★流れ寄りまた離れゆき春の鴨 正子
私のときどき立ち寄る長浜の琵琶湖岸の情景を思い浮かべました。冬の間はたくさんいた鴨も少なくなり寄り添ったり離れたりしながら発つ時を待ちながら、名残りを惜しんでいるようです。(黒谷光子)
○今日の俳句
鐘の音に児ら寄ってくる春の夕/黒谷光子
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)
○春分
★春分の日をやはらかくひとりかな/山田みづえ
★春分の日切株が野に光る/安養白翠
★春分の田の涯にある雪の寺/皆川盤水
春分(しゅんぶん)は、二十四節気の第4。二月中(旧暦2月内)。現在広まっている定気法では、太陽が春分点を通過した瞬間、すなわち太陽黄経が0度となったときで、3月21日ごろだが、今年は3月20日。暦ではそれが起こる日だが、天文学ではその瞬間とする。
春分の日(しゅんぶんのひ)は、春分が起こる日である。しばしば、「昼と夜の長さが同じになる。」といわれるが、実際は昼の方が長い。春分の日は、日本の国民の祝日の一つである。祝日法第2条では「自然をたたえ、生物をいつくしむ」ことを趣旨としている。仏教各派ではこの日「春季彼岸会」が行われ、宗派問わず墓参りをする人も多い。
★春分の日といい空に飛行機音 正子
○ミツバツツジ

[ミツバツツジ/横浜日吉本町]
★死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり/臼田亞浪
★日の暮れてこの家の躑躅いやな色/三橋鷹女
★真白き船の浮める躑躅かな/中村汀女
★ままごとふと躑躅の底えきえてゆきぬ/渋谷 道
★開かんとして躑躅たち真くれなゐ/中川栄淵
★平和なりミツバツツジが光り燃え/ケイスケ
★ミツバツツジが竹垣に沿い紫を/高橋信之
★ミツバツツジその紫にやや汗す/高橋正子
ミツバツツジ(三葉躑躅 Rhododendron dilatatum)はツツジ科ツツジ属の落葉低木。また、近縁のミツバツツジ類の総称でもある。 関東地方から近畿地方東部の太平洋側に分布し、主にやせた尾根や岩場、里山の雑木林などに生育する。他のミツバツツジ類の多くは雄しべが10本なのに対し、本種は5本であることが大きな特徴。古くから庭木としても植えられるが、盗掘の影響もあるせいか野生の個体数は決して多くない。
ミツバツツジ類は、4-5月頃に咲く紅紫色の花が美しい。花が終わってから葉が出てくる。枝先に三枚の葉がつくことからこの名がついた。ミツバツツジの変種には、トサノミツバツツジ、ハヤトミツバツツジ、ヒダカミツバツツジなどがある。日本に自生するその他のミツバツツジ類には、トウゴクミツバツツジやサイコクミツバツツジ、コバノミツバツツジ、ダイセンミツバツツジ、ユキグニミツバツツジ、キヨスミミツバツツジなどがある。
◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

●小口泰與
うららかや和紙に包まる京和菓子★★★
摘みてきし蕨ひろごる三和土(たたき)かな★★★
言いさして忽と桜をほめにけり★★★
●河野啓一
耕して今日蒔く種は蓮華草★★★★
水草生う狭庭の池に水多少★★★
朝空の雲まろやかに春彼岸★★★
●佃 康水
溢れ咲く白木蓮へ空の青★★★
洗い桶きしきし剥がす春キャベツ★★★
声かけて枝に餌を挿す春の朝★★★
●下地鉄
踏まれてもいとしき花のすみれかな★★★
春分の娘と旅の打ち合わせ★★★
囀りの臥所に残るしずけさよ★★★★
●黒谷光子
小鮎鍋のぞきて煮汁確かめる★★★
小鮎煮て西と東の娘の家に★★★
あたたかや行く度娘の家近くなる★★★
●多田有花
梅の咲く坂を上りて墓参り★★★
鶯の声を間近に墓参り★★★
お彼岸や墓参の後のきな粉餅★★★
●川名ますみ
春宵の窓より未だ子らの声★★★
ランナーら辛夷の樹下に休憩す★★★
花辛夷ランナー一人ずつ休み★★★
●高橋秀之
新芽吹く全てが上へ空へ向く★★★
★「新芽吹く」は季語となりません。秋でも春でも、新芽が芽吹きます。「芽吹く」は春の季語です。
満開の桃の花並ぶ週回路★★★★
水洗いしてまな板へ春野菜★★★
●桑本栄太郎
駒返る草のみどりや朝の土手★★★
庭石へ供花のごとくや落つばき★★★
すくすくと空に伸び居り花梨芽木★★★
●小西 宏
彼岸の坂花束膝に車椅子★★★
たんぽぽを見つけたと児の知らせくる★★★
春分やピザを買い来て焼き直す★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
★花すもも散るや夜道の片側に 正子
桃の花より遅れて、2つ3つと集まって花を咲かせるすももの花。そのすももの白い花がおぼろの柔らかな光の夜の道の片側に散り、より一層艶めかせている。素敵な春の夜の景ですね。(小口泰與)
○今日の俳句
榛名嶺の彫の豊かや揚雲雀/小口 泰與
日ごと強くなってゆく春の日に榛名山の山襞が陰影深くなる。雲雀が空高く揚がり、意気揚々の様。春の日差しに充ちた句。(高橋正子)
○桜開花

[桜開花/横浜日吉本町(2013年3月18日)]
★さまざまの事おもひ出す桜かな/松尾芭蕉
★寐て聞けば上野は花のさわぎ哉 子規
★雀来て障子にうごく花の影 漱石
★朝日さす杉間の花を数えけり 碧梧桐
★一片の落花見送る静かな 虚子
★花散るや耳ふつて馬のおとなしき 鬼城
★闇の空よりちらちらと花散り来たり 亞浪
★一めんの落花の水に蛙の眼 風生
★西方に没る日は古風花堤 蛇笏
★さくらさくらさくらさくらてのひらに/高橋信之
★花淡し寺の甍がかがやけば/高橋正子
★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ/高橋正子
★子らあそばす丘の平地の桃さくら/高橋正子
★煽られて花のゆるるは大いなる/高橋正子
★浅間山真向いにして花を待つ/小口泰與
★店先の竹筒に挿し早桜/祝恵子
★朝日はや照らして峰の山桜/多田有花
★朝桜ふれたき空はうすき青/川名ますみ
サクラ(桜)は、バラ科サクラ属サクラ亜属 Prunus subg. Cerasus (またはサクラ属 Cerasus に分類)の樹木の総称である。日本においてはサクラは開花が話題となる点において、他の植物とは一線を画す存在である。現在ではメディアなどで俗に、単に「桜」と言うと、桜の中で極端に多く植えられている品種のソメイヨシノの事を指すことも多い。
さくら開花予想2013【3月16日更新】
今年の桜は、『早く』咲く所が多くなるでしょう。全体的に開花が平年より遅れた『去年よりは大幅に早く咲く』見込みです。13日には九州で開花が始まり、宮崎・大分・鹿児島など各地で過去最早記録となっています。東京でも16日に過去最早タイで開花しました。
この冬は寒さが続いたため、桜の花芽がスムーズに休眠から覚めた地域が多いと考えられます。
3月初めまでは気温が低く出遅れていたものの、3月6日ごろからは平年を大幅に上回る気温の日が続き、この先も寒の戻りは少ないとみられます。このため、桜の開花は早めの所が多くなりそうです。(ウェザーマップ「さくら開花予想2013」より)
◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

●小口泰與
川筋をしだき上手へ諸子釣★★★
残雪や土間の隅ずみ風棲める★★★★
年古るもいまだ青春桜餅★★★
●多田有花
午後の陽を受け藪椿高く咲く★★★★
薮椿に、午後の日が巡って来て花を赤く照らしている。午後の陽の独特な感じを薮椿の花がよく捉えている。(高橋正子)
沖霞み海きらきらと須磨明石★★★
嵐去り囀り戻る朝かな★★★
●河野啓一
春風と云えども荒き春一番★★★
蒼空に吾も浮きたし鳥雲に★★★
野の味や土佐から来る春大根★★★★
●小西 宏
春の鴨ひとり叫べる石の上★★★
棚までも蔓伸びぬ間の豆の花★★★
崖藪に椿大輪紅放つ★★★
●桑本栄太郎
春光の野山ほんのり遠く見ゆ★★★
カーテンを開けて嶺の端遠霞★★★
春きざす部活の声のグランドに★★★
★囀りの抜け来る空の半円球 正子
よく晴れているのでしょう。その青空を見上げておられる。そこから囀りが絶え間なく聞こえてくる。春本番の明るい日差しと
暖かさ、心浮き立つような感覚を覚えます。 (多田有花)
○今日の俳句
汲まれたる桶それぞれの薄氷/多田 有花
木桶に汲まれた水であろう。どの桶にも桶の木肌を透かして薄く氷が張っている。一つの桶でなく、「それぞれ」の桶があってリズミカルな面白さがある。(高橋正子)
○菫(すみれ)

[菫/横浜日吉本町]
★山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉
★馬の頬押のけつむや菫草 杉風
★一鍬や折敷にのせしすみれ草 鬼貫
★骨拾ふ人にしたしき菫かな 蕪村
★奥山や人住あればすみれぐさ 暁台
★すみれ蹈で今去馬の蹄かな 几董
★菫程な小さき人に生れたし/夏目漱石
★うすぐもり都のすみれ咲きにけり/室生犀星
★かたまつて薄き光の菫かな/渡辺水巴
★すみれ踏みしなやかに行く牛の足/秋元不死男
★あたらしき鹿のあしあと花すみれ/石田郷子
★カメラ構えて彼は菫を踏んでいる/池田澄子
★十七歳跨いで行けり野の菫/清水径子
★すみれ咲く小さきゆえの濃むらさき/高橋正子
最近、「すみれ色」のすみれを見なくなった。見なくなって久しい。ところが、3月の10日ごろだったか、5丁目の丘に上り、その帰り、丘が終わるところの側溝のコンクリートの隙間からすみれ色のすみれが咲いているのを見つけた。何気なく目を向けて見つけたのだが、何か勘が働いたように思う。すみれと言えば、濃い色のすみれしか知らなかったころ、家に一番近い畑にすみれがたくさん咲いて、父親が困っていた。畑にすみれが増えるとやっかいだということだ。根絶するのが難しいらしい。これは、オキザリスでも同じことを父親が言っていた。これらの花を畑に増やしてはいかんと。野に咲けば、可憐な花であるのに。
きのう、長男の元が昼過ぎ家に寄った。2月19日生まれた長男にこいのぼりを買うのだ張り切って浅草の人形店に見に行ったついでらしい。いいのがないという。五月飾りはプレゼントされるらしい。紙の鯉のぼりがあればいいのだが、全く今は見なくなった。風が吹けば、ごぼっごぼっと空で紙の音を立てるあの鯉のぼり。雨にあわないよう、雨粒が落ちるとすぐに棹から下ろす。夜は取り込んで畳に広げて畳む。ウロコも、目もデザイン的におもしろかった。畳む時、ウロコの柄を手でなぞり、切りがないなと子供ごころに思ったものだ。
急に来た息子には、春キャベツとアスパラガスがあったので、お肉と野菜少しを買って焼肉にした。新物の茹で筍が店に出ていたので、これは煮て食べさせた。焼肉のあとは、壬生菜のお漬物とたけのこと白いご飯。結構気に入ったようだ。33歳になったという。
スミレ(菫)は、スミレ科スミレ属の植物の総称であるが、狭義には、Viola mandshurica という種の和名であるが、類似種や近縁種も多く、一般にはそれらを区別せずにスミレと総称していることが多い。
種名としてのスミレ(Viola mandshurica)は、道ばたで春に花を咲かせる野草である。深い紫(菫色)の花を咲かせる。地下茎は太くて短く、多数の葉を根出状に出す。葉は根際から出て、少し長めの葉柄があって、少しやじり形っぽい先の丸い葉をつける。花は独特の形で、ラッパのような形の花を横向きかやや斜め下向きにつける。5枚の花びらは大きさが同じでなく、下側の1枚が大きいので、花の形は左右対称になる。ラッパの管に当たるのは大きい花弁の奥が隆起したもので距(きょ)という。花茎は根際から出て、やや立ち上がり、てっぺんで下を向いて花のラッパの管の中程に上側から着く。平地に普通で、山間部の道ばたから都会まで、都会ではコンクリートのひび割れ等からも顔を出す。山菜としても利用されている。葉は天ぷらにしたり、茹でておひたしや和え物になり、花の部分は酢の物や吸い物の椀ダネにする。ただし他のスミレ科植物、例えばパンジーやニオイスミレなど有毒なものがあるため注意が必要である。
◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)
●小口泰與
梅万朶あまたのつぼみふふみおり★★★
たらの芽や瀬音山路を離れざる★★★
春光や落人部落の露天風呂★★★
●河野啓一
名も知らぬ鳥歩きおり春の庭★★★
うららかな春の庭。名を知らぬ鳥が歩いている。なんの鳥だろうと思いつつ動きを眺める。不思議な国にいるような楽しみ。(高橋正子)
つちふるや西の国から客人が★★★
彼岸過ぎ野球いよいよ峠道★★★
●桑本栄太郎
村人の畑に背中や青き踏む★★★
山里の甍かがやき春の昼★★★
春耕のエンジン遠く聞こえけり★★★
●多田有花
五重塔東播磨の春の野に★★★
春の野や新幹線は西へ西へ★★★
ほのぼのと明石海峡春霞★★★
●小西 宏
ジョギングに百合の木芽ぐむお堀端★★★
耐えて咲きし梅の別れや花ふぶき★★★
風やさし灯台躑躅(どうだんつつじ)花咲けば★★★★
●祝恵子
白椿橋に二人の托鉢僧★★★
格子模様庭の砂地の春の院★★★
校庭の大縄跳びよ春日和★★★
●小口泰與
たらの芽や瀬尻に向かい毛鉤打つ★★★★
渓流の濁り初めるや山椒の芽★★★
淡雪を帽子に被く山路かな★★★
●河野啓一
草も木もきらきら光る春の朝★★★
青空に薄塗りされし春の雲★★★
春の江に釣り糸垂れてもの思う★★★
●小西 宏
蒼天をゆく旅客機に花辛夷★★★★
蒼天をゆく旅客機はきらりと銀色に輝いている。地上では、白い辛夷の花が柔らかに咲いている。その色彩的な対比、物質的な対比に詩情がある。(高橋正子)
雲の丘に紅朦朧と梅の苑★★★
いつも来て花にぶらんこメジロの目★★★
●上島祥子
幾重にも花を重ねり枝垂れ梅★★★
母の手に抱かれて赤子の梅見かな★★★
春は曙富士の山際赤々と(始発の新幹線より)★★★
●黒谷光子
麦青む風に応えぬ丈ながら★★★
残りしかはた残されしか鴨数羽★★★
戯れる父と子湖岸の芝青む★★★
●桑本栄太郎
鷹鳩と化して乙訓うす曇り★★★
日の潤み風に音なく霞みけり★★★
●下地鉄
霞はれ水平線のくっきりと★★★
遠海に水脈曳く船や彼岸入り★★★
歳寄るも寄る人のなき彼岸かな★★
※これは川柳です。
●多田有花
朝晴れて空桃色に彼岸入り★★★
春の野を東へ向かう電車ゆく★★★
家々の庭先それぞれ梅の咲く★★★
●川名ますみ
芽の色にさみどり掛かり花咲かむ★★★
さくら咲く前夜つぼみにみどり色★★★
木の家の建つ音高く春天へ★★★★
★つばき落ちる音の一会に朝厨 正子
窓辺に椿の咲く朝の厨房で、椿の花がポトリと落ちる微かな音にふと気付く。この音もすばらしい一期一会と、自然との出会いを大切にされている作者です。(河野啓一)
○今日の俳句
明るくて黄水仙生きる喜びに/河野 啓一
黄水仙は、白い水仙に遅れて早春に咲きだす。その鮮やかな黄色い色が元気をくれて、生きる喜びになっている。素晴らしいことだ。(高橋正子)
○白木蓮・白れん
[朝日の白れん/横浜日吉本町(2013年3月17日)]_[夕日の白れん/横浜日吉本町(2013年3月16日)]
★はくれむの翳をかさねて日に対ぬ 亜浪
★はくれむのひたすら白く夜にありぬ 亜浪
★白木蓮に声を呑んだる雀かな 龍之介
★はくれんの散るべく風にさからへる 汀女
★暁の病室白木蓮の舞出でむとす 波郷
★白木蓮に純白という翳りあり/能村登四郎
白木蓮(はくもくれん、学名:Magnolia denudata またはMagnolia heptapeta)は、モクレン科モクレン属。Magnolia(マグノリア)は、18世紀のフランス、モンペリエの植物学教授「Magnol さん」の名前にちなむ。denudataは、 裸の、露出した、という意味。開花時期は、 3/10 ~ 4/10頃。白い清楚な花。花びらの幅が広く、厚みがある。花は上向きに閉じたような形で咲く。全開しない。これが辛夷と違うところ。開花しているときの風景は、白い小鳥がいっぱい木に止まっているように見える。花びらは太陽の光を受けて南側がふくらむため、花先は北側を指す。「つぼみ」の頃は片方にそり返っていることから、「磁石の木」と呼ばれることもある。
◇生活する花たち「片栗の花・福寿草・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)
伊豆
★わさび田の田毎に春水こぼれ落つ 正子
わさび田のそれぞれを満たし、豊かに勢いづく春の水音が快く聞こえてきます。清らかな水を湛えたわさび田が、これからのわさびの生育に向けて明るく輝き、活力にあふれています。(藤田洋子)
○今日の俳句
桃の花馴染みの声の店先に/藤田洋子
桃の花が店に活けてある。店先に馴染みの声が聞こえて、「あら」と思う。桃の花には、気取らない、明るい雰囲気があるので、「馴染みの声の店先に」言ってみるのだ。日常の一こま。(高橋正子)
○辛夷(こぶし)

[辛夷/横浜都筑区緑道ふじやとの道]
★風搏つや辛夷もろとも雜木山/石田波郷
★晴ればれと亡きひとはいま辛夷の芽/友岡子郷
★風の日の記憶ばかりの花辛夷/千代田葛彦
★烈風の辛夷の白を旗じるし/殿村莵絲子
★夕辛夷ドガの少女は絵に戻る/河村信子
★朝のはじめ辛夷の空をみていたり/酒井弘司
★ライオンの柵の中なる花辛夷/小西鷹王
★花こぶし汽笛はムンクの叫びかな/大木あまり
★風に吹かれててんでんばらばら辛夷咲く/高橋信之
★青空の一画を占め辛夷の白/高橋信之
★花辛夷風のあらしに揉まれつつ/高橋正子
★辛夷の花枝ごと揺れて揺るる空/高橋正子
○辛夷の花が咲き始めた。もう、かなり咲いている。近くでは、高田町の丘の畑に立つ大きな辛夷の木が素晴らしい。その丘をバスが走り、バスの窓からその辛夷の木が眺められる。広く、霞に濁る空に、白い辛夷の花が小説の中の世界のように咲いている。
小説や詩を読めば、「辛夷の花」がよく出てくる。しかし、私が生まれた瀬戸内でも、長く住んだ四国でも辛夷の花を見たことはなかった。あるとすれば、松山で最後に住んだ住まいの近くの総合公園にあったぐらいだ。もともとあったのか、植樹されたのかは知らないが。ところが、横浜に引っ越して、白木蓮を見ることは、ごくごく稀になった。辛夷、辛夷と庭にも丘にも、咲いている。私には、堀辰雄のイメージに重なる花だが、夢に見た辛夷の花を、こうも身近に見られるとは。
コブシ(辛夷、学名:Magnolia kobus)はモクレン科モクレン属の落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。別名「田打ち桜」。
白木蓮とこぶしはこの2、3年(2003年~2005年)、デジカメで写真を撮るようになってからその違いに興味を持つようにになリました。はじめは白木蓮とこぶしの区別さえできなかったのですが、観察するようになってから段々にそれぞれの特徴がわかるようになり、そしてその違いを見つけることが面白くなりました。専門家ではないので、植物学的にはおかしなところがあるやもしれませんが、ご容赦ください。またもしアドヴァイス頂けたら嬉しいです。
個人的な印象を言えば、白木蓮の花は上向きで天に向かって咲き、大きく、上品で優雅で孤高的な感じがします。一方こぶしは横向きに花が咲き、見る人の方に顔を向けてくれているようで、親しみやすく思えます。どちらが好きとか美しいとかいうことは言えないのでは・・・。どちらも冬の終わり(或いは早春)に、まず白木蓮そして次にこぶしが白い花を咲かせて、もうすぐそこに春が来ていることを知らせてくれます。でもその白い花のバックとなる空はまだ冬の真っ青な空で、花の白と空の青がとても美しいコントラストとなって忘れがたいものです。白木蓮とこぶしが咲き終わり、しばらくすると桜が咲きます。その咲く順番がまた絶妙です。桜の花のバックの空はもう春の空そのもので霞がかっていて、真冬の青い空とは違い暖かな印象を与えます。([ゆたかの部屋」より)
◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

●小口泰與
うぐいすの音色つむぐや偕楽園★★★
露天湯の春光ゆるる大あくび★★
春暖炉竹百幹のうねりかな★★★
●多田有花
春耕の音高らかに野に響く★★★★
春耕は、鍬を振るう耕しもあるが、この句は、耕運機。野に高らかにエンジンの音を響かせ、田を耕してゆく。耕運機にも生き生きとした働きがある。(高橋正子)
心地よき疲れの後の朝寝かな★★★
夕暮れの光に染まり梅林★★★
●河野啓一
土匂う花苗植えてふんわりと★★★
お手前のみどりの香たち春の午後★★★
桜便り東と西より来るらし★★★
●桑本栄太郎
春愁や夢の中まで仕事せる★★★
妻留守のラーメン啜る春の風邪★★★
春一日ラジオ聴きつつ眠りけり★★★
●小川和子
枝先まで小花連ねて雪やなぎ★★★
丘陵へ日は麗かに影を差す★★★
丘陵の四方へ春の香かすかなり★★
●小西 宏
雨吸って黒き球場芝萌える★★★
池の泥掻いて昼餉の雪柳★★★
夕暮れの逆光淡し梅の苑★★★
●川名ますみ
初ざくら写してポケットにしまう★★★★
「しまう」がいい。写し撮った初ざくらをうれしく、また大切に思う気持ちが一読伝わってくる。瀟洒な句だ。(高橋正子)
ケイタイに一輪だけの初ざくら★★★
歩き出す撮ったさくらをポケットに★★★