11月7日(水)/立冬

  琵琶湖
★平らかな湖水に向きて冬はじめ   正子
去年の湖北吟行のおりの御句でしょうか。あの日はとてもいいお天気で、暖かでした。すぐに雪と鉛色の雲に包まれる時期になる、その前の一時の明るさが貴重でした。(多田有花)

○今日の俳句
茶の花の咲くや羽音に包まれて/多田有花
茶の花は椿に似るが、椿よりもずっと小さい。その蜜を吸いに目白などがくる。姿は見えないが、羽音が聞こえる。茶の花と小鳥がよくマッチしている。(高橋正子)

○立冬(冬立つ・冬に入る・冬来る/ふゆきたる・今朝の冬)
★百姓に花瓶売りけり今朝の冬 蕪村
★菊の香や月夜ながらに冬に入る 子規
★出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬 碧梧桐
★賣卜先生辻に風邪ひいて冬来る 虚子
★冬に入る爐につみ焚くや古草鞋 蛇笏
★蜂の巣のこはれて落ちぬ今朝の冬 鬼城
★立冬やとも枯れしたる藪からし 亞浪
★冬来る平八郎の鯉の図に 万太郎
★冬来たる眼みひらきて思ふこと 鷹女
★句を作る心戻りぬ冬立ちぬ 草城

★妻子居て味噌汁うまし今朝の冬/高橋信之
★立冬の洗濯機なりよく回る/高橋正子

○山茶花(さざんか)

[山茶花/横浜日吉本町]

★山茶花のここを書斎と定めたり 子規
★山茶花の垣一重なり法華寺 漱石
★生け垣に山茶花まじる片かげり 龍之介
★山茶花や日南に氷る手水桶 碧梧桐
★霜を掃き山茶花を掃くばかりかな 虚子
★雨の山茶花の散るでもなく 山頭火
★山茶花の葉滑る花や霜の上 石鼎
★山茶花にあかつき闇のありにけり 万太郎
★山茶花の花のこぼれに掃きとどむ 虚子
★山茶花や生れて十日の仔牛立つ 秋櫻子
★山茶花の樹々が真黄に母葬る 多佳子
★山茶花の散りしく月夜つづきけり 青畝
★山茶花の大輪旦暮おだやかに 汀女
★山茶花の咲くより散りてあたらしき 草城
★鎌倉の山茶花日和大人の門も 爽雨
★山茶花の玻璃に一点映り澄み 立子
★山茶花のこぼれつぐなり夜も見ゆ 楸邨
★山茶花の一期一会の花と吾/高橋信之

山茶花が咲き始めると、もう、冬が近いんだぞと思う。冬物の服を早めに出したり、炬燵は、ストーブは、と冬支度が始まる。焚火の煙がうすうすと上って匂ってきたりすると、暖かいところが恋しくなる。椿と山茶花の違いはとよく効かれるが、山茶花は花弁が一枚一枚分かれて、咲き終わると散る。赤や白だけでなく、ほんのりピンクがかったものから、また八重のものまでいろんな花があるようだ。椿ほど改まってなくて、親しみやすい花だ。山茶花の垣根からいい匂いがこぼれると、そこを通るのがうれしい。

★山茶花にこぼるる目白の声ばかり/高橋正子

サザンカ(山茶花、学名:Camellia sasanqua)は、ツバキ科ツバキ属の常緑広葉樹で、秋の終わりから、冬にかけての寒い時期に、花を咲かせる。野生の個体の花の色は部分的に淡い桃色を交えた白であるのに対し、植栽される園芸品種の花の色は赤や、白や、ピンクなど様々である。童謡「たきび」(作詞:巽聖歌、作曲:渡辺茂)の歌詞に登場することでもよく知られる。漢字表記の山茶花は中国語でツバキ類一般を指す山茶に由来し、サザンカの名は山茶花の本来の読みである「サンサカ」が訛ったものといわれる。
日本では山口県、四国南部から九州中南部、南西諸島(屋久島から西表島)等に、日本国外では台湾、中国、インドネシアなどに分布する。なお、ツバキ科の植物は熱帯から亜熱帯に自生しており、ツバキ、サザンカ、チャは温帯に適応した珍しい種であり、日本は自生地としては北限である。サザンカには多くの栽培品種(園芸品種)があり、花の時期や花形などで3つの群に分けるのが一般的である。サザンカ群以外はツバキとの交雑である。

◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)

11月6日(火)

★紺碧の天と対いて刈田あり  正子
秋らしい紺碧の空、それと対等に苅田が向かい合っています。大きな仕事をなし終えた後の、しかし自然体の力を留めて広がる土と根の存在感。茫漠としてなだらかな風景を見ることができます。 (小西 宏)

○今日の俳句
秋深き山道薪の高々と/小西 宏
やがて来る冬に備えて、薪が山道に高々と積まれているのを見ると、「秋深し」の情感が高まる。(高橋正子)

○桂黄葉(かつらもみじ)

[桂黄葉/横浜・四季の森公園]

★桂黄葉の下をくぐって森の公園/高橋信之
★黄葉して桂の一樹しかと立つ/高橋正子

カツラ(桂、学名:Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属の落葉高木。日本各地のほか、朝鮮半島、中国にも分布する。街路樹や公園樹に利用され、アメリカなどでも植栽されている。日本で自生するものはブナ林域などの冷温帯の渓流などに多く見られる。高さは30mほど、樹木の直径は2mほどにもなる。葉はハート型に似た円形が特徴的で、秋には黄色く紅葉する。落葉は甘い香り(醤油の良いにおいに似ている)を呈する。成長すると主幹が折れ、株立ちするものが多い。日本においては山形県最上郡最上町にある「権現山の大カツラ」が最も太く、地上から約1.3mの位置での幹周が20m近くにまで成長している。中国の伝説では、「桂」は「月の中にあるという高い理想」を表す木であり、「カツラ(桂)を折る」とも用いられる。しかし中国で言う「桂」はモクセイ(木犀)のことであって、日本と韓国では古くからカツラと混同されている(万葉集でも月にいる「かつらをとこ(桂男)」を歌ったものがある)。用途として、街路樹として植えられるほか、材は香りがよく耐久性があるので、建築、家具、鉛筆などの材料に使われる。また、碁盤、将棋盤にも使われるが、近年は市場への供給が減っており、貴重な木材となりつつある。桂皮(シナモン)は、同じ桂の字を使うがクスノキ科の異種の樹皮である。

◇生活する花たち「ゲンノショウコ・曼珠沙華・白曼珠沙華」(横浜・四季の森公園)

11月5日(月)

★冷たさも露けさもスライスオニオン  正子
スライスオニオンは、美しいたべものです。白く透き通り、冷たくしっとりとして、つんと新鮮な香りがします。秋の冷たさも露けさも、そのスライスオニオンにある。秋の空気を頂くと思えば、いっそう美味しいことでしょう。 (川名ますみ)

○今日の俳句
刷かれきてここより鰯雲となる/かわなますみ
眺めている空の雲の景色は、見ていて飽きない。移動していると、空に刷かれていたすじ雲が、あるところからは、鰯雲となったというたのしさ。秋空の澄んだ空気を得て、心境が出た。(高橋正子)

○黒鉄黐(クロガネモチ)

[黒鉄黐/横浜・四季の森公園]

★赤がうれし黒鉄黐に朝が来て/高橋正子

クロガネモチ(黒鉄黐、学名 Ilex rotunda)は、モチノキ科モチノキ属の常緑高木。高木に分類されるものの、自然状態での成長は普通10m程度にとどまり、あまり高くならない。明るいところを好む。葉は革質で楕円形やや波打つことが多く、深緑色。表面につやがある。若い茎には陵があり、紫っぽく色づくことが多い。春4月に新芽を吹き、葉が交替する。雌雄異株で、花は淡紫色、5月から6月に咲く。たくさんの果実を秋につける。果実は真っ赤な球形で、直径6mmほど。本州(茨城・福井以西)・四国・九州・琉球列島に産し、国外では台湾・中国・インドシナまで分布する。低地の森林に多く、しばしば海岸林にも顔を出す。しばしば庭木として用いられ、比較的都市環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として植えられる。「クロガネモチ」が「金持ち」に通じるから縁起木として庭木として好まれる地域もある。西日本では野鳥が種を運び、庭等に野生えすることがある。材木は農機具の柄としても用いられる。

◇生活する花たち「貴舟菊・山茶花・柘榴」(横浜日吉本町)

11月4日(日)

★ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る  正子
高木のポプラが黄葉した姿はどんなに美しいことだろう。箒状に伸びたポプラの木を見上げれば、秋の澄んだ空にうかぶ雲が自由にポプラの上空を流れ、はるかなるものへの憧憬の念がわいてくるようです。 (小川和子)

○今日の俳句
石榴今枝にほどよき重さあり/小川和子
石榴の実は、弾けるころには、重くなって、細い枝がぐんと撓む。そうなると、重すぎないかと思うが、重くならない手前の湾曲した枝に、「ほどよさ」がある。視点が面白い。(高橋正子)

○ナガボノシロワレモコウ

[ナガボノシロワレモコウ/東京白金台・自然教育園]_[吾亦紅(ワレモコウ)/横浜市港北区松の川緑道]

  東京白金台・自然教育園
★吾亦紅の白花を垂れ池近し/高橋信之
  百花園
★吾亦紅スカイツリーのある空に/高橋正子
  松山
★吾亦紅コーヒー店のくらがりに/高橋正子

今年は、吾亦紅をこれでもか、というほど見た。四季の森公園、近所の庭。しかし、白い吾亦紅があるのは、思いもしなかった。ナガボノシロワレモコウというのがあると、写真を見せてくれた。穂が長いので、一見ワレモコウには見えない。

★まぼろしのごとくナガボノワレモコウ/高橋正子

 ナガボノシロワレモコウ(Sanguisorba tenuifolia)は、バラ科ワレモコウ属の多年草で、湿原や湿性の草原に生育する。北海道・関東地方以北の本州、樺太に分布するが、中国地方などにも隔離分布している。湿原に生育する植物は、氷河時代に分布したものが生き残っていることがあり、ナガボノシロワレモコウもその例の1つである。地下に太い根茎があり、8月から10月にかけ、高さ1mほどの茎を出して花を付ける。茎の上部は枝分かれして長さ2~5cm程の花穂を出し、長いものは垂れ下がる。花は先端から咲き始め、花弁はない。萼片は4枚で白色であり、これが花の色となっている。雄しべは4本で長く、黒い葯が目立つ。葉は11~15の小葉からなり、小葉の幅は狭いく、三角形の鋸歯がある。
 ワレモコウ(吾亦紅、吾木香)は、バラ科・ワレモコウ属。日本列島、朝鮮半島、中国大陸、シベリアなどに分布しており、アラスカでは帰化植物として自生している。草地に生える多年生草本。地下茎は太くて短い。根出葉は長い柄があり、羽状複葉、小葉は細長い楕円形、細かい鋸歯がある。秋に茎を伸ばし、その先に穂状の可憐な花をつける。穂は短く楕円形につまり、暗紅色に色づく。「ワレモコウ」の漢字表記には吾亦紅の他に我吾紅、吾木香、我毛紅などがある。このようになったのは諸説があるが、一説によると、「われもこうありたい」とはかない思いをこめて名づけられたという。また、命名するときに、赤黒いこの花はなに色だろうか、と論議があり、その時みなそれぞれに茶色、こげ茶、紫などと言い張った。そのとき、選者に、どこからか「いや、私は断じて紅ですよ」と言うのが聞こえた。選者は「花が自分で言っているのだから間違いない、われも紅とする」で「我亦紅」となったという説もある。

◇生活する花たち「白式部・南天・かりん」(横浜日吉本町)

11月3日(土)

★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす  正子
霧の大地に育っている大根、白い大根も見え、「くゆりと葉を反らす」葉の全体が反らしている。そろそろ収穫の時期かもしれません。霧に大根の青葉といい、新鮮そのものです。 (祝恵子)

○今日の俳句
芒日を透かしておりぬ寺静か/祝恵子
日当たりのよい寺はだれも居ぬようだ。芒が日を透かし、これ以上ないような静けさと、穏やかな明るさが思われる。(高橋正子)

○山鳥兜(ヤマトリカブト、鳥兜・鳥頭・かぶと花)

[ヤマトリカブト/横浜・四季の森公園]    [オクトリカブト/尾瀬ヶ原]

★今生は病む生なりき鳥頭(トリカブト)/石田波郷
★かぶと花手折りて何を恋ひゆくや/石原君代
★鳥兜毒持つことは静かなり/東金夢明
★オキシドール泡立ちており鳥兜/河村まさあき
★国境へ鳥兜の原広がりぬ/久保田慶子
  横浜・四季の森公園
★鳥兜のむらさき優しこの森は/高橋信之
★鳥兜斜めがちにて色淡し/高橋正子

 ヤマトリカブト(山鳥兜、学名:Aconitum japonicum)は、 キンポウゲ科トリカブト属の多年草。トリカブト属の中には、オクトリカブト、ミヤマトリカブト、ハコネトリカブトなどがあり、ヤマトリカブトは、オクトリカブトの変種で、中国原産。花の形が、舞楽のときにかぶる、鳳凰(ほうおう)の頭をかたどった兜に似ていることから「鳥兜」。また、山地に生える鳥兜なので「山~」となった。ふつう、「鳥兜」と呼ぶ場合は、この「山鳥兜」を指すようで、単なる「鳥兜」という名前の花はない。英名の”monkshood”は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意。
 トリカブト(鳥兜)の仲間は日本には約30種自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。花時には草丈90~130cmほどになる。茎は斜上することが多く、稀に直立する。 秋に、花茎の上部にいくつかの青紫色の長さ4cmほどの兜(かぶと)型の花をつける。花の色は紫色の他、白、黄色、ピンク色など。葉は大きさはいろいろあり、径7~12cmほどの偏円形ですが、3~5深裂(葉の基部近くまで裂けている)し、裂片はさらに細かく中~深裂(欠刻状の鋸歯)しているのが特徴で、見た目では全体に細かく裂けているように見える。
 塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来「附子」は、球根の周り着いている「子ども」のぶぶん、中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。ドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされる。ヨーロッパでは、魔術の女神ヘカテーを司る花とされ、庭に埋めてはならないとされる。ギリシア神話では、地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。狼男伝説とも関連づけられている。富士山の名の由来には複数の説があり、山麓に多く自生しているトリカブト(附子)からとする説もある。また俗に不美人のことを「ブス」と言うが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある。10月13日の誕生花(鳥兜)、花言葉は「騎士道、栄光」(鳥兜)。

◇生活する花たち「茶の花・犬蓼・吾亦紅」(横浜下田町・松の川緑道)

11月2日(金)

★秋海は青より銀に由比ヶ浜  正子
由比ガ浜は鎌倉の相模湾に面した湘南の海。夏は本場の青々とした海が秋になり、日差しを受けて青よりも銀色に輝いているのでしょう。活発な夏と異なる静かな秋の海を感じさせてくれます。(高橋秀之)

○今日の俳句
絹雲の大空全て淡き色/高橋秀之
絹雲は成層圏に秋によく発達する雲で、薄く箒で掃いたようである。その雲が生まれる大空は淡い色に広がっている。軽くて伸びやかなところがよい。(高橋正子)

○がまずみ

[がまずみの実/東京白金台・自然教育園]_[がまずみの花/東京白金台・自然教育園]

★がまずみや蓑虫切に糸縮め/殿村菟絲子
★がまずみの実を噛み捨てて語を継がず/瀬知和子
★がまずみを含みて道の遠きかな/斎藤玲子
★がまずみの白き花冴ゆ梅雨の入り/那須亀洞

★そぞのみの思い出多し山学校/大柳雄彦(宮城環境保全研究所)

  11月に入っても、まだ十分に秋の気配が残り、過ごし易い日が続いている。そんなある日、近くにある国見峠の道ばたで、赤く熟したガマズミの実を啄ばむジョウビタキの姿が見られた。
 遠い昔を思い起こし、その場で綴った駄作である。私が小学校に通っていたのは、昭和10年代の後半、つまり、太平洋戦争の真っ只中のこと。今とは違って塾などあるはずはなく、学校からの宿題もほとんどなかった時代である。当然ながら下校後の山学校は日課になっていて、気の合った者同志で色んな場所に出かけていった。とりわけ、晴天の日が続く晩秋の山学校は楽しく、かなり奥地の山林まで足を延ばし、クリを拾い、アケビやサルナシをもぎ取り、ガマズミやナツハゼの実をしゃぶるなどして、夢中になって過ごしたものである。しかし、つるべ落としのこの時期は、日の暮れるのが滅法早く、あわてて家路につくのは毎度のことで、時には、山の中にランドセルを忘れてきた苦い思い出もある。
 「そぞのみ」は、本県で使われているガマズミの方言で、「よっずみ」と呼ぶ地方もある。里山地帯の至るところに生えている潅木で、紅葉も美しい。初夏に赤い実を枝一杯につけ、はじめは酸っぱいが、徐々に甘みを増していく。山林内での、賦存量はかなり多く、しかも手の届く高さで採取できるので、農村部の子供たちにとっては人気のある野生の食品である。(宮城環境保全研究所/仙台市青葉区八幡のホームページより)

 ガマズミ(莢蒾、学名:Viburnum dilatatum)は、山地や丘陵地の明るい林や草原に生える落葉低木。樹高2-3m程度となる。若い枝は星状毛や腺点があってざらざらで、灰緑色。古くなると、灰黒色になる。葉は対生し、細かい鋸歯がある卵型から広卵形で10cm程度。表面には羽状の葉脈がわずかに出っ張り、凹凸がある。表面は脈上にだけ毛があるが、裏面では腺点や星状毛などが多い。花期は5-6月。白い小さい花の花序を作る。晩夏から秋にかけて3-5mm程度の果実をつけ、食用となる。果実は赤く熟し、最終的に晩秋の頃に表面に白っぽい粉をふき、この時期がもっとも美味になる。焼酎に漬けて果実酒にも利用する。また、丈夫でよく分枝するため、庭木として観賞用に植樹されることもある。

★がまずみの実赤し鳥の眼に吾に/高橋信之
がまずみの赤い実が楽しい。初夏に咲く白い花を、秋になっての青い実を思えばなお楽しい。(高橋信之)

◇生活する花たち「白ほととぎす・茶の花・むべの実」(東京白金台・国立自然教育園)

11月1日(木)

★日にいちばん耀くものに菊蕾  正子
菊の蕾はしっかりと巻かれ、小さな毬のようです。野菊の蕾がたくさんついて、秋の日を浴びている景色には、ささやかな希望を感じます。それを「日にいちばん耀くもの」とご覧になる心境。控えめなもの、未だ咲かぬものへの、優しいまなざしが捉えた発見です。(川名ますみ)

○今日の俳句
水のいろ火のいろ街に秋燈/川名ますみ
街に灯る秋の燈を見ていますと、水のいろをした燈、火のいろをした燈があります。それが、大発見のように新鮮です。青い燈、赤い燈が入り混じる街の燈を見つめれば、どこかさびしさも湧いてきます。(高橋正子)

○金水引(キンミズヒキ)

[金水引/横浜・四季の森公園]_[銀水引/東京・向島百花園]

★金水引のきらきら森の正午となる/高橋信之

 キンミズヒキ(金水引、学名:Aqrimonia pilosa)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草。本州、四国、九州などの林の縁、原野、路傍に普通に見られる。草丈1メートル程に伸びて、全株に長毛が密生し、葉は互生し、羽状の複葉で表面に腺点がある。大小ふぞろいの小葉からなっているが、根元につくものは大きくなる。長い葉柄には葉状で縁がぎざぎざの托葉(たくよう)がある。花は、夏から秋にかけ、長くのびた茎の上部に黄色5弁の小さなものを穂状につけ、果実は宿存がくの内側にでき、そのがくの縁には鋭くて内側に曲がった刺毛が多数でき、この刺毛が衣類等に附着して散布に役立っている。
 キンミズヒキの名前の由来は、ミズヒキは「水引」の意味で、夏に黄花の小花を細長く穂のように咲かせる姿から「金色の水引」に見たてこの名前がついたという。
中国では、果実の刺毛が内側に曲がった姿から「竜の牙(きば)」を連想して、龍牙草(りゅうげそう)という漢名があり、それを音読みして生薬名になった。 また、キンミズヒキの果実が衣類に簡単につきやすいことから、ヒッツキグサという別名もある。キンミズヒキ属は、アグリモニアといい、ギリシャ語で刺の多い植物という意味のアルゲモネからきている。キンミズヒキは、日本から東ヨーロッパまで広く分布して、全体に小型のものはヒメキンミズヒキと呼ばれ、日本の特産種。夏から初秋の開花期に全草を掘り採り、水でよく洗って天日で乾燥し、生薬名は龍牙草(りゅうげそう)又は、仙鶴草(せんかくそう)という。春先の若芽や若葉を摘み、熱湯で茹でて水にさらしてから、おひたしや和え物にしたり、汁の実にしたりして食べる。

◇生活する花たち「萩・からいとそう・瓢箪」(東京・向島百花園)

10月31日(水)

★金木犀こぼれし花もあたたかな  正子
橙黄色の花を開き、開花期に強い芳香を放つ金木犀が散り、暖かな秋の日差しを受けよりいつそう暖かな気持ちさせて頂きます。有難うございました。 (小口泰與)

○今日の俳句
ひつじ田に雲の流れて過ぎ行けり/小口泰與
稲を刈ったあとの株からあたらしく芽が伸び、これも青々としてくる。空は雲が足早に流れて、過ぎて行く。晩秋の色が濃くなるころである。(高橋正子)

○白花桜蓼(シロバナサクラタデ)

[白花桜蓼/東京小金台・国立自然教育園]_[犬蓼/横浜市港北区松の川緑道]

★犬蓼の花くふ馬や茶の煙 子規
★赤のまま摘めるうまごに随へり 亞浪
★山水のどこも泌み出る赤のまま 汀女
★われ黙り人話しかくあかのまま 立子
★水際の赤のまんまの赤つぶら/高橋正子

★白花の蓼が群れ咲く水ほとり/高橋信之
★それぞれが群れ赤い蓼白い蓼/高橋正子

 タデ(蓼、英語: water pepper)は、タデ科イヌタデ属の1年草。単にタデと言う場合は、ヤナギタデ(柳蓼、学名: Persicaria hydropiper)を指す。「蓼食う虫」の蓼もヤナギタデである。和名は、葉がヤナギに似ていることから。特有の香りと辛味を持ち、香辛料として薬味や刺身のつまなどに用いられる。野生の紅タデがもっとも辛く、栽培種の青タデは辛さが少ない。辛味成分はポリゴジアール。タデの葉をすりつぶして酢でのばしたものはタデ酢と呼ばれ、アユの塩焼きに添えられる。品種としては、柳タデ(本タデ)、紅タデ、青タデ、細葉タデなどがある。食用タデについては、福岡県朝倉市で日本国内生産の約7割を占める。ベトナムでは付け合わせとしてよく食べられている。
 イヌタデ(犬蓼、Polygonum longisetum あるいは Persicaria longiseta)は、タデ科の一年草。道ばたに普通に見られる雑草である。茎の基部は横に這い、多く枝分かれして小さな集団を作る。茎の先はやや立ち、高さは20-50cm。葉は楕円形。秋に茎の先端から穂を出し、花を密につける。花よりも、その後に見られる真っ赤な果実が目立つ。果実そのものは黒っぽい色であるが、その外側に赤い萼をかぶっているので、このように見えるものである。赤い小さな果実を赤飯に見立て、アカマンマとも呼ばれる。雑草ではあるが、非常に美しく、画材などとして使われることもある。名前はヤナギタデに対し、葉に辛味がなくて役に立たないために「イヌタデ」と名付けられた。
 シロバナサクラタデ(白花桜蓼、学名:Persicaria japonica)は、タデ科イヌタデ属の多年草。北海道~九州の湿地に生え、根茎は地中で長くのび、枝を分けてふえる。茎は直立し、高さは30~100cmになり、紅色を帯びる節がある。葉は披針形。鞘状の托葉は長さ1~2.5cmで、粗い伏毛があり、縁には長毛が生える。枝先に花序を1~5本出し、花を多数つける。花被は白色で腺点があり、長さ3~4mm。雄しべは普通8個、雌しべは1個で花柱は2~3岐。花には長花柱花と短花柱花との2型がある。そう果は3稜形またはレンズ状で黒色で光沢がある。花期は8~10月。よく似たサクラタデは花被が長さ5~6mmと大きい。

◇生活する花たち「ナガボノシロワレモコウ・茶の花・カラスウリ」(東京白金台・国立自然教育園)

◆俳句ギャラリー 秋◆




◇俳句とスケッチ/多田有花(姫路)◇


◇秋の薔薇◇

★四季咲きの薔薇一輪に涼新た/多田有花★

季語としての薔薇は夏、特に初夏です。しかし、薔薇のうちで四季咲きといわれるものは、開花後に伐り戻すと次に伸びる枝に花をつけて、次々に咲きます。盛夏から秋、場合によっては冬まで咲くものもあります。盛夏は花が少ないようですが、それでも一輪一輪は美しいものです。


◇桔梗◇

★千枚を描ききったる桔梗かな/多田有花★

当面の目標だった千枚に達しました。ふと思い立って2010年の秋から絵を描き始め、そのうち、千枚は一日も休むことなく連続して作品をアップしたい、と考えるようになりました。途中、描く枚数が一日一枚になっていた時期がありました。早期に千枚を達成したいと考えて今年の二月からは毎日2枚ずつアップし、予定通り今日千枚になりました。千枚に達したので、毎日アップする、というのはこれでひとまず終わり、これからは描けた都度発表したいと考えています。

◇◇◇


◇朝顔◇鶏頭◇


◇木槿(むくげ)◇木槿八重◇

◆緑陰をふわり狐の駆けてゆく/多田有花◆
緑陰と狐の取り合わせは、日本画を見るようだ。緑陰に「ふわり」と浮いたような駆けかたが、幻想的である。現実、狐は画に描かれるようではなく、犬かしらと思うほどであって、狐に遭ってもちっとも驚かない作者だが、やはり、一瞬は幻想的な思いになったようだ。(高橋正子)

▼その他のスケッチは、下記アドレスの<優嵐スケッチブック>をご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/yourun1-art/


◇俳句葉書12カ月/高橋信之(横浜)◇


◆[1月] 正月の花となりたる松の勢い◆[2月] 立春の夜道どこからか水の匂い◆
◆[3月] 雲雀揚がる沖より風の吹く空に◆[4月] さくらさくらさくらさくらてのひらに◆


◆[5月] 子どもの日の夜の安らぎをどの家も◆[6月] 梅雨の畳に体重のせて歩く音◆
◆[7月] 雷の遠く去りゆき厨の音◆[8月] いろいろと秋の野菜の深き色◆


◆[9月] 満月のずばり夜明けの空にある◆[10月] 秋天をひとつ誰もが頭上にもてり◆
◆[11月] わが影の付き来て楽し寒き日も◆[12月] 冬晴れのきょう一日大切に◆

私の俳句の多くは、身辺を詠んだものだが、そこに、私独自のものを創り上げていきたいと願っている。(高橋信之)

●ブログ「俳句ギャラリー 」は、下記アドレスをご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/kakan02b3

10月30日(火)

★朝はまだ木犀の香のつめたかり  正子
木犀が咲く頃はそろそろ空気に冷やりとしたものが混じってくる時期です。特に朝は冬が近づいていることを感じます。その空気の冷たさを「木犀の香」に托して詠まれたのが新鮮です。

○今日の俳句
秋天に伸びゆくものの数多あり/多田有花
秋の天に高く伸びてゆくものを読み手はいろいろ想像する。鉄塔であったり、高層ビルであったり、聳える木であったり。秋天にある飛行機雲も。秋麗の日差し、空気、まさに「秋」がよく表現されている。(高橋正子)

○柚香菊(ゆうがぎく)

[柚香菊/東京小金台・国立自然教育園]

★花開ききったり柚香菊そこに/高橋信之
★花びらの欠けるかに咲き柚香菊/高橋正子
★やや寒し柚香菊の白を帯ぶ/〃
★茎すっと伸びて岐れて柚香菊/〃
★湖の縁にならんで柚香菊/高橋句美子

 ユウガギク(柚香菊、学名:Kalimelis pinnatifida) は、キク科ヨメナ属の多年草で、やや湿性の高い場所に自生し、いわゆる「野菊」の仲間である。草丈50cmほどで、しばしば1mを越える。上部で花茎を分け、花期は6月下旬~11月、茎頂に径3cm前後の白から淡紫色の典型的なキク型の花をつける。葉は、幅3cmほど、長さ8cm前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入る。本州の近畿地方以北に分布し、関東地方以北に分布するカントウヨメナにとてもよく似ている。近年、シロヨメナをヤマシロギクの別名としたり、その逆としたり、シロヨメナとヤマシロギクを混同する記載が結構目立つ。シロヨメナとヤマシロギクはともにノコンギクの亜種だが、別種である。ヤマシロギクは東海地方以西に分布し、シロヨメナの分布は本州~九州・台湾である。シロヨメナはしばしばヤマシロギクとの間に雑種を作るのでこのような混同がおきているのかもしれない。「柚香菊」は、ユズの香りがするとの命名だが、葉を揉んでもユズの香りは確認できていない。

★野菊持ちし女の童に逢ひぬ鈴鹿越/正岡子規
★足元に日のおちかかる野菊かな  一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな/夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香/前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり/原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址/杉田久女
 横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子

 柚香菊は、野菊の仲間である。野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
 野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本である。

◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)