●添削1月③●

[1月13日~19日]

▼1/19

●古田 敬二
穏やかに花の香溜めて枇杷畑★★★
青空へ花の香放つ枇杷畑★★★
西の風枯れ葦原のまっ平ら★★★

●小西 宏
亀島の松雪こぼす鳥の声★★★
雪道に雀降り来て餌のあるや★★★
鶺鴒の黒駆け抜ける池氷★★★
この句に詠まれたのは背黒鶺鴒で留鳥である。薄く氷の張った池を背黒鶺鴒がつつつつっと走り抜けた。池の氷と鶺鴒の走り方に、「薄く、軽やかな」感覚を感じる。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
やわらかく信貴や生駒嶺冬がすみ★★★
十字架の峰に白きや山眠る★★★
ハイウェイの朝や日差しの寒ともし★★★

●河野 啓一
六甲の雪道はるか神戸港★★★
名湯へ辿りゆく道霜の道★★★
枯れ葎林を囲み風に揺れ★★★

●小口 泰與
十州に囲まる国や桜鍋★★★
ふたまわり靴も大きく冬休★★★★
丑三つに起きるや霜夜覚ゆなり★★★

●迫田 和代
霜焼けの手をこすりつつ走る人★★★
土手道の木々の冬芽に動きあり★★★
雲も無く冬の夕焼遠山や★★★

●多田 有花
たなごころ天に向けたり六花★★★★
雪の舞う頂に立てば光る海★★★
寄鍋をつつけば学生時代なり★★★

▼1/18

●藤田 洋子
寒禽の丘高々と広々と★★★★
高々と、また広々としているのは、寒禽の丘。寒禽がよく鳴き、自由に飛ぶ丘が想像できる。鳥たちの自由な世界は、作者ののびやかな心の証と言える。

枯芝の丘踏みしめて日の匂い★★★
丘晴れて桜冬芽の枝の張り★★★

●佃 康水
掬い揚ぐ鋤簾へ光る寒蜆★★★ 
寒風に吹かれて傾ぐ蜆舟★★★ 
日の光り抱き咲き満つ寒桜★★★

●桑本 栄太郎
雲上がる嶺はうつすら雪の山★★★
トンネルを出でて京菜の冬の畑★★★
降り止みてよりの茜や寒夕焼け★★★

●河野 啓一
風寒し風花は地を転びゆく★★★
雪花の舞えば箕面の山暗し★★★
寒苺ハウスでぬくぬく育てられ★★

●小口 泰與
金星を支えし日の出霜柱★★
我が里へ風花放つ遠嶺かな★★★★
朽舟の風に揺れけり綿氷★★★

●多田 有花
ケータイ変更待春の街に出る★★★
室咲きは名札をつけて並びおり★★★
(阪神淡路大震災忌日)
灯火を集めて祈る厳寒に★★★

▼1/17

●祝 恵子
裂けし樹に見事に咲いて冬ざくら★★★
山茶花やおみくじ白くしろく結い★★★
なで牛の黒ぐろと坐しどんどの火★★★

●桑本 栄太郎
寒晴れの車窓広がり睡魔来る★★★
青々と家並みに近し葱畑★★★
高階の寒拆遠き夜更かな★★★

●黒谷 光子
店先に選る花春を先駆けて★★★
街に出て雪の伊吹の真正面★★★★
伊吹山はがっしりとした男性的な山で、日本百名山の一つに挙げられる霊峰。世界一の積雪を記録した豪雪地帯とも聞く。街に出ると、真正面に伊吹山が捉えられる。深く雪を冠った霊峰に真向かったとき、心に大きくわき立つものがある。(高橋正子)

留守うちのポストに句集冬ぬくし★★★

●河野 啓一
歌会の声朗々と小正月★★★
寒林を映し野の池鳥集う★★★★
冬灯し昆陽池(こやいけ)巡る震災忌★★★

●古田 敬二
冬耕す草は深きへ根を伸ばす★★★★
霜解けて畑に光りうまれけり★★★★
向かい風赤き尖りの薔薇冬芽★★★

●小口 泰與
寒暁の空いっぱいを紅に染め★★★
ラガー等の影の長きや利根河原★★★★
ラガー等の広場狭しと長き影★★★

▼1/16

●小西 宏
池凍り小鷺寄せ合う丸い肩★★★
白菜の鉢巻ならぶ雪の畑★★★
雪原に深深と影桜木々★★★

●佃 康水
手造りを惜しみ放りぬ飾り焚き★★★ 
青竹の爆ぜて傾げりとんど焚き★★★★
青竹が組まれて立っていたのが、燃えて爆ぜ、節の力をなくして傾ぐ。つやつやとした青竹さえも崩れる淋しさ。正月もすっかり終わり、歳月は新しく進む。(高橋正子)

牛の背に止まりて啼きぬ寒鴉★★★ 

●桑本 栄太郎
追い越して枯野過ぎ行く新幹線★★★
くだら野や三川集い淀川に★★★
まだ蒼き空に尖りし寒の月★★★

●河野 啓一
黄昏の小道を二人日脚伸ぶ★★★
冬空を見やる明るく白きかな★★★
寒椿照り葉の陰に蕾見ゆ★★★

●古田 敬二
靴底へごつごつ当たる霜の土★★★
手袋の指先攻め来る霜の土★★★
凍て土をつかんで雑草緑濃し★★★

●多田 有花
寒月がテニスコートにかかりけり★★★
午後八時寒気一段強くなり★★★
熱々のシリアルを食ぶ寒暁に★★★

●藤田裕子
紅茶の香やさしき夜の寒の雨★★★
朝の空気山茶花の白を色濃くし★★★
小正月午後は美容院の人の和に★★★

●小口 泰與
熱燗や山風荒き松林★★★
青空へ入日の紅や寒紅梅★★★
湯豆腐や山風荒き里に住み★★★

▼1/15

●古田 敬二
黒々と優しき土よ冬耕す★★★
冬眠のミミズを起こす畝作り★★★
白き根が土掴みいる葱を抜く★★★★

●川名ますみ
次々と花芽は雪を弾きけり★★★★
寒さのなか、花をつけるものはしっかりと花芽をつけている。降る雪を花芽は弾いて、花芽に積もることはない。花芽の尖り、花芽の力を思う。(高橋正子)

初雪を光らせ黒し梅の枝★★★
初雪を載せし花芽のまるまると★★★

●河野 啓一
奥丹波山また山の雪なれば★★★
水音の低く箕面の山眠る★★★
どんど焼き鄙の社の賑わいに★★★

●桑本 栄太郎
ハウス戸を開けて寒肥畑の昼★★★
鉄柱を叩く金具や冬の風★★★
塊まつて緋を誇りけりピラカンサ★★

●多田 有花
トルコより届きし絨毯やわらかく★★★
この冬はストーブひとつで過ぎにけり★★★
雲晴れて遠嶺は雪の化粧かな★★

●小西 宏
夜となれば雪想うだけ窓明り★★★
雪掻きの手のほこほこと温みくる★★★
光るもの鈍(にび)なるものもみな冬芽★★★★
光の当たる冬芽はよく光っている。一方光りの当らない冬芽は鈍い光を放っている。それらは、どちらも冬芽で、日向にも、日陰にも、冬芽が「今」をしっかりと育っている。(高橋正子)

●迫田 和代
古戦場無縁仏に冬日さし★★★
窓近くつぎつぎ咲ける春の花★★★
何処までも広くて澄んだ冬の空★★★

●小口 泰與
雲ひとつ無き空に聳ゆる雪浅間(原句)
雪浅間聳ゆ雲一つ無き空に★★★★(信之添削)
白鳥の羽根いっぱいに入日かな★★★
白鳥の荒れ起つ波へ夕日射す★★★

▼1/14

●古田 敬二
眼の隈の見える近さに冬目白★★★
豊かなる胸の丸さや冬目白★★★
寒禽の寄りくる心静まれば★★★★
「心静まれば」がよい。静かなところ、穏やかなところに、鳥たちは安心して寄ってくる。厳しい寒さの中を生きていれば、なおさらのことと思う。(高橋正子)

●高橋 秀之
ネットから成人の日の晴れ姿★★★ 
冬木立向こうは大空薄日差す★★★ 
膨らんで餅を片手に持ちきれず★★★

●多田 有花
瀬戸内の冬山霞をまといけり★★★
ステンレスマグの温か寒の雨★★★
画材買い寒夕焼けを見て帰る★★★

●小西 宏
軽やかに雲つぎつぎと寒椿★★★★
里山の薄墨影や雪の薙ぐ★★★
雪載せて屋根黄昏に沈みゆく★★★

●桑本 栄太郎
寒晴や早も花菜の無人店(だな)★★★
ゆさゆさと風に起さる枇杷の花★★★
枯草の刈られし畦の風のまま★★★

●河野 啓一
枯れ枝のしとどに濡れて春を待つ★★★
雨止むや柿の古木に鳥の影★★★
一輪の小さきバラの開き初め★★★

●小口 泰與
枯芝に影を伸ばせし大廂★★★
郷住みは風を友とす冬菫★★★
冬麗や赤城の松の深みどり★★★

●藤田 洋子
葉牡丹の雨後のきらめき朝始まる★★★
水仙の揺れるがままに香りくる★★★
一月におろす俎板木の香り★★★★

▼1/13

●桑本 栄太郎
剪定の瘤跡白き冬の庭★★★
南天の黄色もありぬ冬館★★★
溜まりいる水のさざ波冬田晴れ★★★

●川名ますみ
俎板に林檎さりさり切られけり★★★★
「さりさり」が林檎の本質をよく表している。俎板に薄く切られた林檎は、色も香も爽やかである。(高橋正子)

林檎煮てバニラエッセンスの甘さ★★★
とろとろと杓文字に混ざる林檎ジャム★★★

●多田 有花
頂に車座餅入りラーメンを★★★
殻つきの牡蠣なら三日は大丈夫★★★
寒入日ヨットハーバー照らしおり★★★

●河野 啓一
窓開けて飛びこむ朝日春隣★★★
日脚伸ぶ古木の幹も肌色に★★★
冬ぬくし餅焼く網の光りいて★★★

●小口 泰與
葱畑の畝の深さや猫の道★★★
寒暁の三日月紅の帯に浮く★★
湖の風低きを流れ年流る★★★

1月14日(月)

 石鎚山
★雪嶺にこだま返すには遠き  正子
石鎚山を近くから見たことはないのですが、峻厳な、神性を感じさせる山だと聞いています。とりわけ、雪をまとう姿は荘厳なものなのでしょう。こだまが返ってくる(あるいは、こだまを求めて呼びかける)には遠く感じるというのは、単に距離のことだけではなく、そうした深い思いを秘めてのことなのだろうと思います。連帯止めの余韻が響きます。(小西 宏)

○今日の俳句
枯原を高さ自由に熱気球/小西 宏
広い枯原の上に熱気球が、さまざまに浮いている。「高さ自由に」はのどかな景色で、夢がある。(高橋正子)

○寒椿

[乙女椿(寒中に咲く椿)/横浜日吉本町] [寒椿(山茶花との交雑種)/ネットより]

★竪にする古きまくらや寒椿 野坡
★折り取つて日向に赤し寒椿 水巴
★瀞の岩重なり映り寒椿 石鼎
★寒椿少しく紅を吐きにけり 青邨
★寒椿咲きたることの終りけり 風生
★寒椿落ちたるほかに塵もなし 悌二郎
★寒椿月の照る夜は葉に隠る 貞
★寒椿線香の鞘はしりける 茅舎
★ことごとに人待つ心寒椿 汀女
★くれなゐのまつたき花の寒椿 草城
★何といふ赤さ小ささ寒椿 立子
★寒椿けふもの書けて命延ぶ 林火
★園丁の昼煙草寒椿かな/村山古郷
★寒椿落ちたるほかに塵もなし/篠田悌二郎

★寒椿というや雪の公園に/高橋正子

寒椿は、広辞苑によれば、(1)寒中に咲く椿と(2)ツバキ科の常緑中低木とに分けられている。(1)寒中に咲く椿は、乙女椿(おとめつばき)・大神楽(だいかぐら)・侘助(わびすけ)などであり、(2)ツバキ科の常緑中低木は、椿と山茶花の交雑種とされるツバキ目ツバキ科ツバキ属のひとつの「寒椿」である。ツバキ目ツバキ科ツバキ属の「寒椿」は、「山茶花」との区別が難しく、低木で枝と葉に毛がある。花は紅色の八重咲きで、やや小さく、11月~1月頃開花する。

◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・芽柳」(横浜・四季の森公園)

1月13日(日)

★正月の山の落葉のかく深し   正子
「正月」と「落葉」という季語が重なっているが、その重なりに、作者の「正月」であることの思いが強く、そして深く伝わってくる。表現が正直であることが強みでもある。(高橋信之)

○今日の俳句
澄みていし枯野に響く貨車の音/迫田和代
枯れが進んでくると、枯れも澄んだ感じとなる。枯野を長い貨車がことことと走り抜けて行く音が、人間的な懐かしさをもって訴えている。(高橋正子)

○榠樝(かりん)

[榠樝(かりん)/横浜日吉本町(2012年10月20日)]_[榠樝(かりん)/横浜日吉本町(2013年1月8日)]

★くらがりに傷つき匂ふかりんの実/橋本多佳子
★かりんの実しばらくかぎて手に返す/細見綾子
★売り家の庭に花梨が熟れている/川上杜平
★テーブルに置いて花梨の実が匂う/高橋正子
★花梨の実祭り幟がはためくに/高橋正子

 かりんの実を手にすると、いい匂いと表皮のねっとりした感触が伝わる。色合いも形も文人好みである。一つ二つのかりんをもらっても、何にしてよいのかわからないまま、テーブルなどに飾りのように置く。そして、その傍でものを書いたりしていると、その匂いに倦んでくる。そしてついに捨てられる。かりん酒などは、たとえ思いついても、作りはしない。かりんの実が熟れるころ、在所の祭りがある。墨痕鮮やか祭りの幟をはためかす風に、かりんは黄色く色づくのだ。
 カリン(榠樝、学名:Chaenomeles sinensis)は、バラ科ボケ属の落葉高木である。その果実はカリン酒などの原料になる。カリン、ボケ、クサボケは互いに近縁の植物である。 なお,日本薬局方外生薬規格においてカリンの果実を木瓜として規定していることから,日本の市場で木瓜として流通しているのは実はカリン(榠樝)である。
 原産は中国東部で、日本への伝来時期は不明。花期は3月〜5月頃で、5枚の花弁からなる白やピンク色の花を咲かせる。葉は互生し倒卵形ないし楕円状卵形、長さ3〜8cm、先は尖り基部は円く、縁に細鋸歯がある。未熟な実は表面に褐色の綿状の毛が密生する。成熟した果実は楕円形をしており黄色で大型、トリテルペン化合物による芳しい香りがする。10〜11月に収穫される。実には果糖、ビタミンC、リンゴ酸、クエン酸、タンニン、アミグダリンなどを含む。適湿地でよく育ち、耐寒性がある。花・果実とも楽しめ、さらに新緑・紅葉が非常に美しいため家庭果樹として最適である。

平成25年3月号(花冠)

ものみな清し
高橋正子
沼奥に蒲の穂絮の飛びづづけ
冬芽の尖り真青き空に差し入りて
紫も白も葉牡丹雪被り
風邪に臥しものみな清しクリスマス
侘助の蕾銀色鐘の音に
侘助へ寺の障子の白き張り
水仙のつぎつぎ花を昨日今日
蝋梅を透かせて空は大いなる
初富士の遠嶺明るし葛飾に
霜柱すくすく育てローム層

◇生活する花たち「冬椿・冬の梨園・冬田」(横浜市緑区北八朔)

1月12日(土)

★水仙を活けしところに香が動く  正子
庭に咲いている水仙は、辺りにいい香りを放っています。その水仙を切って、部屋の花器に活けると、又そこにもいい香りが漂ってきました。「香が動く」に水仙の香りの豊かさが感じられ、素敵な表現に感銘いたしました。 (藤田裕子)

○今日の俳句
湯気立てて私の時間愉しめり/藤田裕子
「愉しめり」がいい。「私の時間」がいい。主婦の日常を詠んだ、作者のささやかだが、充実した生活が伝わってくる。この句を読めば、読者も「愉しめり」の境地になる。(高橋信之)

○檸檬(レモン)

[レモン/横浜日吉本町]

★檸檬青し海光秋の風に澄み/西島麦南
★冷蔵庫レモンスライス蔵ひ置く/宮津昭彦
★レモン切るより香ばしりて病よし/柴田白葉女
★嵐めく夜なり檸檬の黄が累々/楠本憲吉
★暗がりに檸檬泛かぶは死後の景/三谷昭
★舌平目半切檸檬絞りけり/能村研三
★恋ふたつレモンはうまくきれません/松本恭子
★レモンはいつも人を信じている彩だ/徳永操

 レモン(檸檬、英語: lemon、学名: Citrus limon)は、ミカン科の1種で、柑橘類の1種の常緑低木。またはその果実のこと。原産地はインド北部(ヒマラヤ)。樹高は3mほどになる。枝には棘がある。葉には厚みがあり菱形、もしくは楕円形で縁は鋸歯状。紫色の蕾を付け、白ないしピンクで強い香りのする5花弁の花を咲かせる。果実はラグビーボール形(紡錘形)で、先端に乳頭と呼ばれる突起がある。最初は緑色をしているが、熟すと黄色になり、ライムにもよく似ている。
 レモンは柑橘類の中では四季咲き性の強い品種である。鉢植え・露地植えのいずれでも栽培が可能であるが、早期の収穫を目指す場合は鉢植えの方が早く開花結実する。栽培品種の増殖は主に接木・挿し木で行なわれる。日本での栽培地は主に、蜜柑などの柑橘類の栽培地と同じである。
 主に果汁を食用に利用する。非常に酸っぱく、pHは2を示す。レモンを絞るには専用のレモン絞り(スクイザー)が用いられることが多い。薄く輪切りにした果実は、紅茶の風味付けにしたり(レモンティー)、切り込みを入れてグラスの縁に差し、コーラなどの炭酸飲料やカクテルの飾りにされる。
 レモンを題材とした作品に、梶井基次郎『檸檬』:主人公が檸檬を爆弾にみたて、丸善を爆破する幻想に駆られる物語、さだまさし『檸檬』:梶井の小説をヒントにしつつ、舞台を御茶ノ水に置換え、青春時代の恋愛の無常さを描いた楽曲、ヨハン・シュトラウス2世 『レモンの花咲くところ』(シトロンと訳す場合もあり)、高村光太郎 『レモン哀歌』妻智恵子との死別を書いた詩、などがある。

◇生活する花たち「冬桜・水仙・万両」(横浜日吉本町)

1月11日(金)

 藤沢
★きらきらと靴かがやせ冬の坂  正子
藤沢まで足を延ばされた時の御句かと存じます。冬の澄んだ空気の中で坂路を元気よく上がっててゆく女性の足元。冬の日の陽光を反映してきらきらと耀いて見えます。先生ご自身を詠まれたのかもしれないと思いました。(河野啓一)

○今日の俳句
さわさわと光と影を水仙花/河野啓一
水仙に日の光りが当たると、花にも葉にも影ができる。日のあたるところはより輝いて、当たらないところは静かに深く影ができる。その光と影が「さわさわ」とした印象なのは、水仙の姿から受け取られるものであろう。(高橋正子)

○金柑

[金柑/横浜日吉本町]             [金柑/東海道53次藤沢宿]

★金かんや南天もきる紙袋 一茶
★乳児泣きつつ金柑握り匂はしむ/加藤楸邨
★金柑を煮てぬくもりし妻の頬/小林康治
★金柑のありたけ点る観音堂/高澤良一
★金柑は黄に仏塔は金色に/佐野五水
★金柑のほほ笑みを掌につつむなり/田村 實
★金柑の一樹とありし少年期/宮地玲子
★金柑の甘煮に移る日ざしかな/井上 雪

 キンカン(金柑)は、ミカン科キンカン属 (Fortunella) の常緑低木の総称。別名キンキツ(金橘)。中国の長江中流域原産で、英語などの「Kumquat」もしくは「Cumquat」は「金橘」の広東語読み「gam1gwat1 (カムクヮト)」に由来する。
 果実は果皮ごとあるいは果皮だけ生食する。皮の中果皮、つまり柑橘類の皮の白い綿状の部分に相当する部分に苦味と共に甘味がある。果肉は酸味が強い。果皮のついたまま甘く煮て、砂糖漬け、蜂蜜漬け、甘露煮にする。甘く煮てから、砂糖に漬け、ドライフルーツにすることもある。果実は民間薬として咳や、のどの痛みに効果があるとされ、金橘(きんきつ)という生薬名でいうこともある。果皮にはヘスペリジン(ビタミンP)を多く含む。観賞用として庭木として植えられることも多い。剪定に強いので生垣や鉢植え、盆栽にもできる。広東省や香港では、旧正月を迎える際に柑橘類の鉢植えを飾ることが多く、キンカンも好まれる。

◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・芽柳」(横浜・四季の森公園)

1月10日(木)

★寒林を行けばしんしん胸が充つ  正子
落葉樹は葉を落としてしまい、寒むざむとした冬の森を歩けば寒さが胸いっぱいに沁み渡り冬の厳しさを感じます。 (小口泰與)

○今日の俳句
冬落暉瞳に残し帰宅せり/小口 泰與
冬落暉のイメージとしてその荘厳さが目に浮かぶ。今日の無事を思い、明日もそうであることを願う落暉を自分の心に取り込んだ思いがよい。厳しい寒さの一日の終わりなればこそ。(高橋正子)

○葉牡丹

[葉牡丹/横浜日吉本町]

★葉牡丹のおごる葉のありしづむあり/吉岡禅寺洞
★葉牡丹にうすき日さして来ては消え/久保田万太郎
★葉牡丹やわが想ふ顔みな笑まふ/石田波郷
★葉牡丹の一枚いかる形かな/原石鼎
★二株の葉牡丹瑠璃の色違ひ/西山泊雲
★葉牡丹の深紫の寒の内/松本たかし
★紫も白も葉牡丹雪被り/高橋正子

ハボタン(葉牡丹 Brassica oleracea var. acephala f. tricolor)は、アブラナ科アブラナ属の多年草。園芸植物として鮮やかな葉を鑑賞するが、観葉植物より一年草の草花として扱われる事が多い。名前の由来は、葉を牡丹の花に見立てたもの。 耐寒性に優れ、冬の公園を彩るほか、門松の添え物にも利用されるが、暖地では色づかず、寒地では屋外越冬できない。様々に着色した葉が、サニーレタスのように同心円状に集積した形態のものを鑑賞する。大別して葉に葉緑体以外の色素を持たない品種と、赤キャベツ同様に色素(アントシアニン)を持つものがあり、一定以下の低温に晒されてから出葉すると葉緑素が抜け、白やクリーム色、または紫、赤、桃色等に色づく。 それまでに分化した葉が周縁部を緑色に縁どり、着色した中心部の葉とのコントラストが美しい。主に冬期の花壇やプランターなどで、屋外栽培される。花は黄色で4-5月に開花するが、観賞の対象とされず、薹が立つ前に処分されてしまうことが多い。 但し、近年は薹が立って(節が伸びて)葉の密集した形態が崩れた状態を愛でる人もある。 また、多年草として育てれば樹木のような枝を出し、それぞれの枝の先端にハボタンがついた姿(踊りハボタン)となる。

◇生活する花たち「冬椿・冬の梨園・冬田」(横浜市緑区北八朔)

1月9日(水)

★初旅にみずほの山の青を飛び  正子
新年になって初めての旅は飛行機。東京から故郷への旅でしょうか。天気も良く、眼下に山脈を望むことができる。日本の美称である「みずほ」の山の青を飛ぶという詠み方惹かれます。今日だけは日常の多忙から少し離れて旅する高揚感をも感じます。 (古田敬二)

○今日の俳句
寒禽の影滑る野に鍬を振る/古田敬二
野に懸命に鍬を振っていると、寒禽の影が滑っていった。土と我との対話があって、寒禽がそれに色を点じて景がたのしくなった。添削は、「冬禽」を「寒禽」として、鳥のイメージを際立たせ句に緊張感をもたせた。(高橋正子)

○沈丁花の蕾

[沈丁花の蕾/横浜日吉本町(2013/01/06)]_[沈丁花の花/横浜日吉本町(2012/03/11)]

★沈丁花どこかでゆるむ夜の時間/能村登四郎
★疲れゐて沈丁の香をすぐまとふ/加倉井秋を
★沈丁花の赤き蕾や路地晴れて/廣瀬雅男
★沈丁の蕾びっしり立ち止る/芝尚子
★沈丁花香り待つ日の紅蕾/成木文作
★沈丁の蕾の明日を待つことも/高橋信之
★卒業のときが近づく沈丁花/高橋正子

沈丁花は、蕾を付けてから咲くまでが長い。紅色の蕾を見ると、いつ咲くかと待たれるが、咲いたことに気付くのはその匂いが漂って来てからである。子どものころ、生家には沈丁花がなかったが、すぐ前の家の上級生の家に沈丁花があった。一緒によく遊んだが、沈丁花が咲くころになると、呼び寄せて、沈丁花の花の匂いを嗅がせてくれた。紅色の内側に反る白い花弁が魅力で、この白いところが匂っているのだと子どものころは思っていた。はたしてどこが匂っているのであろう。その匂いは、卒業の季節の希望と不安の入り混じったおぼつかない感覚を象徴していると思える。
★沈丁花どこかでゆるむ夜の時間/能村登四郎
★疲れゐて沈丁の香をすぐまとふ/加倉井秋を
上の二句は、沈丁花の咲くころの人間の感覚をよく捉えた実感の句だと思う。「ゆるむ夜の時間」は、次第に暖かくなってくる三月のふっくらとした夜の時間、そして、「疲れゐて」は、春浅い頃のなんとなくの疲労感が詠まれていて、私も実感するところである。

 ジンチョウゲ(沈丁花)は、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「冬椿①・冬椿②・山帰来の紅葉」(横浜・綱島)

1月8日(火)

★初旅にみずほの山の青を飛び  正子
新しい年を迎え、心も新たに飛行機でお出かけなのですね。機内の小窓からは青々とした山々をはるかに見渡すことができ、日本列島上空を飛ぶことの晴れやかさが、「みずほの山」と詠まれたことからも伝わってくるようです。(小川和子)

○今日の俳句
治水橋
何処までも青空冴ゆる橋向こう/小川 和子
人は「橋」に特別な思いを寄せることが多い。橋の向こうは、知らない町へと続く。橋向こうの冴えた青空にその続きを思うこともある。(高橋正子)

○福寿草(元日草)

[福寿草/横浜・四季の森公園]

★花よりも名に近づくや福寿草 千代女
★小さくても昇殿すなり福寿草 一茶
★暖炉たく部屋暖かに福寿草 子規
★日の障子太鼓の如し福寿草 たかし
★南窓にはれし筑波や福寿草/大竹孤悠
★福寿草家族のごとくかたまれり/福田蓼汀
★福寿草ひらきてこぼす真砂かな/橋本鶏二

 フクジュソウ(福寿草、学名:Adonis ramosa)は、キンポウゲ科の多年草。別名、ガンジツソウ(元日草)。毒草である。1月1日の誕生花。日本では北海道から九州にかけて分布し山林に生育する。シノニム(同一種を指す同意語)の種小名である amurensis は「アムール川流域の」という意味。花期は初春であり、3-4cmの黄色い花を咲かせる。当初は茎が伸びず、包に包まれた短い茎の上に花だけがつくが、次第に茎や葉が伸び、いくつかの花を咲かせる。この花は花弁を使って日光を花の中心に集め、その熱で虫を誘引している。その為、太陽光に応じて開閉(日光が当たると開き、日が陰ると閉じる)する。葉は細かく分かれる。夏になると地上部が枯れる。つまり初春に花を咲かせ、夏までに光合成をおこない、それから春までを地下で過ごす、典型的なスプリング・エフェメラルである。根はゴボウのようなまっすぐで太いものを多数持っている。
 春を告げる花の代表である。そのため元日草(がんじつそう)や朔日草(ついたちそう)の別名を持つ。福寿草という和名もまた新春を祝う意味がある。江戸時代より多数の園芸品種も作られている古典園芸植物で、緋色や緑色の花をつける品種もある。正月にはヤブコウジなどと寄せ植えにした植木鉢が販売される。ただし、フクジュソウは根がよく発達しているため、正月用の小さな化粧鉢にフクジュソウを植えようとすると根を大幅に切りつめる必要があり、開花後に衰弱してしまう。翌年も花を咲かせるためには不格好でもなるべく大きく深い鉢に植えられたフクジュソウを購入するとよい。露地植えでもよく育つ。また、根には強心作用、利尿作用があり民間薬として使われることがある。しかし、毒性(副作用)も強く素人の利用は死に至る危険な行為である。薬理作用、毒性共にアドニンという成分によるものと考えられている。花言葉は永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福。

◇生活する花たち「冬桜・水仙・万両」(横浜日吉本町)

●添削1月②●


[1月6日~12日]

▼1/12

●小西 宏
散り残る枯葉の高き空であり★★★
俊敏の百舌鳴き去りて枯林★★★
枝高く欅の紅し冬日和★★★

●川名ますみ
寒晴へクレーン昇り枝を伐る★★★
枝を伐るゴンドラ広き寒晴へ★★★
クレーンの伸び寒晴の深き青★★★

●多田 有花
島影の淡さや春の遠からじ★★★
寒ぬくし相生湾より船の音★★★
日脚伸ぶ海を間近に露天の湯★★★

●桑本 栄太郎
南天の葉の色たたえ冬日和★★★

耳よぎる風に音なき枯野かな★★★★
風はものに当たって音を立てる。広い枯野に立てば、風は耳元をよぎるだけで、音は聞こえない。枯野の広さ、さびしさが
自然と一体となって詠まれている。(高橋正子)

山風にしきりに傾ぎ芒枯る★★★

●河野 啓一
よせ鍋の湯気に笑顔のデイの午後★★★
冬旱切り株の水呑み去れる小鳥かな★★★
水仙の花芽おずおず伸び出でし★★★

●古田 敬二
新築の槌音遠くに寒の入り★★★
黒土を強くつかめり冬の草★★★★
冬の草除けば優しき土となる★★★

●迫田 和代
遠くより水仙の香や風と共に★★★
寒の内たたけば響くような空★★★
暮れていく冬空仰ぎ星数を★★★

●小口 泰與
葉牡丹へえくぼの日差し差しにけり★★★
大廂ぎいと揺れけり虎落笛★★★
白菜をうず高く積み山隠す★★★

▼1/11

●古田 敬二
白き根が土こぼしけり葱を抜く★★★★
冬耕す土へ真昼の陽の眩し★★★
冬耕の鍬を休んで句を記す★★★

●佃 康水
陽射し背に牧への坂の梅探る★★★ 
冬晴れや一直線の飛行雲★★★ (広島魚市場) 
潮の香の溢るる露地へ風花す★★★

●小西 宏
枯れて立つメタセコイアの広い空★★★★
枯れ枝に富士透け見える西明かり★★★
湯豆腐の湯気のぼり行く灯りまで★★★

●桑本 栄太郎
たたずみて峰を退かざり冬がすみ★★★
樋つたう水の音冴ゆる山田かな★★★
吹きぬける風の一途や冬田晴れ★★★

●多田 有花
寒の川静かに夜明けを映しおり★★★
寒禽の次々に来る柿の枝★★★
並ぶ雲明るく照らし日脚伸ぶ★★★

●河野 啓一
雨戸繰る冬日の歓が窓いっぱい★★★
待春の並木車窓に眺め行く★★★
凍蝶のそろりそろりと日溜まりに★★★

●小口 泰與
朝日受けみどり艶増す冬菜かな★★★
赤蕪を抜きて浅間を仰ぎけり★★★
麦の芽や日の良く当る幼稚園★★★★
対象の把握が大きく、「麦の芽」も「日のよく当たる」「幼稚園」に、優しい心情が読みとれる。(高橋正子)

▼1/10

●高橋 秀之
さくさくと踏みしむ雪は異国の地★★★ 
吐く息の全てが白き旅の朝★★★ 
展望棟街の明かりと冬の星★★★

●小西 宏
風邪熱に骨から寒し夜の目覚め★★★
枯れ果てて白き芒の日向かな★★★
煙突の煙冬日にゆるり伸ぶ★★★

●河野 啓一
霜柱踏みてバリバリ子の駆ける★★★★
霜柱をばりばりと踏んで、寒さもなんのその、駆けてゆく子が頼もしい。子どもが活発で、健康で明るいのは見ていてもよいものだ。それを言葉を飾ることなく率直に詠んだところがよい。(高橋正子)

寒中と云えど雑木の薄き色★★★
蝋梅を求めさすらう苑の中★★★

●黒谷 光子
謡初め白髪の佳き人と和す★★★
観劇のついで参りの初恵比寿★★★
福笹を持つ人四条の雑踏に★★★

●桑本 栄太郎
歩むほど身体緩むや寒日和★★★
人住まぬごとく鎮もり冬の村★★★
如才なくつぼみ群れおり寒つばき★★★

●多田 有花
寒中の日ごと明るき山路かな★★★
枯れきって播州平野に雲の影★★★
寒落暉夕餉の支度の窓に差す★★★

●祝 恵子
寒の朝まな板の音よく響く★★★★
七草の白き肌持ち皮をむく★★★
丁寧に七草の根を切ってゆく★★★

●藤田 裕子
一月の空は声なく晴れ渡り★★★★
あおあおと七草菜占め店先を★★★
松過ぎの花器へたっぷり水注ぐ★★★

●小口 泰與
雲割れて日をこぼしけり冬の薔薇★★★
葉牡丹へ淡き午後の日急ぎけり★★★
手袋を通す痛さや朝ぼらけ★★★

▼1/9

●下地 鉄
裏白の縮みて白く盆にある★★★                          
寒空に刈られて並ぶ木トポロチ★★★
衰えて絵の現れてくる独楽回し★★★

●桑本 栄太郎
北側の蔽いてありぬ冬菜畑★★★
青空に身を晒しおり枯芙蓉★★★
寒菊の葉の衰えど色褪せず★★★

●古田 敬二
花枇杷の香りよ遠き故郷よ★★★★
来る時も帰る時にも枇杷の花★★★
花枇杷の香に癒されて森をゆく★★★

●多田 有花
初打ちのゲームに勝ちて心地よし★★★
寒の陽がよちよち歩きの子に優し★★★
日のあたる寒の坂道下りゆく★★★

●河野 啓一
枯れ落葉掃き清めあり教会の門★★★
実南天ほどよく剪って松に添え★★★
火事伝う記事痛ましく飛ばし読む★★★

●小口 泰與
夕づくと何時もの事ぞ虎落笛★★★
霜枯れて咲くに咲かずや冬の薔薇★★★
浅間へとこぞりて向ける冬芽かな★★★

●迫田 和代
瀬戸内の海を区切るか牡蠣筏(原句)
瀬戸海を区切りて冬の牡蠣筏(正子添削)★★★★
穏やかな瀬戸内海ではあるが、冬は寒々として黒く浮かぶ牡蠣筏が力強く印象的である。その様子が、瀬戸海を「区切りて」となる。もとの句は、「区切るか」と疑問の「か」を用いているが、俳句では、率直に自分の気持ちを述べるのがよい。(高橋正子)

風を受け大空高く凧揚げや★★★
寒い道行き着く先の幸せを★★★

●小川 和子
航跡や正月の富士近付けり★★★
寒茜濃くなり港に灯の滲む★★★
柔かき寒の湯に四肢とき放つ★★★

▼1/8

●古田 敬二
うれしきは今年も輝く龍の玉★★★
薮柑子低きに赤き実を隠す★★★
寒禽の樹間飛ぶとき翅光る★★★

●下地 鉄
あらたまの娘と祝うバースデイ★★★ 
ストーブの今日の訃報のうす灯り★★★  
侘助のかすかな揺れや妻の顔★★★

●桑本 栄太郎
竹林の黒く影為し寒夕焼け★★★★
寒夕焼けは、しばしの間、竹林を影として黒く浮き立たせた。そしてたちまちに消えるのである。寒夕焼けの本質を力強く捉えている。(高橋正子)

橋の灯の眼下につづく寒ともし★★★
暗闇の空に真白き冬木かな★★★

●多田 有花
霜踏んで通学の子らが通りけり★★★
晩冬やきっちりたたむダンボール★★★
一月を逃さぬように心して★★★

●河野 啓一
万象の凍てつく朝の白い息★★★
空晴れて今日は初出の診察日★★★
枯れ枝に鵯来り日向ぼこ★★★

●小川 和子
新春の竹林に瀬の音絶えず★★★
寒桜空へ花芽のほの紅く★★★
七草粥芹のみどりの香りけり★★★

●小口 泰與
しののめの尖る妙義や霜柱★★★★
寒暁の尖る妙義と尖る波★★
あけぼのの手足冷たき散歩かな★★★

▼1/7

●小西 宏
枝細く小さき紅の梅蕾★★★
枯野駆け犬振り返る夕日影★★★
狼星の地に在る凍てに大望す★★★

●桑本 栄太郎
凍晴やうす雲遠き嶺の奥★★★
遠嶺の更に遠のき冬がすみ★★★
七日早や電気ドリルの工事音★★★

●下地 鉄
遠海の礁に光る初日の出★★★  
朝湯して初詣するやまおかな★★★
大音響の初湯に揃うなじみ顔★★★

●多田 有花
温室にカトレアいっぱい咲く新春★★★
寒晴れに木々の伸びやか枝広げ★★★
人日のくまなく晴れて暖かし★★★

●古田 敬二
子に持たす野菜掘りけり霜の畝★★★
鉛筆と句帳をつかむ懐手★★★
霜の道森へまっすぐ伸び光る★★★★

●藤田 洋子
初みくじ結ぶ小枝に風そよぐ★★★★
初詣で引いたおみくじは、なんと出たのであろうか。そっと見て折りたたんで小枝に結ぶ。境内には風がそよぎ、穏やかないいお正月である。(高橋正子)

川浅く水の寒さの透けている★★★
雨溜めて葉牡丹の渦幾重にも★★★

●佃 康水
袴着で真芯に放つ弓始め★★★  
寒梅の紅差す蕾みな空へ★★★ 
陽を浴びて中洲へ鴨の同じ向き★★★

●河野 啓一
冬麗ら碁仇迎え打初める★★★
湯気ほのか七草粥の朝食(あさげ)かな★★★
自家製の七草粥や香り佳し★★★

●小口 泰與
またひとり母家の縁へ日向ぼこ★★★
中腹の寒燈消ゆる露天の湯★★★
あけぼのの赤城颪ぞ何物ぞ★★★

▼1/6

●桑本 栄太郎
きらきらと日差し眩しく寒に入る★★★
山茶花の公園通りや朝の路地★★★
ストーブの蒸気噴上げ句を推敲★★★

●多田 有花
護摩焚きの太鼓の音や松の内★★★★
火を清浄なもとのして護摩が焚かれる。煩悩が火と共に天へと昇華され、また願いなどが叶うことを祈るようであるが、太鼓の音に火の勢いが増し、まして、松の内なので、めでたい。(高橋正子)

山歩き六日の日差し楽しめり★★★
買初にひとつ手に取る福袋★★★

●小西 宏
集い来て手水に遊ぶ寒雀★★★
寒入の芝生を駆けて凧を引く★★★
白帯の縁まだ硬き初稽古★★★

●河野 啓一
初旅や京の都の雪の空★★★
焼蟹の身の白さ愛で宴かな★★★
大吉の御籤うれしき鄙社★★★

●藤田裕子
あかあかと万年青の実燃え子ら発てり★★★★
冬星座きりりと光り施錠の時★★★
数の子を噛む母笑顔多くなり★★★

●小口 泰與
政変わるや否や虎落笛★★★
空っ風日の射しこみし茶の間かな★★★
犬の毛も掃かるる朝の暖炉かな★★★

1月7日(月)/七草

★七草の書架のガラスの透きとおり  正子
正月七日、ようやく日常に戻る七草のころ、きれいに磨かれた書架のガラスに、整然と並ぶ書物が見えるようです。年の始めの清々しさとともに、清潔感漂うお暮らしもうかがえます。(藤田洋子)

○今日の俳句
刻ゆるやかに七草粥の煮ゆるなり/藤田洋子
主婦にとって、正月はなにかと落ち着かなく過ぎるが、七草のころになると一段落する。ふつふつと煮える七草粥に、「刻ゆるやかに」の感が強まる。(高橋正子)

○霜柱

[霜柱/横浜日吉本町]

★戦没の友のみ若し霜柱/三橋敏雄
★掌に愛す芙美子旧居の霜柱/神蔵器
★ふと踏んで瞬の童心霜柱/林翔
★昼の灯のもとの消えざる霜柱/宮津昭彦
★凸凹の人の道なり霜柱/高橋将夫
★霜柱さわさわ育てローム層/高橋正子
 愛媛・出石寺
★霜柱苔の真下にきらめき伸び/高橋正子

一月六日、日吉五丁目の丘を歩く。丘の上の農家に空地があって、そこには、剪定した木の枝などが積まれ、こぶしなどもある。その土の崩れかけたところに霜柱ができていた。五センチ位もあろうか。靴で踏んでしまって気付いたが、すぐ傍を見ると、霜柱が育っている。 植物と言えそうなほどの成長だ。畑に置く霜とはまた別のものだ。

愛媛に出石寺という寺がある。雲海の上にあって、そこで春先に俳句の合宿があった。八十八ケ所のお参りが一度にできるような小遍路が作ってあって、その路だったと記憶している。なにしろ、四十数年前のことなのだが、その石仏の並ぶ路に苔を持ち上げて、霜柱が育っていた。伸びすぎてやや曲がっている。これほどまで成長した霜柱は初めてだったので、印象は鮮烈だった。

霜柱(しもばしら)とは、地中の温度が0℃以上かつ地表の温度が0℃以下のときに、地中の水分が毛細管現象(毛管現象)によって地表にしみ出し、柱状に凍結したものである。霜柱の発生メカニズムはまず地表の水分を含んだ土が凍る。そこで、凍っていない地中の水分が毛細管現象で吸い上げられ、地表に来ると冷やされて凍ることを繰り返して、霜柱が成長するというものである。霜柱は地中の水分が凍ってできたものであり、霜とは別の現象。固まった土では土が持ち上がりにくいため霜柱は起こりにくく、耕された畑の土などで起こりやすい。また、関東地方の関東ロームは土の粒子が霜柱を起こしやすい大きさであるため、霜柱ができやすい。霜柱が起こると、土が持ち上げられてしまい、「霜崩れ」と呼ばれるさまざまな被害をもたらす。植物は根ごと浮き上がってしまい、農作物が被害を受ける。これを防ぐため、断熱材として藁を地面に敷き詰め地表の温度を地中の温度に近づけ、気温との断熱を行う。斜面などでは霜柱により浮き上がった土が崩れやすくなり、侵食が起きやすくなる。霜柱を見かけることが少なくなったという地域が増えているとの声もある[1]。地球温暖化による影響も考えられるが、都市部や郊外ではヒートアイランド現象による影響もあるほか、道路が舗装されて水分が少なければ霜柱は形成されない。地表と地中の温度差が必要なため、霜より短い期間しか起こらない。主に冬期に見られる現象なので、冬の季語となっている。

◇生活する花たち「蝋梅①・蝋梅②・さんしゅゆの実」(横浜・四季の森公園)