
★木犀の香に昇天の鷹ひとつ/飯田龍太
★木犀に土は色濃うして膨らめる/原月舟
★木犀や屋根にひろげしよき衾/石橋秀野
★遠き日のごと木犀は咲きにけり/岡輝好

金木犀の匂いが流れてくる。ある日その匂いに気付くと、すぐに在所の祭りが近づく。子供は秋の服装になり、毛糸のチョッキを着たりする。新米も炊き上がる。栗もまだまだある。蓮根もおいしくなる。魚はなんだろうか。酢〆にした鯖なんかもある。祭りのごちそうが揃ってくる。そんな季節の花なのだ。金木犀は。

★金木犀こぼれし花もあたたかな/高橋正子
★青空に銀木犀の銀確かむ/〃

 モクセイ(木犀、学名: Osmanthus fragrans)は、モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。別名、ギンモクセイ(銀木犀)という。広義では、Osmanthus fragrans に属する変種、品種の総称。中国原産で、中国名は桂花 。ギンモクセイ(銀木犀、学名:Osmanthus fragrans Lour. var. fragrans)、キンモクセイ(金木犀、学名:Osmanthus fragrans Lour. var. aurantiacus Makino)、ウスギモクセイ(薄黄木犀、学名:Osmanthus fragrans Lour. var. thunbergii Makino)の総称であるが、単に「木犀」と言う場合は、ギンモクセイを指すことが多い。
 ギンモクセイは、中国原産の常緑小高木で、樹高は3-6mになり、庭や公園などで栽培されている。花には香気があるがキンモクセイほどは強くない。幹は淡灰褐色で、樹皮は縦に裂け目ができる。葉は長さ7-15mmの葉柄をもって対生する。葉身は革質で、長さ8-15cm、幅3-5cmとキンモクセイより葉幅が広く、楕円形で先端は急にとがり、縁にはあらい細鋸歯があるが、鋸歯がなく全縁の場合もある。葉脈の主脈は表面でくぼみ、裏面で突出する。花期は9-10月。雌雄異株で、花は葉腋に束生する。花柄は長さ5-10mmになる。花冠は白色で4深裂し、径約4mmになる。雄蘂は2個。果実は核果で、長さ1-1.5cmの楕円形になり、翌年の春に黒褐色に熟す。

◇生活する花たち「茶の花・犬蓼・吾亦紅」(横浜下田町・松の川緑道)

9月30日(日)

★藤袴スカイツリーのいや真直ぐ  正子
秋の七草の一つである藤袴が、藤色の粒の蕾みを見せている、今や話題になっているスカイツリーが真直ぐにある。何処なのか見に行きたくなります。(祝恵子)

○今日の俳句
おしゃべりの後に摘みけり赤のまま/祝 恵子
おしゃべりに夢中になったあと、ふっと足元を見ると赤のままが咲いている。思わず摘み取りたくなるなつかしさ。自分に帰るほんの小さな時間。(高橋正子)

○第17回(15夜)フェイスブック句会
①投句:当季雑詠(秋の句)を計3句、十五夜・満月など
②投句期間:2012年9月30日(日)午後3時~午後8時
③互選期間:9月30日(日)午後8時30分~午後10時
④入賞発表:9月30日(日)午後10時
⑤伝言・お礼等の投稿は、9月30日(日)午後10時~10月1日(月)午後10時
※句会場は、facebookページ「インターネット俳句センター」です。
○句会主宰:高橋正子(花冠発行所代表)
○当番スタッフ:藤田洋子・高橋秀之・井上治代
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d

○洋種山牛蒡(ヨウシュヤマゴボウ)

[ヨウシュヤマゴボウ/横浜・四季の森公園]  [ヨウシュヤマゴボウ/ネットより] 

★森行けば洋種山牛蒡の花と実よ/高橋信之
★秋山を歩けば洋種山牛蒡/高橋正子

「ヨウシュヤマゴボウ」は、意外と身近な植物なのかも知れなくて、小学校の理科の教科書に出てくる。なぜ「ヨウシュ」がわざわざつくのかも気になったが。野山でなくても茂みのはずれに花や実をつけている。、私は、私の子どもたちの理科の教科書ではじめてこの植物の名前を知った。しかし、私は、現実、ヨウシュヤマゴボウを身近な植物とは思いにくい。

 ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡、学名: Phytolacca americana[1])は、ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属の多年草。別名、アメリカヤマゴボウ。花言葉は野生、元気、内縁の妻。別名の通り北アメリカ原産。日本では明治時代初期以降、各地で雑草化している帰化植物。茎は無毛で赤く、根は太く長い。葉は大きく、秋になると紅葉する。花は小さく、白色ないし薄紅色で、夏の時期に扁平な果実をつけ、秋の初旬に黒く熟す。熟した果実は柔らかく、潰すと赤紫色の果汁が出る。この果汁は強い染料で、服や人体に付くとなかなか落ちない。この特性のため、アメリカ合衆国ではポークウィード(Pokeweed)[2]、インクベリー(Inkberry)などとも呼ばれている。
 ヨウシュヤマゴボウは有毒植物で、全体にわたって毒があり、果実も有毒である。毒性は、根>葉>果実の順であるが、果実中の種子は毒性が高い。果実は、ブルーベリーと間違って誤食する事故もあり、注意が必要である。特に、幼児は影響を受けやすいので、果汁が直接皮膚に触れることも避けるべきである。毒成分は、アルカロイドであるフィトラッカトキシン(phytolaccatoxin)、サポニンであるフィトラッカサポニン(phytolaccasaponins)、アグリコンであるフィトラッキゲニン(phytolaccigenin)などである。また、根には硝酸カリウムが多く含まれる。誤食すると、2時間ほど経過後に強い嘔吐や下痢が起こり、摂取量が多い場合はさらに中枢神経麻痺から痙攣、意識障害が生じ、最悪の場合呼吸障害や心臓麻痺により死に至る。幼児の場合、種子を破砕した果汁を誤飲すると、果実数粒分でも重篤な症状を引き起こしうるので、十分な警戒を要する。ヒト以外では、草食動物は、一般に本草の摂食を避ける傾向が強いが、下痢、体温低下などをもたらす。また、鳥類では、成鳥が果実を摂食しても種子を破砕しないかぎり影響は少ないが、雛が摂食すると、死亡率の増加や運動失調などが見られる。
 味噌漬けなどに加工して売られている山菜の「山ごぼう」は、本種または近縁の在来種ヤマゴボウとは全く異なる、アザミの一種モリアザミまたは野菜のゴボウの根であり、いずれもキク科であり、類縁関係は遠い。

◇生活する花たち「藪蘭・曼珠沙華・金木犀」(横浜日吉本町)