★春の蕗提げしわれにも風が付く 正子
芳しい春の蕗を提げながら、穏やかな風を身に纏う作者に季節の快さを感じます。持ち帰った蕗は香りとともに、独特な歯触りで季節を届け、食卓を明るく楽しませてくれるのでしょう。(藤田洋子)
○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)
○初孫元希
昨日の午後、葛飾区のNTT社宅に長男の元を訪ねる。初孫の元希は、岐阜から一週間後に帰京する。2ヶ月あまり続いた一人暮らしの部屋の掃除のためであり、新生児の歓迎のためである。元の宿舎は葛飾にある。葛飾と言えば水原秋櫻子の第一句集『葛飾』(昭和五年)を思う。
梨咲くと葛飾の野はとの曇り
葛飾や桃の籬も水田べり
啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
は『葛飾』の代表句であるが、今は水田も梨も桃の木も見当たらない。
句集『葛飾』は、昭和五年に馬酔木発行所から刊行され539句が収録されている。『葛飾』以前に『南風』という句文集を出版しているが、『葛飾』には、文章を割愛して『南風』からの句300句(実際は301句)が収録されいてる。それに『南風』以後のホトトギス雑詠からの句を選び句集『葛飾』としているので、これより、自他共に『葛飾』をもって第一句集とするようになった。
水原秋櫻子(本名・豊)は、明治25年(1892)10月9日、東京都千代田区西神田に生まれた。家は祖父の代から産婦人科医であった。秋櫻子は、東大産婦人科教室の助手、昭和医学専門学校(現昭和大学)の教授などを務めた。
○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)

[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂
★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子
日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。
ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。
◇生活する花たち「桃の花・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

●古田敬二
畑への斜面に瞬くイヌフグリ★★★
青春の山々丸くかすみおり★★★
春の風竹の中から聞こえけり★★★
●河野啓一
木蓮は空の青さを受けて咲き(原句)
空の青受けて咲きたる紫木蓮(正子添削)★★★
元の句の「木蓮は」の「は」が問題で、メージが弱いので印象強くなるように添削した。紫木蓮としたが、空の青を受けて咲く木蓮の紫は深い色合いである。(高橋正子)
桜散る決意新たに受験生★★★
曇空に溶け込むごとく白木蓮★★★
●小口泰與
つばくらや菓子の倉庫の深庇★★★
鳥達の木伝(こづた)う声の春意かな★★★
駘蕩の朝寝の我と小犬かな★★★
●小川和子
高々と花満つ校舎の外窓へ★★★★
校舎の高い窓に触れて桜が咲き満ちている。窓の内から見れば窓は桜に埋め尽くされている。今年は早い桜であるが、卒業や入学に重なる桜の花は、生徒たちの胸にいろんな思い出を残すことだろう。(高橋正子)
深空より囀り喜々とバスを待つ★★★
自転車の児の口遊む卒園歌★★★
●多田有花
谷の風梅の香りを運び来る★★★
はくれんの開きし先に昼の月★★★
理髪屋の軒先かすめ初燕★★★
●桑本栄太郎
菜の花や畑の一隅黄明かりに★★★
気ままとは微風に揺るる雪やなぎ★★★
囀りのつがい飛び交い蜜を吸う★★★
●小西 宏
せせらぎの仄かに届く花明かり(原句)
せせらぎの微かに届く花明かり(正子添削)★★★★
「仄か」が問題なので添削した。桜が咲き満ちる明かりに、せせらぎの音がかすかに聞こえてくる。どこか近くにせせらぎがあるのだと思うと、花明かりに音が加わり、俄然句が生きてくる。(高橋正子)
曇天を明るく照らし花の山★★★
軒ごとに桜広げる丘の家★★★
★鈍行の列車に剥ける春卵 正子
昔は列車の旅にはゆで卵がつきものでした。美味しい春卵の殻を剥くのも鈍行列車の旅の醍醐味です。(高橋秀之)
○今日の俳句
左胸に花を挿したる卒業生/高橋秀之
卒業生の左胸を飾る花。卒業を祝う花を一人一人が付けてもらって、誇らしく卒業してゆく。皆の祝意の籠った花だ。(高橋正子)
○桜満開

[桜/横浜日吉本町・金蔵寺(2013年3月22日)]_[山桜/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
水口にて廿年を経て古友にあふ
★命ふたつ中に活たる櫻かな/松尾芭蕉
★さまざまの事おもひ出す桜かな/松尾芭蕉
★寐て聞けば上野は花のさわぎ哉 子規
★けふは外出の桜むらがる町へ/臼田亜浪
★闇の空よりちらちらと花散り来たり 亞浪
★桜昏しはげしき天の白光に/川本臥風
★青空へまぎれてしまう落花もあり/川本臥風
★わが一本の桜も小さき花ふぶき/川本臥風
★花ござの藺の香芬々たる上に/川本臥風
★鳥影の空はつめたし山桜/原田種茅
★村ほろびいきいきと瀬や山ざくら/宮津昭彦
★さくらさくらさくらさくらてのひらに/高橋信之
★花淡し寺の甍がかがやけば/高橋正子
★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ/高橋正子
★子らあそばす丘の平地の桃さくら/高橋正子
★煽られて花のゆるるは大いなる/高橋正子
★山桜根方に小さき泉湧き/高橋正子
▼桜満開:東京も花見客でにぎわう(毎日jp)
毎日新聞 2013年03月22日 19時49分(最終更新 03月22日 20時18分)
気象庁が、東京都心で桜(ソメイヨシノ)が満開になったと発表した22日、東京都台東区の隅田公園は夜桜を楽しむ花見客でにぎわった。この日は東京のほか、宮崎、熊本、福岡、高知、横浜でも「満開宣言」。東京は平年より12日早く、1953年の統計開始以降では02年の3月21日に次ぐ2番目の早さだった。気象庁によると、全国的に平年より高い気温が続いたため、満開が早まったという。この日の東京地方は日中の最高気温が18.6度で4月中旬並みの暖かさ。隅田川を挟んで見える東京スカイツリー(墨田区)を背に、ライトアップされた桜が、訪れた人々を楽しませていた。神奈川県茅ケ崎市の会社役員、中西達哉さん(52)は、同僚25人と訪れた。例年4月の花見を開花に合わせて前倒ししたという。「桜にツリー。最高のロケーションです」と笑顔で話していた。【神足俊輔】
▼さくら開花予想2013【3月16日更新】
今年の桜は、『早く』咲く所が多くなるでしょう。全体的に開花が平年より遅れた『去年よりは大幅に早く咲く』見込みです。13日には九州で開花が始まり、宮崎・大分・鹿児島など各地で過去最早記録となっています。東京でも16日に過去最早タイで開花しました。
この冬は寒さが続いたため、桜の花芽がスムーズに休眠から覚めた地域が多いと考えられます。
3月初めまでは気温が低く出遅れていたものの、3月6日ごろからは平年を大幅に上回る気温の日が続き、この先も寒の戻りは少ないとみられます。このため、桜の開花は早めの所が多くなりそうです。(ウェザーマップ「さくら開花予想2013」より)
▼サクラ(桜)は、バラ科サクラ属サクラ亜属 Prunus subg. Cerasus (またはサクラ属 Cerasus に分類)の樹木の総称である。日本においてはサクラは開花が話題となる点において、他の植物とは一線を画す存在である。現在ではメディアなどで俗に、単に「桜」と言うと、桜の中で極端に多く植えられている品種のソメイヨシノの事を指すことも多い。
春に白色や淡紅色から濃紅色の花を咲かせる(桜色)。花は日本では鑑賞用途としては他の植物に比べ、特別な地位にある。果実を食用とするほか、花や葉の塩漬けも食品などに利用される。日本国外においては、一般的に果樹としての役割のほうが重視された。園芸品種が多く、花弁の数や色、花のつけかたなどを改良しようと古くから多くの園芸品種が作られた。日本では固有種・交配種を含め600種以上の品種が確認されている。とくに江戸末期に出現したソメイヨシノ(染井吉野)は、明治以降、日本全国各地に広まり、サクラの中で最も多く植えられた品種となった。
日本では平安時代の国風文化の影響以降、桜は花の代名詞のようになり、春の花の中でも特別な位置を占めるようになった。桜の花の下の宴会の花見は風物詩である。各地に桜の名所があり、有名な一本桜も数多く存在する。サクラの開花時期は関東以西の平地では3月下旬から4月半ば頃が多く、日本の年度は4月始まりであることや、学校に多くの場合サクラが植えられていることから、人生の転機を彩る花にもなっている。日本においては、サクラは公式には国花ではないものの、国花の一つであるかのように扱われている。
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
人影に稚鮎いっきに反転す★★★
紅梅の花の数だけ雫かな★★★
旧道の山家にひさぐわらび餅★★★
●古田敬二
蟻出ずる見つけて止まる三輪車★★★
やや濁り雪解の木曽川光りけり★★★
着地点探して舞うよ春の雪★★★
●藤田洋子
ひと雨に山がふくらむ彼岸明け★★★★
彼岸が明けると、寒さから解放されたように、ひと雨に足りて木々が芽吹き、山がふくらむ。「ひと雨」「彼岸明け」の季節の微妙な変化をよく捉えて秀句となった。(高橋正子)
春の雨ときに寺領の鵯が鳴く★★★
竹林に彼岸の雨の音を聞く★★★
●多田有花
初桜いつもの嶺のいつもの木★★★
<妙見富士登山二句>
円墳の連なる彼方春の山★★★
満天星の花咲く道を頂へ★★★★
●河野啓一
千秋楽夕陽を受けて木瓜の花★★★
箕面川流れ聞きつつ葱坊主★★★
麦青む頃となりけり畝傍山★★★
●小西 宏
鳥は陽を揺らして啼けり花盛り★★★★
むちむちと赤子の足のごとき花★★★
風少し吹いて桜の川堤★★★
●桑本栄太郎
芽柳の揺れて青空ゆるぎなし★★★
手を打てば翔び出しそうな花豌豆★★★
山崎の駅のホームや連翹黄 ★★★
●高橋秀之
八朔柑おまけの一つがこぼれ落ち★★★
桜咲く子連れの母が一休み★★★
走り寄る子の両の手に風車★★★★
★雪割草のひらく時きて日があふる 正子
雪割草は雪国の春の初めに咲く花。雪の中から日の目を見ようと咲き出る小さな花。1cmくらいの白または淡い紅色をしている。暖かな時を待っていた花たちへおしみなく陽光が降り注ぐ。花たちと一緒の気持ちになって春の到来喜ぶ感じが表現されている。 (古田敬二)
○今日の俳句
御岳の遠望さんしゅゆ開く日に/古田敬二
木曽の御岳が遠望され、ここに早春の花のさんしゅゆが開き始めた。御岳はまだ雪を冠っているだろう。雪の白さ、山の青さに、さんしゅゆの黄色が澄んであざやか。早春ここにあり。(高橋正子)
○横浜四季の森公園①
2012年3月23日の日記より
昨日22日、「フェイスブック俳句コンテスト」の相談を兼ねて、小西宏さんをお誘いして四季の森公園を信之先生ともども3人で散策。この日は、早春の予期せぬ花がたくさん咲いていた。おまけに翡翠まで池のとまり木に止まってくれた。片栗の花は、アマチュアカメラマンが咲いているところへ案内してくれた。この方は、毎週四季の森に来ているとのこと。
咲いていた花:さんんしゅゆ・みつまた、まんさく、かたくり、雪割り草、ふくじゅそう、キクザキイチゲ、葵葉すみれ、おおいぬのふぐり、猫柳、白梅、紅梅、藪椿、馬酔木、ヒイラギ南天、土筆、なずな、はこべ、ヒメ踊り子草など。芽柳も枝垂れてみどりが美しい。昨年同じ時期開いていたこぶしは、花芽がまだまだ固い。一か月以上も遅れているか。
★かたくりに山の正午の日が差しぬ/高橋正子
★かたくりの三々五々に日がほのと/高橋正子
○四季の森公園②
2013年3月21日の日記より
このところの気温の上昇で、桜が開花した。今朝は、きのうより10度低い気温ながら、朝から晴天。四季の森公園に10時半頃出かけた。中山駅からはバスで中山中学校前までゆき、そこより四季の森公園に入った。さくらの谷がすぐあり、紅枝垂桜がよく咲いている。染井吉野も開花。さくらの谷を出て、ワークセンターから再び四季の森に入る。木五倍子(きぶし)の花がちょうど見頃。里山の道から見えるところにあちこちにある。薄緑がかった黄色いかんざしのような花。木五倍子のあとは、片栗の花を見る。片栗の群生地にゆくと、ちょうど見頃。晴れていいるせいで、花びらはすべて反っていて、可憐な姿を見せてくれた。
片栗のあとは、キクザキイチゲの花を見る。カタクリも混ぜて植えてある。山桜の大木が満開。咲き満ちて白っぽい。そのあとは、菜の花畑へ。三椏の花と、さんしゅゆの花はそろそろ終わり。公園の芝地には、紅枝垂桜が見頃。菜の花畑の辺には、ほとけのざ、ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリがよく咲いている。葦原にゆく手前に諸葛菜(花大根)が咲き、林が開けたところには、すみれが群生。葦原は葦の角が出ている。スギナ、土筆も。蛙がコロコロと鳴いて、「蛙」は春の季語だと、実感させられた。のどかである。林の縁のニワトコはまだ蕾であった。遠目に連翹が咲いているのが目にはいったが、見に行かなかった。帰り、四季の森公園のプロムナードは、辛夷が真っ盛り。いい匂いがしている。去年、この辛夷の並木はほとんど花をつけなかったが、今年は無数の蕾が付いて、花の匂いが漂っている。どこか夢の辛夷並木を歩いているようだった。素晴らしい辛夷であった。
★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子★
★山桜雲を呼びつつ咲き満つる/高橋正子★
★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子★
○木五倍子(キブシ)の花

[木五倍子の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★谷かけて木五倍子の花の擦れ咲/飯島晴子
★山淋し木五倍子がいくら咲いたとて/後藤比奈夫
★雨ながら十々里が原の花きぶし/古館曹人
★源流はもとより一縷木五倍子咲く/大岳水一路
★身心を山に置いたる花木五倍子/各務耐子
★木五倍子咲く地図には載らぬ道祖神/北澤瑞史
★木五倍子の花風あるかぎり揺れており/高橋正子
★里山の目を遣るところ木五倍子咲く/高橋正子
キブシ(木五倍子、学名:Stachyurus praecox)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木。別名、キフジともいう。樹高は3m、ときに7mに達するものもある。3-5月の葉が伸びる前に淡黄色の花を総状花序につける。長さ3-10cmになる花茎は前年枝の葉腋から出て垂れ下がり、それに一面に花がつくので、まだ花の少ない時期だけによく目立つ。花には長さ0.5mmの短い花柄があり、花は長さ7-9mmの鐘形になる。萼片は4個で内側の2個は大きく花弁状、花弁は4個で花時にも開出せず直立する。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。雌花、雄花とも雄蕊は8個、雌蕊は1個あるが、雌花の雄蕊は小さく退化している。葉には長さ1-3cmの葉柄があり、互生する。葉は長さ6-12cm、幅3-5cm、葉身は楕円形または卵形で、先端は鋭形または鋭尖形、基部は円形、切形または浅心形になり、縁には鋸歯がある。果実は径7-12mmになる広楕円形、卵形または球形で、緑色から熟すと黄褐色になる。和名は、果実を染料の原料である五倍子(ふし)の代用として使ったことによる。
日本固有種で、北海道(西南部)、本州、四国、九州、小笠原に分布し、山地の明るい場所に生える。成長が早く、一年で2mくらいは伸びる。先駆植物的な木本で、荒れ地にもよく出現する。生育環境は幅広く、海岸線から内陸の川沿いまで見られる。
◇生活する花たち「桃の花・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

●小口泰與
精悍な雉の走りや朝ぼらけ★★★
熊蜂の威嚇や利根の瀞制す★★★
種袋振るや箱庭ほほえみし★★★
●迫田和代
山桜遠くに沈む青い海★★★
初燕ふるさとの祖母想うてか★★★
時雨降り外出やめた車椅子★★★
●黒谷光子
髪カットして春風の湖辺まで★★★★
すっきりと髪を切った項を春風が通りすぎる。気持ちも爽やかに、足もついつい湖のほとりまで延びた。春風の湖辺がロマンティック。(高橋正子)
湖近き街の軒並み木瓜の花★★★
三月の婚へ列車の時刻表★★★
●河野啓一
街角に清らな色や初桜★★★★
街角で、ひときわ清楚な色を放つ桜。それも初桜なので、ういういしい清楚さが街も人の気持ちも浄化してくれる。(高橋正子)
花だより心華やぎ小径ゆく★★★
満開も近く大和の山桜★★★
●桑本栄太郎
春潮や風に耀よう波頭★★★
料峭の六甲ライナー海の上★★★
春日さす運河に舫う浚渫船★★★
●小西 宏
坂ゆけば花を過ぎ行く人の影★★★
見上げれば空輝ける花盛り★★★
夕暮の丘膨らませ花満開★★★
●藤田裕子
手の中に蕗の薹の香を包む★★★
黄の色をひらひら浮かせ木々の蝶★★★
歩道にはパンジー安らぎの揺れをもち★★★
●高橋秀之
ぶらんこや二人並んで前後ろ★★★
バイバイの声ぶらんこの揺れ止まる★★★★
初日から誘い合わせて春休み★★★
★水菜洗う長い時間を水流し 正子
鍋もの、漬物、煮物にも重宝される水菜は別名「京菜」とも言われ、少し葉にぎざぎざの特徴があることで知られ、春先に良く食される野菜である。長い時間をかけて丁寧に水洗いで洗われ、漸く水ぬるむ春の喜びを感じる好きな句です。(桑本栄太郎)
○今日の俳句
乙訓は風吹く丘ぞ菜花咲く/桑本栄太郎
乙訓は、長岡京があったところとして知られるが、丘に菜花が咲きやわらかな起伏を彩っている。風もやわらかに菜花をなでてゆく。「乙訓」がよく効いている。(高橋正子)
○彼岸のぼたもち
日本で彼岸に供え物として作られる「ぼたもち」と「おはぎ」は同じもので、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られるのが一般的である。これらの名は、彼岸の頃に咲く牡丹(春)と萩(秋)に由来すると言われる。
私は、子供のころから「おはぎ」と呼んできた。「ぼたもち」は、民話などで覚えた言葉である。秋の彼岸も春の彼岸も、母が晒餡ときなこのおはぎを作った。お寺の位牌にお供えしてもらうために、重箱に入れ風呂敷に包んでお寺に持ってゆくのは、祖母と私であった。お寺に集まるおはぎの量を見て、お供えのおはぎの行方を心配したりもした。おはぎはもち米とうるち米と半々まぜて、一升炊いていたのではと思う。
結婚してからは、お寺にもってゆくのではなくて、自家用に作った。晒餡ではなく、粒あんのおはぎ。松山に住んでいた頃は、近くにお家のある藤田洋子さんが手作りのおはぎをもってくれた。お姑さんから教わったらしく、粒あんの大ぶりのおはぎで絶品。「頬が落ちる」とは最近は聞かないが、まさにそれ。甘いものをあまり食べない信之先生が、洋子さんのおはぎは特別楽しみにしていた。「おはぎ」と言おうが、「ぼたもち」と言おうが、花に因んだ、ほのぼのとした供物である。
★供うまでぼたもち作り余念なし/高橋正子
○彼岸(2012年3月18日の日記より)
★兄妹の相睦みけり彼岸過/石田波郷
★竹の芽も茜さしたる彼岸かな/芥川龍之介
★線香の燃え速し彼岸の風に吹かれ/高橋信之
俳句の季語では、「彼岸」と言えば、春の彼岸で、秋の彼岸の季語は「秋彼岸」という。季語「彼岸」は、春分の日をはさんだ3月18日から24日までの七日間だが、今年の彼岸は、3月17日から23日までの七日間。寺では彼岸会を修し、先祖の墓参りをする。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、このころから春暖の気が定まる。「彼岸前」「彼岸過」「中日」も季語として扱われ、いずれも春の季語である。信之先生の彼岸六句を紹介。
松山持田、臥風先生句碑2句
わが坐り師の句碑坐り彼岸の土
彼岸の風吹きゆき句碑の石乾く
信之先生は、松山にいたころ、彼岸となると恩師の川本臥風先生の句碑を訪ねることが多かった。
城山が見えている風の猫柳 臥風
松山の旧制松山高校のグランドの隅に建っている句碑である。旧制松山高校は、松山市持田にあったが、今は愛媛大学付属小中学校となっている。私が大学に入学した時は、旧制松山高校時代の木造校舎が残され、そこでも講義があった。信之先生はそこの教授であった。
○片栗の花

[片栗の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★片栗の一つの花の花盛り/高野素十
★片栗の花を見しより旅心/稻畑汀子
★西行の出家の寺に片栗咲く/松崎鉄之介
★かたくりの明日ひらく花虔しき/石田あき子
★山の風山を出るまで片栗に/古川忠利
★片栗の一群に日の留まりぬ/橋本順子
★里山にかたくりの咲く頃となる/家塚洋子
★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子
★片栗の花と光とせめぎあう/高橋正子
カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。
早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。
◇生活する花たち「桜・諸葛菜(花大根)・葦の角」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
天と地の響く怒りや春嵐★★
春嵐怒髪天つく榊かな★★★
あけぼのの木々の憤怒や春嵐★★★
●河野啓一
わが町にようやく出合いし初桜★★★
街角に清楚な色やさくら咲く★★★★
門辺にも草花とりどり春が来た★★★
●多田有花
東京はすでに花見と聞く彼岸★★★
梅が香と日差し楽しむ木のベンチ★★★
花前の枝を仰げる午前午後★★★
●祝恵子
途中下車寒緋桜の下におり★★★★
この道を誰かが掃いてさくら咲く★★★
雪柳転々と登り花白し★★★
●桑本栄太郎
川に沿い土手の蛇行や青き踏む★★★
野の梅の峰に抱かれ天王山★★★
鉄橋の土手を跨ぎて草青む★★★
●井上治代
弁当に韮卵そえて子に持たす★★★
春嵐日本列島揺るがしぬ★★★
仲春の正午のチャイムのびやかに★★★
●佃 康水
誕生日2句
スイトピー添えて花籠届けられ★★★
祝われて姉の手染めの春ショール★★★
初ざくら瀬戸のさざなみ煌めけり★★★
●小西 宏
碧き川漕ぎ行く船の若桜★★★
風止めば雨降りきたる桜の夜★★★
木々の葉の生ゆるは見えず朧月★★★
●高橋秀之
一本の桜の先は青き空★★★★
「一本の桜」がよい。大きな木であれ、小さな木であれ、その桜には青い空がある。うれしいことではないか。(高橋正子)
残雪の冠鮮やかこれぞ富士★★★
春の朝の眩しき日差し富士の山★★★
★はつらつとまたかがやかにヒアシンス 正子
私にとっては、ヒアシンスは子供の頃から水栽培のものとして印象づけられていました。ところが何年か前、吟行で先生方のお宅の近くを歩いた際に正子先生に教えていただいた、土に顔を出すヒアシンスの芽の純真な緑に感銘を受けたことを思い出します。爾来、他家の庭においてではありますけれど、将に「はつらつとまたかがやかに」芽を伸ばし花を咲かせる清らかな姿を毎年楽しませていただいております。(小西 宏)
○今日の俳句
青き残雪マトリョーシカの露天市/小西 宏
マトリョーシカは、ロシアの入れ子人形。「青き残雪」は、露天市の残雪の色でもあろうが、同時にロシア女性の瞳や湖を思い起こさせてくれる。毛皮にくるまってマトリョーシカの露天市を見て歩くのが、ロシアらしい。(高橋正子)
○四季の森公園
このところの気温の上昇で、桜が開花した。今朝は、きのうより10度低い気温ながら、朝から晴天。四季の森公園に10時半頃出かけた。中山駅からはバスで中山中学校前までゆき、そこより四季の森公園に入った。さくらの谷がすぐあり、紅枝垂桜がよく咲いている。染井吉野も開花。さくらの谷を出て、ワークセンターから再び四季の森に入る。木五倍子(きぶし)の花がちょうど見頃。里山の道から見えるところにあちこちにある。薄緑がかった黄色いかんざしのような花。木五倍子のあとは、片栗の花を見る。片栗の群生地にゆくと、ちょうど見頃。晴れていいるせいで、花びらはすべて反っていて、可憐な姿を見せてくれた。
片栗のあとは、キクザキイチゲの花を見る。カタクリも混ぜて植えてある。山桜の大木が満開。咲き満ちて白っぽい。そのあとは、菜の花畑へ。三椏の花と、さんしゅゆの花はそろそろ終わり。公園の芝地には、紅枝垂桜が見頃。菜の花畑の辺には、ほとけのざ、ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリがよく咲いている。葦原にゆく手前に諸葛菜(花大根)が咲き、林が開けたところには、すみれが群生。葦原は葦の角が出ている。スギナ、土筆も。蛙がコロコロと鳴いて、「蛙」は春の季語だと、実感させられた。のどかである。林の縁のニワトコはまだ蕾であった。遠目に連翹が咲いているのが目にはいったが、見に行かなかった。帰り、四季の森公園のプロムナードは、辛夷が真っ盛り。いい匂いがしている。去年、この辛夷の並木はほとんど花をつけなかったが、今年は無数の蕾が付いて、花の匂いが漂っている。どこか夢の辛夷並木を歩いているようだった。素晴らしい辛夷であった。
○ゆすら(桜桃)の花

[ゆすらの花/横浜日吉本町]
★万両にゆすらの花の白き散る/正岡子規
★風のみの夜に咲きふえしゆすら花/片岡砂丘艸
★二人連れ多き道なり花ゆすら/819maker
★花ゆすら築地土塀のくずれたる/高橋正子
桜桃 (ゆすらうめ・ゆすら、学名:Prunus tomentosa)は、バラ科サクラ属の落葉低木の果樹。サクランボに似た赤い小さな実をつける。俗名をユスラゴともいう。
中国原産。3~4月頃、白かピンク色の花が咲く。6月頃に赤い実がなり、食べられる。樹皮は不規則にはがれ、葉っぱには毛がいっぱい。全国で広く植栽されている。
朝鮮語の「移徒楽(いさら)」がなまって「ゆすら」になった、といわれている。「梅桃」とも書く。この「桜桃」は「おうとう」とも読むが、太宰治(だざいおさむ)の命日の「桜桃忌(おうとうき)」の「桜桃」はさくらんぼの別名の「桜桃」を指す。実は、「庭梅」によく似ている。性質は強健で、耐寒性・耐暑性ともに強く、病害虫にも強い。用土は過湿を嫌うので、水はけの良い土に植える。
現在では『サクラ』を意味する漢字『櫻』は元々はユスラウメを指す字であった。ユスラウメの実が実っている様子を首飾りを付けた女性に見立てて出来た字である。果実は薄甘くて酸味が少なく、サクランボに似た味がする。そのままでの生食、あるいは果実酒などに利用される。
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
ぜんまいや越後の瀬音聴くばかり★★★
旅も良し陋居もよしや春の宵★★★
山風のげに吹かぬなり君子蘭★★★
●迫田和代
天からのしだれ桜と古寺と★★★
大きな木囀り軽く春の声★★★
車椅子春日まっすぐ心まで★★★
●河野啓一
初桜近きや丘はうすあかね★★★★
あわあわと膨らみ初めて桜美林★★★
転勤の挨拶聞けば四月かな★★★
●桑本栄太郎
囀りの高き梢や空青し★★★★
青空の中に、鳥が囀る梢がそびえている。俗世を抜け出た爽やかで快い風景だ。(高橋正子)
春塵の果てに決まりしコンクラーベ★★★
うす闇の家路に赤き月おぼろ★★★
●黒谷光子
打ち寄せる春の汀の波真白★★★
芽柳の枝垂れて湖の面を撫でる★★★
木の芽道抜けて広がる湖真青★★★★
木々の芽吹きが両側から迫る道を抜けると、視界が開け、真っ青に広がる湖に出た。 木の芽道と、湖の広さが対比され、どちらもの良さが強調されて、早春の息吹を感じる。(高橋正子)
●上島祥子
日の丸を飾る家有り春分の日★★★
こでまりの花房全て咲きそろう★★★
春禽の雨に輝く翼かな★★★
●小西 宏
風に触れ空に紅差す花蕾★★★
風凪いで三分咲きなる花見茣蓙★★★
共に生う葉の清清し山桜★★★★
●高橋秀之
寒戻る夜明け間近の街路灯★★★
春暁に歩く人影犬を連れ★★★
涙目の女性の瞳は花粉症★★★