12月7日(金)

★青空の光りを弾き辛夷花芽/高橋正子
辛夷の花の芽、あの白い掌を広げたような花が目に浮かびます。寒さがこれから厳しくなっていく時期、日も短くなり寂寥感がつのるころです。そこに辛夷の花芽があった、「青空の光を弾き」の言葉に冬の中に着実に整う春の息吹を感じる思いがします。(多田有花)

○今日の俳句
枯蓮と青空たたえ水平ら/多田有花
平らな水に青空が映り、枯蓮が立っている。水のよく溜まった枯蓮田は「青空たたえ」となって、枯れの美しさを見せている。(高橋正子)

○蝋梅(ろうばい)

[蝋梅/横浜・四季の森公園]

★風往き来しては蝋梅のつやを消す/長谷川双魚
★蝋梅の咲くゆゑ淡海(アワミ)いくたびも/森 澄雄
★蝋梅や樅(モミ)をはなるる風の音/古館曹人
★文机に蝋梅一朶誕生日/品川鈴子
★蝋梅や磨きたりない床柱/堂本ヒロ子

★蝋梅咲いて森の正午の空の青/高橋信之
★蝋梅のはじめの一花空に透け/高橋正子

 ロウバイ(蝋梅、蠟梅、臘梅、唐梅、Chimonanthus praecox)は、ロウバイ科ロウバイ属の落葉低木。1月から2月にかけて黄色い花を付ける落葉広葉低木である。
 十二月六日、四季の森公園に出かけた。この季節は冬紅葉や山茶花や木の実が目につく。そのほかの花には、なかなか出会えない。ところが、四季の森公園の季節の見どころ情報では、紅葉のほかに、蝋梅が咲いたとある。蝋梅は愛媛に住んでいたとき、砥部の庭のアプローチの日当たりが一番いいところに植えていた。正月にやっと蕾が黄色い色を見せ始め、霜が降りる朝に、透き通った花びらを開くのがいつもだった。十二月に蝋梅が開いたという情報に、多少戸惑った。少し早いのではと思いつつも出かけた。紅葉谷の紅葉を楽しいだあと、作ってきたおにぎりの弁当を食べた。蝋梅は「春の草原」の傍にあるという。ああ、三椏の花が咲く小川のほとりかと、すぐに見当がついた。そこに蝋梅があったことには、気づいていなかった。弁当を広げたところから、小川の小さな橋を渡ってすぐのところにある。黄葉してかさかさした葉がまたたくさん付いていたので、すぐ蝋梅と分かった。蕾がたくさん付いている。花を探すけれど、この木も、次の木も、その次の木も蕾だけ。最後の木にようやく見つけたのは、開こうとしている蕾。その直ぐにもっとひらいた蕾、その近くに、見上げた青空にくっきり開いた花。花と言えるのは、この三花。澄み透った森の青空の中に開いた蝋梅であった。

◇生活する花たち「十両(やぶこうじ)・万両・白文字(しろもじ)」(東京白金台・国立自然教育園)

12月6日(木)

★臥風忌の今日にわが句の刷り上がる  正子
恩師、臥風先生の教えを「細く長く」見事に実践し、継続されている正子先生。臥風忌へ寄せる、ひとしお強い思いをお察しします。忌日に刷り上がった「わが句」がことのほか清々しく、感慨深く感じられます。(藤田洋子)

○今日の俳句
冬晴れて視線を高く天守へと/藤田洋子
大阪城の吟行での作。大阪城は、巨大な石垣とそびえる天守に目が注がれる。足元よりも、視線は冬晴れの空へ、天守へと自然に向けられる。いわゆる切れのない「一句一章」の句のよさがあって、すっきりと、素直な感覚でよくまとめられている。(高橋正子)

○辛夷の花芽

[辛夷の花芽(11月)/横浜日吉本町]    [辛夷の蕾(3月)/横浜日吉本町]

★かたくなに白を守りて辛夷咲く/能村登四郎
★黄昏の色濃き空に辛夷浮く/笠原美雪
★辛夷の芽ふくらみ見する夕日どき/宮津昭彦
★辛夷の芽をちこち水の韻きけり/石本百合子
★光背のうしろの辛夷冬芽立つ/山本耀子

★花芽数多付けて辛夷の大きな木/高橋信之

 コブシ(辛夷)の花芽(広島市植物公園 2月14日)/ブログ「山野草、植物めぐり」より
 辛夷の花芽が柔らかくひかっていた。開花期は地域の気候に左右され3~5月と幅がある。自分の住む広島県西部の山に自生しているのは、「コブシ(辛夷)」ではなく「タムシバ(匂辛夷)」だから、これは植栽されたものである。両者にほとんど違いはないが、辛夷は花の付け根に小さな葉が一つついているのに対し、タムシバの場合は葉がつかない。この地方では4月上旬に開花することが多い。いっせいに咲いて咲き終わり、また山に紛れてしまう。小野興二郎という歌人の若いころの歌に次の作品がある。2首をセットで読めばさらに味わい深い。
  梢(うれ)たかく辛夷の花芽ひかり放ちまだ見ぬ乳房われは恋ふるも
  妻となる日を待つ汝(なれ)かぬるみゆく水を言ふとき髪のひかりぬ

 コブシ(辛夷、学名:Magnolia kobus)はモクレン科モクレン属の落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。別名「田打ち桜」。果実は集合果であり、にぎりこぶし状のデコボコがある。この果実の形状がコブシの名前の由来である。高さは18m、幹の直径は概ね60cmに達する。3月から5月にかけて、枝先に直径6-10cmの花を咲かせる。花は純白で、基部は桃色を帯びる。花弁は6枚。花芽は、6月頃に付き、11月半ばに膨らみ始める。枝は太いが折れやすい。枝を折ると、 芳香が湧出する。九州、本州、北海道および済州島に分布。「コブシ」がそのまま英名・学名になっている。 日本では「辛夷」という漢字を当てて「コブシ」と読むが、中国ではこの言葉は木蓮を指す。

◇生活する花たち「木瓜・いそぎく・千両」(横浜日吉本町)

12月5日(水)

★冬鵙の囃すは水照る向こう岸  正子
鵙の声を「囃す」と詠まれたところに、何とも趣きが感じられ、冬晴れの川向こうの景までが、広やかに目にうかびます。きらきらと川の水の照る向こう岸です。(小川和子)

○今日の俳句
農道を真直ぐ辿る冬はじめ/小川和子
農道は、田や畑の中を抜ける農業用の道路。まっすぐな農道の脇は、刈田であったり、冬菜が育っていたり、冬のはじめの景色が楽しめる。それがいい。(高橋正子)

○皇帝ダリア

[皇帝ダリア/横浜日吉本町] 

★植ゑかへてダリヤ垂れをり雲の峰 秋櫻子
★ダリア燃え浅寝の眼にはゆらぐなり 悌二郎
★うちあげしあはれ形代と黄ダリヤ 青邨
★千万年後の恋人へダリヤ剪る 鷹女

★皇帝ダリア咲かせて空のあやふさに/高橋信之

 皇帝ダリア(ダリア・インペリアリス)は、ダリアの原種でメキシコ原産で、木立ちダリア、帝王ダリア等の別名がある。草丈が3~4メートルにもなり、花はピンク色で直径約20センチメートルの大輪の花を茎の頂上につける。晩秋の頃、空にそびえて立つ姿は圧巻。
 ダリア(英語: dahlia、学名:Dahlia hybrida)は、キク科ダリア属の多年生草本植物の総称。観賞用に栽培。根は塊根で紡錘形に肥厚。高さ1~2メートル。葉は羽状複葉。夏から秋にかけ、頂に径5~15センチメートルの頭花をつける。花は一重または八重で、紅・白・黄・紫など、花色も花形も種類が多い。球根は非耐寒性であり、サツマイモに似た塊根。メキシコおよびグアテマラが原産地で、ヨーロッパに初めてもたらされたのは18世紀、スウェーデンの植物学者アンドレアス・ダール(Andreas Dahl)に因んで名づけられた。ナポレオンの皇后ジョセフィーヌの庭園で育てられたという。日本には1842年(天保13年)にオランダ人によってもたらされた。和名では「てんじくぼたん(天竺牡丹)」と呼ばれる。[季]夏。

◇生活する花たち「桜落葉・ドウダン紅葉・欅黄葉」(横浜日吉本町)

12月4日(火)

  新幹線
★トンネルを抜けて手帖に差す冬日  正子
トンネルを抜けた時、入る前との景色の違いに、はっとすることが多くございます。新幹線のトンネルでしたら、一際でしょう。手帖を広げ、考えごとをなさっていた折、さっと帖面へ差し来た日に、新しい土地の光を感じられたことと想います。薄くも輝かしい、冬日ならではの、きれいな瞬間です。 (川名ますみ)

○今日の俳句
冬夕焼一直線に街を射す/川名ますみ
寒々とした冬の街を夕焼けが染める。街をすべて染める「一直線」の夕焼けが力強い。(高橋正子)

○寒木瓜(かんぼけ)・冬木瓜(ふゆぼけ)

[寒木瓜/横浜日吉本町]           [寒木瓜の実と花/横浜日吉本町]

★近江路や茶店茶店の木瓜の花/正岡子規
★木瓜咲くや漱石拙を守るべく/夏目漱石
★木瓜の花こぼれし如く低う咲く/大谷句仏
★寒木瓜の蕊のぞきたる花一つ/阿部ひろし
★寒木瓜の刺の鋭き女坂/増田栄子
★寒木瓜を見つけし後の足軽し/819maker(ブログ俳句の風景)

★丘晴れていて寒木瓜の赤の濃し/高橋信之
★今青空に冬木瓜の実の確とあり/高橋信之

 木瓜と書いて「もっこう」と読む場合もあるが、普通「ぼけ」と読む。この音を聞いてほとんどの人は「あほ、ぼけ」の「ぼけ」を想像するだろう。それがこの花のおもしろいところで、木瓜は春の花であるが、花の少ない冬、暖かい陽だまりなどに咲き始める。棘があって、花は梅のように枝について咲く。葉は花の後から出るのであるが、この朴訥な枝と少ない花を生かして春の先駆けを思わせて生花にも使われる。雪が降ったりすると、雪を冠った花がうれしそうに見える。実は花梨のように大きな黄色い実がつくのも、「ぼけな」感じだ。

 寒木瓜は、木瓜と同じ品種だが、ふつうは3月から4月に咲くのに対して、11月から12月ごろに咲き出すものをいう。
 ボケ(木瓜)は、バラ科の落葉低木。学名Chaenomeles speciosa(シノニムC. lagenaria)実が瓜に似ており、木になる瓜で「木瓜(もけ)」とよばれたものが「ぼけ」に転訛(てんか)したとも、「木瓜(ぼっくわ)」から「ぼけ」に転訛したも言われる。帰化植物(平安時代)。学名のspeciosa は 美しい、華やか 、Chaenomelesは 「chaino(開ける)+ melon(リンゴ)」が語源。花言葉は「先駆者」「指導者」「妖精の輝き」「平凡」。原産地:中国大陸。日本に自生するボケはクサボケといわれる同属の植物。
 樹高:1~2m。枝:若枝は褐色の毛があり、古くなると灰黒色。幹:樹皮は縦に浅く裂け、小枝は刺となっている。葉:長楕円形・楕円形。長さ 5~9cmで鋭頭でまれに鈍頭。基部はくさび形で細鋭鋸歯縁。花:3~4月に葉よりも先に開く。短枝の脇に数個つき径2.5~3.5cm。色は基本的に淡紅、緋紅。白と紅の斑、白などがある。
 好陽性で土壌を選ばず、移植は容易だが大気汚染・潮害にはさほど強くない。日本では本州から四国、九州にかけて植栽、または自生。温暖地でよく育ち北海道南部では種類が限定される。
 庭園樹としてよく利用され、添景樹として花を観賞する目的で植栽される。盆栽にも用いられる。実を果実酒などにすることもある。
 同属の植物にクサボケ(草木瓜、Chaenomeles japonica 英名Japanese quince)がある。50cmほど。実や枝も小振り。本州や四国の日当たりの良い斜面などに分布。シドミ、ジナシとも呼ばれる。花は朱赤色だが、白い花のものを白花草ボケと呼ぶ場合もある。果実はボケやカリン同様に良い香りを放ち、果実酒の材料として人気がある。減少傾向にある。
 [木瓜と草木瓜のちがい] 木瓜は:背が高い。枝のトゲはあまり目立たない。実は草木瓜の実よりも大きくて、色は黄色。縦に「彫り」が入っている。草木瓜は:背は木瓜より低い。枝にトゲがいっぱいある。実はボケよりは小さく、色は黄色。縦に「彫り」は入っておらず、表面はつるつる。

◇生活する花たち「白ほととぎす・茶の花・むべの実」(東京白金台・国立自然教育園)

12月3日(月)

★純白の苺の花も十二月  正子

○今日の俳句
落葉踏む紅も黄色もさみどりも/桑本栄太郎
落葉と言えど枯れ色の葉ばかりではない。紅も、黄色も、またさみどりもあって、色鮮やかである。今落ちたばかりの葉も混じって、冬に入れば冬の明るさがある。(高橋正子)

○柊(ひいらぎ)

[柊/横浜日吉本町] 
★屋根ふいて柊の花に住みにけり 鬼城
★柊の花と思へど夕まぐれ 風生
★柊の花にかぶせて茶巾干す みどり女
★柊の花一本の香かな 素十
★柊の花多ければ喜びぬ 草田男
★心ひまあれば柊花こぼす 虚子
★柊の花や掃かれし土の匂ひ 林火
★柊の花のともしき深みどり たかし
★柊の指さされたる香かな 波郷
★柊の香やあをあをと夜の冨士 悌二郎

★柊の花に触れずに眺めいし/高橋信之
★ひいらぎの花の清らと香の清ら/高橋正子

 ヒイラギ(柊・疼木・柊木、学名:Osmanthus heterophyllus)は、モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。和名の由来は、葉の縁の刺に触るとヒリヒリ痛む(古語:疼(ひひら)く・疼(ひいら)ぐ)ことから。季語としては、「柊の花」 は冬。東アジア原産で、日本では本州(関東地方以西)、四国、九州、琉球の山地に分布しているほか、外国では台湾でも見られる。樹高は4-8m。葉は対生し楕円形から卵状長楕円形、革質で光沢あり、縁には先が鋭い刺となった鋭鋸歯がある。また、老樹になると葉の刺は次第に少なくなり、葉は丸くなってしまう。花期は11-12月。葉腋に白色の小花を密生させる。雌雄異株で雄株の花は2本の雄蕊が発達し、雌株の花は花柱が長く発達して結実する。花は同じモクセイ属のキンモクセイに似た芳香がある。花冠は4深裂して、径5mmになる。果実は長さ12-15mmになる核果で、翌年6-7月に暗紫色に熟す。果実は鳥に食べられて種子が散布される。
 低木で常緑広葉樹であるため、盆栽などとしても作られている。幹は堅く、なおかつしなやかであることから、衝撃などに対し強靱な耐久性を持っている。この為、玄翁(げんのう)と呼ばれる重さ3kgにも達する大金槌の柄にも使用されている。特に熟練した石工はヒイラギの幹を多く保有し、自宅の庭先に植えている者もいる。他にも、細工物、器具、印材などに利用される。葉に棘があるため、防犯目的で生け垣に利用することも多い。古くから邪鬼の侵入を防ぐと信じられ、庭木に使われてきた。家の庭には表鬼門(北東)にヒイラギ、裏鬼門(南西)に南天の木を植えると良いとされている(鬼門除け)。また、節分の夜、ヒイラギの枝と大豆の枝に鰯(いわし)の頭を門戸に飾ると悪鬼を払うという(柊鰯)。

◇生活する花たち「林檎の帰り花・ゲンノショウコ・桂黄葉」(横横浜・四季の森公園)

12月2日(日)

 大阪城天守より望む
★冬がすみ生駒の山の青透かし  正子
昨年の近江長浜吟行後、翌日の大阪城からの景色を詠まれた句でしょう。皆さまと天守を一周したことが思い起こされます。生駒山は身近な山ですので、嬉しい気持ちになります。(祝恵子)

○今日の俳句
わさわさと大きな蕪の一輪車/祝恵子
一輪車をはみ出して「わさわさと」運ばれる蕪の葉がまことに生き生きしている。(高橋正子)

○初嵐(椿)

[初嵐/横浜日吉本町] 

★慎ましき白き椿の初あらし/高橋信之
★庭の樹の間に咲けり初あらし/高橋正子

今日は比較的穏やかで過ごしやすい一日で、庭仕事で少し動くと汗ばむような日和でした。庭仕事をしていると、白い物が目に止まりましたので、見てみると初嵐がこちらを向いて咲いておりました。色々調べてみますと、「初嵐」は、すでに1847年の「剪花翁伝」には記載されているという古い品種だそうで、白い色で、一重で筒咲き、もしくはラッパ咲きで蕾は尖っております。中輪で10月から3月にかけてが開花期といわれておりますが、我家の初嵐は、毎年炉開きの頃咲き始めます。ところが、今年は太神楽を使ったので忘れておりました。「初嵐」という風雅な名にふさわしく、清楚で優しい雰囲気の花です。(ブログ「tyakoの茶の湯往来」より)

俳句日記/高橋正子 1999年12月17日(金)
雨が降りそうな気配。砥部のわが家をのぞく。ほぼ一年ぶりだが、思ったより雑草が生えてなく、それでも冬らしい庭になっている。ひいらぎは、花が終っていても、かすかな香り。山茶花は、今が盛りだけれど、花数は少なく、椿は、はつあらし。玄関の椿がいつもより早く、白い蕾をふくらませている。早春の黄色い花、さんしゅは、固い蕾を枝先につけている。万両もほうぼうに生えて、赤い実を光らせて、都わすれもだいじょうぶ。客間の机は、さすが、一年のほこりをかぶり、忘却のかなたから、やって来たように鎮座している。はなれに括って置いた本も、傾いてすでに、記憶の残照のようである。こういう光景は、仮の世にまちがいない。

◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)

12月1日(土)

★鈍行のことこと芽麦を渡りいる  正子
晩秋に播かれた麦は冬の初めに芽を出し伸びる。周りは冬枯れで色がない時期だけに麦の目の緑は印章強く目に映る。そんな芽麦の畑の遠く向こうを鈍行列車がことことと音をさせながら走る。作者の目線と麦畑と列車の位置関係を想像させられた。寒い冬だがその日は小春日で単線の1,2両連結くらいの風景と思う。 (古田敬二)

○今日の俳句
山茶花や軒端の薪の真新し/古田敬二
山茶花が咲き、軒端には真新しい薪が積み重ねられて、本格的な冬を迎える準備が整った。「薪の真新し」がさっぱりとしている。(高橋正子)

○茶の花

[茶の花/横浜市港北区松の川緑道]    [茶の花/東京白金台・自然教育園]

★茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村
★茶の花や利休の像を床の上 子規
★茶の花や洛陽見ゆる寺の門 碧梧桐
★茶の花に暖き日のしまひかな 虚子
★茶の花に富士かくれなき端山かな 秋櫻子
★茶が咲けり田舎教師の大き瞳よ/星野麦丘人

★茶の花の数多小粒が朝の日に/高橋信之

 チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹である。チャの木、あるいは茶樹とも記される。単にチャ(茶)と呼ぶこともある。原産地は中国南部とされているが確かなことはわかっていない。中国や日本で栽培される1m前後の常緑低木(学名 : Camellia sinensis)。インド・スリランカなどで栽培される変種のアッサムチャ(学名 : C. sinensis var. assamica)は8 – 15mにも達する高木になる。栽培では普通は1m以下に刈り込まれるが、野生状態では2mに達する例もある。幹はその株からもよく分枝して、枝が混み合う。
 葉は枝に互生する。葉には短い葉柄があり、葉身は長さ5-7cm、長楕円状被針形、縁には細かくて背の低い鋸歯が並ぶ。花は10-11月頃に咲く。花は枝の途中の葉柄基部から1つずつつき、短い柄でぶら下がるように下を向く。花冠は白く、径2-2.5cm、ツバキの花に似るが、花弁が抱え込むように丸っこく開く。果実は花と同じくらいの大きさにふくらむ。
 日本では、栽培される以外に、山林で見かけることも多い。古くから栽培されているため、逸出している例が多く、山里の人家周辺では、自然林にも多少は入り込んでいる例がある。また、人家が見られないのにチャノキがあった場合、かつてそこに集落があった可能性がある。

◇生活する花たち「山茶花・柊・桜黄葉」(横浜日吉本町)

11月30日(金)

★鴨の池映れるものはみな映り  正子
冬鳥として集団でやってきた鴨が池を埋めているのでしょう。ぷかぷかと鴨が浮かぶ水には青い空や雲、池の辺の樹木や枯れ草なども映り、明るい日差しが溢れています。 (多田有花)

○今日の俳句
一樹立つおのが落葉に囲まれて/多田有花
樹は動かないから、自分の落した落葉に囲まれることになる。その落葉のあたたかさの中にすっく立つのも本来の樹の姿に違いない。(高橋正子)

○野茨の実

[野茨の実/東京白金台・自然教育園]   [野茨の花/東京白金台・自然教育園]

★野茨の実赤きまま零れ散る/草花俳句(オレンジスタジオ)
★野いばらの実の熟れすぎて冬曇/写真俳句ブログ
★野茨の実や まんまるな 冬の雨/福田 泉
★野茨ややわらかき陽に色ずく実/小野久子

★鳥飛ぶ空の高さへ赤い実の茨/高橋信之
★野茨の実の赤々と池ほとり/高橋正子
 ノイバラ(野茨、学名:Rosa multiflora)は、バラ科の落葉性のつる性低木。日本のノバラの代表的な種。沖縄以外の日本各地の山野に多く自生する。ノバラ(野薔薇)ともいう。高さは2mぐらいになる。葉は奇数羽状複葉で、小葉数は7-9、長さは10cmほど。小葉は楕円形、細かい鋸歯があり、表面に艶がない。花期は5~6月。枝の端に白色または淡紅色の花を散房状につける。個々の花は白く丸い花びらが5弁あり、径2cm程度。雄しべは黄色、香りがある。秋に果実が赤く熟す。同属でやはり身近に出現するもの-にテリハノイバラ (Rosa luciae) があり、こちらは葉の表面にクチクラ層が発達しているため、艶がある。また花は一回り大きく、数が少ない。道端にも多く出現し、棘が多いので雑草としてはいやがられる。刈り入れられても根本から萌芽し、根絶は難しい。北海道から九州までと、朝鮮半島に分布する。野原や草原、道端などに生え、森林に出ることはあまり見ない。河川敷など、攪乱の多い場所によく生え、刈り込まれてもよく萌芽する、雑草的な性格が強い。
 果実は営実(エイジツ)と称し瀉下薬、利尿薬になり、日本薬局方にも記載されている。また、バラの園芸品種に房咲き性をもたらした原種であり、日本では接ぎ木の台木に使用される。そのため、しばしば栽培中に根本からノイバラが萌芽し、繁茂してしまうことがある。エイジツエキスは、おでき、にきび、腫れ物に効果があるといわれていて、化粧品成分に利用されています。皮膚の保護作用、収れん作用、抗酸化性、美白性、保湿性、皮膚細胞の活性効果を持ちます。
 古くはうまらと呼ばれ万葉集にも歌われている。
 道の辺の うまらの末(うれ)に 這(は)ほ豆の からまる君を はなれか行かむ 丈部鳥(はせつかべのとり)巻二十 4352

◇生活する花たち「茶の花・柊・満天星紅葉」(横浜日吉本町)

11月29日(木)

★芹育て橋を潜れる速き水  正子
田の畦や野川の湿地に自生し冬を越す芹。橋を潜り、途絶えることなく流れる速き水が、澄んだ芹の水辺を生み出してくれます。その水辺で生育する芹がことさら清らに感じられます。 (藤田洋子)

○今日の俳句
短日の街を灯して書店混む/藤田洋子
短日の街の様子が書店を通してよく見える。短日の人で混む書店に充実感が見える。(高橋正子)

○百両

[百両/横浜日吉本町]

 百両(学名:Ardisia crispa)は、ヤブコウジ科ヤブコウジ属の常緑性小低木。枝分かれが少ない。別名:百両金、カラタチバナ(唐橘)。 原産地:本州の茨城県以西の本州、四国、九州、沖縄、中国、台湾(山野の林下に自生。個体数が少なくあまり見かけない。)高さ:30~40cm。葉は互生。花期:7月。繁殖は種まき、接ぎ木。管理:水はけのよい土、半日陰で栽培。
 お正月の縁起植物として人気のセンリョウ(千両)、マンリョウ(万両)、カラタチバナ(唐橘)、ヤブコウジ(藪柑子)。その中で余り花屋では見かけず、我が家には無かったカラタチバナ(唐橘)。先日花屋で、一見してマンリョウと思うような大きさの赤実と白実の鉢物を見た。よくよく見たら、マンリョウより細長い葉でユズリハを思わし、ラベルを見たら白実百両と書いてあった。此処に百両のカラタチバナ(唐橘)があったー、と思わず嬉しくて即求めた白実。家のマンリョウと比べて見ようと庭の実を見たら、暮れにあったたくさんの朱実は既に全部鳥が食べて無くなっていた。実を実測してみたら1センチ弱で、マンリョウと同じ大きさだった。葉はマンリョウより長いのが特徴で、枝はマンリョウのように分かれておらずシンプルな感じだ。
 このカラタチバナは、ヤブコウジ、マンリョウと同じヤブコウジ科ヤブコウジ属で、花は見た事がないが、きっとこのふたつのヤブコウジ科のものと同じかも知れない。マンリョウ(万両)に対してヤブコウジは十両で、このカラタチバナは実の付き方が疎らのように大人しいので百両とも呼ばれる。センリョウだけはヤブコウジ科でなくセンリョウ科で、花が全然違う。
 このカラタチバナも古典植物で、ヤブコウジ同様元禄時代に持て囃され、品種改良が盛んに行われ、葉の形、斑の色、幹や実の色に変わりのもがあり、高価な値段で取引された植物のようだ。実の色は赤、白、黄色がある。マンリョウは鳥が食べて実生苗が出来やすいが、このカラタチバナの実をまた鳥が見つけるのであろうか?そうすると庭にまた実生苗が出来るかもしれない。鳥が食べなければ、今年の初秋まで実が残るようだ。これも常緑小低木で茨城県以西に分布し、耐寒性はマンリョウ、センリョウとの中間ぐらいと本にある。
 新年を祝う植物の筆頭は松竹梅で、他に、串柿、福寿草、勝栗、南天,千両、万両、百両金(カラタチバナ)、交譲木(ユズリハ)などがあるそうだが、今日は15日で、昔風では小正月、女正月だが、松の内を締めくくる古典植物として、この百両のカラタチバナ(唐橘)をアップできてよかった。(ブログ「一花一葉」より)

◇生活する花たち「十両(やぶこうじ)・万両・白文字(しろもじ)」(東京白金台・国立自然教育園)

11月28日(水)

★芽麦まで遠き夕陽の差しいたり  正子
初冬のころに播かれた麦は今青い芽を出し少しずつ伸び始めています。この時季太陽は低く弱く、夕日は遥かに遠く感じられますが、それでも広い畑に春への希望を伝える如く柔らかな光を注いでいます。ミレーの絵などと一脈通じるような大景を思います。 (河野啓一)

○今日の俳句
作品を提げ行く冬の車椅子/河野啓一
「作品」がいい。一つの作品となった画か、書。それを自分で車椅子の膝に載せて、搬入しようとしている。作品は自分自身ともいえる。作品はそうでありたい。(高橋正子)

○藪柑子(やぶこうじ、十両)

[藪柑子/東京白金台・自然教育園]

★髪かくるやと薢にかざす藪柑子 杉風
★ぬれいろや色なる雪の藪柑子 白雄
★ちゝと鳴く鳥の行方や藪柑子 巌谷小波
★洗ひ場に湯気こもりけり藪柑子/長谷川櫂
★藪柑子やまめく庭の隅々に/長谷川かな女
★樹のうろの藪柑子にも実の一つ/飯田蛇笏
★かがみ見てさらに地のもの藪柑子/井沢正江

★曙の掃除の水捨つ藪柑子/高橋正子

 万両・千両・百両・十両・一両の実は、何れも秋から冬に赤熟し、その赤い実も小粒です。そのため古来、これらの赤い実を付けた植物は、お正月の縁起物としてもてはやされてきました。
 万両は、センリョウより沢山実が付くことから、 マンリョウの名前が付いたと云われる。園芸種では白や黄色の実を付けるものがあります。
 千両は、本州中部以南から台湾、インドなど暖帯から熱帯に分布。山林の半日陰に自生する常緑小低木。花は黄緑色で小さい。 果実は球形で、赤く熟する。
 百両は、江戸時代のタチバナは非常に高価で、 百両以下では手に入れることができないため、 「百両金」と呼ばれました。
 十両は、ヤブコウジの名は近代になって付けられたが、 古くは赤い果実を山のミカンに見立てたヤマタチバナ(山橘) の名で良く知られていた。 それがヤブコウジ(藪柑子)になったという。 タチバナはコウジミカン(柑子)の古名。
 一両は、常緑小低木。腋に鋭い長い刺がある葉の付け根から出ているトゲが蟻をも刺し通すという意味です。お正月のおめでたいときの飾ります。「千両、万両をお持ちでも、このアリドオシがないと「千両、万両、有り通し」に なりません。この機会にぜひ揃えてみたいです。

◇生活する花たち「木瓜・いそぎく・千両」(横浜日吉本町)