3月3日(日)/雛祭

★雛菓子の届きてからのうららかさ   正子
春まだ寒い時季の雛祭りを前に、一箱の雛菓子が届けられた。彩とりどりの雛あられを小さな高杯に盛るのも愉しい。菱餅も飾ろうか。たちまちうきうきと気分が華やいできます。 (河野啓一)

○今日の俳句
一枝の桃を活けたりひな祭り/河野啓一
一枝の桃の花で、ひな祭りがずいぶん円かになる。あかるく、あたたかく、かわいらしい桃の花は、やはり、雛の節句に相応しい。(高橋正子)

○桃の花

[桃の花/横浜日吉本町]

★故郷に桃咲く家や知らぬ人/正岡子規
★百姓の娘うつくし桃の花/正岡子規
★桃咲くや古き都の子守唄/正岡子規
★雛の影桃の影壁に重なりぬ/正岡子規

★両の手に桃とさくらや草の餅/松尾芭蕉
★葛飾や桃の籬も水田べり/水原秋桜子
★風吹かず桃と蒸されて桃は八重/細見綾子
★桃咲いて五右衛門風呂の湯気濛々/川崎展宏
★金貸してすこし日の経つ桃の花/長谷川双魚

 モモ(桃、学名は Amygdalus persica L.で[1][2]、Prunus persica (L.) Batsch はシノニムとなっている[3]。)はバラ科モモ属の落葉小高木。また、その果実のこと。春には五弁または多重弁の花を咲かせ、夏には水分が多く甘い球形の果実を実らせる。中国原産。食用・観賞用として世界各地で栽培されている。
 3月下旬から4月上旬頃に薄桃色の花をつける。「桃の花」は春の季語。桃が咲き始める時期は七十二候において、中国では桃始華、日本は桃始笑と呼ばれ、それぞれ啓蟄(驚蟄)の初候、次候にあたる。淡い紅色であるものが多いが、白色から濃紅色まで様々な色のものがある。五弁または多重弁で、多くの雄しべを持つ。花柄は非常に短く、枝に直接着生しているように見える。観賞用の品種(花桃)は源平桃(げんぺいもも)・枝垂れ桃(しだれもも)など。庭木として、あるいは華道で切り花として用いられる。
 葉は花よりやや遅れて茂る。幅5cm、長さ15cm程度の細長い形で互生し、縁は粗い鋸歯状。湯に入れた桃葉湯は、あせもなど皮膚の炎症に効くとされる。ただし、乾燥していない葉は青酸化合物を含むので換気に十分注意しなければならない。
 7月 – 8月に実る。「桃の実」は秋の季語。球形で縦に割れているのが特徴的。果実は赤みがかった白色の薄い皮に包まれている。果肉は水分を多く含んで柔らかい。水分や糖分、カリウムなどを多く含んでいる。栽培中、病害虫に侵されやすい果物であるため、袋をかけて保護しなければならない手間の掛かる作物である。また、痛みやすく収穫後すぐに軟らかくなるため、賞味期間も短い。生食する他、ジュース(ネクター)や、シロップ漬けにした缶詰も良く見られる。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月2日(土)

★手渡されながら花桃散りいたり   正子
手渡されるそばから、はらはらと散る花桃。咲き満ちた花桃の一枝から散りこぼれる柔らかな花びらの美しさが思われます。手から手への温もりが伝わる、春の明るくあたたかな情景です。(藤田洋子)

○今日の俳句
桃の花馴染みの声の店先に/藤田洋子
桃の花が店に活けてある。店先に馴染みの声が聞こえて、「あら」と思う。桃の花には、気取らない、明るい雰囲気があるので、「馴染みの声の店先に」言ってみるのだ。日常の一こま。(高橋正子)

○ヒアシンス(風信子)

[ヒアシンスの花/横浜日吉本町]

★一筋の縄ひきてありヒヤシンス/高浜虚子
★敷く雪の中に春置くヒヤシンス/水原秋桜子
★銀河系のとある酒場のヒヤシンス/橋石
★誰もゐなくて満開の風信子/如月美樹

★ヒアシンス白水仙とあわせ活け/高橋正子
★ヒアシンスの香り水より立つごとし/高橋正子

ヒアシンスともいう。小アジア原産。草丈20センチほど。色は白・黄・桃色・紫紺・赤など。香りが高い。ヒヤシンスの名は、ギリシャ神話の美青年ヒュアキントスに由来する。彼は愛する医学の神アポロンと一緒に円盤投げに興じていた。その楽しそうな様子を見ていた西風の神ゼピュロスは、やきもちを焼いて、意地悪な風を起こした。その風によってアポロンが投げた円盤の軌道が変わり、ヒュアキントスの額を直撃してしまった。アポロンは医学の神の力をもって懸命に治療するが、その甲斐なくヒュアキントスは大量の血を流して死んでしまった。ヒヤシンスはこの時に流れた大量の血から生まれたとされる。
ヒヤシンスは花茎がまっすぐで意外と頼もしい。しかし優艶。こんなところからか、特に青い花を見ていると美青年が髣髴される。
ヒヤシンスを植えたところは踏まれないように縄を一筋張って置く。縄を張るなんていかにも昭和らしい。今日2月29日は朝から粉雪が舞い、2センチほど積もっている。春の雪が敷く花壇にヒヤシンスが咲けば、そこだけ「春」が置かれたようになる。虚子、秋桜子と対照的な句だが、ヒヤシンスの姿をよく表わしている。わが家では、年末水栽培のヒヤシンスを買い、早も咲いていたのだが、花の匂いを楽しんだ。水栽培で子どもたちでも楽しめる。

以上の文は、2月が29日あった最近の年の文。つまり、2012年。
今年も年が明けてヒアシンスの鉢植を近所の花屋で買って楽しんだ。薄い紫を選んだ。一鉢に三球ある。花は全部で六本咲いた。一球から二本ずつ花が咲いた。二本目が立ちあがるころ最初の花の茎が斜めに倒れるので切り取って花瓶やコップに挿した。ヒアシンスが一番似合ったのはキッチン。薄紫ばかりで単調なので散歩の途中、山裾の捨て球根から育った蕾の水仙を二本摘んで来て一緒に挿して置いたら、とても清楚なまっしろな水仙が開いた。それが、またヒアシンスと特別よく似合った。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

●添削3月①●

[3月1日~4日]

▼3/4

●河野啓一
鳥声もひときわ高く三月に★★★★
「ひときわ高く」に春が来うれしさがよく出ている。鳥の声もはつらつとして生命感があるのが嬉しい。(高橋正子)

旧友の訃報も遠し春浅し★★★
受験子をを囲碁の相手に誘いけり★★★

●佃 康水    
広島県大竹市雛流し3句
晴れ着の児袂持たれて雛送る★★★
見返るが如く向き変え流し雛★★★
小さき手で折敷に添える雛あられ★★★

●迫田和代
丁寧にきちんと並べる古い雛★★★
はんなりと淡く柔らか雛あられ★★★
蔵の中広くて可愛い吊るし雛★★★

●小口 泰與
たらの芽や支流溢れてごうごうと★★★
花林糖かりっと噛むやうららけし★★★
春風や一糸乱れぬ庭の木々★★★

●黒谷光子
冴え返る伊吹おろしに真向かいて★★★
雪残る湖北を囲む山並に★★★
残雪の伊吹連なる山々★★★

●多田有花
カーテンを開ければ春暁むらさきに★★★
黙々と春の山ゆく楽しさよ★★★
高枝を鳴き交わしつつ四十雀★★★

●桑本栄太郎
ひし形の雛寿司弁当買いにけり★★★
一片の雲無き朝や冴返る★★★★
葦焼きの再開なりし宇治河原★★★

●川名ますみ
水仙の低きに咲くを見つけたり★★★★
この句の生命は「低きに咲く」にある。低いところは、木の下か、道の下か、幾分の湿りもあるだろう。そういったところに咲く水仙には、日向の水仙よりも陰影を帯びた魅力がある。(高橋正子)

春雨に人の差し出す傘大き★★★
運転手大きな傘を春雨へ★★★

▼3/3

●古田 敬二
はくれんの光を纏う蕾かな★★★
出勤の子へ春の陽の高くなる★★★
咲きかけの蕾や畔のイヌフグリ★★★

●多田有花
春寒の森に響きしチェーンソー★★★
まずわが家指差す春の頂で★★★
播磨富士七合目まで春の雪★★★

●高橋秀之
春風にすっきり近し生駒山★★★
店内に幾度も流れる雛まつり★★★
友の雛飾りいくつもネット見る★★★

●桑本栄太郎
冴返るとは云え陽射しの輝きぬ★★★

鷹揚に目鼻の容や土ひひな★★★★
土雛の素朴さの魅力である。鷹揚な目鼻の容に、親しみとあたたかさを感じる。(高橋正子)

眼差しの遠き追憶古ひひな★★★

●小西 宏
自転車を漕ぐまで育ち雛祭★★★
春緋鯉ゆれ陽の満てる街の川★★★
孫帰り雛壇に菓子あった場所★★★

●河野 啓一
娘の声に想い出したる雛祭り★★★
ラディッシュの葉を喰う鳥よ春浅し★★★
春潮の寄せて播磨は須磨の浦★★★

●小口 泰與
蝋梅のほろほろ散るや雨の中★★★
春の日やばらの新芽のあえかなる★★★
榛名湖の耀う波や風光る★★★

▼3/2

●高橋 秀之
雨の夜明けて大気は冴え返る★★★
早朝の雨の滴や梅一輪★★★
春寒し白む夜空と街路灯★★★

●河野 啓一
箕面より下りきて春の小川かな★★★
つくし摘む土手の下草すべすべと★★★
ひな祭り散らし寿司かなデイの昼★★★

●桑本 栄太郎
白そろい紅の綻ぶ丘の梅★★★
梅白し午後から雨の気配かな★★★
丘上の吾の独りや梅の園★★★

●小西 宏
池底を亀這って泥春めけり★★★
梅蕾はじけて一つ花の白★★★
雲の間に青空淡し梅の花★★★

●多田 有花
朝の窓描きおりなば雉の声★★★★
描いていると、朝の窓から雉の声が聞こえた。まだまだ寒いと思っていながらも野山の雉の声を聞くとまさに春を感じる。(高橋正子)

春北風に檜の木立軋みあう★★★
白梅に次々目白渡り来る★★★

●古田 敬二
夕餉には咲きかけ菜花をお浸しに★★★★
菜花がよく出回るようになった。蕾のものが一番よいというが、少し咲きかけて黄色い花の色が見えるのお総菜なら美味しく楽しめる。心安らかな夕餉。(高橋正子)

芋植える準備の畝の平行線★★★
薄氷を揺らす触れ合う音かすか★★★

●迫田 和代
春になり鳥の囀り軽やかに★★★
低く咲く足もとにパッと春の花★★★
梅が咲き蕾のむこう青い空★★★

●小口 泰與
うすうすと梅の蕾のほぐれしか★★★
滔々の利根や奥利根春の鳥★★★
山風や大内宿の風車★★★

▼3/1

●高橋 秀之
左胸に花を挿したる卒業生★★★★
卒業生の左胸を飾る花。卒業を祝う花を一人一人が付けてもらって、誇らしく卒業してゆく。皆の祝意の籠った花だ。(高橋正子)

涙あと残し電車に卒業生★★★
大小の浅蜊取り出す一つずつ★★★

●藤田裕子
和紙とりて雛のやさしき目と逢いぬ★★★★
雛を取り出して飾るとき、お顔を覆っていた和紙の薄紙を取り外すと、雛のやさしい目と逢った。しばし、お顔を眺めたであろうが、雛を飾る嬉しさもこんなところにあるのかもしれない。(高橋正子)

軸の雛桃色淡く寄り添える★★★
春一番伊予路弾ませ到来す★★★

●桑本 栄太郎
剪定の枝先匂い春めける★★★★
春になると、空気が暖かくなるせいか匂いが立ちやすくなる。剪定した枝先からも木の良い香りが立って、春めいた思いになる。(高橋正子)

刻々と雨の気配や暖かし★★★
三月や噛む音哀しく義歯入れる★★★

●佃 康水
川底に光りあまねき水草生う★★★★
水草生い流れのままに靡きけり★★★
船笛の鳴り交う瀬戸や大霞★★★

●小西 宏
かろやかに小川せせらぎいぬふぐり★★★
竹の葉に空見上げれば春の光★★★
うっすらとして白梅の芽の緑★★★

●多田 有花
春日傘横断歩道を渡りゆく★★★
春荒れに身体傾け少年は★★★
三月やパステルカラーのラグを買う★★★

●河野 啓一
賑やかに一筋春の小川かな★★★
雨上がり芽出し愉しきチューリップ★★★
白梅のようやく咲きし庭の隅★★★

●小口 泰與
芥菜や山風強き里の朝★★★
青ぬたや信濃の里へ墓参り★★★
あけぼのの磁器の冷たき春火鉢★★★

※好きな句の選とコメントを下の<コメント欄>にお書き込みください。

3月1日(金)

★雛飾り今宵雛と灯を分かつ   正子
お雛様を飾っているお部屋でのことでしょう。お雛様にも詠者にも同じ灯を分け合っている。嬉しい雛飾りのひと時です。(祝恵子)

○今日の俳句
雨降るよ軒下で抱く桃の花/祝恵子
桃の花を買って帰る途中か。雨が降りだした。止むのを待って軒下で雨宿り。桃の花と春先の雨の湿った空気は馴染みがよい。桃の花の咲くころは降ったかと思うと上がり、また降るという雨の降り方が多い。(高橋正子)

○きのう、花冠同人会長の小西宏さん、信之先生、それに私と花冠30周年記念の花冠特別号について会食しながら話す。場所は、北山田のファミレスのデニーズ。いつものイタリア料理店チーチョに行ったが、改装工事中のため、近くのデニーズになった。私は、久しぶりにビーフシチューを注文した。十分なほうれん草のソテーと、人参、じゃが芋が添えてあった。こういう野菜の摂り方は、ひと昔前の外食のイメージとは変ったと思う。アンバランスにもデザートに白玉あずきを注文した。4時間近く話した。

○ネット短信
■ネット短信No.181/2013年2月28日発信
□発信者:高橋正子(花冠代表)
□電話:045-534-3290

◆ご案内/小西 宏◆
既にご覧になった方もおられるかと思いますが、私もつい最近拝見する機会があったのでご紹介させていただきます。
「文学の森」発行の月刊「俳句界」3月号(通巻200号記念)に「俳句の未来人結社期待の新人52」の一人として、高橋句美子さんがカラー写真入りで紹介されています。
また、同誌の別冊付録「平成名句大鑑」には「現代俳句を代表する俳人500名の、代表句5000句」として、高橋信之先生、高橋正子先生の俳句がそれぞれ10句ずつ掲載されています。

月刊「俳句界」3月号
噴水の真っ直ぐ立ちて虹生る      高橋句美子

「平成名句大鑑」
水平線寒き一本沖に引く         高橋信之
雪載せてものの形の明らかに
永き日のここはどこかと振り返る
さくらさくらさくらさくらてのひらに
囀りの強き一声して去れる
海青あお記憶の夏と一つになる
赤とんぼ群れる辺りの空気がきれい
秋天の青つつぬけの一色に
わが影の付き来て楽し寒き日も
刈田の上の空までが何もない

こどもらが密かに葛湯吹いている     高橋正子
スイートピー眠くなるほど束にする
白バラの空気を巻いていて崩る
わが視線揚羽の青に流さるる
ライン上る巨船の人の裸かな
鐘の音のわれを包んで夏空へ
胸内に今日の夏野を棲まわせる
水に触れ水に映りて蜻蛉飛ぶ
手袋に手を入れ五指を広げみる
もろもろもパンも年越す楽しさよ

句美子さんは今日本で最も期待される新人の一人として注目されているわけですし、信之先生、正子先生は平成に入ってからこれまで、現代俳句を代表する優れた俳人の一人として評価されているのだと思います。ご家族3人がそろって、同時にこれほど高い評価を得ることはめったにないことなのではないでしょうか。
月刊「俳句界」はすこし大きな書店では取り扱われていると思いますので、まだご覧になっておられない方はちょっと覗いてみてはいかがでしょうか。当然のことですが、他の優れた俳人先生方のすばらしい俳句(平成に入ってからの作品)も堪能することができます。

■□花冠雑詠投句箱
5月号投句の締切は3月10日です。
http://blog.goo.ne.jp/kakan12/
■□3月ネット句会のご案内
花冠3月ネット句会の投句期間:2013年3月10日(日)午前0時~午後6時ですが、
事前投句が許されます。
※句会場(投句選句場所):
下記ブログ(花冠ネット句会掲示板)
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d
●高橋正子の俳句日記(ブログ)
http://blog.goo.ne.jp/kakan02/
●インターネット俳句センター
http://kakan.info/

○猫柳

[猫柳/東大・小石川植物園(2013年2月14日]_[猫柳/横浜・四季の森公園(2012年3月22日)]

★ぎんねずに朱ケのさばしるねこやなぎ/飯田蛇笏
★ひもすがら日は枯草に猫柳/松村蒼石
★猫柳奈良も果てなる築地越し/加藤楸邨
★猫柳高嶺は雪をあらたにす/山口誓子
★そばへ寄れば急に大きく猫柳/加倉井秋を
★ときをりの水のささやき猫柳/中村汀女
★二月はや天に影してねこやなぎ/百合山羽公
★猫柳四五歩離れて暮れてをり/高野素十
★猫柳大利根ゆるぎなく流れ/渡辺潔
★猫柳今日水音の高きこと/稲畑汀子
★谿風の鳴る日鳴らぬ日猫柳/山田弘子
★猫柳水を鏡に呆け初む/皆川盤水
★子を肩に猫柳しかない空ぞ/加藤かな文
★水音は川幅を出ず猫柳/鷹羽狩行

★猫柳さざ波向こうから寄せて/高橋正子

ネコヤナギ(猫柳、学名:Salix gracilistyla)は、ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木。山間部の渓流から町中の小川まで、広く川辺に自生する、ヤナギの1種である。北海道〜九州までの河川の水辺で見られ、早春に川辺で穂の出る姿は美しいものである。他のヤナギ類の開花よりも一足早く花を咲かせることから、春の訪れを告げる植物とみなされる。他のヤナギ類よりも水際に生育し、株元は水に浸かるところに育つ。根本からも枝を出し、水に浸ったところからは根を下ろして株が増える。葉は細い楕円形でつやがない。初夏には綿毛につつまれた種子を飛ばす。花期は3〜4月。雌雄異株で、雄株と雌株がそれぞれ雄花と雌花を咲かす。高さは3mほど。銀白色の毛で目立つ花穂が特徴的であり、「ネコヤナギ」の和名はこれをネコの尾に見立てたことによる。花穂は生け花にもよく用いられる。ネコヤナギの樹液はカブトムシやクワガタムシ、カナブン、スズメバチの好物である。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

2月28日(木)

★梅林の影あわあわと草にあり   正子
梅は桜に比べると花びらが小さく華やかさと言うよりも仄かな香りに清楚・気品・上品さを感じます。「影あわあわと」の措辞でその淡さを強調され、枝にバラバラと散らばって咲いている梅の花がうっすらと影を落としている静かな梅林の景色が目に浮んで参ります。(佃 康水)

○今日の俳句
牛鳴いてサイロの丘に草萌ゆる/佃 康水
サイロのある丘に草が萌え、牛の鳴き声ものどかに聞こえる。あかるい風景がのびやかに詠まれている。(高橋正子)

○白梅紅梅

[白梅/横浜日吉本町]             [紅梅/横浜・四季の森公園]   

★梅や天没地没虚空没/永田耕衣
★白梅の散るを惜しみて偲ぶのみ/稲畑汀子
★白梅の満ちて声なき子となりぬ/頓所友枝
★梅の中に紅梅咲くや上根岸 子規
★紅梅や湯上りの香の厨ごと/岡本眸
★紅梅に空あをくなれ青くなれ/林翔

○梅
 梅 (うめ、学名:Prunus mume)は、薔薇(ばら)科。開花時期は、1月中旬頃から咲き出すもの、3月中旬頃から咲き出すものなど、さまざま。漢名でもある「梅」の字音の「め」が変化して「うめ」になった。中国原産。奈良時代の遣隋使(けんずいし)または遣唐使(けんとうし)が中国から持ち帰ったらしい。「万葉集」の頃は白梅が、平安時代になると紅梅がもてはやされた。万葉集では梅について百首以上が詠まれており、植物の中では「萩」に次いで多い。別名は「好文木」(こうぶんぼく)、「木の花」(このはな)、「春告草」(はるつげぐさ)、「風待草」(かぜまちぐさ)。1月1日、2月3日の誕生花。花言葉は「厳しい美しさ、あでやかさ」

○白梅
禅のことば~「雪中の白梅」の意味すること 「雪裡の梅花只一枝」~迷いの世界でさとりを得る
「雪裡の梅花只一枝」(せつりのばいかただいっし)~辺り一面の銀世界のなかで、梅の木が枝を伸ばしている。降りしきる雪が積もるその枝の先には一輪の梅の花が咲き、ほのかな香りを放っている…。
「雪裡の梅花只一枝」。何だか光景が目に浮かぶような、イメージするだけでも素敵な禅語ですが、ここでいう「梅の花」とは、「さとり」をあらわすもの。厳しい寒さ(困難)を乗り越えてこそ、美しい梅花(さとり)があらわれるのだ、というものです。私たちの日常に置き換えれば「悲しみや苦しみ、困難なことを乗り越えた時に、人生の素敵な花を咲かせることができるのだ」とも言えそうです。でも、この禅語の美しさの源にあるのは、雪の中にあっても梅が花を咲かせたということ。
 厳しい冬が過ぎた時に梅が花を咲かせたのではなく、雪の中において既に花を咲かせていることが、何とも言えない凛とした気配を与えていることだと思うのです。それは、「苦しみや困難を乗り越えた時に花が咲く」のではなく「苦しみや困難の中にあっても、確かな花を咲かせることができるのだ」と、私たちを励ましてくれているようにも読み取れます。日常生活から離れたところにさとりの世界があるのではない。この迷いの世界の中に生きていても、そこで真実を得ることができる。一枝の梅が咲く姿に、そんな思いを重ねずにはいられません。ちなみにここでいう「梅の花」は、紅梅でしょうか? 白梅でしょうか? コントラスト的には断然紅梅に軍配が上がりそうですが、正解は「白梅」。雪中の白梅。これもまた、「苦しみや迷い」と「さとり」の関係を考えると、とっても意味深ですね。(「nikkei BPnet)

○紅梅
紅梅は白梅よりも晴れた空が似合う。50年以上前のある風景について鮮明に記憶がよみがえる。生家の隣に分家があって、そこに立派な紅梅が咲く。その季節は、分家(分家には慶応3年生まれ、漱石や子規と同い年の百歳のおばあさんが健在であった)の法事があり、遠い親戚の黒衣の人たちまでもがうららかな日差しに出入りする。そいうときの紅梅は、ひときわあでやかに見えた。まだ私は小学校低学年で非常に人見知りであっから、遠くから紅梅を眺めていた。故人の忌日は変わりなく、紅梅の咲く日も変わらない。
★紅梅は高くて黒衣まぶしかり/高橋正子
★紅梅咲く隣家に黒衣の人出入り/高橋正子

四季の森公園へ行った帰り道、辛夷が無数に蕾を付ける街路樹のある歩道を脇に入ったところ。紅梅の匂いがした。紅梅のあることを知らなかった場所にこれも無数の蕾を付けた紅梅の木が立っている。二本。ふくよかな匂いがする。かすかに薔薇のような匂いがする。まじまじと見れば童女のようにあどけない。

★おしばなの紅梅円形にて匂う/高橋正子
日記帳にひそかに挟み、忘れたころに見つかる。押し花になってもいい匂いがする。自分の、誰に見せるわけでもない小さな宝物である。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

2月27日(水)

★クロッカス塊り咲けば日が集う   正子
咲く色によって、清楚な花、可憐な花、明るい花といろいろに楽しめる豊かな花ですね。そのクロッカスが群生する様は、まさに春の日が集えるように暖かでしょう。句の音の響きも朗らかに感じられます。 (小西 宏)

○今日の俳句
枝ゆらし光ゆらして春の鳥/小西 宏
枝に止まった鳥が、枝移りをするのか枝が揺れる。それを見ていると、光も揺らしているのだ。枝を張る陽光に満ちた木、枝移りする鳥が、なんと早春らしいことよ。(高橋正子)

○犬ふぐり

[犬ふぐり/横浜・四季の森公園]

★陽は一つだに数へあまさず犬ふぐり/中村草田男
★下船してさ揺らぐ足や犬ふぐり/能村研三
★犬ふぐり牛を繋ぎし綱ゆるむ/皆川盤水
★犬ふぐり野川に水が鳴り始め/高橋正子
★犬ふぐり黄砂来ぬ日はすずやかに/高橋正子  

オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢、学名 Veronica persica)とはオオバコ科クワガタソウ属の越年草。別名、瑠璃唐草・天人唐草・星の瞳。路傍や畑の畦道などに見られる雑草。ヨーロッパ原産[1]。アジア(日本を含む)、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカに外来種(帰化植物)として定着している[1]。日本では全国に広がっており、最初に定着が確認されたのは1887年の東京である。早春にコバルトブルーの花をつける。まれに白い花をつけることがある[2]。花弁は4枚。ただしそれぞれ大きさが少し異なるので花は左右対称である。花の寿命は1日。葉は1–2cmの卵円形で鋸歯がある。草丈10–20cm。名前のフグリとは陰嚢の事で、実の形が雄犬のそれに似ている事からこの名前が付いた。ただし、これは近縁のイヌノフグリに対してつけられたもので、この種の果実はそれほど似ていない。したがって正しくはイヌノフグリに似た大型の植物の意である。

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

2月26日(火)

★さきがけて咲く菜の花が風のまま   正子
早春の野原などに、まずさきがけて咲く菜の花。その菜の花が、春風にやさしく揺れています。風のままに揺れる黄色の菜の花がとても美しく、見ている人の気持ちを楽しくしてくれます。「さきがけて」に、明るい春の訪れの喜びが感じられます。(藤田裕子)

○今日の俳句
風二月鳥よろこびの声散らし/藤田裕子
二月の、まだまだ寒い風に、鳥はもう「よろこびの声」を散らしている。真冬とは違う風の暖かさを知ったのだろう。野の生きるものたちは、季節の変化に敏感だ。(高橋正子)

○クロッカス

[クロッカス/横浜日吉本町]

★日が射してもうクロッカス咲く時分/高野素十
★クロッカス天円くして微風みつ/柴田白葉女
★クロッカスときめきに似し脈数ふ/石田波郷
★髭に似ておどけ細葉のクロッカス/上村占魚
★クロッカス咲かせ山住みの老夫婦/見学玄
★クロッカス光を貯めて咲けりけり/草間時彦
★忘れゐし地より湧く花クロッカス/手島靖一
★クロッカス苑に咲き満つ朝の弥撒/羽田岳水
★朝礼の列はみ出す子クロッカス/指澤紀子
★膝に乗せ遊ぶ子が慾しクロッカス/安藤三保子
★忽然と地から湧き出すクロッカス/安井やすお
★クロッカスはや咲き初めぬパリの窓/桜井道子

クロッカス (Crocus) は、アヤメ科クロッカス属の総称、または、クロッカス属の内で花を楽しむ園芸植物の流通名。耐寒性秋植え球根植物。原産地は地中海沿岸から小アジアである。晩秋に咲き、花を薬用やスパイスとして用いるサフランに対し、クロッカスは早春に咲き、観賞用のみに栽培されるため、春サフラン、花サフランなどと呼ばれる。球根は直径4cmくらいの球茎で、根生葉は革質のさやに覆われているが、細長く、花の終わった後によく伸びる。花はほとんど地上すれすれのところに咲き、黄色・白・薄紫・紅紫色・白に藤色の絞りなどがある。植物学上は、クリサントゥスCrocus chrysanthusを原種とする黄色種と、ヴェルヌスC. vernusを原種とする白・紫系の品種とは別種だが、園芸では同一種として扱われ、花壇・鉢植え・水栽培に利用されている。

◇生活する花たち「さんしゅゆの花蕾・沈丁花の蕾・木瓜」(横浜日吉本町)

2月25日(月)

★天城越ゆ春の夕日の杉間より   正子
天城峠を越えるゆっくりとした旅路。大きな杉の向こうから夕日が差し込みます。大らかな春の夕べに心和むひとときです。(川名ますみ)

○今日の俳句
梅ひとつ咲いて朝餉の一時間/川名ますみ
ゆっくりと進む朝餉の間、ほのかに香る一輪の梅の花。一輪の梅が咲いたよろこび、心が洗われる気持ち、それが意外にも大きい。(高橋正子)

○三椏の花

[三椏の花/伊豆修善寺(2011年2月22日)]_[三椏の花蕾/横浜四季の森公園(2012年1月26日)]

★三椏や皆首垂れて花盛り/前田普羅
★三椏の咲くや古雪に又降りつむ/水原秋櫻子
★三椏のはなやぎ咲けるうららかな/芝不器男
★三椏の花に暈見て衰ふ眼/宮津昭彦
★三椏や石橋くぐる水の音/渡邉孝彦
★三椏の花紅の雫せり/檀原さち子

 三椏は、蕾の期間が長いようだ。初詣に行けば神社の境内に蕾の三椏を見つけることがある。私は長い間、この蕾を花と思い違っていた。去年修善寺の梅林を訪ねたときに、それは二月下旬だったが、梅林の入口のバス停の近くに三椏の花が咲いていた。蕾がはじけて山吹色が内側に見えて、毬のように咲いていた。大変可憐な花である。横浜の四季の森公園のせせらぎ沿いに植えられているのが、いま最も身近にある三椏である。
 三椏の花でもっとも印象に残っているのは、四国八十八か所のお寺出石寺の山門の脇に咲いていたものである。ふもとからバスで山道をうねうねと登ると雲海の上に寺がある。雲海が寄せてくるところの三椏の花は、それが和紙の原料であるということも考えれば、生活の花として別の意味合いやイメージが湧いてくる。事実ふもとの大洲市は和紙の産地である。
 ミツマタ(三椏、学名:Edgeworthia chrysantha)は、ジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木。中国中南部、ヒマラヤ地方原産。皮は和紙の原料として用いられる。ミツマタは、その枝が必ず三叉、すなわち三つに分岐する特徴があるため、この名があり、三枝、三又とも書く。中国語では「結香」(ジエシアン)と称している。春の訪れを、待ちかねたように咲く花の一つがミツマタである。春を告げるように一足先に、淡い黄色の花を一斉に開くので、サキサクと万葉歌人はよんだ(またはサキクサ:三枝[さいぐさ、さえぐさ]という姓の語源とされる)。
 「赤花三叉(あかばなみつまた)」は、戦後、愛媛県の栽培地で発見され、今では黄色花とともによく栽培されている。

◇生活する花たち「クリスマスローズ・木瓜の蕾・枝垂れ梅」(横浜日吉本町)

●添削2月④●

[2月24日~28日]

▼2/28

●桑本 栄太郎
春めきて襟足すっきり髪を切る★★★★
春宵となりしねぐらへ群れ鴉★★
夕日落つ嶺の茜や二月尽★★★

●小西 宏
早春のさくら木々立つまるい空★★★★
やわらかに竹の音する春うらら★★★
肌なでるかぜ陽光よ梅蕾★★★

●河野 啓一
池の面のきらきら揺れて二月尽★★★
芽柳に触れつつ行く日池巡る★★★
寒き日の吾旅なりき二月尽★★★

●井上 治代
採りたてのほうれん草の甘さかな★★★
水温む小川で鍬を洗いおり★★★
サラダにとレタス切る音春めきぬ★★★

●黒谷 光子
春の月まどかに上がり松の上★★★
時おりは背筋伸ばして青き踏む★★★
入相の鐘の余韻や二月尽く★★★

●多田 有花
蔓を刈る人のありけり春日和★★★
東屋に梅を眺めつ笛吹く人★★★
暖かと言い合いそのまま別れけり★★★

●祝 恵子
ぬかるみの道を通りて梅まつり★★★
花三椏曲がれば水車まわす水★★★★
二人してよもやま話竹の秋★★★

●小口 泰與
山風をたばねて赤城冴返る★★★
たんぽぽや風の中なる山上湖★★★
青麦の同じ方へと波打てり★★★

●高橋 秀之
沖待ちの船を隠すは春霞★★★
穏やかに寄りつき引いて春の波★★★
海峡を染める大空春夕焼け★★★

▼2/27

●川名ますみ
鉢の梅やさしき影を絨毯に★★★
一輪のことりと落ちて梅に音★★★
花のいろ芽のいろ揺らし春ショール★★★

●河野 啓一
流氷の岸辺に寄せてオホーツク★★★
薄氷解けたる池の魚の影★★★
ヒヤシンス雨上がりたる街の明るさに★★★

●小西 宏
蹴る足に水したたらせ鴨の春★★★
陽の谷(やつ)に入りて知りけり梅一樹★★★
丘高き畑に雲浮き梅の影★★★

●古田 敬二
濡れた目で遠くに菜の花見てる牛★★★
春昼やホルスタインの背の黒光★★★
はくれんの蕾や天にざわめけり★★★★
はくれんの蕾や天にざわめける(正子添削)
はくれんの数多の蕾が膨らんできた。空の中でざわめいている感じだ。静かなものも、花の季節は落ち着かない。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
天窓の春日こぼれし広場かな★★★
ごみ袋持ちて散歩や春きざす★★★
紅梅の丸くふくらみつぼみけり★★★

●多田 有花
紅白梅そろい咲きたる谷となる★★★★
紅梅も白梅も咲き揃う谷が、のどかで明るい。特に「谷」という地形が詩情を生んでいる。(高橋正子)

雨上がり日の差す谷に初音して★★★
ドライブウェイ下りつつ停め梅見かな★★★

●黒谷 光子
生垣の根方蕾める黄水仙★★★
春の靄山の麓の村覆う★★★
※俳句では「春の靄」のことを「霞」といい、「秋の靄」のことを「霧」と言います。(高橋正子)

盆梅に賑わう街へ小買物★★★

●小口 泰與
朝日射す田水や芹を摘む人よ★★★
遠嶺の彫の定かや凍返る★★★
落椿堰にとどまる日暮かな★★★

▼2/26

●小西 宏
ベランダの春や雀の水くぐる★★★★
ベランダの小さな水鉢であろうか、雀が水をくぐる。その所作は眺めて楽しいものだが、そこに春を感じ取ったのは、俳句の目。(高橋正子)

陽だまりの窪地に梅のつぼみ愛ず★★★
森奥より囀り漏れる明るい日★★★

●桑本 栄太郎
生駒嶺の彼方に遠く春の雪★★★
高槻の畝間に水の風光る★★★
丘上の一木のみや梅白し★★★

●河野 啓一
パン屑をつつく雀ら春浅し★★★
春セーター誕生祝いの嬉しさに★★★
褒められし春帽子嫁の見立てかな★★★

●多田 有花
春めくや初めて求む油彩額★★★
森に差す陽に三月の近きかな★★★
春の陽や夕べは雨になる気配★★★

●小川 和子
持ち物を芽木に掛け子らボール蹴る★★★
ふらここの児の背を大き掌の押せり★★★
ふらここのチェーンに日射煌けり★★★

●古田 敬二
白梅の五弁に雄蕊の影薄く★★★
春野菜優しく袋を膨らます★★★
手折るには程よき長さ菜花摘む★★★

●小口 泰與
夕映えの沼や梅の香ひろごれり★★★
春浅し満天の星美しや★★★
雪の間の丘の傾斜や座禅草★★★

▼2/25

●古田 敬二
咲きかけの白梅花弁に丸みあり★★★
風花やふるさと遠く思いけり★★★
蝌蚪の紐待つ山の池光けり★★★

●藤田 洋子
下萌に自転車を立て岸の風★★★★
きらめいて川は二月の空映す★★★
川うすく濁りて午後の二月光★★★

●小西 宏
春の夜の外の面厳しき風の音★★★
笹竹の朝日に震う春の冷え★★★
早春の風遮れば陽の満てる★★★

●桑本 栄太郎
春日さす天窓明るきオフィスかな★★★
春雪の橋を往く間にふぶきけり★★★
梅が香の空にふくらみ紅かざす★★★

●多田 有花
空色の絵具数本買いし春★★★★
納税を済ませ早春の街へ★★★
伊予柑食ぶ果汁に指を濡らしつつ★★★

●小川 和子
春浅き芝生へ子らの声翔ける★★★
バラ園の枝に赤味の差す新芽★★★
ひいふうみい白梅数えるほどひらく★★★

●小口 泰與
蓬摘む榛名富士より雲一朶★★★
山風を身に溢れさせ蓬摘む★★★
葉を浮かせ渦まく瀞やうららなり★★★

▼2/24

●桑本 栄太郎
大阪府三島郡とや梅の花★★★
天王山春の夕日に染まりけり★★★
西を向く民家の土塀や春夕焼★★★

●多田 有花
春光やがたんごとんと列車音★★★
車きれいに洗われて春の陽に★★★
梅三分咲き真っ黒な犬がゆく★★★

●河野 啓一
苗作り乙女椿の挿し穂採る★★★
夕霞み生駒山麓まで昏し★★★
梅一樹紅色淡く香を放ち★★★

●小口 泰與
釣竿の手元飛びかう虻二匹★★★
熊蜂の貌に手足に花粉かな★★★
飛び交いて花粉を被ずく小花蜂★★★

2月24日(日)

★青空の果てしなきこと二月なる   正子
二月は少し暖かくなっては冴返るという日々が続きます。これは冴返った日の青空ではないでしょうか。厳しい寒さが空を澄み渡らせます。それでも青空に満ちる光は明るく間違いなく春が一歩ずつ進んでいることを実感します。(多田有花)

○今日の俳句
汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田 有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)

○菜の花

[菜の花/伊豆河津(2011年2月22日)]    [川岸の菜の花/伊豆河津(2011年2月23日)]

★菜の花や月は東に日は西に/与謝蕪村
★家々や菜の花いろの灯をともし/木下夕爾
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★菜の花の遥かに黄なり筑後川/夏目漱石
★菜の花の暮れてなほある水明り/長谷川素逝
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★一輌の電車浮き来る菜花中/松本旭
★寝足りたる旅の朝の花菜漬/稲畑汀子
★咳こもごも流転身一つ菜種梅雨/目迫秩父
★白鷺の飛びちがへるに菜種刈る/木村蕪城
★菜殻火に刻々消ゆる高嶺かな/野見山朱鳥
★うしろから山風来るや菜種蒔く/岡本癖三酔

★まんまるい蕾もろとも花菜漬け/藤田裕子
まんまるい、黄色も少し見える蕾もろとも漬物に付け込むには、心意気がいる。日常生活が身の丈で表現された句。(高橋正子)

★菜の花へ風の切先鋭かり/高橋正子
★菜の花も河津桜も朝の岸/高橋正子
★菜の花の買われて残る箱くらし/高橋正子

 菜の花(なのはな、英語:Tenderstem broccoli)は、アブラナまたはセイヨウアブラナの別名のほか、アブラナ科アブラナ属の花を指す。食用、観賞用、修景用に用いられる。アブラナ属以外のアブラナ科の植物には白や紫の花を咲かせるものがあるが、これを指して「白い菜の花」「ダイコンの菜の花」ということもある。
 3月のこの季節、菜の花は季節の食材として店頭にも多く並ぶようになった。3月18日に家族で椿山荘で食事をしたとき、菜の花のからし酢味噌かけがあった。天もりは、芽紫蘇。若い者たちも「菜の花のからし酢味噌かけ」が一番おいしかったと答えた。味のリズムと触感と彩りと季節感があったのだろう。

2011年2月23日(水)その②
 鈍行の旅はいかに。花見客が大勢いた駅も乗ってみれば、席は空いている。二人掛けの椅子に並んで駅弁を開いて食べていると、反対側の横長い椅子のおじさんが声を掛けてきた。「河津桜を見に行ったの。どこから来たの。」自分たちは男六人、仕事明けで花見に来て帰るところだという。そして、「おーい、みんなこっちへおいでよ。」と仲間を誘う。一人背の高い、六十過ぎの緑色のマフラーを巻いた人がやってきた。「親子で旅行ですか。お父さんはお仕事?」と聞く。句美子が「はい、そうです。」と答える。話はそれきり。すると向こうへ行って桜まんじゅうを持ってきて食なさいという。いただく。もうひとつ食べなさいという、またいただく。「うちには、息子と娘がいるが、二人ともフリーターでね。職がないんだが、若いものは、一度就職すると、そこをやめないんだって。」「お嬢さんは、学生さん?」「いいえ、社会人です。」「そうか、今度就職するのかね。」「いいえ、四年目です。」「そうか、二年目か。」と少しちぐはぐな話が続く。すると、もう一人やせた人がやって来て、前の座席に座った。「私は、東京出身で、ギタリストになるつもりだったんだが、左人差し指が曲がらなくなってね、有楽町のそごうの店員になったんだよ。でもさ、性に合わなくてやめて、指の治療も兼ねて熱海にやってきて、ホテルマンを昭和四十五年から定年までしたよ。」「じゃ、六十四,五歳ですか。」と私。みんなが笑った。「私は七十二歳ですよ。」と帽子を取って頭を見せてくれた。銀髪がうすく透けている。ホテルマンらしくスマートな身のこなし。「ホテルでは営業のフロントをやらなくては、一人前ではないよ。」「フロントは、本根のところお客の何を見ているんですか。」と私。「それは、お客様が何を要望しておられるかを見ていますよ。」と模範回答。職業が身についておられる。やがて熱川を過ぎる。今度は、入れ替わり、みんなをこっちへ来いと呼んだ人が前の席に来た。来たとたん、手に持っていたビール缶を転がしたので、大変。ティッシュだのを総動員して、床にこぼれたビールを拭いた。私たちが四国から引っ越してきたというと、宇和島と道後温泉に行ったことがあるという。自分は東京出身で家も東京にあるが、女の人ばかりが住む家にして貸すことにしていると言った。そして、自分たちは小田原あたりに皆住んでるんだよ。小田原に家を買いなさいという。もとの席に帰って、リュックから、「うちの母ちゃんは仕事だよ。事務所のおばちゃんより、かわいいよ。」と言いながら、ごそごそとゆで卵を二つ出して、食べなさいという。いただいて食べる。すると、さっきの背の高い男の人からだと「ぽん栗」という焼き栗を二つ言付けて来た。これもいただく。そして、あとからその人が来て、「男は、性格だよ。女好きと、ばくち好きはだめ。家は、普通に働いてりゃ、だれでも持てるよ。」という。「俺たちは退職してから男ばかりで仕事をやってんだよ。」「NPOかなにかですか。それとも、男ばかりで会社を興したとか。」と私。「そんな大したことはやってないよ。料金所で働いてんだ。真鶴のさ。」「料金所には何人くらいいるんですか。」「みんなで四十人くらいかな。」「そんなに。」「そうさ、一日中車は通ってんだよ。四時間仮眠をするがね、寝た気にはならないよ。」初島が見えたとき、皆で「初島だ、初島だ」と窓から島を見ていた。伊豆高原駅に来たとき、「伊豆高原もこのごろはさっぱりさ。すがすがしいところだったが。」こんな話が続いて、終点の熱海が近づいた。誰か、どこかで見たことのあるような人ばかりであった。同じ花見帰りということか、母と娘の旅ということか、鈍行の旅のおかしさであった。海沿いの景色はどうだったのか気になったが、ずっと同じような景色だったよ、と句美子が言う。熱海からは、JRで横浜まで。それから東横線で日吉、日吉本町といつものコースで帰宅。夕食は早速土産を取り出して、鯵のひらきを焼いたり、せんべいやどら焼きや飴やと、あれもこれもと食べた。 梅と桜を見る旅であった。なお深く印象に残るのは、井上靖の「しろばんば」に書かれた湯ヶ島の暮らしの風景、天城の山葵田、今井浜ビーチ、鶺鴒が飛び交う清流である。それに、花見帰りのお土産をいっぱい持った定年後の男たち。

怒涛とは椿桜に飛沫くとき
海に向き伊豆の椿の紅きなり
春砂をゆきし足跡は浅し
引き潮の色こそ深き春の砂
早春の砂の風紋駈けてあり
鈍行の列車に剥ける春卵

◇生活する花たち「菜の花」(横浜日吉本町)