今日の秀句/10月11日~10月20日

10月20日(1句)

★椎の実や産土神は遠くなり/桑本栄太郎
この句では厳密に産土神を意識しているとは思えないが、生まれた土地を離れ、都市に生活する者には、故郷は遠くなり、守護してくれる産土神も遠く感じられる。そういうことを、懐かしい椎の実を拾うにつけ遠くなった故郷を思い起すという。(髙橋正子)
10月19日(1句)

★夕月夜世代それぞれ友二人/川名ますみ
夕月夜に居合わせた二人の友と私。二人の友は世代が違う。それぞれの思いをもって夕月夜を楽しんでいる、静かで幸福感のある夜。(髙橋正子)
10月18日(1句)
★刈り取られ匂い立ち居りふじばかま/桑本栄太郎
藤袴は秋の七草のひとつで、今では絶滅が危ぶまれる草であるが、芳香がある。昔、武士が兜の下に入れ、頭の匂いを和らげたということも伝わる。栽培されているものであろうか、刈り取られた藤袴は意外にも芳しく匂っていたのだ。(髙橋正子)
10月17日(1句)

★初鴨や長き水脈引き群れており/廣田洋一
初鴨を見るのは新しい季節の到来でもあるので嬉しい。来るや長い水脈を引いてたくさんの鴨が泳いでいる。元気そうで楽しい。(髙橋正子)
10月16日(1句)

★蜻蛉連れ蜻蛉と歩む池の縁/小口泰與
池の縁を歩くと蜻蛉が親し気に付いてくる。まるでペットを連れ歩いているように、どこまでも付いてくる。池の縁なので、蜻蛉の棲息範囲であるので、作者も蜻蛉の世界に招き入れられたようだ。(髙橋正子)

10月15日(句)
★燈火親し我の映れる宿の窓/弓削和人
宿の窓をふと見ると、「燈火親しむ」自分の姿が映っている。昭和風な宿に泊った者が、燈を手元に寄せて、手紙を書いたり、本を読んだり、書き物をしたりという、景色を想像した。(髙橋正子)

10月14日

※該当句無し。

10月13日(1句)

★窓を開け空一色や秋日和/弓削和人
窓を開けると空は一色。秋日和なので、青空なのだが、秋日和の空の色は、地域によって少しずつ違うのではと思う。北国の青、海辺の空の青など。読み手に空の色を想像させてくれる楽しさがある。(髙橋正子)

10月12日(1句)

★川べりの田毎に匂ふ小さき稲架/廣田洋一
「川べりの田」は河岸段丘のような地形の田であろう。田毎の稲架が小さいのは、掛ける稲束が少ないということ。田が小さいということ。それでも、大きな稲田と同じように、稲架から稲の匂いがしてくる。小さな田も豊の秋である。(髙橋正子)

10月11日(1句)

★鰯雲スワンボートを漕ぎいたり/弓削和人
鰯雲が広がる高い空のもとで、湖でスワンボートを漕いでいるという、爽やかな秋の景色がいい。残念なのは、下五を「漕ぎいたり」と言い流しているのでここに工夫があればもっといい句になる。下五に勝負がある。(髙橋正子)

10月11日~10月20日

10月20日(3名)

廣田洋一
ひらひらと木の葉舞ひ散る暮の秋★★★
イタリアン食べつつ句会暮の秋★★★
渡り鳥餌持ちて待つ村人も★★★

桑本栄太郎
むらさきの憂いまだらに杜鵑草★★★
秋うらら後ろ歩きの人に逢う★★★
椎の実や産土神は遠くなり★★★★

弓削和人
鳶はるか海の真上に留まりて
「鳶」は普通季語となっていませんが、冬とする場合も見受けられます。どの歳時記をご覧になりましたか。(髙橋正子)

真葛原あまつぶ二三降りて止み★★★★
夜空より舞い降りぬべし露の玉★★★
「舞い」が「露」に対して適切かどうか、「露」によく付いた言葉がほしいです。(髙橋正子)
10月19日(4名)

廣田洋一
いつの間に水面埋めたる渡り鳥★★★
ぱたぱたと羽をたたみし渡り鳥(原句)
ぱたぱたと羽をたたみて渡り鳥(正子添削) 
川底に木の葉沈みて暮の秋★★★

小口泰與
身にしむや雨の野外の撮影会★★★★
朝寒や水輪のゆがむ山の沼★★★
秋寒や雨の降りたる外仕事★★★

桑本栄太郎
こぼこぼと土管流るる秋の水★★★
山茱萸の赤き実のある葉陰かな★★★
池の辺のもみづり来たる柿一本★★★

川名ますみ
手をとめて釣瓶落としへ向く三人★★★
窓を変え三日月ひとつ見比べる★★★

夕月夜世代の違う友二人(原句)
夕月夜世代それぞれ友二人(正子添削)

10月18日(3名)

小口泰與
なかなかに沼は波立ち赤蜻蛉★★★
山の沼眺むる我に石たたき★★★
落栗を探し当てしや開き毬★★★

桑本栄太郎
稲滓火の煙り真直ぐや今朝の田に★★★
ひつじ穂の微かに稔り傾ぎ★★★
刈り取られ匂い立ち居りふじばかま★★★★

弓削和人
栗飯のほかはいらない夜半かな★★★
団栗の落ちたる葉音で知らせけり(原句)
「団栗の落ちたる」が「葉音」にかかっているので、「何を」知らせているかがわからないのです。(髙橋正子)
団栗の落ちたる葉音耳にあり(正子添削例)

いのこづち我と共する一万歩★★★
「我と共する」の部分を具体的に表現するとよいです。(髙橋正子)

10月17日(4名)

小口泰與
曇天を吹き払いたる懸巣かな★★★
とりあえず秋翡翠を写そうか★★★
飛び出でて銀鱗見せし秋の沼★★★

廣田洋一
京の夜夕餉楽しむ今年酒★★★
青空に紅葉且つ散る桜の木★★★
初鴨や長き水脈引き群れており★★★★

桑本栄太郎
香り来るめまいしそうな金木犀★★★
腰掛けて菜の収穫や秋の畑★★★★
むらさきのすすき穂解け傾ぎけり★★★

弓削和人
たわわなる柿は電線越えにけり★★★
朝顔の蕊より紺のあふれいづ★★★
双花のどちらの芙蓉濡れゐたり★★★
 
10月16日(2名)
小口泰與
蜻蛉の沼いっぱいや丘の朝★★★
伴いて蜻蛉と歩む池の縁(原句)
蜻蛉連れ蜻蛉と歩む池の縁(正子添削)
天の外山は紅葉あふれたり★★★

桑本栄太郎
微風さへ姫ゑのころの靡きけり(原句)
微風にさへ姫ゑのころの靡きけり(正子添削)

知らぬ間にだれか採りたり花梨の実★★★
仰ぎ見る銀杏黄葉や青き空★★★
10月15日(3名)

小口泰與
蜻蛉の忽と向き変え飛び交える★★★
直立の姿勢保ちし曼珠沙華★★★
下り鮎乏しきなれど我が魚籠は★★★

桑本栄太郎
野菊咲く畦に朝のちちろかな★★★
「畦」と「朝」は、一考の余地あり、と思います。(髙橋正子)
穭田のひつじ穂早も実りけり★★★
歩み行く村の梢や鵙猛る★★★

弓削和人
熊鈴を鳴らす人あり木の実落つ★★★

秋風の席残りけり終着駅(原句)
「秋風の席」は、「秋風が座る席」の意味に取れます。(髙橋正子)
秋風に席の残され終着駅(正子添削)

宿の窓映りし我は燈火親しめり(原句)
燈火親し我の映れる宿の窓(正子添削)
10月14日(4名)

小口泰與
蜻蛉の忽と向き変え飛びかえる★★★
直立の姿勢保ちし曼珠沙華★★★
下り鮎乏しきなれど我が魚籠は★★★

多田有花
 <古民家カフェ古陰二句>
秋野菜とりどり入りしランチかな★★★
古時計いまも晩秋の時刻む★★★
 <工楽松右衛門旧居>
海翔けし男の旧居爽やかに★★★

桑本栄太郎
京なれや藤袴咲く庭の鉢★★★

柿・栗蜜・柑田舎みやげの秋果届(つ)く
「届く」を「つく」と読ませるのは無理です。(髙橋正子)
うつり香をつれて家路や金木犀
「うつり香」は「ものに移った香」のことを言いますが、何に移った香りですか。何かを思わせていますか。(髙橋正子)

弓削和人
電柱に頼る庭の木刈りし秋★★★
ゆるやかに苔を潤す秋出水
季語としての「秋出水」の意味は、大雨による(主に秋の初めの)洪水、大水を言います。「ゆるやかに」が秋出水の性質を言い表わしているのか、私にはよくわかりません。(髙橋正子)

秋霖や老樹新樹も濡れ染めて 
「濡れ染める」は、「濡れ初める」ではないですね。
「新樹」は、若葉に被われる木立を言います。この辺り、いろいろ問題があります。(髙橋正子)

10月13日(3名)

小口泰與
とどまれば沼に溢れる蜻蛉かな★★★★
鵯やとかく妙義は奇岩にて★★★
噴煙の永久に靡くや秋の利根川(とね)★★★

桑本栄太郎
あおぞらの雲の動かず秋の嶺★★★
水木の葉早も真っ赤ぞもみづれる★★★
生垣の剪られ匂いぬ金木犀★★★

弓削和人
秋うらら倒樹たもとの木の実かな★★★
窓を開け空一色や秋日和★★★★
漣の音や/遥かなり/身に入みて(原句)
漣の音の遥かや/身に入みて(正子添削)

10月12日(5名)

廣田洋一
黒松てふ名札を付けて松手入★★★
川べりの田毎に匂ふ小さき稲架★★★★
物干の半分使ひ吊るし柿★★★

小口泰與
鶺鴒のとどまり難く尾を叩く★★★
秋の沼鋭声おちこち野鳥かな★★★
田の神に礼して刈るる稲田かな(原句)
田の神に礼して刈らる稲田かな(正子添削)

多田有花
<高砂市高砂町三句>
爽やかに飾瓦や申義堂★★★
十月の古民家カフェで昼食を★★★
秋深き窓に瓦のいぶし銀★★★★

桑本栄太郎
(帰省のバスの車窓吟より)
稜線の杉の木立や秋の嶺★★★
草むらの色とりどりや赤のまま★★★
ハイウェイに沿いて明るき泡立草★★★★

弓削和人
秋天へウグイの群れや光る鰭★★★
雨あがり秋澄むいまを胸いっぱい★★★★
映画館出て来る秋の貌ばかり★★★

10月11日(5名)

小口泰與
両手より飛び出しにける胡桃かな★★★
石段の途中は茶店秋の雲★★★
疾く出でて見上ぐる天に秋の月★★★

廣田洋一
総裏の背広を出して冬近し★★★
元の句で間違いはありませんが、「出して」のところに工夫の余地があります。(髙橋正子)
総裏の背広の重さ冬近し(正子添削)

金星と三日月並ぶ秋の朝★★★
全然間違いはないのですが、「並ぶ」が平凡に思われますので、添削例のような句も可能です。(髙橋正子)
金星と三日月澄めり秋の朝(添削例)

連れ立ちて新蕎麦啜る神田かな★★★

桑本栄太郎
(帰省のバスの車窓吟行より)
(日本海の島根半島)
真青なる彼方に半島秋の潮★★★
(高速米子道より二句)
休耕の畑一面や赤のまま★★★
パノラマとなりぬ眼下や秋の里★★★

多田有花
<高砂市高砂町三句>
澄む秋の高砂銀座商店街★★★
交通の移り変わりや秋深し★★★
色変えぬ松の枝ぶり十輪寺★★★

弓削和人
鰯雲スワンボートを漕ぎいたり★★★★
大空を渦巻く鶇の群来たり★★★
熟れ毀つイガグリの実の落ちており ★★★

自由な投句箱/10月1日~10月10日

※当季雑詠3句(秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。

今日の秀句/10月1日~10月10日

10月10日(1句)

(帰省の車窓吟より)
★秋日さすハイウェイ西へバスの旅/桑本栄太郎
栄太郎さんの故郷は鳥取なので、住まっていることからは、「西へ」になる。秋日が差すハイウェイは、故郷の方へ、バスは西へ西へと走って行く。秋日が郷愁を誘う。(髙橋正子)

10月9日(1句)

★人生の先行きは不明槍鶏頭/多田有花
「槍鶏頭」に救われた句。槍鶏頭は、鶏頭の中でも花が槍先のように、穂になっている。色も赤でもない、白みがかったぼんやりした色。それはそれで味わいがあるが、「人生というものは先はどうなるかわからない。」その気持ちを槍鶏頭が表している。(髙橋正子)

10月8日

※該当句無し

10月7日(2句)

★集落のなかに小さく芋の秋/多田有花
集落のなかに芋畑があって、芋畑は小さいのだが、小さいなりに、芋の葉も大きく育って、豊かな芋の実りなのだ。集落の暮らしにある豊かさ。(髙橋正子)

★秋ざくら影のちらほら触れており/弓削和人
秋ざくら、つまりコスモスの花の影を詠んだ句。コスモスの花が揺れている景色もよいが、その影がよそ風にゆれているのもいい。影はなお淡く、影は花が咲いているとおりに、ちらほらと触れ合っている。(髙橋正子)

10月6日
※該当句無し

10月5日(1句)

★秋祭の幟の下を下校の子/多田有花
秋祭りは、その地域の、里祭、村祭り。いつもの通学の道にも幟が立てられ、下校の子供たちも幟の下を帰っていく。子供たちも祭りを楽しみ待っていることだろう。秋祭りの温かみが伝わる。(髙橋正子)

10月4日(1句)

★あおぞらを仰ぎ足下に木の実踏む/桑本栄太郎
あおぞらを仰ぐ足元には、思わすも木の実を踏んだ。よく晴れて、空気が乾燥し、知らずに踏んだ木の実の音に、木の実を踏んだことに気づく。いよいよ秋が深む。(髙橋正子)

10月3日(1句)

★赤と白隣り合いたる曼殊沙華/廣田洋一
曼殊沙華はほとんどが赤い色なのだが、最近は白い曼殊沙華もしばしば見られる。赤と白を対にそろえて植えている場合もある。赤と白が揃って面白いな、紅白だなと思った句。(髙橋正子)


10月2日(1句)

★歩みゆく程に高きや秋の空/桑本栄太郎
歩んでゆきながら、秋空をときどき見上げているのだろう。歩いてゆくにつれて、秋空が高くなるように思える。秋空の高さ、広さ。(髙橋正子)

10月1日(1句)

★蜻蛉の翅は秋日を弾きけり/小口泰與
この句を見ると、「蜻蛉」「秋日」が秋の季語だが、解釈上この句の季語は「秋日」と読める。これと同じようなケースに石田波郷の次の句があげられる。
<吹きおこる秋風鶴をあゆましむ/石田波郷>
鶴、秋風ともに秋の季語。この句の季語は句の解釈上、「秋風」とされる。波郷には、このような一見季重なりと思える句が見受けられる。

泰與さんの句は、蜻蛉の翅が弾くのは、「日」ではなくて、「秋日」でなくてはならない。蜻蛉の翅が弾き返す光の鋭さに、凋落してゆく季節の淋しさが重ねられている。(髙橋正子)

10月1日~10月10日

10月10日(3名)
小口泰與
利鎌もて葦刈る媼冴にける
「冴にける」は、この句では、どういう意味でしょうか。(髙橋正子)
腰痛を時には忘れ木槿かな★★★
天からの強き放射や秋日差す★★★

廣田洋一
吊し柿日に曝されて粉を吹き★★★
軒の下色鮮やかに吊し柿★★★

松茸や高嶺の花と通り過ぎ★★★

桑本栄太郎
(阪急電車寄の車窓吟より)
(桂川・宇治川・木津川が合流のうえ淀川へ)
三川の集う中州やすすき原★★★

(帰省の車窓吟より)
秋日さすハイウェイ西へバスの旅★★★★
休耕の畑一面に赤のまま★★★

10月9日(3名)

小口泰與
白鷺の眼光きらり秋の沼★★★
水面に雑魚飛び出せり沼の秋★★★
ひょいひょいと首出す雑魚や秋の沼★★★

廣田洋一
敗戦のニュースの朝やスポーツの日★★★
うそ寒し大福求め行列す★★★
そぞろ寒中州に鷺の佇みて★★★

多田有花
寒露かな朝の布団の心地よし★★★
人生の先行きは不明槍鶏頭★★★★
晩秋や楽しきことは春秋に★★★
10月8日(2名)

多田有花
稲刈を待つ田に揺れる黄金色★★★
陽が昇る鵙の高音の響きおり★★★
秋晴に祭太鼓の聞こえ来る★★★

小口泰與
山霧やすっぽり包む山の森(原句)
山霧のすっぽり包む山の森(正子添削①)
山霧やすっぽり包まる山の森(正子添削②)

山霧の変化激しく里の宿★★★
白雲を乗せて水面や秋の暁★★★

10月7日(4名)

廣田洋一
音信の絶えたる友や秋の雨★★★            
冠雪の富士の嶺浮かべ秋の雲★★★
名を知らぬ草の実群れて紫に★★★

小口泰與
絶景を求むや山川秋の暮★★★
鶲来て山の小沼へ点じける★★★
群れて来て群れて立去る椋鳥の群★★★★

多田有花
絵を再び描こうと思う十月に★★★
秋晴の銀の馬車道走りゆく★★★
集落のなかに小さく芋の秋★★★★

弓削和人
秋ざくら影のちらほら触れており★★★★

秋日和がんづき食らう匙の胡麻
   ↓
【訂正】がんづきを食らいて秋の日和かな(原句)
「食らいて」の代わりに他を入れるほうが、いいと思います。(髙橋正子)
がんづきの胡麻の香ばし秋日和(正子添削)
※がんづき:東北の郷土菓子
熊笹の茎に沿うよう秋日さす  ★★★ 
       
10月6日(3名)

廣田洋一
頼まれし土産買ひたる秋の旅★★★
新蕎麦や竹藪みつつ啜りたる★★★
朝寒や長袖シャツを羽織りたる★★★

桑本栄太郎
あご髭の堅くとがりぬ朝寒し★★★
朝冷えの熱きコーヒー朝餉かな★★★
冷まじや頻りに揺るる庭の木々★★★

小口泰與
縄張を守る野鳥や秋の沼★★★
堰堤を越え行く野鳥秋の朝★★★
とみなりに長野の銘菓秋の暮★★★
10月5日(5名)

小口泰與
蜻蛉のくるり反転飛び交える★★★
蜻蛉の乱舞や風の山の沼★★★
忽然と魚の水輪や秋の沼★★★

多田有花
朝空に臥待月の白くあり★★★
露草の咲けばいずこも清らかに★★★

秋祭の幟の下を下校する(原句)
秋祭の幟の下を下校の子(正子添削)

廣田洋一
新蕎麦や予約をしたる店の前★★★
店先で新蕎麦打ちて客寄せに★★★
秋の日に白壁映える天守閣★★★

桑本栄太郎
冷まじや風に驚く庭の木々★★★
恐ろしきこととなりたる秋寒し★★★
秋冷の風に躍りぬ萩の花★★★

弓削和人
稲びかり嶽を二重に割りぬべし★★★
長雨に寄せては離れ赤のまま★★★
リュックもてかけ直したり花野風★★★
10月4日(4名)

小口泰與
餌台に寄りくる小鳥暁早し(原句)
「暁早し」は、「暁の早い時間」ということでしょうか。「明け早し」の意味なら、夏の季語とみなされます。
餌台に寄りくる小鳥秋の暁(正子添削)

稲架組むや赤城根っこしとの曇り★★★
鯉跳ねてとばしる水や秋の声★★★

廣田洋一
おしろいや土手の斜面を赤く染め★★★
小さくも彩り尽くす秋の薔薇★★★
朝寒や背中丸めて戻りたる★★★

多田有花
遠目にも畔赤く染め曼珠沙華★★★
退院し見る初萩の花の揺れ★★★★
秋祭近づき並ぶシデ飾り★★★

桑本栄太郎
鉢植えの藤袴咲く団地かな★★★
小鳥くる愛の讃歌をうたいつつ★★★
あおぞらを見上げ足下木の実踏む(原句)
少し、韻律を整えられると、句がずっとよくなると思います。(髙橋正子)
あおぞらを仰ぎ足下に木の実踏む(正子添削)

10月3日(5名)

小口泰與
遠き祖を訪ね諏訪湖や秋の雑魚★★★
秋はやも整い山の木木の色★★★
忽然と沼に増えたる蜻蛉かな★★★

廣田洋一
竣工の庭を清めて秋の風★★★
赤と白隣り合ひたる曼殊沙華★★★★
花芒空地の縁を彩りて★★★

多田有花
秋の水空を映して流れおり★★★
えのころや光集めて揺れており★★★
秋祭の練習太鼓の音響く★★★★

桑本栄太郎
露草のしべ細やかにはにかみぬ★★★
小鳥来て愛の賛歌を歌いけり★★★

もくれんの早も冬芽の葉蔭かな(原句)
もくれんの早も葉蔭に冬芽かな(正子添削)

弓削和人
溝そばの紅紫は野山へ放たれり★★★
旻天や尾上の杉を包みたり★★★
秋天を受けたる枯葉の響かな★★★

10月2日(5名)

小口泰與
蜻蛉の翅に朝日のあたりけり★★★
奇岩立つ妙義や秋の彩雲よ ★★★
裾に秋ちりばむ赤城蒼き空★★★

廣田洋一
タワマンの灯かりの消えて望の夜★★★
青空に赤く色付く柿の実かな★★★
半袖の腕を撫で行く秋の風★★★

多田有花
十六夜や雲隙間なく空埋めて★★★
暁に妻恋う鹿の声響く★★★
立待月グリーンカレーを煮て待てり★★★

桑本栄太郎
歩みゆく程に高きや秋の空★★★★
青空に銀杏黄葉の天を透く★★★
秋風やあばら骨なる天の雲★★★

弓削和人
戸口はや照明ともす秋の暮★★★
朝冷えや歩きはじめの砂利小石★★★
行き違う人を待ちたり秋の暮★★★

10月1日(4名)

小口泰與
遠つ嶺を渡る真雁の飛来かな★★★
秋の鯉を二人がかりでえつこらさ★★★
蜻蛉の翅は秋日を弾きけり★★★★

廣田洋一
池の中小魚集ひ運動会★★★
十六夜や星影ひとつ瞬きぬ★★★
残月を仰ぎつつ取る新聞かな★★★

桑本栄太郎
十六夜の天の閉ざされ見えざりき★★★
トトトトと樋のしずくや秋の雨★★★
冷ややかな風の窓より十月に★★★

多田有花
今日の月山の彼方へ消えてゆく★★★
さまざまなことが一度に九月尽★★★★
救急車桜紅葉の下曲がる★★★

自由な投句箱/9月21日~9月30日

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※投句は、一日1回3句に限ります。
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今日の秀句/9月21日~9月30日

9月30日(2句)

★退院の道にひつじの伸びたる田/多田有花
入院するときは、稲穂が黄金に波打っていただろうが、めでたく退院となって、家路をたどる道には、稲刈りは済み、稲株からひつじが伸びているのを見た。それだけ長く入院されて、季節の移り変わりの早さを実感された。(髙橋正子)

★高層の団地を照らす良夜かな/桑本栄太郎
空にそびえる高層団地は、まるで小さい村のようで、その明かりの灯る高層団地は、すっぽりと良夜に包まれている。現代のメルヘンのような景色だと思える。(髙橋正子)

9月29日(2句)

★澄む秋となりたる街へ退院す/多田有花
入院するときは、残暑も酷暑といえるほどの今年の暑さだったが、退院するほちきは、街は「澄む秋」となっていた。感慨深い。(髙橋正子)

★やや寒の湖に影さす辰子像/弓削和人

「やや寒」の季語が効いている。辰子像は、下記に※でご案内したように、日本一の水深を誇る田沢湖の湖畔近くに建てられた伝説の乙女の像。瑠璃色の田沢湖の水に像の影が差して、人に「やや寒」の情緒を一層感じさせる。(髙橋正子)

※田沢湖辰子像:永遠の若さと美貌を願い、湖神となったと伝えられる、伝説の美少女たつこ姫のブロンズ像です。その姿は澄んだ青い湖水を背にして清楚です。水深423.4メートルと日本一を誇る田沢湖の岸近くにあります。製作:舟越保武 昭和43年5月12日建立(仙北市HPより)

9月28日(1句 )

★外つ国へ帰る燕の逞しき/小口泰與
帰っていく燕を見ていると、日本にいる間、一回り大きくなったように見える。羽もつやつや輝いて、集まって鳴きかわす姿に逞しさを感じる。またそうであって欲しいという作者の願いでもある。(髙橋正子)

9月27日(1句)

★秋耕を終えたる畑サイロ立つ/廣田洋一
夏の農作物を取り払い、きれいに耕し、秋の種蒔きや植え付けを待つばかりの畑。その畑にサイロが高く立っている広々とした景色からは、爽秋の空気が感じられる。(髙橋正子)

9月26日(2句)

★湯の街の磴上りけり火の恋し/小口泰與
「湯の街の磴上り」ではすぐに伊香保温泉が目に浮かぶ。風情のある温泉街だが、秋が深まるのも早い。温泉街の旅情がいっそう火を恋う気持ちにさせてくれる。(髙橋正子)

<近大病院>
★病棟の窓より見るや夕月夜/多田有花
入院生活という制約のある生活でも、窓からは夕月夜が眺められる。美しい月夜を心より楽しむと、入院生活に名残惜しささえ生まれるようである。(髙橋正子)

9月25日(1句)

<近大病院>
★満ちてゆく月待つ今宵芋煮付/多田有花
月がテーマの句。満ちていく月を待つ心楽しさに加え、病院食が旬の野菜の芋の煮付けだった。病院の計らいがうれしい。(髙橋正子)

9月24日(1句)

★彼岸花供えて来る旅の空/廣田洋一
私なりに読むと、「旅の空の下、曼殊沙華をみつけ、近くに祀られている石仏に供えて来たのですよ。」と言うことなのかと思う。旅に居るので優しさが沁みて思われる句。(髙橋正子)

9月22日、9月23日
※該当句無し

9月21日(1句)

★夢語る星の夜空や賢治の忌/桑本栄太郎
宮澤賢治の忌日は9月21日。昭和8年、肺炎で37歳で死去した。星の夜空が賢治の遺作である『銀河鉄道の夜』を思い起こさせる。(髙橋正子)

9月21日~9月30日

9月30日(5名)

小口泰與
背びれ見せ沼を横切る秋の鯉★★★
とある日の沼に翔け來る小鳥かな★★★
沼を黄に点じおり黄鶺鴒★★★
※三句とも「沼」がありますが、この「沼」が読み手には漠然とした景色に映るのでそれが残念です。(髙橋正子)

多田有花
帰り道すでにひつじの伸びたる田(原句)
「退院」という言葉を入れたので、「すでに」は、省けると思います。(髙橋正子)
退院の道にひつじの伸びたる田(正子添削)

帰宅してわが裏山に小望月★★★★
名月や斜めに飛行機雲伸びる★★★

桑本栄太郎
名月の手の届かざるあの娘かな★★★
雲の連れなく淋しそう望の月★★★
高層の団地を照らす良夜かな★★★★

廣田洋一
タイガースアレを達成九月尽★★★
一歩ごとに桜紅葉の散りにけり★★★
桜紅葉残り少なき木の有りて★★★

弓削和人
闇深く秋雨ばかり立ち止まり★★★
十六夜は雨に隠れり軒の縁★★★
溝に落つ木の実のいのち息づいて(原句)
「息づく」がやや観念的ですね。(髙橋正子)
溝に落つ/木の実のいのち輝いて(正子添削)

9月29日(5名)

小口泰與
縄張の鳥の定位置枯木かな★★★
参道の木木紅葉や蒼き空★★★★
妄想にどつぷり浸り真夜の秋★★★

廣田洋一
星一つ見えぬ空や今日の月★★★
もう一度外に出てみる良夜かな★★★★
隣人の家を売りたる愁思かな★★★

多田有花
退院す運動会の声聞こゆ★★★
澄む秋となりたる街へ退院す★★★★
彼岸花咲くふるさとへ帰り着く★★★★
※退院おめでとうございます。久しぶりの家ですね。お大事に。(髙橋正子)

桑本栄太郎
風のなくひやりと天に望の月★★★★
名月を撮るため棟の上に待つ★★★
酔うほどに酌めども尽きぬ月見酒★★★

弓削和人
名月の虫の音殊に澄みにけり★★★★
主季語は「虫の音」(髙橋正子)
望の月夜の香を伴いて★★★
やや寒の湖に影さす辰子像 ★★★★

9月28日(5名)

廣田洋一
日差し受け弾け飛びたり椿の実★★★★
色付きたる湘南の田や豊の秋★★★
ビル谷間ゆるゆる登る今日の月★★★

小口泰與
外つ国へ帰る燕の逞しき★★★★
赤城よく嶺までさらし早生蜜柑★★★
夜の風に木犀の香のたたなわる★★★

多田有花
<近大病院三句>
外はもう涼しくなりぬ彼岸過★★★
今日退院街秋涼になるという★★★
秋朝日葛城山の上に出て★★★

桑本栄太郎
桐の実の青空遠く色づきぬ★★★★
コスモスの風に煽られ揺れ止まず★★★
坂下る桜並木やうす紅葉★★★

弓削和人
待宵や梢を離れてゆくばかり★★★★
湖の外輪山や小名月★★★
「小名月」は見たことのない季語ですが、歳時記に例句はありますか。(髙橋正子)
和人さんが次の句を挙げてくれました。
隣へも酒のあまりや小名月 才磨
「才磨」は江戸時代前期の俳人。

待宵やムーンロードをひとり占め★★★
 
9月27日(名)

小口泰與
曙の鵙の鋭声や沼の木木★★★
鋭き出刃を鯉にあてけり秋の暮★★★
母刀自の写真整理や秋の暮★★★

多田有花
<近大病院三句>
病む人に夜はいつでも長き夜★★★
秋の陽が病棟廊下に落ちている★★★
産土を離れ迎える秋社かな★★★

桑本栄太郎
八雲忌の遠くに想う松江城★★★
八雲と桑にはどんな関係があるのでしょうか。日本昔話などに「雷さまと桑の木」があるには、ありますが。(髙橋正子)
この件について、失礼しました。桑本さんの「桑」をひっかけて転記したようです。お詫びし訂正します。(髙橋正子)

ぎんなんの潰れ散らばるバス通り★★★
夕闇を歩き鳴きた居りちちろかな★★★

廣田洋一
半月やくっきり登るビル谷間★★★
秋耕を終へたる畑サイロ白し(原句)
リズムが落ち着かないので、添削しました。「白」を言わなくても、すっきりと耕された畑にサイロがすっと立っている景色に、爽秋の感じは出ると思います。(髙橋正子)
秋耕を終へたる畑サイロ立つ(正子添削)

防災の品々書かれ秋団扇★★★

弓削和人
行く秋を起床の窓より眺めおり★★★
行く秋や瀬の鳴る方へ耳かたぶ(原句)
行く秋や瀬の鳴るほうへ耳かたぶけ(正子添削)
「かたぶ」は「かたぶく」を端折ったものと考えられますが、こういう言い止めかたはありません。字余りになっても、「かたぶく」とします。(髙橋正子)

橋たもと笛吹く人や曼珠沙華★★★

9月26日(4名)

小口泰與
湯の街の磴上りけり火の恋し★★★★
時の火の山の形や秋夕焼★★★
夕暮の谷川岳や身に染みし★★★★
「染みし」の「し」が落ち着かないですね。「き」か「ぬ」がよいと思います。(髙橋正子)

多田有花
<近大病院三句>
病棟の窓より見るや夕月夜★★★★
退院の予定聞くなり秋晴に★★★
彼岸花見ることもなく彼岸明★★★

廣田洋一
蟷螂の斧を引きずる蟻の列★★★
蟷螂や雌の出方を窺へり★★★
柿十個友と分け合ひ子規忌かな★★★

桑本栄太郎
夕闇を歩きちちろの迎えけり★★★★
ぎんなんのつぶれ数多やバス通り★★★
嶺の端に集う茜やいわし雲★★★

9月25日(4名)

小口泰與
長月の砂場熱砂子や子の声よ★★★
飛び鳴きの鵯や三山晴れ渡る★★★
草刈りの音も構わず懸巣かな★★★

多田有花
<近大病院三句>
月の舟太陽風に帆をあげて★★★
満ちてゆく月待つ今宵芋煮付★★★★
秋の朝今朝の採血六本で★★★

桑本栄太郎
朝冷えや君の夢見のひと頻り★★★
やや寒み一枚羽織り又眠る★★★
秋雲の茜となりぬ入日かな★★★

弓削和人
鶏頭のすくと立ちたる茶店寄り★★★
「茶店寄り」は、「茶店に寄り」とすべきところです。(髙橋正子)

乳頭の温泉巡りはな薄★★★
「はな薄」は、中句からのつながりで一見して読みにくいです。
「花すすき」とする方がよいと思います。(髙橋正子)

コスモスを離れぬ蝶や暮小径 ★★★
下五は「暮の径」でよいと思います。(髙橋正子)

9月24日4名)

小口泰與
満月を手水に移す吾子の顔★★★
暁の沼黄を点じたる黄鶺鴒★★★
菊を切ることは手なれや寺の主★★★

多田有花
<近大病院三句>
秋分の夜の病院食はお寿司かな★★★
大阪湾隔て秋晴れ六甲山★★★
金剛山うろこ雲を戴きて★★★

桑本栄太郎
朝冷えや君の夢みてなみだせり★★★
身に入むや朝の静寂の青き空★★★
その後の想うすべなき芙蓉の実★★★

廣田洋一
彼岸花供えて来る旅の空★★★★
道なりに歩む花野や花踏まず★★★★
赤蜻蛉しきりに叩く水面かな★★★
 
9月23日(3名)

小口泰與
銃眼を稲妻抜ける夕間暮★★★
蜻蛉や沼に映つれる樹木の影★★★
暁の沼秋の野鳥の声数多★★★

多田有花
<近大病院三句>
去る人と来る人ありぬ秋彼岸★★★
一週間ぶりの入浴秋彼岸★★★
秋分の雨が隠せり金剛山★★★

桑本栄太郎
父の夢またも見て居り秋彼岸★★★
秋風の音たつるこそ哀しけり★★★
木々の枝の躍る眼下や野分荒れ★★★

9月22日(4名)

小口泰與
ちょんちょんと水輪生み出す蜻蛉かな★★★
柔らかき風に包まる秋の沼★★★
稲妻や書肆に逃げ込む女学生★★★

多田有花
<近大病院三句>
わが足で歩くは嬉し秋の夕暮★★★
夜の雨あがりし秋の金剛山★★★
秋分をはさみ点滴始まりぬ★★★

桑本栄太郎
秋雨やうすく色づく庭の木々★★★
桜木の早も色づくうす紅葉★★★
歩き行く辻に色づく花梨の実★★★

弓削和人
朝がおの蕊しろたえに萌えいづる★★★
アサガオの花びら瑠璃に託したり★★★
露二つ寄りて一つになりたしや★★★
「なりたし」が問題です。写生が大事です。(髙橋正子)


9月21日(4名)

小口泰與
曙につと鳴き出せる鶲かな★★★
水澄むや赤城の裾野つばらなる★★★
ごうごうと蝦蟇の吠えるや秋の沼★★★

廣田洋一
莢隠元細長く垂れ下がりけり★★★
道端の隠元畑や緑濃し★★★
紫の日毎濃くなる式部の実★★★

多田有花
<近大病院三句>
秋彼岸ようやく病名定まるか★★★

点灯が終える病棟の長き夜(原句)
「点灯によって、病棟の長い夜が終わる」という意味だと思いますが、一読してすぐには、わかりにくいです。(髙橋正子)
点灯され病棟の長き夜が終わる(正子添削)

傷の癒え歩行許可おり爽やかに★★★

桑本栄太郎
夢語る星の夜空や賢治の忌★★★★
下冷えや目覚めて想うよべの夢★★★
秋彼岸哀しかりけり父の夢★★★

自由な投句箱/9月11日~9月20日

※当季雑詠3句(秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。

今日の秀句/9月11日~9月20日

9月20日(1句)

★雲の色白曼殊沙華にうつりけり/弓削和人
白曼殊沙華の色が、雲の色がそのまま「うつった」ような柔和で清純な印象だというのだ。「うつる」は。「映る」「移る」の意味を含んでいる。(髙橋正子)

9月19日(1句)

★田が暮れて藁塚の影失えり/弓削和人
田んぼに立っている藁塚は、昼間はまだ日差しもつよく、影ができている。ところが日が暮れ、田んぼが暮れてくると、藁塚の影が無くなった、という。目の付け所が面白い。(髙橋正子)

9月18日(1句)

★黒雲の至り来る下胡麻叩く/小口泰與
胡麻の実が乾いたので、叩いて実をとろうとすると、黒雲が向こうからやってきた。今にも雨が降りそうだ。急いで胡麻を叩いて実をとらねば。「胡麻叩く」ころの天気の変わりようがリアルだで彫り深い。(髙橋正子)

9月17日(2句)

★雨脚の駈け寄り来るや松手入/小口泰與
松の手入れをしていると、向こうから雨脚は駆け足で近づいてくるのが見える。松の青さ、雨脚の白さが印象付けられ、動きのある光景が季節をよく洗わしている。(髙橋正子)

★薄紅のわが目を引きぬ新生姜/廣田洋一
新生姜はみずみずしさは、薄紅の色をもってみずみずしさが増していることである。買うときもその薄紅色に惹かれてかうことになる。(髙橋正子)

9月16日(1句)

★天高し団地の庭に草刈り機/桑本栄太郎
空が高く晴れ渡って、団地の庭では、草刈り機が音を立てて、草の葉を飛ばしている。夏の間に伸びた草が刈られ、団地の庭がさっぱりとして気持ち良い。
(髙橋正子)

9月15日(1句)

★威し銃未明の空気ふくみ鳴る/桑本栄太郎
威し銃は、朝早くから鳥を威して鳴る。未明の空気を含み、いかにも朝の威し銃らしい音である。稔田の朝模様がいい。(髙橋正子)

9月14日(1句)

★溝そばや流れと云えぬ溝川に/桑本栄太郎
流れと言えそうにないくらいの細い溝川。それを覆うように茂る溝そば。花は可憐ながら、たくましくもある。自然体の詠みかた、その景色に好感がもてる。(髙橋正子)

9月13日(1句)

★陸橋を渡ればとんぼ集い来る/桑本栄太郎
陸橋を渡り、違う場所へ移ると、とんぼが集まってくる。陸橋の幅の距離だから、それほど場所を移動したわけではないのに、とんぼが集まってくる。陸橋を渡ったところは、風までが違って思える。(髙橋正子)

9月12日(句)

★きちこうや五つの角のぴんと張り/弓削和人
「きちこう」は桔梗(ききょう)のこと。桔梗の蕾はふくらむと五角形になる。きっちりとした形は、角がはっきりして、ぴんと張った形だ。自然界の形に面白さを見た。(髙橋正子)

9月11日(1句)

★我が膝へ蜻蛉とまりぬ暁の沼/小口泰與
暁の沼のほとりに座っていると、人とも思わず蜻蛉が膝にとまった。沼のほとりで、何かをまって座っているときは、自然に同化していると言えるのだろう。蜻蛉がそれを教えている。(髙橋正子)