★山桜雲を呼びつつ咲き満つる 正子
○今日の俳句
残る鴨みずから生みし輪の芯に/川名ますみ
「残る鴨」なので、みずからが生んだ輪の中心にいるという事実が生きる。温んだ水が、しずかに輪を描き、その中心にいる鴨に、独りでいる意思が読み取れる。(高橋正子)
○山吹
[八重山吹/横浜緑区北八朔] [白山吹/横浜日吉本町]
★ほろほろと山吹ちるか瀧の音/松尾芭蕉
★濃山吹墨をすりつゝ流し目に/松本たかし
★山吹や根雪の上の飛騨の径/前田普羅
★眼帯の朝一眼の濃山吹/桂 信子
★山吹や川よりあがる雫かな/斯波園女
★ちぎり捨てあり山吹の花と葉と/波多野爽波
★歩かねば山吹の黄に近づけず/酒井弘司
ヤマブキ(山吹、学名:Kerria japonica)はバラ科ヤマブキ属(本種のみの一属一種)の落葉低木。黄色の花をつける。春の季語。低山の明るい林の木陰などに群生する。樹木ではあるが、茎は細く、柔らかい。背丈は1mから、せいぜい2m、立ち上がるが、先端はやや傾き、往々にして山腹では麓側に垂れる。地下に茎を横に伸ばし、群生する。葉は鋸歯がはっきりしていて、薄い。晩春に明るい黄色の花を多数つける。多数の雄蕊と5~8個の離生心皮がある。心皮は熟して分果になる。
北海道から九州まで分布し、国外では中国に産する。古くから親しまれた花で、庭に栽培される。花は一重のものと八重のものがあり、特に八重咲き品種(K. japonica f. plena)が好まれ、よく栽培される。一重のものは花弁は5枚。
シロヤマブキ(Rhodotypos scandens (Thumb.) Makino)もあるが別属である。日本では岡山県にのみ自生しているが、花木として庭で栽培される事が珍しくない。こちらは花弁は4枚。
古歌にも好んで詠まれ、しばしば蛙(かはず)とともに詠み合わせられる。太田道灌と八重山吹の話はよく知られている。山吹色といえば、オレンジ色と黄色の中間色のことである。往々にして小判の色をこれにたとえる。(山吹色のお菓子・・小判の隠語)
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
紅梅やシャッター音の蒼天へ★★★
春の炉や視界奪いし土埃★★★
青空へ薄紅梅の文目かな★★
●佃 康水
第二音戸大橋(愛称 日招き大橋)開通 2句
日招きの大橋春の海へ耀る★★★
島結ぶ丹の大橋へ花盛り★★★
旅立ちの夢語る子へ春満月★★★★
●多田有花
花曇割る半熟のゆで卵★★★★
花曇とゆで卵は相通じるところがある。花の頃の高い曇り空と、白身に黄身が優しい丸を作るゆで卵。はっきりしないが、体に親しく馴染んでくるものだ。(高橋正子)
宅配のトラック止まる花の下★★★
護摩堂にうすむらさきの馬酔木咲く★★★
●桑本栄太郎
さみどりの坂の地道や春落葉★★★
春雨や角の畑地は分譲へ★★★
ジャージーの走る校庭花の雨★★★
★花にらはいつも樹のそば垣のそば 正子
花にらは韮に似た葉で花茎をすっくと伸ばし先に6弁の白い花を付けています。以前、「花にらは春の季節感が有るが季語では無い」と言う事を正子先生の俳句日記を見て知りました。確かに樹の傍や垣の傍等に可愛らしい真っ白な(淡いむらさきも有るとか)花を咲かせているのを良く見かけ、思わず立ち止まって見たくなる花です。季語になっていないと言うものの立派に春を告げる爽やかな花にらです。 (佃 康水)
○今日の俳句
チェロの夕果てて仰げば春の月/佃 康水
チェロの演奏会が果て、余韻を引いて外に出れば春の月が出ている。「秋の月はさやけさを賞で、春の月は朧なるを賞づ」と言われるが、「澄んであたたかい感じ」の春月もよい。チェロの余韻が広がる。(高橋正子)
○馬酔木(あせび)

[馬酔木/横浜日吉本町]
★水温む奈良はあせぼの花盛り/原石鼎
★旅かなし馬酔木の雨にはぐれ鹿/杉田久女
★春日野や夕づけるみな花馬酔木/日野草城
★はしり咲く馬酔木の花の壺のしろ/五十崎古郷
砥部
★馬酔木咲くわが家の屋根の低かりし/高橋正子
銀閣寺
★馬酔木咲く道を選べば山路めく/高橋正子
馬酔木(アセビ、学名:Pieris japonica subsp. japonica、異名:Andromeda japonica Thunb.)は、ツツジ科アセビ属の低木で日本に自生し、観賞用に植栽もされる。別名あしび、あせぼ。本州、四国、九州の山地に自生する常緑樹。やや乾燥した環境を好み、樹高は1.5mから4mほどである。葉は楕円形で深緑、表面につやがあり、枝先に束生する。早春になると枝先に複総状の花序を垂らし、多くの白くつぼ状の花をつける。果実は扇球状になる。しかしこの種は有毒植物であり、葉を煎じて殺虫剤に利用される。有毒成分はグラヤノトキシンI(旧名アセボトキシン)。
馬酔木の名は、馬が葉を食べれば毒に当たり、酔うが如くにふらつくようになる木という所からついた名前であるとされる。 多くの草食哺乳類は食べるのを避け、食べ残される。そのため、草食動物の多い地域では、この木が目立って多くなることがある。たとえば、奈良公園では、シカが他の木を食べ、この木を食べないため、アセビが相対的に多くなっている。逆に、アセビが不自然なほど多い地域は、草食獣による食害が多いことを疑うこともできる。
◇生活する花たち「花桃・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

●小口泰與
春昼の煙霧を喰らう髪膚かな★★★
白梅や余命いくばく模糊として★★★
電線にアグリシートや春嵐★★★
●河野啓一
色づきて丘一面の竹の秋★★★★
春の芽吹きの中で、竹は色づき葉を落とす。竹だけが「秋」となって、丘一面の竹が違う色合いで目立つ。春と秋の混ざる植物の景色。(高橋正子)
せせらぎに色も見えたり春の川★★★
花の色とまどいながら咲き出る★★★
●多田有花
重きほどつらつら椿咲きにけり★★★
芽吹く山芽吹く香りに満ちており★★★
静けさを破りてひとつ落椿★★★
●桑本栄太郎
今年また古巣を慕い初つばめ★★
嬉々として人の言い合う初燕★★★
教会へいざなう道や連翹黄★★★
●黒谷光子
東の空へゆるゆる春の月★★★
薄絹を被りて春の月まどか★★★
春の灯に繕い物の糸通す★★★
●川名ますみ
土の上や窓に望みし芽吹山★★★
木の芽雨動物園の枝くろぐろ★★★
厩より古き桜のぐいと伸ぶ★★★
★春の夜のむかし炭火を持ち運び 正子
遠いむかし、春の夜はまだ寒く、熾した炭火を火鉢へ運ばれた状景、もしくは茶道で使う炭火を持ち運ばれた状景を思い浮かべました。炭火を熾した頃を懐かしく思い出させていただきました。(藤田裕子)
○今日の俳句
木々の葉の春陽きらめく野道行く/藤田裕子
木々の葉にきらめく春陽を見ながら、野道を行けば、楽しさも倍加される。うららかな春の日のびやかな気分を分けてもらった。(高橋正子)
○諸葛菜(花大根)

[諸葛菜/横浜・四季の森公園]
★むらさきの風となるとき諸葛菜/稲畑汀子
★諸葛菜といひ花大根といひ花ざかり/岸田稚魚
★姉といふ媼もよけれ諸葛菜/千代田葛彦
★雨に濡れ花のやさしき諸葛菜/矢崎春星
★本郷の下宿屋の路地諸葛菜/光晴
城ヶ島二句
★磯遊びしてより出会う諸葛菜/高橋正子
★城ヶ島のまひる気怠し諸葛菜/高橋正子
諸葛菜(しょかつさい)は、諸葛孔明が広めたとの伝説からの名で、別名にムラサキハナナ(紫花菜)、大紫羅欄花(おおあらせいとう)、花大根(はなだいこん、大根の花とは違う)などがある。これらは、アブラナ科オオアラセイトウ属(Orychophragmus属)だが、ショカツサイ属、ムラサキハナナ属とも呼ばれる。原産地は中国で、東部に分布し、東北および華北地区では普通に見られる。ヨーロッパ南部に帰化しているほか、日本では江戸時代に輸入されて栽培されたものが野生化し、全土で見られる。
根生葉と茎下部の葉は羽状深裂し、基部は心形で、縁に鈍い鋸歯がある。上部の葉は長円形あるいは倒卵形で柄を持つ。基部は耳状で茎を抱き、縁には不揃いの鋸歯がある。花は茎先につく総状花序で、薄紫色の花弁には細い紋様がある。花期の後期では徐々に花弁の色が薄くなり、最終的には白色に近くなる。稀に白花もある。花弁は4枚が十字状に付き、長さは各1-2cm程度、先端に3-mmの爪状の突起を持つ。雄蕊は6本で花糸は白色、葯は黄色である。萼(がく)は細長く、径3mmほどの筒状で花と同じく紫色。果実は先端に細長い突起を持つ長角果をつける。果実は4本の筋を持ち、内部に黒褐色の種子を多数つける。熟すと自然に裂けて開き種子を弾き出す。種子から芽生えたばかりの頃本葉は腎形をし、寒さに当たり花芽が分化するとやがて切れ込みが生じる。
2月頃から成長を始め、3月から5月にかけて開花する。最盛期には50cmくらいまで直立する茎を伸ばす。5月から6月頃に種子が熟し、自然に、散布される。一年草だが繁殖力は強く、花が咲いて種が散布されると、翌年からは定着しやすい。群生して開花する様はなかなか美しいため、庭などで栽培されることも多いが、道端や空き地でも普通によく育つ。若い葉は食べられるため、中国北部では野菜として栽培され、種子からはアブラナと同様に油を採取することもある。
◇生活する花たち「花桃・通草の雄花・桜」(横浜日吉本町)

●小口泰與
へら浮子の色彩さやか風光る★★★
春蘭に老若男女顔かさね★★★
あわあわと縹に染まる春の山★★★
●黒谷光子
蜂の巣を落とし閉じ込む皮袋★★★
つくしんぼ小川の縁に犇めける★★★
摘む人も児もなく群れるつくしんぼ★★★
●多田有花
まだ少し欠けているかな朧月★★★
青ぬたや雨音のせぬ雨つづく★★★
膝掛けで豚骨ラーメン花の冷え★★★
●河野啓一
一樹あり真白に咲きし桜花かな★★★
春寒の朝チラホラ花の咲き出る★★★
芝芽ぐむ球児の心弾むごと★★★
●桑本栄太郎
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
ローラーシューズ履いておつかい春休み★★★
うす闇に息をひそめし白木蓮★★★
●小西 宏
芽ぐむ木の丘ただ淡し朧月★★★
せせらぎや人知らずとも花楓★★★
花ひろがる屋内プールの大きな窓★★★★
屋内プールの大窓を覆い尽くして爛漫の花。泳ぎながら花を楽しめるのも現代。さほど混雑していないプールの平らな温水。春の淡い情感がいい。(高橋正子)
●川名ますみ
両輪に花屑つけし車椅子★★★
何気ないふうに桜を過ぎし雨★★★
膝の上に桜にふれし雨雫★★★
●下地鉄
春の湯にゆらりゆらりと逆さ富士★★★
とんび舞う湘南を後に旅の空★★★
青空や赤より赤き梯梧咲き★★★
●古田敬二
ハイカーのおしゃべりに垂れキブシ咲く★★★
一杯に眼(まなこ)開いてイヌフグリ★★★
鮮やかな色はためかせ初黄蝶★★★
★宵風の白みて強し犀星忌 正子
3月26日、犀星忌に因んで詠まれた御句。3月もこの頃の宵の風はさほど冷たくはなく、「白みて」と捉えられたところに、透明感と詩情を感じます。犀星と言えばよく知られる「ふるさとは遠きにありて」の作品がありますが、掲句には韻律がこの作品と呼応する確かさにも引かれます。(小川和子)
○今日の俳句
春耕のまだ始まらぬ田の広き/小川和子
裏作やあるいは冬の間手入れをしないでいた田畑は、だだっ広く思える。しかし、耕しが始まるころになると、田畑も息づいてくる。その広さを感じとったのがよい。(高橋正子)
○正子の俳句日記(ブログ)が百日連続ランク入り!
gooのブログは現在150万ほどあるが、上位から1万以内のランクに百日連続で入った。高位は3000代であるが、平均すると5、6000代か。文学系のブログでこのランク入りは大変名誉なことと思う。日々ご愛読くださっている皆様に感謝です。これからも、よろしくお願い致します。
○連翹(れんぎょう)

[連翹/横浜日吉本町]
★連翹や真間の里びと垣を結はず/水原秋桜子
★連翹の一枝づつの花ざかり/星野立子
★連翹のこぼれもあへぬ別れかな/中川宋淵
★連翹の黄が咲き誇るアジアの端/高橋正子
レンギョウ(連翹)とは、広義にはモクセイ科レンギョウ属(学名: Forsythia)の総称(それらから品種改良で作られた園芸品種をも含める)。狭義には、レンギョウ属の種の一つ、学名 Forsythia suspensa の和名を指す。一般には広義の意味で称されることが多い。
狭義のレンギョウ(連翹、学名: Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl)は、モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木広葉樹。別名、レンギョウウツギ(連翹空木)。古名は、いたちはぜ、いたちぐさ。中国名は黄寿丹。英名はゴールデンベル (golden bells, golden bell flower)。種小名の suspensa は、枝が“垂れる”意味である。雌雄異株。
繁殖力が旺盛で、よく繁る。樹高は1 – 3mまで育ち、半つる性の枝は湾曲して伸び下に垂れ、地面に接触すると、そこからも根を出し新しい株ができる。枝は竹のような節を持つ。また、枝の髄が早期に消失するため、節の部分を除いて中空になる(このことから“空の木”、レンギョウウツギ(連翹空木)という別名が付いた。この呼称は最初、本来の連翹(トモエソウ)との誤用に気付いた時、区別するために使われた)。まだ葉が芽吹く前の早春(3 – 4月頃)、2 – 3cmの黄色い4弁の花が、細い枝に密に多数開く。その花が咲き終わる頃、入れ違うかのように今度は、緑色の葉(長さ3 – 10cm、幅2 – 5cmの長卵型。葉先は鋭尖で、葉縁にまばらな鋸歯がある)が対生に芽吹き、それが秋になると濃緑色、概憤色(くすんだ黄緑色)、紫色と順に変色し、最後に落葉する。付いた果実は漢方薬として用いられる。中国原産。日本への渡来は古く、『出雲風土記』や『延喜式』にもレンギョウの名前が見られる(薬用として平安時代初期に渡来したといわれているが、実際に渡来した時期は定かではなく、江戸時代前期に栽培の記録があることから、江戸時代だという説もある)。
4月2日は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883年 – 1956年)の命日で、これを連翹忌とも呼ぶ。これは、高村が生前好んだ花がレンギョウであり、彼の告別式で棺の上にその一枝が置かれていたことに由来する。
◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

●下地鉄
観梅や枝ぶりよきをまず選び★★★
料峭や箱根連山暮色なる★★★
春宵や灯りの並ぶ港街★★★
●小口泰與
満願の御朱印帳へ春の日矢★★★
子等を待つ駄菓子売り場のしゃぼん玉★★★
春眠の我が身を起こす明けの地震★★★
●佃 康水
四阿の空へ囀りほしいまま★★★
神島へ渡船に靡く春ショール★★★
木肌より紅艶やかに花の噴く★★★
●多田有花
山桜咲く彼方より新幹線★★★★
新幹線が山桜の咲く彼方から滑るように走ってゆく。これは今、日本を象徴する風景となった。(高橋正子)
咲き初めし三葉つつじの小さきが★★★
花咲ける下に老犬寝そべりぬ★★★
●河野啓一
朝空にあかねのわかばバラ芽伸び
朝空にあかねのわかばバラ芽伸ぶ(正子添削)★★★★
朝空にあかね色のバラの芽が色彩的にすがすがしい。添削は「バラ芽伸ぶ」と終止形にし、句を引き締めた。(高橋正子)
春寒に花躊躇せず咲けよかし★★★
春菊のぐんと伸びたり空晴れて★★★
●桑本栄太郎)
うす闇のうすきピンクや馬酔木咲く★★★
雲浮かべ湾処に空の春の川★★★
平らかにまた青々と畦青む★★★★
●黒谷光子
絶えることなき水の音朧の夜(原句)
水音の絶えることなき朧の夜★★★★(正子添削)
添削は、元の句を整理してイメージをはっきりさせた。ものみな柔らかな朧夜に、水音だけがくっきりと聞こえる。春の水音がやさしい。(高橋正子)
祝婚の宴は春の湖望み★★★
春の月も一度仰ぎ錠をする★★★
●川名ますみ
車椅子地の花屑をよけられず★★★
療苑に常より早き紫木蓮★★★
紫木蓮咲きて患者も医師も樹下★★★
●小西 宏
里山の道の暗きに藪椿★★★
人里を離れて桃の紅に逢う★★★
鶯の声藪奥に響きあう★★★
●古田敬二
今年また会えし菫に跪く★★★
蕉翁も愛でし色して菫咲く★★★
濃き色にも淡き色にも咲く菫★★★
●高橋秀之
退職の花束高く春の宴★★★
若草の色づく埋立地は広し★★★
瞬く間食す菜飯の握り飯★★★
★春の蕗提げしわれにも風が付く 正子
芳しい春の蕗を提げながら、穏やかな風を身に纏う作者に季節の快さを感じます。持ち帰った蕗は香りとともに、独特な歯触りで季節を届け、食卓を明るく楽しませてくれるのでしょう。(藤田洋子)
○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)
○初孫元希
昨日の午後、葛飾区のNTT社宅に長男の元を訪ねる。初孫の元希は、岐阜から一週間後に帰京する。2ヶ月あまり続いた一人暮らしの部屋の掃除のためであり、新生児の歓迎のためである。元の宿舎は葛飾にある。葛飾と言えば水原秋櫻子の第一句集『葛飾』(昭和五年)を思う。
梨咲くと葛飾の野はとの曇り
葛飾や桃の籬も水田べり
啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
は『葛飾』の代表句であるが、今は水田も梨も桃の木も見当たらない。
句集『葛飾』は、昭和五年に馬酔木発行所から刊行され539句が収録されている。『葛飾』以前に『南風』という句文集を出版しているが、『葛飾』には、文章を割愛して『南風』からの句300句(実際は301句)が収録されいてる。それに『南風』以後のホトトギス雑詠からの句を選び句集『葛飾』としているので、これより、自他共に『葛飾』をもって第一句集とするようになった。
水原秋櫻子(本名・豊)は、明治25年(1892)10月9日、東京都千代田区西神田に生まれた。家は祖父の代から産婦人科医であった。秋櫻子は、東大産婦人科教室の助手、昭和医学専門学校(現昭和大学)の教授などを務めた。
○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)

[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂
★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子
日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。
ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。
◇生活する花たち「桃の花・菫(すみれ)・桜」(横浜日吉本町)

●古田敬二
畑への斜面に瞬くイヌフグリ★★★
青春の山々丸くかすみおり★★★
春の風竹の中から聞こえけり★★★
●河野啓一
木蓮は空の青さを受けて咲き(原句)
空の青受けて咲きたる紫木蓮(正子添削)★★★
元の句の「木蓮は」の「は」が問題で、メージが弱いので印象強くなるように添削した。紫木蓮としたが、空の青を受けて咲く木蓮の紫は深い色合いである。(高橋正子)
桜散る決意新たに受験生★★★
曇空に溶け込むごとく白木蓮★★★
●小口泰與
つばくらや菓子の倉庫の深庇★★★
鳥達の木伝(こづた)う声の春意かな★★★
駘蕩の朝寝の我と小犬かな★★★
●小川和子
高々と花満つ校舎の外窓へ★★★★
校舎の高い窓に触れて桜が咲き満ちている。窓の内から見れば窓は桜に埋め尽くされている。今年は早い桜であるが、卒業や入学に重なる桜の花は、生徒たちの胸にいろんな思い出を残すことだろう。(高橋正子)
深空より囀り喜々とバスを待つ★★★
自転車の児の口遊む卒園歌★★★
●多田有花
谷の風梅の香りを運び来る★★★
はくれんの開きし先に昼の月★★★
理髪屋の軒先かすめ初燕★★★
●桑本栄太郎
菜の花や畑の一隅黄明かりに★★★
気ままとは微風に揺るる雪やなぎ★★★
囀りのつがい飛び交い蜜を吸う★★★
●小西 宏
せせらぎの仄かに届く花明かり(原句)
せせらぎの微かに届く花明かり(正子添削)★★★★
「仄か」が問題なので添削した。桜が咲き満ちる明かりに、せせらぎの音がかすかに聞こえてくる。どこか近くにせせらぎがあるのだと思うと、花明かりに音が加わり、俄然句が生きてくる。(高橋正子)
曇天を明るく照らし花の山★★★
軒ごとに桜広げる丘の家★★★