★春砂をゆきし足跡は浅し 正子
砂浜をお歩きになったのでしょうね。まだ春のこととて、渚からやや離れたところをお歩きになったのかもしれません。流れこぼれる砂に、以前歩いた人の足跡は浅く残っているばかりです。そんな情景に春の覚束なさを感じ取ることができます。(小西 宏)
○今日の俳句
児の遊ぶ日差しに芝の青芽ぐむ/小西 宏
「青芽ぐむ」が、児の可愛らしさとよくマッチして芽ぐむ季節が楽しくなっている。(高橋正子)
○土佐水木(とさみずき)

[土佐水木/横浜日吉本町]
★土佐みづき山茱萸も咲きて黄をきそふ/水原秋桜子
★峡空の一角濡るる土佐みづき/上田五千石
★重い口開きたるかな土佐水木/遊歩
★大海の荒波見やる土佐水木/かるがも
★花揺らぎ潮の香りや土佐水木/かるがも
★料峭の空気の色に土佐水木/高橋正子
土佐水木(とさみずき、学名:Corylopsis spicata)は、マンサク科トサミズキ属。落葉低木。四国の山中に自生、また庭木とされている高さ2mほどである。高知(土佐)の蛇紋岩地に野生のものが多く見られるため、この名前がついている。また、葉の形がミズキ科の樹木と似てところからミズキといわれている。3-4月に葉に先立って短枝に明るい黄色の花を咲かせ、花穂は長く伸びて7輪前後の花をつける。レンギョウやマンサクと同様、江戸時代から庭木や盆栽、切り花として親しまれている。葉はまるっこい卵円形で、裏面は粉をふったように白っぽく毛がある。実は緑色で、熟すと中から黒い種子が出る。また海外へは19世紀、シーボルトにより紹介された。病害ではうどんこ病、虫害ではカイガラムシ類、テッポウムシなどによる被害がある。日向水木と比べて、一房の花の数が多くて花も大きい。土佐水木の仲間に支那水木がある。
◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

●下地鉄
落日の欠くるとこなく春の海(原句)
落日の欠くるとこなく春海へ★★★★(正子添削)
春の夕日の大きく、たっぷりとした感じがよく出ている。(高橋正子)
つつじ咲き花の垣根となりにけり★★★
梅の花古木に咲けば床におく★★★
●小口泰與
連翹の空を明るく拡げたり★★★
役を降り今生ゆたか花青木★★★
たんぽぽや笑顔えがおで浄土へと★★★
●迫田和代
あちこちに干し網のある島の春★★★
道端の菫の青に足を止め★★★
広い野にばらばら低く春の花★★★
●黒谷光子
供花切りに辿る山道馬酔木咲く★★★
頼りなき木橋を渡り犬ふぐり★★★
遠嶺の東も西も春の雪★★★
●桑本栄太郎
青空へうすきみどりや土佐みずき★★★
枝の揺れ眼下に芽吹く橋の上★★★
遅き日の母に連れられ三輪車★★★
●河野啓一
春耕田はや下草の青く萌え★★★
つくしんぼ摘んで遊びし子らのこと★★★
紅椿門辺の彩に八重の花★★★
●小西 宏
春の陽に鞘豌豆の柵を編む★★★★
莢豌豆もここのところの陽気に蔓を伸ばしてきた。柵を編んで絡ませる用意をする。暖かい春の陽とみずみずしい莢豌豆の葉が優しい取合せとなっている。(高橋正子)
膨らんで悪魔のように桜の芽★★★
夕風に白木蓮の咲き初むる★★★
長男元結婚
★風なくてふたりの婚は弥生かな 正子
改めて、ご長男元様ご結婚おめでとうございます。おふたりの結婚式は、風のない穏やかな弥生三月に行なわれました。木々の芽吹く春に、ご結婚された息子さんご夫婦へ、お幸せにと温かく見つめられているご両親のお姿が伝わってまいります。「弥生」のことばの響きがとても柔らかく、温かく感じました。(藤田裕子)
○今日の俳句
まんまるい蕾もろとも花菜漬け/藤田裕子
まんまるい、黄色も少し見える蕾もろとも漬物に付け込むには、心意気がいる。日常生活が身の丈で表現された句。(高橋正子)
○3月ネット句会入賞発表/2013年3月11日
高橋信之・高橋正子選
【金賞】
★菜の花や煌めく海へ揺れ止まず/佃 康水
「煌めく海」と「揺れ止まず」は、納得する動的な関係。黄色い菜の花を揺する風は、海にも吹いて海を煌めかす。海と菜の花の色彩が鮮やかで、煌めきのある生き生きとした句である。(高橋正子)
▼その他の入賞作品:
http://blog.goo.ne.jp/kakan02d
○李(すもも)

[李/横浜日吉本町(左/花蕾:2013年3月12日・右/花:2010年3月18日)]
★雲裏の日のまぶしさよ花すもも/木下夕爾
★花すもも閑かに開く過疎の邑/逸考
★すもも食む午前の汗を流しをり/野沢節子
★すもも赤し妻の座去りし日の空に/荒川三枝
★李喰む心明るき方へ向き/平田節子
スモモ(酢桃、李、学名:Prunus salicina)はバラ科サクラ属の落葉小高木。また、その果実のこと。中国原産。花期は初春で白い花が咲く。花芽分化は7 – 8月頃。果実はスモモ系は6月下旬から8月中旬、プルーンの系統は9月頃収穫できる。果実は紅や黄色、果肉は淡黄色や紅色など品種によって異なる。代表的な品種としては「大石早生」、「ソルダム」、「サンタローザ」、「メスレー」、「太陽」など。比較的新しい品種では「紫峰」、「月光」、「貴陽」、「秋姫」、「いくみ」などがあり、これらの品種は従来種より糖度が高く、生食用に品種改良されている。葉が紅色のハリウッドは受粉樹に向く。スモモは自分の花粉では結実しにくい自家不和合性なのでほとんどの品種で受粉樹が必要である。日本での主産地は山梨県など。
◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

●小口泰與
蒼天やそそる雪解の浅間山★★★
初蝶や山風吹かぬ厩橋★★★
雨粒のふくよかなりし土佐水木★★★
●上島祥子
咲き初む梅の一輪玄関に★★★
春野菜挟んで大きくハンバーガー★★★
御嶽の色淡くして春霞★★★
●佃 康水
仔牛啼き瑠璃色放つ犬ふぐり★★★
せせらぎの早き流れや猫柳★★★
岩国錦帯橋マラソン
マラソンの号砲響く芽吹き山★★★
●黒谷光子
落椿古刹の苔を荘厳す★★★
礼拝す春風に揺る幡の下★★★
高円の寺へ馬酔木の森を抜け★★★
●多田有花
たっぷりと芽を持つ枝は春空へ★★★
蜥蜴出づ密やかなりし草の音★★★
春光や今日一片の雲もなし★★★★
あまねく春光が差す「今日」。空には一片の雲もない。「今日」という日のうららかな春の日を詠んで、古いようだが、新しい感覚。(高橋正子)
●桑本栄太郎
紅梅の空へそらへと駈けのぼる★★★
ゆ~らりと大縄跳びや春めきぬ★★★
木蓮の白く笑み居り弾け初む★★★
●河野啓一
空映す小川のほとり青き踏む★★★
高々と蝶越え来しや伊吹嶺★★★★
初蝶であろうか。目の前に現れた蝶は、あの伊吹嶺を高々と越えて来たに違いない。蝶に寄せる新鮮な思いがよく読まれている。(高橋正子)
新築のマンションここにも春の色★★★
★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し 正子
一人ずつ、薬味に生の山葵を出す、老舗のお蕎麦屋さんを思いました。春の山葵は、花も茎も全てが美味しいとか。卓の蕎麦を楽しみに、瑞々しい山葵を擦れば、つんと香るみどり色。浅春の希望に満ちた、貴い瞬間です。(川名ますみ)
○今日の俳句
水温む男の汲みしバケツあり/川名ますみ
男が汲んだバケツは、頼もしい男の腕でなみなみと汲んだ水がはいっているバケツ。この水を見ていると、やわらかで、光がまじり、「水温む」を実感させてくれる。あかるい心境が詠まれて、読み手にも明るさが与えられる。(高橋正子)
○土筆

[土筆/横浜日吉本町] [土筆/横浜・四季の森公園]
★土筆煮て飯くふ夜の台所/正岡子規
★土筆摘む野は照りながら山の雨/嶋田青峰
★土筆野やよろこぶ母につみあます/長谷川かな女
★子のたちしあとの淋しさ土筆摘む/杉田久女
★土筆伸ぶ白毫寺道は遠いれど/水原秋桜子
★白紙に土筆の花粉うすみどり/後藤夜半
★土ふかき音もたつなる 土筆摘む/皆吉爽雨
★まま事の飯もおさいも土筆かな/星野立子
★土筆なつかし一銭玉の生きゐし日/加藤楸邨
★山姥の目敏く土筆見つけたり/沢木欣一
★土筆摘む強腰にしてひとりもの/青柳志解樹
ツクシは、正しくは「杉菜(すぎな)」の胞子茎(ほうしけい)というもので、「付子」とも書く。
スギナ(杉菜、学名:Equisetum arvense)は シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の一種。日本のトクサ類では最も小柄である。浅い地下に地下茎を伸ばしてよく繁茂する。生育には湿気の多い土壌が適しているが、畑地にも生え、難防除雑草である。
春にツクシ(土筆)と呼ばれる胞子茎(または胞子穂、胞子体)を出し、胞子を放出する。薄茶色で、「袴(はかま)」と呼ばれる茶色で輪状の葉が茎を取り巻いている。丈は10-15cm程度。
ツクシ成長後に、それとは全く外見の異なる栄養茎を伸ばす。栄養茎は茎と葉からなり、光合成を行う。鮮やかな緑色で丈は10-40cm程度。主軸の節ごとに関節のある緑色の棒状の葉を輪生させる。上の節ほどその葉が短いのが、全体を見るとスギの樹形に似て見える。なお、ツクシの穂を放置すると、緑色を帯びたほこりの様なものがたくさん出て来る。これが胞子である。顕微鏡下で見ると、胞子は球形で、2本の紐(4本に見えるが実際は2本)が1ヵ所から四方に伸びている。これを弾糸という。この弾糸は湿ると胞子に巻き付き、乾燥すると伸びる。この動きによって胞子の散布に預かる。顕微鏡下で観察しながら、そっと息を吹きかけると、瞬時にその形が変化するのをみることが出来る。また、「ツクシ」は春の季語である。
◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

●小口泰與
雨粒のつたう光彩花きぶし★★★
鯉こくや佐久を分けたる雪解川★★★
温き手と朱唇にふれしおぼろかな
季語「おぼろ」の解釈が不可能です。この句の「おぼろ」が自然現象の「おぼろ」か、作者の意識の「おぼろ」であるか、定かでないからです。曖昧な句のご投句はご遠慮ください。(高橋信之)
●河野啓一
日のうらら空の青さに春思う★★★
留守居して句作三昧庭椿★★★
鳥帰るこの青空を何処まで★★★
●多田有花
春の霜東日本震災忌★★★
つんつんと梅奔放に金のしべ★★★
青空や降り注ぐ陽と囀りと★★★★
●桑本栄太郎
ほんのりと赤き嶺の端春入日★★★
自転車のみな横たわり春の風★★★★
乗って来た自転車か、横倒しにされて銀輪が光る。集団で川土手にでも遊びにきたのであろうか。春の風がそよそよと吹く麗らかな日のことである。(高橋正子)
木々の枝と葉影揺れ居り春ともし★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
★芽柳のるると色燃ゆ向こう岸 正子
「るると色燃ゆ」に柳の芽吹きのみずみずしい色が目に見えるようです。対岸をほんのりと彩るように芽吹く柳、春のやさしい表情に心弾みます。 (多田有花)
○今日の俳句
春の雪正午の鐘の音をつつむ/多田有花
春の雪はやわらかいものであるが、それが「物」を包むのではなく、「(鐘の)音」を包むところに、この句のユニークさがある。春の雪の降るなかでは、正午の鐘の音も詩情をもって聞き届けられる。(高橋正子)
○早咲き桜

[早咲き桜/横浜日吉本町(2013年3月9日)]
○3月ネット句会開催。今月から、行事に合わせた句会ではなく、第2日曜日開催の月例ネット句会とする。
○午前中、5丁目に花の写真を撮りにゆく。一挙に春の花が開いた。辛夷、早咲き桜、馬酔木、さんしゅゆ、花にら、ミモザ、木瓜、やぶ椿、菫など。昨日の気温は初夏なみという。午後3時ごろ買い物に出たが、黄砂で向こうの信号から先が見えないほど。春の嵐が吹きまくる。
◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)
●ご案内
①1日3句まで投句可能。
②一般の方は、3週間は無料で、その後有料です。
③花冠会員・同人は無料です。
④講師:高橋信之(愛媛大学名誉教授)・高橋正子(花冠主宰)
※3月8日からの句は、こちらの投句箱③の<コメント欄>にご投句ください。
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
●小口泰與
上州の四囲の山々雪解かな★★★
雨粒の梅の蕾を包みけり★★★
代も替わり雛菓子かわりケーキかな★★★
●下地鉄
耳鼻院のキッズ園となる春の風邪★★★
潮風に丁子の花の日暮かな★★★
囀りの音をのこして美空かな★★★★
●藤田洋子
水一つ提げて囀りの山に入る★★★★
囀りの木々の名札のそれぞれに★★★
音立てて洗う蜆の黒き艶★★★
●桑本栄太郎
<京都四条河原町界隈>
沈丁の香に沿い流る高瀬川★★★
眠るごと京の町家のよなぐもり★★★
残ること決めてくつろぐ春の鴨★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
★受験子の髪ふっくらと切り揃う 正子
受験子に寄せる、慈しみある母のお気持ちがしみじみと伝わってまいります。中七下五にそのことを感じます。 (小川和子)
○今日の俳句
切りてなお椿一枝にあるちから/小川和子
椿の枝を一枝切る。もちろん花をつけてである。切り取った枝であるのに、却って椿の花が生き生きとしてくる。「枝のちから」がそうさせる。(高橋正子)
○沈丁花

[沈丁花/横浜日吉本町]
★沈丁の四五花はじけてひらきけり/中村草田男
★沈丁やをんなにはある憂鬱日/三橋鷹女
★にはとりの置去り卵沈丁花/皆川盤水
★沈丁の風にころがる鉋屑/高橋将夫
★風下のベンチまた空く沈丁花/木暮陶句郎
★ポストヘの道沈丁の香にも寄り/藤田宏
★沈丁や気おくれしつつ案内乞ふ/星野立子
日本に栽培されているものは中国原産の常緑灌木で、高さい・5メートルに達し、生垣や庭先に植えられたものが多い。花は内面部が白く、外面が紫がかった桃色で、香気が強い。早春まだうそ寒い頃、または淡雪の下、夜気にこの花が匂うのは印象深い。
赤紫色の蕾が弾けると、内側の白い部分が表れて好対照をなす。うそ寒いころの、その香気が好きなために植えられる花であるかもしれない。砥部の庭にも門脇に一本あった。冷たい空気とともに吸うその香りは、肺深く入りこんで、今年も卒業や旅立ちの季節が来たなと思う。田舎の家の庭先にもよく植えられて、子供の間でも沈丁花が咲いたと話題になった。「じんちょうげ」というあの花くらいの重さの音が今も耳に残っている。
★沈丁の香の澄む中に新聞取る/高橋正子
★雪解けの雪が氷れる沈丁花/高橋正子
ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。
◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)
